2019年10月 3日 (木曜日)

西海岸の異色ハードバップ盤

この盤のジャケットを初めて見たとき、なかなかお洒落なジャケットやなあ、と思った。タイポグラフィーもバッチリ決まっていて、モデルの女性とのバランスも良い。しかし、モデルが女性なので、これは米国西海岸ジャズのアルバムだと当たりを付ける。しかも、である。このモデルの女性って女医さんのコスプレをしているんですよね? ジャズのアルバムで、女医さんとはこれ如何に?(笑)。
 
しかし中身は真っ当なハードバップ。しかも、米国西海岸ジャズらしからぬ、実に硬派で質実剛健な、アドリブ重視のハードバップ。どちらかと言えば、米国東海岸ジャズのハードバップに雰囲気が近い。米国西海岸ジャズの中では異色のハードバップ盤である。力強く熱いジャズ。しかし、そこはかとなく、しっかりとしたアレンジが施されている様で、東海岸ジャズに比べると、より洗練された響きが、やはり西海岸ジャズらしい。
 
Curtis Counce Group『You Get More Bounce With Curtis Counce!』(写真左)。1956年10月には2回、1957年には3回に分けられて録音されている。ちなみにパーソネルは、Curtis Counce (b), Jack Sheldon (tp), Harold Land (ts), Carl Perkins (p), Frank Butler (ds)。ベーシストのカーティス・カウンスがリーダーの、テナー&トランペットのフロント2管のオーソドックスなクインテット編成。
 
 
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カウンスのテクニック豊かなベースが演奏の要所要所で披露されており、ジャズ演奏の中での理想的なベースの役割、ベースの音色、そしてそのテクニックを、グループ・サウンズを通じて演出されている。ジャズ演奏におけるベースの役割の明確化と理想的なベースの演奏モデルの提示。本来のベーシストがリーダーを張る、リーダー作のあるべき姿の1つであろう。
 
サイドマンも溌剌と演奏していて好感が持てる。特にテナー・サックスのハロルド・ランドが、硬派でハードなテナーを吹き上げていて立派だ。加えて、西海岸ジャズのトランペットの雄、ジャック・シェルドンのトラペットがいい音を出している。溌剌としていて、積極的で創造的。この2管フロントのパフォーマンスは、東海岸ジャズ顔負けである。
 
カール・パーキンスのピアノもなかなか小粋なバッキングをしていて、そこにフランク・バトラーの職人芸的なドラミングが、しっかりとリズム&ビートを供給する。優れたアレンジと洒落たアンサンブル、そして、クールな演奏が個性の米国西海岸ジャズ。そんな評価を覆す、このカウンスのリーダー盤。西海岸ジャズにも、こんなに熱く溌剌としたハードバップ盤がある。胸の空くような演奏の数々。好盤である。
 
 
 
東日本大震災から8年6ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年8月26日 (月曜日)

「今時のジャズ」の良いところ

このところ、ビンテージな純ジャズばかりを漁っていた。ビンテージな純ジャズ盤の音源探索は、どこか考古学の遺跡発掘の趣きがあって、やり始めたら、かなり面白い。ネットを漁って、お目当ての音源を探し当てれば嬉しいし、どう探しても見つからない場合は、なんとなく腹立たしい。どちらにしろ、楽しいのには変わりが無い。ビンテージな純ジャズ万歳である。
 
しかし、古い音源ばかり聴いていると耳に偏りが出てきそうで、必ず、新盤も聴くように心がけている。歳を取って「今時のジャズはなあ」なんて、したり顔で揶揄し出したらお終いだ、と思っているので、しっかりと「今時の新盤」にも耳を傾ける様にしている。意外と新盤のリスニングも面白くて、ジャズの深化とジャズの継続性が感じられて、まだまだジャズも捨てたもんじゃ無い、と思うのだ。

