2019年10月17日 (木曜日)

繊細で印象的でスピリチュアル

このアルバムを聴く度に「これってジャズなんだろうか」と心から思う。リズム&ビートは無い。様々な音の洪水。パーッカッシヴな音、水の流れるような音、印象的でスピリチュアルなギターの響き。語りかける様なピアノの音。音の全てが即興演奏。

即興演奏をメインとしているので、ジャズと言えばジャズだが、音の響きとしては「現代音楽」の響きが蔓延していて、聴いていて「ジャズなのか」と思ってしまう。自然の音が蔓延する。ビート感は一切無い。心に響く様なパーカッションの音。この盤は「静的で繊細な」スピリチュアル・ジャズ。

Egberto Gismonti『Dança Das Cabeças』(写真)。邦題「輝く水」。ブラジルを代表するマルチ・インストゥルメンタリスト、エグベルト・ジスモンチの1976年録音のECMデビュー作。ちなみにパーソネルは、Egberto Gismonti (8-string g, p, wood fl, vo), Naná Vasconcelos (perc, berimbau, corpo, vo)。ジスモンチとヴァスコンセロスの即興演奏、そして多重録音。
 
 
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ナナ・ヴァスコンセロスが「納得の参加」。繊細で印象的でスピリチュアルなパーカッションの音は、ナナ・ヴァスコンセロスの仕業。納得である。ジスモンチは、ギターとピアノ、フルートを担当する。これまた、繊細で印象的でスピリチュアルな音の響き。そうか、この盤の音は、静的で繊細なスピリチュアルな音なのだ。

即興演奏がLPの片面、約25分続く。ビートの無い、繊細で静的で印象的でスピリチュアルな音の世界。飽きるかなと思いきや、決して飽きない。25分、一気に聴き切ってしまう。繊細で静的な音の中に、仄かに漂う歌心。この歌心が漂う繊細で静的なフレーズが聴く者を決して飽きさせない。

欧州のニュー・ジャズの老舗、ECMレーベルからのリリースなので「ジャズ」と決めつけるのは野暮ってもんだ。しかし、この盤の繊細で静的なパーカッションは、ニュー・ジャズ的なビートを仄かに感じさせてくれる。全編、即興演奏。仄かに漂うビート。基本、この盤に詰まっている音は「ニュー・ジャズ」な音と解釈して良いだろう。30年以上聴き続けていますが、決して飽きません。好盤です。
 
 
 
東日本大震災から8年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年10月16日 (水曜日)

温故知新な聴き味の良い好盤

21世紀に入って19年が経った。ジャズは死ぬどころか更なる深化を遂げ、ジャズの演奏フォーマットや演奏スタイル、演奏内容の裾野は更に広がった。これもジャズなん? という内容の、尖ったニュー・ジャズな雰囲気のものもあれば、オーソドックスなモーダルなジャズもある。特に、テクニックが伴った、しっかりした内容の伝統的なモーダルなジャズは、今の耳で聴いても、なぜかホッとする。

David Kikoski『Phoenix Rising』(写真左)。今年6月のリリース。ちなみにパーソネルは、Eric Alexander (ts), David Kikoski (p), Peter Washington (b), Joe Farnsworth (ds)。伝統的なテナーで名を残しつつあるエリック・アレキサンダーをフロントに据えた、ワンホーン・カルテットな編成。フロント1管なので、ユニゾン&ハーモニーに関するアレンジと配慮が不要。テナーを自由に吹きまくることが可能。

ミンガス・ビッグ・バンド等の活躍で知られるピアニスト、デヴィッド・キコスキーのHighNoteレーベルからのデビュー盤である。デヴィッド・キコスキーは、1961年米国はニュージャージ生まれのピアニスト。1980年代にはバークレー音楽院でジャズを学ぶ。いわゆる「正統な教育を受けた」ジャズ・ピアニストである。
 
