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2019年3月25日 (月曜日)

エヴァンスのソロ・ピアノの普遍性

今や、ジャズの世界でソロ・ピアノと言えば「キース・ジャレット」。ソロ・ピアノは簡単そうに見えて、意外に厄介なフォーマットだ。即興演奏が基本なので、イマージネーションの豊かさと長時間の演奏に耐えうる体力とテクニックが十分なほど必要になる。確かに、ジャズ・ピアニストの中で、ソロ・ピアノに手を染め、ソロ・ピアノを弾き続ける者は少ない。
 
そう言えば、ビル・エヴァンスもソロ・ピアノの名手だった。というか、ソロ・ピアノというフォーマットが、ジャズとして成立することを教えてくれたのが彼だったと思う。世間的には、ソロ・ピアノのスタンダードは「キース・ジャレット」なんだが、僕は今でも「純ジャズのソロ・ピアノ」のスタンダードは、ビル・エヴァンスではないか、と思うのだ。
 
キースは、クラシックや米国ルーツなどの様々な音楽の要素を取り込みながら、ジャズの要素を即興演奏という形態の中で、前面に押し出すことが多い、という印象のソロ・ピアノ。基本的に完全即興を前提としたオリジナルな演奏、というか再現性は希薄な「一期一会な演奏」が基本。旧来のジャズのスタイルに囚われない、限りない創造性と長時間に渡る、ダイナミックな即興演奏の展開と構築力が魅力である。
 
エヴァンスのソロ・ピアノの根幹にあるのは、あくまで「旧来の純ジャズ」である。エヴァンス流のソロ・ピアノでは、とりわけ、スタンダード曲が映える。キースのソロ・ピアノとは全く正反対にあるエヴァンスのソロ・ピアノ。どちらも甲乙付けがたい。
 
 
Alone-again
 
 
Bill Evans『Alone (Again)』(写真左)。1975年12月16日-18日での録音。ビル・エヴァンスのソロ・ピアノ集。正式盤としては、この前にVerveレーベルから『Alone』というソロ・ピアノ盤を出している。その続編という意味で、タイトルに「 (Again)」が付いている。収録された曲は全てスタンダード曲で占められている。キースの様に、インスピレーション溢れる、完全即興のオリジナル演奏では全く無い。
 
このソロ・ピアノの演奏は、オーソドックスなジャズという音楽ジャンルの基本をしっかりと踏まえた「ジャズ一色のソロ・ピアノの演奏」と言える。ピアノという楽器は「旋律楽器」としての側面と「リズム楽器」としての側面を併せ持ち、一人ジャズバンド、一人ジャズ・オーケストラが演奏出来る変わった楽器である。
 
その変わった楽器の特性を最大限活かして、ジャズとしてのソロ・ピアノを展開しているところが見事。エヴァンスのソロ・ピアノは、ジャズとしてのリズム&ビートを左手中心に叩き出し、その中でベース・ラインもしっかりと押し出す。右手中心に旋律をしっかりと響かせて、その延長線上にアドリブ展開としての即興演奏を展開。
 
キースのソロ・ピアノは「キースの唯一無二」なもの。エヴァンスのソロ・ピアノの根幹は「旧来のジャズ」であり、再現性もある。面白いのは、今の耳で聴いていると、エヴァンスのソロ・ピアノには普遍性があるのではないか、と感じること。エヴァンスが亡くなって、既に38年。エヴァンスのソロ・ピアノは「ジャズの歴史」の一部になっているように感じた。



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2018年9月28日 (金曜日)

ウォルドロンのソロ・ピアノ

ジャズにおいて、ソロ・ピアノはそれを弾くピアニストの個性が凄く良く判る。もともと、ジャズの楽器演奏というのは個性の塊である。同じ楽器で他のミュージシャンと同じ音、同じスタイルというのは、まず無い。エバンス派とかパウエル派とか、祖となるピアニストのスタイルを踏襲していても、どこかで他と違う個性を追求していたりする。

ソロ・ピアノは、個性の強いピアニストほど面白くなる。個性が強くなればなるほど、その個性がビンビンに伝わってくるのだ。テクニック、端正さ、流麗さなど総合力で勝負するピアニストのソロ・ピアノは基本的にあまり面白く無い。総合力で勝負するピアニストのソロ・ピアノは、皆、同じに聴こえるのだ。そういう意味で、コッテコテ個性の強いピアニストのソロ・ピアノが絶対に面白い。

