2022年6月22日 (水曜日)

CASIOPEA 3rdとしての音の変化

正統派フュージョン&バカテクのバンドであるカシオペア(CASIOPEA)。2006年にすべての活動を一旦休止。2012年にCASIOPEA 3rd(カシオペア・サード)として活動を再開。活動再開と同時に長年のオリジナル・メンバーであった、キーボード担当の向谷の脱退を受け、その後任として、大高清美の加入により現在の形態になる。ギターが野呂一生、ベースが鳴瀬喜博、キーボード大高清美、そしてドラムが神保彰(サポート)の4人編成。

フュージョンというよりは、ロック色が色濃くなり、ボンヤリ聴いていると「これってプログレッシブ・ロック」って思ってしまうほど。バカテクのプレグレ、という雰囲気。恐らく、大高のキーボードが、今回、さらに「キース・エマーソン」風になっているということ。成瀬と神保のリズム隊が、大高のキーボードに呼応して、ロックっぽくなっていること。それらが大きく作用している。

CASIOPEA 3rd & INSPIRITS『『4010』 Both Anniversary Gig』(写真左)。2017年12月24日、東京「EX THEATER ROPPONGI」にてのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、野呂一生 (g), 鳴瀬喜博 (b), 大高清美 (key), 神保彰 (ds, サポート)。ISSEI NORO INSPIRITS と、CASIOPEA 3rd & INSPIRITS 両バンド・メンバーによる白熱のライヴを収録している。

2017年のライヴ音源。カシオペアとしては、2012年に「CASIOPEA 3rd」として再出発して、5年目のライヴ・パフォーマンス。直近のT-スクエアは、スムース・ジャズ化していったのだが、CASIOPEA 3rd は、ジャズ・ロック化していったようだ。
 

Casiopea-3rd-inspirits4010-both-annivers

 
このライヴ音源を聴いてビックリしたのが「CASIOPEA 3rdとしてのバンド・サウンドの変化」。CASIOPEA 3rd 結成当初の「バカテクのプレグレ」から、ポップなジャズ・ロック志向に変化しているように感じる。切れ味鋭い、バカテクな正統派フュージョン・ジャズとしてのカシオペアの面影はほぼ無くなっている。

大高のキーボードが前面に押し出される割合が増えているのが理由だろう。ポップなジャズ・ロック化が悪いといっているのではない。CASIOPEA 3rdとなって、再びサウンドが変化し、加えて「バカテク」という要素が後退、オリジナル「カシオペア」の音世界がほぼ払拭されたサウンドに変化した、ということである。長年の「カシオペア」者の方々の中には、この変化を「良しとしない」向きもあるだろうな。それほど、大きくサウンドは変化している。

サポートメンバーとして活動に帯同してた神保が、2022年5月28日のビルボードライブ大阪公演をもって卒業。新メンバーを補充して、CASIOPEA 3rd としての活動は継続するそうだが、新メンバーを迎えて更に、CASIOPEA 3rdとしての音世界は変化するだろう。

T-スクエアといい、カシオペアといい、時代の流れに伴う「変化」だから仕方が無いこととは言え、デビュー当時からずっと聴き親しんできた僕としては、このバンド・サウンドの変化について、どこか寂しい印象は拭えない。あの頃の音はアルバムで聴き返すしか無いんだろうなあ。
 
 

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2022年6月18日 (土曜日)

日本人独特のエレ・ファンク

SOIL &“PIMP”SESSIONS。「ソイル・アンド・ピンプ・セッションズ」と読む。2001年、東京のクラブイベントで知り合ったミュージシャンが集まり、「ステージと観客の間の壁を壊す」という明確な目的のもと、結成された日本の6人組ジャズバンド。そんなSOIL &“PIMP”SESSIONSの新盤が出た。

SOIL &“PIMP”SESSIONS『LOST IN TOKYO』(写真左)。2022年6月、約2年半振りのオリジナル盤をリリース。バンドのホームでもあるビクター・スタジオ(Victor Studio 302st)で行われたスタジオ・セッションの記録。ちなみにパーソネルは、タブゾンビ (tp), 丈青 (p), 秋田ゴールドマン (b), みどりん (ds) 社長 (Agitator) 。

