2019年11月15日 (金曜日)

節目となるソロ・パフォーマンス

順調にキース・ジャレットのソロ・ピアノ盤の聴き直しは進んでいる。1980年代に入って、キースの活動は多様化していく。1983年には、ピアノ・トリオ「スタンダーズ」を旗揚げ、クラシック・ピアノの世界にも進出し、ソロの活動もピアノや様々な楽器を用いての多重録音など、様々な形式、形態にチャレンジしている。1980年代半ば以降は、活動のベースは「スタンダーズ」の世界。合間合間にソロ・ピアノという活動が定着していく。

Keith Jarrett『Dark Intervals』(写真左)。1987年4月11日の録音。我が国の東京は「サントリー・ホール」でのライブ録音。もちろん、ECMレーベルからのリリース。録音エンジニアは及川公生。この日本における公演で、キースはソロ・ピアノのコンサートとして、記念すべき100回目を迎えることとなった。意外と歴史的に節目となるソロ・パフォーマンスである。

さて、このライブ盤は、キースのソロ・ピアノ盤の歴史を振り返ると、以降のキース・ジャレットのソロ・パフォーマンスの方向性を決定付けた内容であることが判る。キースの中でどういう心境の変化があったのか判らないが、確かにパフォーマンスの方向性は変わった。それまでのアメリカン・フォーキーで、ゴスペルチックな雰囲気も織り交ぜたアメリカン・ルーツ音楽をベースとした、躍動的でポジティブで外向的な展開が、この日本でのライブ盤で、ガラッと正反対に変わっている。
 
 
Dark-intervals-1  
 
 
現代音楽風で内省的、ピアノの響き、リズム&ビートはクラシック風。ただし、演奏自体は完全即興演奏なので、その「即興演奏」の部分で、このライブ盤でのキースのソロ・ピアノは辛うじて「ジャズ」の範疇に留まっている。明らかに意図的にジャズのリズム&ビートを排除しているように聴こえる。ただ、即興演奏のイマジネーションはバリエーション豊か。次から次への新しい展開が湧き出てくる。

冒頭の「Opening」に度肝を抜かれる。心揺さぶられる、決して穏やかでは無い、まるで読経の様な祈りの様な、うねるような「重低音」の響き。このビートはジャジーっぽさ皆無。当時のキースの「グルジェフへの傾倒」が良く判る。 2曲目の「Hymn」以降、ジャズっ気の希薄な、西洋宗教的な薄暗く荘厳な音世界。タイトルの「Dark Intervals」は言い得て妙なのが判る。

いつもどこかに散りばめられているグルービーなリズム&ビートは鳴りを潜め(そこが良かったんだが)、クリスタルでクリアで内省的で、超絶技巧なクラシック・ピアノの様な展開。しかし、この東京公演の追加公演ではスタンダード・ナンバーのみで構成されたのだから、キースの頭の中は判らない。しかし、正式なアルバムとしてのソロ・ピアノは、この『Dark Intervals』を境に方向性は変わり、この方向性を踏襲することとなる。そういう意味でこの盤は「キース者」として必聴。
 
 
 
東日本大震災から8年8ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年11月12日 (火曜日)

邦題「ブレゲンツ・コンサート」

このソロ・コンサートのライブ音源については、1980年のアナログ時代、このコンサートの数日後のミュンヘンでのソロ・コンサートも含めたLP3枚組の大作としてリリースされた。当然、値が張る。しかも、時代は「フュージョン・ジャズ」の全盛期。このLP3枚組の大作はあまり注目されていなかった様な思い出がある。そして、2000年にCD化された時、このLP3枚組の音源から「ブレゲンツ」でのコンサートだけが収録された。

Keith jarrett『Concerts』(写真左)。1981年5月28日、オーストリアのブレゲンツでのライブ録音。邦題は「ブレゲンツ・コンサート」。確かに、プレゲンツでのライブ音源のみなので、邦題については理解出来る。しかし、原題の「Concerts」の最後の「s」には疑問が残る。なんせ、ブレゲンツは単一、同日のソロ・コンサートのみで構成されているですから、ちょっとECMはいい加減でしたね(笑)。