Mal Waldron『All Alone』(写真左)。「黒い情念」と形容される個性派ピアニスト、マル・ウォルドロンのソロ・ピアノ盤である。1966年3月1日、イタリアはミラノでのソロ・パフォーマンスの記録。「1968年度 スイングジャーナル ジャズ・ディスク大賞 銀賞」を受賞した好盤である。ピアノを弾くマルの写真をあしらったジャケットも渋い。
 

All_alone  

 
この盤、マルの個性が満載である。低音を活かした左手。重心が低く、しっかりとしたタッチでピアノの重低音部をガーン、ゴーンと響かせる。この重低音が推進エンジンとなって、強くて深いタッチの右手がメロディを奏でる。強くて深いタッチでありながら、よく回る右手。ピアノ・ソロ全体に重心が低く、音の粒立ちが太くて切れている。

右手のフレーズは「哀愁が色濃く漂うエレジーな音感」。そこはかとなく哀しさが漂い、それでいて強くて深いタッチが、弾き進めるメロディを明確にする。輪郭クッキリな右手のフレーズ。左手のブロックコードは重低音。ピアノの低いキーを積極的に活用する、他のピアニストには無い、思いっきり個性的な左手。右手のフレーズは哀愁感漂うコードを渡り歩く。

マイナーで不思議な響きを持つ、東ヨーロッパやイスラムを想起させる独特のキーで展開されるモーダルな曲もなかなか魅力的。ブルースに頼らない、マル独特の感性と音感をもって、このピアノ・ソロは展開される。哀愁感は強いがタッチが明快で、感情に流されることは無い。優雅さや滑らかさとは全く無縁。骨太で雄々しい、ダンディズム溢れるソロ・ピアノである。

 
 

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2018年6月22日 (金曜日)

ドミンゲスのタッチが美しい

最近、ピアノ・トリオの演奏を多く聴いている。リズム&ビートの効いた演奏や、ポジティヴでバイタルなソロ・パフォーマンスを聴き続けていると、ちょっと耳が疲れてくる時がある。そういう時には、全く違うジャンルの音、70年代ロックの演奏に走ったり、ジャズに留まるなら、ソロ・パフォーマンスのアルバムに切り替えたりする。

今回はジャズに留まって、ピアノのソロ盤を選択。Chano Dominguez『Over The Rainbow』(写真左)。2012年2月24日バルセロナでのライヴ及び、コンサート前の演奏を音源化。昨年2月のリリース。スペイン、アンダルシアが生んだ屈指のピアニスト、チャノ・ドミンゲスのソロ作。スパニッシュ風味漂う、堅実タッチの素晴らしいソロ・パフォーマンス。

フラメンコと即興音楽としてのジャズとの融合を試み、一つのスタイルを確立したピアニストであるチャノ・ドミンゲス。一風、チック・コリアの個性に似たところがあるが、チックの個性から前衛性と硬質で鋭角なフレーズを差し引いて、スパニッシュ・ミュージックの持つ哀愁感とマイナーな響きを増幅したドミンゲスのピアノ。
 

Chano_dominguez_over_the_rainbow  

 
ジョン・ルイス作の「Django」から始まる。曲の哀愁感がドミンゲスのタッチとマッチする。セロニアス・モンクの作なる「Evidence」と「Monk’s Dream」については、ドミンゲスのテクニックに優れた面が浮かび上がる。南米の作家の手になる「Gracias a la Vita」と「Los Ejes de mi Carreta」。そして、米国スタンダードの「Over the Rainbow」。選曲にも、十分な配慮が感じられる。

南米のパッションと哀愁感、スタンダード曲の持つメロディの美しさ、モンクの楽曲の最大の特徴であるスクエアなノリと意外性のある即興的展開。収録された、それぞれの曲が持つ異なる個性を活かしつつ、ドミンゲスのピアノの個性で一本、筋を通していく。統一感のある美しい演奏の数々。スパニッシュ風味漂う、堅実タッチの素晴らしいソロ。