この新盤は「東京」をテーマにしたコンセプチュアルな企画盤。思い入れのある街の地名などをもじったタイトルのもとに展開されるインスト楽曲がズラリと並ぶ。ジャズを基軸にしつつ、レアグルーブ、ジャズファンクからアシッドジャズまで、幅広く取り入れたバンド・サウンドが個性なのだが、この新盤では、ジャズに力点を置いて、純ジャズ基調のエレクトリック・ジャズといった風情。
 

Soil-pimp-sessionslost-in-tokyo

 
このバンド特有のグルーヴ感が堪らない。エレ・ジャズだからといって、フュージョン・ジャズ基調かと言えば、そうでは無い。この新盤を聴き進めて行くと、ふと「マイルス・デイヴィスのエレ・ジャズ」を想起する。マイルスのエレ・ジャズは重量級のど・ファンクだったが、この「ピンプ」のエレ・ジャズは、軽快で切れ味の良い、日本人独特のライトなファンクネスを湛えたビートが基本で、爽快で躍動感のあるグルーヴ感がぐいぐい迫ってくる。

独特のグルーヴ感に乗って、ダンサフルでキャッチャーな演奏がズラリと並ぶ。特に、このバンドの自作曲は旋律がキャッチャー。印象的な曲が多く、旋律がキャッチャーなだけに、途中、フリーに展開したり、アブストラクトにブレイクしても、聴いた後の「後味」は爽快であり、良いジャズ聴いたな〜、って印象に落ち着くのだ。

コンテンポラリーな現代のエレ・ファンクとして、聴き応えのある新盤。現代の和ジャズのレベルの高さを再認識する。意外と純ジャズ志向の演奏の流れが実に「硬派」に響いて、聴き応え満点。米国のエレ・ファンクとは全く異なる、日本人独特のエレ・ファンクというところがニクい。現代エレ・ファンクの優秀盤。
 
 

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2022年6月 5日 (日曜日)

スムース・ジャズ化のT-SQUARE

1978年、「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」としてデビューしてから44年。2021年11月、伊東たけし、坂東慧のユニット形態として活動を始めた「T-SQUARE alpha」。ポップでロックなフュージョン・ジャズから、ポップでロックなスムース・ジャズに変化してきた様だ。

T-SQUARE『WISH』(写真左)。2022年5月のリリース。そんな「T-SQUARE alpha」での初オリジナル盤。ちなみにパーソネルは、伊東たけし (sax), 坂東慧 (ds) が「T-SQUARE alpha」。そこにゲスト・ミュージシャンとして、様々なメンバーが参加している。「T-SQUARE alpha」は、素晴らしいサポートメンバーを交えたT-SQUAREという意味合いだろう。

そんなサポート・メンバーを思いつくままに列挙すると、まず、T-SQUAREの必須サポートである、田中晋吾 (b), 白井アキト (key), 佐藤雄大 (key)。ゲスト・ギタリストとして、渡辺香津美、是方博邦。20数年ぶり、T-SQUAREへのゲスト参加となった本田雅人 (sax), 松本圭司 (key)。

加えて、ホーン・セクションとして、エリック・ミヤシロ (tp), 西村浩二 (tp), 中川英二郎 (tb), 半田信英 (tb)。他にもいると思うが、とにかく、我が国の優れものジャズマン達が、こぞってサポート・メンバーとして参加しているから凄い。
 

Tsquarewish

 
もともと、デビュー当時からのT-SQUAREの音の志向が「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」だったので、他の我が国のフュージョン・バンドと比して、ジャズ度は軽く、ポップス度、ロック志向が強い。今回の「T-SQUARE alpha」の音は更にそれが進んで、今までは辛うじて「フュージョン・ジャズ志向」の範疇に留まっていたが、今回は「スムース・ジャズ志向」に完全に変化した様な音世界である。

もともとフュージョン・ジャズというのは、エレギの音がそのフュージョン・バンドの音の「カギ」を握っていたケースが多く、T-SQUAREは「ギター・バンド」の印象が強かった。そんな「ギター・バンド」から、結成当時から不動のメンバーとして君臨していたギターの安藤正容が抜けたのだから、バンド・サウンドがガラッと変わっても不思議では無いのだが、案の定、今回「T-SQUARE alpha」の音はガラッと変わった。

