2019年12月 6日 (金曜日)

大江千里『Hmmm』は愛らしい

大江千里と言えば、1980年代から90年代にかけて、Jポップの人気シンガー・ソングライターで名を馳せた逸材である。ポップでお洒落な、和製AORな音作りで一世を風靡した。そんな大江千里が、50歳を目前にした2008年、日本国内での自身の音楽活動を休業し、ニューヨークに在住。2012年にはジャズ・ピアニストとしてのデビューを果たしたのである。

これにはビックリした。まず、そんなに簡単に、プロのジャズ・ピアニストになれる筈が無い。 明らかに無謀だ、と思った。確かにピアノは上手かった。それでも、途中から我流のピアノ。50歳を目前にして、ジャズ・ピアニストを目指すなんて、とハラハラして見守った。ジャズのデビュー盤『Boys Mature Slow』からハラハラしながら、ずっとリーダー作を聴いてきた。

大江 千里『Hmmm』(写真左)。ジャズ・ピアニスト転身後6枚目となるオリジナル・アルバムになる。今年9月のリリース。ちなみにパーソネルは、Senri Oe (p), Ari Hoenig (ds), Matt Clohesy (b)。NYでも屈指の名ドラマー、アリ・ホーニグにオーストラリア出身でNYで活躍するベーシスト、マット・クロージーを迎えたトリオ編成。
 
 
Hmmm-ohe
 
 
聴いてみてまず一言で言うと「良いアルバム」である。そして「個性的」なアルバムである。大江千里とは意外と「曲者」である。ジャズ・ピアニストとして一筋縄ではいかない、戦略的に「独特の個性」を演出している。過去のジャズ・ピアニストの一流どころを研究はしているものの、全くフォローをしていない。過去のジャズ・ピアノをフォローせずして、独特の個性を表出する。

これが成立するんだからジャズは面白い。とにかくそれぞれの楽曲のテーマ部の旋律が心地良く、アドリブの展開は流麗で愛らしい。こういう心地良く愛らしい、ジャズ・ピアノのフレーズや展開を僕はあまり聴いた事がない。この大江千里の『Hmmm』を聴いて、ちょっとビックリした。こういう志向がまだジャズ・ピアノに残っていたんやなあ。

この新盤、大江千里のJポップ時代に培った「流麗で愛らしいポップな感覚」とコンテンポラリーな純ジャズが見事に融合した、アーバンで小粋で、心地良く洒落た音世界を聴かせてくれる素晴らしい「仕業」である。僕はこの新盤に大江千里の「戦略性」を垣間見た気がしている。大江千里というジャズ・ピアニストは良い意味で「したたか」である。
 
 
 
東日本大震災から8年8ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年12月 3日 (火曜日)

ジャス喫茶で流したい・156

こういうジャズ盤に出会うと思わず頬が緩む。というか、緩みっぱなしになる。テナー・サックス+オルガン+ドラムスの「オルガン・トリオ」。ジャズにオルガンは良く似合う。古くは1950年代のハードバップの時代から、オルガン・ジャズは人気である。そんなオルガン・ジャズが、現代の、21世紀の今でも「ある」のだ。嬉しいではないか。

James Carter Organ Trio『Live From Newport Jazz』(写真左)。2018年 Newport Jazz festivalでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、James Carter (ts), Alwx White (ds), Gerard Gibbs (org)。実は、僕はリーダーの「James Carter(ジェームス・カーター)」を良く知らない。

ジェームス・カーターとは誰か。ジェームス・カーターは、1969年1月3日生まれ。今年でちょうど50歳。ジャズの世界では中堅からベテランに差し掛かる年齢。出身が「ジャズメンの古都」デトロイトというのが良い。若かりし頃は、ジョシュア・レッドマンの好敵手として注目を集めた強烈な個性をもつテナーマンである。
 