さて、冗談はさておき、この「ブレゲンツ・コンサート」である。キースのソロ・パフォーマンスには珍しく、メジャー・キーを多く採用したフレーズが、バリエーション豊かに出てくるので、アルバム全体の雰囲気はポジティヴで明るい。タッチが温かく、フレーズの展開が外向的。若干、アメリカン・フォーキーな雰囲気も見え隠れし、キースの「真の本質」がまだまだこの辺りでは滲み出ている。
 
 
Conserts-keith-jarrett  
 
 
即興演奏の部分は、それまでの「フェイシング・ユー」や「ケルン」「サンベア・コンサート」などのポジティヴでちょっと明るい、外向的なパフォーマンスがメインで、躍動感もあり、聴いていて単純に「楽しい」。キースの専売特許である「演奏中の唸り」についても、このライブ盤の収録の頃から、ソロ・パフォーマンスでも出てきたみたい。まあ、このライブ盤では、キースの「唸り声」はあまり気にならない。

そして、アンコールの「ハートランド」が絶品である。この演奏については、事前に作曲されたものらしく、完全な即興演奏ではないのだが、そんな事は全く気にならないし、拘る気にもならない。それほど、この「ハートランド」は素晴らしい。このラストのパフォーマンスだけでもこの単品「プレゲンツ・コンサート」は「買い」だろう。

2013年になって、LP3枚組のオリジナル編成にて、CDリイシューされた。『Concerts: Bregenz/Munchen』である。このCD3枚組のリイシューによって、プレゲンツからミュンヘンまでのオリジナル音源が再現されたことになる。しかし、2000年のブレゲンツ単体のCDを持っている者としては、プレゲンツだけだぶるんですよね。ECMのリイシューってたまにこういうことをするから、困ったものである。
 
 
 
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2019年11月 8日 (金曜日)

異端なキースの初ソロ・ピアノ盤

先日、キースのソロ・ピアノ盤を久し振りに聴いて、思わず、キースのソロ・ピアノ盤の聴き直しを再開した。ピアノ・ソロ盤は鑑賞するのがちょっと面倒。強弱のメリハリが付いたピアノ・ソロをリスニングするので、家で聴くにはある程度のボリュームが必要になる。このボリュームが問題で、大きな音の部分にピークを合わせると、弱いタッチの部分が聞こえないし、弱いタッチに合わせると、大きな音の部分が耳に突き刺さる。ボリュームの微妙な調整が鍵になる。

野外で聴く時は、イヤホンの性能が大切になる。密閉度が高いと弱いタッチもよく聴こえるが、周囲の音が全く聴こえないので、とにかく危険だ。と言って、密閉度が低いとソロ・ピアノの細かいニュアンスが全く判らなくなる。それと聴く場所も選ぶ。僕は電車の中、朝夕早めに並んで、席に座って、ジャズを聴く。意外と電車の中って静かなんですよ。しかも最近のイヤホンの音も凄くよくなったので、通勤の往き帰りでもソロ・ピアの盤が聴ける様になった。

Keith Jarrett『Facing You』(写真左)。1971年11月10日の録音。キース初のソロ・ピアノ盤。ECMの1017番。オンマイクのデッドな音が、このキース初のソロ盤の前衛性を際立たせる。リズム&ビートが明確にゴスペルチックでジャジー。右手のフレーズは米国フォーキーなルーツ・ミュージックの響き。マイルス・デイビス・セプテットでのコンサート公演の翌日での録音。この音世界がキースの本質だと感じている。
 
 
Facing-you-keith-jarrett  
 
 
冒頭の「In Front」が強烈な印象。不規則に旋律に絡むリズム、仄かにゴスペルチックなビート、そして、無調が基本ではあるが、決して難解さを感じさせない、アーシーで浪漫溢れるフォーキーな旋律。クラシックの様に調性が取れた部分は殆ど無い。無調で前衛を感じる。左手のビートが無調の展開に「規律」をもたらす。そういう意味で、このピアノ・ソロは明らかにジャズ。

