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2017年6月12日 (月曜日)

素晴らしき日本のジャズである

今年の6月は涼しい。というか、今日などは朝夕は「肌寒い」。通勤の往き帰り、外を歩く時は夏の上着がかかせない。この4〜5年は、6月に入ったら蒸し暑い真夏日が出現したりで、梅雨入りでもう暑いなあ、という気候が続いた記憶がある。が、今年は涼しい。そう言えば、僕が学生の頃の梅雨入りの頃って、こういう涼しい日が続いていたような思い出が甦って来た。

これだけ涼しいとジャズも聴き易い。フリー・ジャズや自由度の高いモードなジャズも聴き易い。まず、聴いていて汗ばむことが無い。湿気を含んだ涼しい風を感じながら、昼下がりのノンビリした一時に聴く、ハードな純ジャズは格別なものがある。ということで、選んだアルバムがこれ。

宮沢 昭『Bull Trout(いわな)』(写真左)。1969年6月30日,7月14日の録音。ちなみにパーソネルは、宮沢 昭(ts,per), 佐藤 允彦(p,per), 荒川 康男(b,per), 富樫 雅彦(ds,per), 瀬上 養之助(per)。日本のジャズが充実してきた1960年代の終わり。オール日本のメンバーである。

この盤、内容が素晴らしい。フリー・ジャズから自由度の高いモードなジャズまで、非常に高度で内容の濃い演奏がギッシリと詰まっている。日本のジャズは、こういうフリー・ジャズや自由度の高いモードなジャズが得意なジャンル。そういう意味では欧州ジャズに通じるところがあるが、日本独特の「間」と静謐を活かしたジャズ表現という点では抜きん出ている。
 

Bull_trout

 
冒頭の「いわな」が凄い。基本はフリー・ジャズなんだが、演奏の表現力が素晴らしい。静謐な山谷の雰囲気、川のせせらぎ、抜けるような青空、その下で泳ぐ「いわな」。そして、恐らく、その「いわな」を釣るのであろう、いわな釣りの躍動感溢れる様子が、フリー・ジャズのフォーマットで表現される。そんな感じの演奏なのだ。緩急自在、硬軟自在の素晴らしいフリー・インプロヴィゼーション。

2曲目の「河ます」以降は、自由度の高いモードなジャズが展開される。米国のモード・ジャズにもひけを取らない堂々としたモード・ジャズの展開に思わず身を乗り出す。間の活かし方だけとると、当時の米国のモード・ジャズの最先端の上を行く。さすが日本のジャズである。当時、これだけ高度で硬派な純ジャズが演奏されていたことに素直に感動する。

スリル満点、圧倒的なハイテンション、切れ味抜群の純ジャズ。リーダーの宮沢のテナーをはじめとして、参加メンバーの演奏の素晴らしさは言うまでも無い。こんなパフォーマンスが純日本のメンバーで創作されていたことに、日本人として誇りを感じる。それほどに素晴らしい内容である。

 
 

東日本大震災から6年3ヶ月。決して忘れない。まだ6年3ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2017年4月 7日 (金曜日)

根明なスピリチュアル・ジャズ

春にはスピリチュアル・ジャズが良く似合う。春のうららかな雰囲気が、フリーでアブストラクトに傾くアドリブ・フレーズを愛でる余裕を持たせてくれる。春の儚い雰囲気が、心震わせるスピリチュアルなブロウを増幅する。

そんなスピリチュアルなジャズであるが、黒人差別の問題、公民権運動やベトナム戦争が米国に影を落としていた時代である1960年代、基本的に悲しみ怒りに傾いたエモーショナルなブロウが多かった。我が国でも、1960年代は安保問題、学園紛争と国内に陰が差した時代で、この悲しみ怒りに傾いたエモーショナルなブロウが、一部ではあるが受けに受けた。

1970年代に入って、ロックの台頭によって、ジャズは大衆音楽の座から滑り落ちる。ジャズはマニア向けのマイナーな音楽になりつつあった。フリー・ジャズやスピリチュアル・ジャズは全くの下火となってしまったのである。が、どっこい、それでも細々と絶えることなく生きていたのだからジャズは意外にしぶとい。