 
Live-from-newport-jazz  
 
 
さて、このライブ盤は、ジャンゴ・ラインハルトによって作曲された、または彼に関連した6つの楽曲を収録。そういう意味で、演奏自体が浮ついていなくて、実に渋く実に粋である。カーターのテーマ部は堅実で正統派、アドリブ部は野性味溢れるアブストラクトでフリーな展開。これが実に心地良い。いずれの楽曲もスピリチュアルでエモーショナルで、「ハートに染み入る」演奏である。

オルガンが効いている。オルガンの音は嫌が応にも演奏全体をジャジーな雰囲気で染め尽くす。そこにソウルフルなドラミングがフロントのテナーを鼓舞し煽る。カーターのテナーは自由奔放に激情豊かに、思いっ切りテナーを吹き上げる。そして、それが耳に付かない。流麗でキャッチャーで「フリーなアドリブ展開」。そして、オルガンがジャズのグルーヴの大本をしっかり押さえる。

カーターいわく「オルガン・サウンドはアフリカ系アメリカ人のルーツの一端を担っている。これらはスピリチュアル・ジャズからソウル、ネオ・ソウルへと繋がり、ジャズの魂を表現する不可欠な要素になっている」。なるほど、そんな理屈をこのライブ盤ではしっかりと音で、立派に表現している。このライブ盤、掘り出し物です。
 
 
 
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2019年11月26日 (火曜日)

日本発の現在進行形エレ・ジャズ

ダウンロード・サイト経由で聴いて「これは面白い」と思った。「こういうジャズがまだ出てくるんだ」と感心した。エレクトリック・ジャズ、エレ・マイルスが好きなジャズ者であれば、きっと気に入ると思う。20世紀のエレクトリック・ジャズを洗練させて、今のエレクトロ機材をふんだんに使用した「現代のエレクトリック・ジャズ」。

THE DOOOD『DOOODISM』(写真左)。今年の9月のリリース。バンド名は「THE DOOOD」=「ザ・ドゥードゥ」と読む。メンバーは、斎藤タカヤ (p, Rhodes, key, Program, vo), 松岡”matzz”高廣 (perc), 大津 惇 (ds)。現代の現在進行形の最先端の「ジャズ」の音世界がこの盤に詰まっている。エレ・ジャズ好きには堪らない。
 
1960年代後半のエレ・マイルスから聴き始め、リアルタイムでエレ・マイルスを体験して来た「耳」には、この盤の音は「堪らない」。音世界の基本は「アフロ・キューバン」と「1970年代のジャズ・ファンク」。そこにメロウなファンク・グルーヴとハウス・ミュージック的なビートを融合させている。
 
 
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1960年代〜70年代のエレ・ジャズと異なるのは、ロックの要素が全く感じられないこと。感じるのは「ジャズ」の要素のみ。ファンク、アフロ・キューバンなど、1960年代のジャズの要素が現代の最新のエレクトロ機材を通じて、新しい「エレクトリック・ジャズ」の響きを形成している。どこまで即興演奏で、どこまで準備されているのかは判らないが、この盤の音世界は確実に「コンテンポラリーな純ジャズ」。
 
面白いのは「日本人」によるエレ・ジャズであるが故、ファンクな要素メインなんだが、決して「黒く」無い。乾いたライトなファンクネスが特徴。日本人のエレ・ジャズの特徴をしっかりと引き継いでいる。これがまた「良い」。流麗でメロウで切れ味の良い展開など、きめ細やかな日本人ジャズの良いところが、そこかしこに感じる。
 
宣伝文句どうり、現在進行形の「エレクトリック・ジャズ」。今までのジャズが吸収してきた「ファンク・ソウル・ラテン・R&B」などを反映して、現代の最先端のジャズの「リズム&ビート」に乗せて、メロウにメロディアスに展開する。聴き味抜群、切れ味抜群の「エレクトリック・ジャズ」。エレ・ジャズ者にとっては「マストアイテム」。
 
 
 
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2019年11月20日 (水曜日)

日本人による「エレ・マイルス」

今を去ること40年以上前、FMでマイルス・デイヴィスの日本公演の実況録音を聴いた瞬間から、エレクトリック・ジャズがお気に入りである。今から振り返ると、あの実況録音の音源って、後の『アガルタ』だった。当時、一番尖った最先端のエレクトリック・ジャズを僕は耳にしたことになる。これは幸運なことであった。

Selim Slive Elementz『VOICE』(写真左)。先日、この盤の音を聴いた時、これは、と感じた。音のベースはエレ・マイルス。しかも、周到に準備され、優れたアレンジが施されたエレ・マイルス。洗練された、流麗な、それでいてインパクトのあるエレ・マイルス。それが、このSelim Slive Elementzというバンドの音である。では、この「Selim Slive Elementz」とは何か?

