2022年12月 3日 (土曜日)

ジュリアナの傑作カルテット盤

ドラマーがリーダーのアルバムは、その意図が分かりやすいものが多い。ドラマーは「リズム・セクション」のリズム&ビート供給の要の楽器。演奏するジャズのスタイルや演奏のトレンドの全てに対応出来るのが「ドラム」。そんなドラマーがリーダーを務めるリーダー作は、リーダーのドラマーが演奏で表現したい「志向」がメインになることが多い。

Mark Guiliana『The Sound of Listening』(写真左)。2022年3月、NYのブルックリンでの録音。ちなみにパーソネルは、Mark Guiliana (ds; syn on 3, 5, 7; drum programming on 7; Perc on 10), Chris Morrissey (b), Shai Maestro (p; Mellotron on 1, 5, 7; Ampliceleste on 1, 5, 7; Fender Rhodes on 2), Jason Rigby (ts; b-cl on 1, 3, 5, 7; cl on 1, 5; fl on 5)。

現代最高峰のドラマー&作曲家のマーク・ジュリアナ(Mark Guiliana)のリーダー作。ジェイソン・リグビーのサックスがフロント1管のカルテット編成。メンバー全員がマルチ・インストルメンタル。この盤の多彩は表現力は、この「マルチ・インスト」の成せる技である。現代ジャズの最新の表現技術を投入した、現代の新しいジャズの響きで満たされた音世界。

リーダーでドラマーのジュリアナは、本職のドラム以外に、シンセやドラム・プログラミングもこなす。ピアノ担当のシャイ・マエストロは、ピアノ以外のメロトロンやローズを弾きこなす。サックス担当のジェイソン・リグビーは、テナー・サックス以外に、バスクラやクラリネットも吹きこなす。
 

Mark-guilianathe-sound-of-listening

 
静的で流麗なスピリチュアアルなニュー・ジャズ志向の音世界がこの盤を支配する。基本はアコースティックな演奏だが、効果的にエレクトロニクスの手法を取り込んで、表現の幅を大きく拡げている。

ユーロ・ビートの要素も感じるし、アンビエント・ミュージックの要素も感じる。ECMっぽいニュー・ジャズな雰囲気も良い。しかし、リズム&ビートはジャジー。演奏全体に適度なテンションが張り巡らされて、緩んだところは微塵も無い。現代の静的で印象的なスピリチュアル・ジャズの好例。

静的で印象的でスピリチュアルな音世界の中で、やはり「要」となるのは、ジュリアナのドラミング。そして、クリス・モリッシーのベースが、演奏の音の底をしっかりと支えている。シャイ・マエストロのキーボードは、旋律楽器、リズム楽器の両方で八面六臂の大活躍。そんな充実しまくったリズム・セクションをバックに、ジェイソン・リグビーのリード楽器が心地良く吹き上げられていく。

「ドラミングのエキサイティングなニュースタイルの最前線に立っている」と評されたドラマー。デヴィッド・ボウイのアルバム『ブラックスター(★)』への参加でも知られる新世代ドラマー。そんなジュリアナの、アコースティックとエレクトロニクスの要素が効果的に統合された、静的で印象的なスピリチュアル・ジャズ。聴き応え十分です。
 
 

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2022年11月30日 (水曜日)

ロイド「Trio of Trios」の第二弾

3つのトリオによる3枚のアルバムからなる新プロジェクト「トリオ・オブ・トリオズ」の第一弾は『Trios: Chapel』(左をクリック)。2018年12月4日、テキサス州サンアントニオのコーツ・チャペルでのライヴ録音。良い意味であざとくもあるが、この10年間辺りの流行である「静的でクールなスピリチュアル・ジャズ」を志向した、現代のモダン・ジャズである。

Charles Lloyd『Trios: Ocean』(写真左)。2020年9月9日、ロイドの故郷であるカリフォルニア州サンタ・バーバラの150年の歴史を持つロベロ・シアターでの録音。コロナ・パンデミックの最中、観客無しでライブ配信されている。ちなみにパーソネルは、Charles Lloyd (as, ts, fl), Gerald Clayton (p), Anthony Wilson (g)。