以前は「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」とは言っても、ジャズ度はほどよく漂い、演奏のフレーズには、どこかジャズ・ライクな捻りや「引っ掛かり」があったりして、ポップでロックな雰囲気はあるが、基本的にはフュージョン・ジャズの音志向を貫いていたと思う。

アルバムの出来はそつなく優秀、よく聴けば、T-SQUAREらしさは押さえられている。しかし、今回の「スムース・ジャズ志向」の耳当たりの良いサウンドは、恐らく「賛否両論」だろう。
 
 

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2022年5月29日 (日曜日)

パイプオルガンとテナーのデュオ

ジャズは楽器を限定しない。旋律が奏でられるか、リズム&ビートが取れるか、でジャズ演奏に適応する。よって、ジャズの楽器選定には、この演奏形態はこれ、とか、この演奏トレンドの時はこれ、などという楽器の限定は全く無い。2人でやるジャズ「デュオ」においても、楽器を限定することは無い。

岩崎良子 & 竹内直『Meditation for Organ & Tenor Saxophone』(写真左)。2021年の作品。ちなみにパーソネルは、岩崎良子 Ryoko Iwasaki (Pipe Org), 竹内直 Nao Takeuchi (ts)。世にも珍しい、パイプ・オルガンとテナー・サックスによるデュオ演奏である。

ジャズにおいて、パイプ・オルガンを弾いたジャズマンは、ソロ演奏としてキース・ジャレットがいるが、以外にジャズでパイプ・オルガンを採用した盤を僕は知らない。

そもそもパイプ・オルガンは、教会やクラシック・コンサートホールに設置されている訳で、可搬性は全く無い。どこでも弾けるオルガンでは無い、加えて、演奏テクニックの難度が高い。よって、ジャズにおいてはなかなか採用されない楽器である。

岩崎はジャズ・ピアニストとパイプ・オルガン奏者の「二足の草鞋」を履くベテラン・キーボード奏者。竹内は「日本のコルトレーン」と評価も高いベテラン・サックス奏者。還暦を過ぎたベテランのジャズ・ミュージシャンが、異色のデュオに挑戦している。なお、収録曲は以下の通り。
 

Meditation-for-organ-tenor-saxophone

 
1.Goldbers Variations 【J.S.バッハ】
2.Wise one 【J.コルトレーン】
3.前奏曲とフーガイ短調 【J.S.バッハ】
4.My favorite things 【R・ロジャース】
5.Veni Emmanuel (久しく待ちにし) 【聖歌】
6.Naima 【J.コルトレーン】
7.Greensleeves 【聖歌】
8.Affter The Rain 【J.コルトレーン】
9.いと高きところにいます神にのみ栄光あれ 【J.Sバッハ】
10.Crescent 【J.コルトレーン】
11.Meditation for Organ 【A.ハイラー】
12.Amazing Grace 【聖歌】
 

バッハのジャズ化、聖歌のジャズ化、コルトレーンゆかりの曲のカヴァーがメイン。いずれも「スピリチュアルな」響きが独特な楽曲ばかり。パイプ・オルガンの雄壮で大らかな響きと、肉声の如く、エモーショナルな旋律を吹き上げるテナー・サックスの響きが思いのほかマッチして、スピリチュアルな雰囲気を増幅し、敬虔な雰囲気を醸し出す。

デュオ演奏をするのに、パイプ・オルガンである必然性は無いが、パイプ・オルガンもジャズに十分適応する楽器であることが良く判る。そして、管楽器との相性も良く、意外と「イケてる」デュオ演奏である。
 
 

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2022年5月13日 (金曜日)

中山英二 meets Don Friedman

今年の5月の千葉県北西部地方は、例年になく天気が悪い。とにかくスカッと晴れない。「五月晴れ」というが、今年の5月はこのスカッと晴れ渡った「五月晴れ」にお目にかかったことが無い。今日も朝から雨。外に散歩に出ることも叶わず、家に留まることになる。そういう時は「ジャズ」を聴く。しとしと静かに降る雨を見ながら聴くジャズは「デュオ」が良い。

中山英二 meets Don Friedman『Conversation』(写真左)。1986年4月18日、東京での録音。ちなみにパーソネルは、Eiji Nakayama/中山英二 (b), Don Friedman (p)。伝説の日本人ベーシスト、中山英二と、硬質で切れ味の良い「ビル・エヴァンス」ライクなピアノ、ドン・フリードマンのデュオ演奏。フリードマンが、中山とのデュオで日本各地を回るというツアーのために来日。その折にレコーディングされたのが本作。リーダーは中山英二。

