2023年9月24日 (日曜日)

タイナーのモード・ジャズの帰還

マッコイ・タイナーが、1970年代を駆け抜けたマイルストーン・レコードから、コロンビア・レコードに移籍した訳だが、このコロンビアでリリースした2枚のアルバム『The Legend Of The Hour』(1981年録音)、『Looking Out』(1982年録音)は酷い内容のアルバムだった。

『The Legend Of The Hour』は、何故かラテン・ジャズをベースにした中途半端なフュージョン志向のアルバム。硬派でモーダルなメインストリーム志向のタイナーの面影すら無い。何を求めているのか、何を訴求しているのか全く判らないアルバムになっている。初めて聴いた時、この盤がタイナーのリーダー作とは直ぐに信じられなかった。それほど、酷い内容の落ち込みようであった。

『Looking Out』は、さらに迷走を深め、ヴォーカルをフィーチャー。共演メンバーも、カルロス・サンタナ、スタンリー・クラーク等、完全にフュージョン・ジャズ志向のメンバーで固めて、タイナー自身もシンセサイザーを弾いたりする迷走ぶり。この盤については、前作の迷走ぶりに拍車をかけた、何を狙って、何を表現したかったのかが、全く理解出来ない内容であった。

Mccoy Tyner『Dimensions』(写真)。1983年10月の録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p, syn), Gary Bartz (as), John Blake (vln), John Lee (b), Wilby Fletcher (ds)。迷走に迷走を重ねたコロンビア・レコードを早々に去り、この盤は、Elektra/Musicianからのリリースになる。メンバー的には、ゲイリー・バーツ以外、知らない名前ばかりが並ぶ。ふと、不安になる。
 

Mccoy-tynerdimensions

 
冒頭の「One For Dea」を聴いて、ホッとする。1970年代のタイナー節、タイナーの音世界が戻って来ている。「ワールド・ミュージックと融合した」タイナーのモード・ジャズが戻って来た。見れば、唯一、タイナーの作曲。タイナーからすれば「戻って来たぞ」と宣言したかったのだろう。この曲の音志向は、絶対に1970年代のタイナーである。

2曲目以降はタイナー作の曲は無いが、ヴァイオリンを入れたり、2曲目「Prelude to A Kiss」はピアノ・ソロ、4曲目「Just In Time」はピアノ・トリオと演奏の編成に変化を持たせていて、どの演奏編成にしても、タイナーのモーダルでパーカッシヴなピアノの個性が引き立つようにアレンジされている。いやはや、タイナーのピアノが、タイナーの音世界が戻って来た良かったなあ、とこの盤を聴いて、つくづく思った。

ちなみに、ジャケット裏面には、各曲の紹介をタイナー自身が書いている力の入れよう。しかも、最後に「I wish you many hours of good listening(何時間も楽しくお聴きいただければ幸いです)」と記して結びとしている。

「タイナー・リターンズ」。タイナーの帰還。本作は当時として、タイナーの自信作だったのだろう。ジャケットは平凡だが、確かに内容の濃いリーダー作。ジャケットは気にせず、一度は手に取って聴いて欲しい佳作である。
 
 

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2023年9月16日 (土曜日)

1980年代タイナーのジャズオケ

1980年代のマッコイ・タイナーの聴き直しに突入。1970年代はほぼマイルストーン・レーベル一本槍で、タイナー・ミュージックの確立期の記録が追体験出来る。1980年代はマイルストーン・レーベルを離れ、複数のレーベルを渡り歩く、タイナー・ミュージックの「成熟と過渡期」の時代。そんな1980年代のタイナーにも魅力満載。

McCoy Tyner『13th House』(写真)。1980年10月の録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p, arr), Oscar Brashear (tp), Kamau Muata Adilifu (flh), Slide Hampton (tb, arr), Gregory Williams (french horn), Bob Stewart –(tuba), Hubert Laws (piccolo, fl), Joe Ford (as, ss, fl), Ricky Ford (ts, ss), Frank Foster (ts, ss, cl, arr), Ron Carter (b), Jack DeJohnette (ds), Airto Moreira, Dom Um Romao (perc), Jimmy Heath (arr)。