「Selim Slive Elementz」は、マイルス・デイヴィスと交流のあった音楽ジャーナリスト 小川隆夫が、quasimodeのリーダー平戸祐介と手を組み、マイルス・ミュージックの遺伝子を受け継いだ精鋭プレイヤーたちで結成したスーパー・ジャム・バンド(宣伝より)。ちなみにパーソネルは、小川 隆夫 (g), 平戸 祐介 (key), 元晴 (as, ss), 栗原 健 (ts), 小泉P克人 (elb), コスガ ツヨシ (g), 大竹 重寿 (ds), 西岡 ヒデロー (perc)。
 
 
Voice-1  
  
 
「2サックス、2ギター、4リズムが織りなす21世紀のエレクトリック・マイルス・サウンド」がキャッチ・フレーズ。確かにその通りで、この盤に詰まっている音は、確実に「エレ・マイルス」である。が、エッセンスは踏襲しているが、エレ・マイルスのコピー、カヴァーに全くなっていないところが良い。出てくる音は確実に個々のメンバーのオリジナリティー溢れるもの。

しかし、演奏として感じるのは「エレ・マイルス」。エレ・マイルスの音世界もこういう風に継承されていく時代になったんだなあ、と感慨深いものを感じる。そして音の傾向は「日本人」。エレ・マイルスの肝は「ファンクネス」なんだが、このファンクネスが乾いている。この乾いたファンクネスって日本人独特なものと僕は感じている。その乾いた「ファンクネス」がこの盤に詰まっている。

実はこの「エレ・マイルス」のエッセンスを踏襲した新盤、メンバーの中に「トランペット」がいない。トランペットを入れると、あまりにエレ・マイルスしてしまうのを避けた、とのこと。しかし、トランペットが不在で、これだけ「エレ・マイルス」のエッセンスを踏襲して、かつオリジナリティを最大限に発揮し表現できるとは。Selim Slive Elementzというバンド、末恐ろしいほどのポテンシャルを秘めていると見た。
 
 
 
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2019年11月13日 (水曜日)

ランディとアダの夫婦共演盤

フュージョン、メインストリームの両刀遣い。ジャズ・トランペットのレジェンドの一人「ランディ・ブレッカー(Randy Brecker)」が実に元気である。2007年に弟のマイケルが早逝、美人ピアニスト&ボーカリストのイリアーヌ・イライアスとも離婚。彼の人生、なかなか激しいもので、普通なら萎えてしまいそうなものなのだが、彼はそうはならない。2001年にアダ・ロヴァッティと再婚。最近はリーダー作に客演に大活躍である。

Randy Brecker & Ada Rovatti『Brecker Plays Rovatti - Sacred Bond』(写真左)。今年10月のリリース。ちなみにパーソネルは、Randy Brecker (tp, flh), Ada Rovatti (ts, ss, vo), Stella Brecker (vo track #1), Rodney Holmes (ds), David Kikoski (p, fender rhodes), Alexander Claffy (b, elb), Adam Rogers (g), Jim Beard (keys, hammond organ), Cafe´Da Silva (perc)。パーソネルは「ランディ人脈」で固められているようだ。

さて、この新盤、公私ともどものパートナーであるランディ・ブレッカーとアダ・ロヴァッティ(写真右)の双頭リーダー作品である。ランディとアダは夫婦。ランディはトランペッター、アダはテナー奏者でボーカルも担当する。いわゆる「夫婦共演」盤である。楽曲を見渡せば、収録曲はアダのオリジナル。この新盤は、夫婦の2人が「アダ・ロヴァッティの楽曲を演奏する」という内容。
 