 
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この新盤は、オーソドックスなモード・ジャズ。リズム&ビートも伝統的なジャジーなビート。高速4ビート若しくは8ビート。そして、キコスキーのモーダルなピアノは実に理知的で趣味が良い。アドリブ展開時に合いの手の様に入るブロックコード、優しいしなやかな「シーツ・オブ・サウンド」的なアドリブ・フレーズ。ピアノの響きと流麗で音符の多いアドリブ展開はハービー・ハンコックを彷彿とさせる。端正で明確なタッチのハービー。

エリック・アレキサンダーのテナーも伝統的。音の太さと悠然としたアドリブ展開の吹き回しは、ソニー・ロリンズを想起する。速弾きを伴ったロリンズ。歌心も充分で、特にスタンダード曲でその真価を発揮する。例えば「If I Were a Bell」や「Love for Sale」「Willow Weep for Me」など、安心安定の伝統的なブロウ。コルトレーンっぽいところもあるが、基本はロリンズ。大らかなブロウだ。

この盤、キコスキーのピアノとアレキサンダーのテナーが際立つ。全く新しくない、過去を振り返る、オーソドックスなモード・ジャズ。それでも、過去のモード・ジャズと比較すると、やはり新しい響きに満ちている。温故知新。そんな言葉がピッタリの魅力的な内容のモード・ジャズ。演奏の隅々まで配慮が行き届いたパフォーマンス。伝統的な内容ではあるが、聴き味の良い好盤である。
 
 
 
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2019年10月 2日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・156

ドラマーがリーダーのアルバムって、演奏全体のバランスが良い。常にバンド演奏の後ろに控えて、演奏全体を見渡しつつ、リズム&ビートを供給する役割を担っているからだろうか。演奏の全体をよく聴き、はたまた演奏の詳細に耳を傾け、その雰囲気に合ったビートを供給する。時に鼓舞し、時に寄り添う。ドラマーはバンドの中での「女房役」である。

Jimmy Cobb『This I Dig of You』(写真左)。NYのジャズクラブ「Smoke」が運営する「Smoke Sessions Records」からのリリース。2019年2月7日の録音。ちなみにパーソネルは、Peter Bernstein (g), Harold Mabern (p), John Webber (b), Jimmy Cobb (ds)。ピーター・バーンスタインのギターがフロントを務める。

演奏はアルバム全体から聴き取れる様に、上質なネオ・ハードバップな演奏である。リーダーのジミー・コブは、1929年生まれなので、今年で90歳。90歳のドラマーである。90歳でドラムを味良くバリバリに、ある時は爆発したかの様に、自由自在〜変幻自在に叩きまくる。印象的なドラミング。これが90歳とはとても思えない。
 

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バックのリズム・セクションが、実に良いメンバー。ピアノのメイバーンは1936年生まれ。惜しくも、つい先日、2019年9月19日に逝去した。83歳であった。このコブのリーダー作が2月7日の録音なので、メイバーンが亡くなる、僅か7ヶ月前になる。そんなことを全く感じさせない、多弁で切れ味が良い、メイバーン独特のフレーズが素晴らしい。

ギターのバーンスタインも大健闘。ゆったとしたテンポで、流麗で印象的なフレーズをキメまくる。メイバーンのピアノとバーンスタインの相性が良い。旋律楽器としてOK、リズム楽器としてもOK、ピアノとギターはその個性が似ている。下手をすれば、ギターとピアノの音って被ったりするのだが、この盤では皆無。ギターとピアノの相性の良さが際立つ。

ジョン・ウィーバーのベースも重心低く、堅実なプレイで演奏全体のベースラインをしっかりと押さえている。見事である。カルテットを構成する4人が4人とも演奏レベルは良好。音の響きは時にコード、時のモード。ハードバップの基本要素を上手く場面場面で使い分けていて、飽きが来ない。ネオ・ハードバップの好盤である。
 
 
 
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2019年9月30日 (月曜日)

