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2018年5月 5日 (土曜日)

名付けて「ネイチャー・ジャズ」

お久しぶりです。昨日、松和のマスター、南半球はオセアニア、ニュージーランドから帰還しました。17年振りのオセアニア訪問。北島、南島共に豊かな自然の風景が見事。特に南島。氷河が創り出した圏谷、峡湾。このカール、フィヨルドについては日本ではほとんど見られない景観。あってもスケールが桁違い。圧倒的な自然の景観に心の底から癒されました。

さて、ジャズの話。「自然」つながり。1970年代に発生した「ニュー・ジャズ」の範疇の中で、スイング感や4ビート感を強調しない、印象的なフレーズやリズムをメインに、自然の景観や雰囲気を想起させるパフォーマンスが存在します。僕はこういうジャズを勝手に「ネイチャー・ジャズ」と呼んで、ジャズを聴き初めて40年。意外と好んで聴いています。

癒されるんですよね〜。例えば、1970年代〜80年代のパット・メセニー・グループ(PMG)、オレゴンなどが代表的な存在としてあげられます。ニュージーランドで圧倒的な自然の景観に心の底から癒されたこともあり、ちょっとばかし、この「ネイチャー・ジャズ」の好盤を挙げてみたいと思います。
 

Spiritual_nature

 
まずは、我が国のジャズから。我が国のジャズが誇る精鋭ジャズマンが一堂に会して創作した「ネイチャー・ジャズ」の好盤がこれ。富樫雅彦『Spiritual Nature』(写真左)。1975年4月の録音。ちなみにパーソネルは、富樫雅彦 (per,celesta), 渡辺貞夫 (fl,ss,as), 鈴木重雄 (fl,ss), 中川昌三 (fl,bfl), 佐藤允彦 (p,marimba,Glockenspiel), 翠川敬基 (b, cello), 池田芳夫 (b), 中山正治 (per), 豊住芳三郎 (per), 田中昇 (per)。

日本の前衛ジャズ界の先駆者的存在であるジャズ・パーカッション奏者、富樫雅彦のスピリチュアル・ジャズの好盤。アルバム・ジャケットのイメージがそのままの自由度の高い、限りなくフリーなジャズ。当時の日本ジャズの精鋭、現在でのレジェンドの面々が、それぞれの力量を遺憾なく発揮したスピリチュアル・ジャズ。耳に馴染まない、楽器の嘶きやエモーショナルな表現とは全く無縁な「ネイチャー・ジャズ」の世界。

ジャズ評論的には「日本のフリージャズとしては歴史に残るアルバム」だが、音の雰囲気は、オレゴンの音世界に比肩する「ネイチャー・ジャズ」。特にリーダーの富樫雅彦のパーカッションの表現の豊かさは特筆に値する。全体を覆うサウンドの「湿潤」な印象、森林から発生する朝霧のような肌触りの音。日常の音や自然の音を散りばめた様な演奏で日本の風景を見せてくれる様な、侘び寂びのあるパフォーマンスに心から癒される。

 
 

東日本大震災から7年1ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2018年4月26日 (木曜日)

新スタンダードへのチャレンジ

ジャズには「スタンダード曲」というのがあって、1930年代や1940年代のミュージカルをメインに、ジャズにアレンジし易い曲をチョイスして、様々なジャズメンがこれを演奏するに至って、スタンダード曲となっている。1950年代は、ミュージシャンズチューン、いわゆる、ジャズメンの作曲した曲が他の多くのジャズメンにも演奏されて、スタンダード曲となっている。

で、この「スタンダード曲」が1950年代から演奏され続けていて、これがまあ、今でも演奏されているのだから凄い。ジャズの場合、演奏の素材になる原曲は何でも良いと言えば何でも良いので、50〜60年の長きの間、演奏され続けるというもの判らない訳では無い。でも、いつもいつも同じ曲ばかりがあちらこちらで演奏されると、ちょっと食傷気味になる。