Pharoah Sanders『Rejoice』(写真左)。女性のナレーションに導かれて始まる冒頭のタイトル曲はポシティブな雰囲気に満ち溢れている。このアルバムは1981年の作品。もはやジャズを取り巻く時代は変わったのである。このファラオ・サンダースのアルバムは、ポジティブな雰囲気が蔓延している。楽園的な雰囲気のスピリチュアル・ジャズ。
 

Rejoice1

 
2曲目の「Highlife」などは思いっきり「カリプソ」である。ポップでファンキーな明るい「カリプソ」。思わず踊り出してしまいそう。そこに、思いっきりスピリチュアルでフリーキーなサンダースのアドリブが炸裂する。それでも、サンダースのソロは伝統の範囲をはみ出すことは無い。ギリギリのところで伝統的な枠に踏みとどまる。

3曲目の「Nigerian Juju Highlife」は思いっきり「アフリカン」。ゴスペルチックな要素も振り撒きつつ、それでも基本的に雰囲気はポジティブ。4曲目の「Origin」などは女性コーラスをフィーチャーしたもの。以前のスピリチュアル・ジャズでは考えられない、思いっきりポップで怠いポジティブな雰囲気。

6曲目のコルトレーンの「Moments Notice」のボーカル付きバージョンなど、全く以て脳天気極まりない(笑)。怠くてファンキーでスピリチュアル。スピリチュアル・ジャズが精神性を追求したシリアスなものである時代は去った。このサンダースのスピリチュアル・ジャズ、シリアスなジャズ者の方々からは思いっきり怒られそう(笑)。でも、これが実に良い雰囲気なのだ。

根明なスピリチュアル・ジャズ。ちょっと地味なジャケット・デザインで損をしているが、内容的には折り紙付きのスピリチュアル・ジャズ盤です。フリーキーでアブストラクトなブロウも伝統の枠を逸脱することは無い、意外と伝統的な純ジャズの枠の中に収まったところが聴き易い好盤です。

 
 

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2017年4月 6日 (木曜日)

春はスピリチュアル・ジャズ

昨日、アルバート・アイラーの初リーダー作について語った。アルバート・アイラーのテナーはフリーでもなければ、アブストラクトでもない。しかし、明らかに「スピリチュアル」である。心揺さぶられる様な、心を鷲掴みにされる様な、スピリチュアルなテナーの嘶き。

アイラーのテナーはフリー、フリーと言われるが、今の耳でしっかり聴けば、しっかりと伝統的なジャズに根ざした演奏である。しかし、フレーズの取っ掛かりが、それまでの常識とは異なるところから始まるので、限りなく自由度の高さを感じるパフォーマンスになっている。つまりは当時のジャズ・アドリブの既成概念を取っ払ったユニークさを大いに湛えたブロウと言える。

Albert Ayler『Goin' Home』(写真)。1964年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Albert Ayler (ts, ss), Call Cobbs (p), Henry Grimes (b -2,4/7), Sunny Murray (ds -2,4/7)。パーソネルを見渡してみると、この盤って、アルバート・アイラーのテナーに絞って愛でる、そんな盤ではないか、と予想する。ちょっとワクワクする。
 

Albert_ayler_goin_home

 
冒頭のタイトル曲「Goin' Home」を聴く。邦題は「家路」。ドヴォルザークの交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』の第2楽章 Largoのイングリッシュホルンによる主部の主題。「遠き山に日は落ちて」などの愛唱歌に編曲されている。夕方5時になると、地方のあちこちで有線放送で鳴り響く「懐かしの」旋律。ちょっと俗っぽくて、旋律そのままに吹くと、聴いている方としてはちょっと気恥ずかしくなるような曲。

そんなポピュラーな大衆曲を、アイラーは「スピリチュアル」に吹き上げる。それまでの常識とは異なるところからテーマのブロウが始まる。そんなユニークな主題の流れから、これまたユニークな旋律によるアドリブ展開。この当時のジャズ・アドリブの既成概念を取っ払った、ユニークな展開が明らかに「フリー」である。心の趣くまま、気の向くままのブロウではない。伝統に根ざした、それまでのアドリブの既成概念を取っ払ったブロウ。

2曲目以降の選曲を見て、昔の評論を思い出す。この盤、アイラーとしては異色作と言われていて、黒人霊歌ばかりをストレートに演奏している。そう黒人霊歌ばかりを演奏しているところが僕にとって「ツボ」なのだ。米国ルーツ・ミュージックをベースにしたジャズ。これが良い。そして、それを「スピリチュアルな」テナーで吹き上げる。じっくり聴いて、ほんのり感動の好盤である。