まだまだ現役なアルパートの魅力

Herb Alpert(ハーブ・アルパート)。ジャズ・トランペットのレジェンドである。トランペッターのみならず、コンポーザー&アレンジャーにも秀でる。A&Mレコードの創始者の一人として有名である(A&Mの"A"はアルパート(Alpert)を指す)。1935年生まれなので、今年で84歳。相当な年齢ではある。しかし、未だ現役。体力が資本のトランペッターとして、84歳で現役って凄い。

Herb Alpert『Over the Rainbow』(写真左)。今年9月20日のリリース。1曲が3〜4分と短い。全12曲。選曲を見れば、ニュー・スタンダードと呼んで良い、1970年代以降の魅力的な楽曲をフュージョン・ジャズとしてアレンジし、ライトで内容の濃い「イージーリスニング・ジャズ」的な内容。といって、アルパートのトランペットが硬派な音色をしている分、甘い雰囲気は全く無い。

そう、ハーブ・アルパートのトランペットの音色が若々しい。84歳のブロウとは思えない、少し「くすんだ」ブリリアントな音色。淀みの無い、ストレートな吹きっぷり。若い頃と比べて、音は小ぶりになったが、まだまだ現役、まだまだイケる。運指も滑らかで、ふらつきやもつれは皆無。そして、何より素晴らしいのはミストーンや掠れの無いこと。
 
 
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ビル・ウィザース「Ain't No Sunshine」、 バリー・マニロウ「Copacabana」、ビリー・プレストン「You Are So Beautiful」、アース・ウインド&ファイアー「Fantasy」など、ニュー・スタンダード曲と呼んで良い、魅力的な楽曲をカヴァーしている。いずれの曲も聴いていて楽しいフレーズが満載。弾いて楽しい、聴いて楽しいニュー・スタンダード曲を優れたアレンジで新たな魅力を引き出している。

シングル・カットされたオリジナル・ナンバーの「Skinny Dip」は、ハーブ自身がプロデュースも手掛けている。明確にアルパートらしい演奏で、トランペットの吹きっぷりや癖、アレンジの志向や決めフレーズなど、しばらく聴いていると「ああ、やっぱりこれはアルパートやなあ」と確信する楽曲である。そして、タイトル曲「Over the Rainbow」は従来の有名ジャズ・スタンダード曲。これがまた良い内容。

ニュー・スタンダード曲、オリジナル曲、従来の有名ジャズ・スタンダード曲と、なかなかの楽曲を選曲し、得意のアレンジの才を振るって、魅力的な、イージーリスニング志向のフュージョン・ジャズに仕立て上げる。コンポーザー&アレンジャーにも秀でたアルパートの面目躍如。そして、端正で説得力のあるアルパートのトランペットが、唄うが如く、気持ち良さそうに飛翔する。気軽に聴ける佳作。
 
 
 
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2019年9月29日 (日曜日)

クロスオーバーなタレンタイン

さて、久し振りにCTIレコードの聴き直し。スタンリー・タレンタインである。タレンタインのテナー・サックスは「漆黒のファンキー・テナー」。どっぷりマイナー調の、思いっ切りジャジーな、中低音中心のファンキー・テナー。1960年代はブルーノート・レーベルをメインに活動。1970年に入って、CTIレコードへ移籍。クロスオーバーな聴き易いジャズに身の置き場を変えた。

Stanley Turrentine『Sugar』(写真)。CTIの6005番。1970年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Stanley Turrentine (ts), Freddie Hubbard (tp), George Benson (g), Lonnie Liston Smith (el-p), Butch Cornell (org), Ron Carter (b), Billy Kaye (ds), Richard "Pablo" Landrum (congas), Hubert Laws (fl), Hank Crawford (as), Johnny "Hammond" Smith (org), Billy Cobham (ds), Airto Moreira (perc)。

