2024年4月23日 (火曜日)

名盤『Uptown Conversation』

ロン・カーターはジャズ・ベーシストのレジェンド。リーダー作については、ベーシストとしては珍しく、かなりの数に上る。リーダー作というのは、まずテクニックがあって積極性があって、そして、プロデュース力があって、統率力がなければ出来ない。

加えて、サイドマンとして、他のジャズマンのリーダー作のセッションに参加した数は膨大な数にのぼる。「演奏内容と共演メンバーを活かすも殺すもベーシスト次第」という面からすると、ロンのベーシストとしての力量は、他の一流ジャズマンの面々の周知するところだったと思われる。

Ron Carter『Uptown Conversation』(写真)。1969年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Ron Carter (el-b, ac-b), Hubert Laws (fl, tracks 1, 4 & 5), Herbie Hancock (ac-p, el-p, all tracks except 2), Sam Brown (g, tracks 1, 2 & 4), Grady Tate (ds, tracks 1, 4 & 5), Billy Cobham (ds, tracks 3, 6, & 7)。
 
ロンの2枚目のリーダー作。初リーダー作が1961年。約8年ぶりのリーダー作になる。1960年代はほぼマイルスの下で専属ベーシストとして活躍。マイルスがエレクトリック化に踏み出した頃にリリースした、2枚目のリーダー作。

ロンのベースをメインに、以下の4つのパターンのセッションで、演奏を弾き分けている。

① ベース+ギター(ブラウン)のデュオ
② ベース+ピアノ(ハンコック)+ドラム(コブハム)
③ ベース+ピアノ(ハンコック)+フルート(ロウズ)+ドラム(テイト)
④ ベース+ギター(ブラウン)+ピアノ(ハンコック)+フルート(ロウズ)+ドラム(テイト)

当時、流行していたソウル・ジャズ。それもシュッとクールなソウル・ジャズ、そして、ハードバップ。これは、グラディ・テイトがドラムのユニットが担当。ハンコックもファンキーでソウルフルなピアノをガンガン弾きまくっている。ロウズのフルートも、それはそれはクールでファンキーでソウルフル。
 

Ron-carteruptown-conversation  

 
ソウル・ジャズ、ハードバップな演奏のバックで、演奏の底をガッチリ支えるロンのベースが見事。意外とファンキーでソウルフルなロンのベースにちょっとビックリする。リラックスして楽しそうにベースを弾くロン。ロンの適応力の高さと広さ。見事である。

コブハムがドラムのユニットは限りなく自由度の高いモード・ジャズ、そして、フリー・ジャズ。モード・ジャズでのベース・ラインは、ロンにとってはお手のものなんだが、フリーにアブストラクトに展開するロンのベースの切れ味とマージネーションには驚く。これだけソリッドで切れ味の良い、バリエーション豊かでフリーなベースラインを弾き通せるベーシストは希少。

しかも、ハンコックのフリーなピアノにクイックに反応して応戦している。ロンのベースは意外とアグレッシブでオフェンシブ。ちょっと驚く。そうそう、このハンコックのフリーなピアノも聴き応え十分。そして、後の千手観音ドラミングで名を馳せたコブハムのモーダル〜フリーなドラミングがこれまた見事。コブハムの純ジャズ系ドラマーとして力量を再認識する。

ロンとサム・ブラウンのデュオ、2曲目の「Ten Strings」でのベースとギターのフリーなインタープレイは内容が濃い。ロンのベースがフリー・ジャズに完全適応し、前衛音楽にしっかり軸足を置くことが出来る。ベーシストとしてのテクニックの面でも優れたものがあることが良く判る。

例えば、ベースの哲人、チャーリー・ヘイデンに比肩する、高いレベルのテクニックと個性。この盤で、ロンのベーシストとしての実力、力量、適応力の全てが判る内容になっている。

今でもネットの世界では、ロンのベースに対して、一部に手厳しい評価がある。ベース音にピックアップを付けて増幅している音が許せない、時折ピッチが狂っている、そう言ったマイナス面だけがクローズアップされている。

しかし、この盤を聴いてみると、ベースの音が整っていて、ピッチを合わせたロンのベースは、やはり優れている。リーダー作の多さ、サイドマンとしてのセッション参加機会の莫大な数。それらが、ロンのベースの優秀性を如実に物語っていると僕は思う。
 
 

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2024年2月 2日 (金曜日)