 
 

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2017年4月 5日 (水曜日)

春はフリー・ジャズが似合う

ここ千葉県北西部地方でも桜がほぼ満開状態になった。今年もやっと春らしい日になってきた。今年はなかなか暖かくならなくて、先週まで、通勤の朝なんて寒いまま。冬のダウンコートが手放せなかった。昨日、やっとのことで春先のハーフコートに替えたくらいだ。

この春の桜の季節、この桜が散り出す頃。陽光麗らかな春の暖かい季節の中、ふっと悲しくなるような、ふっと侘しくなるような、そこはかとない「寂寞感」に襲われることがある。散る桜を見ながら、ふっと涙してしまう様な、胸が締め付けられる様な「寂寞感」。そんな寂寞感の中に潜む「狂気」。この季節はそんな「春の狂気」を感じる瞬間が時々ある。

そんな桜が散り出す季節、ジャズ盤の鑑賞について、フリー・ジャズが解禁になる。これって僕だけかもしれないんだが、春になるとフリー・ジャズが聴きたくなる。冬は陽射しが弱くて寒くて、そんな時、フリー・ジャズを聴いたら「鬱々」してしまうので、基本的には聴かない。夏は暑苦しくていけない。秋は寂寞感が増幅されてそれどころではなくなるので控え気味。

春はフリー・ジャズが似合う。この季節の持つ「春の狂気」がフリー・ジャズを聴きたい感覚を刺激するのかもしれない。ということで、今日は『My Name Is Albert Ayler』(写真左)を選択する。1963年1月の録音。ちなみにパーソネルは、Albert Ayler (ts,ss), Niels Brosted (p), Niels-Henning Orsted Pedersen (b), Ronnie Gardiner (ds)。
 

My_name_is_albert_ayler_2

 
この盤はフリー・ジャズの盤として紹介されることが殆どだが、今の耳で聴くと意外と伝統的なジャズの中でインプロビゼーションが展開されていることに気付く。リズム&ビートについてもしっかりとジャズの基本を踏まえたもの。アブストラクト度合いも軽度なもので、フリーな度合いも穏やかなもの。今の耳では、この演奏は正統な「純ジャズ」として聴くことが出来る。

しかしながら、この盤の収録曲、スタンダードの「Bye Bye Blackbird」「Billie's Bounce」を聴けば、テナーのアドリブ・フレーズの展開の仕方がユニークなのが良く判る。それまでに無いところを基音にして、モーダルな展開をするユニークさ。そのユニークさを以てしても、この演奏は明らかに自由度の高い「純ジャズ」。

フリーでもなければ、アブストラクトでもない。しかし、明らかに「スピリチュアル」である。心揺さぶられる様な、心を鷲掴みにされる様な、スピリチュアルなテナーの嘶き。それは「Summertime」「On Green Dolphin Street」を聴けば良く判る。それまでに無い、気持ちのこもったスピリチュアルなブロウ。決してアブストラクトには傾かない。伝統的な枠をはみ出しそうで、はみ出さない、絶妙なブロウ。

アイラーのテナーのテクニックは正統派。だからこそ、ユニークなアドリブ・フレーズの展開が可能になる。この季節の持つ「春の狂気」にピッタリなスピリチュアルなアイラーのテナー。心揺さぶられ、そこはかとない寂寞感に襲われる。しかし、この春の暖かさの中、ネガティブになることは無い。春の狂気を感じつつ、スピリチュアルなブローにジャズの持つ「妖気」感じる。これが楽しい。

 
 

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2017年3月23日 (木曜日)

キャンディドらしい音・4

キャンディド・レーベル(Candid Label)の「お抱えジャズメン」的存在の一人が「セシル・テイラー(Cecil Taylor)」。フリー・ジャズ・ピアノの先駆者である。このセシル・テイラーの初期の頃の演奏が、キャンディド・レーベルで聴けるのだ。アルバム数は3枚。しかし、セシル・テイラー初期の録音である。この3枚を聴けば、彼の個性の生い立ちが何と無く理解出来るのだ。

