2019年11月 6日 (水曜日)

山中千尋の聴き心地良好な新盤

「今」の日本女子ジャズ奏者の草分けの一人が「山中千尋」。デビュー盤『Living Without Friday』が2001年のリリース。あれから18年。この18年間、山中千尋は日本女子ジャズ奏者の先頭集団をずっとキープしてきた。美形ではあるが、山中の場合、彼女のピアノが素晴らしい。そしてアレンジが素晴らしい。それだけで充分、評価出来るし、その音を楽しめる。山中の場合、外見は全くジャズの評価とは無関係だと感じている。

山中千尋『Prima Del Tramonto』(写真)。2019年5月、NYブルックリンのBoomtown Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、山中 千尋 (p, Fender Rhodes, Hammond B-3 Organ), Yoshi Waki (ac-b, el-b #1,2,3,4,5,7,10), Vicente Archer (ac-b, el-b #6,8,9,10), John Davis (ds #1,2,3,4,5,7,10)。そして、収録曲は以下の通り。
 

1 ジェンナリーノ Gennarino (Chihiro Yamanaka)
2 パソリーニ Pasolini (Aldo Romano)
3 シンキング・オブ・ユー Thinking Of You (Chihiro Yamanaka)
4 ネヴァー Never (Chihiro Yamanaka)
5 チェロキー Cherokee (Ray Noble)
6 スイート・ラヴ・オブ・マイン Sweet Love Of Mine (Woody Shaw)
7 ルッキング・アップ Looking up (Micheal Petrucciani)
8 ブルー・マイナー Blue Minor (Sonny Clark)
9 ソリチュード〜C・ジャム・ブルーズ
 Solitude〜C jam blues (Chihiro Yamanaka / Duke Ellington)
10 プリマ・デル・トラモント Prima Del Tramonto (Chihiro Yamanaka)
 
 
Prima-del-tramonto  
 
 
1曲目の「Gennarino」は山中の自作曲でウォーミングアップ的な演奏。2曲目の「c」を聴いて「おおっ」と思う。僕の大好きなミシェル・ペトルチアーニ(Michel Petrucciani)の得意曲ではないか。ペト(ペトルシアーニの愛称)の初期の好盤『Estate』の冒頭の名曲である。それから、7曲目の「Looking up」は、これまたペトの名曲。これは確か、ペトがブルーノートに残した好盤『Misic』の冒頭の名曲である。

この盤については、盤の紹介文に「ブルーノート80周年を記念しソニー・クラークなどブルーノートの名曲をカバー。さらに天性疾患による障害を克服し、フランス最高のジャズ・ピアニストと評価されるミシェル・ペトルチアーニの没後20年にもフォーカスした作品を収録」とある。なるほど。しかし、山中のペトの名演曲のカヴァー、実に優れている。ペトの雰囲気を模しながら、山中のピアノの個性をしっかり織り込んでいる。

そして、山中のブルーノート・レーベルの名曲のカヴァーについても、アレンジも含めて優れている。山中とブルーノート・レーベルの名演名曲とは相性が良く、どのカヴァーも内容があって立派だ。自作曲も良好な内容で、この盤は、山中千尋のジャズ・キーボードの「今」を、リラックスして聴かせてくれる好盤である。この盤での山中のピアノは実にリラックスしていて聴き心地が良い。良い音とは絶対に「聴き心地が良い」ものである。
 
 
 
東日本大震災から8年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年11月 2日 (土曜日)

桑原あいの真っ先に聴くべき盤

最近、ジャズにおいて、日本ジャズの女子力は留まることを知らない、と書いた。未だ、第一線で活躍している日本人女子のジャズ奏者は多い。この「ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログ」でも、様々な女性ジャズ奏者を紹介してきた。そんな女性ジャズ奏者の中で、再度、当ブログでご紹介し直したい女性ジャズ・ピアニストがいる。「桑原あい」である。

「桑原あい」は、1991年9月生まれ。今年で28歳。ジャズ界ではまだまだ若手も若手。洗足学園高等学校音楽科ジャズピアノ専攻を卒業。2010年からプロとして活動。ピアニスト&作曲家として、前衛的・革新的なサウンドが身上。コンテンポラリーな純ジャズではあるが、ちょっと一筋縄ではいかない、ちょっと前衛的な香りのするフレーズが個性。この部分が気に入るか入らないかで、彼女の評価は変わるだろう。