1960年代後半から1970年代にかけて、ロック&ポップスの世界で、良い旋律を持って、ジャズに合いそうな曲は沢山ある感じなので、この年代の曲で、もっとスタンダード化される曲があってもよいのだが、これがなかなか無い。これが不思議で、ジャズメンって、意外にチャレンジ精神に欠けるのでは、と密かに思ったりもする。
 

Timeless__keiko_lee  

 
KEIKO LEE『TIMELESS - 20th Century Japanese Popular Songs Collection -』。昨年10月のリリース。キャッチフレーズが「日本のジャズ歌姫ケイコ・リーが、20世紀のエヴァーグリーンなJポップの数々を上質なジャズで歌いあげる。日本ジャズのネオ・スタンダードへのチャレンジ」。おお、ネオ・スタンダードへのチャレンジか。僕はこのフレーズにからしき弱い。

収録曲を見渡して、思わずほくそ笑む。いやいや〜渋い渋い。1947年の「胸の振り子」から1991年の「ラブ・ストーリーは突然に」まで、日本の歌謡曲&ポップスの名曲をジャズ・ボーカル曲として、ケイコ・リーが唄い上げている。そう、ケイコ・リーって、以前からチャレンジ精神が旺盛で、そう言えば、クイーンの「ウィ・ウイル・ロック・ユー」をむっちゃ格好良くカバッてたっけ。

アレンジが良い。選曲された日本の歌謡曲&ポップスがしっかりと「ジャズ化」している。唄い上げるケイコ・リーのボーカルの素晴らしさは言うまでも無い。個人的には、懐かしの「我が良き友よ」が気に入っている。とってもジャジーでクール。こういうチャレンジってウェルカム。他のジャズメンも、もっともっとやって欲しい。意外と新しいジャズが現れ出でるかもしれない。

 
 

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2018年3月28日 (水曜日)

山崎千裕のソロ・セカンド盤

ここ2〜3年の、最近の日本のジャズを聴いている。ジャズって、マイナーな音楽ジャンルだと思っているので、毎月毎月、日本のジャズの世界で、新人が出てくるのにはちょっと当惑する。その新人ジャズメンが食べていけるだけの需要が、今の日本にあるのか、と思わず心配になる。CDの売上やライブの売上、そんなにあるのかなあ。

加えて、このマイナーな音楽ジャンルで、かつ、ほとんどが男性で占められるマニアな音楽ジャンルなのに、数年に一人は「かわい子ちゃん」なミュージシャンがデビューする。これがとっても不思議で、男性で占められるマニアな世界だから、アイドルっぽい女性ジャズ・ミュージシャンはウケる、とレコード会社は考えているのだろうか。

山崎千裕『Sweet thing』(写真左)。2017年の作品になる。アルバム・ジャケットを見てみるとお判りの様に、ピンク地の背景をバックに、これは完全にアイドル路線まっしぐら、である(笑)。これは硬派なジャズ者に方々、特に年配の方々がCDショップで直接購入するにはハードルが高い。僕もそうで、ダウンロードサイトがあって良かったなあ、とつくづく思ったものである(笑)。
 

Sweet_thing  

 
この盤は、山崎千裕のソロセカンドアルバムになる。山崎千裕はトランペッター。東京芸大卒。2010年、自身のバンド山崎千裕+ROUTE14bandを立ち上げ、本格デビュー。女性トランペッターではあるが、音はしっかりしている。当然、音の大きさについては割り引いても、無理をしない演奏テクニックとふらつきの無いブロウは聴き易く、好感が持てる。ん〜、なかなかやるやん、って感じかな。

スタンダード曲を持って来て、従来のモードやコードの純ジャズをやって、ハードバップって良いですね、なんて演奏をせず、自作曲を中心に、演奏全体のアレンジも、ありきたりのハードバップ基調ではない、どちらかといえば、パット・メセニーなどの、ファンクネス皆無のフォーキーでネーチャーな、米国ルーツ・ミュージック的な雰囲気。これが今までにありそうで無い、なかなかユニークなもの。

