2020年4月 2日 (木曜日)

ショウのトランペットの再評価

ウッディ・ショウをしっかりと聴き直したくなった。ウッディ・ショウは、1970年代に、メインストリーム・ジャズのトランペッターとして頭角を現し、1980年代の純ジャズ復古の先鞭を付け、その純ジャズ復古の流行に乗って人気ジャズマンになろうとしたところ、1989年2月、ブルックリンで地下鉄のホームから転落し左腕を切断。その後の快方に向かうこと無く、同年5月に逝去している。

彼は、1970年代、ジャズ・ロックやフュージョン・ジャズなど、ポップなジャズに走ること無く、メインストリーム・ジャズを貫き、伝統的なモーダルなハードバップ基調のリーダー作を数多く残した。しかし、1970年代はフュージョン・ジャズ全盛の時代、やや難解で硬派なショウのトランペットはマイナーな存在に甘んじている。加えて、我が国では全く人気が無く、フレディ・ハバードのコピーなどと揶揄された。

Woody Shaw『Little Red's Fantasy』(写真)。1976年6月29日の録音。ちなみにパーソネルは、Woody Shaw (tp), Frank Strozier (as), Ronnie Mathews (p), Stafford James (b), Eddie Moore (ds)。ショウのトランペット、ストロージャーのアルト・サックスのフロント2管のクインテット構成。ジャズ・メッセンジャーズにも参加していた、純ジャズ系ピアニスト、ロニー・マシューズのトリオがリズム・セクションを司っている。
 

Little-reds-fantasy
 
 
自己のオリジナル曲で固めた当アルバムは、のびのびの気合いの入ったショウのトランペットが心ゆくまで堪能出来る。ハイトーンもバッチリ、高テクニックに裏打ちされた、変幻自在、緩急自在なプレイは聴き応え十分。「フレディ・ハバード」のコピーなんて揶揄されたがとんでもない。ハバードの様に目立とう精神は無く、バンド演奏の中で、バランスをしっかりと意識した、速いフレーズの中でもしっかりと感じることの出来る「余裕ある、節度ある」吹き回しが個性的。

モーダルなアドリブ・フレーズもイマージネーション豊かで破綻が無い。機械的では無く、人間的温もりが感じられるテクニカルなフレーズ。このショウが、当時、評価されなかったのが全く意外である。フロントの相棒、ストロージャーのアルト・サックスも好調、このストロージャーとの相性も良く、相当にレベルの高い、適度なテンションが心地良い、当時、最先端のモード・ジャズが展開されている。

テクニックはもちろん、そのブラスの響き、トラペットの音色も良く、何よりハードボイルドな吹き回し。アドリブ・フレーズのイマージネーションとバリエーションが豊かなので、決してマンネリに陥ることは無い。今回、ショウのリーダー作を聴き直して、改めて、ショウのトランペットの凄さを再認識した。ウッディ・ショウのトランペットは再評価に値する。
 
 
 

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2020年4月 1日 (水曜日)

追悼 ウォレス・ルーニー。

ジャズ界からもコロナウィルスによる犠牲者が出てしまった。ウォレス・ルーニーが、昨日、新型コロナウイルス感染症の合併症により急逝しました。59歳(若すぎる)。マイルスが個人的に指導した唯一のトランペット奏者であり、アコースティック・マイルスの後継者の一人でした。しかし、よりによって、ウォレス・ルーニーがコロナウィルスにやられるとは。年齢的に共感を覚えていたルーニーなので、かなりショックである。

マイルスに認められた唯一のトランペッターであった、ウォレス・ルーニー。それ故、常に「マイルスのコピー」「マイルスの影がちらつく」「人の真似は絶対にしなかったマイルスとは似ても似つかぬ」とか、散々な厳しい評価に晒されてきた。僕は「マイルスに認められた唯一のトランペッター」の行く末を見守っていたくて、ずっとルーニーの演奏を聴いてきたが、そんなに厳しく指摘するほど、マイルスの音に似すぎていた、とは思わない。

