僕なりのジャズ超名盤研究・17
この盤が「フリー・ジャズ」の原点だ、とするのには違和感がある。この盤を聴けば「フリー・ジャズがなんたるかが判る」なんてことは無い。そんなにジャズは単純なものでは無いし、甘いものでも無い。
作った本人からすれば、一応「ハーモロディクス理論」というものに則った結果だというし、演奏を聴けば、必要最低限の「重要な何らかの決めごと」が演奏の底にあるのが判る。それでなければ、旋律を持った「音楽的な演奏」が成立していない。しかし、作った本人が、この「ハーモロディクス理論」について、精神的な言葉は残っているが、具体的な記述を残していない。これは、決定的に困惑する。
Ornette Coleman『The Shape Of Jazz To Come』(写真左)。1959年5月22日の録音。邦題は『ジャズ来るべきもの』。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as), Don Cherry (cor), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds)。仰々しい邦題。この盤以降は、皆、この盤に録音されているジャズをやるんだ、なんて誤解を生むような邦題である(笑)。
この盤を聴けば、少なくとも、それまでのジャズ、いわゆる、スイングやビ・バップ、ハードバップな演奏とは全く異なる雰囲気であることは判る。といって、コールマンに対して批判的な方々が言う「でたらめ」な演奏では無い。コード進行とリズム&ビートに乗った演奏であるところは、スイングやビ・バップ、ハードバップな演奏と変わらない。
しかし、この盤では、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、を全部やっている、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」の様な演奏がギッシリ詰まっている様に聴こえる。
当然、斬新に聴こえるし、革新的にも聴こえる。しかし、この盤はジャズの「イノベーション」では無い。従来のジャズに対する「アンチテーゼ」をベースに演奏した、当時のコンテンポラリーなジャズだと思う。
選ばれたコードは、いままでの伝統的なジャズが採用しないコードがてんこ盛りだし、リズムはスインギーな4ビートでは無い。無調志向の演奏もあるし、コードに基づかないユニゾン&ハーモニーの採用もある。それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやって、新しいジャズの音、響きを表現している様に感じる。
文字で書けば簡単に感じるが、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやるのって、ジャズマンとして、卓越した「自由度の高い」演奏テクニックと「それまでのジャズ」に対する卓越した知識が必要で、パーソネルを見渡すと、そういう意味で納得できるメンバーが厳選されている。
確かにこの盤に記録されている演奏は「ユニーク」。発想の転換であり、正論の裏を取った様な、一種「パロディー」の様な演奏である。これって、演奏自由度を最大限に発揮出来る「即興演奏」がメインのジャズだからこそ出来る、もしくは許される「技」である。
それまでの「伝統的」なジャズに無い、新しい響きを宿したジャズなので、ジャズのイノベーションに感じるのかもしれないが、今の耳で聴くと、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」であり、ましてや、フリー・ジャズの原点では無いだろう。
それでも、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやるのは、録音当時、発想の転換であり、新しい響きのジャズを創造するという切り口では「アリ」だと思う。発想として面白いし、同業者のジャズマンとして、チャレンジのし甲斐のあるテーマだと僕は感じる。
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