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2018年10月12日 (金曜日)

完全復活の狼煙『Inside Out』

キース・ジャレットのリーダー作の聴き直しは続く。1998年、闘病の末、慢性疲労症候群から復活したキース。その頃、リリースした盤はさすがにイマイチだったが、1999年7月のライブ録音『Whisper Not』で完全復活を感じさせてくれた。少しだけ単調に展開してしまう部分はあったが、シンプルで判り易い、即興演奏として一期一会な展開が見事であった。

そして、次がこのライブ盤である。Keith Jarrett『Inside Out』(写真左)。2000年7月26 & 28日、ロンドンの「Royal Festival Hall」でのライブ録音。改めて、パーソネルは、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。いわゆる「スタンダーズ」である。この盤は全編78分のCD1枚ものである。

このライブ盤でのキースのパフォーマンスは申し分無い。リリカルで力強いタッチ、イマージネーション溢れるアドリブ・パフォーマンス、緩急自在のチェンジ・オブ・ペース。そして、復帰後、明らかに新しい個性である「ライトなスイング感」。昔の様に、社交ダンスを踊る様な「意識したスイング感」では無い。シンプルに自然に揺らぐ「平常心的なスイング感」。
 

Inside_out  

 
そして、特筆すべきは「スリリング感」。寄らば切れそうな、ハッと息を吞むような、カジュアルなスリリング感。決して、この「スリリング感」についてはキースは売り物にしていない。しかし、この盤で聴いて取れる様に、スダンターズのスリリング感は痛快である。アドリブ・パフォーマンスについては予測不可能。予測不可能を前提に印象的なアドリブ・パフォーマンスが展開される。

収録されたどの曲でも、この新たな個性を体験することが出来る。ほとんどフリーに近い自由度の高いアドリブ・パフォーマンスが見事。僕はこの盤で、キースの完全復活を確信した。他の二人、ベースのピーコック、ドラムのデジョネットも見事。親分のキースが完全復活〜絶好調である。二人のリズム隊も飛ばしに飛ばしまくる。久し振りの三者一体となった、即興性に富んだインタープレイである。

この『Inside Out』は、即興演奏の展開に重きを置いて演奏されているように感じる。それでも、先の『Whisper Not』で感じた「シンプルで判り易い」部分はこの盤でも継承されている。確かに、闘病後、キースは変わったと思う。このアルバムで重きを置いた「即興演奏の展開」についても、とてもシンプルで判り易い。爽快感すら感じるほどのシンプル度。シンプルなキースは凄みが増す。

 
 

東日本大震災から7年6ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2018年10月11日 (木曜日)

病気からの復活を示す記録である

1996年、キースは慢性疲労症候群と診断され、同年の秋以降の活動予定を全てキャンセルして自宅での療養を余儀なくされる。2年の闘病の後、1998年に復活したんだが、その頃のソロ・ピアノが『The Melody at Night, with You』(2014年3月30日のブログ)。これはキースの宅録のアルバム化であったが、かなり内省的でシンプルな展開。どれもがスローなテンポで終始しており、仄かに沈鬱な雰囲気も底に漂う感じで、どうにもこれが「復活作」なのか、と訝しく思ったものだ。

そこに出たのが、先日ご紹介した『Whisper Not』(2018年10月5日のブログ)。このスタンダーズ・トリオのライブ盤は素晴らしい出来だった。長い展開での「ビ・バップ」とでも形容したら良いだろうか、シンプルで判り易い、即興演奏として一期一会な展開が見事。これが、慢性疲労症候群という難病と闘った人の復帰後の演奏なのか、とビックリした。キースは本当に病気だったのか、と疑いたくなるような爽快な内容だった。

と、この復帰後ソロ作とスタンダーズ作との差がなかなか腹に落ちなかったのだが、そこにこの盤が登場した。Keith Jarrett『After The Fall』(写真左)。1998年11月の録音。先にご紹介した『Whisper Not』の9ヶ月ほど前のライブ録音になる。恐らく、闘病後復帰の程無い時期では無いかと思われる。復帰作とされるソロ・ピアノ盤『The Melody at Night, with You』の数ヶ月後のライブ・パフォーマンスなのではないか。このライブ盤のお陰で、やっぱりキースは重い病気と闘ってきたんだ、と確信することが出来た。

