2020年9月17日 (木曜日)

メセニー者には避けて通れない

孤高のアメリカン・ルーツなギタリスト、パット・メセニーも今年で66歳。もはや大ベテラン、若しくはレジェンドの域に達している。そして、盟友のキーボード奏者、ライル・メイズが今年の2月に亡くなって、パット・メセニー・グループ(PMG)は開店休業状態。盟友を亡くしてさぞかし落胆しているだろうと思っていたら、6年振りのスタジオ録音盤が今年の2月にリリースされた。

Pat Metheny『From This Place』(写真)。ちなみにパーソネルは、コアとなるパットのグループとして、Pat Metheny (g, key), Gwilym Simcockv(p), Linda May Han Oh(b, voice), Antonio Sanchez (ds)。そこに、Meshell Ndegeocello (vo), Gregoire Maret (Harmonica), Luis Conte (perc) がゲストで加わり、ストリングスとして「The Hollywood Studio Symphony」が参加している。

今回のパットの新盤、ストリングスを大々的に取り入れていて、素直に聴いていると「ジャズ臭さ」が希薄で、リズム&ビートも決してジャジーでは無いし、ストリングスのアレンジも従来型で平凡。ストリングを活かしたイージーリスニングなフュージョン・ミュージックという雰囲気が濃厚になっている。ここまでストリングスを取り入れ、スインギーなビートを押さえた内容については、ジャズと呼んで良いものか、という疑問を持ってしまった。
 
 
From-this-place  
 
 
しかし、ギターの音色、フレーズについては、明らかにパット・メセニーで、ジャズか否かと思う前に、濃厚な「パット・メセニー節」に包み込まれる。フォーキーで、米国の自然の風景を彷彿とさせる「ネイチャー」な響きの音世界。スイング感やファンクネスを排除した、ニュー・ジャズなリズム&ビート。冒頭の「America Undefined」のギターを聴くだけで、この盤はパットのリーダー作だと判るのだから、その個性たるやユニークかつ濃厚。

それでも、演奏全体の雰囲気については、ジャズらしさは希薄である。従来のライル・メイズが存命の頃のパット・メセニー・グループ(PMG)の音世界とは打って変わって、今回の新盤の音世界は、壮大で叙事詩的な、イージーリスニングなフュージョン・ミュージックと僕は解釈した。ここまでジャズっぽさを排除して、パット・メセニーの音世界だけを全面に押し出した盤は今回が初めてだろう。

ジャズの醍醐味である「即興演奏やインタープレイの妙」もこの新盤の中ではほとんど聴かれず、しっかりと譜面に書かれたであろう、壮大なオーケストラ・ミュージックが展開される。音楽としてはしっかりと聴き応えがある。この盤はジャズか否かということを考えず、パット・メセニー独特の音世界をしっかりと楽しむ、パット・メセニー者の方々には避けて通れない新盤だろう。
 
 
 

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2020年9月15日 (火曜日)

ビル・フリゼールの音の個性

ビル・フリゼールのリーダー作を、初リーダー作から、リリース順に聴き直している。デビュー盤から、良い意味での「変態捻れギター」全開。どこか米国ルーツ・ミュージックの要素を踏襲したフレーズが出てきたり、いきなりアブストラクトにフリーに展開したり、とにかく「やりたい放題」の、良い意味での「変態ギター」である。

Bill Frisell『Lookout for Hope』(写真左)。1987年3月、NYの Power Stationの録音。ECMの1350番。ちなみにパーソネルは、Bill Frisell (g,banjo), Hank Roberts (cello, voice), Kermit Driscoll (b), Joey Baron (ds)。ECMレーベルらしい、個性的なメンバーが集まっていて、明らかに、コンテンポラリーなニュー・ジャズ志向の音が聴こえてきそうだ。

冒頭のタイトル曲「Lookout for Hope」を聴くと、この盤の音の方向性が良く判る。妖しく激しいイメージのギター、ほの暗く哀愁感漂う、ちょっと浮遊感のあるフレーズ。1987年当時、実に新しいイメージの「ニュー・ジャズ」。自由度の高いモーダルな、そして、コンテンションな、それぞれの楽器のせめぎ合い。そこに一気に捻れて突き抜けるフリゼールのエレギ。硬派なストイックなニュー・ジャズ。
 