中山英二は、エルビン・ジョーンズ率いるリズムマシーンに参加したり、1991には「中山英二 ニューヨークカルテット」を結成したり、ローランド・ハナとデュオ活動をしたりと、かなりの実績のある日本人ベーシスト。当ヴァーチャル音楽喫茶『松和』のブログでも、2013年3月14日のブログで、中山のリーダー作『AYA'S SAMBA / アヤのサンバ』を取り上げている。
 

Meets-don-friedmanconversation

 
ピアノが前面に出て、バックでベースがしっかり支えると言ったデュオ演奏ではなく、ベースとピアノが対等に渡り合った、素晴らしいデュオ演奏である。中山英二のベースは、骨太でソリッド。ブンブン重低音を鳴り響かせて、メロディアスなフレーズを連発する。フリードマンのピアノも好調。硬質で切れ味良く、耽美的でリリカルな個性的なピアノをバンバン弾きまくる。

それでいて、お互いにお互いの音をしっかり聴きつつ、それぞれの個性を前面に押し出したインタープレイを展開するのだから、意外と迫力がある。ピアノとベースのデュオ演奏で、この盤の様な、ベースとピアノが対等な立場に立ったインタープレイの応酬といった内容はあまり無いので、最初は聴いて耳新しくて「おおっ」と思う。しかし、じっくり聴いていると、ベースとピアノが対等な立場に立っている分、デュオ演奏として、その内容はとても「濃い」。

中山のベースを再評価するのに良い機会となるデュオ盤。フリードマンのピアノも申し分無い。このデュオは「即席」ではなく、1986年~90年の間に、4年間、6回のツアーを行い、加えて、この『Conversation』の翌年に、2枚のスタジオ録音盤を残している。とても息の合った、相性の良いデュオ。フリードマンは2016年に鬼籍に入っているので、このデュオの再会セッションの機会が潰えているのがとても残念である。
 
 

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2022年4月30日 (土曜日)

スクエアの転換点となった重要盤

フュージョン・ジャズ全盛時、日本のフュージョン・ジャズ・バンドについては、カシオペアとこのスクエアが2大人気バンド。カシオペアがバカテクでクロスオーバー・ジャズ志向のフュージョンな音世界がウリ、スクエアは、ポップ&ロック志向の親しみ易いフュージョン・サウンドな音世界がウリ。どちらも甲乙付けがたく、TPOに応じて聴き分けていた様な気がする。

THE SQUARE『Rockoon』(写真左)。1980年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、安藤正容 (g), 伊東たけし (sax), 久米大作 (key), 中村裕二 (b), 青山純 (ds), 仙波清彦/せんバきヨひコ (perc), 古原正人 (vo)。キーボードが宮城純子から久米大作、ドラムがマイケル河合から青山純に交代。メンバーチェンジを経た7人の新体制で録音されたアルバム。

このアルバム『Rockoon』は、ポップ&ロック志向の親しみ易いフュージョン・サウンドに磨きがかかった、スクエアならではの音世界。米国西海岸のフュージョン志向な音作りから、ポップ&ロックの音の要素に軸足を移した「過渡的な内容」。印象的なボーカル曲が3曲もあり、そのボーカル曲の存在も、ポップ&ロックの音の要素を強調するのに一役買っている。
 

The-squarerockoon

 
冒頭のタイトル曲「Rockoon」を聴けば、確かにそれまでの前3作とは音の作りが全く異なるのが判る。ほとんど「AORなロック」である。TotoやJourneyを想起する様な、エレギ中心のハードなAOR風。英語の歌詞がつけられた「Really Love」「Come Back」「It's Happening Again」、3曲のボーカル曲の存在がそのイメージを加速させる。この盤にだけ参加した、青山純のドラミングが、この「ポップ&ロックの音の要素に軸足を移す」のに大きく貢献している。

3曲目「Tomorrow's Affair」の日本語タイトルは「トゥモロー」。TBS系列ドラマ『突然の明日』のテーマ曲。T-SQUARE名義のオーケストラ・アレンジ盤『Harmony』では、当曲のオーケストラとの共演を聴くことが出来る。雄大な音拡がりと高揚感が素晴らしい、スローテンポの曲であるが、キャッチャーでポップなフレーズは、いまにもスクエアらしい。

