2023年10月 3日 (火曜日)

チックの個性が出揃ったソロ盤

チック・コリアの逝去の伴い、2022年5月、今一度、チック・コリアのリーダー作を「今の耳」で聴き直す作業に入った訳だが、今年に入って、いろいろ、私生活で面倒なことが相次ぎ、8ヶ月間、開店休業状態だった。が、やっと整理できて、今日、再開である。

チック・コリアはデビュー当時、新主流派の一歩先を行く、ばりばりのメンストリーム系の純ジャズの担い手で、モードからフリーまで、硬派な純ジャズをガンガンやっていた。そして、マイルスにスカウトされ、エレ・マイルスのバンドでキーボードを担当。チック独特のモードから現代音楽っぽいフリーなマナーで、ローズをバリバリに弾きまくっていた。当然、マイルスからの影響は大きく、1969年5月録音の『Sundance』まで、マイルスの影響は大であった。

が、チックは、その「エレ・マイルスからの音楽的影響」からの脱却を図る。チック自身のオリジナリティーを表現する為、欧州のECMレーベルと契約する。ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーの下、米国ジャズの影響下から脱して、欧州ジャズにおける「チック独特のモードから現代音楽っぽいフリー」を追求する。

Chick Corea『Piano Improvisations, Vol.1』(写真左)。1971年4月21, 22日の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p) のみ。チック・コリアの初ソロ・ピアノ盤。ソロ・ピアノは、その演奏するピアニストの個性が露わになる、というが、このチックのソロ盤は「その通り」の、ソロ・ピアノの名盤である。
 

Chick-coreapiano-improvisations-vol

 
チック;コリアの音楽性の1つに「ファンタジーとロマンティシズム」があるが、これは、恐らく、クラシック音楽からの影響、特に、欧州ジャズのジャズ・ピアノ(特に北欧ジャズなど)に触発されて表出した個性だと思われる。その表出が、このソロ盤のA面にある。冒頭の「Noon Song」など、チックの「ファンタジーとロマンティシズム」が蔓延している。これは、当時のジャズとして、新しい表現だった。メロディアスで流麗、キャッチャーなフレーズ。チックの面目躍如である。

そして、欧州ジャズの影響下での「チック独特のキャッチャーでモーダルな演奏」は、A面の2曲目以降、「Song for Sally」から「Sometime Ago」に満載。この欧州ジャズの影響下での「チック独特のキャッチャーでモーダルな演奏」が、チックの、この盤以降の「チック独特のキャッチャーでモーダルな演奏」の基本となっていく。後のアルバムに現れる個性的なフレーズの断片が、このA面に散りばめている。

B面は「チック独特のフリーな演奏」がてんこ盛り。この欧州ジャズの影響下でのチックのフリーなピアノ演奏は圧巻。フレーズの基本は「現代音楽」と「現代クラシック」。そこにハイテクニックで硬質なタッチのチックが、様々なバリエーションの、チック独特のフレーズが湯水の如く湧いて来る。イマージネーションの幅広さと奥深さ。チックの才能の凄さを再認識する。

ECMレーベルに移籍して、まずは『A.R.C.』で、「限りなく自由度の高いモーダルな演奏からフリー」をぶっ放したチックであるが、このソロ・ピアノ盤で「ファンタジーとロマンティシズム」、そして「チック独特のキャッチャーでモーダルな演奏」が露わになった。この『Piano Improvisations, Vol.1』で、チックの個性が出揃った。ECMレーベルに移籍して正解だったことになる。
 
 

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2023年9月22日 (金曜日)

ザイトリンのソロ・ピアノ集

この3日間、中京地区に逗留していた訳だが、往き帰りの新幹線の中は、またとない「ジャズ盤傾聴」の機会。意外と新幹線の車内は静かで、ジャズ盤がしっかり聴き込むことが出来る。今回もソロピアノを中心に聴き込んだのだが、これがまたなかなか内容のある盤ばかりでご満悦である。

デニー・ザイトリン(Denny Zeitlin)は、「医師とジャズ・ピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物。しかも、医師は医師でも精神科医。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきた「異色中の異色なジャズ・ピアニスト」である。

Denny Zeitlin『Crazy Rhythms・Exploring George Gershwin』(写真左)。2018年12月7日「Piedmont Piano Company, Oakland」での録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p) のみ。「異色中の異色なジャズ・ピアニスト」であるデニー・ザイトリンのソロ・ピアノのライヴ録音。現時点でのザイトリンの最新作になる。