そして、半ば辺りで出てくる、キースの「唸り声」。既に初ソロ・ピアノ盤の冒頭の1曲で「唸っている」。但し、唸りのボリュームはできる限り絞り込まれている(笑)。この盤はまだ完全な即興演奏では無い。曲毎にしっかりとした起承転結がある。しかし、そこが良い。そこが聴き易い。そう言う意味で、このキースの初ソロ・ピアノ盤は、後のキースのソロ・ピアノ盤とは一線を画する盤ではある。

ECMレーベルの総帥、マンフレッド・アイヒャーの野望を感じる。欧州ジャズの前衛の担い手、ECMレーベルに必要なもの。他のレーベルに無い、ECMならではの演奏フォーマット。キースのソロ・ピアノは、ECM独特のエコーの映える。ECMにしか出来ないキースのソロ・ピアノ。アイヒャーとキースのコラボがとても良い形で音になっている。キースのソロ・ピアノとしては異端ではあるが、この初ソロ・ピアノ盤、僕の大のお気に入り盤である。
 
 
 
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2019年11月 7日 (木曜日)

キースの2016年のソロライブ盤

キース・ジャレットのアルバムはずっと、ほぼリアルタイムで聴いてきた。熱狂的な大ファンでは無いのだが、キースのピアノはやはり「隅に置けない」。新作がリリースされるとやはり気になる。気になるとやはり手に入れて聴きたくなる。そして、1990年代まではCDショップに走ってゲットである。2000年代になると、ネット・ショップで「ポチッ」とな、である(笑)。

Keith Jarrett『Munich 2016』(写真左)。今回のキースの新作。ピアノ・ソロの蔵出しである。タイトル通り、2016年7月16日にミュンヘンで行ったソロ・コンサートのライヴ録音2枚組。プロデュースはキース自身。ECMの本拠地ミュンヘンでのコンサートで、聴衆の反応もとても良い。キースのソロ・ライブ盤としても、その収録された雰囲気は上位に位置するもの。

キースは、2017年2月15日、NYカーネギーホールで一夜限りのコンサートを行って以降、一切コンサートを行っていない。CDのリリースは、2014年のソロ・コンサート・ツアーの演奏を再構成した『Creation』が最後。スタンダード・トリオについても、2014年11月30日のニュージャージー・パフォーミング・アーツ・センターでのライブ演奏が最後に活動を休止している。
 
 
Munich-2016  
 
 
この『Munich 2016』は、その『Creation』の約1年後、ミュンヘンでのコンサートの再現。現時点で、アルバムとして聴ける一番新しいキースのピアノ演奏で、今回のリリースは貴重である。コンサートの再現だけに、収録されたソロ演奏には、その雰囲気、その展開に一貫性があって、当時のキースのソロの状態がとても良く判る。

前衛音楽の様なフリーキーな即興演奏から、アーシーなリズム&ビートを伴ったアメリカン・フォーキーな演奏、モーダルで限りなく自由なスタンダード演奏まで、なかなかバリエーションに富んだ内容が聴いていて楽しい。「ソロ・コンサートは、私が作り上げたものではない独自のルールを持つ別世界のようなもの」とキースは言うが、この盤に詰まっている音は、キースの意志による、キースのソロ演奏そのもの。

誰が聴いてもキースである。こういう即興をベースとした、ジャズの要素とクラシックの要素、そして、現代音楽の要素をミックスしたソロ・ピアノは、キースの専売特許。というか、キースしか、こういうソロ・ピアノをやらない。その演奏の内容とトレンド、そして演奏の展開や取り回しはキースの個性そのもので、この新盤もキースの個性が全開。現在、キースは病気療養のために活動を休止している。早期の復帰、復活を望みたい。
 
 
 
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2019年8月 5日 (月曜日)

ハロルド・メイバーンのソロ盤

僕はこのピアニストは、何故か「ヴィーナス・レコード」のアルバムで初めて知った。そのアルバムは『Falling In Love With Love』。2001年の録音。ミディアム・テンポとアップ・テンポで思いっきりスイングする。多弁ではあるが喧しくない。迫力のある指回し。ポジティブなアドリブ展開。この一枚のアルバムで、このピアニストが大好きになった。