Joe Martin『Étoilée』(写真左)。2018年2月、ニューヨークのシアー・サウンドでの録音。ちなみにパーソネルは、Joe Martin (b), Mark Turner (ts, ss), Kevin Hays (p, Rhodes), Nasheet Waits (ds)。マーク・ターナーのサックスがフロント1管の「ワンホーン・カルテット」編成である。日本ではあまりメジャーな存在では無いが、この20年余り、所謂「ファースト・コール」なベーシストである、ジョー・マーティンのリーダー作になる。
 
 
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この盤を聴けば、所謂「今時のジャズ」の良いところを実体験することが出来る。クールでスピリチュアルで思索的でハイテクニックな「コンテンポラリーな純ジャズ」が展開されている。今時のジャズマンは家庭的なのか、作品名はマーティンの愛娘の名前、2曲目の題名は妻の名前と2人の息子の名前を織り交ぜるなど、家族への思いを込めた8つのオリジナル曲で構成されている。思わず「へ〜」である。
 
冒頭「A World Beyond」は、ターナーのベースが、フロントのサックスのバックで、踊るが如く漂うが如く響き渡る「A World Beyond」。綿密な4人の連携が実にモダンでセンスが良い。クールで拡がりのある演奏なんだが、しっかりと音の芯は通っていて、その響きはスピリチュアル。これは確かに「今時のジャズ」の音世界である。次の「Malida」は冒頭の知的なベース・ソロに思わず耳をそばだてる。
 
冒頭の2曲だけで、ターナーのベースは只者では無いことが良く判る。タイトル曲「Étoile」はターナーのソプラノが叙情的、ヘインズのピアノはどこかエキゾチックば響き。大向こう張るキャッチャーな曲は無いが、どの曲も密度が濃く、適度な浮遊感が心地良く、クールでスピリチュアルな雰囲気に満ちている。飽きの来ないアレンジと音作りで、地味なジャケットが玉に瑕だが、なかなかの好盤と思う。
 
 
 
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2019年8月14日 (水曜日)

実にECMらしいエレ・ジャズ

久し振りのECMレーベル。カタログ順の聴き直しも、はや66枚目。最近はCDの外国盤も入手し易くなったし、有料ダウンロード・サイトのジャズ盤のストックも充実度を増している。特に、ECMレーベルのカタログを Apple Musicに開放してくれたのは有り難かった。ECMレーベルの総帥マンフレート・アイヒャーに敬意を表したい。

Eberhard Weber『Yellow Fields』(写真左)。ECM1066番。1975年9月の録音。 ちなみにパーソネルは、Eberhard Weber (b), Charlie Mariano (ss, shehnai, nagaswaram), Rainer Brüninghaus (p, syn), Jon Christensen (ds)。いかにもECMレーベルらしいラインナップである。ドイツ出身が2人、米国出身が1人、ノルウェー出身が1人という多国籍構成。
 
リーダーのエバーハルト・ウェーバーはベーシスト。彼のリーダー作はどれもが当時の「ニュー・ジャズ」。いかにも欧州らしい、ゆったりとした音の広がりと堅実かつ印象的なリズム&ビートをベースに、ECMレーベルらしいエレクトリック・ジャズを展開してくれる。米国のエレクトリック・ジャズの様にファンクに傾倒することも無く、激情に走ることも無い。
 
  
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淡々と穏やかで印象的なビートと透明度の高い音色で、様々な印象の音世界を創り出していく。全曲エバーハルト・ウェーバーの作曲なのも特徴。スタンダード曲などは絶対にやらない。さすがドイツ出身のジャズマンらしく、全体のサウンドは破綻が無く、まとまりがとても良い。非常にきっちりとしている。大阪弁で言うと「シュッとしている」(笑)。
 