テナー・サックスであれば「コルトレーン」。コルトレーン・ライクな演奏をするテナー・マンなんてごまんといる。ピアノであれば「バド・パウエル」。バドのビ・バップライクな演奏スタイルを真似るピアノ・マンは、これまた、ごまんといる。トランペットは意外と皆が真似るスタイリストがいない。第一人者であるトランペッターがマイルスで、あまりにその個性が突出しているので、真似するにも真似が難しい。
 
 
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Wallace Roney『Blue Dawn - Blue Nights』(写真左)。2018年9, 10月、NYのルディ・ヴァン・ゲルダースタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Wallace Roney (tp), Emilio Modeste (ts, ss), Oscar Williams II (p), Paul Cuffari (b), Kojo Odu Roney (ds, track=1, 4, 6–8), Lenny White (ds, track=1–3, 5), Quintin Zoto (g, track=1, 3, 5)。全編、アコースティックな純ジャズ路線の演奏である。

この盤が現時点でのルーニーの遺作となる。この盤では、サイドメンの選定が良かったのと、明確に現代のモード・ジャズを演奏するという志向が功を奏して、長年、厳しい評価の代表だった「マイルスのコピー」のイメージを完全に脱却している。モード・ジャズが基調であるが、そもそもマイルス存命の時代に、こんな「現代のネオ・ハードバップ」の様な演奏のトレンドは無かった。サイドメンを含めて、アコ・マイルスの影から完全脱却している。アコ・マイルスを踏襲しつつ「アコ・マイルスの先」を演奏したかったルーニーの面目躍如である。

前作まで「アコ・マイルスの踏襲」を洗練〜深化し続けていただけに、僕はこの最新作であるこの盤について、ルーニーの「目標」が達成された盤として評価していただけに、今回の急逝が実に惜しまれる。「アコ・マイルス」の先の演奏を実現した途端に、今回の急逝。ルーニーに代わって、無念の気持ちで一杯である。あの世でマイルスに会ったら、今度こそ、マイルスとトランペット2管で共演して下さい。ご冥福をお祈りします。
 
 
 

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2020年3月28日 (土曜日)

心地良きビッグバンドとの共演

ビッグバンドとの共演は、ソロイスト側には「テクニックが優れていること」「フレーズが明確でハッキリしていること」、そして、ビッグバンド側には「ソロ楽器を意識したアレンジが施されていること」「ソロイストを前面に押し出す伴奏上手であること」が、それぞれ要求される。そして、その要求が満足されたら、その共演は素晴らしいジャズの音世界への昇華する。

Bill Laurance & WDR Big Band『Live at the Philharmonie Cologne』(写真左)。2018年11月24日、ドイツはケルンの「the Philarmonie」でのライブ録音。スナーキー・パピー結成当時からのメンバーであるキーボーディスト「ビル・ローレンス」と、ケルンの名門ビッグ・バンド「WDR Big Band」との共演。そして、WDR Big Bandのコンダクターは「ボブ・ミンツァー」。

スナーキー・パピーの知性あふれるクールなサウンド・イメージがベースとなって、ビッグバンドのアレンジが為されているように思う。スナーキー・パピーのキーボーディスト、ローレンスのピアノがくっきり浮かび上がる、つまり、WDR Big Bandがソロイストを前面に押し出す伴奏上手となる為のアレンジである。従来のWDR Big Bandの表現とは全く異なる、クールで流麗でスムースな音の流れ。現代の「今」のビッグバンドの音である。
 
 
Live-at-the-philharmonie-cologne  
 
 
ビル・ローレンスは、スナーキー・パピーでのプレイの様に、クールで流麗でキャッチャーなフレーズを弾きまくる。印象的なフレーズがどんどん湧き出てきて、ポップな展開あり、流麗な展開あり、耳に楽しく、耳に心地良い印象的なフレーズ満載。ジャジーでファンキーな要素はまず見当たらない。良質なフュージョン・ジャズを基調にした様なフレーズの作り。それでいて、タッチと弾き回しは純ジャズそのもの。