演奏全体のアレンジと雰囲気が今までに無い、個性豊かなもので、それが故に、インストものが実に聴きやすく印象的に響く。爽快感と暖かみのある音作りは聴き心地が良く、意外と飽きずに全編を聴き通してしまう。春のジャズ喫茶の昼下がりにさりげなく流す、なんてシチュエーションが思い浮かぶ様な、ながら聴きに好適な盤である。

 
 

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2018年3月27日 (火曜日)

ながら聴きのジャズも良い・31

最近の日本ジャズのトレンドのひとつが「クラブ・ジャズ」。いわゆる「クールに踊れるジャズ」、クールに踊れることを前提に創作されたジャズである。ネットで上げられていた「クラブ・ジャズ」の解釈が秀逸なので、ここで引用させていただくと、踊らせること、クラブでDJによってプレイされることを目的として作られた「ダンスミュージック」とある。とても判り易い解釈だ。

H ZETTRIO『Mysterious Superheroes』(写真左)。今年の3月のリリース。リリースしたてのホヤホヤ、H ZETTORIOの通算4枚目のオリジナル・アルバムである。H ZETTRIO=エイチゼットリオ、と読む。純日本のジャズ・ピアノ・トリオ。メンバー3名は、鼻を青・赤・銀に着色。ちなみにパーソネルは、H ZETT M (p), H ZETT NIRE (b), H ZETT KOU (ds)。リアルな姓名は伏せられている。

H ZETTRIOは「大人も子どもも“笑って踊れる”」をテーマに掲げるピアノトリオ・バンドである。この最新盤でもそのポリシーが踏襲されている。とにかくトリオのメンバーそれぞれのテクニックが秀逸。「笑って踊れる」部分をファンキーなリズム&ビートに頼ったりはしない。H ZETTRIOの演奏は「笑って踊れる」をテーマにしながら、ファンクネスは全く皆無。疾走感溢れる、パルシヴなオフビートがダンサフルを引き出す。
 

Mysterious_superheroe  

 
演奏の雰囲気はポップでジャジー。ダンサフルで明朗なサウンド・トーン。シンプルで判り易い。リズム&ビートも判り易いし、メロディー・ラインも判り易い。判り易いということは「ノリ易い」。さらに、メロディー・ラインはポジティヴ。ポジティヴだからこそ「笑って踊れる」。とても良く練られた演奏コンセプトである。

アルバムに収録されている楽曲は、それぞれ、ちょっと「ミステリアス」な雰囲気が加味されていることが、この盤の「ミソ」。一曲一曲、対峙して聴き込むのでは無く、そのシンプルでノリの良い、ハイテクニックでポジティヴな演奏は「ながら聴き」に最適。「大人も子どもも“笑って踊れる”」演奏は「ながら聴き」にも向く。

先週の週末から、いきなり暖かくなった。すっかり春である。春の暖かな晴れた午後。ゆったりホッコリのんびり。こういう時間は聴き流しのジャズが良い。あまり、ガッチガチに相対する様な、聴き込む様なジャズは疲れる。ゆったりと気持ちを休ませるには「聴き流し」のジャズが良い。今の僕にとっては、H ZETTRIO『Mysterious Superheroes』は、ゆったり「聴き流しのジャズ」。

 
 

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2018年3月26日 (月曜日)

日本人による「ジャズで踊る盤」

元来、1960年代から、日本のジャズはなかなかの線を行っている。穐吉敏子や渡辺貞夫らがいち早く、バークリー音楽院に留学し、ジャズ演奏のノウハウを日本に持ち帰ったことが一番大きい理由だが、その頃、日本では戦後、あこがれの米国の環境に追いつくべく、クラシック中心に楽器演奏についての環境が急速に整いつつあったこともある。

今でも、ジャズの演奏については、日本の水準は西洋諸国と比肩するレベルを維持しており、毎月、なかなかの内容のジャズ盤がコンスタントにリリースされている。逆に、こんなに多くのジャズ盤がリリースされていて、はたして今の日本にそれだけの需要はあるのかしらん、と不安になるくらいである。