Cecil Taylor『Jumpin' Punkins』(写真左)。1961年1月の録音。ちなみにパーソネルは、Cecil Taylor (p), Archie Shepp (ts), Buell Neidlinger (b) は全曲に渡って固定。ドラムが全4曲中3曲は Denis Charles, 1曲のみ Billy Higgins。3曲目の「I Forgot」のみ、Clark Terry (tp), Roswell Rudd (tb), Steve Lacy (ss), Charles Davis (bs)が加わって、厚みのあるアンサンブルを聴かせてくれる。

冒頭のタイトル曲「Jumpin' Punkins」の最初の部分を聴くと、あれれ、と思う。録音の時は1961年。フリー・ジャズ・ピアノの先駆者セシル・テイラーも人の子、やっぱりこの頃は、堅実なハードバップ的な演奏に終始していたんやなあ、なんて思ったりする。まあ、フリー・ジャズの基本は「正統な純ジャズ」で、正統な純ジャズが出来ない者はフリー・ジャズは出来ない。
 

Jumpin_punkins

 
と感慨に耽っていると、いきなりフリーなインプロビゼーションに突入して思わずビックリする。正統な純ジャズ部分と正反対の、アートでアブストラクトなフリーなインプロビゼーション。明らかにセシル・テイラー独特のフレーズであり、唯一無二である。フリー・ジャズの黎明期、オーネットとはアプローチの全く異なるセシル・テイラーの個性がこの盤に詰まっている。

当時、セシル・テイラーは32歳。ジャズメンとしてはまだまだ若手だと思うんだが、この時点で、セシル・テイラーの個性は確立されている。これが確認出来ることが、キャンディド・レーベルの価値である。この時点でのセシル・テイラーを積極的に録音したレーベルの運営思想については頭が下がる。

ラストのエリントン・ナンバー「Things Ain't What They Used to Be(昔はよかったね)」のアレンジ、アドリブ展開部のフリーキーなアプローチは斬新で、キャンディド・レーベルの面目躍如。プロデューサーのナット・ヘントフの慧眼、恐るべしである。こんなフリー・ジャズの黎明期の録音を聴けば、フリー・ジャズは本来何をしたかったのかが、何となく理解出来る。

 
 

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2017年1月18日 (水曜日)

ジックリと聴き耳を立てる盤

パット・メセニー・グループ(Pat Metheny Group=PMGと略)に、専門のトランペッターが参入したのが、1995年リリースのアルバム『We Live Here』で、Mark Ledfordであった。このトランペットの参入は、PMGの音世界の彩りをワンステップ拡げた。ちょっとジャズっぽくなった。

そして、2002年リリースの『Speaking of Now』から、専門のトランペッターは、Cuong Vu(クオン・ヴー)に交代した。このクオン・ヴーが当たりで、PMGの音世界にピッタリな音色と音の拡がりに、初めて聴いた時はちょっと驚いた。パットのギターシンセとのユニゾン&ハーモニーが素晴らしい。PMGの唯一無二な音世界である。

そんなクオン・ヴーがリーダーとなってトリオを結成、そこに親分のパット・メセニーがギターで参加する、という、それって実はPMGとちゃうん、みたいなアルバムが出た。『Cuong Vu Trio Meets Pat Metheny』(写真左)である。昨年の5月のリリース。ちなみにパーソネルは、Cuong Vu (tp), Stomu Takeishi (b), Ted Poor (ds), Pat Metheny (g)。

それって実はPMGとちゃうん、と思っていた『Cuong Vu Trio Meets Pat Metheny』であるが、パーソネルを見て気が変わった。これは第2のPMGを狙った盤では無い。まず、PMGの音の要であるライル・メイズに該当するキーボードが無い。とすれば、PMG十八番のフォーキーでネイチャーなフュージョン・ジャズは期待薄である。
 

Cuong_vu_trio_meets_pm

 
そもそもクオン・ヴー・トリオからして、トランペット+ベース+ドラムのピアノレス・トリオ。フロント楽器(ここではトランペット)がリーダーでのピアノレス・トリオの主な目的は「限りなく自由度が高い」ということ。心情の趣くままに限りなく自由にフロント楽器を吹きまくりたい。そういう欲求が前面に押し出たのがピアノレス・トリオ。

そんな「限りなく自由度の高い」ピアノレス・トリオにパットがギターで参入する。ということは、PMGな音世界では無く、パット個人な音世界が狙いとなるだろう。そう、このアルバムは「限りなく自由度の高い」メインストリーム・ジャズである。部分的にはフリー・ジャズと言い切ってよいだろう自由でアブストラクトなアドリブ・フレーズが宙を舞う。