ザイトリンは、この2018年に開かれたコンサートでアメリカの偉大な作曲家「ジョージ・ガーシュイン」のトリビュートとして、このソロ・ピアノのライヴ盤を録音している。が、このソロ・ピアノのパフォーマンス、ザイトリンのピアノの個性が手に取るように判るパフォーマンスがしっかり記録されていて、ザイトリンの個性を確認するのに最適なライヴ盤になっている。
 

Denny-zeitlincrazy-rhythmsexploring-geor

 
前のブログで「ザイトリンのピアノは、ビル・エヴァンスのピアノから、翳りを除いて硬質で明快なタッチに置き換えた様な、明るい弾き回し。しかし、音の重ね方やヴォイシングはエヴァンスより複雑で個性的」と書いたが、このザイトリンのピアノの特徴が、このソロ・ピアノのライブ盤でとても良く判るのだ。

冒頭の「Summertime」。この手垢の付いた「超スタンダード」な楽曲なのだが、冒頭の弾き回しを聴いていると「あれ、ビル・エヴァンスかな」と思うんだが、聴き進めると、まず音の重ね方が違う。エヴァンスよりも複雑で陰影が濃い。そして、タッチが違う。ザイトリンの方が硬質で調高速な弾き回しに破綻が無い。そもそも、ビル・エヴァンスは、こんな超高速な弾き回しはしない。そして、ヴォイシングが違う。そもそも音の選び方が、聴いて直ぐ判るくらいに違う。

加えて、アレンジが秀逸。演奏されるどの曲もひと味もふた味も違うアレンジが施されているのだが、特に「The Man I Love」など、今までの「The Man I Love」のアレンジはしっとりとしたバラード調のものばかりだったが、ザイトリンのアレンジは、アグレッシブでスクエア。まるで流麗な「モンク」が弾き進めている様な音作り。この辺が、ザイトリンのアレンジの個性的なところである。

全編聴き通すと、確かに「エヴァンス派」と呼べなくはないのだが、弾き回しのニュアンスが似通っているだけで、後は皆、違う個性なのだから、ザイトリン独特の個性として認めても良いのでは無いか、と思う。それほど、このライヴ盤ではザイトリンの個性が際立っている。
 
 

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2023年8月 2日 (水曜日)

スヴェンソンのソロ・ピアノ盤

北欧ジャズがずっと、お気に入りである。そして、突如、今年になって、北欧ジャズをしっかり聴き直そうと思い立った。米国ジャズから始まって、和ジャズ、欧州ジャズ、そして、最後に北欧ジャズ。ジャズを約半世紀、ずっと聴いてきたが、ようやく北欧ジャズを聴き直すタイミングになってきた。

北欧の純ジャズは一定の傾向がある。透明感のある音とエコー。ファンクネス皆無。クラシック音楽に根ざした正統なフレーズ回し。スピリチュアル&エモーショナルのバランス取れた情感表現。決して熱くならない、クールに盛り上がるエモーショナルな表現。耽美的でリリカル、情感溢れるフレーズ。北欧ジャズには独特の響きがある。これが良い。

Esbjörn Svensson『HOME.S.』(写真左)。2008年春の録音。ちなみにパーソネルは、Esbjörn Svensson (p)。北欧ジャズで有名なエスビョルン・スヴェンソン・トリオ(e.s.t.) のリーダー、スヴェンソンのソロ・ピアノ盤。

エスビョルン・スヴェンソンが、2008年6月14日、ストックホルム近くの小島で、スキューバダイビング中の不慮の事故で亡くなるわずか数週間前に、彼の自宅で録音されたソロ・ピアノ音源。スヴェンソンの急逝後、妻のエヴァ・スヴェンソンによって、ハードディスクの中から発見された未発表音源。
 

Esbjorn-svenssonhomes

 
44歳での録音。天国からの贈り物。全9曲がオリジナル。それぞれの曲名がちょっと不思議なタイトルで、これって何だ、と思っていたのだが、資料によると、スヴェンソン本人が急逝した為、全ての曲のタイトルは決められていなかったので、宇宙が好きだった彼の想いを汲み、ギリシャ語のアルファベットにしたとのこと。なるほど。