松浦俊夫グループ『LOVEPLAYDANCE』(写真左)。2018年3月のリリース。発売ホヤホヤのアルバムである。世界規模での活躍を続けるDJ松浦俊夫(写真右)、初の自己名義作品。 宣伝の触れ込みは「自身のDJキャリアにおけるマイルストーン的ナンバーをカバーしたアルバム」。ん〜? 松浦俊夫の役割と言えば、そうか、コンダクター、もしくはプロデューサーなのか、なるほど。
 

Love_play_dance  

 
立ち上がりから暫くは「エレ・マイルス」の様な音が続く。これが良い。エレ・マイルスというと、ノスタルジックな雰囲気が漂うのだが、この盤での演奏はそうはならない。しっかりと今の音を紡いでいる。とにかくリズム&ビートの響きが新しい。音の展開も決して1970年代では無い。明確に「ジャズでクールに踊る」という音作り。クラブ・ジャズの真骨頂である。

5曲目「KITTY BEY」の様に、サイケデリックの様なアブストラクトな展開がユニークなエレ・ジャズもある。8曲目の「AT LES」の様に、ユーロリズミックなエレ・ジャズもある。いづれも「ジャズでクールに踊る」ということを前提とした演奏で、さすが、DJ松浦俊夫のコンダクト&プロデュースである。

今回の楽曲はすべてロンドン録音で、英国のミュージシャンを起用している。録音された音の響きや楽器の音が米国でもなければ欧州でも無い。不思議な音やなあ、と思っていたが、なるほど英国のミュージシャンでロンドン録音なのね。妙に納得しました。スウィンギン・ロンドンの聖地で、明確に「ジャズでクールに踊る」という盤をコンダクト&プロデュース。これが日本人の手によるジャズ盤なのか、と思い切り感心した次第。日本のジャズのレベルは明らかに高い。

 
 

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2018年1月24日 (水曜日)

井上銘の「リーダー作第3弾」

雑誌「ジャズライフ」のディスク・グランプリ、「ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を細かにチェックしていて、久し振りにこのギタリストのリーダー作を雑誌で見た。井上 銘(May Inoue)である。彼のデビュー盤の『First Train』を聴いて、これは将来、楽しみなギタリストやなあ、という印象を持ったのが、2011年のこと。

それから、2013年に、セカンド盤の『Waiting For Sunrise』をリリース。それから、昨年の2017年まで、リーダー作が途絶えている。6年間で2枚のリーダー作はあまりに少なすぎる。でも、Twitterを見ている限り、元気にプレイしているみたいで、なかなかリーダー作をリリースする機会に恵まれないだけか、とちょっと安心はしていた。

で、「ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」で、昨年、3枚目のリーダー作をリリースしていたことに気がついた。ほんま、知らんかった。その3枚目のリーダー盤とは、井上 銘『STEREO CHAMP』(写真左)。ちなみにパーソネルは、井上 銘 (g), 類家 心平 (tp), 渡辺 ショータ(key,p),  山本 連 (b), 福森 康 (ds)。
 

Stereo_champ_1

 
内容的には、ずばり「エレ・マイルス」。類家のトランペットが、ちょっとマイルスのトランペットに似ていて、バックのリズム&ビートが「エレ・マイルス」を想起させる。曲によっては、明らかに「ウェザー・リポート」を想起させる。エレギが活躍する「エレ・マイルス」もしくは「ウェザー・リポート」。いわゆる「エレクトリック・ジャズ」好きには「ツボ」な内容である。

しかし、このリーダー盤で、リーダーの井上はエレギを弾きまくる訳では無い。どちらかと言えば、バッキングに回って、フロントの類家のトランペットの惹き立て役に回っている感じなのだ。確かに、類家のトランペットが目立っている。というか目立ちすぎの様な感じがする。エレギとトランペット、フロントを分け合うには、音の線が細い分、エレギはちょっと分が悪い。

とは言え、井上のエレギは随所に光るものがある。このリーダー盤では、ギタリストというよりは、演奏全体を組み立て展開する、いわゆる「プロデューサー」的な、総合的なジャズメンとしての魅力の方が前面に出ている。エレギ+キーボード・トリオの組合せでやって欲しいなあ。井上のエレギは「ウェザー・リポート」的雰囲気の演奏が合っている様な感じがする。