3つのトリオによる3枚のアルバムからなる新プロジェクト「トリオ・オブ・トリオズ」の第二弾。共演のジェラルド・クレイトンは、西海岸ベースの伝説的存在ジョン・クレイトンの息子。アンソニー・ウィルソンは著名なバンドリーダー&トランペッター、作曲・編曲家のジェラルド・ウィルソンの息子。この「Trio of Trios」の第二弾は、有名なミュージシャンを父に持つ2人のミュージシャンとの共演になる。
 

Charles-lloydtrios-ocean

 
この盤は、ジャズは「即興演奏の賜物」を再認識させてくれる。冒頭の「The Lonely One」は、クレイトンとウィルソンの伴奏に合わせてキーとテンポが決まった瞬間から、サックス、ギター、ピアノの3者対等な、自由度の高いモーダルなインタープレイが展開される。反芻的でありながら神秘的。静的でクールなスピリチュアルな音世界が厳かに展開される。

「Hagar of the Inuits」は、ブルース的なグルーヴを醸し出しつつ、ここでも、サックス、ギター、ピアノの3者対等な、自由度の高いモーダルなインタープレイが展開される。とりわけ、ウィルソンのギター・ソロが印象的。続く「Jaramillo Blues」もブルース志向で、明るいトーンが印象的。ブルース志向の自由度の高いインタープレイが実に「スピリチュアル」。クレイトンのピアノが演奏全体を仕切っているのにも感心した。

今回の「Trio of Trios」の第二弾は、自由度の高いモーダルなインタープレイがメインだが、ブルース曲を中心に純ジャズな雰囲気を強く感じつつ、曲によっては、ECM的な「ニュー・ジャズ」なサウンド志向も見え隠れする、ユニークな「静的でクールなスピリチュアル・ジャズ」を表現していて、実に興味深い。
 
 

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2022年11月29日 (火曜日)

エレ・チックの未発表ライブ音源

チックが亡くなって、1年と10ヶ月が過ぎようとしている。チックが亡くなったのって、遠い昔みたいに感じるのだが、チックが亡くなって、まだ2年経っていないんやね。と思っていたら、最近、サブスクサイトに、チックの未発表音源がちょくちょくリリースされているのに気がついた。なんで生前に正式盤としてリリースしなかったのか、と思う、内容の充実した音源ばかりで、さすがはチック、演奏の出来にバラツキが無かったんやなあ、と改めて感心している。

Chick Corea『Live Under The Sky ’79』(写真左)。1979年7月27日、田園コロシアムでのライヴ録音。オフィシャル級のステレオ・サウンドボード録音にて収録らしい。確かに音はまずまず良い。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (key), Tony Williams (ds), Al Di Meola (g), Bunny Brunel (b)。「Live Under The Sky 1979」に向けて、特別に組成したカルテット編成。

チックのアグレッシヴでプログレッシヴなシンセの弾きまくりに、ディメオラが調節技巧エレギで応戦。チックとディメオラのバトルを、これまたアグレッシヴでポリリズミックで叩きまくりのトニーのドラムが煽りに煽る。これだけでも凄い迫力なのだが、ここに、バニー・ブルネルの重量級エレベが参戦、さらにその「ど迫力」に拍車をかけている。
 

Chick-corealive-under-the-sky-79

 
冒頭の「Night Street」、チックのソロ盤『My Spanish Heart』からの選曲なのだが、ディメオラ、トニー、ブルネルが演奏し慣れているが如く、疾走感溢れる弾きまくりである。チックとディメオラのフロントで、ど迫力のユニゾン&ハーモニー。どんだけ音が分厚いのか。そこに、マシンガンの如く、トニーのドラムが「ドドドドド」と迫り来る。そして、ブルネルのエレベがブンブン鳴り響く。

収録曲も魅力的。チックのファンであれば、タイトルだけ見ても「痺れる」曲がズラリと並ぶ。「All Blues」から「Senor Mouse」〜「Spain」には聴き惚れるばかり。そして、ディメオラのソロから、チックが参戦してデュオになり、トニーのドラムとブルネルのベースが入って来たな、と思ったら「Isfahan」に突入する。どの曲の演奏も素晴らしい「ど迫力」。生で聴きたかったなあ。ラストのチックのソロも絶品。チック者には堪らない。

