2024年10月 6日 (日曜日)

ブラウニーのジャム・セッション

ブラウン~ローチ・クインテットの始動後、『Clifford Brown & Max Roach』と『Brown and Roach Incorporated』の直後、同一日、同一メンバーでのジャム・セッションの『Clifford Brown All Stars』と『Best Coast Jazz』は、ブラウニー(クリフォード・ブラウンの愛称)にとって、1954年8月のロスでの、怒涛の「名演の録音月間」の成果であった。

Clifford Brown『Jam Session』(写真)。1954年8月14日、ロスでのライヴ録音。1954年のリリース。ちなみにパーソネルは、Clifford Brown, Maynard Ferguson, Clark Terry (tp), Herb Geller (as, tracks 1, 3 & 4), Harold Land (ts), Junior Mance (p, tracks 1, 3 & 4), Richie Powell (p, track 2), Keter Betts, George Morrow (b), Max Roach (ds), Dinah Washington (vo, track 2) 。

ブラウニーの短い活動期間の中、この怒涛の「名演の録音月間」である1954年8月。『Best Coast Jazz』は、名演の録音月間」でのライヴ録音である。演奏形式は、トランペット3管、アルト・サックス1管、テナー・サックス1管、そして、ピアノ・トリオのリズム隊。ゲストに1曲だけ、女性ボーカルが入る「ジャム・セッション」形式。

ブラウニーはジャム・セッションに強い。相当なテクニックと音の大きさで相手を圧倒しようとするのでは無く、相手の音をしっかり聴きつつ、相手の音に呼応し、相手の優れたパフォーマンスを引き出す様な、リードする様なパフォーマンスを繰り広げる。
 

Clifford-brownjam-session

 
よって、ブラウニーとジャム・セッションに勤しむフロント管は、皆、活き活きと優れたパフォーマンスを披露する。そんなブラウニーのジャム・セッションの「流儀」が脈々と感じ取れる、内容の濃いジャム・セッションの記録である。ちなみに、このライヴ盤の音源は、Dinah Washington『Dinah Jams』と、同一日、同一メンバーでのライヴ・セッション。

この盤では、ブラウニーのトランペットが絶好調なのはもちろん、トランペットのファーガソン、クラーク、そして、アルト・サックスのゲラー、テナー・サックスのランド、皆、ブラウニーの素晴らしいパフォーマンスに引きずられて、素晴らしいパフォーマンスを繰り広げている。

そして、このジャム・セッションは、米国ウエストコースと・ジャズのメンバーがメインでのジャム・セッションで、東海岸と比べると、どこかアレンジが整っていて、アドリブ展開のブロウ爽快感抜群なのが特徴。そんなどこか爽快なジャム・セッションの中で、ブラウニーは自由闊達にトランペットを吹きまくる。

ダイナ・ワシントンがボーカルを取る2曲目のスローバラード「Darn That Dream」も絶品。このライヴ盤は、ウエストコースト・ジャズ全盛期の、優れたジャム・セッションの記録。しかし、よくライヴ録音をし、よくアルバム・リリースしましたね。エマーシー・レコードのお手柄です。
 
 

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2024年10月 5日 (土曜日)

好盤 ”Clifford Brown All Stars”

関東地方はやっと涼しくなってきた。最高気温23〜25度の日もあれば、30度に届く日もあるが、連日35度前後という酷暑の毎日からすると、グッと涼しくなった。これだけ、涼しくなってきたら、連日、耳を傾けるジャズも、耳当りの良い爽やかなもの一辺倒から、熱気溢れるハードバップものに変わってくる。

『Clifford Brown All Stars』(写真)。1954年8月11日、ロスでの録音。ちなみにパーソネルは、Clifford Brown (tp), Herb Geller, Joe Maini (as), Walter Benton (ts), Kenny Drew (p), Curtis Counce (b), Max Roach (ds)。1954年の録音だが、ブラウニー(クリフォード・ブラウンの愛称)の急死後、1956年にEmArcyレーベルからリリースされた未発表音源。

ブラウン~ローチ・クインテットの始動後、『Clifford Brown & Max Roach』『Brown and Roach Incorporated』の直後、『Best Coast Jazz』と同一日、同一メンバーでのジャム・セッション。この後の『Best Coast Jazz』のライヴ録音を含め、1954年8月のロスでの、怒涛の「名演の録音月間」である。
 