 
After_the_fall
 

さて、このライブ盤、録音が良く無い。ECMレーベルの録音とは思えない。音の周りにうっすら霧がかかったような、音の輪郭がハッキリしない、ノッペリとしたメリハリの無い録音。ピーコックのベースは躍動感に欠け、ディジョネットのドラムは切れ味に欠ける。これではスタンダーズの演奏の全てが悪いという印象になってしまうので、録音が良く無いことを念頭に置きながら、キースのパフォーマンスを確認することが必要になる。

その録音の悪さを割り引いても、このライブ盤のキースの演奏はまだまだ本調子では無い。『The Melody at Night, with You』に通じる、仄かに沈鬱な雰囲気も底に漂うほど内省的で、指回しも明らかに切れ味が不足している。アドリブ展開もイマージネーションと閃きが不足気味で、キース独特の手癖でごまかしてしまうような、ちょっと平凡なフレーズも見え隠れする。これはどう聴いても、このライブでのキースは本調子では無い。まだまだ復調していない。逆に7ヶ月後の『Whisper Not』の素晴らしさが際立つ。

なぜ、今年の3月になって、『Whisper Not』のリリース後、18年経った今にこのライブ音源をアルバム化した理由が判らない。コルトレーンの名曲「Moment's Notice」などはもうヨレヨレ。まだまだ長いアドリブ展開は難しい時期だったようである。ジャズ者である我々に、闘病後に奇跡的復活を遂げた「人間キース」を感じて欲しかったのだろうか。僕はこの盤を「キースの病気からの復活を示すドキュメンタリー」と捉えている。

 
 

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2018年10月 5日 (金曜日)

闘病後、キースは変わったと思う

キース・ジャレットの「スタンダーズ」のアルバムの聴き直しを再開した。1996年、キースは慢性疲労症候群と診断され、同年の秋以降の活動予定を全てキャンセルして自宅での療養を余儀なくされる。2年の闘病の後、1998年に復活。今、聴き直しはまさにその時期。当時の復活の「スタンダーズ」第一作目を聴いている。

Keith Jarrett『Whisper Not』(写真左)。1999年7月5日、パリでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。お馴染みの「スタンダーズ」トリオである。ライブ録音なのも従来通り。ボリュームのある内容でCD2枚組。ここまでくれば、もはやCD1枚には収まりきれないのだろう。

病気療養後のキースのピアノは明らかに変わった、と感じている。アドリブ展開については、変にこねくり回さずにシンプルで判り易い展開に変わっている。スタンダード曲の解釈については、変にアレンジせずに、スタンダード曲の持つ個性をストレートに押し出している。そして、大きな声で唸らなくなっている。これは良い。3者3様の演奏に耳を集中させることが出来る。
 

Whisper_not_keith_jarrett  

 
スタンダード曲の解釈もシンプルなものになった。シンプルであるがエネルギッシュな展開は病気療養後ならではのものがある。アドリブ展開はシンプルそのもの。面白いことに、これだけストレードでシンプルになればなるほど、スタンダード曲の良さがポッカリと浮かび上がってくる。端正で高テクニックで、タッチは少し聴くだけでキースと判る位に個性的。フレーズは決して捻らない。シンプルにそっとそのままにフレーズは展開される。

ジャック・デジョネットのドラミングの見事。ポリリズミックでダイナミックなデジョネットのドラムは「即興演奏」的雰囲気が満載。この盤では様々な工夫、テクニックを駆使していて、ジャズのドラミングの幅と表現力が明らかにアップしている。ピーコックのベースは安定感抜群。それでもこの頃から印象的なソロを繰り出す様になっている。このドラムとベースの音のレベルは途方もなく高い。これが「スタンダーズ」である。