ブートとして一部のマニアだけが聴けるだけなのは惜しい。こんな未発表音源が他にもあるのなら、もっと正式盤でリリースして欲しい。実は、チックのアコピのコンサートには何度か足を運んだが、エレピのチックは生で体験したことが無い。チックのエレピが聴ける、クロスオーバー〜フュージョン志向のエレ・チックのライヴ音源があるのなら、なおさらである。
 
 

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2022年11月16日 (水曜日)

ジャズ・ファンクなヘインズ盤

ドラマーがリーダーのジャズ盤を聴き直している。最近、ロイ・ヘインズのリーダー作を何作か聴き直した訳だが、なかなかの内容の優秀盤が多い。その時代ごとのジャズの演奏志向、トレンドを捉え、メンバーもなかなか考えた人選で、コンテンポラリーな純ジャズを溌剌とやっている。

ただし、何故か、ロイ・ヘインズは我が国では人気がイマイチ。ロイ・ヘインズのリーダー作については、『We Three』『Out of the Afternoon』ばかりが紹介されて、他のリーダー作については、まともな評論はあまり見たことが無い。ハードバップ初期から、21世紀に入るまで、ずっと第一線を走ってきたのドラマーなのに、この過小評価な扱いは未だに納得しかねる。

Roy Haynes『Hip Ensemble』(写真左)。1971年の録音、作品。ちなみにパーソネルは、Roy Haynes (ds, timpani), George Adams (ts, fl), Marvin Peterson (tp), Mervin Bronson (el-b), Elwood Johnson (bongo, tambourine), Lawrence Killian (conga), Carl Schroeder (p), Teruo Nakamura (b)。

全体の音志向は、当時流行っていた「ジャズ・ファンク+クロスオーバー」なジャズ。純ジャズ畑のロイ・ヘインズが、ジャズ・ファンクに手を染めている訳で、ど〜なるの、と思って聴き進めたら、意外と思いっ切り雰囲気のあるジャズ・ファンクがバッチリ決まっているから面白い。
 

Roy-hayneship-ensemble

 
パーソネルを見渡すと、若き日のハンニバル・マーヴィン・ピーターソンのトランペット、ジョージ・アダムスのテナー・サックスがフロントに控えていて、こりゃ〜、思いっ切りスピリチュアルに傾くのか、と思って聴いていたら、ピーターソンのトランペットは、アグレッシブにハイノートでグイグイ攻め、アタムスのテナーは骨太で豪快。しっかりと従来のジャズの枠に填まって熱演している。
 
グルーヴ感溢れるファンキーなヘインズのドラミングに、ベースはエレベ、ボンゴやコンガのパーカッションが、そのグルーヴ感を増幅して、グルーヴ感濃厚なジャズ・ファンクが展開されている。ヘインズ中心に叩き出すビートが意外にアーバンでクールなので、下世話な「どファンク」になっていないところが、この盤の小粋なところ。

メインストリームな純ジャズからは外れる、ジャズ・ファンクな演奏なんだが、純ジャズ感は濃厚。特に、疾走するハンニバルのトランペットとアダムスのテナーは聴き応え満点。バックのリズム&ビートがジャズ・ファンクなのに、そんなことお構いなしに、ストレート・アヘッドなアドリブを吹きまくる。
 
 

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2022年11月14日 (月曜日)

Weather Report (1982) 再び

「コズミック&モーダル」と「アーシー、エスニック&ユートピア」を志向としたエレ・ジャズというのが、ウェザー・リポートの音世界だったと思う。

ショーターは「コズミック、モーダル」を担当したが、バンド内での活動の縮小によって、「コズミック、モーダル」な音志向は後退、「アーシー、エスニック&ユートピア」の音志向はザヴィヌルが担当、ユートピア志向は「Birdland」を頂点に、急速に後退していった。

『Weather Report(1982)』(写真左)。1982年の作品。ちなみにパーソネルは、パーソネルは、Josef Zawinul (Key), Wayne Shorter (ts,ss), Jaco Pastorius (b), Peter Erskine (ds), Robert Thomas Jr. (hand ds)。前作の傑作『Night Passage』と同一メンバーによる作品。1980年代録音の最初のリリースということで、その意味も込めて、アルバム・タイトルは、デビュー盤と同様、グループ名だけを冠した『Weather Report』としている。