桑原あい Trio Project『from here to there』(写真左)。2012年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、桑原あい (p), 森田悠介 (el-b), 今井義頼 (ds), 神田リョウ (ds), 鈴木 "Soopy" 智久 (ds)。ピアノの桑原あい、とエレベの森田悠介は固定、ドラムを三人使い分けているが、基本はピアノ・トリオ。自作曲もアレンジも今までに無い響きで、その内容は「ユニーク」。
 
 
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桑原のピアノは、今までの日本人女性ピアニストの一聴すると「もしかすると男性ピアニストか?」と感じるダイナミックなタッチは無い。聴くと判るが、このピアノは確実に女性のピアノ。ガーンゴーンというダイナミックなタッチでは無い、良い意味でしっかりと芯はあるが「線の細い」、ちょっと繊細でライトなタッチと流れる様な弾き回し。女性のジャズ・ピアノの特質を全面に押しだしている。

しかし、そのテクニックは優秀で、その自作曲は聴いていて「気持ちの良い」もの。モーダルなフレーズの響きは心地良く、ところどころ前衛の響きが混ざって、そのピアノは個性的。モンクの様に幾何学的なフレーズが散りばめられているが、モンクの様な「間」は無い。ぎっきり敷き詰められた音符。多弁な右手の幾何学的なフレーズ。それが繊細でライトなタッチで奏でられる。

桑原あい、の個性は今までのジャズには無いもの。この『from here to there』はデビュー盤なので、抑制が効きすぎて、ちょっと「温和しめ」なんだが、それでも、この飛んだり跳ねたりしつつ、流麗に展開する幾何学的フレーズは、ジャズを聴く耳には「気持ちが良い」もの。ジャズ奏者のデビュー盤には、そのジャズ奏者の個性が詰まっている、というが、この盤はその例に漏れない。「桑原あい」を聴くには、真っ先に聴くべき初リーダー作だろう。
 
 
 
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2019年10月27日 (日曜日)

ユッコ・ミラーを初めて聴いた

しかし、日本ジャズの女子力は衰えることを知らないようだ。今回、このサックス奏者の新盤を聴いて、改めて思った。ルックスは「カラフルでド派手」。どうも人気優先、話題優先のサックス女子かと思って、暫く静観してきた。が、今回の新盤はさすがに「聴いた」。で、思った。やっぱり日本ジャズの女子力は素晴らしい。

その新盤とは、ユッコ・ミラー『Kind of Pink』(写真左)。サックス奏者ユッコ・ミラーの3rdアルバム。今年9月のリリース。ちなみにパーソネルは、Yucco Miller ユッコ・ミラー (as, ss), Simon Cosgrove (p), Pat Glynn (b), Gene Jackson, Dennis Frehse (ds)。ゲストとして、David Matthews (p), Luis Valle (tp), 川嶋哲郎 (ts)。うむむ、知っている名前は、ゲストのマシューズとテナーの川嶋くらいだぞ。

まずは「ユッコ・ミラー」とは何者か、である。エリック・マリエンサル、川嶋哲郎、河田健に師事。19歳でプロデビュー。 2016年9月、キングレコードからファーストアルバム「YUCCO MILLER」を発表し、メジャーデビュー。10万人を超えるチャンネル登録者数が今なお増え続け、「サックスYouTuber」としても爆発的な人気を誇る、実力派サックス奏者ユッコ・ミラー。と、僕は彼女の名前を最近知った。
 

Kind-of-pink-yucco-miller

 
「名探偵コナン」メイン・テーマや吹奏楽シーンでも圧倒的人気を誇る「宝島」などの人気曲を、グラミー賞受賞の世界的アレンジャーであるデビッド・マシューズが本格ジャズ・アレンジして披露している。ポップで聴いていて楽しい演奏の数々。まず、ユッコ・ミラーのサックスの音が凄く良い。カラフルでド派手なルックスだけで、決して「キワモノ」と思うなかれ。流麗かつ力強さがあるレベルの高いブロウ。聴き応え充分である。