その印象的なフレーズをWDR Big Bandがしっかりと受け止めて、さらにローレンスのピアノを際立たせている。ローレンスのアドリブ展開の表現の変化に応じて、WDR Big Bandもしっかりとその変化に追従し、その変化に適応する。凄い力量をもつビッグバンドだ。WDR Big Bandのソロイスト達も、ローレンスの醸し出すサウンド・イメージに則りつつ、個性的なアドリブ・ソロを展開する。それはそれは聴き所満載で、あっと言う間に時間は過ぎていく。

ビル・ローレンスは1981年生まれなので、今年まだ39歳。中堅の入り口に差し掛かった若き才能とベテラン・アレンジャー/コンダクターのボブ・ミンツァー、そして、百戦錬磨のアンサンブルのWDR Big Band、の3者が有機的に融合し生み出された「一期一会」の音世界。 クールで流麗でキャッチャー、そしてダイナミック。今までに無い、新しいピアノとビッグバンドの共演サウンドがこの盤に詰まっている。
 
 
 

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2020年3月27日 (金曜日)

ヘインズ、老いてなお盛ん

以前は、何かめぼしいアルバムは無いか、聴いた事の無いアルバムは無いか、レコード屋、もしくは、CDショップを巡回したものだ。しかし、21世紀に入った頃から、インターネットのサービスが発達し、インターネットのCDショップを徘徊することが主となり、最近では、サブスクの音楽サイトを巡回することに代わった。振り返ってみれば、今ではCDショップに足を向けることは全く無くなった。

特に、大手のサブスク音楽サイトについては、ジャズに限っては音源がかなり充実していて、ジャズ盤鑑賞の趣味においては実に助かる。今まで、CDショップでも見かけ事の無かった音源がアップされていたりして、以前よりも遙かに、ジャズ盤鑑賞の幅が広がり、ジャズ盤探索の手間が随分省けた様に思う。音質についても、このところ、大幅に改善されてきたみたいで、もうCDショップに出入りすることは無いかな。

Roy Haynes & The Fountain of Youth Band『Whereas』(写真左)。2006年1月20-22日、米国ミネソタ州セントポールのジャズクラブ「Artists' Quarter」で行われた「Roy Haynes Weekend」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Roy Haynes (ds), John Sullivan (b), Robert Rodriguez (p), Jaleel Shaw (ts)。ジャズ・ドラムの大御所、ロイ・ヘインズのリーダー作。録音当時81歳(1925年生まれ)。老いてなお盛んなヘインズである。
 
 
Whereas-1  
 
 
しかもこのライブ盤、録音当時81歳のヘインズが、30〜50歳も年下の、いわゆる「息子」や「孫」の様な年齢の中堅ジャズメンと共演しているのだ。今回の演奏は、テナー・サックスが1管の「ワンホーン・カルテット」。テナー・サックスは、1978年生まれのジャリール・ショウ。録音当時は28歳のバリバリ若手。ヘインズから53歳年下だから、ヘインズからみたら「孫」的存在。ジャリール・ショウがバリバリ吹きまくる。スタイルは「コルトレーン派」。コルトレーンと比べて、軽やかで流麗。

それでも優秀なテクニックでバリバリに吹きまくっている。この「孫」の様なテナーをヘインズはガッチリと受け止め、リズム&ビートをコントロールし、逆に「もっと吹け」と言わんばかりに、若手テナーを鼓舞している。これは、ロバート・ロドリゲス(1968年生まれ)のピアノにも言える。録音当時38歳。ロドリゲスも流麗にガーンゴーンとモーダルなピアノを弾きまくるのだが、ヘインズは正確なリズム&ビートを供給し、ロドリゲスのピアノを破綻せぬよう、しっかりとサポートする。