ホーンの伸びのある音、素敵やなあ、と思って、誰かしらと名前を確かめてみたら、なんと「チャーリー・マリアーノ」。穐吉敏子さんの元夫君でもあったアルト・サックス奏者。この盤では、ソプラノ・サックスとインドのシェーナイというリード楽器、そして、ナーダスワラムという南インドの二重葦の管楽器を使用している。これが効果的。欧州らしい典雅で透明度の高いエレ・ジャズに、ワールド・ミュージック的なヒューマンな響きを添えている。
 
ウェーバーのベースも重心が低く、的確なベースラインと躍動的なビートを供給していて、実に聴き応えがある。クリステンセンのドラムは切れ味良く透明度の高いドラミング。そんなリズム隊をバックに、ブリューニングハウスのピアノとシンセが印象的に響く。そこに絡む、マリアーノの印象的なホーンの響き。実にECMレーベルらしい、実に欧州ジャズらしい「ニュー・エレジャズ」である。
 
 
 
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2019年5月17日 (金曜日)

東欧~中東的旋律が更に濃厚

現代のNYのジャズのトレンドの1つに「イスラエル出身のジャズ・ミュージシャンの台頭」がある。イスラエル・ジャズは、老舗本国の米国、欧州について、新たなジャズの聖地になる位の勢いでメジャーな存在になってきている。もはや、イスラエル発のジャズは無視出来ない存在になってきている。
 
イスラエル・ジャズの特徴はと言えば、ネットを紐解くと「イスラエル、ジューイッシュ(ユダヤ)の哀愁を帯びたフレーズやメロディ、または近隣アラブ諸国〜北アフリカ地域の音楽的要素なども取り入れられており、結果生成された今までにないハイブリッドなジャズ・サウンドが特徴」とある。

Omer Avital『Qantar』(写真左)。昨年8月のリリース。ちなみにパーソネルは、Omer Avital (b), Eden Ladin (p, key), Ofri Nehemya (ds), Alexander Levin (ts), Asaf Yuria (ss, ts)。アヴィシャイ・コーエンと並びイスラエル出身2大ベーシストと称されるオメル・アヴィタルの最新作。同郷の盟友たちで結成された新ユニット「オメル・アヴィタル・カンター」のお披露目盤である。
 
 
Qantar-omer-avital  
 
 
2管フロントが映える、冒頭の「One Man’s Light Is Another Man’s Night」の疾走感。旋律の美しさが際立つ5曲目の「Beauty and the Beast」。アヴィタルの必殺ウォーキング・ベースが炸裂する、ラストの「Know What I Mean?!」。バンドメンバー、それぞれの演奏が抜群に上手い。その充実度合いは、聴き始めたら最後まで一気に聴き通してしまう位。
 
中でも、やはり、リーダーのアヴィタルのベースが素晴らしい。伝統を踏まえた、胴鳴りを伴った、鋼がしなるが如く響く弦の重低音。安定したビート。安定したピッチ。見事なジャズ・ベースである。このアヴィタルのベースが東欧~中東的旋律にグルーヴ感を与えている。エキゾチックなグルーヴ感。イスラエル・ジャズの面目躍如。
 
東欧~中東的旋律については更に濃厚になっている。全編、東欧~中東的旋律で埋められている、と言っても過言では無い内容。東欧から中東的旋律が好きなジャズ者にとっては堪らない内容になっている。いわゆる「中近東的エキゾチックな雰囲気」満載な好盤。イスラエル・ジャズ以外、他にありそうでない「東欧~中東的旋律が満載」のコンテンポラリーな純ジャズ。良いアルバムです。
 
 
 
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2019年5月 5日 (日曜日)

パティトゥッチのベースが凄い

ジャズの新盤を追いかけていると、お気に入りのジャズマンの成長の様が良く判る。まずはデビュー盤で、これは、と思って追いかけ始め、リーダー作の枚数を重ねる毎に、その成長の様を確認することは「ジャズ者冥利」に尽きる。逆にデビュー作を重ねること無く、消えていくジャズマンもいる。演奏する方も聴く方も「悲喜こもごも」である。
 