硬質で力感溢れる打鍵、流麗な高速フレーズ。踊るように弾むタッチ、麗しい高揚感。内省的で静的、そして透明感溢れる響き。そして、フレーズの底に流れる「ジャジー&ブルージー」な感覚。耽美的でリリカル、それでいて力強く、強い意志を感じる、素晴らしいソロ・ピアノ。北欧ジャズの個性の全てを反映、包含したスヴェンソンのピアノは限りなく美しい。

「クールな熱気」ある弾き回しに思わず引き込まれる。スヴェンソン独自のメロディックな即興演奏。北欧ジャズを代表するソロ・ピアノのパフォーマンスの記録だろう。よくぞ発見されたと思う。

妻のエヴァ・スヴェンソン曰く「まるでエスビョルンの声が部屋の中に聞こえるようです。彼はまだ言いたいこと、伝えたいことがあるのです」。激しく合意する。久々に聴き応えのあるソロ・ピアノに出会った。
 
 

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2023年7月15日 (土曜日)

メルドーのビートルズのジャズ化

ジャズ・ピアノの次世代を担うリーダー格の「ブラッド・メルドー」。1990年代、キース・チック・ハービーの後を継ぐ正統な後継者と目されて以来、初リーダー作から30年が経って、今年でメルドーも53歳。ジャズ・ピアニストとしては、充実し切った中堅の時代。流麗で耽美的でリリカルでモーダルな、ビル・エヴァンス以降のモダン・ピアノの後継として、その存在は実に大きい。

メルドーは若手の時代から、チャレンジ精神旺盛で、ビートルズの楽曲のジャズ化にチャレンジしたり、スタンダード曲も殆どマイナーな存在の曲を選曲したりして、聴き手に迎合すること無く、自らのやりたい、演奏したいピアノ・ジャズを積極的に展開してきた。最近では、プログレッシヴ・ロックの有名曲のジャズ化にチャレンジ、素晴らしい成果を披露している。

これが実に見事なプログレのジャズ化で、思わずひどく感心してしまった。実は僕は今を去ること50年ほど前、バリバリの「プログレ小僧」で、今でも時々、プログレを聴いてしみじみしたりしている。もちろん、メルドーのカバッているプログレ曲は全て判る。そんな背景もあって、このメルドーのジャズ化については「度肝を抜かれた」。完璧にジャズ化されているプログレ名曲の数々。素晴らしい成果だった。

Brad Mehldau『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles』(写真左)。2020年9月、フィルハーモニー・ド・パリでのライヴ録音。2023年2月のリリース。パーソネルは、Brad Mehldau (p) のみ。ブラッド・メルドーのソロ・ピアノによる「ビートルズのカヴァー」盤。

これがまあ見事な内容で、聴いてビックリした。ビートルズの楽曲ってコード進行がヘンテコな曲が多くて、ジャズ化の難度が高い。ジャズ化がやり易い曲もあって、「Here, There And Everywhere」や「Something」は結構、内容の良いジャズ化がなされている。
 

Your-mother-should-know-brad-mehldau-pla

 
が、概ね、ビートルズの楽曲の特別な旋律をなぞる「イージーリスニング」風のアレンジが多くて、即興演奏を旨とするモダン・ジャズ化についてはあまり進んでいたとは言い難い。

が、このメルドーのビートルズ曲のジャズ化はとても良く出来ている。ビートルズの楽曲の持つ特別な旋律のイメージをしっかり保持しつつ、ヘンテコなコード進行の曲を、モーダルなフレーズに変換して、ジャジーなアドリブ展開にも十分耐える、そんなアレンジが見事。曲名だけ見たら、このビートルズ曲をジャズ化したのか、上手くいったのかなあ、と心配してしまう曲がズラリと並ぶが、見事にジャズ化のアレンジが施されていて、違和感が全く無い。

また、ビートルズの楽曲って、リズム&ビートがユニークな曲が多くて、単純な4ビートや8ビートに乗せると、かなり単調なジャズ曲に聴こえてしまうリスクが高いのだが、メルドーは、メルドーのピアノの個性のひとつ「右手と左手が別人格」な弾き回しを駆使して、ビートルズのそれぞれの楽曲の持つ、特徴あるリズム&ビートのジャズ化を実現している。