 
 

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2018年1月22日 (月曜日)

「温故知新」なビ・バップ

雑誌「ジャズライフ」のディスク・グランプリ、「2017年度ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」が発表された。この「ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」って実に重宝で、これが前年のジャズを振り返る良いチャンスで、毎年毎年、雑誌に挙がっているアルバムを順番に聴き直すのだ。これで、前年のジャズのトレンドがまとめて体感出来る。

渡辺貞夫『Re-Bop』(写真左)。昨年2017年のリリース。ナベサダさんが、自身のルーツであるビ・バップをテーマにした、5年ぶりの純ジャズ盤。ちなみにパーソネルは、Sadao Watanabe (as), Cyrus Chestnut (p), Christopher Thomas (b), Brian Blade (ds)。う〜ん、むっちゃ魅力的な、むっちゃ説得力のある人選である。

この盤を聴いてみると良く判るんだが、ナベサダさんのこの盤、メインストリームな純ジャズな内容なんだけど、リズム・セクションの演奏が、とっても「最新式」なのだ。特に、ドラムに、ブライアン・ブレイドを採用しているところが「ニクい」。唄うが如く、ブレイドのビートが明らかに「最新式」なのだ。そこに、安定安心のクリストファー・トーマスのベースが追従する。
 

Rebop

 
この「最新式」のリズム&ビートをバックに、ナベサダさんが「ビ・バップ」なアルトをガンガンに吹き上げていくのだ。最新式の純ジャズのビートに乗った「ビ・バップ」。聴いていて「温故知新」という故事成語を思い出した。正に「故きを温ねて、新しきを知る」演奏内容に感心することしきり。ナベサダさんは、決して「懐古趣味」には走らない。ナベサダさんのアドリブ・フレーズは「新しい」響きに満ちている。

そして、このナベサダさんの「温故知新」なビ・バップに、しっかりと寄り添うように、現代の「ビ・バップ」フレーズを繰り出すサイラス・チェスナットのピアノが、これまた「ニクい」。このチェスナットのピアノも「古くない」。ビ・バップしているんだが「古くない」。このチェスナットの「温故知新」なビ・バップ・ピアノも聴きものだ。ナベサダさんの伴奏に回ったチェスナットのピアノは絶品である。

この盤の触れ込みであった「自身のルーツであるビ・バップをテーマにした純ジャズ盤」を初めて目にした時、いよいよ昔の「ビ・バップ」の音世界の再現に行き着くのか、と感じたのだが、申し訳ありませんでした。昔の「ビ・バップ」の音世界の再現など、とんでもない。旧来のビ・バップの焼き直しでは無い、正に現代の最新式のビ・バップがここにある。聴き応えのある好盤です。

 
 

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2018年1月15日 (月曜日)

モンクをシンセ・エレピで弾く

ジャズを好きになるか、ならないか。それを確かめるには「Thelonious Monk(セロニアス・モンク)」の諸作を聴けば良い。モンクのアルバムを聴いて「面白い」と感じて、聴き込む様になれば「ジャズを好きになる」。「なんじゃこれは」と敬遠すれば「ジャズは好きにならない」。モンクの楽曲が演奏が試金石になる、というのを、昔、雑誌で読んだことがある。

これって、意外と真実だと思っていて、確かに今を去ること35年ほど前。ジャズ者初心者駆け出しの頃、Thelonious Monk『Thelonious Himself』を聴いて、これは面白い、と感じて繰り返し聴き、『Thelonious Monk Trio』の「Blue Monk」を聴いて、このユーモラスな曲にゾッコン惚れ込み、そのフレーズを口ずさみながら、大学の構内を闊歩していたことを思い出した。

逆に、友人はモンクを聴いて「なんやこれ」と絶句したまま。そのうち、ジャズのアルバムには手を出さなくなった。確かに、モンクの楽曲や演奏は、楽譜通りに端正に演奏するクラシックとは対極の、即興性や自由度の高い、そして意外性のあるジャズならではの展開がてんこ盛り。そう言う意味では、モンクの楽曲や演奏が気に入る、ということは「ジャズを好んで聴く」素質がある、と言っても良いと思う。