慢性疲労症候群との闘病の後、明らかにキースのピアノは変わった。長い展開での「ビ・バップ」とでも形容したら良いだろうか、シンプルで判り易い、即興演奏として一期一会な展開が見事。しかし、キースが「Whisper Not」や「'Round Midnight」などの思い切り大衆的な「どスタンダード曲」をチョイスするなんて思ってもみなかった。そういう点でも、闘病後、キースは変わったのである。

 
 

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2018年5月22日 (火曜日)

究極のヨーロピアン・カルテット

1970年代のキース・ジャレット。アメリカン・カルテットとヨーロピアン・カルテットの平行活動。この2つの対照的なカルテットの音が実に面白い。キースはどちらのカルテットでも、そのパフォーマンスは変わらない。結果として、テナー・マンの音の個性がバンド全体の音の個性を決定付けている。アメリカン・カルテットのテナーは「デューイ・レッドマン」。ヨーロピアン・カルテットのテナーは「ヤン・ガルバレク」。

素直でエモーショナルな、音的には明らかに欧州的でクール、ファンクネス皆無の流麗かつ透明度の高いガルバレクのテナーが、キースの「ヨーロピアン・カルテット」の音作りの鍵を握っている。ガルバレクのテナーの音がスッと入ってくるだけで、そのカルテットの演奏は「ヨーロピアン・カルテット」の音の雰囲気に包まれる。

これがキースにとって良かったのか、悪かったのか。ナルシストで自己顕示欲の強いキースである。自分より目立つ、バンドの音を決定付けるテナー・マンの存在。最初の頃は、キース自身はソロ・ピアノも平行してやっていたので、ソロ・パフォーマンスについては、テナーに一歩譲る余裕があったかもしれない。でも、テナー・マンの人気が上がってくると、ちょっとなあ、って気分になったんやないかなあ。
 

Sleeper

 
Keith Jarrett『Sleeper』(写真左)。1979年4月16日、東京は中野サンプラザでのライブ録音。改めてパーソネルは、Keith Jarrett (p), Jan Garbarek (ts, ss), Palle Danielsson (b), Jon Christensen (ds)。所謂「ヨーロピアン・カルテット」な4人である。2012年7月、約33年の時を経て、突如、リリースされたライブ音源である。この音源、何故、お蔵入りしていたのか。暫くの間、不思議で仕方が無かった。

最近思うに、ガルバレクのテナーがあまりに素晴らしく、主従が逆転した様な演奏が多いことが原因ではないか、と睨んでいる。思わず「ヤン・ガルバレク・カルテット」かと思う位の内容。当時、キースはまだ34歳の若さ。この主従が逆転した様なカルテット演奏は、世に出したくなかったのかもしれない。それほどまでに、このライブ音源でのガルバレクのテナーは素晴らしい。ベースのダニエルソンも、ドラムのクリステンセンも、ガルバレクを鼓舞する様にビートを刻む。

ゴスペル風のアーシーな展開、モーダルで自由度の高い、時々フリーキーな演奏。素晴らしい内容である。演奏の整い方、楽曲の構成、想像性豊かなアドリブ・ソロ、どれをとっても、ヨーロピアン・カルテットの録音成果の中で、この『Sleeper』が頭1つ抜きん出ている。ヨーロピアン・カルテットの代表盤。ガルバレクが目立つ、これがまた、キースのヨーロピアン・カルテットの良き個性のひとつでもある。好ライブ盤である。愛でられたい。

 
 

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2018年5月18日 (金曜日)

ヨーロピアン4の集大成的な盤

キース・ジャレットの「ヨーロピアン・カルテット」を聴いている。ガルバレク、ダニエルソン、クリステンセンという北欧の新進と組んだ「ヨーロピアン・カルテット」。キースのピアノの美意識が最高に映える、硬質でクールでメロディアスな音世界。決して、勢いに任せているのでは無い、クールな熱気を帯びてフリーキーに展開する、自由度の高さ。