 
Brecker-plays-rovatti-sacred-bond
 
 
CDプレイヤーにスイッチを入れると、出てくる音は「クロスオーバー・ジャズ」。それも現代の最新のテクニックと解釈を基に展開される「現代のクロスオーバー・ジャズ」である。ちょっとフュージョン・ジャズやメインストリーム・ジャズに寄って展開する部分もあるが、基本は「クロスオーバー・ジャズ」。懐かしい展開ではあるが、その展開を構成する音は「今」である。録音も今風。自然な響きではあるが、ダイナミックレンジが広く、楽器の音の分離がとても良い。

アダのサックスを聴いていると、往年の「マイケル・ブレッカー」を彷彿とさせる。端正にまとまった、ちょっと繊細で流麗なマイケルといった雰囲気。ランディのトランペットのパートナーとして、やはりここは「マイケル」かあ。でも、モーダルな展開をメインとするサックスは迫力があって、その力感はなかなかのもの。ランディのトランペットと並べても遜色ない。そういう意味で、この夫婦共演盤は成功していると言える。

この盤を聴いていて、ジャズに夫婦共演盤ってあったかなあ、とふと考える。う〜ん、パッと浮かぶのは、スタンリー・タレンタインとシャーリー・スコットの共演盤。それから、チック・コリアとゲイル・モラン。そう言えば、ランディは前妻のイリアーヌとも共演していたなあ。う〜ん、あとは浮かばんなあ。そもそも夫婦でジャズ・ミュージシャンをやっているケースが僅少なのだ。そういう意味では、この盤はジャズでの「稀少盤」とも言える。
 
 
 
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2019年11月10日 (日曜日)

カーンの新作に心地良い爽快感

我が国では人気がイマイチだったが、僕はスティーヴ・カーンのギターがお気に入り。超絶技巧に弾きまくる訳では無いが、実はテクニック優秀。印象的にフレーズを弾き回すので明快で判り易い。ギターの音色とフレーズがロック・テイストなのが良い。Steve Khan(スティーヴ・カーン)。1947年4月、LA生まれ。今年で72歳。もはやレジェンドの域に達したカーンであるが、この人のフュージョン・ギターは、ずっとお気に入り。

Steve Khan『Patchwork』(写真)。今年の8月、そんなステーィヴ・カーンが新しいリーダー作をリリースした。2019年3月17 and 18日の録音。ちなみにパーソネルは、 Steve Khan (g), Ruben Rodoriguez (b), Dennis Chambers (ds), Marc Quinones (per), Bobby Allends (conga), Rob Mounsey (key), Randy Brecker (flh), Bob Mintzer (ts), Tatiana Parra (vo), Jorge Estrada (key)。

収録曲を見渡すと、1曲目の「Epistrophy」はセロニアス・モンク作。2曲目「C.&D.」と7曲目「T.&T.」がオーネット・コールマン作。3曲目「Bouquet」はボビー・ハッチャーソン作。5曲目「A Shade Of Jade」はジョー・ヘンダーソン作。8曲目「The Journey Home」はキース・ジャレット作。9曲目の「Huracan Clare」のみが、スティーヴ・カーン作。
 
 
Patchwork-steve-khan
 
 
冒頭のセロニアス・モンクの「Epistrophy」、モンクの「癖のある」曲。大体、凡百なジャズメンだとモンク色に染まって、自らの個性を明け渡してしまうところだが、スティーヴ・カーンのギターはそうはならない。曲のコンセプトは踏襲しつつ、演奏の雰囲気は明らかにスティーヴ・カーンの個性に染まっている。冒頭のモンクの曲はそういう雰囲気なので、他の「癖のある」曲もしっかりとスティーヴ・カーンの個性に染まっている。

端正でロック・テイストでちょっと浮遊感のあるスティーヴ・カーンのエレギのフレーズ。ちょっとクロスオーバー・ジャズ寄りの硬派なギター・フュージョン。そんなクールでアグレッシヴなティーヴ・カーンのギターの個性が映える。アレンジも優秀。スティーヴ・カーンのギターが映える様、「癖のある」曲たちに絶妙なアレンジを施している。