いわゆる「脱・米国西海岸フュージョン」。この『Rockoon』を契機に、スクエアは「日本独自のフュージョン」を推し進めていくことになる。カシオペアは「米国西海岸フュージョンから国際化フュージョン」を推し進めていく訳で、ここで、カシオペアとスクエアは、音の志向が全く異なるバンドとなったのだった。
 
 

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2022年4月20日 (水曜日)

「バンクシア・トリオ」の2nd.盤

雑誌Jazz Lifeの「Disc Grand Prix 年間グランプリ」の記事に載っている2021年度の新盤を順番に聴き進めているのだが、最近の傾向として、和ジャズの充実度が高くなっている。10年ほど前は、女性ジャズ・ミュージシャンの新盤ばかりがもてはやされ、なんとなくバランスが悪かったのだが、最近はそのバランスの悪さも是正され、和ジャズ全体のレベルアップが顕著になってきた。

Takashi Sugawa Banksia Trio『Ancient Blue』(写真左)。2021年の作品。ちなみにパーソネルは、須川崇志 Takashi Sugawa (ac-b, el-b, cello), 林 正樹 Masaki Hayashi (p), 石若 駿 Shun Ishiwaka (ds, perc) = 須川崇志 バンクシア・トリオ。日本人ベーシストの中堅、須川崇志が率いる「バンクシア・トリオ」のセカンド盤になる。(ファースト盤『Time Remembered』については、2020年1月28日のブログ参照

出てくる音は、従来の米国のネオ・ハードバップでも無ければ、ネオ・モードでも無い。どちらかと言えば、現在のECMレーベルから出てくる「現代のニュー・ジャズ」に近い響きである。ECMレーベルの音作りのコンセプトである『沈黙の次に美しい音』 では無いが、即興演奏がメインのピアノ、ベース、ドラム、それぞれが対等の立場に立った、自由度の高いインタープレイ。
 

Ancient-blue_takashi-sugawa-banksia-trio

 
トリオを編成する各人の高い演奏テクニックが前提になる自由度の高い、それでいて、しっかりとした構成度の高いインタープレイ。ポジティヴで骨太で多彩な表現力が魅力の須川崇志のベース。知的でリリカル、響きが豊かな林正樹のピアノ。イマージネーション豊か、変幻自在、硬軟自在な石若駿のドラム。この演奏力の高い3者が織りなすアンサンブル。非常にレベルの高い演奏に思わず引き込まれる。

思えば、このトリオを構成する3人が同等に「バンクシア・トリオ」独特の音をクリエイトしているのだろう。テンションが適度に効いていて、決して「甘く」無い。流れる様ではあるが「麗しく」は無い。黄昏時の仄かな陽射しの様な、ブルージーで耽美的でリリカル、そして、どこか寂寞感とミステリアスな雰囲気が漂う欧州ジャズ的な響き=「Blueな響き」と僕は解釈している。

このところ、ECMレーベルの最近の新盤を聴いていたのだが、このバンクシア・トリオの演奏は、ECMがプロデュースする、現代のコンテンポラリーな純ジャズに勝るとも劣らない、現代のメインストリーム系純ジャズの先端を行く演奏になっている。こういう演奏が「和ジャズ」の範疇からリリースされることに、ちょっとだけ「誇り」を感じる。
 
 

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2022年4月19日 (火曜日)

ECM盤を出した3人目の日本人

雑誌Jazz Lifeの「Disc Grand Prix 年間グランプリ」の記事を眺めていて、日本人女性がリーダーの盤を見つけた。しかも、 ECMレーベルからのリリースとある。え〜っ、ECMレーベルが日本人ジャズ・ミュージシャンをピックアップして、リーダー作を作らせたのか? 慌てて、ECMレーベルのカタログを見直してみたら、やっぱり「ありました」。

Ayumi Tanaka Trio『Subaqueous Silence』(写真左)。2019年6月、ノルウェーのオスロ「Nasjonal Jazzscene Victoria」での録音。リーダーは日本人の「田中鮎美」。邦題は「スベイクエアス・サイレンス − 水響く −」。