落ち着いた堅実なフレーズ、パーカッシヴではあるが耽美的なドミンゲスのタッチが美しい。聴いていて、心が落ち着き、清々しさが感じられる音。リズム&ビートの効いた演奏や、ポジティヴでバイタルなソロ・パフォーマンスを聴き続けた後、耳休めに最適な、珠玉のソロ・パフォーマンス。何度聴いても良い、聴く度に新しい発見があるソロ・ピアノの好盤です。

 
 

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2018年2月18日 (日曜日)

珍しいドリューのソロ・ピアノ

SteepleChaseレーベルは、欧州の「ブルーノート」と言っても良い「欧州発ハードバップ」の宝庫である。特に、1970年代の欧州の純ジャズをしっかりと押さえている。加えて、ジャズ好きが立ち上げたジャズ・レーベルだけに、コマーシャルに走らず、ジャズ者が「お〜っ」と唸るような、ツボを押さえた好盤が多い。

Kenny Drew『Everything I Love』(写真左)。SCS 1007番。1974年のリリース。デンマークはコペンハーゲンでの録音。この盤、ジャケットを見れば一目瞭然なのだが、ケニー・ドリューのソロ・ピアノ盤である。これ、ケニー・ドリューとして、有りそうで無い、稀少な記録である。

ソロ・ピアノはピアニストの個性が露わになる。ドリューのピアノはバップなピアノ。テクニックに走ること無く、疾走感に走ること無く、どこか典雅で、そこはかとなくファンクネス漂う、切れ味の良いタッチが個性。フレーズは端正が故に、イージーリスニングに流れそうになるが、これがならない。左手にジャジーなビートが仄かに香り、右手の回りがそこはかとないオフビート感覚。
 

Everything_i_love_1

 
それが故に、ソロピアノであっても、イージーリスニングに聴こえない。立派にジャズしているドリューのソロ・ピアノ。大向こうを張る、大掛かりな展開やテクニックがある訳では無い、どちらかと言えば、落ち着いた、ちょっと地味なものではあるが、彼のフレーズは滋味に富んでいる。

展開はいたってシンプル。複雑なアレンジや展開は皆無。自作曲ではなかなか判らないが、スタンダード曲については、そのシンプルな展開が良く判るが、決して飽きることは無い。一度聴いたら、2度3度、また聴きたくなる、「味のある小粋な」シンプルさ。シンプルさの中に、しっかりとアレンジの「技」が隠されているようだ。

この盤を聴くと、ケニー・ドリューというピアニストは隅に置けないなあ、という気持ちになる。キースの心の赴くままに弾きまくるソロ・ピアノとは対極な、ジャズの基本、ジャズの常識をしっかりと踏まえた、堅実確実な純ジャズ基調のソロ・ピアノである。こんなドリューのソロ・ピアノが記録されているとは。SteepleChaseレーベル侮りが足し、である。

 
 

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2017年12月24日 (日曜日)

クリスマス企画のジャズを流す

今年もクリスマス・イヴである。我が家では毎年、クリスマスについては、過度な反応はしない。せいぜい、小さなブッシュドノエルと出来の良いシュトレンを手に入れて、ちびちび食するくらいである。音楽もあまりクリスマスを意識はしない。それでも、クリスマスの1週間前からは、ちょっとだけ、クリスマス企画のジャズを流して楽しんだりする。

今年の選盤の中で、これは良いなあ、と感心したのがこのアルバム。『A Dave Brubeck Christmas』(写真左)。変則拍子の名曲「テイク・ファイブ」の作者として演者として有名なジャズピアニスト、デイヴ・ブルーベックが1996年、当時76才の時に発表したソロ・ピアノによるクリスマス曲集である。

我が国では長年、ブルーベックは「スイングしない凡なピアニスト」とされてきた。しかし、である。僕は学生時代、今を去ること30余年前から、デイブ・ブルーベックを聴いてきたが、スイングしないなんてとんでもない。ブルーベックは横にスイングしない。ブルーベックはスクエアにスイングする。それを感じることが出来ないと、ブルーベックのピアノを楽しむ事は出来ない。
 