完全復調したデニス・チェンバースが久しぶりに参加。リズム&ビートに変化と彩りが加わって、良い効果を生んでいる。ルーベン・ロドリゲスのベースもカーンとの相性は抜群。ロブ・マウンジーのシンセがなかなか良い味出している。こういったバックにも恵まれて、今回のカーンの新作はなかなかの内容に仕上がっている。聴き終わった後、心地良い爽快感が残る。好盤である。
 
 
 
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2019年11月 6日 (水曜日)

山中千尋の聴き心地良好な新盤

「今」の日本女子ジャズ奏者の草分けの一人が「山中千尋」。デビュー盤『Living Without Friday』が2001年のリリース。あれから18年。この18年間、山中千尋は日本女子ジャズ奏者の先頭集団をずっとキープしてきた。美形ではあるが、山中の場合、彼女のピアノが素晴らしい。そしてアレンジが素晴らしい。それだけで充分、評価出来るし、その音を楽しめる。山中の場合、外見は全くジャズの評価とは無関係だと感じている。

山中千尋『Prima Del Tramonto』(写真)。2019年5月、NYブルックリンのBoomtown Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、山中 千尋 (p, Fender Rhodes, Hammond B-3 Organ), Yoshi Waki (ac-b, el-b #1,2,3,4,5,7,10), Vicente Archer (ac-b, el-b #6,8,9,10), John Davis (ds #1,2,3,4,5,7,10)。そして、収録曲は以下の通り。
 

1 ジェンナリーノ Gennarino (Chihiro Yamanaka)
2 パソリーニ Pasolini (Aldo Romano)
3 シンキング・オブ・ユー Thinking Of You (Chihiro Yamanaka)
4 ネヴァー Never (Chihiro Yamanaka)
5 チェロキー Cherokee (Ray Noble)
6 スイート・ラヴ・オブ・マイン Sweet Love Of Mine (Woody Shaw)
7 ルッキング・アップ Looking up (Micheal Petrucciani)
8 ブルー・マイナー Blue Minor (Sonny Clark)
9 ソリチュード〜C・ジャム・ブルーズ
 Solitude〜C jam blues (Chihiro Yamanaka / Duke Ellington)
10 プリマ・デル・トラモント Prima Del Tramonto (Chihiro Yamanaka)
 
 
Prima-del-tramonto  
 
 
1曲目の「Gennarino」は山中の自作曲でウォーミングアップ的な演奏。2曲目の「c」を聴いて「おおっ」と思う。僕の大好きなミシェル・ペトルチアーニ(Michel Petrucciani)の得意曲ではないか。ペト(ペトルシアーニの愛称)の初期の好盤『Estate』の冒頭の名曲である。それから、7曲目の「Looking up」は、これまたペトの名曲。これは確か、ペトがブルーノートに残した好盤『Misic』の冒頭の名曲である。

この盤については、盤の紹介文に「ブルーノート80周年を記念しソニー・クラークなどブルーノートの名曲をカバー。さらに天性疾患による障害を克服し、フランス最高のジャズ・ピアニストと評価されるミシェル・ペトルチアーニの没後20年にもフォーカスした作品を収録」とある。なるほど。しかし、山中のペトの名演曲のカヴァー、実に優れている。ペトの雰囲気を模しながら、山中のピアノの個性をしっかり織り込んでいる。

そして、山中のブルーノート・レーベルの名曲のカヴァーについても、アレンジも含めて優れている。山中とブルーノート・レーベルの名演名曲とは相性が良く、どのカヴァーも内容があって立派だ。自作曲も良好な内容で、この盤は、山中千尋のジャズ・キーボードの「今」を、リラックスして聴かせてくれる好盤である。この盤での山中のピアノは実にリラックスしていて聴き心地が良い。良い音とは絶対に「聴き心地が良い」ものである。
 
 
 
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2019年11月 2日 (土曜日)