 
Lookout-for-hope  
 
 
2曲目の「Little Brother Bobby」は、どこかほのぼのとした、フォーキーな音世界。フリゼールのギターは捻れてはいるが、印象的で哀愁感漂う切れ味の良いフレーズには思わず耳を奪われてしまう。3曲目の「Hangdog」は、いきなりバンジョーの音色にビックリ。チェロも参加して、古き良き時代の米国のルーツ・ミュージックを聴く様な、そんなユニークな演奏。

ほの暗く捻れた米国ルーツ・ミュージックの要素を活かした「コンテンポラリーな純ジャズ」な展開かと思いきや、4曲目の「Remedios the Beauty」は、ほとんどフリー・ジャズ。無調のインタープレイが繰り広げられる。それぞれのアドリブ・フレーズを聴くと、マイナーではあるがフォーキーな旋律が見え隠れするところが「ミソ」。アルバム全体を覆うコンセプトは外してはいない。

フリゼールのアコギは、米国ルーツ・ミュージックの雰囲気を踏襲した耽美的でソリッドな響き。この盤でのフリゼールのギターは、お得意の「浮遊感」はあまり出てこない。耽美的でソリッドな音がメインなのだが、6曲目の「Melody for Jack」では、しっかりと浮遊感溢れるエレギを弾きまくっている。それでも、そのフレーズの中に見え隠れする「米国ルーツ・ミュージックの要素」。フリゼールの個性は、この「米国ルーツ・ミュージックの要素」を織り込んだ音世界であることが、この盤を聴くと良く判る。
 
 
 

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2020年9月14日 (月曜日)

二人の「捻れギタリスト」である

最近、我がバーチャル音楽喫茶『松和』では、ビル・フリゼールが「トレンド入り」している。ビル・フリゼールとは、ジャズとしてノーマルなフレーズが出てこない、圧倒的に個性的な「捻れた」ギターが飛び出してくる、良い意味で「変態ギタリスト」と呼んで良い。1951年生まれだから、今年で69歳。どうしてこんなに「捻れた」のか判らないが、とにかく捻れて浮遊するギター。

Marc Johnson's Bass Desires『Bass Desires』(写真左)。1985年5月、NYのThe Power Stationでの録音。ECMの1299番。ちなみにパーソネルは、Marc Johnson (b), John Scofield (g), Bill Frisell (g, g-syn), Peter Erskine (ds)。ベースがリーダー、ギター2本、キーボードレスの変則ギター・トリオ編成である。

僕はこの盤で、ビル・フリゼールと出会った。2本のギターのうち、捻れまくってはいるが、オーソドックスにブルージな雰囲気を振り撒く方が「ジョンスコ(John Scofield)」なのは判った。が、もう1本のギター、浮遊感を全面に押し出しつつ、捻れまくるわ、飛びまくるわ、この変態ギターは誰だ、と思って、パーソネルを見たら「ビル・フリゼール」だった。
 
 
Bass-desires_20200914200801   
 
 
改めて、このマーク・ジョンソンのリーダー作を聴き直してみると、なかなか「エグい」内容に改めてビックリする。とにかく尖っている。尖りまくって、アブストラクト寸前、純ジャズの範疇に留まって、自由度の高い、思いっ切りモーダルな演奏を繰り広げている。とにかく、マーク・ジョンソン=ピーター・アースキンのリズム隊が凄まじい。硬派でアグレッシヴ、力感と柔軟性を併せ持つ、素晴らしいリズム&ビートを供給する。

そんなリズム&ビートをバックに、二人の捻れギタリストが乱舞する。特にフリゼールが、ギター・シンセサイザーまで担ぎ出しての大活躍。冒頭の「Samurai Hee-How」を聴くと、二人の捻れギタリストの個性がとても良く判る。同じ捻れギタリストでも、フリゼールは浮遊感溢れる捻れギターで好き放題に弾きまくり、ジョンスコは堅実に捻れたギターでサポートに回る。二人の捻れギターがアウトドライブせずに自由度の高いアドリブを弾きまくれるのは、ジョンスコの堅実なサポートがあってこそ、である。