メルドーのビートルズ曲のジャズ化って、ビートルズ曲のジャズ化としても、ジャズ化したビートルズ曲としても、どちらの側面でもしっかりと楽しめるし、聴き応えがある。このビートルズ曲がをジャズ化するとこうなるのか、とも思うし、これってジャズ化されたあのビートルズ曲やね、とも思う。実に良く出来たビートルズのジャズ化の数々である。

メルドーのピアノの個性全開、素晴らしいアレンジと弾き回しで、この盤のビートルズ曲のジャズ化は成功している。見事である。ちなみにラストの「Life on Mars?」は、ビートルズ曲では無いです。これ、デヴィッド・ボウイの名曲のジャズ化です。
 
 

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2022年12月20日 (火曜日)

メイバーン初期のソロ・ピアノ

Harold Mabern(ハロルド・メイバーン)は、僕のお気に入りのピアニストの1人である。メイバーンはテネシー州メンフィス出身。1936年3月生まれ、2019年9月17日に惜しくも鬼籍に入っている。享年84歳。1968年に初リーダー作、意外とサイドマンでの活躍が目立っているが、リーダー作は多い。自身では2002年にヴィーナス・レコードに録音した『Kiss of Fire』が一番売れたリーダー作だ、としている。

Harold Mabern『Joy Spring』(写真左)。1985年の録音。ちなみにパーソネルは、Harold Mabern (p)。ドライブ感溢れるファンキー・ピアニスト、ハロルド・メイバーンのソロ・ピアノ盤。カナダのトロントの「カフェ・デ・コパン」でのライヴ録音。ラジオでも放送されたとのこと。

活動初期の頃のソロ・ピアノ盤なので、演奏するピアニストの個性がシンプルに判り易い。そして、このライヴ盤は、収録曲のほとんどはスタンダード曲で占められている。他のピアニストとの比較がし易い。メイバーンのピアノを理解するには恰好のアルバムである。
 

Harold-mabernjoy-spring

 
メイバーンのピアノは、明快で切れ味の良い、重量感溢れるタッチ。適度なテンションの下、アグレッシヴでポジティヴな、ドライヴ感溢れる弾き回し。濃厚に漂うファンクネス。このメイバーンのピアノ・ソロを聴いていて、思わず、レイ・ブライアントの『Alone at Montreux』を思い出した。

しかし、どこか似ているのだが、基本的にメイバーンのタッチの方がエッジが立っていて硬質。フレーズはメイバーンの方が「シュッと」している。こってこてファンキーなピアノであることには違いない。この「スッキリ&カッチリしたファンクネス」がメイバーンの個性であり、他のファンキー・ピアニストとの「差異化要素」である。

このスッキリ&カッチリしたファンキー・ピアノでスタンダード曲をユッタリとしたドライブ感を醸し出しながら、淀みなく、破綻無く弾き進めていく。スタンダード曲の解釈も良い感じ。ファンキーでありながら、どこか小粋でアーバンな「お洒落な」雰囲気が漂うところが「ニクい」。なかなかに聴き応えのあるソロ・ピアノ盤だと思う。
 
 

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2022年11月18日 (金曜日)

エヴァンスの「多重録音」第3弾

ビル・エヴァンスのワーナー時代、最晩年のリーダー作を再度、聴き直している訳だが、実は6枚しかない。1977年8月、ワーナーに移籍して録音を始めたら、なんと1980年9月15日には鬼籍に入ってしまったのだから、ワーナー時代は実質3年ほどしかない。リーダー作が少ないのは仕方が無い。

Bill Evans『New Conversations』(写真)。1978年1月26~28日30日、2月13~16日録音。パーソネルは、Bill Evans (ac-p,el-p)のみ。ビル・エヴァンスのソロ盤ですが、作りは「多重録音」。アコピとフェンダー・ローズをオーバーダビングするという手法を駆使して録音した作品。邦題は『未知との対話ー独白 対話 そして鼎談』。なんと仰々しい邦題であることか(笑)。

ワーナーに移籍して最初に録音したのが『You Must Believe in Spring』だったのだが、何故かお蔵入りになって(1981年、エヴァンスの没後にリリース)、この多重録音の『New Conversations』がワーナー移籍後の初リーダー作になる。

エヴァンスは多重録音によるソロ・パフォーマンスが好みな様で、ヴァーヴ時代に『Conversations with Myself』(1963年)、『Further Conversations with Myself』(1967年)と2枚の「多重録音」盤を出している。そして、今回ご紹介する『New Conversations』は、この「対話シリーズ」の第三弾になる。
 