音的には前作の音志向を踏襲している。ポップでキャッチャーでフュージョン・チックなフレーズは、冒頭の「Volcano for Hire」のみ。2曲目以降は、コンテンポラリーな純ジャズな演奏として、インプロビゼーションに重点を置いた、意外に「硬派」な内容になっている。この盤でもジャコのアースキンのリズム隊は強烈。2曲目以降が、コンテンポラリーな純ジャズな演奏になっているのは、この強烈なリズム隊のお陰でだろう。

しかし、どの演奏も、前作にも増して「バンド演奏としての一体感と熱量の不足」に拍車がかかっている。ジャコのモーダルで自由度の高いベース・ラインと、アースキンの高速ポリリズミックなドラミングが強烈にも関わらず、何だか演奏の盛り上がりに欠け、ジャズ演奏の熱量に欠け、即興演奏の熱気に欠けた、静的でどこか覇気の無い、ちょっと陰鬱なエレ・ジャズが展開される。
 

Weather-report1982

 
この頃のザヴィヌルは、録音に関して「完全主義者」と化していて、ジャコのベース、アースキンのドラムに対して、ザヴィヌル自身が気に入る音になるまで、何度もやり直しをさせていた、とのこと。この盤に録音されたジャコのベースとアースキンのドラムは、本人達が満足するパフォーマンスでは無く、ザヴィヌルがやり直しを命じ、ザヴィヌルが気に入ったものを採用して、リズム&ビートのベースにしている。

この「演奏の盛り上がりに欠け、ジャズ演奏の熱量に欠け、即興演奏の熱気に欠けた、静的でどこか陰鬱なリズム&ビート」がザヴィヌルのお気に入りだったのだから堪らない。確かに、リズム&ビートの躍動感と自由度が後退し目立たなくなった分、ザヴィヌルのキーボードは目立ってはいるが、この盤でのコンテンポラリーな純ジャズな音志向からすると、ザヴィヌルのキーボードは必然性に欠ける。

前作『Night Passage』と同一メンバーでの演奏なのに、この『Weather Report(1982)』の演奏内容の落差には驚くばかり。ザヴィヌルのワンマン化が進み、バンドとしての一体感は無くなり、同一の音志向を追求することも無かったのだろう。当時、ザヴィヌルは何を考えていたんだろう。音を創作するクリエイターの立場にいたザヴィヌル。この盤におけるプロデュースは感心できない。

振り返れば、リーダー以外の音志向を反映した「リズム&ビート」が要となった、ストイックでアーティスティックなコンテンポラリーなエレ・ジャズを志向した「ジャコ&ショーターのウェザー」は、『Mr.Gone』『8:30』『Night Passage』の3枚の傑作を残して終わった。今でも、WRのアルバムの中でも、この3枚は傑作として評価が高い。

しかし、同一メンバーで臨んだ『Weather Report(1982)』は、そんなジャコ&ショーターのWRの抜け殻でしかなかった。平凡なデザインのジャケットと共に、この盤はWRの問題作の1枚だろう。決して凡作では無い。しかし、傑作でも無い。様々な問題を内包した「問題作」だろう。
 
 

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2022年11月13日 (日曜日)

『Night Passage』を聴き直す

今の耳で聴き直していて、ウェザー・リポート(Weather Report)というバンドの「根っこの音志向」って何だったんだろう、と思うことがある。アルバムによって、売上を度外視したアーティステックなジャズを追求する場合と、売上を目指して大衆的なジャズを追求する場合と両極端に「バンドの音の志向」が振れている様に感じるのだ。

Weather Report『Night Passage』(写真左)。1980年のリリース。ちなみにパーソネルは、パーソネルは、Josef Zawinul (Key), Wayne Shorter (ts,ss), Jaco Pastorius (b), Peter Erskine (ds), Robert Thomas Jr. (hand ds)。WRのバンドの歴史史上、最強のラインアップでの録音になる。

音を聴くと判るのだが、ライヴ録音っぽい音をしている。実は『Madagascar』以外の収録曲は、1980年7月にロサンゼルスのコンプレックス・スタジオに観客を動員した上で、2日間にわたってライヴ形式で録音。残る『Madagascar』は、同年6月に大阪フェスティバル・ホールで開催されたライヴ演奏の音源が収録されている。オーヴァーダヴなどはしていないぞ、というWRの宣言なのだろうか。この録音形式をとった動機が未だに良く判らない。