Clifford-brown-all-stars

 
当然、ブラウニーのトランペットのパフォーマンスは素晴らしいの一言に尽きる。何かに取り憑かれたかの様に、高速フレーズをいとも容易く吹きまくるブラウニーは迫力満点。これだけ高速なフレーズを連発しつつも、余裕ある雰囲気が伝わってくる。どれだけテクニックに優れ、どれだけ強力な肺活量なんだろう。とにかく「凄い」の一言に尽きる。疾走する「Caravan」、歌心溢れる「Autumn in New York」。この2曲だけでも、聴いていて惚れ惚れする。

米国ウエストコースト・ジャズにおける一流どころが集っているので、フロントを分担するアルト&テナー・サックスのパフォーマンスも、最高とは言えないまでも、そこそこ充実したブロウを披露している。厳しい評価をする向きもあるが、ブラウニーのパフォーマンスと比較すること自体、ちょっと乱暴な気がする。アルト&テナー、意外と健闘しています。

リズム・セクションは「充実&安定」の一言。ブラウニーのかっ飛ぶトランペットをしっかり支え、しっかりとリズム&ビートを供給していて立派。当時の米国ウエストコースト・ジャズにおけるハードバップなジャム・セッションの記録として、しっかりとした内容の好盤だと思います。
 
 

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2024年9月18日 (水曜日)

ナットのエレ・ジャズ・ファンク

9月も半ばを過ぎたというのに「暑い」毎日である。熱中症を警戒の「引き篭もり」の日々がまだ継続中。確実に運動不足になりつつあるのでが、これはこれで仕方がない。涼しくなったら、せっせとウォーキングをしてリカバリーする予定。

「引き篭もり」の部屋の中で聴くジャズ。硬派な純ジャズをメインに聴き続けてきたら、流石に「飽きてきた」。ふっと思い出したのが「CTIジャズ」。純ジャズの耳安めに、8月中は「ボサノバ・ジャズ」を聴いていたが、9月に入って、流石にボサノバでもないよな、ということで止めた。そう、9月の純ジャズの耳休めは「CTIジャズ」である。

Nat Adderley『You, Baby』(写真)。1968年3, 4月、Van Gelder Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Nat Adderley (cornet), Jerome Richardson (ss, fl), Joe Zawinul (el-p), Ron Carter (b), Grady Tate (ds) が演奏のメインのクインテット。ナットのトランペットとリチャードソンのソプラノ&フルートがフロント2管。

そこに、以下の伴奏隊がつく。Harvey Estrin, Romeo Penque, Joe Soldo (fl), George Marge (fl, oboe), Al Brown, Selwart Clarke, Bernard Zaslav (viola), Charles McCracken, George Ricci, Alan Shulman (cello), Bill Fischer (arr, cond)。フルートが大活躍、オーボエの独特な音色、弦はチェロとヴィオラだけのユニークな編成。

聴いてズバリ、CTIサウンドによる「エレクトリック・ジャズ・ファンク」である。イージーリスニング志向でありながら、甘いサウンドでは無い。意外と硬派でしっかりと趣味の良いビートの効いたソフト&メロウなジャズ・ファンクである。
 

Nat-adderleyyou-baby

 
そんなビートの効いたソフト&メロウなジャズ・ファンクな雰囲気の中で、ナットの繊細で流麗な電気コルネットが、ファンクネスを漂わせながら、ソウルフルなフレーズを奏でていく。バリバリと吹くのでは無い、繊細に流麗にリリカルに電気コルネットを吹き上げる。このナットのコルネットのプレイが印象的。

エレピを担当するのは、ジョー・ザヴィヌル。ナットとは、兄のキャノンボールのバンドで一緒だったが「犬猿の
仲」だったらしい。しかし、この盤では、ザヴィヌルの流麗で耽美的でファンキーなエレピが実に良い雰囲気を醸し出している。このザヴィヌルのエレピの音色とフレーズが、この盤の「趣味の良いビートの効いたソフト&メロウなジャズ・ファンク」の音作りを決定付けている。

収録されたどの曲も「趣味の良いビートの効いたソフト&メロウなジャズ・ファンク」として良い雰囲気を醸し出しているが、2曲目のカントリーのヒット曲「By the Time I Get to Phoenix」や、3曲目のナット作「Electric Eel」や、4曲目のザヴィヌル作の「Early Chanson」辺りは聴き応え十分。