Bill-evansnew-conversations

 
第3弾となって、やっとこの「多重録音」での個性の表出が上手く出来る様になった感がある。前の2作にあった違和感、喧噪感が無い。多重録音による「良い効果」を自己表現出来る様になった。この多重録音による「良い効果」によって、ビル・エヴァンスのアコピとエレピの個性というものがハッキリ感じ取れる。

アコピにせよ、エレピにせよ、出てくるフレーズは「エヴァンス・オリジナル」なもので、全く異論は無い。特にこの時期のエヴァンスのアコピの特徴である、タッチは明快でフレーズは切れ味良く耽美的、エヴァンス独特の音の響きを伴った「流麗なバップ・ピアノ」な弾き回しが良く判る。

また、この盤を聴いて、改めて感心したんだが、エヴァンスはエレピが上手い。特に、フェンダー・ローズの扱いが上手い。軽く聴いていたら、どこかチック・コリアに似た、ローズの特性を十分に把握した、とてもリリカルでエモーショナルな弾き回しは見事。エヴァンスのエレピについては十分に評価するべきだろう。当時としても、このエレピの弾き回しは秀逸。

ワーナーに移籍して最初のリーダー作に「ソロ・パフォーマンスの多重録音」盤を持って来た理由は図りかねるが、録音当時のエヴァンスのピアニストとしての特徴が良く判る内容になっている。「ソロ・パフォーマンスの多重録音」はどこか際物の匂いがするが、気にすることは無い。エヴァンスのソロ・パフォーマンスを愛でるに十分なアルバムである。
 
 

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2022年11月 4日 (金曜日)

ソロライヴ「ボルドーのキース」

2017年2月15日の米「カーネギーホール」でのコンサート以降、一切公演を行っていないキース・ジャレット。その後、2018年2月と5月、2度の脳卒中を起こし、左半身が麻痺。1年掛けてかなりリハビリしたものの、片手でしか演奏できず、キースいわく「両手演奏のピアノ曲を聴くと、非常にもどかしく感じる」。それから、3年が経過している。キースの状態はどうなんだろう。

最近、キースはNPRからのインタヴューを受けたらしく、現在はニュージャージー州北西部の自宅で静かにリハビリを続けていて、ピアノの前に座り、インプロヴィゼーション、スタンダード、ビバップを右手で弾いていると明かしているそうだ。復帰する、しないに関わらず、回復して欲しいと切に思う。

Keith Jarrett『Bordeaux Concert』(写真左)。2016年7月6日、フランスのボルドーでのライヴ録音。キース・ジャレットのソロ・パフォーマンスの記録。

キースの最後の欧州ツアーの最初に録音された『ブダペスト・コンサート』、その欧州ツアーの最後に録音された『ミュンヘン2016』は既にリリースされている。今回リリースされた『ボルドー・コンサート』は、同じ最後の欧州ツアーにおけるブダペストのコンサートから3日後、ミュンヘンのコンサートの10日前に録音された作品。

ブタペストでは、前半は「バルトークへの生涯の愛着にインスパイアされたソロ・パフォーマンス」、後半は「耽美的でメロディアスで躍動的でジャジーなパフォーマンス」で構成されていた。
 

Keith-jarrettbordeaux-concert

 
ミュンヘンでは、前衛音楽の様なフリーキーな即興演奏から、アーシーなリズム&ビートを伴ったアメリカン・フォーキーな演奏、モーダルで限りなく自由なスタンダード演奏まで、なかなかバリエーションに富んだ内容だった。
 
このボルドーでは、ブダペストやミュンヘンと同じく、往年の「長尺の演奏で、起伏のある抒情的なメロディアスな曲」とは異なる、短尺の曲が志向を変えて入れ替わり立ち替わり展開されるという構成は変わらない。

オープニングは抑えめな曲調で、現代音楽風の無調なインプロから始まるが、後半になるに従って、ブタペストの様な「耽美的でメロディアスで躍動的でジャジーなパフォーマンス」になって、特に「美しい曲想」のパフォーマンスが多い。前半は「現代音楽〜現代クラシック」の志向が強く、後半は「極上の耽美的で躍動的なジャズ」の志向が強くなる。

キースのソロ・パフォーマンスのショーケースの様な内容で、適度なテンションの中、切れ味の良い、ダイナミックかつ繊細な、極上なピアノ・ソロの連続に、これはこれで良いよな、と一気に13の即興演奏を聴き通してしまう。