とびきり浮遊感溢れる、自由度の高いモード・ジャズ。2曲目のコルトレーンの大名盤『至上の愛』からの「Resolution」でのパフォーマンスは、高テンションで凄まじいばかりのインプロビゼーションを展開していて、思わずスピーカーの前に釘付けになる。今の耳で聴いても「斬新」の一言。さすがはECMレーベル。凄い音源を残している。
  
  
   

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2020年9月 6日 (日曜日)

フリゼールのリーダー作の第2弾

ECMはとにかくユニークなレーベル。ECMはジャズのレーベルでもあり、現代音楽のレーベルでもある。ちなみに、ECMは「Edition of Contemporary Music」の略。

まず、コテコテの4ビートのハードバップなジャズは存在しない。1960年代後半から台頭してきた、ニュー・ジャズ、コンテンポラリー・ジャズ、フリー・ジャズなどがほとんど。フュージョン全盛時代にも、フュージョンには目もくれない。創立者はマンフレート・アイヒャーの美意識が中心の、マンフレート・アイヒャーの感性でのみ、アルバムを制作する。これって、凄いことじゃないかと思う。

今でも、コテコテ4ビートのハードバップなノリや、熱いサックスやトランペットの咆哮に魅了されるジャズ者ベテランの方々から煙たがられる、生粋のニュー・ジャズなレーベルである。そんなユニークなレーベルだからこそ、存在するユニークなジャズ・ミュージシャンが多々いる。このBill Frisell(ビル・フリーゼル)もそんなユニークなジャズ・ミュージシャンの一人。

1951年、アメリカのメリーランド州生まれ。テューバとストリング・ベース奏者の父をもち、クラリネット→サックスを経由して、最終的にギター奏者となった。が、他にバンジョーやウクレレ、ベースなども手掛けるマルチ・プレイヤーでもある。もう既にこの辺りから「変だ」(笑)。

Bill Frisell『Rambler』(写真左)。1984年8月、NYの Power Station での録音。ちなみにパーソネルは、Bill Frisell (g, gu-synth), Kenny Wheeler (tp, cor, flh), Bob Stewart (tuba), Jerome Harris (el-b), Paul Motian (ds)。そんなビル・フリゼールのリーダー作の第2弾。前作は、ソロ&デュオ演奏というシンプルなものだったが、本作は、チューバが入った変則クインテット。ECM系のミュージシャンでしっかり固めている。

ギター・シンセサイザーを駆使して、ヴィブラートとレガートが「てんこ盛り」の長く響く、ロング・トーンが特徴。それをシンセで「捻る捻る」(笑)。ウネウネ、クネクネ、キュイーンなエレクトリック・ギターでその響きは唯一無二。そのロングトーンなシンセ・ギターの音を、ECMレーベル独特のエコーが増幅する。心地良く美しいこと、この上無し。
 
 
Rambler
 
 
そして、彼の音作りは、普通のジャズでは無い。この1985年リリースのリーダー第2作目は、まるで「ブラスバンド」の響き。まるで「ディキシーランド・ジャズ」の様な音作り。参加した楽器が、一斉にドバーッと我先にとアドリブ・ソロを繰り広げる。混沌とした中に、一本筋の通った、不思議なジャズの調べ。

リズムは決して4ビートでは無い。無調和なフリーなリズムに乗って、チューバをはじめ、金管楽器が実にフリーな演奏を繰り広げる。フリーではあるが、演奏全体には不思議と秩序があり、その秩序をコントロールしているのが、ビル・フリーゼルのシンセ・ギター。アバンギャルドな演奏ではあるが、なぜか、懐かしさを感じる、米国のルーツ・ミュージックの響きを感じる、実にユニークな音作りとなっている。

面白いのは、楽器の中で一番目立っているのは、Kenny Wheelerのトランペット。実にトランペットらしい、円やかな響きが、ビル・フリーゼルのシンセ・ギターの音と相性バッチリ。Bob Stewartのチューバの音が実に良いアクセントになっている。無調和なフリーなリズムを機微良く叩き出すPaul Motianのドラムにも感心する。Jerome Harrisのベースも、このアバンギャルドな、懐かしさを感じる、郷愁を誘う古いジャズの底をしっかりと支える。

決して、4ビート、8ビートを基調とした、スタンダードなジャズでは無い。最初は「なんだこれ」と思って投げ出してしまいそうになるんだが、何回か繰り返して聴く毎に、このフリーゼルの不思議な音世界に引き込まれていく。そして、いつの間にか「病みつき」になっている。そんな不思議な魅力に溢れた「変なジャズ」である。