録音テクニックが優れていることもあって、4人編成の演奏ではあるが、音がとても厚い。フロント楽器がトランペットとギターであるが、音がとても厚くて豊か。この盤は、現代の硬派なメインストリーム・ジャズとして聴いた方が良い。戸惑うこと無く、この盤の素晴らしい演奏を堪能出来る。逆に、PMGな音世界を前提とすると、まず戸惑うだろう。

現代のメインストリーム・ジャズの好盤です。決して甘くは無い、どちらかと言えば硬派でシリアスな内容で、聴き流しなどには合いませんね。ある程度のボリュームで、良好なステレオ装置に相対して、ジックリと聴き耳を立てて聴き込むタイプのアルバムだと思います。

 
 

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2016年8月23日 (火曜日)

ドン・チェリーのモード・ジャズ

ドン・チェリー(Don Cherry)はフリー・ジャズな人である。フリーもしくは限りなくフリーなモード・ジャズの人。彼のトランペットは伝統的な音。伝統的なトランペットの音で、フリーもしくは限りなくフリーなモード・ジャズをやる。僕にはそういう印象しか無い。

そんなところで、このアルバムを聴く。Don Cherry『Art Deco』(写真左)。1988年8月の録音。ちなみにパーソネルは、Don Cherry (tp), James Clay (ts), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds)。う〜ん、このメンバーでフリーもしくは限りなくフリーなモード・ジャズをやるのか、という疑問が湧く。

で、このアルバムを聴けば、ちょっと戸惑う。正統派なモード・ジャズをやっているのだ。フリーでは無い、限りなくフリーなモード・ジャズでも無い。ノーマルでメインストリームなモード・ジャズ。ドン・チェリーがそんな「(良い意味で)普通のジャズ」をやるとは思わなかった。
 

Art_deco

 
しかし、このアルバムでのドン・チェリーのトランペットは良く唄っている。オープンもミュートも良く唄っている。滑らかでシンプルな、正統派モード・ジャズ。しかし、その響きは1960年代の響きでは無い。1980年代後半の純ジャズ復古後の先端を行くモード・ジャズ。実に美しいモード・ジャズが展開される。ドン・チェリーは当時52歳。これにはちょっと驚いた。

チャーリー・ヘイデン&ビリー・ヒギンズは以前からの「盟友」。ドン・チェリーの変身にしっかりと付き合う。逆に考えると、正統派モード・ジャズについては、チャーリー・ヘイデン&ビリー・ヒギンズは得意中の得意。ドン・チェリーの正統派モード・ジャズをしっかりと支えている。

若手中心の純ジャズ復古、ネオ・ハードバップの躍進。1980年代の終わり。そんなジャズのトレンドに、1960年代初頭にデビューしたベテラン・トランペッターが真っ向からチャレンジした。そんなチャレンジの記録がこの盤である。このチャレンジは素晴らしい音の記録『Art Deco』を残した。

 
 

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2016年7月 1日 (金曜日)

現代のスピリチュアル・ジャズ

「スピリチュアル・ジャズ」という言葉を聞くと、1960年代後半、フリー・ジャズの延長線上で、感情の赴くまま、激情的で精神性の高いブロウを延々と繰り広げる、アーチー・シェップやファラオー・サンダース、アルバート・アイラーなど、サックス奏者の名前が浮かびます。

この「スピリチュアル・ジャズ」は現代でも生きていて、最近、また結構、隆盛を極めつつあるのではないでしょうか。もともと、「スピリチュアル・ジャズ」は、アフリカン・アメリカンのジャズメン達が、精神的な故郷であるアフリカへの回帰、アフリカン・アメリカン独自の精神性などを追求した音楽です。ジャズが存在する以上、この「スピリチュアル・ジャズ」は無くなることはないのでしょう。

最近、この人の名前をちょくちょく聞く様になりました。Kamasi Washington(カマシ・ワシントン)。1981年生まれ。今年35歳のサックス奏者である。スピリチュアルなブロウが特徴で、現代の「スピリチュアル・ジャズ」の担い手といっても良いでしょう。そんなカマシがニュー・アルバムをリリースしました。