ちなみにパーソネルは、Ayumi Tanaka (p), Christian Meaas Svendsen (b), Per Oddvar Johansen (ds)。ノルウェーの優秀なリズム隊をバックに従えた、日本人女性ジャズ・ピアニストがリーダーの「ピアノ・トリオ」編成。

田中鮎美は、現在ノルウェー在住の日本人ピアニスト&作曲家。2011年にオスロに渡り、ノルウェー国立音楽院のジャズ・即興音楽科に入学、故ミシャ・アルペリンに師事。そして、2013年、ノルウェーの若手有望ベーシスト、Christian Meaas Svendsen、同じくノルウェーの中堅人気ドラマー、Per Oddvar Johansenに出会い、田中鮎美トリオを結成、2016年にアルバム『Memento』にてデビュー。本作はそれ以来5年ぶりとなる2枚目のリーダー作。
 

Subaqueous-silence_ayumi-tanaka

 
テンション張った、即興演奏がメインの演奏になる。静的なリズム&ビートを底に忍ばせながら、ハードバップやモーダルな演奏とは全く正反対の、現代クラシックの室内楽アンサンブルの様な、ピアノ、ベース、ドラム、それぞれが対等の立場に立った、フリーなインタープレイ。

ピアノ、ベース、ドラム、それぞれの音数は少ない。最小限の音で表現される音の浮遊感、音の響きの広がり、音と音との「間」を活かした即興演奏。決して無手勝流の、激情にまかせたフリーなインプロビゼーションとは異なる、透明度高く、音の広がりと浮遊感をメインとした、静的なフリーなインプロビゼーション。

まるで、日本の「水墨画」を見る様な音世界である。音と音との「間」を活かしたインタープレイは、「静寂」「侘び」「寂び」な音の響きを紡ぎ上げている。

今までにも、日本人による同様な音の浮遊感、音の響きの広がり、音と音との「間」を活かした即興演奏はあるにはあったが、今回の田中鮎美トリオによる「表現」は次元が違う。かなり高度なレベルの、実にアーティステックな「静的でフリーなインプロビゼーション」である。

ピアニストの菊地雅章、ドラマーの福盛進也に次いで、日本人でECMからリーダー作を発表する3人目となった「田中鮎美」。ECMレーベルの音作りのコンセプトである『沈黙の次に美しい音』 ”The Most Beautiful Sound Next To Silence” を具現化した、注目に値するアルバム『Subaqueous Silence』。リーダーの田中鮎美には、この盤だけの単発に終わること無く、定期的にリーダー作をリリースし続けて行くことを望みたい。
 
 

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Never_giveup_4

2022年4月 1日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・233

去る3月8日、我が国のレジェンド級ベーシストの鈴木勲さんが、新型コロナウイルス感染症による肺炎のため川崎市の病院で逝去された。享年89歳。渡辺貞夫さんのグループなどで演奏。ドラマーのアート・ブレイキーに見込まれて渡米し共演。他にもセロニアス・モンク、エラ・フィッツジェラルドら著名ミュージシャンと共演した実績がある、我が国のジャズ・レジェンドであった。

僕がジャズを本格的に聴き始めた1970年代後半、鈴木勲さんは既に帰国し、TBM(スリー・ブラインド・マイス)からリーダー作を多数リリースしていて、僕にとって、日本のジャズ・ベーシストといえば、鈴木勲さんだった。とにかく、鈴木さんのベースは骨太でブンブン鳴る。リズミカルでグルーヴ感溢れるベースラインは、聴いていると自然と体が揺れるほどだった。

鈴木勲『Blow Up』(写真左)。1973年3月29, 30日の録音。ちなみにパーソネルは、鈴木勲(b), ジョージ大塚(ds), 水橋孝(b), 菅野邦彦(p, Fender Rhodes)。ベーシスト鈴木勲がリーダーのトリオ盤。1973年度 スイング・ジャーナル ジャズ・ディスク大賞 日本ジャズ賞を受賞。ピアノ・トリオ編成と、水橋のベースを加えて、ダブル・ベース+ピアノ+ドラムの変則カルテット編成。 


Blow-up_isao-suzuki

 
冒頭の「Aqua Marine」、出だしから鈴木勲のボウイングが炸裂する。日本人ベーシストらしい、ピッチのしっかりあった、ストレートな、変な揺らぎの無いボウイングの音色。途中、フリーにブレイクしたりするが、基本はメンストリームなモード・ジャズ。菅野のフェンダー・ローズの独特な音色が実に良い。ジョージ大塚の抑制された、緩急自在なドラミングが良い。