エレ・ハービーの最終成果物 『Future 2 Future』

エレクトリックなハービー・ハンコック(エレ・ハービー)の活動期は、1969年から1984年辺り。以降『Perfect Machine』(1988年録音)、『Dis Is Da Drum』(1993-94年録音) と、4〜5年に1枚のタイミングでアルバムをリリースしている。そして、今回、ご紹介するアルバムで、エレ・ハービーは打ち止めである。

Herbie Hancock『Future 2 Future』(写真左)。2001年の作品。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (key), Wayne Shorter (sax), Charnett Moffett (ac-b), Bill Laswell (el-b, produce), Jack DeJohnette, Tony Williams (ds, 故人), Karsh Kale (ds, program beats)。他、ゲストが多数。

ビル・ラズウェルのプロデュースによる「21世紀のエレ・ハービー」。ビル・ラズウェルが、ハービーのの過去の音源を使用してリミックス盤を作成することを提案したところ、ハービーが、それなら新しいアルバムを作る、と言って実現したアルバムらしい。

エレ・ハービーの総決算的内容。初期の「プログレッシブ・エレ・ファンク」な響き、全盛期の「Q(クインシー・ジョーンズ)流のエレ・ファンク」、そして、1980年代の「スクラッチ」、「アフリカン・ネイティヴなビート」「ヒップホップのビート」、エレ・ハービーの個性の全てが、この『Future 2 Future』に盛り込まれている。

恐らく、過去を振り返って、ハービーが思うところの最高のメンバーを集めて、最高のエレ・ハービーの最終到達点の演奏を残したかったのだろうか。なんだか、ほとんど、マイルス1960年代黄金のカルテット以降の同窓会的メンバーである。
 

Herbie-hancockfuture-2-future 

 
パーソネルを見渡すと、サックスにウェイン・ショーター、ドラムにトニー・ウイリアムス(録音時点では故人。生前の録音音源を編集収録)、そして、初期エレ・マイルスの要、ジャック・デジョネット。

さすがに、ベースにはロン・カーターとはいかなかったらしく(ロンのベースはさすがにヒップホップのビートには向かないなあ)、エレベ感覚でアコベを弾くことができるチャーネット・モフェットと、スクラッチ&エレ・ヒップホップの盟友、ビル・ラズウェルがベースを担当している。

エレ・ハービーの総決算的内容なので、新しい響き、新しいトレンドは見当たらない。過去の成果を熟練・熟成した、ハイ・レベルで、明らかにハービーのエレ・ファンクである。音の響き、フレーズ、リズム&ビート、どこから聴いても「成熟したエレ・ハービー」。

1969年の『Fat Albert Rotunda』から、ずっとエレ・ハービーを聴き親しんできた「ハービー者」には感じる、この盤はエレ・ハービーの「最終成果物」である。

発売当時、『ビルボード』のコンテンポラリー・ジャズ・アルバム・チャートでは2位。我が国でも、4週オリコンチャート入りし、最高45位を記録。エレ・ハービーの人気はまだまだ衰え知らずだったことが窺い知れる。

しかし、以降、現在まで、エレ・ハービーの「次なるアルバム」は発表されていない。
 
 

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2024年2月 1日 (木曜日)

ハービーの謎『Dis Is da Drum』

ハービー・ハンコックのリーダー作の「落穂拾い」。当ブログでの、ハービーのリーダー作の記事のコンプリートを目指しているのだが、1980年代後半から、ポロポロッと何枚か、記事化されていないリーダー作がある。エレ・ハービーについては2枚ほどのリーダー作が未記事化。その中の一枚を今回取り上げた。

ハービー・ハンコックは、1963年、マイルスのバンドに抜擢される。マイルスにはモード・ジャズの薫陶を得て大成長。しかし、エレ・マイルスの時代に入った時点で、エレピをアコピの様にしか弾けず(弾かず?)に、いわゆる「クビ」に。しかし、ハービーはマイルスが大好きで、マイルスの「エレ・ファンク」に追従。しかし、マイルスの真似をしたら、マイルスに怒られるので、ハービーは「Q(クインシー・ジョーンズ)」のエレ・ファンクをお手本に、ハービー流のエレ・ファンクで大活躍。

ハービーは、マイルスがそれぞれの時代の最先端で流行っていたジャズの演奏スタイルや、他の音楽ジャンルで流行っていたリズム&ビートをいち早く、ジャズに取り込んでいたのを踏襲して、先に挙げた「Q流のエレ・ファンク」そして「スクラッチ」のジャズ化にいち早く取り組んで、マイルスに大アピール。きっと、ハービーはもう一度、マイルスとやりたかったんやろなあ。でも、それは叶わなかった。