タイナーのマイルストーン・レーベルの最終作。1972年のタイナー流モード・ジャズの名盤『Sahara』から始まり、毎年1〜2作のペースでリーダー作を発表、この『13th House』で、タイナーの「黄金期」であるマイルストーン時代は一旦の終結を迎える。マイルストーン時代は、タイナーがタイナー流のモード・ジャズを確立し、コルトレーンの「アフリカン・ネイティヴな音志向」を前提としたモーダルなジャズオケ演奏を継承した時代である。

当盤『13th House』は、大編成ジャズ・オーケストラにおけるタイナー・ミュージックの完成形。タイナーの大編成ジャズ・オーケストラなリーダー作は、以前に『Song Of the New World』(1973年)、『Fly With The Wind』(1976年)の2枚がある。いずれも、ジャズ・オーケストラにおけるタイナー・ミュージックの名盤であるが、内容の充実度からすると、今回の『13th House』が頭1つ抜きんでている。
 

Mccoy-tyner13th-house

 
今回はアレンジがとても優れている。資料を紐解くと、スライド・ハンプトン(3曲目「Search For Peace」)、ジミー・ヒース(2曲目「13th House」)、フランク・フォスター(5曲目「.Leo Rising」)の3人が1曲づつ担当、残りの1曲目「Short Suite」と4曲目「Love Samba」の2曲を、リーダーのマッコイ・タイナーが担当。

タイナーのアレンジも良いが、他の3人の「タイナーのアフリカン・ネイティヴな音志向」を前提としたモーダルなジャズオケ演奏を想定したアレンジが、それぞれ個性があって、全く飽きの来ない展開になっているところが良い。

そして、ジャズオケの肝になるリズム・セクションについては、リーダーのタイナーがピアノ、そして、ベースにロン、ドラムがデジョネットと、振り返れば、ビックリする様なレジェンド級のメンバーによる、重厚で柔軟度の高いリズム・セクションで、ジャズ・オケのフロント楽器に全く負けない、逆に、フロント楽器全体を鼓舞しコントロールするリズム・セクションで、このリズム・セクションの存在がとても効いている。

この『13th House』は、タイナーの「アフリカン・ネイティヴな音志向」を前提としたモーダルなジャズオケ演奏のアルバムの中で一番、内容の充実度が高い。タイナーのピアノの充実度も最高レベルに近い。

我が国のジャズ盤紹介本や雑誌の名盤紹介には、タイナーの「アフリカン・ネイティヴな音志向」を前提としたモーダルなジャズオケ演奏のアルバムについては、何故か『Fly With The Wind』ばかりが、ほんの時々『Song Of the New World』が紹介されるが、このこの『13th House』の紹介記事については、ほとんど見たことが無い。タイトルが良く無いのか、ジャケが良く無いのか、それでも内容は、前の2枚『Fly With The Wind』と『Song Of the New World』を凌駕する優れもの。

紹介記事が僅少なのに怯まず、一度は聴いて欲しい優秀作。特に、マッコイ・タイナーのファンには絶対お勧めです。
 
 

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2023年7月24日 (月曜日)

タイナーの1970年代トリオ2態

マッコイ・タイナーは、以前はコルトレーンの伝説のカルテットのピアニスト、コルトレーンの逝去後、コルトレーン・ジャズの継承者としてもてはやされた時期があったが、今では、あまりそういう評価は当たらない、と僕は思っている。

タイナーがコルトレーンから継承したのは、コルトレーンの「ワールド・ミュージック志向」の音世界であり、バリバリとモーダルなフレーズを弾きまくるタイナーについては、コルトレーンの「シーツ・オブ・サウンド」を深化させているイメージはあるが、コルトレーン後期のフリー&スピリチュアルな志向のジャズについては全く手付かず。