8曲目の「New Orleans」は、ソウルフルな演奏が印象的。9曲目「Hang On In」は8ビートの流麗なバラード、そして、ラストの「Halftime」は、マーチングを融合させたジャズ・ファンクで大団円。

ナットの吹くセルマー社の電化コルネットが実に効果的に響く、CTIの「エレクトリック・ジャズ・ファンク」の佳作の一枚。内容的に硬派なジャズ・ファンクなので、「スピーカーに対峙してジックリ聴き込む」にも十分に耐える好盤です。
 
 

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2024年9月 7日 (土曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・28

今日で「僕なりのジャズ超名盤研究」シリーズの三日連続の記事化。小川隆夫さん著の『ジャズ超名盤研究』の超名盤を参考にさせていただきつつ、「僕なりのジャズ超名盤研究」をまとめてみようと思い立って、はや2年。やっと第1巻の終わりに差し掛かってきた。

Lee Morgan『The Sidewinder』(写真左)。1963年12月21日の録音。ブルーノートの4157番。ちなみにパーソネルは、Lee Morgan (tp), Joe Henderson (ts), Barry Harris (p), Bob Cranshaw (b), Billy Higgins (ds)。リリース当時、ビルボード・チャートで最高25位を記録し、ブルーノート・レーベル空前のヒット盤となった。ジャズ史上においても、屈指のヒット盤である。

この盤も、僕がジャズ者初心者の頃、よく聴いた。なんせ、冒頭のタイトル曲「The Sidewinder」が、8ビート・ジャズで格好良いのなんのって。この曲が、8ビートを取り入れた「ジャズロック」の走りで、「実はブルースなんだが、8ビートに乗っているので、スピード感溢れる切れの良いブルースに仕上がった」という逸話を知ったのは、ジャズを聴き始めて10年くらい経ってから。

ただ、この盤、冒頭の「The Sidewinder」が、8ビートのジャズロックなブルースだからといって、全編、ジャズロックのオンパレードかと思いきや、それが違うのだからややこしい。この盤の評論にも「この盤は、いち早くロックのリズムを取り入れ、それに成功したジャズ盤」と堂々と書いているものもあるが、これって、2局目以降の演奏を聴かずに書いたとしか思えない。
 

Thesidewinder_1

 
ジャズ者初心者にとって、この盤を全編8ビートの「ジャズロック」が満載だと勘違いすると、この盤は辛い。2局目以降は、2曲目以降、4ビートの曲もあるし、6拍子の曲もあって、様々なリズム・アプローチを試みたハードバップ盤の様相で、この盤は「様々なリズム・アプローチを試みたファンキー・ジャズ盤」と言える。

加えて、トランペットのモーガン、テナーのジョーヘン、共にアドリブ展開は「モード」を基本として、吹きまくっている。それぞれ、モーガンなりのモード展開、ジョーヘンなりのモード展開で、疾走感溢れるアドリブ・フレーズを吹きまくっていて、それまでのコードがメインのハードバップとは、音やフレーズの響きが全く異なる。当時としては、新鮮な響きを宿した、新しいハードバップとして捉えられていたのではなかろうか。

よって、この盤、キャッチャーでポップな、冒頭のジャズロック曲「The Sidewinder」に惑わされがちだが、ジャズ者初心者の入門盤としては、ちょっと難易度が高いと思う。

逆に、ジャズを聴き始めて、ジャズに興味が湧いて、様々なスタイルのジャズを聴いてみたいと思った時に、様々なビートに乗った、聴きやすい「モード・ジャズ」を体験するには最適の盤だと思う。特に、8ビートに乗った「モード・ジャズ」は、聴いていて「モード」をとても理解し易いと僕は思う。

ジャズロックを始めとした「様々なリズム・アプローチを試みたファンキー・ジャズ盤」として、この盤は内容充実であり、そういう切り口でこの盤は、ジャズの「超名盤」だと言える。ゆめゆめ、ジャズロック曲「The Sidewinder」が入っているから「超名盤」だとは解釈しないで欲しい。それだけ、この盤、ジャズロック曲「The Sidewinder」以外が充実しているのだ。
 
 

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2024年7月31日 (水曜日)

ピアノ + ペット + ビッグバンド

ここ2〜3年、エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)が元気である。自らのリーダー作から、共演作含めて、「毎月、何かしらのアルバムをリリースしている」印象の多作ぶりである。