とにかく、最強のラインアップでライヴ録音した『8:30』は、基本的にポップでフュージョンな『Heavy Weather』のライヴ盤的な内容だったが故、売れに売れた。前作『Mr.Gone』 での売れ行き低下に歯止めをかけ、再び、人気ジャズバンドとしての地位に返り咲いた訳である。で、この『Night Passage』であるが、収録曲の曲想から、どうも『Heavy Weather』の二番煎じを狙った節がある。

収録曲の作曲担当の配分を見ても、ザヴィヌルが5曲、ショーターが1曲、ジャコが1曲、そして、エリントンの曲が1曲。ほとんどをザヴィヌルが担当。ポップでフュージョンなエレ・ジャズを目指したザヴィヌル。しかし、曲の出来としては、ショーターの「Port of Entry」と、ジャコの名バラード「Three Views of a Secret」が突出している。
 

Weather-reportnight-passage

 
ザヴィヌル作のポップでフュージョンなエレ・ジャズでも、ジャコのアースキンのリズム隊は強烈。ジャコはモーダルな高速ベース・ラインを弾きまくり、アースキンは高速ポリリズムを叩きまくる。ザヴィヌルの用意したポップでキャッチャーなフレーズを、この強烈なリズム隊が、ストイックでアーティスティックなフレーズに変化させている。

デューク・エリントンの『Rockin in Rhythm』のカヴァーや表題曲における4ビートの導入だって、売らんが為のキャッチャーな話題作りの匂いがプンプンするが、このカヴァーは、キーボードを重ねてのビッグバンドの音の再現は平凡だと感じるが、ジャコとアースキンの強烈リズム隊の、モダンでストイックで「疾走する4ビートなスイング感」で、名カヴァーの1曲として、高く評価されている。

ショーターのサックスだって、もう二度と「A Remark You Made」の様な、甘々でポップでフュージョン・チックなフレーズは吹かないぞ、とばかりに、ジャコとアースキンの強烈リズム隊に引っ張られるように、限りなく自由度の高い、ストイックでアーティスティックなフレーズを吹きまくっている。この盤では、ショーターは完全にジャコとアースキンの強烈リズム隊に「乗って」いる。

僕はアルバム全体を覆う「バンド演奏としての一体感と熱量の不足」が以前から気になっていたのだが、そんな複雑なバンド環境の中で、この『Night Passage』は成立しているからだと推察している。バンド・リーダーの音志向がバンド全体に行き渡り、バンド一体となって、その音志向に向かって邁進する、そんな「一体感と熱量」がこの盤には、どこか不足している。

それでも、この『Night Passage』は、ポップでキャッチャーでフュージョン・チックなフレーズを散りばめながら、当時のエレ・ジャズとして、そのアーティステックな内容が高く評価されて、WR史上の最高傑作として評価されている。

僕もこの『Night Passage』は、WRのデビュー盤『Weather Report』、ジャコWRの『Mr.Gone』に匹敵する傑作だと評価している。いずれの盤も「リズム&ビート」が要。エレ・ジャズには、そのバンドの音志向を反映する「リズム&ビート」が必須。

そういう面で、この『Night Passage』はちょっと異質で、リーダー以外の音志向を反映した「リズム&ビート」が要になっている。それでも傑作なのだ。ジャズは面白い。
 
 

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2022年11月11日 (金曜日)

チック流のエレ・マイルス

Chick Corea『Is』は、1969年5月11–13日の録音。録音した時期は、チックがマイルス・バンドに参加していて、アグレッシヴでエモーショナルなローズをブイブイ弾き回していた頃。この盤は「チックの考えるエレ・マイルス」だと評価した訳だが、まだ、このセッションでの未収録曲があった。

Chick Corea『Sundance』(写真)。1969年5月11–13日の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Hubert Laws (fl, piccolo-fl), Bennie Maupin (ts), Woody Shaw (tp), Dave Holland (b), Jack De Johnette (ds), Horace Arnold (ds)。 『Is』と同一セッションなので、当然、パーソネルも『Is』と同じ。リリースはさすがに『Is』から、2年8ヶ月後、1972年2月のリリースである。