ジャケット・デザインにも、ECMレーベルの美意識が溢れている。良いアルバムです。今でも、その内容は古びれること無い、永遠のコンテンポラリー・ジャズな一枚である。
 
 
 

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2020年9月 4日 (金曜日)

フリゼールの初リーダー作である

つい先日、4日前だったか、今週の月曜日、ビル・フリゼール(Bill Frisell)の新盤をご紹介した。で、そう言えば、ビル・フリゼールのリーダー作って、ちゃんとまとめて聴いた事があったっけ、と思い立った。気になったり、目に付いたりしたリーダー作は聴いてはいるが、初リーダー作から、体系立って聴いていないことに気がついた。

Bill Frisell『In Line』(写真)。1982年8月、ノルウェーはオスロ、Talent Studioでの録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Bill Frisell (g), Arild Andersen (b)。録音当時31歳、まだまだ若手ジャズ・ギタリストだった、ビル・フリゼールの初リーダー作。演奏内容としては、フリゼールのソロか、ベースとのデュオ。

フリゼールについて、初リーダー作から、体系立って聴くことにした。この盤はフリゼールの記念すべき初リーダー作。初リーダー作から「ソロ&デュオ」で攻めるとは、やっぱりどこか変わっている。というか、この盤を聴けば判るのだが、このフリゼールのギターについては、サスティンを効かせた、静かでしっとりした「揺らぎ+捻れ」のギターである。
 
 
In-line
 
 
加えて、ギターは一本ではない、複数のギターが幾層にも重なった多重録音のユニゾン&ハーモニー。このギター、どう聴いたって、従来のジャズ・ギターではない。そして、演奏の基本は「無調の即興演奏」。即興演奏という切り口でジャズと言えばジャズ。さすがECMレーベル。現代音楽風のニュー・ジャズとして、しっかりとECMレーベルの音としてまとめている。

素朴でシンプルなメロディーは、どこか米国のルーツ・ミュージックの雰囲気が漂う。カントリー風、そして、どこか米国の自然を感じさせてくれるネイチャーな響き。サスティンを効かせたエレギの音はどこか「パット・メセニー」を感じさせるが、パットはリズム&ビートをしっかりと踏まえるが、フリゼールは基本は「無調」。

しかし、フリーに染まることはない。時にフリーなフレーズも見え隠れするが、無調のメロディアスなフレーズがフリゼールの個性。穏やかで幽玄な音世界だが、フリゼールのギターの音には「芯」がしっかりあって、無調のフレーズがしっかりと浮かび上がる。淡々と滑らかなフレーズの塊の様なアルバムだが、フリゼールのギターの個性はしっかりと留めている。
 
 
 

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2020年9月 3日 (木曜日)

面白い演奏展開のジャズの新盤

ジャズの新盤については、定期的にウォッチしている。ネットの時代になって、かつ、音源のダウンロードサイトが充実してきて、ジャズの新盤について、グローバル・レベルで追いかけることが出来る様になった。ネット時代以前は、せいぜいジャズ雑誌からの情報しか無かった訳だから、ネット時代様々である。

Walter Smith III, Matthew Stevens, Micah Thomas, Linda May Han Oh, Nate Smith『In Common 2』(写真左)。2019年5月の録音。今年5月のリリース。ジャケットには、カルテットに参加したミュージシャンが全員が平等な立場で名前が並んでいるが、テナーのウォルター・スミスIII、ギターのマシュー・スティーヴンスが双頭リーダーのアルバムだろう。ちなみにパーソネルを整理すると、Walter Smith III (ts), Matthew Stevens (g), Micah Thomas (p), Linda May Han Oh (ac-b), Nate Smith (ds)。

前作『In Common』がなかなかの出来だったので、今回の『In Common 2』にも触手が伸びた訳だが、今回は前作から、双頭リーダーの、テナーのウォルター・スミスIII、ギターのマシュー・スティーヴンス以外のメンバーが代わっている。新しいメンバーとしては、ベースはリンダ・オーに、ドラムはネイト・スミスに、また前作はヴァイブだった楽器がピアノに替わって、ミカ・トーマスが担当している。
 