A_dave_brubeck_christmas

 
このソロ・ピアノ集は、ブルーベックのピアノが、前へ前へ出ること無く、自己主張が希薄で厳かなプレイに終始しているので、強く感じることは無いが、やっぱりスクエアにスイングしている。ウトウトしながら聴いていても、明らかにブルーベックな雰囲気が漂ったピアノ・ソロである。

加えて、クリスマス・ソングに相応しい、落ち着いた荘厳さを底にしっかりと偲ばせた、ちょっと小粋なアレンジを施されていて、聴き心地が良く、飽きが来ない。ジングルベルをテーマにした1曲目「"Homecoming" Jingle Bells」とラス前の「"Farewell" Jingle Bells」では、クリスマス休暇で故郷へ帰る「ワクワクとした気持ち」と、休暇が終わって故郷を後にする時の「心寂しい気持ち」を表現しており、そんなアレンジのセンスも抜群である。

クラシック・ピアノの経験を持つブルーベックならではの、クラシック風のテーマ提示と、最大の個性であるスクエアなスイング感溢れる、厳かな雰囲気を湛えたアドリブ部の対比が素敵な演奏の数々。今年のクリスマス・シーズンは、このブルーベックのソロ・ピアノがヘビー・ローテーション。それでは皆さん、メリー・クリスマス (^_^)v。

 
 

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2017年12月 6日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・114

ファンキー・ジャズにおいて、米国ルーツ・ミュージックの中で切っても切れない音楽要素が「ゴスペル」。米国の黒人教会で歌われている歌唱。誰か一人が歌い出し、皆が総立ちになり、手を叩いたりステップを踏んだりしながら、声を張り上げて全身全霊で歌う様は、生で聞けば圧巻。

この「ゴスペル」の歌唱の中で「コール・アンド・レスポンス」や「コーラスの独特な響き」「躍動するビート感覚」をジャズに織り込むと、不思議とあらまあ、ファンキー・ジャズになるのである。もともと「ゴスペル」の音世界は「ファンクネスがこってこて」なので、この「こってこてなファンクネス」の存在がファンキー・ジャズに不可欠な要素なのだ。

このゴスペルの要素を大々的に導入して、ジャズ・ピアノソロとして1枚のアルバムに仕立て上げた盤が、Cyrus Chestnut『Spirit』(写真左)。ピアノ・トリオでの演奏活動を中心に行なっているチェスナットが、珍しくソロ・ピアノを選択したアルバムです。タイトル通り、この盤ではスピリチュアル〜ゴスペル系の曲を集めたもの。
 

Cyrus_chestnut_spirit  

 
トリオ演奏の時の様に、豪快にスイングするプレイとは異なった、ゆったりしたテンポで、ゴスペル独特のファンクネス溢れる、黒く美しい旋律をシンプルに弾き進めるチェスナットは意外と魅力的です。恐らく、ゴスペルって、チェスナットのルーツ音楽の1つなんでしょうね。実にエモーショナルに、実に厳かに、ゴスペルちっくな曲をソロ・ピアノで弾き進めていきます。

ソロ・ピアノであるが故の静的な厳かな響きと旋律。静謐なスピリチュアル・ジャズ。9曲目のサイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」のカバーが目を惹きますが、他の曲はゴスペルや賛美歌のオーソドックスな名曲みたいで、ほんと、米国ルーツ・ミュージック好きの私にとっては、もう耳が惚れ惚れしてしまう、印象的なソロ・ピアノ集です。

トリオ演奏の時の様に、豪快にスイングするプレイが身上のチェスナットが、これだけ陰影豊か、硬軟自在、緩急自在にソロ・ピアノを弾き進めるとは思いませんでした。チェスナットのポテンシャル、恐るべしです。こってこてファンキーなゴスペルの要素がてんこ盛りのこの盤、ファンキー・ジャズの最右翼に位置する好盤だと思います。

 
 

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2017年11月24日 (金曜日)

キースだけの「長時間即興演奏」

僕は最初、このライブ盤のパフォーマンスの良さが全く判らなかった。というか、パフォーマンスの内容が理解出来なかった、と言った方か良い。この延々と続く即興のパフォーマンス。LPにして3枚組のボリューム。しかも楽器はピアノのみ。