コルトレーンの「ワールド・ミュージック志向」の音世界の継承については、コルトレーンの名盤『Africa/Brass』を下敷きにしている様な感じはするが、ピアニストとして弾きまくるモード・ジャズについては、コルトレーンの影はあまり感じ無い。「シーツ・オブ・サウンド」については弾き回しのスタイルとして踏襲しているが、タイナーのモード・ジャズの展開/Users/matsuoka/Desktop/JZZ02650-1-1.jpg /Users/matsuoka/Desktop/スーパートリオズ.jpg は「タイナー・オリジナル」であり、タイナーのみが為し得るもの。

Mccoy Tyner『Supertrios』(写真)。1977年4月の録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p) は共通、tracks 1-6(1977年4月9ー10日録音)は、Ron Carter (b), Tony Williams (ds) とのトリオ、tracks 7-12(1977年4月11ー12日録音)は、Eddie Gómez (b), Jack DeJohnette (ds)。2つのトリオ演奏を収録した、リリース当時、LP2枚組。

タイトルの「・・・・trios」と最後に's'を付けているのは、2つのトリオ演奏を収録しているからで、ひとつは、タイナー、ロン、トニーのトリオ(LPの一枚目)。ハービー・ハンコックのトリオのリズム隊が代表的。
 

Mccoy-tynersupertrios

 
もうひとつは、タイナー、ゴメス、デジョネットのトリオ(LPの2枚目)。これは、モントルーのビル・エヴァンスのリズム隊が代表的。どちらのリズム隊も、先進的で創造的な響きを維持した、当時、中堅のリズム隊である。

タイナー、ロン、トニーのトリオ演奏は、スタンダード、ミュージシャンズ・チューンズがメインの演奏。冒頭、ジョビンのボサノバ曲「Wave」のダイナミックでモダールな演奏に仰け反る。ロンは、何時になくストレート・アヘッドなアコベを弾きまくり、トニーは千手観音よろしく、ポリリズミックに叩きまくる。そこに、モーダルなタイナーのピアノが、ガーンゴーン、パラパラパラと疾走する。

とにかく「賑やか」なトリオ演奏。ダイナミックでメリハリの効いた、シーツ・オブ・サウンドを交えた、実に「多弁」なモーダルな演奏。聴く方の体調が悪い時などは「五月蠅い」くらいだ(笑)。LP1枚目のラスト「Moment's Notice」など、トニーのドラムは圧倒的「叩きまくり」である。だが、これが良い。こんなにダイナミックでメリハリの効いたピアノ・トリオはなかなか無い。

一方、タイナー、ゴメス、デジョネットのトリオは、タイナーのオリジナル曲で占められる。こちらは柔軟度の高いトリオ演奏で、シーツ・オブ・サウンドな疾走モードからマッコイ・オリジナルのフリー演奏まで、柔軟度と適応力が圧倒的に高いゴメス-デジョネットのリズム隊をバックに、思うがまま感じるがまま、タイナーは自由に弾きまくる。

ニッコリ笑ったタイナーのシンプルなジャケに騙されてはいけない。この盤には、当時の圧倒的に尖った、最先端を行くモード・ジャズが詰まっている。BGMにしようものなら、やかましくて賑やかで「ながら」は無理。それでも、演奏内容は濃く、レベルは高度なので、思わずテを休めて聴きこんでしまう。そんな「絶対にながらは出来ない」圧倒的にダイナミックでメリハリの効いた、先端を行くトリオ演奏が詰まっています。
 
 

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2023年6月21日 (水曜日)

タイナー・ミュージックの完成形

マッコイ・タイナーは、1960年代、ブルーノートの諸作でタイナー独自のモーダル・ジャズを確立。ピアノのみならず、アレンジの才を発揮し、1970年代、コルトレーンのアフリカ志向をベースに、独自のワールド・ミュージックと融合したジャズを展開。トリオからジャズ・オーケストラまで、様々な編成で、その才能を存分に発揮した。

McCoy Tyner『Horizon』(写真左)。1979年4月24 & 25日の録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p), Joe Ford (as, ss, fl), George Adams (ts, fl), John Blake (vln), Charles Fambrough (b), Al Foster (ds), Guilherme Franco (congas)。ファレルとアダムスのサックスのフロント2管、バイオリン入りのセプテット編成。