彼女の奏でる音楽スタイルは、ファンク&フュージョンがメイン。自作曲にはハイブリッドなコンテンポラリー・ジャズもあって、意外と硬派な一面が垣間見える。流麗なサックスで聴き易くはあるが、決してイージーリスニング・ジャズには走らない。バックのリズム&ビートがしっかりとジャズしているので、決して、ポップロック風にも流れない。しっかりとファンク&フュージョン・ジャズに軸足を置いているところが実に潔い。

でも、なんで女子力ばかりなのか。良く判らないが、この新盤を聴いて、日本ジャズの女子力の裾野の広さを改めて思い知った。以前の様に、ルックス優先、ルックス頼りの人気優先の女子ジャズ奏者はもういない。実力のあるジャズ奏者ばかりなのだ。逆にルックス優先、ルックス頼りの女子ジャズ奏者はデビュー早々に陶太される。凄い時代になったもんだ。
 
 
 
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2019年9月23日 (月曜日)

桑原あいの「新ディズニー曲集」

日本人女子ジャズ・ミュージシャンの中で、最近、特に元気なのが「桑原あい」。ちょっとだけ難解なニュー・ジャズな盤でデビューしてきたので、どうかな〜と思っていたんだが、歳を重ねる毎に熟れてきて、最近はとても良い雰囲気のジャズ・ピアノを聴かせてくれている。1991年生まれだから、今年で28歳。これから中堅の域に入る、期待の有望株である。

桑原あい『My First Disney Jazz』(写真左)。そんな「桑原あい」が、ディズニー・ソングのカヴァーにチャレンジした盤。ディズニー公式カヴァー盤とのこと。ディズニー・ソングといっても、1950年代、ハードバップ全盛期からの「ジャズ・スタンダード曲」としての曲では無く、最近のディズニー・ソングを中心に選曲して、それだけでも新鮮な印象がある。

『アラジン』から「ホール・ニュー・ワールド」「フレンド・ライク・ミー」。不朽の名作『美女と野獣』のメドレー。『トイ・ストーリー2』『モンスターズ・インク』『塔の上のラプンツェル』『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』など、バラエティに富んだアレンジがなかなか優れていて、聴き応えがある。全曲聴き通しても全く飽きが来ない。
 
 
My-first-disney-jazz  
 
 
ちなみにパーソネルは、Ai Kuwabara: Piano (#1~10) / Keisuke Torigoe: Bass (#1, 5, 8, 10) / Takumi Katsuya: Electric Bass (#2, 6, 7, 9) / Akira Yamada: Drums (#1, 2, 5, 6, 7, 8, 9) / Takezo Yamada: Trumpet (#1, 7) / Yasuki Sogabe: Tenor Saxophone, RIO: Baritone Saxophone (#1) / MARU: Vocal (#1) / Akira Wada: Vocal & Chorus (#9) / Kenta Okamoto: Percussion (#2) 。これに弦楽四重奏 (#3, 8)が加わる。

基本は、桑原あいのピアノをメインとして、ドラムは曲毎に演奏フォーマットを変え、メンバーを変え、管を入れたり、ボーカルを入れたり、さらに弦楽四重奏が加わる。ドラムは山田玲が一手に引き受け、ベースはアコベが鳥越啓介、エレベを勝矢匠が担当。このピアノ・トリオをベースとして、トランペットやサックス、ボーカルなどのゲストを迎えて、それぞれの曲に相応しい音を形成している。

演奏自体の響きも、しっかりとネオ・ハードバップな響きをキープしていて、新鮮な響きがする。新しいディズニー・ソング集という面持ちで、聴いていてとても楽しい。ネオ・ハードバップな好盤として、じっくりと腰を据えて聴くも良し、メロディーが印象的なので、ながら聴きにも最適。ちょっと小難しいニュー・ジャズな音も良いが、こういうあっけらかんとしたカヴァー盤も魅力的である。
 
 
 
東日本大震災から8年6ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年9月19日 (木曜日)