そのピアニストとは、ハロルド・メイバーン(Harold Mabern)。1936年、メンフィスの生まれ。今年で83歳になる大ベテランのジャズ・ピアニスト。1968年に初リーダー作をリリース。しかし録音の機会に恵まれなかった。1989年にDIWからアルバムをリリースしてから徐々にリーダー作が増え、21世紀に入って、ヴィーナス・レコードから『Kiss of Fire』を出して以来ブレイク。約1年に1作のペースでリーダー作をリリースしてきた。

しかし、このメイバーンのピアノが米国で売れなかったのが不思議でならない。ブルージーでゴスペルチックな和音の響きが特徴。その特徴を前提にバップなピアノをダイナミックに弾きこなす。米国ルーツ・ミュージックの響きがノスタルジックに響く。このピアノが米国で受けなかったのが意外である。逆に、DIW、ヴィーナス・レコードと、日本のジャズ・レーベルがメイバーンのピアノに着目したのが面白い。
 

Misty-harold-mabern

 
そんなメイバーンのピアノの特徴を感じるには、やはりソロ・ピアノ盤が良い。Harold Mabern『Misty』(写真左)。2007年、ヴィーナス・レコードからのリリース。ジャケットはヴィーナス・レコードらしくない(女性がメインのエロジャケでは無い)、街灯を真ん中にあしらった地味なもの。これだけ地味なジャケットもそうそうない。普通なら触手が伸びない。

さて、アルバムの内容と言えば、地味にジャケットとは正反対。このアルバムでのメイバーンは、ゆったりと余裕を持ってパワフルに、ブルージーでゴスペルチックな様々なフレーズを叩き出していく。しっかりとしたタッチ、心地良い迫力とスピード感、ゆったりとスインギーなアドリブ展開。そして、バラードはリリカル、かつ、しっかりとしたタッチでじっくりと聴かせてくれる。

結構、ベタな有名スタンダード曲を選曲していますが、メイバーンのアレンジと弾き回しが良好で飽きが来ない。どころか思わず聴き込んでしまうくらい。ミディアム・テンポで余裕綽々にスイングする。やや多弁ではあるが喧しくない。迫力のある指回し。ポジティブなアドリブ展開。やっぱり僕はこのピアニストの音が好きです。何度聴いても飽きが来ません。もっとリーダー作を追いかけてみたいと思っています。
 
 
 
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2019年3月25日 (月曜日)

エヴァンスのソロ・ピアノの普遍性

今や、ジャズの世界でソロ・ピアノと言えば「キース・ジャレット」。ソロ・ピアノは簡単そうに見えて、意外に厄介なフォーマットだ。即興演奏が基本なので、イマージネーションの豊かさと長時間の演奏に耐えうる体力とテクニックが十分なほど必要になる。確かに、ジャズ・ピアニストの中で、ソロ・ピアノに手を染め、ソロ・ピアノを弾き続ける者は少ない。
 
そう言えば、ビル・エヴァンスもソロ・ピアノの名手だった。というか、ソロ・ピアノというフォーマットが、ジャズとして成立することを教えてくれたのが彼だったと思う。世間的には、ソロ・ピアノのスタンダードは「キース・ジャレット」なんだが、僕は今でも「純ジャズのソロ・ピアノ」のスタンダードは、ビル・エヴァンスではないか、と思うのだ。
 
キースは、クラシックや米国ルーツなどの様々な音楽の要素を取り込みながら、ジャズの要素を即興演奏という形態の中で、前面に押し出すことが多い、という印象のソロ・ピアノ。基本的に完全即興を前提としたオリジナルな演奏、というか再現性は希薄な「一期一会な演奏」が基本。旧来のジャズのスタイルに囚われない、限りない創造性と長時間に渡る、ダイナミックな即興演奏の展開と構築力が魅力である。
 