1979年の録音ということもあったのかもしれない。この盤は、タイナーが1970年代に追求、展開してきた「コルトレーンのアフリカ志向をベースに、ワールド・ミュージックと融合したタイナーのモード・ジャズ」の集大成的な内容になっている。

というか、1970年代に入って、『Asante』(1970年, Bluenote)、『Sahara』(1972年, Milestone)から始まったタイナーの音世界であるが、アルバムを重ねる度に洗練度を高めていって、この『Horizon』がその完成形だと僕は感じている。
 

Mccoy-tynerhorizon

 
今回は7人編成という、タイナーの「ワールド・ミュージックと融合したタイナーのモード・ジャズ」としては小編成の部類だと思うが、人選が当たったのだろう、メンバー全員がタイナー・ジャズの個性をしっかりと理解し、その個性を的確に表現している。

特に、ファレルとアダムスのフロント2管が良い。サックスも良い、そして、フルートも効果的。タイナー独自のモードにもしっかり対応、アブストラクトにもフリーにも展開可能、アフリカ志向のサウンドをしっかり出し、コルトレーンの様にも振る舞う。しかし、最終的には、タイナーの音世界に染まったファレルとアダムスである。これがオリジナリティーがあって良いのだ。

ジョン・ブレイクのヴァイオリンとギルヘルム・フランコのパーカッションの存在が効いている。ヴァイオリンとパーカッションのカラフルな音色は、タイナー独自のワールド・ミュージック志向のジャズの雰囲気を増幅する。このヴァイオリンとパーカッションの存在を前提としたタイナーのアレンジ力は素晴らしい。

『Horizon』は、タイナーの「コルトレーンのアフリカ志向をベースに、ワールド・ミュージックと融合したタイナーのモード・ジャズ」の完成形。タイナーが表現したかったこと、やりたかったことが、この盤に集約されている。タイナー・ミュージックを理解し、愛でるに相応しい名盤だと思う。
 
 

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2022年10月26日 (水曜日)

80年代のモード・ジャズの創造

ジャズ・ドラマーがリーダーのアルバムを色々聴き直しているのだが、今回はエルヴィン・ジョーンズに戻る。

エルヴィンは1960年代、ジョン・コルトレーンの伝説のカルテットに在籍したこともあって、エルヴィン単独になっても「コルトレーン・ミュージックの継承者」とか、「コルトレーン・ジャズのスピリッツの伝承者」とか、特に我が国のジャズ評論家の方たちが、こぞって、そんな「レッテル」を張るので、エルヴィン独自のソロ・リーダー作はかなり誤解されながら、その評価が世の中のジャズ者の方々に伝わっていたのだと思う。

Elvin Jones-McCoy Tyner Quintet『Love And Peace』(写真左)。1982年4月13&14日、Rudy Van Gelder Studioでの録音。Trioレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), McCoy Tyner (p), Richard Davis (b), Pharoah Sanders (ts), Jean-Paul Bourelly (g)。ファラオ・サンダースのテナーとジャン=ポール・ブレリーのギターがフロントのクインテット編成。
 
リーダーのエルヴィンがドラム、マッコイ・タイナーがピアノ、サックスにファラオ・サンダース、そして、タイトルに「Love」が入っていて、これが「A Love Supreme(至上の愛)」を想起するらしく、この盤「すわ、コルトレーン・ミュージックの再現」と思われる傾向がとても強い。

当時のLP評やCDリイシュー時の評を見ると「コルトレーン・ジャズのスピリットを80年代によみがえらせた」とか「コルトレーンのスピリッツを踏襲した傑作」とか、安直にコルトレーンと結びつけて終わり、という、少しイージーな評価ばかりである。
 

Elvin-jonesmccoy-tyner-quintetlove-and-p

 
しかし、この盤をよくよく聴いてみると、コルトレーン・ミュージックとの共通点は「モード・ジャズである」ということだけだと思う。フレーズの組立てとか、ユニゾン&ハーモニーとか、リズム&ビートとか、コルトレーンの時代とは異なる、より深化したモード・ジャズが展開されていて、コルトレーン・ジャズを踏襲しているところは殆ど見当たらない。

