2020年7月 1日 (水曜日)

小曽根の好「ピアノ・トリオ」盤

日本人ジャズ、いわゆる「和ジャズ」を聴き進めている今日この頃。とにかく、和ジャズについては歴史が古く、1950年代からリーダー作があったりする。いつの時代も、米国ジャズ、欧州ジャズと同じレベルで、日本人によるジャズを展開している。これって、素晴らしいことだと思っている。「音楽」に対する日本のレベルの高さを表していると感じている。

小曽根真『Spring is Here』(写真左)。1986年12月の録音。ちなみにパーソネルは、小曽根真 (p), George Mraz (b), Roy Haynes (ds)。プロデュースは「Gary Burton & Hideharu Ebine」。小曽根真(おぞね・まこと)は、1961年3月生まれ。録音当時は24歳。バリバリの若手ジャズ・ピアニストのリーダーとしてのサード盤である。

とにかく「若々しい」小曽根のピアノである。タッチは明確でキビキビとしていて爽やか。フレーズはバップで耽美的な「エヴァンス」風。弾き回しはよく回る指捌きは「ピーターソン」風。フレーズにはそこはかとない、日本人独特の「乾いたファンクネス」が漂う。

どこかで聴いたことがあるような音なんだが、ぴったりと当てはまる音は無い。その頃までのジャズ・ピアノに「ありそうで無い」小曽根の個性的なピアノが素晴らしい。
 
 
Spring-is-here  
 
 
小曽根の才能を見出し、プロとしての活動の機会を与えた、師匠の「ゲイリー・バートン」がプロデュース。小曽根の個性そのままをしっかりと捉える「自然体」のプロデュースがバッチリ当たっている。結構「ど」の付くスタンダード曲のオンパレードなんだが、小曽根の個性的な引き回しとピアノの音色によって、マンネリズムを感じることは無い。そう来るか、とハッとする感じのアドリブ・フレーズがとても楽しい。

バックのリズム隊も素晴らしいパフォーマンスを発揮している。まず、ムラーツのベースが良い。変幻自在、硬軟自在、そして高テクニック。小曽根のピアノの様々な表情や変化に対して、高レスポンスで対応する。先読みするかの様な、その時その時の小曽根のピアノにピッタリ合ったサポートは見事。

ヘインズのドラミングも見事。凄く良い音と高テクニックで、様々な、その時その時に最適なリズム&ビートを叩きだし、小曽根のピアノを鼓舞し引き立てる。

意外と我が国ではあまり採り上げられることの無いトリオ盤ですが、日本ジャズとして、スタンダードなピアノ・トリオとして、なかなか充実した、内容の濃いアルバムです。ジャズ者初心者の方にも、ピアノ・トリオ者のベテランの方にもお勧めの好盤。
 
 
 

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  ・『You’re Only Lonely』 1979

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  ・Zep『永遠の詩 (狂熱のライヴ)』

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  ・太田裕美『手作りの画集』

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2020年6月30日 (火曜日)

なかなか良いピアノ、弾いてます

遠く遠く学生時代にジャズを聴き始めた頃から、定期的に「日本人ジャズ」の新盤を追いかけている。もともと、日本人ジャズのレベルは高い。世界的に見ても上位のレベルに位置していると評価してよいだろう。特に、2001年、山中千尋がデビュー盤をリリースした頃から、日本人ジャズの逸材が多く出現する様になった。今でも毎年の様に、日本人ジャズの逸材が現れ出でている。

三輪洋子『Keep Talkin'』(写真左)。2019年のリリース。ちなみにパーソネルは、Yoko Miwa (p), Will Slater (b), Scott Goulding (ds), Brad Barrett (b on 11)。日本人の「正統派モダンジャズ・ピアノの担い手」の一人、三輪洋子のリーダー作。2年ぶりの新盤。

デビュー盤『In The Mist Of Time』が2000年のリリースだから、もうデビューして20年近くが経つのか。しかも1970年生まれだから、今年で50歳。経歴的にも年齢的にも、もはや中堅ジャズマンである。2011年にはバークリー音楽大学のピアノ科の助教授に任命されている。これは秋吉敏子以来、約30年ぶりに日本人女性がピアノ科のプロフェッサーに選ばれたという歴史的にも名誉ある出来事であった。
 