三輪洋子、約2年ぶりの新盤

2019年になっても、日本人女子ジャズ奏者の快進撃は続いている。この人のピアノについてはデビュー以来、ズッと追いかけている。アメリカン・ルーツ音楽がベースの、ゴスペル風、若しくはフォーキーなフレーズが独特。特に、その独特の個性が自作曲で映える訳で、出てくるリーダー作、出てくるリーダー作、楽しみに聴いて来た。

三輪洋子『Keep Talkin'』(写真左)。今年7月のリリース。三輪洋子、約2年ぶりの新盤である。ちなみにパーソネルは、Yoko Miwa (p), Will Slater (b), Scott Goulding (ds)。三輪がお得意のピアノ・トリオ。オリジナル曲に加え、Monk, Mingus、Beatles, Joni Mitchellらの曲を取上げた、様々な表情を感じることの出来る「万華鏡」の様な作品。

しかし、冒頭のタイトル曲「Keep Talkin' 」のラテン調の演奏には、えっ、そっちに行くの、と思って、ちょっと面食らう。2曲目のモンク作「 In Walked Bud」については、スタンダード曲の演奏になるのだが、とてもお行儀の良い、原曲のイメージを絶対に損なわない優等生的な演奏で、ちょっと物足りなさが残る。この傾向は、5曲目のミンガス作「 Boogie Stop Shuffle」でも同様。
 
 
Keep-talkin-miwa
 
 
3曲目の自作曲「Secret Rendezvous」から、いつもの三輪の個性が出始めて、演奏全体の雰囲気が「よそ行き」から「普段着」に変わっていく。4曲目の自作曲「Sunset Lane」は、タッチの確かな、耽美的な流麗なピアノ。深めのエコーが実に「欧州的」。6曲目の「Golden Slumbers / You Never Give Me Your Money」はレノン=マッカートニーのカヴァー。フォーキーな三輪のピアノが素敵である。

7曲目の自作曲「Tone Portrait」で完全復調。躍動感溢れる、明確なタッチで、跳ねるように踊るようにピアノの音が乱舞する。そして、9曲目のジョニ・ミッチェル作「Conversations」は三輪の個性全開。アメリカン・ルーツ音楽がベースの、ゴスペル風、若しくはフォーキーなフレーズにワクワクする。これこれ、この音が一番、三輪らしい。

ラテン調の曲やジャズ・スタンダード曲になると「よそ行き」な演奏になるが、純ジャズな演奏としてはレベルが高い。これはこれで、水準以上の出来ではあるので、全体の雰囲気を阻害するものでは無い。次作では、ジャズ・スタンダード曲を三輪の個性全開で自由奔放に弾き倒して欲しい。アメリカン・ルーツ音楽がベースの、ゴスペル風、若しくはフォーキーなスタンダード曲の解釈。良い感じではないか。
 
 
 
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2019年9月13日 (金曜日)

カシオペアの40周年記念盤

我が国、日本でのフュージョン・バンドと言えば、CASIOPEA(カシオペア)とT-SQUARE(ティー・スクエア)が2大フュージョン・バンド。正統派フュージョン&バカテクのバンドであるカシオペア。ちょっとロックとイージーリスニングが入った、ポップで聴き易いT-SQUARE。この2大フュージョン・バンドは実力については甲乙付けがたく優秀。フュージョン者の中では人気は全く真っ二つに分かれていた。

そんなカシオペア、今では「Casiopea 3rd」とバンド名を変えて、現在も活動中。そして、今年、デビュー40周年記念盤をリリースした。Casiopea 3rd『PANSPERMIA』(写真左)。2019年7月の録音。ちなみにパーソネルは、野呂一生 (g), 鳴瀬喜博 (b), 大高清美 (key), 神保彰 (ds)。野呂とサポート・メンバーではあるが、ドラムの神保の2人が以前からメンバー。他の2人は1990年以降の新メンバー。

アルバムタイトル「PANSPERMIA」=「パンスペルミア」と読む。宇宙からの微生物などが物体にくっついて地球にやって来て生命の根源となったという理論。このアルバムのサブタイトルは「宇宙からの贈りもの」。う〜ん、ジャズらしからぬタイトルやなあ。『スピード・スリル・テクニック』というキャッチフレーズのままに、スペーシーな感覚満載。
 