 
In-common2
 
 
一言で言うと「面白い演奏展開のジャズ」。楽器が丁々発止と渡り合うインタープレイはない、アドリヴの応酬も無い。演奏の基本はジャム・セッション風では無く、計算され、事前に決め事を了解した、しっかりと構成されたジャズである。インタープレイやアドリヴの結果、偶発的に発生した展開は全く無い、と思われる。

フロントのテナーとギターが、モードなフレーズを紡ぎながら、チェイス風に流れていく。非4ビートがメインの展開の中、流れるフレーズが印象的で聴かせる。バックのリズム・セクションは、そのチェイスなフレーズを誘う様に、躍動感溢れるリズム&ハーモニー&ビートを供給している。ピアノとベースの自由度の高いモーダルなバッキングもなかなか良い。そして、彩り豊かな手数の多いドラミングが、演奏全体に疾走感を付加している。

アルバム全体で39分という、今のアルバムとしては短い方だが、曲毎の長時間のインタープレイやアドリブの応酬が無く、非4ビートのチェイス風フレーズのアンサンブルがメインなので、曲毎に演奏時間が短くて正解。これが長いときっと冗長に感じるだろう。そういう点でも「よく計算された」ジャズだと思う。
 
 
 

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2020年8月31日 (月曜日)

現代のジャズ・ギターの好盤

ジャズ・ギタリストの中で、大のお気に入りではないのだが、どうにも隅に置けない、リーダー作に出会うと、ついつい聴き込んでしまうギタリストがいる。「Bill Frisell(ビル・フリセール)」である。この人のギターは「変わっている」。良い意味で「変態ギター」と言っても良い。ジャズトしてノーマルなフレーズが出てこない。圧倒的に個性的な「捻れた」ギターが飛び出してくる。

初めて聴いた時には、この怪しく捻れたエレギの音、そして、どう聴いてもモダン・ジャズギターとは言えない、独特なビート感とスレーズを持った弾き回しに唖然とした。あまりに個性的なので一聴すれば、フリセールのギターと判るが、その癖と個性が強烈で、そう、ピアノで言えば「セロニアス・モンク」に似たところがある。とにかく「変わった(ユニークな)」変則ジャズ・ギターである。

Bill Frisell『Valentine』(写真左)。2020年08月のリリース。ちなみにパーソネルは、Bill Frisell (g), Thomas Morgan (b), Rudy Royston (ds)。ブルーノート・レーベルからリリース。現代ジャズ・ギターの重鎮の1人、個性的な変則ギタリスト、ビル・フリゼールの最新作。フリゼールが切望してレコーディングに至ったという作品である。
 
 
Valentine-bill-frisell
 
 
ベースのトーマス・モーガンとは、昨年2019年にデュオ盤をECMレーベルからリリース、そして、同年、ビレッジ・バンガードでライヴを実施した折のドラマーのルディ・ロイストン(トーマス・モーガンもベースで参加)。そんな緊密な関係を創り上げてきた3人でのトリオ作品。フリゼールが最も信頼しているメンバーと創り上げたトリオ演奏である。

全編、コンテンポラリーなニュー・ジャズな演奏がてんこ盛り。フリゼールお得意の、従来のジャズには無いユニークなフレーズ展開の数々。そんな限りなく個性的で捻れたフリゼールのフレーズに、ベースのモーガンとドラムのロイスマンが硬軟自在、縦横無尽、緩急自在に応対する。その応対の柔軟性は、フリゼールのあまりに個性的なフレーズを阻害すること無く、逆に個性を浮き立たせ増幅させる様なサポートはお見事。

あまりに個性的で捻れたエレギなので、アブストラクトにフリーキーに展開するかと思いきや、しっかりとベースのモーガンとドラムのロイスマンがリズム&ビートをコントロールし、フリゼールのあまりに個性的なエレギをコンテンポラリーな純ジャズの範疇に帰結させる。そんな良きリズム隊を得て、フリゼールはその個性を最大限に発揮させながら、捻れたエレギを弾きまくる。フロントとバックの相乗効果が素晴らしい、現代のジャズ・ギターの好盤である。
 
 
 

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  ・『Music From Big Pink』

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  ・太田裕美『Feelin’ Summer』



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2020年8月29日 (土曜日)