 
Keep-talkin  
 
 
ネットのどこかの紹介文にあった、三輪のピアノの特徴。「スクエアー・バピッシュ&ファンキー・ダイナミック」「耽美的でロマンティック」。確かに聴いたまま、文章で表現したらこうなるかな。加えて、力感のある左手の低音、耽美的なスイング感溢れる右手。そして、このところ、純ジャズな「ハードボイルド」にポップな雰囲気が加わってきて、とても聴き易いイメージになっている。

オリジナル曲に加え、モンク、ミンガス、ビートルズ、ジョニ・ミッチェルらの曲を取上げ、趣味の良いアレンジでカヴァっている。ネオ・スタンダード化の動きは以前からあるが、なかなか良いアレンジに恵まれなかった。しかし、この三輪のアレンジはなかなか良い。特にビートルズの「Golden Slumbers / You Never Give Me Your Money」の弾き回しには感心した。

僕は、三輪のアーシーな左手のブロックコードと右手のファンキー&スインギーな弾き回しが大のお気に入り。ジャズの歴史上の様々なピアニストの個性をよく研究して自らのものにしているのが良く判る。まだまだ我が国では認知度が低いが、日本人らしいメロディー感覚と乾いたファンクネスも心地良く、なかなか良いピアノ、弾いてます。
 
 
 

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2020年6月27日 (土曜日)

日本人のスピリチュアル・ジャズ

最初聴いた時は「まだこんなに古風でハードなフリー・ジャズやってる人がいるんや」と感心した。フリー・ジャズについては、コルトレーンが確立し、このコルトレーンの技法を深化させていったものが大勢。基本的には1980年代以降、スタイルを揺るがすような、新しい要素は出てきていない。

逆に、スピリチュアル・ジャズは、フリー・ジャズから枝分かれして、感情をダイレクトに伝える為の自由な奏法、いわゆるフリー・ジャズの奏法を使って、ダイレクトに感情に訴えるジャズ、だと僕は解釈している。現代では、情熱的にフリーに吹きまくるのも未だにあるが、クールで静的な吹き回しで感情にダイレクトに訴えるものも多く出てきた。現代のスピリチュアル・ジャズのトレンドと言っても良い。

森山威男 Quartet『Green River』(写真)。1984年7月6日、西独バイエルン州、ニュルンベルクで催されたジャズ祭(East-West Jazz Festival)でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、森山 威男 (ds), 井上 淑彦 (ts, ss), 榎本 秀一 (ts, ss,fl), 望月 英明 (b)。フロントがテナー・サックス2本。ピアノレス。リズム隊は、リーダーの森山のドラムと望月のベースで対応する。意欲的かつチャレンジブルな編成である。
 
 
Green-river  
 
 
現代のジャズ盤かと思ったら、1984年のライヴ録音の初CDリイシュー。どうりで、冒頭の「Ta-Ke」は、当時のフリー・ジャズそのもの。懐かしい響きがする。明らかに「コルトレーン」だが、演奏テクニックは素晴らしい。日本人ジャズマン、やるなあ、と嬉しくなる。しかし、2曲目の「Night Story」では、2本のテナーが大活躍。静的ではあるが、躍動感溢れる演奏。

そして、5曲目の「Tohku」などは、フロントのテナー2管にフルートも加わって、エモーショナルではあるが、クールで静的な、時々エモーショナルな「スピリチュアル・ジャズ」が展開される。メロディアスで郷愁感溢れる、硬派ではあるが耽美的なサックスのブロウ。現代の「スピリチュアル・ジャズ」に繋がる、情緒的なフリー・ジャズがここにある。1980年代半ば、ということを考えれば、素晴らしく独創的な演奏だと僕は思う。

僕はこの盤については、LPで聴いた事が無かった。初CDリイシューということで、初めて聴いた盤なのだが、当時の日本人ジャズマンの、特にフリー・ジャズ&スピリチュアル・ジャズのレベルの高さ、先進的な演奏に驚いた。1970年代、山下洋輔を中心に、日本人によるフリー・ジャズは欧州でウケにウケたというが、それも納得。この西独のジャズ祭でも「大盛り上がり」である。
 
 
 
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  ・『Bobby Caldwell』 1978

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  ・Led Zeppelin Ⅲ (1970)

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  ・太田裕美『心が風邪をひいた日』
 

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2020年6月24日 (水曜日)