最近のインタヴューで、同じツアーで既に発売されている2作(ブタペスト、ミュンヘン)と本作以外に、他に訪れてライヴ演奏をした、ウィーンとローマも発表したいとのこと。そちらのリリースも大いに期待したい。
 
 
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2022年7月17日 (日曜日)

エロール・ガーナーのソロ盤

最近、天候が不安定な千葉県北西部地方。梅雨明けしたのは良いが、その後、1週間ほど酷暑の日が続いたと思ったら、一転、2週間前の土曜日辺りから、ほどんど晴れない、雨模様の日々、そして、いきなりゲリラ豪雨と、特にこの2週間、戻り梅雨のような状態になって鬱陶しい。おまけに天気予報が当たらない。その日になっても予報が当たらないなんて、どんな予報システムをしているのやら。

鬱陶しい不安定な日に加えて、湿度が異常に高くて、不快指数MAX。ここまでくると、エアコンの効いた部屋の中でも、難しいジャズは聴けない。パッと聴いてパッと判って楽しめる、シンプルなジャズが良い。ピアノ・ソロやピアノ・トリオ、そして、爽快感溢れるハードバップなジャム・セッション。聴いて心地良く疲れるフリー・ジャズなどは控えたくなる。

Erroll Garner『Afternoon of An Elf』(写真)。1955年3月14日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Erroll Garner (p)。孤高のスライド・ピアノの名手、エロール・ガーナーのピアノ・ソロ盤。聴かせるジャズ・ピアノ。エンタテインメント性バリバリのジャズ・ピアノのソロ・パフォーマンスが満載である。
 

Erroll-garnerafternoon-of-an-elf

 
エロール・ガーナーとは、1921年生まれ。1977年1月没。左手のベースラインをメインに、メロディを弾く右手は自由自在にタイム感を後ろにずらす「ビハインド・ザ・ビート」が特徴。エロール・ガーナーは、生涯楽譜が全く読めなかったとのことだが、ジャズも場合、それは全く関係無い。ジャズとは「感性」の音楽である。二度と同じフレーズが無い、究極の即興演奏が、このソロ・ピアノ盤に詰まっている。

難解なところは全く無い。オープンで大らかでハッピー・スインガーなガーナーの面目躍如。スイング・ジャズを踏まえたスインギーなフレーズ、当時の流行の弾き方だったブギウギ・ピアノで大立ち回り、スライド・ピアノで歌心満点な弾き回しを披露する。ピアノ・ソロだけに、ガーナーのピアノの個性にだけ集中出来るのが良い。「ビハインド・ザ・ビート」が心地良く耳に響く。

妖しい魅力を持った、打楽器的ピアノ・エンタテインメント。独創性溢れる究極の即興演奏。これが難しく響かず、判り易く心地良く聴くことが出来る「聴かせる」ピアノ・ソロ。エンタテインメント性バリバリのピアノ・ソロ。ガーナーのピアノは「ブレ」が無い。聴いて爽快な「ビハインド・ザ・ビート」。パッと聴いてパッと判って楽しめる、シンプルなピアノは個性濃厚である。
 
 

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2022年7月 7日 (木曜日)

パークスの初ソロ・ピアノ集です

アーロン・パークス(Aaron Parks)。1983年10月、シアトルの生まれ。16歳でNYに移り、マンハッタン音楽学校に編入。18歳の時、ケニー・バロンの推薦でテレンス・ブランチャードのバンドに参加。24歳でブルーノートから『Invisible Cinema』でメジャーデビュー。2010年代は、ECMレーベルに所属。現代ジャズにおける「リリカルで耽美的なピアノ」の代表格。

Aaron Parks『Arborescence』(写真左)。2011年11月、マサチューセッツ州ウースターの「Mechanics Hall」での録音。ECMレーベルからのリリース。アーロン・パークスの自己名義3作目。初のソロ・ピアノ演奏集になる。パークスの個性が露わとなるソロ・パフォーマンスの塊である。

パークスのピアノには、本人も語っているが、音の展開や音の重ね方などに、キース・ジャレットの影響が感じられる。パークスのピアノの個性の基本は「リリカルで耽美的なピアノ」。そこに、ECMレーベルでの歴代のソロ・ピアノの特徴がしっかりと反映されている。そして、パークスのソロ・パフォーマンスのパークス独特の特徴が「構築美と完成度」。
 