この盤は、ジャズ・ドラムのレジェンド、ヘインズの「老いてなお盛ん」で驚異的なドラミングを堪能する盤である。そのパワーと感性は全くもって衰えることを知らない様だ。そして、当時の若手テナー・マン、ジャリール・ショウの若々しい、正統派なサックス・プレイは「要注目」である。加えて、ピアノのロバート・ロドリゲスも、僕は知らなかったが、この盤でのプレイを聴く限り「要注目」。こういう好盤が、何気なくサブスクの音楽サイトに転がっているのだから、ジャズはやっぱり隅に置けない。
 
 
 

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2020年3月17日 (火曜日)

ビートルズ・カヴァー集の第2弾

ジャズの世界では、ビートルズのカヴァーは古くから、そう1960年代前半、ビートルズが世界で流行りだした頃からで、意外と早い。そういう意味では、ジャズって意外と「軽薄短小」だなあ、と思うんだが、しかも、そのアレンジたるや、初期の頃のものは酷いものが多くて、むやみに手を出そうものなら「火傷」をする。そう「火傷」をしてからでは遅い。後悔先に立たず、である(笑)。

今ではサブスクの音楽サイトで、チャレンジとして気軽に聴くことが出来るので、片っ端から聴ける。1960年代前半はアレンジがイマイチなんだが、1960年代半ばから熟れてきて、クロスオーバー・ジャズの先駆けの「イージーリスニング・ジャズ」の範疇で、優れたアレンジと演奏のビートルズ・カヴァーが出現した。1970年代以降は、逆にビートルズ・カヴァーは意外と難物なので、優れたアレンジで用意周到に取り組むべきものとなり、いわゆる「失敗作」はほとんど無くなったと思っている。

Al Di Meola『Across the Universe』(写真左)。今月リリースほやほや。超絶技巧ギタリスト、アル・ディ・メオラ(略して「ディメオラ」)がリーダーの、2013年リリースの『All Your Life』に続く、ビートルズ・カヴァー集の第2弾である。第一弾のカヴァー集でも、ビートルズのカヴァー集とは言え、あまりカヴァーされない曲を一ひねりも二捻りも加えたアレンジで取り上げていたが、この第2弾でも、おおよそ今まで、ジャズでカヴァーされたことの無いビートルズ曲を、これまた素晴らしいアレンジを施して披露している。
 
  
Across-the-universe-1   
 
 
1. Here Comes The Sun
2. Golden Slumbers Medley
3. Dear Prudence
4. Norwegian Wood
5. Mother Nature’s Son
6. Strawberry Fields Forever
7. Yesterday
8. Your Mother Should Know
9. Hey Jude
10. I’ll Follow The Sun
11. Julia
12. Till There Was You
13. Here, There And Everywhere
14. Octopus’s Garden
 
 
以上が収録曲なんだが「Dear Prudence」「Mother Nature’s Son」「Your Mother Should Know」「I’ll Follow The Sun」「Julia」「Till There Was You」など、ジャズでカヴァーされた前例を僕は知らない。「私がギターを弾く理由はビートルズがいたからです」と語るディメオラ。そう、ディメオラはビートルズが大好きなんだ。このカヴァーされない、カヴァーし難い楽曲を、超絶技巧なギターテクニックを駆使した、難度の高いアレンジで、クールにユニークにカヴァーしている。

意外と簡単そうに聴こえるが、かなり難しいことを難なくやっている。超絶技巧ギタリストのディメオラの面目躍如である。現代ジャズ・ギターの最先端のテクニックを聴くにも、今までカヴァーされたことのないビートルズ曲を楽しむにも、絶好のカヴァーアルバムです。ちなみに、この盤のアルバム・ジャケットはジョン・レノンのアルバム『Rock 'n' Roll』を再現しています。小粋でお洒落ですね。
 
 
 

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2020年3月16日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・163