爽快なTースクエアの新盤です

僕がジャズを本格的に聴き始めたのが1978年。当時のジャズは「フュージョン・ジャズ」の全盛時代。猫も杓子もフュージョン・ジャズ、老舗のジャズ喫茶もこぞってフュージョン・ジャズ。我が国でもフュージョン・ジャズのブームは凄まじく、純ジャズ系のジャズマンの中でも、フュージョン・ジャズに宗旨替えして活躍するジャズマンが出てきたりした。

そんなフュージョン・ジャズの大ブームの中、我が国では2つのフュージョン・ジャズを代表するバンドが出現した。1つは「カシオペア」もうひとつは「スクエア」。どちらもコッテコテのバカテク集団で、カシオペアはどちらかといえば、フュージョン・ジャズの「ジャズ」の部分に力点を置いている様であり、スクエアはどちらかと言えば「ロック&ポップ」の部分を押し出している感じだった。両グループとも、カシオペアは「カシオペア 3rd.」、スクエアは「T-スクエア」と改称して、現在も活躍中である。

T-Square『AI Factory』(写真左)。2020年4月のリリース。T-Squareの通算47枚目となる最新オリジナル盤。ちなみにパーソネルは、安藤正容 (g), 伊東たけし (sax, EWI, fl), 河野啓三 (key), 坂東慧 (ds), サポート・メンバーとして、田中晋吾 (b), 白井アキト (key) が参加している。
 
 
Ai-factory-1  
 
 
前作では急病で入院の為、バンドの音楽監督的存在であるキーボードの河野が不参加だったが、今回、懸命のリハビリの末、復帰している。よかったなあ。アルバムタイトル『AI Factory』には、「近未来の愛(AI)と友情のロボット工場」という意味が込められた、とのこと。意味深なアニメのジャケットなので、アニソンか何かのカヴァー盤かな、と訝しく思ったのだが違った。

Tースクエアの音をずっと聴き続けていないと、その変化が判り難いのだが、内容的には相変わらず、「T-スクエアらしい」金太郎飴的なアプローチと、T-スクエアらしからぬ、新しいアプローチが混在していて、なかなか聴き応えのある音に仕上がっているところは流石である。フュージョン・ジャズの中でも「ロック&ポップ」の部分を押し出しているのは従来通りなのだが、曲毎における音作りのモチーフが今までに無いものになっている。恐らく、サポート・メンバーの白井の存在が大きく作用しているのはないか、と睨んでいる。

バカテク、疾走感溢れる展開、切れ味鋭いフレーズ、いずれも変わらない。変わらなければ「飽きる」のだが、意外と飽きないT-スクエアの音世界。まだまだ「チャレンジ&進化」の要素が新作の中に必ずあって、この「チャレンジ&進化」の要素が有る限り、T-スクエアの音はマンネリにはならないだろう。今回の新作も聴き応え充分。まだまだ、T-スクエアは進化しそうな気配。まだまだ元気な様子、なんだかホッとしました。
 
 
 

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2020年6月 2日 (火曜日)

日本製のソウル・ジャズがある

我が国では、ソウル・ジャズやジャズ・ファンクは「俗っぽい」ものとされ、ジャズの中でまともに扱われることは無かった。特に、1970年代に入ってからは、ジャズはマニアの聴くものとされていて、そのマニアのジャズ者の方々は「硬派」な人が多い。ハードバップ、モード・ジャズ、フリー・ジャズが絶対であり、ファンキー・ジャズやソウル・ジャズは認めない、という極端に走るジャズ者の方々が多かった様に思う。

本田竹彦『What's Going on』(写真)。1973年の録音。ちなみにパーソネルは、本田竹彦 (p, el-p), 伏見哲夫, 森川周三 (tp), Teddy Adams (as), 峰厚介 (as), 武田和命 (ts), Ken Lawson (g), 川端民生 (b), 楠本卓司, James Cheek (ds), 今村裕司 (conga)。11人編成。ビッグバンドまではいかないまでも、ビッグバンドまがいの分厚い演奏が格好良い。