パーソネルを見渡すと、ブルーノート・レーベル時代のメンバーとはガラリと変わった。ハードバップ時代からファンキー・ジャズと渡り歩いてきた「手練れ」のメンバーの顔は無い。どの顔も、これからのクロスオーバー〜フュージョン・ジャズを担っていく、若手〜中堅メンバーばかり。テクニックも優秀。高度な演奏を聴き易いジャズに仕立てて、心地良い響き。
 
 
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そんな若きクロスオーバーなリズム・セクションをバックに、タレンタインが「漆黒のファンキー・テナー」を朗々と吹き上げていく。プロデューサー、Creed Taylorの手腕が存分に発揮された、CTIレコード初期の傑作盤である。とにかくアレンジが優秀。冒頭のタイトル曲「Sugar」の「どっぷりファンキー度最高」な演奏だが、クロスオーバーなアレンジによって、極上のエレジャズに仕上がっている。

3曲目の「Impressions」は、ジョン・コルトレーンのモーダルでシーツ・オブ・サウンドな、思いっ切り硬派な純ジャズ曲なんだが、パーカッションとエレピの響きを全面に押しだして、8ビートでクロスオーバーな「Impressions」に変身させている。こんなファンキーでエレクトリックな「Impressions」は聴いた事が無い。しかも、これがなかなか「イケる」のだから面白い。

しかし、タレンタインのどっぷりハードバップでファンキーな「漆黒のテナー」がここまで華麗に転身するとは、実に見事である。ジャケットがちょっとエロチックで「イージーリスニングなジャズ」を彷彿とさせて、ちょっと敬遠気味になるが、中身はなかなか硬派なクロスオーバー・ジャズ。1970年初頭なので、メインストリーム・ジャズな響きをしっかり残っていて、意外と聴きものな内容になっています。
 
 
 
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2019年9月28日 (土曜日)

ECMの「イスラエル・ジャズ」盤

欧州ジャズの老舗レーベルと言えば「ECMレーベル」。1969年にマンフレート・アイヒャーが創立。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。そんな、アイヒャー自らの監修・判断による強烈な「美意識」。僕はジャズを聴き始めた学生時代、大変にお世話になったレーベルである。

Avishai Cohen & Yonathan Avishai『Playing The Room』(写真左)。ECMより、つい先日リリースの新盤。ちなみにパーソネルは、Avishai Cohen (tp), Yonathan Avishai (p)。ベーシストではない、トランペッターのアヴィシャイ・コーエンとピアニスト、ヨナタン・アヴィシャイとのデュオ盤。デュオを構成する奏法のラスト・ネームを見ると、これは「イスラエル・ジャズ」であると期待する。

ECMらしい静的でクールな、即興ベースのデュオ。限りなく静謐で豊かなエコーがそのクールさを増幅する。このジャズは「ニュー・ジャズ」と呼んで良いだろう。スイング感は皆無、ファンクネスは皆無。しかし、測距句演奏をベースとしたデュオ演奏は明らかに「ジャズ」。底を流れるリズム&ビートは堅実なオフビート。自由であるが「フリー」では無い。限りなく自由度の高い「モーダル」なデュオ演奏。
 
 
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全編に渡って、典型的な「イスラエル・ジャズ」の音が詰まっている。出てくるフレーズがちょっとユニークで、北欧的でありながら、どこかエスニックでどこか中東風な響きがする。自由度が高く、エコー豊かなアコースティックな響き。そこはかとない中近東の哀愁感を帯びたトーンが見え隠れする。今までのジャズには全く無い響き。特に、この番ではそんな「イスラエル・ジャズ」の個性をシンプルなデュオ演奏が際立たせる。

このデュオを構成する二人は同じ中学に通っていたそうだ。ティーンエイジャーの頃からテル・アヴィヴでともにジャズを探求してきて、音楽的にも30年以上ずっと長い交友関係を築いてきた、そんな濃いリレーションシップが、これだけの「あうん」の呼吸を生み出し、適度な緊張感溢れる演奏を実現し、僕達を最後まで飽きさせないのだろう。