なんだかんだ言っても、ウィントン・マルサリスは、ジャズ・トラペッターの中での屈指のレジェンドである。純ジャズ復古の中核人物の一人として新伝承派を牽引し、ネオ・ハードバップまで深化させた功績は大きい。マイルスやコルトレーンの様な「イノベーター」では無かったが、フュージョン・ジャズの次のトレンドを担い、それを深化させた「プロデューサー」であった。

Wynton Marsalis『J Mood』(写真左)。1985年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Wynton Marsalis (tp), Marcus Roberts (p), Robert Hurst III (b), Jeff "Tain" Watts (ds)。前作までの兄弟フロントを解散し、ウィントンのトランペット1本の単独フロント。そして、バックのリズム・セクションもドラムのワッツは留任したが、ピアノはマーカス・ロバーツに、ベースはロバート・ハーストに代わった。

ブランフォードとの兄弟フロントは、ウィントンにとって何かとやりにくかった様に思う。ブランフォード自身がウィントンに負けず劣らず、ジャズマンの資質に恵まれているのと、ウィントンと同等のリーダーシップの持ち主だったが故に、兄弟フロントを組んだ前2作の内容からすると、曲によっては「どちらがリーダーなのか判らん」雰囲気が見え隠れしていた。当時、ブランフォードとウィントンはジャズに対する志向が異なって来ていたので、今回、ウィントンのワンホーンとなってスッキリした。
 
 
J-mood  
 
 
良く出来た盤である。良いところを上げたら切りが無い。それまでのジャズの演奏トレンドや演奏に関するインフルエンサーのスタイルの全てを融合・圧縮して、この盤の中に散りばめられている。理路整然とした、それでいて理屈っぽくない、ハイテクニックなモード・ジャズ。かなり難度の高いモード演奏を、カルテットのメンバーはいとも容易く、クールな雰囲気でクリアしていく。楽器演奏を体験してきた者にとっては、一瞬、背筋が寒くなる位のスリリングな展開が凄い。

全編オリジナルで固めた「第一期ウィントン」の完成形といえる。ウィントンのトランペットがワンホーンで伸び伸びしている。クールでストレートな表現で、一気にモーダルな表現〜展開を吹き切ってしまう潔さ。そして、マーカス・ロバーツのピアノが素晴らしい。特に、ウィントンがフロントに出た時の、限りなく自由度高く吹きまくるウィントンを、鼓舞しサポートするバッキングの上手さときたら、聴いていて惚れ惚れする。

「抑制の美学」。1960年代前半にマイルスがモード・ジャズで表現した「クールな抑制の美学」が、このウィントンの盤にしっかりと在る。そういう意味で「温故知新」という四文字熟語がピッタリの演奏の数々で、この盤は「純ジャズ復古の一里塚」的存在だと僕は解釈している。ネオ・ハードバップの第一歩とも言うべき、素晴らしく「純ジャズらしいモード・ジャズな演奏」に一度は耳を傾けて欲しい。
 
 
 

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2020年3月15日 (日曜日)

現代のネオ・ハードバップの起点

ウィントン・マルサリスは希有なトランペッターである。ジャズ・トランペッターとしては、私見ではあるが、クリフォード・ブラウン、マイルス・ディヴィス、リー・モーガンに次ぐ、ジャズ界最高のトランペッターの一人、と思っている。まず、テクニックが凄い。余芸でクラシック・トランペットのアルバムを出して、クラシック界で一定の評価を得ている位だ。加えて「歌心」がある。

しかし、ジャズに対して、非常に「生真面目」で、ビ・バップからハード・バップこそが「真のジャズ」であり、他のエレ・ジャズ、フュージョンやクロスオーバー・ジャズ、フリー・ジャズ、ファンキー・ジャズなどは、本来のジャズでは無い、堕落したジャズだ、と言い切る。これが、ウィントンに対する「好き嫌い」を分ける大きな要因になっている。全く、そんなこと言うから誤解され、色眼鏡で見られるんだよなあ。悪気は無い。ただ「生真面目」なだけ、なんですけどね。