僕が、日本には「ソウル・ジャズ、または、ジャズ・ファンク」は無いのかな、と思っていたのが1990年代。やっぱり硬派なジャズ者の方々がメインの我が国のジャズ・シーン。俗っぽいものは基本的に売れない。だからレコード会社も作らない。と思っていたら、2000年代後半、2008年だったかこの盤に出会い、ありゃりゃ、日本にも「ソウル・ジャズ、または、ジャズ・ファンク」な盤があったんや、と感動した。
 
 
Whats-going-on  
 
 
収録されていた曲を見渡せば、当時のソウル・ミュージック、R&Bの好曲をカヴァーしている。どの曲も、日本人特有のカラッカラに乾いたファンクネスが蔓延、これまた日本人独特の端正で整然としたユニゾン&ハーモニー。いずれも結構有名な曲のカヴァーなので、イージーリスニングっぽくなると思いきや、ジャズ演奏の基本はしっかりと押さえている様で、しっかりとジャズに聴こえるところがこの盤の良いところ。

本田はアコピのみならず、エレピも弾きこなしており、どちらも「乾いたファンクネス」がしっかり漂うところがニクい。バンド全体の演奏の雰囲気は、ビートはジャズ・ロック、旋律はソウル・ジャズ、または、ジャズ・ファンク。演奏自体に破綻は全く無い。優等的演奏。それでも、原曲の良さが秀でていて、ライトなソウル・ジャズ、または、ジャズ・ファンクとして、上手くまとまっている。

この盤によって、本田は我が国で「黒人的なプレイができるとピアニスト」という評価を受けるようになる。しかし、この「ソウル・ジャズ、または、ジャズ・ファンク」路線を踏襲すること無く、メインストリーム系ジャズの佳作を数枚リリース。そして1978年、突如、峰厚介らと純日本フュージョン・グループ、ネイティブ・サンを結成し、人気バンドの一員として時代の寵児の1人となる。
 
 
 

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  ・チューリップ 『TULIP BEST』
  ・チューリップ『Take Off -離陸-』
 
 
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2020年5月31日 (日曜日)

1980年代半ばの和ジャズ好盤

1980年代はバブル景気の時代。我が国では1980年代半ばに差し掛かる頃から、バブル景気に乗って、ジャズはお洒落な音楽として捉えられる様になる。イージーリスニング・ジャズ風の毒にも薬にもならない、聴き心地の良さだけを追求した、流行を過ぎたフュージョン・ジャズが横行した。それでも、1980年半ばからの「純ジャズ復古」の動きに乗って、硬派な純ジャズが復活してきた。

大森明『Back to The Wood』(写真左)。1986年8月9日の録音。DENONレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Akira Ohmori (as), Ray Bryant (p), Yoshio Suzuki (b), Yoshiyuki Ohtsuka (ds)。ファンキー・ピアノの雄、レイ・ブライアントが参加しているのが目を引く。ベースに鈴木良雄、ドラムに大塚義之 といった、当時の和ジャズの中堅どころが座る。今回、改めての「聴き直し」である。

日本人アルト・サックス奏者である大森明が渡米生活を終えて帰国、1987年に録音したリーダー作第2弾。大森明は1949年生まれ。録音当時は37歳(今年で71歳になる)。ジャズマンとしてちょうど中堅に差し掛かる充実した年齢。バークリー音楽院に学び、在学中からソロイストとして活躍。卒業後8年間、ニューヨークにて活動。印象に残っているのは、ミンガスの晩年のリーダー作『Me Myself An Eye』と『Somethin’ Like A Bird』に参加している。
 
 
Back-to-the-wood
 
 
この大森の『Back to The Wood』、ジャケットこそ、お洒落なイラスト・イメージの「バブリーな」ものだが、中身はしっかりとしたメインストリーム・ジャズである。大森のアルト・サックスは爽快でブリリアント。躍動感があって端正この上無い。疾走感もあるし、スイング感も申し分無い。このちょっと優等生的なアルト・サックスを、ファンキー・ジャズ・ピアノの雄、レイ・ブライアントは支え鼓舞し、ファンクネスを注入している。

大森のアルト・サックスとブライアントのピアノの組合せが見事。適度なファンクネスが加味されて、それまでの日本人の純ジャズにはあまり聴かれなかった、ファンキーなネオ・ハードバップ調のカルテット演奏になっている。とにかく、伴奏上手と言われたブライアントのバッキングが見事。大森の爽快でブリリアントなアルト・サックスの個性を損なうこと無く、いつになく爽快でブリリアントなバッキングに終始して、大森のアルト・サックスを効果的に引き立てている。