そんなモンクの楽曲であるが、プロのジャズメンとしても、モンクの楽曲は無視出来ない存在みたいで、いつの時代でも「モンク・トリビュート」なアルバムがコンスタントに定期的にリリースされている。即興性や自由度の高い、そして意外性のあるジャズならではの展開がてんこ盛りなモンクの楽曲は、ジャズメンにとっても取り組み甲斐のある素材なのだろう。
 

Monk_studies

 
山中千尋『Monk Studies』(写真)。昨年のリリース。ちなみにパーソネルは、Chihiro Yamanaka (p, syn, el-p, org), Mark Kelley (b), Deantony Parks (ds)。ピアノ・トリオの編成。担当楽器を見れば判るが、山中千尋は、アコピ以外にシンセ・エレピ・オルガンを弾いている。モンクの楽曲をシンセ・エレピでやる、という発想が僕には無かったので、ちょっとビックリした。

で、アルバムを聴いてみてニンマリ。なるほど、これって「アリ」やね〜。モンクのピアノ奏法って、パーカッシブなところがあって、それだけでモンクっぽくなったりするんですが、シンセやエレピでモンクの楽曲をやると、パーカッシブな要素が抜けて、モンクの楽曲の持つ、モンクならではの個性的なフレーズだけが浮き出てくる。モンクの楽曲の持つ個性的なフレーズを心ゆくまで愛でることが出来るのだ。

アコピをできる限り排除することで、モンクらしく弾く、ということを全くせずに、モンクらしいフレーズを散りばめた、モンク・トリビュートなアルバムを成立させている。この「モンクの楽曲をシンセ・エレピで弾く」という、山中千尋のプロデューサー的発想は素晴らしい。アルバム全編を聴き通して心底感心した。

全曲アレンジは山中が担当。オーソドックスなピアノ・トリオでは無いし、アコピでモンクをやる訳ではないけれど、この「モンクの楽曲をシンセ・エレピで弾く」キーボード・トリオな演奏は、明らかに今の先端のジャズであることは間違いない。でも、硬派で真面目なピアノ・トリオの愛好家の方々からすると、拒絶反応が激しいかも。ちょっと聴く人を選ぶかなあ。でも、僕はこの盤は「アリ」です。

 
 

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2017年12月28日 (木曜日)

日本人によるエレ・ファンク

菊地雅章の『Susto』は「耳に優しい」エレ・マイルスであり、「聴き易い」エレ・ファンクであった。エレ・マイルスからファンクネスを抜いて、混沌としたグルーブを再整理し、重量級のリズム&ビートを軽量にし、ジャジーで複雑なフレーズをポップで判り易くした様な音世界。

実は、この『Susto』と対になる、『Susto』と同様に「耳に優しい」エレ・マイルスであり、「聴き易い」エレ・ファンクであるアルバムがある。『Susto』の次作であるこの盤。菊地雅章『One Way Traveller』(写真左)。1980年11月の録音。1982年のリリース。僕は社会人ほやほやで、このアルバムは『Susto』と併せて良く聴いた。

ちなみにパーソネルは、菊地雅章 (key), 日野皓正 (cor), Sam Morrison (ss), Steve Grossman (ss,ts), Hassan Jenkins (b), Gass Farkon (g), Billy Paterson (g), James Mason (g), Butch Campbell (g), Marlon Graves (g), Ronald Drayton (g), Richie Morales (ds), Victor Jones (ds), Aiyb Dieng (per), Airto Moreira (per), Alyrio Lima (per)。ほとんど、前作『Susto』と同じメンバー。
 

Oneway_traveller

 
というのも、この『One Way Traveller』と『Susto』とは録音日が同じ。そりゃ〜メンバーは同じだな〜。アルバムに詰まっている音世界は『Susto』と同じ。エレ・マイルスよりも、整然としていて見通しが良い。エレ・マイルスは、混沌としたところがあり、耳に過度の刺激になる「毒」の要素がところどころに漂っているのだが、『One Way Traveller』は健康的である。