アラン・ホールズワース入門盤

アラン・ホールズワースを腰を据えて聞き始めたのも、21世紀に入ってからである。それまで存在だけは知っていたし、テンペスト、ソフト・マシーン、ゴング、U.K.などといったプログレッシブ・ロック、ジャズ・ロックのバンドを渡り歩いていた時の彼の演奏も聴いている。

ジャズ寄りのアルバムとしては、1976年、CTIレーベルからのリリース『Velvet Darkness』は所有していた。まあ、このアルバムは、ホールズワースからすると、本人の了解無く、CTIレーベルが勝手にリリースしたもの、とのことで、ホールズワースは正式な彼のリーダー作とは認定していないらしい。

Allan Holdsworth『The Sixteen Men of Tain』(写真左)。1999年の録音、2000年のリリース。ちなみにパーソネルは、Allan Holdsworth (g, SynthAxe), Gary Novak (ds), Chad Wackerman (ds,track 6 only), Dave Carpenter (b), Walt Fowler (tp)。テクニカル系ギタリストの大御所、アラン・ホールズワース通算10枚目のリーダー作。

今回、聴き直した盤は「スペシャル・エジション盤」。オリジナル盤と何が違うのかと見たら、「Above And Below」という曲の別テイクが追加された、そして曲順が変更されている。どういう意図でこういう対応がなされたのか、本人から明確な説明が無いのだが、なんしか、やりたかったのでしょう(笑)。奇人ホールズワースの面目躍如っぽい仕業ではあります(笑)。
 
 
The-sixteen-men-of-tain  
 
 
さて、その内容は、というと、いつものホールズワース節が「てんこ盛り」で、唯我独尊、天涯孤独、我が道を往く風の弾きっぷりがたまりません。ホールズワースのエレギは、ストレートに「ひねる」様なギターで、同様な個性を持つギタリスト、ジョンスコは「ねじれる」のですが、ホールズワースは「ひねる」。

スーッと伸びて小粋に「ひねる」。フレーズはストレートでシンプル。音の端々で「ひねって」いるんですが、あんまり気にならない。個性の範囲内での「ひねり」で、なかなか聴き応えがあります。

何故か評判の芳しく無い「SynthAxe(シンタックス)」についても、この盤では趣味良く使い回していて、耳に付かない。ひねり方もこの盤では、どこか「穏やか」で、ジャズっぽくて聴き易い。ホールズワーズのジャズ・エレギを聴く上で、とても入り易い盤です。

フレーズはストレートでシンプル。音の端々で「ひねって」いるんですが、あんまり気にならない。個性の範囲内での「ひねり」で、なかなか聴き応えがあります。ホールズワース入門盤としてお勧めの好盤です。

実はこの盤の後は自主制作盤が出ただけで、レコード会社からのメジャーなアルバムはこの『The Sixteen Men of Tain』最後でした。そして、2017年、70歳で鬼籍に入りました。この唯我独尊、天涯孤独、我が道を往く風のホールズワースのエレギが聴けなくなった訳ですが、音源はある程度残っているのが救いです。今では徐々に聴き直しをしつつ、彼を偲んでいます。
 
 
 




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2020年8月27日 (木曜日)

現代のジャズ・ファンクなギター

僕がジャズを聴き始めて、ジャズ・ギターは一番後回しにした楽器である。ジャズをかれこれ聴き始めて40年余になるが、ジャズ・ギターについて本腰を入れて、アルバム・コレクションを始めたのが21世紀に入ってからである。しかも、現代の、その時点での第一線で活躍していたギタリストをメインにコレクションを始めたので、ちょっと偏りがある。

そんな中で、最初にお気に入りのギタリストになったのが、パット・メセニー、ジョン・スコフィールド、アラン・ホールスワーズの3人。正統なモダン・ジャズの歴史に沿ったセレクションでは無かった。1950年代から1960年代のいわゆるハードバップ系のギタリストについては、どうも皆、同じに聴こえてしまう(今は違うけど)。ジャズ・ギターについては、とにかく個性的な音が欲しかったので、パット・ジョンスコ・アランの3人になったのだろう。

John Scofield『Bump』(写真左)。2000年のリリース(1999年の秋の録音)。ちなみにパーソネルは、John Scofield (g), Mark De Gli Antoni (key), Chris Wood, David Livolsi, Tony Scherr (b), Eric Kalb, Kenny Wollesen (ds), Johnny Almendra, Johnny Durkin (perc)。ジョンスコの元にジャムバンド・シーンを代表するバンドからツワモノどもが集結している。
 