バブリーなお洒落なイラストに惑わされるなかれ。ファンキー・ピアノの雄、ブライアント+日本人中堅リズム隊のピアノ・トリオのバッキングも見事、大森のアルト・サックスは、純ジャズの王道を行く「爽快でブリリアント、躍動感があって端正」。意外とこの盤には、当時のメインストリーム・ジャズの「良いところ」がギュッと詰まっている。1980年代の和ジャズにおける「純ジャズ」の好盤である。
 
 
 

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2020年5月30日 (土曜日)

和の純ジャズ・ピアノに辛島あり

和ジャズの好盤を集中して聴いている。意外と和ジャズの純ジャズ系の好盤は、1970年代から1980年代にゴロゴロしていたりする。その頃のジャズのトレンドといえば「クロスオーバー・ジャズ」から「フュージョン・ジャズ」。当時の硬派なジャズ喫茶もこぞってフュージョン・ジャズに染まっていた、というから始末が悪い。純ジャズ系の好盤は「知る人ぞ知る」マニアックな存在になっていた。

それでも、当時、和ジャズのスターだった、渡辺貞夫、日野皓正、渡辺香津美などが「フュージョン・ジャズ」に転身した後も、ジャズ雑誌の老舗「スイングジャーナル」では、毎月、ディスク・レビューで純ジャズ系の和ジャズも細々とではあるが紹介していた記憶がある。1970年代後半は、僕がジャズを本格的に聴き始めた頃。ジャズ雑誌を舐めるように熟読していた時代でよく覚えている。

辛島文雄『'Round Midnight』(写真)。1983年8月10日,11日の録音。Kenwood系列のFullhouseレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、辛島文雄 (p), 桜井郁雄 (b), 日野元彦 (ds)。全7曲中後半の3曲にだけ、ラリー・コリエル (g) が参加している。純日本人のピアノ・トリオ+一部ギター入りのカルテット、という不思議な構成のアルバムである。
 
 
Round-midnight_20200530210501   
 
 
辛島は1975年に初リーダー作を録音していて、この盤は9枚目のリーダー作。先にも述べたように、「クロスオーバー・ジャズ」から「フュージョン・ジャズ」の大ブームの中で、内容の濃いリーダー作を9枚もリリースしていたのだ。その頃の辛島文雄トリオはその実力からして,日本を代表するピアノ・トリオの位置付けにあった。その「実力」が実感出来る好盤のひとつが、この『'Round Midnight』。

収録曲の選曲も一捻りも二捻りもしているのが判る。冒頭の2曲「ラウンド・ミッドナイト」「枯葉」は、和ジャズ盤ではよくありがちなスタンダード曲なんだが、3曲目のコルトレーンの「ワイズ・ワン」、続くロリンズの「オレオ」など、ピアノ・トリオでやるとは「捻くれてる」(笑)。そして、コリエルを加えて、大ファンキー曲「ニカズ・ドリーム」、ムーディーな「イン・ユア・オウン・スイート・ウエイ」は何となく判るが、ラストのショーターの「フットプリンツ」をやるなんて硬派やなあ。

今回、聴き直してみて、コリエルの参加にはちょっと疑問符は付くが、辛島トリオについては申し分の無いパフォーマンスを展開している。プロデュースの問題なんだろうが、コリエルの起用法をもう少し煮詰めておれば、さらに内容の高い好盤になっていたと思われる。それでも、当時、純ジャズ・トリオに辛島あり、ということを再認識させてくれる好盤ではある。お勧めです。
 
 
 

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2020年5月29日 (金曜日)

ファンキーな和ピアノ・トリオ

和ジャズの特集週間になっている。いろいろ、資料を漁っていて、これも聴きたい、あれも聴きたい、とアルバムを集めていったら、かなりの数に上ってきた。これはイカン、ということで、徹底的に和ジャズのアルバムを聴き進めて行くことにした。和ジャズといっても、最近のアルバムが中心となる。昔の好盤についてはリイシューのタイミングを捉えての聴き直しになる。

西直樹『My Little Suede Shoes』(写真左)。1980年2月19日の録音。録音エンジニアは菅野沖彦、トリオ・レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、西直樹(p), 山口和与(b), 猪俣猛(ds)。スイング・ジャーナル主催の第14回(1980年度)ジャズ・ディスク大賞の最優秀録音賞(国内録音)を受賞している。つまり、内容も良好、音が良い盤である。