John Patitucci『Soul of the Bass』(写真左)。今回はこの天才ベーシストの一人、パティトゥッチの新作である。今年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、John Patitucci (elb,b), Nate Smith (ds), Greisun (vo), Isabella Patitucci, Sachi Patitucci (cello)。1987年の初リーダー作以来、既に10枚以上のリーダー作を数える。特にリーダー作は圧巻だった。6弦ベースの高音域での高速フレーズはギターのソロと肩を並べるほどだった。とにかく速弾きに優れる。
 
フュージョンからストレート・アヘッドなジャズまで幅広くこなすが故に、器用貧乏なイメージが付きまとうのだが、サイドメンに回ると、それはそれは優れたバッキングを披露する。つまり、パティトゥッチのベースは、テクニック優先なものでは無く、バランスの取れた優れたジャズ・ベーシストの一人なのだ。
 
 
Soul-of-the-bass-john-patitucci  
 
 
今回の新作は、そんな「バランスの取れた、優れたジャズ・ベーシスト」にスポットを当てた、というか、トータル・バランスの取れたジャズ・ベーシストのパフォーマンスがギッシリと詰まった、ベーシストの、ベーシストによる、ベーシストの為のリーダー作に仕上がっている。冒頭のタイトル曲「Soul of the Bass」を聴けば、パティトゥッチのベース・ソロのただならぬテンションに、思わず座り直してしまう。
 
とにかく、パティトゥッチのベースソロの楽曲が白眉の出来。これだけ、音色豊かでフレーズの拡がりが幅広のベースソロはそうそう無い。ベースソロというのものは、大体が単調で飽きるのだが、このパティトゥッチのベースソロは飽きない。ついつい聴き耳を立てて聴き入ってしまう。最近目立ってきた若手ドラマー、ネイト・スミスを加えた演奏でもパティトゥッチのベースの存在感は抜群。リズムキープから解放された分、ソロの自由度はただならぬものがある。
 
ベーシストがリーダーのアルバムって、特にベーシストのテクニックや弾きっぷりに焦点を当てたものは、もともとベースの音って単調で変化が乏しく、途中で飽きが来てしまうものが多い。しかし、このパティトゥッチの新作は違う。パティトゥッチの「音色豊かでフレーズの拡がりが幅広のベース」は、その天才的なテクニックも相まって飽きが来ない。好盤である。
 
 
 
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2019年3月 4日 (月曜日)

ヴィーナス・レコードの粋ジャケ

日本発のジャズ・レーベルに「ヴィーナス・レコード」がある。日本人好みのジャズの雰囲気を一手に引き受けている日本発のジャズ・レーベルで、個人が経営する独立系ジャズ・レーベルとしては現在、日本最大級の規模となっている。演出過剰なほどに、スインギーでマイナー調で、耽美的でメロディアス。録音は優秀、演奏のテクニックも優秀。音の傾向は「スムース・ジャズ志向の純ジャズ」。

硬派なジャズ者の方々は、このヴィーナス・レコードからリリースされるアルバムのジャケットを揶揄される。殆どのジャケットが「セミヌードか下着姿の女性」があしらわれている。これがすこぶる評判が悪い。確かにちょっと品に欠けるところがある。この「セミヌード」ジャケットがLPサイズだったとして、平然とレコード屋のカウンターに持ち込めるか。否、である(笑)。

しかし、そんなヴィーナス・レコードのアルバムの中にも、小粋なジャケットで、小粋な内容な「隠れ好盤」が何枚かある。例えば、この盤などその一枚。Bill Crow Quartet『Jazz Anecdotes』(写真左)。1996年11月19 & 20日、New JerseyのVan Gelder Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Bill Crow (b), Carmen Leggio (ts), Joe Cohn (g), David Jones (ds)。
 

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リーダーのビル・クロウのベースが効いている。ビル・クロウはリーダー作の当アルバムともう一枚『From Birdland to Broadway』の2枚だけがヴィーナス・レコードからリリースされているだけだが、サイドマンとしてのキャリアは折り紙付き。ジェリー・マリガンとの共演が一番多く、スタン・ゲッツ、ズート・シムズ等々との共演が多数ある。