ウィントン・マルサリス一派が標榜した様な「1960年代のモード・ジャズの難度を飛躍的に上げて再現する」様なアプローチでは無く、あくまで、1960〜70年代のモード・ジャズをより深化させた、1980年代のモード・ジャズを具現化するアプローチを志向していると僕は思う。

サンダースのサックスだって、音がストレートなところが共通点だけで、コルトレーンとは似ても似つかぬブロウに終始していると思う。リーダーのエルヴィンだって、ピアノのタイナーだって、ベースのデイヴィスだって、1960年代のコルトレーンの伝説カルテットのリズム・セクションとは異なる、より深化した、モーダルなリズム&ビートを供給している。

この盤、日本のレーベルである「トリオ・レコード」の制作なのが余計に誤解を生むのだろうが、トリオ・レコードの名誉の為に言うと、この盤、決して、コルトレーン・ミュージックの焼き直しでも無ければ、コルトレーン・ジャズの再現でも無い。

トリオ・レコードは、エルヴィン以下のクインテットのメンバーに、1980年代のモード・ジャズの創造を要求している様に感じる。そして、クインテットはそれにしっかり応えている。ちゃんと聴けば、この盤、1980年代のモード・ジャズの傑作の1枚だと思う。
 
 

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2022年9月20日 (火曜日)

意味深なエルヴィンとギャリソン

ポリリズミックなレジェンド・ドラマー、エルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones)のリーダー作を聴き直しているのだが、エルヴィンのリーダー作の基本コンセプトは「モード・ジャズ」。

それも、インパルス・レーベルからのリリースの『Coltrane』辺りの、自由度の高い、シーツ・オブ・サウンドと歌心のバランスが取れた「モード・ジャズ」。エルヴィンは「この時代のコルトレーン・ミュージック」が大好きだったんだろうなあ、とつくづく思ったりする。

Elvin Jones & Jimmy Garrison『Illumination!』(写真)。1963年8月8日の録音。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), Jimmy Garrison (b), McCoy Tyner (p), Sonny Simmons (as, English Horn), Charles Davis (bs), William Prince Lasha (cl, fl)。

改めて、この盤を聴き直してみた。エルヴィン・ジョーンズと、ベースのジミー・ギャリソンの双頭リーダー盤。ピアノのマッコイ・タイナーが入っているので、これは、当時のコルトレーンの伝説のカルテットから、親分のコルトレーンを抜いたリズム・セクションになる。そして、フロントは、アルト・サックス or ホルン、バリトン・サックス、そして、クラリネット orフルートのフロント3管。全体でセクステット編成。

パーソネルを見渡して面白いのは、「コルトレーンの伝説のカルテット」のリズム・セクションがそのまま、この盤にスライドしているからか、律儀に親分コルトレーンの担当楽器であるテナー&ソプラノ・サックスをしっかり抜いて、フロント3管を形成している。

演奏の基本は「モード・ジャズ」。それも、親分コルトレーンの得意技「シーツ・オブ・サウンド」抜きの、モード・ジャズど真ん中の時代の「コルトレーン・サウンド」。
 

Elvin-jones-jimmy-garrisonillumination

 
限りなく高い自由度を追求したモーダルな演奏と「音楽」としての歌心を踏まえたメロディアスなフレーズを前提とした「コルトレーン・サウンド」で、ほどよくアレンジされた「ユニゾン&ハーモニーが」聴いて楽しい雰囲気を加えている。

この6重奏団の演奏、コルトレーン・サウンドを踏襲しているのだが、しっかりと親分の担当楽器と得意技をしっかり抜いている。コルトレーンの伝説のカルテットのリズム・セクションを担当している、

エルヴィン、ギャリソン、タイナーが、コルトレーンに「親分、一緒にどうですか、こんなモード・ジャズは。俺たちは、親分と一緒にやる、こんなモード・ジャズが好きなんです」と誘っている様な雰囲気を感じるのは僕だけだろうか。

この盤の録音の後(リリースは1964年)、コルトレーンは、1963年11月に『Impressions』をリリースしていて、その内容は、グループサウンドを横に置いて、唯我独尊、フリー一歩手前の自由度の高いモーダルなフレーズを、高速シーツ・オブ・サウンドで吹きまくるという内容をライヴ録音で披露している。