2曲目の「Everything Happens To me」では軽快なスイング感が良いし。タイトル曲「Blow Up」は水橋孝を加え、超絶アップ・テンポでのダブルベースの迫力が凄い。もはや、モードというよりは「ファンク」である。

そして、この盤、とても音が良い。ベーシストのリーダー作らしく、鈴木勲のベースの音がとても生々しく捉えられている。3曲目「 I Can't Get Started(言い出しかねて)」での、鈴木勲のチェロのピチカートなど、凄く生々しく録音されている。

1970年代前半の日本の純ジャズ、演奏の成熟度、余裕度という点では、まだまだ発展途上かなとも思うが、ファンクネス希薄な、切れ味の良い、適度にテンションを張ったモーダルな演奏のレベルは高い。録音も良く、ジャケットも良い。演奏良し、録音良し、ジャケ良しの3拍子揃った日本ジャズの名盤の一枚です。
 
 

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2022年3月31日 (木曜日)

ユッコの『Colorful Drops』

jazzLife誌の「Disc Grand Prix 年間グランプリ」の記事を読んでいて、久し振りに「ユッコ・ミラー」の名前に出会った。当音楽喫茶『松和』でも、2019年10月27日の記事で、この人の3rdアルバムを取り上げたことを思い出した。

このサックス奏者が出てきた時は、「我が国もここまできたか」とビックリするやら嬉しいやら。キャンディー・ダルファーを知った時、「ジャズもここまできたか」とビックリしたのだが、このユッコ・ミラー、和製キャンディー・ダルファーと形容するのがピッタリな、コンテンポラリーなジャズ・ロック&ジャズ・ファンクを得意としている。

そもそも「ユッコ・ミラー」とは何者か、である。エリック・マリエンサル、川嶋哲郎、河田健に師事。19歳でプロデビュー。 2016年9月、キングレコードからファーストアルバム「YUCCO MILLER」を発表し、メジャーデビュー。「サックスYouTuber」としても爆発的な人気を誇る、実力派サックス奏者である。確かに、彼女のサックスは正統派なもの。テクニックもブロウも確かなもの。決して、ヴィジュアル指向ではない。

ユッコ・ミラー(Yucco Miller)『Colorful Drops』(写真左)。2021年10月のリリース。ちなみにパーソネルは、ユッコ・ミラー (as, ss, vo, ewi), 岡聡志 (g), 半田彬倫 (key, vln, program), 須藤満, 岡田治郎 (b), 則竹裕之, 渡邊シン (ds)。ユッコ・ミラーの 4thアルバムである。ジャケットを見て引いてはいけない。正統派な、現代のジャズ・ロックとジャズ・ファンクがギッシリと詰まっている好盤である。
 

Colorful-drops_yucco-miller

 
冒頭のジャズ・ファンク「Smoky Light」を聴けば、ユッコ・ミラーは素姓確かなサックス奏者であることが良く判る。続く「New Experience」はアップテンポの難曲なのだが、ユッコ・ミラーは元気一杯の明るいブロウを披露する。これが実に良い。3曲目のスローなファンク・チューン「Be Myself」では、大らかな吹き回しの中に、そこはかとなく漂う哀愁感に耳が引かれる。

ユッコ・ミラーのサックスは、音がしっかり出て淀みが無い。速いフレーズは流麗に、ゆったりしたフレーズは情感豊かに吹き上げる。聴いていて耳に付かない、聴き心地の良い音はしっかりと印象に残る。ジャズ・ファンクの中にそこはかとなく漂う「マイナーな哀愁感」は、ユッコ・ミラー独特の個性。僕は「日本人らしいなあ」としみじみと聴いた。

6曲目の「Stream」のユッコと半田のピアノとのデュエットも哀愁メロディー・オンリーで訴求し、8曲目のジャズ・スタンダード曲「Fly Me to the Moon」のボサノバ基調のカヴァーも秀逸。ユッコのボーカルも味があって良い。

先に書いたが「ジャケットを見て引いてはいけない」。正統派な、現代のジャズ・ロックとジャズ・ファンクがギッシリと詰まっている好盤である。フュージョン・ジャズ者の方々には一聴をお勧めしたい盤ですね。
 
 

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