Keith Jarrett『Personal Mountains』(写真左)。1979年4月、中野サンプラザでの来日公演のライブ録音。ECMの1382番。改めてパーソネルは、Keith Jarrett (p), Jan Garbarek (ts, ss), Palle Danielsson (b), Jon Christensen (ds)。所謂「ヨーロピアン・カルテット」な4人である。ちなみにこのライブ盤、1989年になってECM創立20周年の企画として、リリースされている。

この盤には、ヨーロピアン・カルテットの全てが詰まっている。ゴスペル基調のアーシーでファンキーな演奏から、自由度の高い、クールで硬質なフリー・ジャズな音世界、そして、ジャズの王道のひとつ、モーダルなジャズの自由な展開。アメリカン・カルテットでも、演奏されるスタイルを、このヨーロピアン・カルテットでも演奏する。
 

Personal_mountain  

 
熱気溢れる、時にきまぐれではあるが、熱くフリーキーな展開が得意な「アメリカン・カルテット」。比べて、硬質でクールでメロディアスな、あくまで冷静な「ヨーロピアン・カルテット」。どちらがキースのピアノとの相性が良いのか、どちらがキースのピアノを目立たせることが出来るのか。この答えが、このライブ盤に有るように感じている。

キースはその比較、ヨーロピアン・カルテットとアメリカン・カルテットとの比較をずっとしてきた様な気がするが、この盤を聴くと「ヨーロピアン・カルテット」の方がキースのピアノとの相性が良いように感じる。ECMらしい独創性と前衛性に富んではいるが、決して難解では無い、逆に、アメリカン・カルテットに比べて、ポップで穏やかで聴き易い。

ファンクネスが皆無な分、キースのピアノが持つ独特な旋律が一層映える。演奏全体の雰囲気も、アメリカン・カルテットに比べて、明らかに端正。感情に任せた破綻は全く無い。その内容の良さに、聴くたびに惚れ惚れする。このライブ音源は、録音されてから約10年、お蔵入りになっていた理由が良く判らない。ヨーロピアン・カルテットの集大成的なアルバムである。

 
 

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2018年5月17日 (木曜日)

ヨーロピアン・カルテットの本質

キースのヨーロピアン・カルテットを聴いている。ヨーロピアン・カルテットとは、キースがリーダーとなって、ECMレーベルをメインに録音したカルテットのこと。1970年代中盤〜後半を中心に、約6年の活動期間だった。2012年までは、公式アルバム数は「4枚」だったが、2012年に『Sleeper』が追加リリースされて「5枚」。

そんなキースのヨーロピアン・カルテットなのだが、相対する「アメリカン・カルテット」と好対照な演奏内容なのかしら、と思うのだが、意外と演奏のコンセプトは同じ。同じ演奏コンセプトを、ヨーロピアンなテナーとリズム・セクションでやるとどうなるか。逆に、アメリカンなテナーとリズム・セクションでやるとどうなるか、キースはそれぞれ比較していたような気がしている。

Keith Jarrett『Nude Ants』(写真左)。邦題『サンシャイン・ソング』。1979年5月、NYのヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ録音。ECMの1171/72番。LP2枚組のボリューミーな盤である。改めてパーソネルは、Keith Jarrett (p), Jan Garbarek (ts, ss), Palle Danielsson (b), Jon Christensen (ds)。所謂「ヨーロピアン・カルテット」な4人である。
 

Nude_ants  

 
このライブ盤、演奏内容が面白い。ヨーロピアン・カルテットでありながら、ゴスペル・タッチのピアノをベースとした、米国ルーツ・ミュージックな、自由度の高い即興演奏がメインなのだ。ミッド・テンポでアーシーな演奏が心地良い。ガルバレクのサックスはあくまで「透明度溢れクール」。この盤での激しさはコントロールされた「激しさ」。アメリカン・カルテットの様な「気持ちの昂ぶりにまかせた激しさ」の微塵も無い。