1949年12月5日、ローマでの生まれなので、 現在、年齢 74歳。もうベテランの域を超えて、レジェンドの域に達した、伊ジャズの至宝、欧州ジャズ・ピアニストの代表格なのだが、とにかく「多作」。しかも、その内容はどれもが水準以上。というか、優れた内容のものばかりで、ピエラヌンツィの力量・ポテンシャルや恐るべし、である。

Enrico Pieranunzi『Chet Remembered』(写真左)。2022年9月5-8日、"Hörfunkstudio il, Hessischer Rundfunk, Frankfurt am Main" での録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Bert Joris (tp), Frankfurt Radio Big Band。

伊ジャズ・ピアノの第一人者、エンリコ・ピエラヌンツィと、欧州最高峰とも形容されるベルギーの名トランぺッター、バート・ヨリスとの共演盤。2021年作品の『アフターグロウ』が二人の初共演盤だったので、今回のアルバムはヨリスとの再会セッションになる。

ピエラヌンツィは1979年にチェット・ベイカーと出会い、多くのコンサートやレコーディング・セッション実績を残している。今回のアルバムは、そんなウェストコースト・ジャズを代表するトランぺッター&ヴォーカリストの偉人チェット・ベイカーに対するトリビュート・プログラムを収録している。
 

Enrico-pieranunzichet-remembered

 
選曲は、ピエラヌンツィがチェットと共演した時期に、ピエラヌンツィが作曲した作品をメインに、今回、チェットのために新たに作曲した曲を含め、バート・ヨリスによる優れたビッグ・バンド・アレンジを基に録音されている。

このフランクフルト放送ビッグ・バンドの演奏がかなりの充実度の高さで、スイング感抜群、パンチ力十分に、ユニゾン&ハーモニー、チェイス、ソロ、高揚感溢れる豪快なパフォーマンスを展開する。一糸乱れぬ、呼吸がバッチリ合ったカラフルなホーン・アンサンブル、躍動感溢れソリッドでタイトなリズム・セクション。超一級のビッグバンド・サウンドが素晴らしい。

そんなビッグバンド・サウンドをバックに、ピエラヌンツィは気持ち良さそうに、躍動感溢れる、リリカルでバップなピアノを弾きまくる。ヨリスもエモーショナルでバイタル、切れ味の良いトランペットを吹きまくる。やはりヨリスのアレンジが優れているのだろう。ビッグ・バンド・サウンドをバックにしているが、ピエラヌンツィのピアノ、ヨリスのトランペットが、全面に出て映えに映える。

ピエラヌンツィのピアノ、ヨリスのトランペットの「良好なパフォーマンス」と、躍動感溢れる「ビッグバンドの醍醐味」と、上手くバランスをとった、良好な「ピアノ+トランペット」と超強力なビッグバンドとの傑作である。
 
 

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2024年6月26日 (水曜日)

良い雰囲気 ’The Heavy Hitters”

今年も、雑誌ジャズ批評の「オーディオ・ディスク大賞」にノミネートされたアルバムを聴く季節がやってきた。「オーディオ・ディスク大賞」は毎年、雑誌ジャズ批評の3月号に掲載されるもので、昨年度のジャズの新盤の振り返りになり、落穂拾いにもなる、ジャズ盤コレクターの我々にとって、とっても有難い記事である。

『The Heavy Hitters』(写真左)。2022年5月8, 9日、Rudy Van Gelderスタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Eric Alexander (ts), Vincent Herring (as), Jeremy Pelt (tp), Mike LeDonne (p), Peter Washington (b), Kenny Washington (ds), Guest: Rale Misic (g)。「The Heavy Hitters」は、この演奏ユニットの名前らしい。

アレキサンダーのテナー・サックス、ハーリングのアルト・サックス、ペルトのトランペットが3管フロントのセクステット編成(1曲だけギターがゲストで入る)。テナーのエリック・アレキサンダーは1990年代後半、我が国でもレコード会社がプッシュしていた時期があったが、あまり人気が出ず、いつの間にか忘れ去られた存在になっているが、米国東海岸では、コンスタントにリーダー作をリリースしている中堅ジャズマンである。
 

The-heavy-hitters

 
この盤でも、アレキサンダーのテナーは良い音を出している。そしてのフロントの相棒の一人、ヴィンセント・ハーリングのアルトもとても良い音を出している。フロント管で一番年下のペルトのトランペットもガッチリ健闘している。演奏内容、雰囲気は「ネオ・ハードバップ」。1960年代のハードバップを振り返ること無く、現代の感覚でハードバップ・フォーマットの演奏を展開している。