アルバム・タイトルの「ジャズ・アネクドーツ」 とは、ビル・クロウが書いたジャズ・マン達に知られざる逸話を集めたジャズ・ブックの名前。タイトルの由来からして「粋」。このアルバムの内容も、しっかりとしたハードバップな演奏で、音の作りは決してレトロでは無く現代的。演奏される曲はスタンダード曲がメイン。味のあるアレンジが施されていて飽きない。

ジャケットも「粋」。タイポグラフィーも良好、あしらわれている写真も良い雰囲気。このジャケットだけを見たら「ヴィーナス・レコード」からのリリースだとは思わないだろう。これなら、硬派なジャズ者の皆さんもヴィーナス・レコードを少しは見直してくれるかも、である。

 
 
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2019年1月26日 (土曜日)

冷たく燃える、典型的なECM盤

明快に「ECMレーベルの音」である。こんな音は米国には無い。オフビートながらファンクネスは皆無でクリアな楽器の音。自由度が高く、全く破綻の無いモーダルな演奏。フリーな演奏も必要最低限の規律があって、統率がとれている。この音は明らかに欧州ジャズの音である。

今日のECM盤は『Gateway』(写真)。1975年3月、ECMのTonstudioでの録音。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g), Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)。欧州版捻れギターのアバークロンビー、重戦車ベースのホランド、変幻自在ドラムのデジョネットの3人が結成したグループ「Gateway」の1st.アルバムになる。

冒頭のホランド作「Back-Woods Song」が無茶苦茶に格好良い。ホランドの重戦車ベースのソロから始まるイントロ。デジョネットのリズムックなシャッフルが絡み、アバークロンビーのギターが捻れて入ってくる。演奏の底にファンクネスは皆無、それでいて躍動感溢れるオフビートはかなりジャジー。聴いていて、これは明らかに「欧州の純ジャズ」である。
 

Gateway  

 
このトリオの主役はやはりフロントのアバークロンビーのギターだろう。知的で内省的なハイテクニックな捻れギター。しかし、収録曲のほとんどがホランド作。演奏のリズム&ビートを支えているのはデジョネットのポリリズムックなドラム。3者がそれぞれの個性の強みを活かした、素晴らしいトリオ演奏である。

だが、である。このトリオ演奏全体をコントロールしているは、ホランドのベース。ホランドが繰り出す切れ味の良いロック的なビート、フリージャズ的な展開、演奏のボトムを支える重低音ベース。デジョネットの変幻自在のドラミングに瞬時に反応していくホランドのテクニックには驚嘆する。

これだけしっかりとしたリズム・セクションである。さぞかし、フロントのアバークロンビーのギターは弾いていて楽しかったろう。音の温度感は冷たいのだが、演奏の雰囲気は「ホット」そのもの。冷たく燃える3者対等なインプロビゼーション。深い独特のエコーはECMレーベル独特なもの。アーティスティックな雰囲気が色濃く漂う、上質の欧州ジャズである。

 
 

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2018年11月26日 (月曜日)

マクブライドの「新しいジャズ」

このところ、新しいタイプのスピリチュアル・ジャズが流行っている。今までのスピリチュアル・ジャズの印象は、感情のおもむくままに楽器を吹き鳴らし、精神性の部分を強調したフリー・ジャズのバリエーション、ということ。その激しいアブストラクトな吹奏は、時に「馬の嘶き」にも匹敵し、音楽鑑賞という行為の中では、かなりの苦行を強いられる。つまり、一般的に敬遠されがちなジャンルではあった。