コルトレーンの伝説のカルテットのリズム・セクションを担当していた、エルヴィン、ギャリソン、タイナーは戸惑ったのでは無いか。この『Impressions』の演奏内容を振り返ると、リズム・セクションは、リズム&ビートだけ正確に供給してくれるならば、誰だって良い、という感じなのだ。実はそうではないのだが、この時期のコルトレーンは、自らの志向を追求することに集中した「唯我独尊」的なパフォーマンスに偏っていた。

グループ・メンバーで、グループサウンドを楽しみながら演奏する、という、バンド・セッションの基本を、このエルヴィン&ギャリソンの『Illumination!』ではしっかりと踏襲している。きっと、ここに戻りたかったんだろうなあ、と僕はこの盤を聴く度に思うのだ。
 
 

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2021年9月 5日 (日曜日)

タイナー独自の音世界の確立

1970年代、マッコイ・タイナー(McCoy Tyner)はジャズ界のヒーローだった。1960年代、伝説のジョン・コルトレーンのカルテットのピアノ担当として知名度が増し、コルトレーン亡き後、コルトレーン・ミュージックの正統な継承者として、タイナーはジャズ界の希望であり、指針であった。

確かに、1970年代のタイナーの快進撃は見事であった。しっかりとコルトレーン・ミュージックを継承。フリー&アブストラクトなジャズには傾倒しなかったが、モーダルで、アフリカン・ネイティヴなコルトレーンの音世界をピアノ中心のジャズに置き換えて、1970年代を走り抜けた印象が強い。

McCoy Tyner『The Greeting』(写真)。1978年3月17&18日、米国サンフランシスコの「The Great American Music Hall」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p), Joe Ford (as, fl), George Adams (ts, ss, fl), Charles Fambrough (b), Woody "Sonship" Theus (ds, bells), Guilherme Franco (conga, berimbau, perc)。
 

The-greeting

 
収録曲全5曲を見渡すと、コルトレーンの名曲「Naima」以外、残りの4曲はタイナーの作。この頃のタイナーは、決して、スタンダード曲に頼ることをしない、実に潔く、コルトレーン・ミュージックをメインにしたモード・ジャズを展開していた。この頃のタイナーのピアノは、そのスタイルを完全に確立していて、左手のパーカッシヴな「ハンマー打法」で、ビートの底を揺るぎないものとしつつ、流麗で多弁な右手で、モーダルなフレーズを延々と展開していく。それはそれは見事な「モード・ジャズ」。

テナー・サックスに若きジョージ・アダムスが参加しているのが目を引く。フリー&アブストラクトなブロウを封印し、コルトレーンとは響きが異なった、アダムス独自のアフリカン・ネイティヴなモーダルなフレーズを連発する。そして、コンガやベル、ビリンバウなどのパーカッションが、アフリカン・ネイティヴな響きを増幅する。

このライヴ盤を聴く度に、この時点で、タイナーの音世界が完全に確立されていることが再確認出来る。コルトレーン・ミュージックのアフリカン・ネイティヴな部分を継承し、深化させたタイナー独特のモーダルな音世界。ジャズの起源となるアフリカン・アメリカンの音の原風景を垣間見る様なタイナーの音世界。僕は当時から今まで、このタイナーの音世界が大のお気に入りである。
 
 
 
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  ・The Brothers Johnson『Light Up the Night』&『Winners』

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  ・『ヘンリー8世と6人の妻』を聴く

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  ・伝説の和製プログレ『四人囃子』

 
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2020年6月18日 (木曜日)

タイナーのチャレンジ精神

1970年代のマッコイ・タイナーは「向かうところ敵なし」。しかも人気は抜群。当然、レコード会社もタイナーのやりたいようにやらせていたフシがある。逆にタイナーもレコード会社の要望にはできる限り応えていたみたいで、とにかく、様々な編成で、様々なアレンジで「タイナー・ミュージック」を展開していた。