いきなり、昔の好盤のリイシューのタイミングを捉えた聴き直し盤のご紹介である。まだ、CDなど無い、LPの時代。しかも、録音年の1980年はフュージョン・ジャズの大ブームの後半。まだまだ、フォー・ビートなジャズは片隅に追いやられていた時代。

LPの帯紙のキャッチが「フォー・ビートは俺に任せろ!! スタンダード・ナンバーをとり上げて、新鮮で瑞々しい感覚、力強いタッチ、スピード感、よどみなく流れるアドリブ、乗りの良いスイング感で、今後のジャズ界を背負って立つにふさわしい、西直樹の個性を充分に捉えたデビュー・アルバム」とある。なかなか、この盤の特徴を捉えた、優れたキャッチ文句である。
 
 
My-little-suede-shoes_20200529205401  
 
 
冒頭の「Jubilation」から、今までの和ジャズの雰囲気とは異なる。コール・アンド・レスポンスの前奏から、乾いたファンキーな弾き回し。こういった「乾いたファンクネス」丸出しのピアノ・トリオは、それまでの和ジャズにはあまりなかったもの。モードはアーティスティックなのでやるが、ファンキーは俗っぽいからやらない、という当時の和ジャズの傾向に風穴を開けた印象のピアノ・トリオ盤である。

西のピアノのテクニックが凄い。速いフレーズの弾き回しは破綻が無く、乱れが無い。しかも、鍵盤の端から端まで使ったかの様なスケールの広い弾き回し。ダイナミックで幅の広い弾き回しは、まるで、オスカー・ピーターソンのピアノを聴いているみたいだ。アドリブ・フレーズもユニークなもの。バップなピアノであるが、誰かのフォロワーの音では無い、西直樹独特の個性的な音である。

実はこの西直樹、この初リーダー作の後、破竹の勢いで2年間に4枚のリーダー作をトリオ・レコードに残すが、その後は今までに4〜5枚のリーダー作のリリースに留まり、LPの帯紙通り「今後のジャズ界を背負った」とは言い難い。今では、ジャズ・ピアノの教育に力を入れておられるみたいです。

が、この初リーダー作は、非常に内容のあるピアノ・トリオ盤である。ジャケットもなかなか粋なイラスト調で良い感じ。我がバーチャル音楽喫茶『松和』では、今でも時々かかる「息の長い」ヘビロテ盤である。
 
 
 

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2020年5月28日 (木曜日)

前田憲男とウィンドブレイカーズ

和ジャズ(日本のジャズ)が元気である。ジャズの発祥は米国であるが、我が国の「和ジャズ」の歴史は古い。戦前のスイング・ジャズの流行から始まり、戦後は欧州と同じタイミングで、ビ・バップやハードバップにいち早く適応している。

和ジャズは、この1950年代のビ・バップへの適応から、1960年代はハードバップを中心に拡がりを見せ、1970年代はフュージョン・ジャズに、ビッグバンド・ジャズに活躍。1980年代はバブル景気に乗って、内容の薄いお洒落なジャズが横行したが、バブル景気が弾けて淘汰された。1990年代から第2世代とも呼ばれるべき、新世代のジャズが現れ出で、21世紀に入って、ネオ・ハードバップを中心に、そして、何故か女性中心に隆盛を極めている。

前田憲男とウィンドブレイカーズ『Wind-Breakers』(写真左)。1980年の録音。当時、和ジャズの最先端を行く、前田憲男率いる「ウィンド・ブレーカーズ」の記念すべき最初のレコーディング。 全て前田憲男のオリジナル楽曲で固めた、フュージョン・ジャズ志向のビッグバンド・ジャズ風の音世界である。ちなみにパーソネルは、前田憲男 (p, arr), 沢田駿吾 (g), 荒川康男 (b), ドナルド・ベイリー, 猪俣猛 (ds), 西条孝之介 (ts), 稲垣次郎 (ts, fl), 原田忠幸 (bs), 数原晋 (tp), 伏見哲夫 (tp), 原田靖 (tb)。
 