『Is』でもそうだったが、ウディ・ショウ~ベニー・モウピン~ヒューバート・ロウズ、トランペット〜サックス〜フルートというフロントがチックらしい選択だろう。特に、ロウズのフルートを持って来たところに、後の「ユートピア・サウンド」へのアプローチを感じる。この辺りが、エレ・マイルスの「ファンク志向」とは異なるところ。

ホランドのベースとデジョネットのドラムが効いている。リズム&ビートは「ロスト・セッション」の頃のエレ・マイルスのリズム&ビート。そのビートをコリア流にアレンジして活用しているのが、この『Sundance』の音志向。そこに、エレ・マイルスの下でのエレピでは無く、アコピでチック流のエレ・マイルスを展開し尽くした。そんな音世界がこの盤に渦巻いている。
 

Chick-coreasundance

 
エレ・マイルスの「ファンク志向」を避けているところがチックの良い深慮遠謀。冒頭「The Brain」は限りなく自由度の高いビ・バップの様であり、2曲目「Song of Wind」は、限りなく自由度の高い新主流派の様であり、ラストのタイトル曲「Sundance」こそは、実にチックらしい、モーダルでキャッチャーな曲想で、後の「Return to Forever」を彷彿とさせる。

3曲目の「Converge」は完全なフリー・ジャズ。マイルスが絶対に手を出さなかったフリー・ジャズなんだが、ここでは、チックの考える「エレ・マイルスによるフリー・ジャズ」が感じられる。リズム&ビートによる約束事をベースに、集団即興演奏を展開する。

マイルスの嫌う、無手勝流の勝手気ままなフリー・ジャズでは無い。どこか、ビートによる規律が感じられるフリー・ジャズ。エレ・マイルスの手法をフリー・ジャズに応用して、チック流のフリー・ジャズを展開している様に聴こえる。

「エレ・チック」の根っこには、しっかりと「エレ・マイルス」がいるんやなあ、と妙に感心してしまう。しかも、この盤は「チック流のエレ・マイルス」。チックの音志向をエレ・マイルスの手法に落とし込み、チックの音志向を前面に押し出した「チック流のエレ・マイルス」。

そして、チック流のフリー・ジャズの基本的考え方がこの盤の「Converge」で取り纏められている。そして、この「基本的考え方」が、次のチックの展開である「サークル」で花開くのである。
 
 

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2022年11月10日 (木曜日)

ランディの素晴らしいライヴ音源

2022年11月5日のブログ「マイケルの素晴らしいライヴ音源」でご紹介した、弟マイケル・ブレッカーのライヴ音源と同一日、同じジャズフェスでの兄貴のランディ・ブレッカーのライブ音源がある。同一日なので、一日で、ブレッカー兄弟それぞれのバンドのライヴが聴けた訳か。ええなあ。

Randy Brecker『Live at Fabrik Hamburg 1987』(写真)。1987年10月18日、The Jazzfestival Hamburgでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Randy Brecker (tp), Bob Berg (sax), Dieter Ilg (b), David Kikoski (p), Joey Baron (ds)。ハンブルグ・ジャズフェスにて、ランディ・ブレッカーバンドを率いて演奏した折の未発表ライヴ音源。

演奏にクインテットを選んだのは、ホレス・シルヴァーを意識した、とのこと。確かに、ネオ・ファンキー・ジャズと呼んで良い位に、とても洗練された、とてもお洒落でテクニカルなファンキー・ジャズが展開されている。どこか、当時のエレ・マイルスのジャズ・ファンクを判り易い演奏にリコンパイルし、ポップに味付けした様な、エレ・マイルスにインスパイアされた印象を持つのは僕だけかなあ。
 

Randy-breckerlive-at-fabrik-hamburg-1987

 
ただし、ランディはトランペッター。エレ・マイルスの影響をそのまま出したら、マイルスの物真似に聴かれると困る。そこで、一捻りして、ファンクネスの表現の部分はシルヴァーのファンクネス表現をリニューアルし、新しいファンキー・ジャズの雰囲気に乗って、マイルスを口語体に直した様な、判り易いポップなフレーズを吹きまくる。これは良い。これは聴かせるファンキー・ジャズだ。