ちなみに、このアルバムの演奏については、ほとんど一発録音だったそう。そういう面でも「イスラエル・ジャズ」のレベルは高い。最近、イスラエル・ジャズに遭遇する機会が多い。イスラエル・ジャズは、老舗本国の米国、欧州について、新たなジャズの聖地になる位の勢いでメジャーな存在になってきている。もはや、イスラエル発のジャズは無視出来ない存在になってきている。
 
 
 
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2019年9月26日 (木曜日)

コルトレーン・テナーへの挑戦

ジャズの世界で、テナー・サックスをやる者にとって、ジョン・コルトレーンは避けて通れない。この21世紀の世の中になっても、若手テナー・マンの中で、ジョン・コルトレーンのテナー・サックスに挑戦する者は後を絶たない。ただ、一時の様に「猫も杓子もコルトレーン」ということは無くなった。それでも、コルトレーンのテナー・サックスは大きな目標であることは確かである。

Sam Dillon『Force Field』(写真左)。2019年5月のリリース。ちなみにパーソネルは、Sam Dillon (ts), Theo Hill (p, fender rhodes), David Wong (b), Anwar Marshall (ds), Max Darche (tp), Andrew Gould (as), Michael Dease (tb)。ニューヨークで活躍している気鋭の若手テナーマン、サム・ディロンの好盤である。

ディロンのテナー、ヒルのピアノ、ロングのベース、マーシャルのドラムのカルテットをベースに、曲によりマックス・ダルケ(tp)、アンドリュー・グールド(as)、マイケル・ディーズ(tb)が、参加したセクステット&セプテットによる演奏を収録。バラエティに富んだ編成から、ストレート・アヘッドな「ネオ・ハードバップ」な演奏が魅力的である。
 
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サム・ディロンのテナー・サックスは「コルトレーン」ライクなもの。アブストラクトに展開するところも、ストレートに伸びるテナーのブロウも、速いパッセージでは、まるで「シーツ・オブ・サウンド」の如く、ハイ・テクニックでメカニカルな音出し。この盤の様々な演奏を聴いていると、ジャズ・テナーの王道、コルトレーン・テナーに果敢に挑んでいる様がよく判る。

選曲もなかなか「ふるっている」。さすが、現代の若手のホープの選曲である。彼のオリジナルのほか、チック・コリア、ハリー・ウィッテッカー、ラーシュ・ヤンソン、チャーリー・パーカーのナンバーを選曲している。この選曲が今までのテナー・マンと違うところ。現代の若手テナー・マンの新しい感覚を感じる。しかも、これらの目新しい曲でテナー・サックスが充分に映えるのだ。

「猫も杓子もコルトレーン」な時代もあった。テナー・マンによっては、テクニックが伴わず、歌心が不足して、コルトレーン・テナーに挑みはするのだが、全く退屈な演奏に終始する盤もあるなど、玉石混交な時代もあった。が、このサム・ディロンの様に、テクニックを伴った、気鋭の若手テナー・マンが、コルトレーン・テナーへチャレンジする様は頼もしい限り。いい音してます。
 
 
 
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2019年9月24日 (火曜日)

ダグラスのベースレス・トリオ

何時の時代も「ハードバップ」のニーズは絶対にある、と思っている。なんしか、ハードバップが一番ジャズらしい。ジャズをあまり知らない人でも、ハードバップ系の演奏を聴けば、「ああ、コレはジャズですね」ということになる。通常一般の方々からすると、このハードバップなジャズが、皆さんのイメージする「ジャズの音」なんだろう。

Dave Douglas『Devotion』(写真左)。2018年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Dave Douglas (tp), Uri Caine (p), Andrew Cyrille (ds, perc)。このトリオ、見ての通りベースレス・トリオである。いや〜攻めてますね〜。ピアノレスやドラムレスのトリオは時々耳にするが、トランペットがフロントのベースレス・トリオはあまり聴いた事が無い。
 