加えて、ゴスペルタッチでアーシーな即興演奏でありながら、ファンクネスは皆無。ソリッドで硬質でクリアなリズム&ビートで、ゴスペル、カリプソな演奏を繰り広げる様は「爽快」。乾いたブルージーな旋律は明らかに「欧州的」。これぞ、ヨーロピアン・カルテットの演奏である、と言わんばかりの圧倒的パフォーマンス。

タイトルの「Nude Ants=裸のアリ」どういう意味かなあと思って調べてみたら、『Nude Ants』と収録曲「New Dance」の音が似ているところからつけられたタイトルとのこと(「ジャズ批評88キース・ジャレット大全集」より)。いわゆる言葉遊びですね。タイトルにはあまり意味が無いことが判りました。しかし、このライブ盤の演奏こそが、ヨーロピアン・カルテットの本質ではないか、と思っています。それほどまでに充実した内容のライブ盤です。

 
 

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2018年5月11日 (金曜日)

テナー・マンが音の鍵を握る

1970年代のキース・ジャレットの活動を振り返ってみると、とても面白い。代表的なのは、アメリカン・カルテットとヨーロピアン・カルテットの平行活動。なんで、こんな平行活動をしたのか、本人に訊いてみないと判らないのだが、正反対の演奏アプローチをしていて、比較して聴くと本当に面白い。

このアルバムは、音的には「ヨーロピアン・カルテット」。しかし、パーソネルを見ると面白いのは、ベーシストがアメリカン・カルテットと同じということ。それで、これだけ「ヨーロピアン・カルテット」な音が出るということは、カルテットの音の個性の鍵を握っているのは「テナー・マン」の個性ということになる。

そのアルバムとは、Keith Jarrett『Arbour Zena』(写真左)。邦題『ブルー・モーメント』(写真右)。全曲キース・ジャレットのオリジナル。オーケストラとの共演。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p), Jan Garbarek (ts, ss), Charlie Haden (b) に、Stuttgart Radio Symphony Orchestraがバックに着く。
 

Arbour_zena  

 
聴けば聴くほど「ヨーロピアン・カルテット」なんだけど、ベースの粘りが「ヨーロピアン・カルテット」と違う。もともと「ヨーロピアン・カルテット」のベーシストは、パレ・ダニエルソン(Palle Danielsson)。この「ブルー・モーメント」のベーシストは、チャーリー・ヘイデン。もともとは「アメリカン・カルテット」のベーシストである。

面白いのは、キースもヘイデンも意識して奏法や音を変えている訳では無いこと。意外とアメリカン・カルテットでもヨーロピアン・カルテットでも同じ音を出している。それでいて、どうして「アメリカン・カルテット」と「ヨーロピアン・カルテット」とで正反対の、対照的な音が出るのか。鍵を握っているのは「テナー・マン」。「ヨーロピアン・カルテット」では、ヤン・ガルバレクである。

素直でエモーショナルな、音的には明らかに欧州的でクール、ファンクネス皆無の流麗かつ透明度の高いガルバレクのテナーが、キースの「ヨーロピアン・カルテット」の音作りの鍵を握っているのだ。ちなみに「アメリカン・カルテット」はデューイ・レッドマン。テナー・マンの音の個性がバンド全体の音の個性を決定付ける。この『ブルー・モーメント』は見事なまでの好例である。

 
 

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2018年4月25日 (水曜日)

キースのヨーロピアン4の旗揚げ

さて、いよいよ、キース・ジャレットの「ヨーロピアン・カルテット」を語る時が来た。キースは奇妙なことに、1970年代をメインに、米国系ジャズメンで固めた「アメリカン・カルテット」と、欧州系ジャズメンで固めた「ヨーロピアン・カルテット」という、2つのカルテットを同時進行していた(その合間合間にソロ・ピアノもやっていた)。

どうしてそんな面倒くさいことをしたのか、本人にしか判らないが、僕にとっては今でも謎である。アメリカン4とヨーロピアン4で、演奏する内容が全く違っていれば、それぞれの地域のジャズメンの特質を活かしたものなんだな、ということになるが、これが、まあ、アメリカン4とヨーロピアン4で、意外と同じイメージの曲をやっていたりするのだ。比較して聴いてみると、キースの挑戦と実験、そして、試行錯誤が感じられて面白い。