桑原あいの真っ先に聴くべき盤

最近、ジャズにおいて、日本ジャズの女子力は留まることを知らない、と書いた。未だ、第一線で活躍している日本人女子のジャズ奏者は多い。この「ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログ」でも、様々な女性ジャズ奏者を紹介してきた。そんな女性ジャズ奏者の中で、再度、当ブログでご紹介し直したい女性ジャズ・ピアニストがいる。「桑原あい」である。

「桑原あい」は、1991年9月生まれ。今年で28歳。ジャズ界ではまだまだ若手も若手。洗足学園高等学校音楽科ジャズピアノ専攻を卒業。2010年からプロとして活動。ピアニスト&作曲家として、前衛的・革新的なサウンドが身上。コンテンポラリーな純ジャズではあるが、ちょっと一筋縄ではいかない、ちょっと前衛的な香りのするフレーズが個性。この部分が気に入るか入らないかで、彼女の評価は変わるだろう。

桑原あい Trio Project『from here to there』(写真左)。2012年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、桑原あい (p), 森田悠介 (el-b), 今井義頼 (ds), 神田リョウ (ds), 鈴木 "Soopy" 智久 (ds)。ピアノの桑原あい、とエレベの森田悠介は固定、ドラムを三人使い分けているが、基本はピアノ・トリオ。自作曲もアレンジも今までに無い響きで、その内容は「ユニーク」。
 
 
From-here-to-there-ai-kuwabara  
 
 
桑原のピアノは、今までの日本人女性ピアニストの一聴すると「もしかすると男性ピアニストか?」と感じるダイナミックなタッチは無い。聴くと判るが、このピアノは確実に女性のピアノ。ガーンゴーンというダイナミックなタッチでは無い、良い意味でしっかりと芯はあるが「線の細い」、ちょっと繊細でライトなタッチと流れる様な弾き回し。女性のジャズ・ピアノの特質を全面に押しだしている。

しかし、そのテクニックは優秀で、その自作曲は聴いていて「気持ちの良い」もの。モーダルなフレーズの響きは心地良く、ところどころ前衛の響きが混ざって、そのピアノは個性的。モンクの様に幾何学的なフレーズが散りばめられているが、モンクの様な「間」は無い。ぎっきり敷き詰められた音符。多弁な右手の幾何学的なフレーズ。それが繊細でライトなタッチで奏でられる。

桑原あい、の個性は今までのジャズには無いもの。この『from here to there』はデビュー盤なので、抑制が効きすぎて、ちょっと「温和しめ」なんだが、それでも、この飛んだり跳ねたりしつつ、流麗に展開する幾何学的フレーズは、ジャズを聴く耳には「気持ちが良い」もの。ジャズ奏者のデビュー盤には、そのジャズ奏者の個性が詰まっている、というが、この盤はその例に漏れない。「桑原あい」を聴くには、真っ先に聴くべき初リーダー作だろう。
 
 
 
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2019年10月31日 (木曜日)

「カリブの風」が吹いている。

この新盤、ストックしておいたのだが、暫くその存在を忘れていた。このリーダーのサックス奏者は、その出身そのものズバリ、ラテン・フレイバーのジャズ演奏を得意とする。これって、僕の好みのど真ん中である。が、直ぐに聴かずにストックしていた。面目ない。そのサックス奏者とは「David Sánchez(デイビット・サンチェス)」。

デイビット・サンチェスはサックス奏者。1970年、プエルトリコ生まれ。今年で49歳。ルーツであるラテンの感覚を活かした音楽性で根強い人気を誇る。年齢的にも油が乗りきった頃であり、ジャズの中堅メンバーとして大活躍。そのルーツに根ざした二つの音世界、純ジャズとラテン・アメリカの伝統音楽の融合が個性。

David Sánchez『Carib』(写真左)。そんなサンチェスの最新作。2019年6月のリリース。ちなみにパーソネルは、David Sanchez (ts, barril de bomba, per, vo), Lage Lund (g), Luis Perdomo (p, rhodes), Ricky Rodriguez (b), Oded Calvaire (ds, vo), Jhan Lee Aponte (per, bomba barril), Markus Schwartz (haitian-per)。「bomba barril」や「haitian-per」という見慣れない楽器が入っている。
 