メンバーも厳選されている。特に、サックスは、エレ・マイルスを経験しているボブ・バーグが担当していて、ストレートでファンキーなサックスを吹きまくっている。キコスキーのピアノはファンキーな弾きこなしで切れ味抜群。ブレイキー、ミンガス、シルバー、モンクら、ジャズのレジェンドへの敬意に満ちた、ストレート・アヘッドな、軽快なファクネス溢れる展開は効き応え抜群。

ランディ・バンド、マイケル・バンド、メンバーも音志向も異なるんですが、演奏の音の「底」はしっかり繋がっているなあ、と改めて感心。特に、ストレート・アヘッドなランディのトランペットが秀逸。確かに、ランディのトランペットは純ジャズの系譜でも一流でした。今回のライヴ盤を聴いて再認識しました。
 
 

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2022年11月 7日 (月曜日)

傑作ライヴ盤『8:30』を聴き直す

このライヴ盤は売れた。内容的にも充実している。ウェザー・リポートのメンバーが、やっと、テナー・サックスのワンホーンに、キーボード+ベース+ドラムのリズム・セクションの4人について、最適のメンバーが顔を揃え、最適なメンバーで固定された記念すべきライヴ盤である。

Weather Report『8:30』(写真)。1979年のリリース。ちなみにパーソネルは、Joe Zawinul (key), Wayne Shorter (ts,ss), Jaco Pastorius (el-b), Peter Erskine (ds)。 ほとんどの曲がザヴィヌル作であり、大ヒットアルバム『Heavy Weather』の人気曲をメインに、他のアルバムから、同傾向の音志向の人気曲が選曲されている。WRが一番、フュージョン・ジャズに接近したライヴ盤である。

このライヴ盤は売れた。選曲は『Heavy Weather』と他のアルバムの人気曲が選ばれており、ポップでキャッチャーな楽曲ばかりが並んでいる。そりゃ〜当時は売れただろうな、と思う。しかし、今の耳で聴き直せば、ジャズとしての即興演奏の妙は、ジャコのベース・ソロ曲と、ショーターのサックス・ソロ曲だけに留まっていて、他の楽曲は既定路線に乗った、金太郎飴の様な聴き馴れたアレンジで統一されている。

前作の『Mr,Gone』からの選曲は全く無く、如何に前作がセールス的に「問題作」だったかが窺い知れる。が、このライヴ盤で、このライヴ盤『8:30』をジャズの範疇に留めているのは、ジャコのベースとアースキンのドラムである。このライブ盤の全編に渡って、この二人のリズム&ビートは半端ない。それまでのWRの人気曲に躍動感を与え、ジャジーな自由度を拡げている。どの曲もオリジナルよりもテンポが速く、ベースラインもドラミングも複雑極まりない。
 

Wr-830

 
加えて、何時になく、ショーターがサックスを吹きまくっている。吹きまくり、とはこのこと。しかも、誰にも真似できない、ショーターならではの宇宙人的に捻れたフレーズが満載。どの収録曲もザヴィヌルの楽曲で、ショーターの音志向である「エスニック&ミステリアス」な音は希薄でありながら、である。恐らく、ジャコとアースキンのリズム隊の「賜物」だろうと思う。ジャコとアースキンが、ショーターの「ジャズ魂」に火を付けたのだ。

一方、ザヴィヌルのキーボードは安全運転、というか、聴き馴れたフレーズばかりで、可も無く不可も無く。まるでスタジオ録音の演奏を聴いているようだ。せっかくのライブ音源なのに、もっと自由度を拡げて、もっと魅力的なフレーズを弾きまくって欲しかった。

なお、LP時代のD面のスタジオ録音については、発売当時、1980年代のジャズを予言するものとして、持てはやされたものだが、今の耳で聴くと、完成度は「道半ば」、ブラッシュアップ中の未完な雰囲気が漂っていて、僕はあまり評価していない。これをLP時代のLP2枚目のD面に入れるのなら、他の曲のライヴ音源を追加して欲しかった。今となっては、このLP時代のD面の存在意義が良く判らなくなっている。