エヴァンスのソロ・ピアノの根幹にあるのは、あくまで「旧来の純ジャズ」である。エヴァンス流のソロ・ピアノでは、とりわけ、スタンダード曲が映える。キースのソロ・ピアノとは全く正反対にあるエヴァンスのソロ・ピアノ。どちらも甲乙付けがたい。
 
 
Alone-again
 
 
Bill Evans『Alone (Again)』(写真左)。1975年12月16日-18日での録音。ビル・エヴァンスのソロ・ピアノ集。正式盤としては、この前にVerveレーベルから『Alone』というソロ・ピアノ盤を出している。その続編という意味で、タイトルに「 (Again)」が付いている。収録された曲は全てスタンダード曲で占められている。キースの様に、インスピレーション溢れる、完全即興のオリジナル演奏では全く無い。
 
このソロ・ピアノの演奏は、オーソドックスなジャズという音楽ジャンルの基本をしっかりと踏まえた「ジャズ一色のソロ・ピアノの演奏」と言える。ピアノという楽器は「旋律楽器」としての側面と「リズム楽器」としての側面を併せ持ち、一人ジャズバンド、一人ジャズ・オーケストラが演奏出来る変わった楽器である。
 
その変わった楽器の特性を最大限活かして、ジャズとしてのソロ・ピアノを展開しているところが見事。エヴァンスのソロ・ピアノは、ジャズとしてのリズム&ビートを左手中心に叩き出し、その中でベース・ラインもしっかりと押し出す。右手中心に旋律をしっかりと響かせて、その延長線上にアドリブ展開としての即興演奏を展開。
 
キースのソロ・ピアノは「キースの唯一無二」なもの。エヴァンスのソロ・ピアノの根幹は「旧来のジャズ」であり、再現性もある。面白いのは、今の耳で聴いていると、エヴァンスのソロ・ピアノには普遍性があるのではないか、と感じること。エヴァンスが亡くなって、既に38年。エヴァンスのソロ・ピアノは「ジャズの歴史」の一部になっているように感じた。



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2018年9月28日 (金曜日)

ウォルドロンのソロ・ピアノ

ジャズにおいて、ソロ・ピアノはそれを弾くピアニストの個性が凄く良く判る。もともと、ジャズの楽器演奏というのは個性の塊である。同じ楽器で他のミュージシャンと同じ音、同じスタイルというのは、まず無い。エバンス派とかパウエル派とか、祖となるピアニストのスタイルを踏襲していても、どこかで他と違う個性を追求していたりする。

ソロ・ピアノは、個性の強いピアニストほど面白くなる。個性が強くなればなるほど、その個性がビンビンに伝わってくるのだ。テクニック、端正さ、流麗さなど総合力で勝負するピアニストのソロ・ピアノは基本的にあまり面白く無い。総合力で勝負するピアニストのソロ・ピアノは、皆、同じに聴こえるのだ。そういう意味で、コッテコテ個性の強いピアニストのソロ・ピアノが絶対に面白い。

Mal Waldron『All Alone』(写真左)。「黒い情念」と形容される個性派ピアニスト、マル・ウォルドロンのソロ・ピアノ盤である。1966年3月1日、イタリアはミラノでのソロ・パフォーマンスの記録。「1968年度 スイングジャーナル ジャズ・ディスク大賞 銀賞」を受賞した好盤である。ピアノを弾くマルの写真をあしらったジャケットも渋い。
 

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この盤、マルの個性が満載である。低音を活かした左手。重心が低く、しっかりとしたタッチでピアノの重低音部をガーン、ゴーンと響かせる。この重低音が推進エンジンとなって、強くて深いタッチの右手がメロディを奏でる。強くて深いタッチでありながら、よく回る右手。ピアノ・ソロ全体に重心が低く、音の粒立ちが太くて切れている。

右手のフレーズは「哀愁が色濃く漂うエレジーな音感」。そこはかとなく哀しさが漂い、それでいて強くて深いタッチが、弾き進めるメロディを明確にする。輪郭クッキリな右手のフレーズ。左手のブロックコードは重低音。ピアノの低いキーを積極的に活用する、他のピアニストには無い、思いっきり個性的な左手。右手のフレーズは哀愁感漂うコードを渡り歩く。