Panspermia

 
フュージョンというよりは、ロック色が色濃くなり、ボンヤリ聴いていると「これってプログレッシブ・ロック」って思ってしまうほど。バカテクのプレグレ、という雰囲気。恐らく、大高のキーボードが、今回、さらに「キース・エマーソン」風になっているということ。成瀬と神保のリズム隊が、大高のキーボードに呼応して、ロックっぽくなっていること。それらが大きく作用している。

そこに野呂のエレギが参入すると、バンドの音の雰囲気はぐっと「フュージョン・ジャズ」に寄る。野呂のエレギは唯一無二の個性。フュージョンでもなければロックでも無い。野呂独特の個性的な音。この野呂のエレギが他のメンバーによる「プログレ色」を中和し、従来のカシオペアの音に仕立てる。そんな役割を果たしている。そう、この盤での「カシオペアらしさ」は野呂のエレギに依存している。

出てくる音はとことんポジティヴ。特に大高のキーボードの進化は特筆に値する。そこに、ナルチョのチョッパー・ベースがブンブン鳴り響き、神保の千手観音ドラミングが炸裂する。そして「決め」は野呂のエレギ。「カシオペアの音」から深化した「Casiopea 3rdの音」。この盤の評価のポイントはこの「深化」を認めるか否かにあるだろう。
 
 
 
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2019年9月 5日 (木曜日)

日本人によるオルガン・トリオ

最近の我が国のジャズ、「和ジャズ」のレベルがどんどん高くなっている。1960年代から、もともと純ジャズについては、内容のあるアルバムが出ていたが、如何せん数が少なかった。それからなかなか、その「数」が増えない時期が続いたのだが、1990年代後半辺りから、和ジャズの裾野が一気に拡がり始めた。最近では毎月、コンスタントに好盤がリリースされている。

鈴木央紹『Favourites』(写真左)。今年5月のリリース。ちなみにパーソネルは、鈴木 央紹 (ts, ss), 宮川 純 (org), 原 大力 (ds)。シンプルなトリオ編成。我が国ではまだまだ珍しいオルガン・トリオである。収録曲を見渡せば、小粋でマニアックなスタンダード曲をメインに選曲している。これがまあ、見事なアレンジで、スタンダード曲の新しい解釈を提示している。
 
冒頭の「Where or When」を聴けば、思わず「ウェザー・リポート風か?」と思ってしまう。音の雰囲気、浮遊感がウェザー・リポートを想起させ、鈴木のテナーが「ウェイン・ショーター」風。しかし、この演奏を聴いて「上手いなあ」と感心。本家ウェザー・リポートの音より、シンプルで判り易く、テナーの音はウェインのテナーを平易にした感じの、これまた判り易いブロウ。
 
 
Favourites-suzuki
 
 
で、2曲目の「Witchcraft」に移ると、雰囲気は、シンプルで切れ味の良いコンテンポラリーな純ジャズの音世界に。オルガン(hammond b-3)とドラム、そしてテナー・サックス。テナー・サックスの音がネオ・ハードバップ風の硬派でテクニカルでシャープなブロウ。どっかで聴いた雰囲気やなあ、と思っていたら、そうそう、ジョシュア・レッドマン、サム・ヤエル、ブライアン・ブレイドの「YAYA3(ヤ・ヤ・キューブド)」を思い出した。
 
以降、この「YAYA3」風の演奏が展開される。しかし、日本のジャズが、こんなにコンテンポラリーな、ネオ・モーダルな純ジャズを展開することが出来るなんて、なんだかとても嬉しくなる。「YAYA3」風だが、ファンクネスは希薄、しっかりオフビートしていてジャジーな雰囲気は蔓延している。オルガンの音も良い意味であっさりしていて、日本人ジャズの「音の個性」がしっかり聴いて取れる。
 
適度にアグレッシブで、明らかに「攻めている」ジャズ。決して聴き手に迎合していない。そして、何回か繰り返し聴いていると、結構、難しいことをやっているのに気がつく。それがシンプルに聴こえるのだから、この盤に詰まっているジャズのレベルは高い。日本人ジャズの「進化」を強く感じる、鈴木央紹の新盤である。
 