しかし、最近、そのスピリチュアル・ジャズの印象がガラッと変わる、新しいタイプのスピリチュアル・ジャズが現れ出でつつある。穏やかでモーダルな「印象的フレーズ」を展開しながら、時にフリーに傾くが、それは演奏の中のアクセントとしてアレンジされ、音の響きとフレーズから「スピリチュアル」な面を増幅させ、聴く者に訴求する、という、新しいアプローチ。これがなかなか良い感じなのだ。

『Christian McBride's New Jawn』(写真左)。今年10月のリリース。現代のファーストコール・ベーシストの一人、クリスチャン・マクブライドの新グループ「New Jawn」によるファースト盤である。「Jawn」とは、マクブライドの故郷フィラデルフィアのスラングで「=place, or thing」の意味らしい。つまり「新しい場所・事柄」=「新しいジャズ」と僕は解釈している。何が新しいのか。この盤に詰まっている演奏の全てが「モード」による演奏みたいなのだ。バンドを構成する楽器も、コード楽器を排したカルテット構成。
 

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ちなみにパーソネルは、Christian Mcbride (b), Josh Evans (tp), Marcus Strickland (ts, bcl), Nasheet Waits (ds)。まあ、簡単に言ってしまうと、ピアノ、もしくはギターという、コード楽器が無い編成である。演奏がコードに縛られる、アドリブ展開がコードに影響されるということが排除されることがメリットで、フリー・ジャズでは無いが、限りなく自由度の高い展開が期待出来る。確かに、このマクブライドの新盤では、そんな「限りなく自由度の高い」演奏が展開されていて見事だ。

限りなく自由度の高い演奏をベースにした、モーダルな演奏。その音世界は「スピリチュアルな」雰囲気が濃厚。この盤の演奏、これはマクブライドの考える「スピリチュアル・ジャズ」なのではないか。マーカス・ストリックランドのテーナーと、ジョシュ・エヴァンスのトランペットが織りなす複雑なアンサンブルとハーモニーが実にスピリチュアルなのだ。そして、マクブライドのベースとナシート・ウェイツのドラムが硬軟自在、痴漢自在な自由度の高いリズム&ビートが、その「スピリチュアルな要素」を増幅する。

実にユニークなメインストリーム・ジャズである。フリーフォームからハード・スウィングまで、モーダルな演奏の粋を尽くした展開が見事。今までに聴いたことの無い響きが面白い。ジャケットがアメリカン・コミック風のデザインなので、何かコミカルな内容なのか、と勘違いしそうなんだが、どうして、この盤に詰まっている音は、明らかに現代の「純ジャズ」の最先端である。

 
 

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2018年10月30日 (火曜日)

再掲『ジム・ホールの想い出 』

ベーシストのリーダー作は、なかなかに聴き応えがあるものが多い。ベースのテクニックをメインにした盤は当たり前なんだが、ベースという楽器のポジションを活かした「グループ・サウンド」をプロデュースしコントロールした盤が良い。リーダーであるベーシストの音楽性がとりわけ良く判る。特にライヴ盤では、リーダーのベーシストのテクニックと音楽性の両方が良く判る盤が多く、ベーシストのリーダー作はライヴ盤だったら、迷わず入手することにしています。

Ron Carter『In Memory of Jim』(写真左)。2014年1月20日、ブルーノート東京にてのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ron Carter (b), Larry Coryell & Peter Bernstein (g)。なかなか良い音で録れております。リーダーがベーシストのロン、パートナーのギタリストがコリエルとバーンスタイン。名前を見ただけで思わず触手が伸びる。ジャケット・デザインもなかなかグッドで、中の音が期待出来ます。

ちなみに「Jim」とは「Jim Hall(ジム・ホール)」のこと。プログレッシヴなレジェンド・ギタリストで、2013年12月に急逝。この盤は追悼盤の位置づけになります。ちなみに邦題は『ジム・ホールの想い出 』。ジム・ホールとロン・カーターは何枚か、デュオでの共演盤があって、そのデュオ演奏を聴けば判るのですが、相性は良く、どのデュオ盤も良い内容です。
 