もちろん、ファンクネスは希薄である。音とリズムの洪水ではあるのだが、すっきりとしていて聴き易いエレ・ファンクである。菊地雅章のキーボードも判り易く個性的。シンセの使い方も非常に健全である。日野皓正のトランペットは明らかにマイルス風で、これはちょっとなあ、と苦笑い。

『One Way Traveller』は『Susto』の後に続けて聴くのが一番。『Susto』では印象的なキーボードはフェンダー・ローズ。この『One Way Traveller』での印象的なキーボードはシンセサイザー。菊地のキーボード・ワークは素晴らしい。しかし、これだけのメンバーを集めて、演奏させてみて、このファンクネスの希薄さは面白い。日本人のエレ・ファンクやなあ、と妙に納得する。

 
 

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2017年12月27日 (水曜日)

日本人によるエレ・マイルス

我々は音楽のプロでは無い。プロでも無い我々が、プロの創り出す音を悪く評することはマナーに反する、と常々自戒している。では、音楽のプロはプロの創り出す音を悪く評しても良いのか。それも違うだろう。プロはプロ同士、相手の成果に対しては敬意を払うべきだろう。悪く評したければ言葉にしなければ良い。相手を悪く評する言葉は決して発信せず、自分の心の中にしまっておけば良い。

僕はこの人が雑誌などで語る、他のジャズメンのアルバムやパフォーマンスをケチョンケチョンにこき下ろす記事を何度も目にし、かなりの嫌悪感を覚え、この人の創作する音楽さえも避けてしまうようになった。歯に衣を着せない物言いは良いのだが、あまりに他のジャズメンを悪く評し過ぎで、それが活字となって残るのだから始末が悪い。

しかし、この盤だけは良く聴いた。菊地雅章『Susto(ススト)』(写真左)。1980年の録音。ちなみにパーソネルは、菊地雅章 (key,synth), 日野皓正 (cor,bolivian flute), Steve Grossman (ss,ts), Dave Liebman (ss,ts,a-fl), Richie Morales (ds), Yahya Sediq (ds), Hassan Jenkins (b), James Mason (g), Marlon Graves (g), Barry Finnerty (g), Alyrio Lima (per), Aiyb Dieng (conga), Sam Morrison (wind driver), Ario Moreira (per), Ed Walsh (synth prog)。しかし、よくこれだけのメンバーを集めたものだ。
 

Susto_1

 
この盤の音世界は、一言で言うと「1970年前後のエレ・マイルス=マイルスのエレ・ファンク」である。しかも、エレ・マイルスからファンクネスを抜いて、混沌としたグルーブを再整理し、重量級のリズム&ビートを軽量にし、ジャジーで複雑なフレーズをポップで判り易くした様な音世界。とにかく聴き易い。ジャズ初心者にとっては、本家本元のエレ・マイルスは「聴くと疲れる」。しかし、この盤のライトなエレ・マイルスは聴き易かった。若い頃、ジャズ者初心者の頃、この盤は聴いた。

面白いのは、米国ジャズメンが中心なのにファンクネスが希薄なこと。リズムも軽量級になること。これは日本人リーダーの指示だったのか、それとも日本人リーダーだから、それにジャズメン達が自発的にそのイメージに合わせたのか。しかし、力作ではある。収録された4曲、いずれの出来は良い。特に印象的なのは、リズム&ビートで一気に聴かせる「Circle/Line」、前奏のローズの音が印象的なエレクトリックなレゲエ・ジャズ「Gumbo」。

「Susto(ススト)」 とは、ポルトガル語で”驚き”という意味。今の耳で聴いても、1980年にこういうエレ・マイルスの再構築イメージの好盤が日本人の手で創作されていたとは素晴らしいことである。アルバム全体に心地良い迫力とテンションがあって、それでいてスッキリとしてポップ。ちなみに、菊地雅章が、Fender Rhodes Pianoを弾きまくっているアルバムとしては、この『Susto』が最後の作品とのこと。この盤はローズの音を愛でるに適した好盤でもある。

 
 

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