Wynton Marsalis『Black Codes (From the Underground)』(写真左)。1985年リリース。ちなみにパーソネルは、Wynton Marsalis (tp), Branford Marsalis (ts, ss), Kenny Kirkland (p), Charnett Moffett (b), Jeff "Tain" Watts (ds)。ウィントン+ブランフォードの「マルサリス兄弟」の2管、バックに、カークランドのピアノがメインの、モフェットのベース、ワッツのドラムのリズム・セクションが控えるクインテット構成。
 
  
Black-codes
 
 
パーソネルを見ただけで、出てくる音が想像出来るが、僕はこの盤の音が好きだ。この優秀なサイドメンに恵まれて、ウィントンがそのトランペットの「個性と想い」を100%出し切った好盤といえる。冒頭のタイトル曲「Black Codes」から、ラストの「Blues」まで、この盤に収録されている演奏は全て「充実」の一言。緩んだところなど微塵も無い。優れた演奏テクニックをベースに、モード・ジャズがベースのコンテンポラリーな純ジャズが展開される。

リリース当時は、テクニックをひけらかし過ぎる、スリルに乏しい、堅苦しく生真面目、などと揶揄する向きもあったが、いずれも「的外れ」な評価だなあ、と今になって思う。当時の高いレベルの演奏テクニックは、今やほぼ当たり前の状況になったし、テクニックが優秀なので「破綻しそうな」スリルは当然無いし、生真面目で何が悪い。この盤にあるのは、生真面目で高度なモード・ジャズである。ここまで理路整然と洗練されたモード・ジャズとなると、これは「アート」である。

現代のネオ・ハードバップの起点となるイメージの演奏の数々。そんな象徴的な演奏がこの盤に詰まっている。この盤の収録曲を見渡すと、全7曲中、6曲がウィントンのオリジナル。前クインテット作『Think of One』にも増して、何の気兼ねも無く、テクニックの限りを尽くして吹きまくるウィントン。そんなウィントンの生真面目さ、ひたむきさが良い方向に出た好盤だと思う。この盤には「例の蘊蓄」を垂れるウィントンはいない。
 
 
 
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2020年3月14日 (土曜日)

「素のジャズマン」のウィントン

ウィントン・マルサリスは誤解されることが多い(その殆どが並外れた彼の才能へのやっかみが原因なんだが)。彼が提唱し推進する伝統的ジャズの再評価と復刻・保存・発展についても、とやかく言われることが多い。まあ、ストイックなスイング、ビ・バップからハード・バップが「伝統的なメインストリーム・ジャズ」であり、エレクトリック・ジャズ、フュージョン・ジャズ、フリー・ジャズ、ファンキー・ジャズなどは、本来のジャズでは無い、という旨の、偏った発言をしたこともあり、誤解されても仕方がないんだけれど ・・・。

そんなウィントン、「Standard Timeシリーズ」なるスタンダード集を第1集〜第6集まで出している。これがまあ、有名スタンダード曲から、マニアックな知る人ぞ知る的なスタンダード曲まで、様々なスタンダード曲をカヴァーしている。これがなかなかの内容で聴き応え十分。さすがウィントンと思うんだが、トラペッターとしてウィントンは、スタンダードの焼き直しより、オリジナル曲による演奏の方が僕は好きだ。スタンダード曲集は伝統的ジャズの範疇なので、ウィントンはかなり生真面目に演奏していて、ちょっと固くて、ジャズ的な面白さが半減している。

Wynton Marsalis『Think of One』(写真左)。1983年のリリース。ちなみにパーソネルは、Wynton Marsalis (tp), Branford Marsalis (ss, ts), Kenny Kirkland (p), Phil Bowler (b), Ray Drummond (b), Jeff "Tain" Watts (ds)。マルサリス兄弟がフロント2管のクインテット編成が基本。ちなみにウィントンの兄はサックス奏者のブランフォード・マルサリス、弟にトロンボーン奏者のデルフィーヨ・マルサリス、ドラム奏者のジェイソン・マルサリス。4兄弟でジャズ・ミュージシャンという珍しい存在。
 