曲のベースラインは誰が押さえるのか、と思うのですが、ここでは「ピアノ」があります。この盤でも、ベースの代わりに演奏中のベースラインをしっかり押さえているのは、ケインのピアノの左手。リズム&ビートはシリルのドラムが供給するので、これまた全く問題無い。ベースが無い分、演奏全体の重心が軽くて、トランペットの軽やかな吹き回しが印象的に響く。
 
 
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演奏全体の雰囲気は、現代の「ネオ・ハードバップ」。モード有り、コード有り、自由度が高いが、フリーに走ること無く、アブストラクトに展開すること無く、しっかりとスイングする演奏が好印象。即興性も高く、それぞれベテラン3人のアドリブ展開の妙が随所に聴ける。スインギーなネオ・ハードバップな演奏は、緊張感を強いられること無く、適度にリラックスして聴き耳を立てることが出来る。
 
タイトルは訳すと「献身」。この盤の解説を紐解くと、2曲目「D'Andrea」、3曲目「Francis of Anthony」はフランコ・ダンドレアに、4曲目「Miljøsang」から5曲目「False Allegiances」はカーラ・ブレイに、8曲目「Rose and Thorn」はメアリー・ルー・ウィリアムスに、9曲目「We Pray」はディジー・ガレスピー、といった具合に、本作は彼らが敬愛しているジャズメンに対して捧げられたものだそうだ。
 
ディヴ・ダグラスは、1963年3月生まれなので今年で56歳。ジャズマンとしては脂のり切った中堅的な位置づけ。我が国ではあまり人気が無いのだが、僕は彼のトランペットがお気に入り。若手であった20歳台は、ちょうど「純ジャズ復古」の時代だったので、ベテランやレジェンドに押されて、ちょっと片隅へ追いやられていたのかなあ。今回の盤もそうですが、コンスタントに好盤を出していて、今後がさらに期待出来るトランペッターの一人です。
 
 
 
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2019年9月23日 (月曜日)

桑原あいの「新ディズニー曲集」

日本人女子ジャズ・ミュージシャンの中で、最近、特に元気なのが「桑原あい」。ちょっとだけ難解なニュー・ジャズな盤でデビューしてきたので、どうかな〜と思っていたんだが、歳を重ねる毎に熟れてきて、最近はとても良い雰囲気のジャズ・ピアノを聴かせてくれている。1991年生まれだから、今年で28歳。これから中堅の域に入る、期待の有望株である。

桑原あい『My First Disney Jazz』(写真左)。そんな「桑原あい」が、ディズニー・ソングのカヴァーにチャレンジした盤。ディズニー公式カヴァー盤とのこと。ディズニー・ソングといっても、1950年代、ハードバップ全盛期からの「ジャズ・スタンダード曲」としての曲では無く、最近のディズニー・ソングを中心に選曲して、それだけでも新鮮な印象がある。

『アラジン』から「ホール・ニュー・ワールド」「フレンド・ライク・ミー」。不朽の名作『美女と野獣』のメドレー。『トイ・ストーリー2』『モンスターズ・インク』『塔の上のラプンツェル』『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』など、バラエティに富んだアレンジがなかなか優れていて、聴き応えがある。全曲聴き通しても全く飽きが来ない。
 
 
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ちなみにパーソネルは、Ai Kuwabara: Piano (#1~10) / Keisuke Torigoe: Bass (#1, 5, 8, 10) / Takumi Katsuya: Electric Bass (#2, 6, 7, 9) / Akira Yamada: Drums (#1, 2, 5, 6, 7, 8, 9) / Takezo Yamada: Trumpet (#1, 7) / Yasuki Sogabe: Tenor Saxophone, RIO: Baritone Saxophone (#1) / MARU: Vocal (#1) / Akira Wada: Vocal & Chorus (#9) / Kenta Okamoto: Percussion (#2) 。これに弦楽四重奏 (#3, 8)が加わる。