Keith Jarrett『Belonging』(写真左)。キースの「ヨーロピアン・カルテット」の旗揚げ盤である。1974年4月24ー25日の録音。ECMからのリリース。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p), Jan Garbarek (ts, ss), Palle Danielsson (b), Jon Christensen (ds)。フロント1管、サックスに、ECMの看板男、テナーのヤン・ガルバレクを擁している。ベースのダニエルソン、ドラムのクリステンセンは、硬質で透明度の高い、明確にヨーロピアンなリズム・セクション。
 

Belonging  

 
冒頭の「Spiral Dance」は、明らかにヨーロピアンなニュー・ジャズ風。それでも、リズム&ビートは実にブルージーでアメリカン。そんなハイブリッドな魅力的な楽曲をキースは、ヨーロピアンな響きを湛えたピアノを弾きまくる。そこに、明らかにヨーロピアンな響きを湛えたガルバレクのテナーが参戦する。この瞬間が実にスリリング。音は硬質で透明度が高い。リズムもエッジが適度に立っている。ヨーロピアンな響き。

続く2曲目の「Blossom」は一転、ヨーロピアンなフリー・ジャズの世界に突入する。フリーキーな演奏については、ガルバレクが強力でピカイチ。ガルバレクのフリーキーなブロウで、曲全体は一気に北欧化する。キースの存在が薄れる中、3曲目の「Long as You Know You're Living Yours」は、アーシーでゴスペルチックな米国ルーツ音楽風の展開。それを欧州系のジャズメンが追従する。

ニュー・ジャズ風の演奏、フリー・ジャズな演奏、アーシーでゴスペルチックな米国ルーツ音楽風な演奏、いずれもアメリカン4でもやっていた演奏。しかし、このヨーロピアン4、ガルバレクのテナーの威力が強力で、ガルバレクのブロウ一発で、演奏は一瞬にしてヨーロピアンな色に染まる。リーダーのキースより目立つガルバレク。この関係が今後どう影響するのか。それが楽しみに感じる、ヨーロピアン4ファースト盤である。

 
 

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2018年3月 8日 (木曜日)

キースらしからぬ「例外の一枚」

キース・ジャレットの「スタンダーズ」の新盤がリリースされた。慢性疲労症候群という難病に冒され、1996年のソロ・ツアー以降、休養状態に、このまま、引退かとも思われた。しかし、1998年に復帰。その復帰後初となった1998年の「スタンダーズ」でのライヴ・レコーディングが、今回、リリースされた。

が、この盤のお話しは後日に譲るとして、休養前、唯一枚、聴き直しを漏らしていた、スタンダーズのライブ盤について、ここで語っておこうと思う。Keith Jarrett『Tokyo '96』(写真左)。1996年3月30日、東京渋谷のBunkamura・オーチャードホールでのライブ録音。改めて、パーソネルは、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。いわゆる「スタンダーズ」の3人である。

休養に入った年が1996年なので、この東京でのライブは、休養直前、キースとしては体調はほぼ最悪であったと思われる。確かにそうやな、と思われる「ふし」が幾つかある。まず、演奏全体、特にキースのソロが落ち着いている。落ち着いているが故に判り易い。あまりに判り易い。そして、あのキースの「唸り声」がかなり小さめで発生も少ない。
 

Tokyo_96  

 
むむ、で、この盤の評判を見てみると、評判は上々。キースの演奏は「落ち着いていて、判り易い」。キースのピアノを理解するには最適である、という、このライブ盤は「スタンダーズ」のベスト盤という感想まである。そう言えば、例のキースのソロ盤『ケルン・コンサート』も似たような状況だったような。確かあの時もキースは体調が最悪だったはず。キースってちょっと可哀相。体調の悪い時の演奏ほど、評判が上々だったりするのだ。