フロント3管の基本は「バップ」。ジャズの伝統にしっかり軸足を据えた「バップな吹き回し」をベースに、ブルージー&ジャジーなユニゾン&ハーモニー、流麗で聴かせるアレンジ、粋で鯔背なアドリブ・フレーズを基本とした「ネオ・ハードバップ」を展開している。現代のストレート・アヘッドな、モーダルな純ジャズ。ワシントン兄弟を擁したリズム・セクションも、明確に「現代のネオ・ハードバップ」らしい、リズム&ビートを叩き出していて立派だ。

フロント3管なので、どこか1960年代の3管フロント時代のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズを彷彿とさせる週間もあって(それでも出てくる「音」は新しい感覚なんだが)思わずニンマリ。良いメンバーが集ったのであろう、真摯で誠実な「ネオ・ハードバップ」な演奏が実に爽やか。耳にもたれない、正統派「ネオ・ハードバップ」な演奏集。好盤です。
 
 

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2024年6月18日 (火曜日)

日野皓正の名作『Daydream』

そろそろ、日野皓正の「渡米後」のフュージョン・ジャズからコンテンポラリー・ジャズについて、このブログでコメントせんとなあ、と最近、思い始めた。和フュージョン・ジャズを語る上では、日野皓正のフュージョン・ジャズ盤は避けて通れない。

日野皓正『Daydream』(写真左)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、日野皓正 (cor, flh), Dave Liebman (ts), John Tropea (g), Bob James (key), Anthony Jackson (b), Steve Gadd (ds), Nana Vasconcelos (perc), 菊地雅章 (key), Leon Pendarvis (key, arr) and more。日野皓正の渡米後、フュージョン・ジャズ盤の第二弾。

日本制作のNYフュージョンの名作とされる。が、和フュージョンとは、内容と雰囲気が異なる。この『Daydream』、前作の『City Connection』同様、どこから聴いても、米国東海岸フュージョン・ジャズの内容と雰囲気。「和」な雰囲気は無い。パーソネルも、米国東海岸フュージョンの人気ジャズマンが大集合。当然、出てくるリズム&ビートは「米国東海岸フュージョン」。
 

Daydream

 
演奏される曲は、どれもが前作の『City Connection』と同じ雰囲気の演奏とアレンジ。この『Daydream』は、前作『City Connection』と併せて、一気聴きした方が違和感がない。というか、この『Daydream』で、日野の「アーバンで洗練された」米国東海岸フュージョンは成熟している。

冒頭「Still Be Bop」はリズム隊の叩き出す、切れ味の良いバップなリズム&ビートが印象的。そして、続く「Late Summer」は、ミディアム・スローな、絶品のバラード曲。これ、雰囲気抜群。ボブ・ジェームスの印象的なアコピが実に良い。そして、サントリーのウィスキーのCM曲だった軽快なカリプソ・ナンバーは、5曲目「Antigua Boy(アンティーガ・ボーイ)」。

他の曲も出来は良く、米国東海岸フュージョン・ジャズの名作の一枚としても良いかと思う。完全に米国東海岸フュージョンに同化した日野皓正。次なるアルバムはどうするんだろう、と、当時、ちょっぴり不安になったことを思い出した。
 
 

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2024年6月14日 (金曜日)

1966年のドナルド・バード

ドナルド・バードは「機を見て敏なる」トランペッターだった。トランペッターとして、テクニックは優秀、端正でブリリアントで理知的な吹奏。破綻無く、激情に駆られて吹きまくることなく、理知的な自己コントロールの下、常に水準以上のバップなトランペットを吹き上げる。

そんなドナルド・バード、ハードバップ初期の頭角を表し、ハードバップの優れた内容のリーダー作を幾枚もリリース、その後、ファンキー・ジャズに手を染め、モード・ジャズにもチャレンジする。そうこうしているうちに、ジャズロック、ソウル・ジャズに移行し、最終的にはジャズ・ファンクを推し進める。常に時代毎のジャズのトレンド、流行を敏感に察知して、その音志向を変化、転化させていった。