基本は、桑原あいのピアノをメインとして、ドラムは曲毎に演奏フォーマットを変え、メンバーを変え、管を入れたり、ボーカルを入れたり、さらに弦楽四重奏が加わる。ドラムは山田玲が一手に引き受け、ベースはアコベが鳥越啓介、エレベを勝矢匠が担当。このピアノ・トリオをベースとして、トランペットやサックス、ボーカルなどのゲストを迎えて、それぞれの曲に相応しい音を形成している。

演奏自体の響きも、しっかりとネオ・ハードバップな響きをキープしていて、新鮮な響きがする。新しいディズニー・ソング集という面持ちで、聴いていてとても楽しい。ネオ・ハードバップな好盤として、じっくりと腰を据えて聴くも良し、メロディーが印象的なので、ながら聴きにも最適。ちょっと小難しいニュー・ジャズな音も良いが、こういうあっけらかんとしたカヴァー盤も魅力的である。
 
 
 
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2019年9月19日 (木曜日)

三輪洋子、約2年ぶりの新盤

2019年になっても、日本人女子ジャズ奏者の快進撃は続いている。この人のピアノについてはデビュー以来、ズッと追いかけている。アメリカン・ルーツ音楽がベースの、ゴスペル風、若しくはフォーキーなフレーズが独特。特に、その独特の個性が自作曲で映える訳で、出てくるリーダー作、出てくるリーダー作、楽しみに聴いて来た。

三輪洋子『Keep Talkin'』(写真左)。今年7月のリリース。三輪洋子、約2年ぶりの新盤である。ちなみにパーソネルは、Yoko Miwa (p), Will Slater (b), Scott Goulding (ds)。三輪がお得意のピアノ・トリオ。オリジナル曲に加え、Monk, Mingus、Beatles, Joni Mitchellらの曲を取上げた、様々な表情を感じることの出来る「万華鏡」の様な作品。

しかし、冒頭のタイトル曲「Keep Talkin' 」のラテン調の演奏には、えっ、そっちに行くの、と思って、ちょっと面食らう。2曲目のモンク作「 In Walked Bud」については、スタンダード曲の演奏になるのだが、とてもお行儀の良い、原曲のイメージを絶対に損なわない優等生的な演奏で、ちょっと物足りなさが残る。この傾向は、5曲目のミンガス作「 Boogie Stop Shuffle」でも同様。
 
 
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3曲目の自作曲「Secret Rendezvous」から、いつもの三輪の個性が出始めて、演奏全体の雰囲気が「よそ行き」から「普段着」に変わっていく。4曲目の自作曲「Sunset Lane」は、タッチの確かな、耽美的な流麗なピアノ。深めのエコーが実に「欧州的」。6曲目の「Golden Slumbers / You Never Give Me Your Money」はレノン=マッカートニーのカヴァー。フォーキーな三輪のピアノが素敵である。

7曲目の自作曲「Tone Portrait」で完全復調。躍動感溢れる、明確なタッチで、跳ねるように踊るようにピアノの音が乱舞する。そして、9曲目のジョニ・ミッチェル作「Conversations」は三輪の個性全開。アメリカン・ルーツ音楽がベースの、ゴスペル風、若しくはフォーキーなフレーズにワクワクする。これこれ、この音が一番、三輪らしい。

ラテン調の曲やジャズ・スタンダード曲になると「よそ行き」な演奏になるが、純ジャズな演奏としてはレベルが高い。これはこれで、水準以上の出来ではあるので、全体の雰囲気を阻害するものでは無い。次作では、ジャズ・スタンダード曲を三輪の個性全開で自由奔放に弾き倒して欲しい。アメリカン・ルーツ音楽がベースの、ゴスペル風、若しくはフォーキーなスタンダード曲の解釈。良い感じではないか。
 
 
 
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