 
Think-of-one  
 
 
さて、アルバムの話を。この盤、ウィントン22歳の完璧な演奏である。この盤のリリース当時、即ゲットして聴いたのだが、ジャズにおいて、これだけ格調高く、アーティスティックに演奏することが出来るとは思わなかった。収録された8曲の内訳として、3曲がスタンダード、3曲がウィントンのオリジナル、あと2曲はバンド・メンバーのオリジナル、となっている。この盤では、特にこのウィントンとバンド・メンバー(カークランドとドラモンド)のオリジナルでの演奏が充実している。

オリジナル曲なので、何の気兼ねも無く、テクニックの限りを尽くして吹きまくっているウィントンが頼もしい。バックのメンバーの演奏も同様で、清々しいまでの、技術の限りを尽くして、吹き倒し、弾き倒すこの盤の内容は「聴きもの」である。曲毎のアレンジも洒落ていて、間を活かした余裕ある演奏傾向も含めて、この盤については「テクニックの高さ」が耳に付かない。逆に爽快感すら感じるテクニックの高さ。アレンジと、それぞれのミュージシャンの持つ「歌心」の賜である。

テクニックの限りを尽くして、良きアレンジの下、トランペットを吹きまくるウィントンのひたむきさ、真摯さが良い方向に出た好盤である。ジャズにポップな要素を求める向きにはちょっと聴き疲れするかもしれないが、現代ジャズの、特に80年代ネオ・ハードバップの1つの基準となる位の高いレベルの内容で、ジャズを聴く上では避けて通れない盤だと僕は思う。この盤のウィントンは、例の理屈っぽいウィントンでは無い。素のジャズマンとしてのウィントンがこの盤には存在している。
 
 
 

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2020年3月 9日 (月曜日)

現代の「ジャズ・オルガン」盤

昨日は一日中、雨が降ったり止んだりで、ちょっと寒い一日だった。しかし、今日は雨も上がって気温も上がって、暖かな一日。ここ千葉県北西部地方は最高気温が19度。もはや4月中旬の気温である。まだ3月上旬なのにね。先週の週末は悲しい出来事(マッコイ・タイナーの逝去)もあったけど、悲しんでばかりではいけない。ということで、こってこてファンキーでブルージーなオルガン・ジャズで、心をポジティヴにリセットする。

Tony Monaco and Joey DeFrancesco『New Generations Paesanos On The New B3』(写真左)。2002年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Monaco (new B3, accordion), Robert Kraut (g), Louis Tsamous (ds), Joey DeFrancesco (new B3), Craig Ebner (g), Louis Tsamous (ds)。2つのオルガン・トリオが弾き分ける企画盤。

この盤は、ジャズ・オルガニスト、モナコとデフランチェスコとの共演。それぞれのトリオを引きつれ、新世代オルガン「ハモンド“NEW” B-3」を弾き倒す企画盤。ジャズ・オルガンを体感するには格好の好盤である。デフランチェスコは新進気鋭のオルガン奏者として、前から着目して聴いてきたが、モナコについては全く知らなかった。が、デフランチェスコに匹敵する素晴らしいオルガン奏者である。
 
 
Paesanos-on-the-new-b3  
 
 
過度なファンクネスは避け、切れ味と流麗さを前面に押し出しつつ、ブルージーな音色はしっかりと押さえて、「ハモンド“NEW” B-3」を弾き倒している。以前のジャズ・オルガンに比べて、スッキリしている、というか、シュッとしている。どちらのオルガンも、硬軟自在、緩急自在、そして、オルガン自体の表現力が抜群。新しいスタイルの、現代のジャズ・オルガンだと言える。