Donald Byrd『Mustang!』(写真左)。1966年6月24日の録音(ボートラは除く)。ブルーノートの4238番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as), Hank Mobley (ts), McCoy Tyner (p), Walter Booker (b), Freddie Waits (ds)。リーダーのバードのトランペットと、珍しいソニー・レッドのアルト・サックス、そして、モブレーのテナー・サックスの3管フロントのセクステット編成。

録音年は1966年。ジャズの多様化が進み、ビートルズのアメリカ公演後、大衆音楽としてジャズが下降線を辿り出した頃である。冒頭のタイトル曲「Mustang」はジャズ・ロック。当時、ヒットしたらしい。パーソネルを見渡すと、ハードバップど真ん中からモード・ジャズが得意なメンバーだが、なかなかノリの良いジャズ・ロックをかましている。ソニー・レッドの作曲とはちょっと驚く。

ジャケの雰囲気からして、この盤、ジャズ・ロック集か、と思いきや、2曲目からは、硬派でメインストリームな純ジャズが展開されている。2曲目の「Fly Little Bird Fly」は、出だしからマッコイ・タイナーのピアノが、バンド演奏全体を牽引するスピード感溢れる演奏。
 

Donald-byrdmustang

 
3曲目の「I Got It Bad And That Ain't Good」はスタンダード曲。タイナーのピアノが美しいフレーズを弾き進めていて立派。タイナーの優れたバッキングの下、ドナルド・バードのトランペット、ハンク・モブレーのテナー・サックスが、美しく味わい深くリリカルなバラード・フレーズを吹き上げていく。やはり、なんといっても、タイナーのピアノが素晴らしい。

以降、LPのB面の1曲目、CDでは4曲めの「Dixie Lee」は、再び、こってこてのジャズ・ロック。こちらは、ドナルド・バードの作曲。ノリの良いキャッチーなフレーズの連発で、思わず、足が動き、体が揺れる。俗っぽいが、聴いて楽しいジャズ・ロック。

続く「On The Trail」は、グローフェの「グランド・キャニオン組曲」の中の1曲で、スタンダード化された秀曲。ユニゾン&ハーモニー、コール・アンド・レスポンスにチェイス、小粋でセンスの良い3管フロントのパフォーマンスが良い。特にレッドとモブレーが元気に飛ばしまくっているのが印象的。

ラストは「I'm So Excited By You」で、明確にストレート・アヘッドなハードバップ・チューン。このハードバップな、流麗な演奏を聴いていると、ハードバップな演奏って、この時点では既に洗練し尽くされ、極められ尽くされた感を強く感じる。

改めて、この盤を振り返ってみると、1966年という録音年で、ジャズ・ロックと洗練されたハードバップのカップリングな内容というのが面白い。ハードバップな演奏には、ファンキー・ジャズな雰囲気は見え隠れするが、モード・ジャズは影も形もない。まあ、このパーソネルだと、タイナー以外、モーダルな演奏は苦手そうなんで、この演奏構成が一番フィットしたんだろう。

今の耳で聴いて、単純に楽しく聴ける佳作だと思う。難しいことを考えずに「古き良きジャズを感じることが出来る」好盤です。
 
 

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2024年5月26日 (日曜日)

D・バードの活動前期の名盤です

ドナルド・バードは、ジャズ・トランペットのレジェンド。バードのトランペットは、端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か、ジャズ・トランペットの教科書の様なパフォーマンスが個性。

この端正で流麗で「教科書の様なパフォーマンス」が良くないらしく、我が国では、ドナルド・バードの人気はイマイチ。綺麗すぎる、うますぎる、破綻がなくて面白くない、と、何だか、ピアノのピーターソンが、我が国で人気がイマイチな理由と同じ。

しかし、僕は、この偏った評価は以前から「疑問」である。ブラウニーもそうじゃないか、と思うのだが、ブラウニーは早逝した悲劇のトランペッターだから良いのだそうだ。偏った評価も甚だしい(笑)。

Donald Byrd 『Free Form』(写真左)。1961年12月11日の録音。ブルーノートの4118番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Butch Warren (b), Billy Higgins (ds)。リーダーのドナルド・バードのトランペットとウェイン・ショーターのテナーが2管フロントのクインテット編成。バックのリズム隊は、ハービー・ハンコックをピアノに、新主流派志向。

この盤は、ジャズロックなファンキー・チューンから、静的でジャジーなバラードから、バリバリ硬派なハードバップから、新主流派モード・ジャズから、ライトなフリー・ジャズまで、それまでのメインストリームなジャズの演奏スタイルを網羅した、バラエティーに富んだ内容になっている。
 