1970年代半ばから、ジャズの世界で暫くの間続いた「ソロ・ピアノ」ブーム。その中心にいたピアニストが「Keith Jarrett(キース・ジャレット)」。そのキースのソロ・ピアノのアルバムの中で、1979年当時、一番有名だったのが、このアルバムだった。Keith Jarrett『Solo Concerts: Bremen/Lausanne』(写真左)。1973年3月20日がLausanne(ローザンヌ)で、1973年7月12日がBremen(ブレーメン)でのライブ録音。

アルバムはブレーメンのライブから始まる。最初の15〜6分辺りまでは、クラシックをポップに崩したような、クラシック・ピアノで、即興の軽音楽を弾いているような、なんだかはっきりしない、手探りのような演奏が続く。僕は最初の頃、この始まりから15〜6分辺りまでのパフォーマンスが退屈で我慢できなかった。これがいかんかった。始まりから16分辺りからライブの音世界は一変する。左手のブロック・コード、右手のアドリブ・フレーズの節回しがジャジーなオフビートを叩き始める。

そうなったらしめたもので、キースのソロ・ピアノの世界は明らかに「ジャズ」一色に染まる。ジャジーなビートから、ゴスペルチックなビートまで、米国ルーツ・ミュージックを彷彿とさせるオフビート。印象的なアドリブ・フレーズのイメージが湧き出てくるまでは、パーカッションなビート演奏で乗り切る。イメージ湧き出てくると、途端にキャッチャーで流麗なアドリブ・フレーズが疾走する。そして、延々45分以上、ブレーメンの演奏が終わるまで続く。
 

Solo_concerts_bremenlausanne

 
ローザンヌの演奏は難物だ。こちらの前半部は、クラシックの即興演奏も出来るのですよ、な感じの、クラシックをポップに崩したような、クラシック・ピアノで即興の軽音楽を弾いているような自己顕示欲の強い演奏が続く。これが辛い。が、時々、思い出した様に、ジャジーなビートから、ゴスペルチックなビートが顔を出し、いきなり「ジャズ」な展開になる。しかし、今度は現代音楽的なフリーでアブストラクトな展開に陥り、途端に我慢を強いられる。そして、リリカルで耽美的な展開に転身して、いきなり終焉を迎える。

キースの即興演奏の個性は、突如として現れるジャジーなビートから、ゴスペルチックなビートに乗った印象的なアドリブ・フレーズがある程度長い時間続く「カタルシス」である。このある程度長い時間続く「カタルシス」が、一種のスピリチュアル・ジャズ的な効果を生み出している。このスピリチュアルな要素、これがキースの即興演奏の「ミソ」であると理解した。これが判るまでに僕は20年かかった。やっと、このLP3枚組ライブ盤の内容を理解出来たことになる。

キースの即興演奏はフォロワーを生まない。ジャズの即興演奏は「ビ・バップ」の3〜4分の演奏の中での、一発勝負的な瞬間芸の様なアドリブ演奏が理想とされる。それでは短い、とハードバップでは数分のアドリブ演奏が良しとされた。他のジャズメンにはこれが基準。キースの即興演奏は数十分から長い時は1時間にも及ぶ。他のジャズメンには必要の無い演奏時間の長さ。キースの即興演奏に必要となるのは、長時間の演奏に絶え得る「体力」というよりは、飽きることが無い、強い「精神力」。

キースのみにしか為し得ない、キースにしか必要の無い長時間の即興演奏。その記録がこのLP3枚組のボックス盤に詰まっている。この盤を皮切りに、キースはこの、ある程度長い時間続く「カタルシス」をトコトン追求することを選択する。そして、現在まで、10枚以上のソロ・ピアノ盤をリリースする。完成形・最終形の無い即興演奏の世界。この追求は何時まで、何処まで続くのだろうか。トコトン付き合うつもりである。

 
 

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2017年10月15日 (日曜日)

ながら聴きのジャズも良い・28

昨日は土曜日にもかかわらず、午前中は買い出し〜通院。午後は、先週から引き摺っていた、ネットの音楽再生環境の重大な不具合の対応に忙殺されて、ブログを更新する暇がありませんでした。天気は悪いし、ネットの音楽再生環境を再構築することになって、てんやわんやの一日でした。やれやれ。