 
 
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2019年9月 1日 (日曜日)

昆虫をテーマにしたコンセプト盤

日本のジャズについては「進化」してきたと感じている。1950年代の終わりから1990年代までは、米国のジャズ・シーンをずっと追いかけ続けて、いかに早く米国の最新トレンドを入手し、日本のジャズに反映するか、がポイントだった。21世紀に入って、米国のトレンドを追わずに、日本独自の展開や音作りがなされるようになる。そして、その時代は今も続いている。

TRIX『ECCENTRIX』(写真左)。今年8月21日のリリース。出来たてホヤホヤの新盤である。2004年の「INDEX」以降、16年連続のオリジナル盤のリリースとなるそう。フュージョン・ジャズ系のバンドとして素晴らしいことである。ちなみにパーソネルは、熊谷徳明 (ds), 須藤満 (b), AYAKI (key), 佐々木秀尚 (g)。曲名を見たら判る「昆虫」をテーマにしたコンセプト・アルバムである。

元カシオペアのドラマー熊谷徳明と元Tスクエアのベーシスト須藤満を擁した、現代の日本のフュージョン・バンドの先頭集団を走る「TRIX」。日本のフュージョンの2トップ、カシオペアとTスクエア両方のDNAを受け継いだ音作り。というか、今回の音作りは、プログレッシブ・ロックやテクノ・ポップの音の雰囲気がさらに加わって、TRIXならではの個性的な音作りに成功している。
 
 
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冒頭の「中国天道虫」の最初の部分を聴いた時、思わず「これってYMO?」って思ったものだ。思わずテクノ・ポップ風のフュージョン・ジャズかと思ったら、アドリフ展開の部分はまるで「プログレッシブ・ロック」。ファンクネスは皆無、オフビートも抑え気味に、キーボードとエレギのフレーズが走って行く。ジャジーな要素はその演奏の複雑なコード進行とそれぞれの楽器のハイテクニックに留まる。

しかし、2曲目以降は、その1曲目の傾向を踏襲しつつ、オフビートを駆使しつつ、流麗でスインギーな「現代のフュージョン・ジャズ」を展開する。それぞれの曲もキャッチャーなフレーズてんこ盛りで、どの曲も聴いていてとても楽しい。「第4期TRIXサウンド」がこの盤で確立されたのでは、と感じる充実度。ロック色が強くなったなあ、とは思うが、演奏のオフビートとスインギーな展開は、まだまだ「フュージョン・ジャズ」だろう。

こういう演奏が当たり前の様に出てくる様になった「我が国ジャズ・シーン」。我が国のジャズ独特の「進化」がまだ聴いて感じとれる、そんな印象を持たせてくれる好盤です。従来からのフュージョン者ベテランの方々のみならず、昔、プログレ・ファンだった方がにもお勧めです。まだまだ「エキセントリックな」TRIX。なかなかの好盤です。
 
 
 
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2019年8月 9日 (金曜日)

楽しい「びっくり」に満ちている

日本のジャズについても、21世紀に入って以降、加速を付けて「深化」している。新しいバンドが新しいミュージシャンが出てくる。そして、魅力的な内容のアルバムをリリースしていく。メジャークラスのアルバムについては、どのアルバムも内容は充実している。以前の様に「駄盤」が全く無くなった。

TRI4TH『jack-in-the-box』(写真左)。先月のリリース、出来たてホヤホヤ。TRI4TH(トライフォース)のメジャー2枚目のアルバム。宣伝のキャッチが、〈踊れる、叫べるジャズ〉に加え〈歌える〉というワードを新たなコンセプトとして掲げて制作されたニューアルバム。

ジャズに憧れて始まったバンド、TRI4TH(トライフォース)。サックスとトランペットを擁する編成は、ごく普通のジャズクインテットなんだが、出てくる音は「熱狂のダンスミュージック」。メンバーは織田祐亮(tp)、藤田淳之介(sax)、竹内大輔(p)、関谷友貴(b)、伊藤隆郎(ds)の5名。
 