McCoy Tyner『Inner Voices』(写真)。1977年9月の録音。マッコイ・タイナーが編成したビッグバンドに、コーラスが加わる、ジャズとしては摩訶不思議な編成。このコーラスはクラシック風の正統派なコーラス。タイナーのビッグバンドは、筋金入りの、コルトレーン・ミュージックを昇華・深化させた「タイナー・ミュージック」のてんこ盛り。

冒頭の「For Tomorrow」、いきなりコーラスから入る。思わずジャケットを見直す。すると、明らかにマッコイ・タイナーのピアノが「ガーン・ゴーン、パラパラパラ」と、左手の強いアタックがスピリチュアルに響き、右手の「シーツ・オブ・サウンド」な硬質フレーズが疾風の如く疾走する。ここでもタイナーのピアノは好調である。
 
 
Inner-voices  
 
 
かたや、ビッグバンドの演奏は先鋭的。明確に「タイナーミュージック」。ビッグバンドでモード・ジャズをやってるんで、これはこれで凄い。しかし、なんだがトランペットが入っている分、1960年代のマイルスの「黄金のクインテット」を聴いている感じがどうにも「いけない」。その点を除けば、極上のモード・ジャズである。1970年代後半、純ジャズ受難の時代に、素晴らしいパフォーマンスである。

さて、コーラスである。スピリチュアルな響き、スピリチュアルな志向を増幅する為に取り入れたのだろう。『Sahara』(1972年)での、タイナーの琴、フルートよりは効果があると思うが、『Extensions』(1970年)のアリス・コルトレーンのハープほどでは無い。やりたいことは判るんだが、クラシック風の正統派なコーラスの響きが、相対するビッグバンドの「モード・ジャズ」と融合しきれていない、と感じるのだ。

この盤は、聴き手の、この「コーラス」に対する想い、によって評価が変わるだろうなあ。精神性の部分を楽器によって表現する。意外と難題で、コルトレーンも苦労した。タイナーもこの難題に様々な形で挑戦している。その1つがこの「コーラス」。この盤でも、あくまで前進あるのみ、「タイナー・ミュージック」のチャレンジ精神が溢れている。この盤の評価については、僕はそのチャレンジ精神を買いたい。
 
 
 

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2020年6月17日 (水曜日)

絶好調、モントルーのタイナー

1970年代のマッコイ・タイナーは「向かうところ敵なし」状態だった。コルトレーン・ミュージックを継承、さらに発展〜深化させて、様々なフォーマットやアレンジで、彼独特の「タイナー・ミュージック」の音世界を展開した。当然、人気もうなぎ上り。1970年代のメインストリーム・ジャズは、マイルス門下生の活躍が目立ったが、その中で、コルトレーン門下生のマッコイ・タイナーが一人「気を吐いていた」。

McCoy Tyner『Enlightenment』(写真左)。1973年7月7日、スイスの Montreux Jazz Festival でのライブ録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p, perc), Azar Lawrence (ts, ss), Juni Booth (b), Alphonse Mouzon (ds)。少人数編成では、ドラムのムザーンは『Sahara』以降、ほぼ固定されているが、サックスのローレンス、ベースのブースは新起用である。

このスイスのモントルーでのライヴは、ジャケットのタイナーの横顔通り、熱い、汗のしずくが飛び散るが如くの「ど迫力」な演奏。特に、タイナーは絶好調で、指が回りに回る、アドリブ展開のイメージが縦横無尽に広がる。そして、どこまでも生真面目にスピリチュアルな「コルトレーン・ミュージック」を展開する。なにせ、タイトルが「Enlightenment=啓発・啓蒙」である。どこまでもストイックな、どこまでもスピリチュアルな音世界に思わず「トランス状態」になる。
 
 
Enlightenment
 
 
コルトレーン・ミュージックのスピリチュアルな部分を、シーツ・オブ・サウンドを駆使して、難解さを取り除き、判り易く聴き易く展開する。それがこの時代の「タイナー・ミュージック」の真髄だと思うんだが、それにしても見事。ここまで発展〜深化させると、コルトレーン・ミュージックというより、タイナーオリジナルな音世界と捉えて良いと思う。特にこのあくまでメインストリーム・ジャズの範疇に留まった「判り易さ」が良い。