Kamasi Washington『The Epic』(写真左)。総勢60名以上のLAジャズ先鋭メンバーが参加した3枚組170分超えの超大作。この新作に、現代の「スピリチュアル・ジャズ」の音世界がギッシリと詰まっている。とっても魅力的な「スピリチュアル・ジャズ」。
 

The_epic1

 
1960年代後半の様な、フリー・ジャズの延長線上で、感情の赴くまま、激情的で精神性の高いブロウだけでは無い、スピリチュアルとバップとアフロが一体となった、ゴスペルの要素やブルースの要素、加えて「ネイチャー・ジャズ」な要素も併せて、聴き易く、印象的で、クオリティの高い、現代の「スピリチュアル・ジャズ」がここにある。

様々な音楽の要素を取り込んで再構築して、スピリチュアル・ジャズ的な音世界を現出しています。この音世界、とっても魅力的なんですよね。聴き易いアドリブの旋律に身を委ねつつ、時に感情の赴くまま、激情的で精神性の高いブロウに覚醒する。いやはや、確信犯的な「スピリチュアル・ジャズ」です。

リズムもフォービートではなくR&Bやファンク的なものが多く、アレンジは秀逸でバリエーション豊か、様々な音楽の要素を取り込んで再構築していて、いわゆる「真のフュージョン・ジャズ」と表現しても良いと思います。CD3枚組のボリュームなんですが、意外と一気に聴き切ってしまいます。

これから、この現代の「スピリチュアル・ジャズ」のコンセプトが意外とトレンドになっていくかもしれません。新しいジャズのスタイルとして、一気に広まる可能性を秘めた、そんなエポック・メイキングなカマシ・ワシントンの大作です。ジャズ者の皆さん、聴くべし、です。

 
 

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2016年5月20日 (金曜日)

今もフリー・ジャズは生きている

僕がジャズを聴き始めた頃は、ちょうどフュージョン・ジャズ全盛時代。1978年辺りからジャズのアルバムのコレクションを始めたんだが、ほどなく「フリー・ジャズ」に邂逅する。コルトレーンの『アセンション』だった。LPのAB両面に跨がる1曲の長尺怒濤のフリー・ジャズ盤。

感性のおもむくままに吹きまくり弾きまくり叩きまくる、怒濤の様な不協和音の嵐ではあるが、意外とすんなり耳に入った。子供の頃より、クラシック・ピアノを習っていたお陰で、クラシック音楽の、例えばバルトークとかストラビンスキーとかの不協和音がメインの交響曲なんかを聴いていた時期があったので、恐らく免疫が出来ていたのであろう。

しかし、普通の耳の感覚からすると、この不協和音は耐えがたいだろうし、感性のおもむくままに、他の楽器と協調すること無く、好き勝手に吹きまくり弾きまくり叩きまくると、普通は「音楽」とは感じないであろう。それが、普通の人の「フリー・ジャズ」に対する音の感じ方である。

「フリー・ジャズ」というのは、何も無勝手流に吹きまくり弾きまくり叩きまくるものでは無く、最低限の決め事はある。しかも、楽器に関してかなりのテクニックと、フレーズに関する見識が無いと、長時間、怒濤の様な不協和音の嵐の様なブロウを繰り広げることは出来ない。テクニックが無く、フレーズに関する見識が無いと数分のフリーなブロウで終わってしまうだろう。

そういう点からすると「フリー・ジャズ」って、極端な方向に振り切った「アーティスティックな音楽の塊」の様なものなんだが、耐えがたい不協和音と「音楽」とは呼べない無勝手なフレーズは一般には受けることは無い。ジャズ者初心者の頃、恐らく時間が経つにつれ、フリー・ジャズは衰退していく、と思っていた。
 

Crowded_solitudes1

 
さて、今日聴いたアルバムが、Eric Revis『Crowded Solitudes』(写真左)。2016年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Kris Davis (p), Eric Revis (b), Gerald Cleaver (ds)。フリー・ジャズには珍しい、管ものが無い「ピアノ・トリオ」。流れ的には、セシル・テイラー、山下洋輔の系統のフリー・ジャズである。

ブランフォード・マルサリスのベーシストとしてもおなじみ、エリック・レヴィスのリーダー作である。2001年からポルトガルのリスボンで活動を始めたジャズレーベル「Clean feed」からのリリース。”Creative Jazz”を掲げて、アーティスティックなフリー・ジャズやコンテンポラリーな純ジャズを中心に展開しているレーベルで、「Clean feedから出る音ならば買う」という根強いファンも多いとのこと。

