Tangerine Dreamの最終到達点
1980年代に入って、ほとんどのロック・グループ、ロック・ミュージシャンは、デジタルの壁に苦しんだ。アナログ録音、アナログ機材とは全くと言って良いほど勝手の違う、デジタル録音、デジタル機材の扱いに大苦戦。
音が薄くなったり、音のエッジが立ちすぎでケバケバの音になったり、軽薄短小な音の傾向に陥ったり、高音しゃりしゃりの腰の高い据わりの悪い音になったり、とにかく、簡単に言って音が悪い。ペラペラのスッカスカの音に陥ったバンドは数知れず。
そんな中、デジタルの壁に全く苦しまず、瞬時の内にデジタル録音、デジタル機材を押さえ込み、アナログ時代と変わらない音作りをする、逆にデジタルならではの音作りをしっかりと会得するバンドもあった。例えば、このTangerine Dream(タンジェリン・ドリーム)はその好例である。
このアルバム『White Eagle』(写真)を聴けば、それが良く判る。この『White Eagle』は1982年のリリース。1982年と言えば、ほとんどのロック・グループ、ロック・ミュージシャンが、デジタルの壁に苦しんでいた頃。特に、エレクトロニカ、アンビエントの先駆だったタンジェリン・ドリームはさぞかし苦しんでいるだろうと、最初、このアルバムを聴くのが憚られた。
エレクトロニカ、アンビエントなロックと言えば、シンセサイザーとシーケンサーが主役。シーケンサーはともかく、シンセサイザーはアナログとデジタルでは、音の差が天と地ほどある。音の質も響きも拡がりも全く違う。1970年代のアナログチックなアルバムとは全く違う音になってしまうはずである。
が、この『White Eagle』の音を聴けば、音のコンセプトは1970年代のアナログ時代の音と全く変わっていないことが良く判る。確かに、音のエッジはアナログよりも立っているし、音の抜けは明らかに良い。音の傾向は明るく、音の分離が凄く良いのだが、音の基本はアナログ時代の音の基本をしっかりとキープしている。これには本当に感心した。
ドイツのシンセサイザーエンジニアであるヴォルフガング・パームがカスタムメイドしたプロトタイプのPPGシンセサイザーの音が決め手。デジタル方式のシンセでありながら、デジタル臭さを極力押さえ込んだ、このPPGシンセサイザーの存在が、1980年代のタンジェリン・ドリームを支えている。
タンジェリン・ドリームの音はデジタルの時代になって、透明度とリリカルさが増している。この『White Eagle』の音も全編、透明感のある抜けの良い音とリリカルな音の響きが中心。透明度とリリカルさが相まって、叙情性が強調されている。
もはやロック・ミュージックというよりはアンビエント・ミュージックとして、ロック色がかなり減退している。まあ、それでも、シーケンサー自体がロックしているんで、この『White Eagle』も、辛うじて、シンセサイザー・ロックに留まっている。
展開されるフレーズは、1970年代後半に培ってきた独特のフレーズ回し。さすがにこの『White Eagle』に至っては、成熟の頂点と言って良い程の、タンジェリン・ドリーム独特のフレーズ回しが満載。ほとんどマンネリズムと隣り合わせ、マンネリズムと紙一重の音世界となっている。
そういう意味で、この『White Eagle』は、エレクトロニカ、アンビエントなロックとして、タンジェリン・ドリームの頂点、最終到達点を記したアルバムと言って良いと思う。ノイジーな電子音楽がベースの現代音楽の様な初期の音世界から、どんどんポップになっていって、デジタル機材に出会って、タンジェリン・ドリームはその個性的な音を完結させた。
その瞬間の記録がこの『White Eagle』だろう。シンセサイザー・ミュージックの好きな人には必聴のアルバムの一枚です。
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