Aaron-parksarborescence

 
今までの歴代のソロ・ピアノは「即興演奏」に重点を置いて、パフォーマンスのイメージを、ピアノを弾きながら具体的に固めていきながら、音を紡いで行くのだが、パークスの場合、このパフォーマンスのイメージがピアノを弾く前に具体的になっていて、その具体的なイメージをしっかりと即興演奏として音にしていく感じなのだ。これが、今までの歴代のソロ・ピアノと異なる雰囲気である。

パークスの場合、そういう前提があるので、雰囲気に流されること無く、自己陶酔に陥ることも無く、つまり、演奏が長くなることも無く、同じフレーズを重ねることも無い。クラシック・ピアノの美しさを底に忍ばせた、聴いていて爽快感すら感じる「構築美と完成度」を個性とした「リリカルで耽美的な」ソロ・ピアノである。

キース・ジャレット、チック・コリア、ポール・ブレイ、リッチー・バイラークなど、ECMレーベルの音のカラーをダイレクトに反映した「リリカルで耽美的な」ソロ・ピアノの特徴をしっかり継承しつつ、自らの独特の個性を加味したアーロン・パークスのソロ・ピアノ。見事である。
 
 

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2022年4月23日 (土曜日)

ブラッキーン最後のソロ・ピアノ

自分のアルバム・カタログを見渡していて、久々に、Joanne Brackeen(ジョアン・ブラッキーン)の名前が目に留まった。1938年7月26日、米国カリフォルニア州バンチュラ生まれ。今年で84歳の高齢になる。ジュリアード音楽院を卒業し、フレディ・ハバードのグループでデビュー。69年にはメッセンジャーズに参加。力強く前衛的、捻りが効いた柔軟でリリカルな弾き回しが個性。

Joanne Brackeen『Popsicle Illusion』(写真左)。2000年の作品。ジョアン・ブラッキーンのソロ・ピアノ盤になる。彼女のキャリアの中で、ソロ・ピアノ盤は数枚あるが、その最後の盤。彼女のディスコグラフィーを確認したら、この盤を最後に、ブラッキーンのリーダー作は途絶えている。このソロ・ピアノ盤については、彼女のピアノの個性が非常に良く判る、優れた内容になっている。

ブラッキーンのピアノは端正でタッチが強い。とても明快なピアノである。しかし、アレンジはちょっと「捻くれている」。素直に、ハードバップ風な、モード・ジャズ風なアレンジかと思いきや、変則拍子であったり、いきなりアブストラクトに走ったり、転調を繰り返したり。でも、それが実に自然に展開するのだから素晴らしい。この「捻くれている」ことが、ブラッキーンの最大の個性なのだ。
 

Popsicle-illusion_joanne-brackeen

 
このソロ・ピアノ盤も、その「捻くれている」個性が随所に現れていて、ブラッキーンのピアノやなあ、と思わず感心するのだ。冒頭の「If I Were A Bell」、ストライド奏法で始まる。スタンダード曲をストライド奏法。と思いきや、4分の7拍子で演奏している。いや〜「捻くれている」(笑)。何か不思議な雰囲気の「If I Were A Bell」。

タイトル曲で自作の「Popsicle Illusion」は、ブラッキーンらしい複雑な曲。逆に、ビートルズの名曲カヴァー、2曲目の「Michelle」は、味わい深くリリカルなタッチで聴かせる。4曲目のスタンダード曲「From This Moment On」のダイナミズム溢れる弾きっぷりは、ブラッキーンならではのもの。7曲目の「Telavivision」も変拍子で硬派に攻めた演奏。演奏ラス前の「Prelude To A Kiss」は歌心満点なバラード演奏。

このソロ・ピアノ盤の録音当時、ブラッキーンは62歳。ジャズ・ピアニストとして、まだ老け込む年齢では無いし、隠遁する年齢でも無い。このソロ・ピアノ盤以降、ブラッキーンについてはリーダー作の無い状態が続いていて(現在、バークリー音楽院で教鞭を執っているようだ)、ちょっと惜しいなあ、という気持ちにさせてくれるソロ・ピアノ盤。最後に、このアルバムのラストに収録されている「Interview With Joanne(インタヴュー音源)」は「蛇足」ですね。
 
 

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