ショーターとジャコ、アースキン。この3人の卓越したテクニックの下、ジャジーで自由度の高い、変幻自在な演奏が、このライヴ盤を「ジャズ」の範疇に留め、未だ、エレ・ジャズの傑作ライヴ盤の1枚としての評価を維持しているのだ。
 
 

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2022年11月 6日 (日曜日)

今の耳で『Mr.Gone』を聴き直し

Weather Report(ウェザー・リポート)というバンドについて、その本質となる音の志向はなんだったんだろう、と思うことがある。レコード会社の意向の翻弄されて、売らなければならないというプレッシャーの中では、なかなか、その本質となる音の志向を、バンドのメンバーが思うとおりに追求するのは、なかなか難しかったと思われる。

Weather Report『Mr.Gone』(写真左)。1978年の作品。ちなみにパーソネルは、Joe Zawinul (key, syn), Wayne Jaco Pastorius (b, ds (tracks 1,2))。アディショナル・メンバーとして、Peter Erskine (ds (tracks 1 and 7), Tony Williams (ds (tracks 5 and 6)), Steve Gadd (ds (tracks 3 and 8)), Manolo Badrena, Jon Lucien (vo (track 1)), Deniece Williams, Maurice White (vo (track 8))。

ザヴィヌルとジャコの双頭プロデュース。音の志向としては、ジャコ主導のプロデュースで、この盤は成立している。というのも、このアルバム、それまでのWRの音志向とは全く異なるもので、アーティスティックな雰囲気に彩られた、エスニックでアーシーで、ワールド・ミュージック的な音世界。前作のヒット・アルバム『Heavy Weather』のポップでフュージョンな音世界の微塵も無い。

しかしながら、このジャコの音志向が、WRのバンドとしての本質な音志向のひとつにヒットしているのだから面白い。エスニックで呪術的で限りなく自由度の高いモード・ジャズの音世界。これが、もともと、ザヴィヌルとショーターとヴィトウスが描いていた「WRの音世界」のひとつである。ザヴィヌル、ショーター抜きのジャコ主導のプロデュースで、この音世界が表現された訳だから、ジャコのプロデュースの才能は凄い。

よくこんな「ジャコの冒険」をザヴィヌルが許したもんだと感心する。冒頭の「Pursuit of the Woman With the Feathered Hat(貴婦人の追跡)」を聴くだけで判る。このアルバムが、ジョー・ザビヌルのものでないことを。ボーカルの使い方、キーボードの重ね方、サックスの使い方、どれをとっても「ザヴィヌルの音」では無い。これは「ジャコの音」である。
 

Wrmrgone

 
面白いのは、この「ジャコの音」に乗って、ショーターがサックスを喜々として吹いているところ。ジャコのエスニックで呪術的な音志向が、ショーターのサックスの音志向にバッチリ合うのだろう。この盤で、ショーターは、メインストリーム志向の、実に魅力的なモーダルなフレーズを連発する。そして、このショーターのサックスが、この盤を「メインストリームな純ジャズ」志向の音世界に染め上げている。

ジャコのベースは大活躍。とりわけ、6曲目のジャコ作『Punk Jazz』が凄い。ザビヌルも、ポリフォニック・シンセで真っ向から応戦しているのだが、あまりにもジャコのインプロビゼーションが凄すぎて、他のメンバーが目立たなくなるほど。凄まじきジャコのエレベである。他の曲でも凄まじき、自由度の高い、ファンキービートの効いたエレベの乱舞。

WRは、この盤で、唯一、WRの音志向に合致したドラマー、ピーター・アースキンに出会う。ちなみにこの盤では、まだドラマーは固定されていない。苦し紛れにトニー・ウィリアムスを持って来たり、スティーヴ・ガッドを持って来たり、果ては、またまた、ジャコ自身がドラムを叩いたりしている。しかし、今の耳で聴くと、アースキンのドラムが一番、WRの音世界にフィットしている。

僕はこの『Mr.Gone』の音世界が大好きだ。でも、リリースされた当時は、評論家筋の評価は全く思わしく無かった。でも、今の耳で聴いても、この『Mr.Gone』の音世界は、Weather Reportのアルバムの中でもトップクラスである。当時、何故、あんなに評価が低かったのかが理解しかねる。この盤は、歴史的な成果を誇る、WRの代表作の1枚である。
 
 

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