確かに、この盤に詰まっている音は「アーティスティックな音楽の塊」。しかし、無手勝流に好き勝手に吹きまくり弾きまくり叩きまくるフリー・ジャズでは無い。しっかりと地に足付いた「ディシプリン(規律)」をベースに展開する、限りなくフリーに近いコンテンポラリーな純ジャズと言って良い内容。フリー・ジャズかと問われれば「ぎりフリー・ジャズ」。

テンションも高く、テクニックも優秀、規律を持ったアドリブ・フレーズはほどよくコントロールされ、それぞれの楽器がとってもよく「鳴っている」。それが証拠に、このちょっと難解な「アーティスティックな音楽の塊」なアルバムを、聴き始めたら一気に聴ききってしまう。どっこい「今もフリー・ジャズは生きている」と思った。

この盤のリーダーのエリック・レヴィスって、ベーシストなんですね。ベーシストのリーダー作としても、なかなか内容のある盤で、硬派でコンテンポラリーな純ジャズが好みのジャズ者の方々にはお勧めです。この「Clean feed」ってレーベル、ちょっと注目ですね。しばらく追いかけてみようかと思っています。

 
 

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2016年3月18日 (金曜日)

好盤『Dark To Themselves』

この10年位になる。ジャズを聴き始めて約40年になるから、ジャズを聴き初めてから30年位過ぎてからである。フリー・ジャズを抵抗なく、時々聴きたくなるようになったのは・・・。毎日は辛い。でも1ヶ月に2〜3回は突如として集中して聴きたくなる。

その定期的にやってくる「発作」の様な、フリー・ジャズ聴きたい症候群(笑)。今回は今日やってきた。フリー・ジャズ聴きたい症候群。さっそく選盤である。さてさて、何を聴くか。

で、取り出したアルバムがこれ。Cecil Taylor『Dark To Themselves』(写真左)。1976年6月18日、ユーゴスラビアのLjubljana Jazz Festival でのライブ録音である。ちなみにパーソネルは、Cecil Taylor (p), Jimmy Lyons (as), Raphe Malik (tp), David S. Ware (ts), Marc Edwards (ds)。

このライブ盤の内容が凄い。全1曲「Streams and Chorus of Seed」のみ。トータル約1時間。なんと潔い、そして常識外れの内容だろう。昔、この事実を知った時は呆れに呆れたことを覚えている。

LP時代はこのトータル約1時間の連続演奏をぶった切って、A面に「Streams」で23分、そしてB面に「Chorus Of Seed」で26分で、曲名までぶった切って収録している。CDになって、やっとちゃんとした(?)曲名「Streams and Chorus of Seed」で、トータル61分49秒の連続演奏をそのまま収録出来たことになる。
 

Dark_to_themselves

 
これがまあ「ど迫力」なのだ。しかし、セシル・テイラーのフリー・ジャズは全てにおいて言えるのだが、何故か「聴き易い」のだ。フリー・ジャズと言えば、アブストラクトに本能のおもむくまま吹きまくるので、時に聴くのが辛くなったり、耳をつんざく音に顔をしかめたりするのだが、セシル・テイラーのフリー・ジャズにはそういうことは滅多に無い。

デヴィッド・S・ウェアのテナーの延々と吹き継がれる「非生産的な叫び」。ジミー・ライオンズのアルトの「虚空の咆哮」。ラフェ・マリクのペットの「無意味なハイノート」。そんな3人の限りなくフリーな展開を、マーク・エドワーズのパーカッシブなドラムが鼓舞し支え、そして、セシル・テイラーのピアノがフリー・ジャズな演奏にまとめ上げていく。

渾然一体となったフリーな演奏なんですが、どこか組織的な、どこか規律に沿ったような側面があるのが実に個性的です。1時間の超長尺な演奏を要所要所で引き締め、刺激し、絞り込む。セシル・テイラーのバンド・サウンドをまとめ上げる力を、とても強く感じるライブ盤である。

1時間の超長尺な演奏なんですが飽きません。セシル・テイラーのバンド・サウンドの構築力は素晴らしい。演奏のバランスや録音も良好で、フリー・ジャズの好盤だと思います。

 
 

震災から5年。決して忘れない。まだ5年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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