 
Wind-breakers
 
 
「ウィンド・ブレーカーズ」は、既存の音楽を打破の意を込めているとのこと。確かにその気概が伝わってくる。基本は正統なビッグバンド・ジャズの音世界でありながら、フレーズのそこかしこに、当時流行のフュージョン・ジャズのテイストが見え隠れし、ところどころに、クロスオーバー・ジャズの影を感じる。ハイレベルでモーダルな展開に適度な緊張感を感じ、主旋律の一糸乱れぬユニゾン&ハーモニーに、ビッグバンドとしての矜持を感じる。

それまでのジャズの歴史の中で流行してきた奏法やテイストを上手くブレンドしているところが、このバンドの真骨頂である。心地良い疾走感、高テクニックに裏打ちされた統一感、印象的なアンサンブル、そして、耳に心地良い迫力。ビッグバンド・ジャズとして聴いても、どれをとっても申し分無い内容になっている。各々のソロ・パフォーマンスとバンドのアンサンブルの両面を重視した構成も当時としてはユニーク。

1980年代を迎えるに当たって、それまでと違った、新しいジャズの響きを提示しているところが好印象。そういう意味で、バンド名の意図するところの「既存の音楽を打破の意」を十分に反映していると言える。もっと再評価されて然るべき好盤であると僕は思う。ちなみに、僕がジャズを聴き始めて3年目、この盤は愛聴盤の一枚でした。懐かしくもありますが、今の耳にも十分に響く、素敵な音だと感じます。
 
 
  

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2020年5月23日 (土曜日)

Jフュージョンの注目の新バンド

日本のジャズが元気である。ジャズ・ミュージシャンの頭数も相当数に上るようになった。しかも、それぞれ、テクニックは高く、全員とは言わないまでも、かなりの確率で、優れた内容のアルバムがリリースされ続けている。

フュージョン・ジャズについても同様。Jフュージョンについては、以前からのグループ、ジャズマンの活躍が継続されていることもさることながら、新しく出てきたグループやジャズマンの活躍も目覚ましい。

DEZOLVE『Frontiers』(写真左)。今年2月のリリース。ちなみにパーソネルは、北川翔也 (g), 友田ジュン (key), 小栢伸五 (b), 山本真央樹 (ds)。ゲストボーカルとして人気シンガーソングライター「やなぎなぎ」が参加。プログレっぽいテクニカルなフュージョン・サウンドに、明るくポップな感覚を付加している。

2014年結成のJフュージョンの新進気鋭のバンド、DEZOLVE(ディゾルブ)のメジャー3rd.アルバムになる。今作のテーマは「境界」。従来のテクニカルフュージョン・サウンドにエキゾチックな要素を取り入れた、とされる。

そう言えば、このテーマについては、昔、Jフュージョンの大先輩バンド、CASIOPEA(カシオペア)が採用していた記憶がある。ただ、それぞれの楽曲については、テーマで謳うほど、エキゾチックな要素が上手く融合されていた記憶が無く、今回のDEZOLVE盤についても、ちょっと怪しいなあ、と思って聴き始める。
 
 
Frontiers  
 
 
まず、一番耳に残るのが、7曲目の「Hidden Sanctuary」。インド・テイストのエキゾチックな響きが漂っている。タブラやシタールの音、そして「コナッコル」というらしいが、南インド由来の口ドラムが不思議な音を出している。

4曲目の「Across the Silk Road」では、これは聴けばすぐ判る中華風のメロディ。二胡の音が良い感じ。そして、3曲目「re : fruition」はボーカル入り。高速ビートな演奏で疾走感抜群だが、ボーカルを入れることで、ポップでトロピカルな雰囲気を上手く醸し出している。

DEZOLVEというバンドの個性「テクニカルでテンションの張ったフュージョン」を踏襲したタイトル曲「Frontiers」もなかなかの出来で、従来のバンドの個性についてもしっかりと維持していて、聴き応えがある。

従来のテクニカルフュージョン・サウンドにエキゾチックな要素を取り入れた、という今回のアルバム・コンセプトは概ね成功していて、個性と特徴の裾野をグッと広げた内容の好盤に仕上がっている。

Jフュージョンの新バンドの活躍は頼もしい限り。振り返れば、CASIOPEA、T-SQUARE 以降、目立ったバンドが出ていない。これからのJフュージョンのバンド・サウンドの担い手として、DEZOLVE には期待している。
 
 
 

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