で、僕の感想は、やはり、このライブ盤のキースは「いつものキースでは無い」。いつもは、もっとアグレッシブでメリハリが効いていて、ところどころフレーズが捻れていて複雑なところがあって、唸り声が絶好調なはず。僕にとってそんなキースが絶好調なキースであって、この盤でのキースはどこか「いつものキースと違うという違和感」が色濃く漂っていて、楽しんで聴くことは出来るんだが、聴き終えてから、なんだかちょっと違うなあ、という思いに駆られるのだ。

そして、このライブ盤、いつになく、ジャック・デジョネットのドラムが大きくフューチャーされている。ポリリズミックなデジョネットのドラムは素晴らしいのだが、スタンダーズはキースのピアノが一番目立たなければならない筈なんだが、これも違和感。この違和感が色濃く漂うライブ盤、振り返れば、この後、難病に取り憑かれ休養を余儀なくされる、そんな厳しい状況下で録音された、キースらしからぬ「例外の一枚」である。

 
 

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2018年3月 7日 (水曜日)

キースのアメリカン4の決定盤

ずっと、キースのアメリカン・カルテットの諸作を聴き直して来て、つまるところ「キースのアメリカン・カルテット」って何やったんや、という思いが強い。Impulse!レーベルの諸作を順番に聴き直してみて、これは、と思う素晴らしい部分もあるんだが、あれれ、とちょっとズッこける部分もあって雑然としている。全体を通して、まんべんなく充実しているアルバムが無いのだ。

それが「アメリカン・カルテット」の面白さと言えば面白さ。きちっとまとまっていない、ちょっと雑然として、ちょっと散漫とした部分が味と言えば味なのだ。音楽性としても、フォーキーでアーシーなフォービートの曲想もあれば、フリーキーでアブストラクトな曲想もあれば、思いっきりモーダルな自由度の高い曲想もあれば、瞑想的な幽玄でスピリチュアルな曲想もある。とにかく、キースのやりたいことがごった煮。

雑然、ごった煮のアメリカン・カルテットが、なんと欧州の純ジャズ・レーベルの雄、ECMレーベルに2枚のアルバムを残している。1枚はスタジオ録音、もう1枚はライブ録音。アメリカン・カルテットって、その名の通り、米国っぽいカルテットで、大雑把で雑然としていてごった煮。これが、欧州のレーベル、それも現代ジャズの宝庫、ECMレーベルにアルバムを残しているのだ。
 

The_survivors_suite_2  

 
Keith Jarrett『The Survivors' Suite』(写真左)。邦題『残氓』。1976年4月の録音。アメリカン・カルテットなのにドイツでの録音である。ここからしてユニーク(笑)。ちなみに改めて、パーソネルは、Keith Jarrett (p, ss, celeste, ds), Dewey Redman (ts, per), Charlie Haden (b), Paul Motian (ds, per)。キースはピアノだけでなく、ソプラノ・サックスを吹いたり、ドラムを叩いたり。やりたい放題である(笑)。

ちなみに、このECMの『残氓』、アメリカン・カルテットの諸作のなかで、一番カッチリとまんべんなく充実してまとまっているアルバムなのだ。キースの大好きな「フォーキーでアーシーなフォービートの曲想」だけを省いて、フリーキーでアブストラクトな曲想と、思いっきりモーダルな自由度の高い曲想と、瞑想的な幽玄でスピリチュアルな曲想がバランス良く、織り込まれていて、素晴らしいパフォーマンスとして記録されている。

ECMの総帥、マンフレッド・アイヒャーのプロデュースの成せる技なのか、あの雑然、ごった煮のアメリカン・カルテットの音世界が、実にアーティスティックにきっちりとまとまっている。メンバーのパフォーマンスもバランスが良く、キースだけが目立つことも無い。この『残氓』こそが、キースのアメリカン・カルテットのスタジオ録音の決定盤だと僕は思う。アメリカン・カルテットについて、やっと溜飲が下がった思いだ。

 
 

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