サイドマンを見ると、テナーのローレンスが健闘している。ポスト・コルトレーンの本道を行く、熱気溢れる、テクニック溢れる吹きっぷりは見事。ローレンスの吹きっぷりも「熱い」。このライヴでのパフォーマンス、ローレンスのベスト・プレイの1つではないか。そして、ベースのブース。コルトレーンの「伝説のカルテット」のベーシスト、ジミー・ギャリソンの如く、ドライブ感豊かなベースは意外と良い。しかし、音程がちょっと「オヨヨ」なのが惜しい。

ムザーンのドラムが「タイナー・ミュージック」の要。ムザーンの「安定したリズム&ビートの供給」があるからこそ、タイナーもシーツ・オブ・サウンドを駆使して、思いっ切りピアノの弾き回せるのだ。サックスのローレンスの優れたブロウもムザーンのドラミングが引き出したとも言える。いやはや、このライヴ盤でのマッコイ・タイナー・カルテットは絶好調である。聴き所満載。
 
 
 

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2020年6月16日 (火曜日)

アフリカ志向のモーダル・ジャズ

今年3月6日、マッコイ・タイナーが亡くなった。ジャズ・ピアノのレジェンドの一人、その演奏スタイルは多くのピアニストに影響を与え、フォロワーを生んだ。一聴すればすぐ判る、左手の強いアタック、右手の「シーツ・オブ・サウンド」な硬質フレーズ。明らかにコルトレーンの影響下にあり、コルトレーンのテナーの伴奏に最適な奏法で一世を風靡した。

僕はこのタイナーのピアノが好きで、ジャズを聴き始めた頃から、ずっと40年以上、折に付け、彼のリーダー作を聴いてきた。当ブログでのマッコイ・タイナーのリーダー作については、カタログにある正式にリリースされてものは、全てレビューをアップする方針でやってきた。が、1970年代に限って、カタログと照らし合わせたら、まだまだ抜けがあるではないか。ということで、1970年代のマッコイ・タイナーのリーダー作の「落ち穂拾い」である。

McCoy Tyner『Extensions』(写真左)。1970年2月9日の録音。ブルーノートの「BN-LA 006-F」。ブルーノートがロサンゼルスに拠点を置いていた時代に発表した作品群「BNLAシリーズ」の一枚。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p), Gary Bartz (as), Wayne Shorter (ts, ss), Ron Carter (b), Elvin Jones (ds), Alice Coltrane (harp, tracks 1, 3 & 4)。バーツのアルトとショーターのテナーの2管フロントのクインテット編成に、ハープのアリス・コルトレーンが参加するイメージ。
 
 
Extentions-1  
 
 
クインテット編成の演奏なんだが、とにかく「分厚い」。まるでビッグバンドを聴いているようだ。タイナーの音作り&アレンジの方針は、コルトレーンの『アフリカ/ブラス』。当時のトレンドだったアフリカ志向のモーダル・ジャズ。アフリカの大地を想起させるような躍動感、ワールド・ミュージック志向のフレーズの響きは「エスニック&アフリカン」。曲のタイトルも「Message From The Nile」「Survival Blues」とアフリカ志向を掻き立てる。

そんなアフリカ志向のモーダル・ジャズの展開の中で、マッコイ・タイナーのピアノが際立っている。左手の強いアタックが「ガーン・ゴーン」とスピリチュアルに響き、右手の「シーツ・オブ・サウンド」な硬質フレーズが疾風の如く疾走する。タイナーならではの音世界。そして、アリスのハープが実にスピリチュアルな響きで、この盤でのハープの存在については違和感は無い。

他のバックを務めるメンバーはいずれも好演しているが、特に、ウェイン・ショーターが良い。テナーの吹きっぷりも見事だが、この盤では、ショーターのソプラノ・サックスが素晴らしい。この盤の音世界のイメージにピッタリで、ショーターのソプラノ・サックスのスピリチュアルな響きに思わずゾクッとする。1970年代の初頭を飾るタイナーの一枚。好盤である。
 
 
 

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