選曲を見渡すと、全10曲中、8曲がトニー・モナコのオリジナル曲。いわゆる、オルガニストの作曲なので、オルガンが一番映える曲作りになっている様で、「ハモンド“NEW” B-3」の音を聴き込むには最適の選曲ではある。スタンダード曲は2曲。スタンダード曲については、オルガン奏者自体の個性と資質を確認するのに最適なんだが、これはちょっと物足りないなあ。特に、モナコの実力を測りかねている。

何はともあれ、現代のジャズ・オルガンを体感するのに、「ハモンド“NEW” B-3」の音を体感するのに最適なアルバムである。とにかく、聴いていて「楽しい」。オルガン・ジャズの楽しさがしっかりと詰まった、なかなか隅に置けない企画盤である。「ハモンド“NEW” B-3」のアップをあしらったジャケットもなかなか。好盤です。
 
 
 

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Never_giveup_4
 

2020年3月 6日 (金曜日)

井上の7年振りのアコ・ジャズ盤

日本のジャズの演奏家については、ここ20年余り、なぜか女高男低である。将来有望な新人は女性ばかりで、最初は何となく嬉しかったが、ここまで女性ばかりが出てくると、「日本男子はどうした」と言いたくなる。楽器の演奏というのは意外と体力を使うので、生の音を出す、という点では男性の方が有利なんだが、将来有望な新人はほとんど女性。これって、意外と日本だけの特徴かも、と思いつつ、そんな有望な新人の行く末を見守っている。

井上銘『Our Platform』(写真左)。2020年2月のリリース。日本人「男性」ギタリストのリーダー盤。ちなみにパーソネルは、井上銘 (g), 魚返明未 (p), 若井俊也 (b), 柵木雄斗 (ds)。ピアノ・トリオをリズム・セクションに従えた、リーダーの井上のギターがフロントのカルテット構成。しかも、純日本のメンバー構成。日本のジャズもやるじゃないか。が、井上以外、どうにも馴染みが無い。もう少し、日本のジャズについて勉強する必要があるなあ。

さて、リーダーの井上とは如何なるギタリストか。ネットの情報を借りると「1991年5月生まれ。神奈川県川崎市出身。15才の頃にギターをはじめ、高校在学中にプロキャリアをスタート。 2011年10月EMI Music Japanよりメジャーデビューアルバム『ファースト・トレイン』を発表」とある。そうか、メジャーデビューしてもう8年以上か。僕はこのデビュー盤から、ずっと彼のギターを聴いてきた。
 
 
Our-platform-1  
 
 
今回の新盤を聴いて「いいギターを弾くようになったなあ」が第一印象。ほんと、良いギターである。冒頭から2曲、自作曲で伸び伸びと個性を反映したギターを弾きまくる。ジャズ・ギターとなると、古くは「ウエス・モンゴメリー」、新しくは「ジョージ・ベンソン」辺りの奏法を基本にしたりするのだが、井上のギターはウエスでもベンソンでも無い。はたまた、フュージョン・ジャズ系のギターでは無く、井上のギターの雰囲気は明らかに「純ジャズ」。本格的な純ジャズ志向のギターが清々しい。

純ジャズ志向のギターは、スタンダードやミュージシャンズ・チューンでその実力が遺憾なく発揮される。「You’re My Everything」「I Didn’t Know What Time It Was」などのスタンダード、ロン・カーターの「Eighty One」、スタンダードの美しい旋律を流麗に弾き上げ、ミュージシャンズ・チューンを個性的なモーダルなフレーズで弾きまくる。井上のギターは、シンプルで正統な、ポジティヴな響きが素敵なギター。ありきたりの賛辞で申し訳ないが、良い歳を重ねて、ギターの音に独特の拡がりと奥行きが出てきた。

資料によると「7年ぶりのアコースティック・ジャズ盤」とのこと。今回の内容からして、アコースティック・ジャズ志向、十分いける。特に、ロン・カーターの「Eighty One」などのミュージシャンズ・チューンへのチャレンジなど、どうだろうか。是非、聴いてみたい。
 
 
 

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