 
Carib-david-sanchez  
 
 
この見慣れない楽器は「カリビアン」な打楽器で、アルバムのタイトル通り、このアルバムには「カリブの風」が吹いている。リズム&ビートはラテンとジャズ。ラテンフレイバーのコンテンポラリーな純ジャズと硬派でモーダルな純ジャズ、この2つをミックスした「純ジャズ」の彩りが素晴らしい。爽やかな躍動感溢れる、陽光麗らかな、風の様なコンテンポラリーなエレ・ジャズの調べ。

暫く聴いていると「チック・コリア」のエレ・ジャズかなあ、なんて感じたりする。爽やかな風が吹くようなエレギのフレーズの展開に、何となく「パット・メセニー・グループ」かな、なんて思ったりする。カリビアンな打楽器のネイティヴなビートをバックに、流れる様なモーダルなサンチェスのサックスは、どこか「エレ・マイルス」のウェイン・ショーターを彷彿とさせる。

今までの「コンテンポラリーなエレ・ジャズ」を総括した様な音世界に思わず聴き惚れる。ラテン・フレイバーのジャズは「モード」が似合う。硬派でストレート・アヘッドなモード・ジャズとの取り合わせは絶妙なコントラストを表現する。聴き味は爽やかだが、なかなか内容的に濃く、奥が深いエレ・ジャズ。エレ・ジャズ者にとっては「マスト・アイテム」。好盤です。
 
 
 
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2019年10月23日 (水曜日)

いい音している伊ジャズの新盤

こういうコンテンポラリーな純ジャズなアルバムを「発見」すると嬉しくなる。リーダーの名前を見ても、どんな誰なのだか、さっぱり判らない。それでも、アルバムに詰まっている音はとても素敵なジャズで、音は明らかに「今」風。洗練されたリズム&ビートと新しい響きのモーダルなフレーズ。

Enrico Le Noci『Social Music』(写真左)。2019年7月のリリース。Enrico Le Noci (g), Gadi Lehavi (p), Giulio Scianatico (b), Andrea Niccolai (ds), Felix Rossy (tp)。2019年1月、A.MA Records Studioでの録音。ギターとトランペットがフロントで、バックにピアノ・トリオが陣取る、ちょっと変わった構成のクインテット。

Enrico Le Nociは、1996年、イタリアのマルティナ・フランカ生まれ。14歳でギターを始め、Liceo Musicale Architaでクラシックギターを学び、優秀な成績で卒業。その間に彼は、サルバトーレ・ルッソとモダン・ジャズ・ギターの勉強を始め、それが彼をジャズへと導いた。
 
 
Social-music-enrico  
 
 
2014年には、彼は米国テキサス州オースティンで過ごし、デューク・エリントン ジャズフェス・オブ・ニューオーリンズなど、アメリカの多くのフェスティバルに参加。その後、イタリアに戻り、様々なミュージシャンとセッションを重ね、オランダに留学し、ハーグ王立音楽院のジャズギター学士号を取得。彼は現在、様々なバンドのサイドマンとして活躍している、とのこと。

さて、このアルバムであるが、コンテンポラリーでモーダルなジャズがメイン。比較的センスの良いクールな曲や明るく判り易いオープンな感じの曲もあって、3曲でトランペットが入る。ギターとトランペットのユニゾン&ハーモニーというのがユニーク。このエンリコ・レ・ノキのギターとフェリック・ロッシーのトランペットのユニゾン&ハーモニーが絶妙。このコンテンポラリーな響きが実に個性的。

バックのピアノ・トリオのリズム・セクションも実に良い音を出している。典型的なアコースティックなピアノ・トリオの音が実に生々しく、とても躍動感溢れる演奏になっていて、聴き応えがある。イタリアのジャズであるが、実にレベルが高い。しかも新しい響きに満ちていて、実に立派な内容だ。
 
 
 
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