Donald-byrd-free-form

 
そんなバラエティーに富んだ演奏スタイルを、ドナルド・バードは、いともたやすく、しっかりと吹き分けていく。しかも、どのスタイルでも「端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か、ジャズ・トランペットの教科書の様なパフォーマンス」は変わらない。ドナルド・バードのトランペットの力量とテクニックの高さがよく判る。

バックの新主流派志向のメンバーは、といえば、このドナルド・バードのリーダー作の「それまでのメインストリームなジャズの演奏スタイルを網羅した、バラエティーに富んだ内容」にしっかりと追従している。

感心するのは、新主流派志向のメンバーなので、ジャズロックだろうが、硬派なハードバップだろうが、どの演奏のアドリブ部では、モーダルな演奏に走りそうなものだが、そんな無粋なことは絶対にしない。どの演奏スタイルでも、その演奏スタイルならではのパフォーマンスで、リーダーのドナルド・バードのトランペットに追従している。さすが、若手の中でも一流の「選りすぐり」のメンバーである。

特に、フロント管の相棒、若きウェイン・ショーターのテナーが絶好調。どの演奏スタイルでも吹きこなす適応力はさすが。得手不得手の差は全く感じられない。そして、どの演奏スタイルでも、統一の個性で演奏スタイルを弾き分ける、伴奏ピアノの達人の面目躍如、ハービー・ハンコックのバッキングが素晴らしい。どの演奏スタイルでも、的確で、フロントを引き立てる、絶妙のバッキングを供給している。見事である。

我が国では、謂れのない理由で、人気イマイチのドナルド・バードであるが、この盤を聴けば、ジャズ・トランペッターとして一流であり、一目置かれる存在であることが良く判る。

この盤は、飛び立つ鳩をあしらったジャケがジャズっぽくなくて損をしているけど(笑)、これまでのD・バードの、トランペッターとしてのパフォーマンスの集大成の様な構成で、彼の活動前期の名盤としても良い内容である。
 
 

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2024年5月25日 (土曜日)

ドナルド・バードの初リーダー作

ドナルド・バード(Donald Byrd)は、デトロイト出身のモダン・ジャズ・トランペッターのレジェンド。ハードバップ初期から頭角を表し、1958年には、バリトン・サックス奏者のペッパー・アダムスと共同でレギュラー・グループを持っている。ハードバップから始まり、ファンキー・ジャズ、ソウル・ジャズ、ジャズ・ファンクと演奏スタイルを変えつつ、ジャズ・シーンの第一線を走り続けた。

バードのトランペットは、端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か、ジャズ・トランペットの教科書の様なパフォーマンスが個性。生涯、この教科書の様なパフォーマンスを貫いた、モダン・ジャズ・トランペッターのレジェンドである。

Donald Byrd 『Byrd Jazz』(写真左)。1955年8月23日、デトロイトの「New World Stage Theatre」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Bernard McKinney (euphonium), Yusef Lateef (ts), Barry Harris (p), Alvin Jackson (b), Frank Gant (ds)。ドナルト・バードの初リーダー作。出身地のデトロイトでのライヴ録音。
 

Donald-byrd-byrd-jazz

 
ジャズにおいては、初リーダー作で、そのリーダーの個性と特徴の全てが判る、というが、このドナルド・バードの初リーダー作もその例に漏れることは無い。バードのトランペットについては、「端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か」という個性と特徴が、このライヴ音源に詰まっている。

録音がちょっとナローなので、ライヴ音源としては大人し目なのだが、若き日の溌剌としたバードのトランペットはバッチリ捉えられている。フロント管のラティーフのテナーもよく唄い、ジャズには不向きなマッキンニーのユーフォニウムも、なかなか健闘、そんなフロント管パートナー達と、楽しげにハードバップをやるバードのトランペットはブリリアント。

渋いバップ・ピアニスト、バリー・ハリスを中心とするリズム隊も、明確にハードバップなバッキングを供給していて、バードは、どこかクリフォード・ブラウンを想起させる様な、端正で流麗でブリリアントで溌剌としたアドリブ・フレーズを吹きまくる。バードのトランペットの個性と特徴の「源」を確認するには、格好のライヴ盤。以前は「幻の名盤」扱いでしたが、今では、サブスク・サイトでも聴くことができます。有難いことです。
 
 

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