しかし、今朝、やっとリカバリー完了。再び、安定した音楽再生環境が整うこととなり、ほっと一息。しかし、今日は朝から雨。それもまとまった雨で外出するのも憚られる。今日は終日、新しい再生環境の整備に勤しむこととなりました。そうなれば、BGMが欲しくなる。それも、作業の邪魔にならない、ながら聴きに最適な音。

流麗で耽美的なソロ・ピアノ盤を選択する。Fred Hersch『Open Book』。今年の9月、つい先月のリリース。今年で62歳。ブラッド・メルドーなど数々の後進からもリスペクトを受ける、最近やっと人気が出てきた耽美派、フレッド・ハーシュのソロピアノ盤。ジャケットだけを見れば、ECM盤か、と思うんですが違います(笑)。
 

Open_book

 
とても耽美的なソロ・ピアノである。しかし、クラシック系の流れる様な流麗さとはちょっと違う。そこはかとなく、しっかりとビートが効いていて、ジャジーな旋律が豊かな、明らかにジャズだ、と確信出来る「流麗なソロ・ピアノ」。テクニックは優秀。陰影抑揚もしっかり効いていて、聴き流していても飽きることが無い。

ソロ・ピアノとは言え、心の趣くままに弾きまくる訳では無い。良く考えられ、良くアレンジされている。例えば、2曲目の「Whisper Not」を聴けばそれが良く判る。これだけ攻めのアレンジを施された「Whisper Not」を僕は他に知らない。耽美的ではあるが、アドリブのフレーズは「攻めのフレーズ」。流麗さに甘えることは無い。硬派な滑らかさ。

耽美的なソロ・ピアノではあるが、陰影抑揚がしっかり効いている。どの曲も良く考えられたアレンジが施されていて、ながら聴きをしながらも、しっかりと音の印象が耳に残って、決して飽きることは無い。耽美的なフレーズの中に、しっかりと底にビートが流れているので、音に流されることも無い。意外とながら聴きしながらの仕事がはかどる、理想的な「ながら聴き」盤である(笑)。いや〜、ちょっと驚きの好盤である。

 
 

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2017年9月14日 (木曜日)

セルビアはベオグラードのジャズ

欧州を旅して思うのだが、訪れたどの国にもジャズがある。地元のエンタメ系の雑誌やお店の案内カードを見ていると、必ず、ジャズのライブ・ハウスの紹介がある。ということで、その国を訪れたら、必ず、その国のジャズを探し、その国のジャズを聴く。すると、それぞれ、国によってジャズの音が違うのだ。国毎の個性とでも言うのだろうか。これって、意外と面白い。

アップル・ミュージックなど、ダウンロード・サイトが充実してきたお陰で、様々な国のジャズを聴ける様になった。ネットの中でも、様々な国のジャズに関する情報が充実してきており、知識レベルの情報の入手も楽になった。良い時代になった。昔は、米国ジャズでも情報不足の感があって、情報を得るのに雑誌を読んだり、本を読んだり。大変でした。

Bojan Zulfikarpasic『Solobsession』(写真左)。今日聴いた欧州ジャズ。ピアニストである。2008年の作品。まず、リーダーの名前を何て呼んだら良いか、判らない(笑)。「Bojan Zulfikarpasic=ボヤン・ズルフィカルパシチ」と読むそうだ。ボヤンは判る。でも、セカンド・ネームが判らない。この名前からすると「北欧系」か、と思うが、冒頭の演奏を聴くと「違う」。

北欧系独特の響きの拡がりとクリスタル感が希薄。加えて、ファンクネスは皆無。タッチは骨太でそれでいて品の良い力強さ。流麗ではあるが無骨。そうすると、英国系若しくは仏蘭西系は無い。ましてや独系でも無い。ん〜、どこのジャズなん?
  