マイナーで不思議な響きを持つ、東ヨーロッパやイスラムを想起させる独特のキーで展開されるモーダルな曲もなかなか魅力的。ブルースに頼らない、マル独特の感性と音感をもって、このピアノ・ソロは展開される。哀愁感は強いがタッチが明快で、感情に流されることは無い。優雅さや滑らかさとは全く無縁。骨太で雄々しい、ダンディズム溢れるソロ・ピアノである。

 
 

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2018年6月22日 (金曜日)

ドミンゲスのタッチが美しい

最近、ピアノ・トリオの演奏を多く聴いている。リズム&ビートの効いた演奏や、ポジティヴでバイタルなソロ・パフォーマンスを聴き続けていると、ちょっと耳が疲れてくる時がある。そういう時には、全く違うジャンルの音、70年代ロックの演奏に走ったり、ジャズに留まるなら、ソロ・パフォーマンスのアルバムに切り替えたりする。

今回はジャズに留まって、ピアノのソロ盤を選択。Chano Dominguez『Over The Rainbow』(写真左)。2012年2月24日バルセロナでのライヴ及び、コンサート前の演奏を音源化。昨年2月のリリース。スペイン、アンダルシアが生んだ屈指のピアニスト、チャノ・ドミンゲスのソロ作。スパニッシュ風味漂う、堅実タッチの素晴らしいソロ・パフォーマンス。

フラメンコと即興音楽としてのジャズとの融合を試み、一つのスタイルを確立したピアニストであるチャノ・ドミンゲス。一風、チック・コリアの個性に似たところがあるが、チックの個性から前衛性と硬質で鋭角なフレーズを差し引いて、スパニッシュ・ミュージックの持つ哀愁感とマイナーな響きを増幅したドミンゲスのピアノ。
 

Chano_dominguez_over_the_rainbow  

 
ジョン・ルイス作の「Django」から始まる。曲の哀愁感がドミンゲスのタッチとマッチする。セロニアス・モンクの作なる「Evidence」と「Monk’s Dream」については、ドミンゲスのテクニックに優れた面が浮かび上がる。南米の作家の手になる「Gracias a la Vita」と「Los Ejes de mi Carreta」。そして、米国スタンダードの「Over the Rainbow」。選曲にも、十分な配慮が感じられる。

南米のパッションと哀愁感、スタンダード曲の持つメロディの美しさ、モンクの楽曲の最大の特徴であるスクエアなノリと意外性のある即興的展開。収録された、それぞれの曲が持つ異なる個性を活かしつつ、ドミンゲスのピアノの個性で一本、筋を通していく。統一感のある美しい演奏の数々。スパニッシュ風味漂う、堅実タッチの素晴らしいソロ。

落ち着いた堅実なフレーズ、パーカッシヴではあるが耽美的なドミンゲスのタッチが美しい。聴いていて、心が落ち着き、清々しさが感じられる音。リズム&ビートの効いた演奏や、ポジティヴでバイタルなソロ・パフォーマンスを聴き続けた後、耳休めに最適な、珠玉のソロ・パフォーマンス。何度聴いても良い、聴く度に新しい発見があるソロ・ピアノの好盤です。

 
 

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2018年2月18日 (日曜日)

珍しいドリューのソロ・ピアノ

SteepleChaseレーベルは、欧州の「ブルーノート」と言っても良い「欧州発ハードバップ」の宝庫である。特に、1970年代の欧州の純ジャズをしっかりと押さえている。加えて、ジャズ好きが立ち上げたジャズ・レーベルだけに、コマーシャルに走らず、ジャズ者が「お〜っ」と唸るような、ツボを押さえた好盤が多い。

Kenny Drew『Everything I Love』(写真左)。SCS 1007番。1974年のリリース。デンマークはコペンハーゲンでの録音。この盤、ジャケットを見れば一目瞭然なのだが、ケニー・ドリューのソロ・ピアノ盤である。これ、ケニー・ドリューとして、有りそうで無い、稀少な記録である。