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このトリビュート盤では、ジム・ホールの代わりを、ラリー・コリエルとピーター・バーンスタインが務めています。代わる代わる弾くのでは無く、ロンのベースに2ギターでのトリオ編成の演奏になっていて、意外とユニークで聴き応えがあります。「アローン・トゥゲザー」「セント・トーマス」など、ジムとのデュエットのレパートリーだった有名スタンダードを中心に演奏されていて、聴いていてとても楽しい内容。

実はこの盤、しばらく聴くのを躊躇っていました。それというのも、この盤のロンのベースはピッチが合っているか、そして、アコベの音をアタッチメントで増幅していないか、その2点が心配で、なかなか聴く勇気が出ませんでした。が、それは杞憂に終わったようで、ロンのベースのピッチは意外と合っていて聴ける。そして、アコベの音は電気的に増幅されておらず、アコベの生々しい骨太な響きが心地良い。

このライヴ盤、ロンのベースは「当たり」です。ギタリストのコリエルとバースタインとの相性も良いようで、かなり内容の濃い、適度なテンションの中、丁々発止とインプロビゼーションが展開されます。ロンはデュオが得意。ロンのベースはギターに上手く絡みます。それでいて、リーダーとして、アコベ演奏の主張はしっかりと前面に押し出す。ロンのベースの良い面がしっかり出た好盤です。

 
 

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2018年10月25日 (木曜日)

全くの自然体のハードバップ

ジャズの定番スタイルといえば、やはり「ハードバップ」だろう。1950年代後半がピーク。ビ・バップの自由さとリズム&ブルースが持つ大衆性の両方が共存した、いわゆる「俗っぽさ」と「芸術性」のブレンド。演奏のテクニックとしては「特にソロのアドリブ演奏面で、ホットでハードドライビングしながらも、メロディアスに洗練されたスタイル」である(Wikipediaより)。

ジャズが一番ジャズらしい演奏スタイルが「ハードバップ」。その後、モード、フリーと進化したが、進化の代償としてキャッチーさ、大衆性が失われたが故に1960年代後半以降、ハードバップは一旦衰退する。しかし、1980年代半ば、当時大流行の後、衰退を始めたフュージョン・ジャズと取って代わるように復活した。いまでは「ネオ・ハードバップ」として、一定のトレンドを維持している。

Joris Teepe『Bottom Line』(写真左)。1995年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Don Braden (ts), Tom Harrell (tp), Darrell Grant (p), Joris Teepe (b), Carl Allan (ds)。リーダーは「Joris Teepe」=ヨリス・テーぺ、と読む。オランダ出身の敏腕ベーシスト。ドン・ブラッデンのテナーとトム・ハレルとのトランペットの2管フロントのクインテット構成。
 

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ベーシストがリーダーのジャズ盤になる。ベースという楽器の性格上、ジャズ演奏において、フロント楽器を担うことは無い。音のバリエーションが狭いので、旋律弾きを担当することはあるが、相当なテクニックの持ち主に限る。リーダーとして、グループサウンズにケアしつつ、自分のやりたいジャズの演奏トレンドを追求する。

この盤での演奏トレンドは「ネオ・ハードバップ」。コードをベースに展開する、伝統的なハードバップと、モード奏法をベースとしたモード・ジャズ。この2つのハードバップなジャズを混ぜ合わせた様な音世界。グループ・サウンドは端正かつ躍動的。メリハリがきっちり着いて、アドリブの展開は爽快。これが現代のハードバップ、そう「ネオ・ハードバップ」である。

1995年でこの演奏である。全くの自然体のハードバップ。素晴らしい。全く「作られた」感じが無い、自然体のハードバップ。この盤を聴くと、ハードバップって作られるものでは無く、生み出されるものなんだなあ、って思う。理屈で作るものでもなければ、頼まれて作るものでも無い。つまりは「ジャズ」ってそういうものなんだろう。この盤を聴いていて、つくづく思う。

 
 

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