Bojan_zulfikarpasicsolobsession

 
実は、旧ユーゴスラビア、ベオグラード出身でフランスを舞台に活躍するジャズ・ピアニストとのこと。名前が長いので、通称「Bojan Z」で通しているらしい。なるほど、ベオグラードだから、今の国名で言うと「セルビア」。この盤に詰まっていろ音は「セルビア」のジャズ、東欧のジャズである。

この『Solobsession』は、ボヤンのソロ・ピアノ盤である。よって、ボヤンのピアノの個性が露わになる。ファンクネスは皆無。タッチは骨太でそれでいて品の良い力強さ。流麗ではあるが無骨。アドリブ・フレーズはどこかポップな雰囲気が親しみ易く、ピアノの響きを美しい。テクニックも優秀。緩急自在なインプロビゼーションで、アルバム全編を一気に聴き切ってしまう。

ピアノの特殊奏法を駆使した演奏、プログレの様な変拍子の演奏、フリーキーな展開をところどころ「チラ見せ」しつつ、どこかポップな響きのインプロビゼーションは今風のスピリチュアルな響き。今までにありそうで無かったピアノ・ソロで、一度填まると、暫く、病みつきになるほどの個性。

しかし、アルバム・ジャケットの雰囲気と「Bojan Zulfikarpasic」という姓名の文字の雰囲気から、これ「北欧ジャズ」系ね、と思ってしまうんだが、これがまあ、全く違うんですね。でも、タッチは骨太でそれでいて品の良い力強さ。流麗ではあるが無骨。アドリブ・フレーズはどこかポップな雰囲気が親しみ易い。と良い方に転んで、この盤の魅力にドップリと填まってしまいます。

 
 

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2016年10月22日 (土曜日)

マル晩年のソロ・ピアノ盤です

秋である。やっと気温も落ち着いた様で、秋たけなわの気温、湿度に落ち着いた感がある。加えて、知らないうちに日が短くなった。ここ千葉県北西部地方では、夕方の6時になればもう辺りは暗い。肌寒くなるわ、湿度は低くなるわ、日は短くなるわ、で物寂しいこと限りなし、である。

そんな物寂しい「秋の夜長」、久し振りにジャズ・ピアノのソロ盤にじっくりと耳を傾ける。秋の夜長は室温もほど良く、世の中の喧噪も落ち着いて静かである。そんな空気の中、ピアノ・ソロのパフォーマンスは耳に沁みる。

ピアノ・ソロ盤というと「キース・ジャレット」となるが、それではあまりに「工夫が無い」。あまりに当たり前のチョイスは、どうにもいけない。何かちょっと捻りが効いたピアノ・ソロ盤は無いか、と探していてチョイスした盤がこれである。

そのタイトルはずばり『Mal Waldron』(写真左)。2003年2月のリリース。マルと最後の7年をすごした「3361*BLACKレーベル」の伊藤秀治氏が、自ら所有する音源で構成した未発表ソロ。1995〜99年の間に録音されたソロ・パフォーマンスからの選曲。2002年12月に逝去したマル追悼として、この盤はリリースされた。

選曲を見渡せば、マルの「おはこ」が、ズラリ揃えられている。マルのピアノの個性といえば、かなり特徴的なピアノで、一聴すれば直ぐに判るほどである。
 

Mal_waldron_solo

 
ガンゴンと硬質なタッチに、不協和音中心のおどろおどろしい旋律が前衛っぽく響く。硬質なテンション高い速弾きのフラグメンツ。突然響く、セロニアス・モンクを彷彿とさせる不協和音のブレイク。幾何学模様のような、スクエアに展開する硬派なアドリブ。現代音楽を想起させる、ちょっと取っ付き難い、硬い頑固なピアノだが、底に流れるブルージーな雰囲気が、明らかに「ジャズ」を感じさせる。

しかし、そんな硬質で尖った、ちょっと取っ付き難い、硬い頑固なタッチが、ちょっと優しく穏やかなイメージに変わっている。基本的には硬い頑固なタッチではあるけれど、ちょっと柔らかで暖かな雰囲気が漂っていて、聴いていてとても心地良い。

晩年の録音であること、そして、録音したスタジオが山中湖湖畔のペンションのスタジオであることから、恐らく、適度にリラックスして、穏やかな精神状態の中でのパフォーマンスに至ったのではないか、と睨んでいる。マルのピアノ・ソロのベスト・パフォーマンスのひとつとして良いかと思う。

良いピアノ・ソロ盤です。録音状態も良好で、オーディオ的にもお勧めの一枚。優しく穏やかなマル・ウォルドロンのピアノを体感できる好盤です。

 
 

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