 
Jack-in-the-box  
 
 
とにかく冒頭の「Wake up」から「ぶちかませ!」そして、ラストの「Sing Along Tonight」まで、楽しい演奏がてんこ盛り。単純にジャズ・インストを楽しめる、そして踊れるアルバムになっている。演奏のテクニック、演奏の疾走感が半端なく、全12曲が、ダンサフルな余韻を残して、あっと言う間に通り過ぎていく。

一瞬聴いたら「スカパラか?」と思うんだが、出てくるビート感がちょっと違って、あれ〜と思って聴いていたら、ボーカルが出てきて、あれ〜? と思って、思わずジャケットを見て納得。ダンサフルなビートとアドリブ展開に磨きがかかって、フロントのブラスのユニゾン&ハーモニーのアレンジも良好、そんなブラスの咆哮も耳につかない。

こんなコンテンポラリーなジャズの「ダンスミュージック」を日本人が演奏する時代が来るとは。40年前、ジャズ者駆け出しの僕には全く想像が出来なかった。TRI4TH(トライフォース)の存在には、ジャズ者としてワクワクする。そもそも、今回の新盤のタイトルが、びっくり箱 =『jack-in-the-box』。この新盤は、楽しい「びっくり」に満ちている。
 
 
 
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2019年7月 8日 (月曜日)

日本人によるジャズ・ファンク

「吉田次郎」ってギタリストだったよな、と思う。どこかで聴いた、と思う。どの盤だろう。結構、硬派でハードなギターを弾くおじさんだった覚えがある。ということで、自作のCDデータベースに頼る。おおっ、ケイコ・リーの『愛の奇蹟(Wonder of Love)』のハードでファンキーなギターがそうだったか。マリーンがボーカルのユニット「THREESOME」のギタリストもそうだった。
 
吉田次郎は1958年生まれ。今年で61歳。NY在住。1984年にバークリー音楽院に留学。修了後は1年半程、同学院の講師を務めている。ハードコアなジャズからポップ・アーティストのツアー・サポートまでこなす「セッション・ギタリスト」である。ハードでファンキーなエレギから切れ味の良いアコギまで、そつなくこなす。とにかく上手い。そして、味があるギターである。

吉田次郎『Red Line』(写真左)。そんな吉田次郎の4年ぶりのソロ・アルバム。ちなみにパーソネルは、吉田次郎 (g), マーロン・サンダース (vo), カール・カーター (b), ヴァーナ・ギリッグ (p), 川口千里 (ds)、guest : マリーン (vo)。サンダースのR&系のボーカルが肝、リズム隊はスティーヴ・ガッドばりの「縦ノリ・スイング」なドラミングが個性の川口千里の参加が目を惹く。
 
 
Red-line-jiro-yoshida  
 
 
冒頭のモンゴ・サンタマリアの「アフロ・ブルー」がむっちゃファンキー。サンダースのボーカルが思いっきり効いている。最初は誰がこのファンキーなギターを弾いているのか判らなかった。よく聴いているとギターのストロークから醸し出されるファンクネスが乾いているのに気がつく。これは米国ジャズのギタリストでは無い。リズム感が端正で乱れが無い。これって日本人のギターなの、と思ってパーソネルを見たら「吉田次郎」でした。
 
ウェイン・ショーターの「フットプリンツ」、チャールズ・ミンガスの「グッドバイ・ポークパイ・ハット」といったミュージシャンズ・チューンズが渋い。しっかりとジャズ・ファンクなアレンジが施されているので、もうノリノリである。ハードロックの名曲、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」も硬派でハードなジャズ・ファンクな演奏。
 
ギターソロのフランシス・レイの「男と女」とジョン・レノンの「イマジン」以外のジャズ・ファンクな演奏が実に良い。乾いたファンクネスを振り撒いて、端正でストイックなジャズ・ファンク。良い味出してます。ボーカル曲もボーカリストがファンキーで優秀なので、違和感無く聴くことが出来る。これが日本人ギタリストがリーダーのジャズとは。21世紀に入って、日本人ジャズは急速に充実してきた。もはや「日本人ジャズならではの違和感」は全く無い。好盤である。
 
 
 
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