 
Bump
 
 
捻れまくった、変幻自在のオーバードライヴしたジョンスコのエレギが無茶苦茶に格好良い。ウネウネうねりまくり、ウワーンと拡がり、キュキューと捻れて伸びる「変態ギター」。ビートは重いファンク・ビート。現代の、21世紀のジャズ・ファンクがこの盤に詰まっている。冒頭の「Three Sisters」のギターのフレーズをちょっと聴くだけで「ジョンスコ」と判る、むっちゃ個性的なギターである。

メデスキ・マーティン&ウッド、ソウル・コフィング、ディープ・バナナ・ブラックアウト、セックス・モブといった、ロック~ファンク系・オルタナ~アンダーグラウンド系のジャム・バンドのメンバーを集めてセッションを繰り広げた「ジョンスコの考えるジャムバンド・ミュージック」。ジョンスコは当時49歳。年齢的にベテランの域に入ってはいたが、この新しい音へのチャレンジ精神は素晴らしいの一言。

とにかく、ジョンスコのギターが「捻れに捻れまくって」います。それも素敵に爽やかに心地良く「捻れる」。それがジョンスコの個性。「捻れて」はいるものの、フレーズの作り、フレーズのビートはジャズの域にしっかり留まっていて、捻れフレーズの底にスイング感が見え隠れするところが「ニクい」。この盤のジョンスコ、大のお気に入りです。
 
 
 

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2020年8月20日 (木曜日)

夏はボサノバ・ジャズ・その31

夏はボサノバ、というが、今年はボサノバ・ジャズを聴いても、全く涼しい気分にならない。「酷暑」である。もともとボサノバはブラジルの産物なんだが、そもそもブラジルの夏も蒸し暑い。そんなブラジル産のボサノバを基にしたジャズを聴いても、ちっとも涼しくない。朝からエアコンを効かせて、やっとボサノバ・ジャズを聴いて「涼しいねえ」という気分になる(笑)。

Laurindo Almeida『Viva Bossa Nova!』(写真左)。1962年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Laurindo Almeida (g, cavaquinho), Al Viola, Howard Roberts (g), Jimmy Rowles (el-org), Bob Cooper (ts), Don Fagerquist (tp), Justin Gordon (fl), Max Bennett (b), Chico Guerrero, Milt Holland, Shelly Manne (ds, perc)。

ボサノバの先駆者の1人、ブラジリアン・ギタリスト、ローリンド・アルメイダが、米国西海岸ジャズの一流ジャズメンと制作したボサノバ・ジャズの好盤。米国西海岸ジャズらしい、しっかりとアレンジされ準備された、イージーリスニング・ジャズ志向の、ライトで脱力系のボサノバ・ジャズである。いわゆる「聴き流し」に最適なボサノバ・ジャズと言える。
 
 
Viva-bossa-nova  
 
 
それでも、アルメイダのギターは切れ味良く、ソロを取るにもリズムを取るにも実に「小気味良い」。カヴァキーニョ(サンバやショーロ等に使われるブラジルの弦楽器)まで持ち込んで気合い十分。ブラジルのボサノバ、サンバの雰囲気が濃厚に漂うギターの調べ。このアルメイダのギターの存在だけで、この盤は「ボサノバ・ジャズ」として成立している。

収録曲を見渡すと、ボサノバの名曲の他、映画音楽、有名スタンダード曲など、バラエティーに富んではいるが、結構、俗っぽい選曲になっていて、よくアルメイダもこの録音企画に乗ったもんだ、と感心する。バックの米国西海岸ジャズのメンバーがとにかくムーディーでブリージーな伴奏に徹しているので、もう少しで「平凡なイージーリスニング・ジャズ」に陥るところを、アルメイダの切れ味の良いボサノバ・ギターが、しっかりと救っている。

このボサノバ・ジャズ盤は、アルメイダのギターを愛でる、これ一本の好盤。西海岸ジャズの優秀どころのバックの演奏については、あまり聴くべきところは無い。しかし、このムーディーでブリージーな甘いバックの伴奏が、アルメイダのギターの引き立て役になっているのだから、音楽っていうのは面白い。
 
 
 

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