ソロ・ピアノはピアニストの個性が露わになる。ドリューのピアノはバップなピアノ。テクニックに走ること無く、疾走感に走ること無く、どこか典雅で、そこはかとなくファンクネス漂う、切れ味の良いタッチが個性。フレーズは端正が故に、イージーリスニングに流れそうになるが、これがならない。左手にジャジーなビートが仄かに香り、右手の回りがそこはかとないオフビート感覚。
 

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それが故に、ソロピアノであっても、イージーリスニングに聴こえない。立派にジャズしているドリューのソロ・ピアノ。大向こうを張る、大掛かりな展開やテクニックがある訳では無い、どちらかと言えば、落ち着いた、ちょっと地味なものではあるが、彼のフレーズは滋味に富んでいる。

展開はいたってシンプル。複雑なアレンジや展開は皆無。自作曲ではなかなか判らないが、スタンダード曲については、そのシンプルな展開が良く判るが、決して飽きることは無い。一度聴いたら、2度3度、また聴きたくなる、「味のある小粋な」シンプルさ。シンプルさの中に、しっかりとアレンジの「技」が隠されているようだ。

この盤を聴くと、ケニー・ドリューというピアニストは隅に置けないなあ、という気持ちになる。キースの心の赴くままに弾きまくるソロ・ピアノとは対極な、ジャズの基本、ジャズの常識をしっかりと踏まえた、堅実確実な純ジャズ基調のソロ・ピアノである。こんなドリューのソロ・ピアノが記録されているとは。SteepleChaseレーベル侮りが足し、である。

 
 

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2017年12月24日 (日曜日)

クリスマス企画のジャズを流す

今年もクリスマス・イヴである。我が家では毎年、クリスマスについては、過度な反応はしない。せいぜい、小さなブッシュドノエルと出来の良いシュトレンを手に入れて、ちびちび食するくらいである。音楽もあまりクリスマスを意識はしない。それでも、クリスマスの1週間前からは、ちょっとだけ、クリスマス企画のジャズを流して楽しんだりする。

今年の選盤の中で、これは良いなあ、と感心したのがこのアルバム。『A Dave Brubeck Christmas』(写真左)。変則拍子の名曲「テイク・ファイブ」の作者として演者として有名なジャズピアニスト、デイヴ・ブルーベックが1996年、当時76才の時に発表したソロ・ピアノによるクリスマス曲集である。

我が国では長年、ブルーベックは「スイングしない凡なピアニスト」とされてきた。しかし、である。僕は学生時代、今を去ること30余年前から、デイブ・ブルーベックを聴いてきたが、スイングしないなんてとんでもない。ブルーベックは横にスイングしない。ブルーベックはスクエアにスイングする。それを感じることが出来ないと、ブルーベックのピアノを楽しむ事は出来ない。
 

A_dave_brubeck_christmas

 
このソロ・ピアノ集は、ブルーベックのピアノが、前へ前へ出ること無く、自己主張が希薄で厳かなプレイに終始しているので、強く感じることは無いが、やっぱりスクエアにスイングしている。ウトウトしながら聴いていても、明らかにブルーベックな雰囲気が漂ったピアノ・ソロである。

加えて、クリスマス・ソングに相応しい、落ち着いた荘厳さを底にしっかりと偲ばせた、ちょっと小粋なアレンジを施されていて、聴き心地が良く、飽きが来ない。ジングルベルをテーマにした1曲目「"Homecoming" Jingle Bells」とラス前の「"Farewell" Jingle Bells」では、クリスマス休暇で故郷へ帰る「ワクワクとした気持ち」と、休暇が終わって故郷を後にする時の「心寂しい気持ち」を表現しており、そんなアレンジのセンスも抜群である。

クラシック・ピアノの経験を持つブルーベックならではの、クラシック風のテーマ提示と、最大の個性であるスクエアなスイング感溢れる、厳かな雰囲気を湛えたアドリブ部の対比が素敵な演奏の数々。今年のクリスマス・シーズンは、このブルーベックのソロ・ピアノがヘビー・ローテーション。それでは皆さん、メリー・クリスマス (^_^)v。

 
 

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