Herbie Hancock『Dis Is da Drum』(写真左)。1994年の作品。ちなみにパーソネルは、曲ごとにメンバーが色々入れ替わっているので、詳細は割愛するが、それぞれの曲で「鍵を握っている」メンバーは、Bill Summers (perc), Wah Wah Watson (g), Wallace Roney (tp), Bennie Maupin (ts), The Real Richie Rich (DJ and scratcher) 等々。そして、かなりの数のパーカッション、そしてボーカル。

リリース当時「ハービーのアフリカン・ネイティヴなビート、ヒップホップのビートのジャズ化」として、先進的なエレ・ジャズとして、相当にチヤホヤ好意的に受け入れられていた思い出がある。が、自分には、どうにも以前聴いたことのある、既出の「エレ・ファンク」に聴こえて、どうにも困ったことを覚えている。
 

Herbie-hancockdis-is-da-drum

 
既に1970年代から80年代前半で、ハービーのエレ・ファンクは「Q流のエレ・ファンク」なスタイルで確立されている。しかも、以前に「スクラッチ」を取り入れたエレ・ファンクでスベった実績があるので、今回、スクラッチの代わりに「ヒップホップ」を取り入れたのは、ちょっと無理筋だった様な気がしている。

冷静にこの盤に詰まっている「エレ・ファンク」を聴き直してみると悪くはない。水準以上である。しかし、アフリカン・ネイティヴなビートやヒップホップのビートを取り込んだことによる「化学反応」はあまり感じられない。どっちかと言えば、マイルスの「ビッチェズ・ブリュー」のリズム&ビートを洗練しクールにしたイメージで、それぞれのトラックに流れるリズム&ビートは、どちらかと言えば「温故知新」的な感じがする。

その「温故知新」な感じは、「マイルスの再来」と評されたウォレス・ルーニーのトランペットが入ったトラックで強く感じる。ルーニーのトランペットは「マイルスの再来」と言われるだけあって、マイルスの音に似通っているのだが、このルーニーのトランペットが入ると、そのトラックの音世界は、1970年代前後の「エレ・マイルス」を彷彿とさせるものに激変する。ルーニーのトランペットが入ったトラックが特別に映える。

この『Dis Is da Drum』の各トラックを聴いていて、もしかしたら、ハービーって、このトラックをバックにマイルスにトランペット吹いて欲しかったのではないか、と思ってしまう。それほど、この『Dis Is da Drum』の各トラックでマイルスのトランペットが鳴り響いたら、と想像すると、なんだかゾクゾクする。

しかし、このアルバムが制作された当時は、既にマイルスはこの世にいない。故に、この『Dis Is da Drum』の制作理由、存在意義がいまだに理解できずにいる。この盤の「アフリカン・ネイティヴなビート、ヒップホップのビートのジャズ化」は、ハービーならではの「マイルス・トリビュート」だったのかもしれない。謎である。
 
 

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2024年1月21日 (日曜日)

ハービーのソロ『The Piano』

ハービー・ハンコックは「2つの顔」を持つ。一つは、メインストリーム系、アコピをモーダルに弾きまくるバリバリ硬派な「純ジャズ志向」、もう一つは、判り易くてポップな、エレピやシンセを駆使した「ジャズ・ファンク志向」。どちらの顔も超一流。どちらの志向も、ジャズ史に残る立派な成果をしっかりと残している。

Herbie Hancock『The Piano』(写真左)。1978年10月25–26日の録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (p)。ハービー・ハンコックのキャリアの中で唯一のアコースティック・ピアノ一本のソロ・パフォーマンス。

1978年、ハービー・ハンコックが来日時、ジャズ・ファンク志向の『Directstep』録音の後、一週間後、同じく新設のSME信濃町スタジオに入り、『Directstep』と同様に、ダイレクト・カッティング方式で録音したアルバム。翌年1月に日本限定盤として、『Directstep』と併せてリリースされている。

アナログディスク、いわゆるLPでのA面は大スタンダード大会。「My Funny Valentine」「On Green Dolphin Street」「Some Day My Prince Will Come」。どこから聴いても「大スタンダード曲」。

これがかなりスッキリした出来で肩透かしを喰らう。アレンジも平易、弾きっぷりもシンプル。キースやチックと比べると、明らかに物足りなさを感じる。ただし、リリカルさと耽美的なフレーズはハービーらしからぬ、ハービーとして新しい響き。これは「聴きもの」。
 

Herbie-hancockthe-piano

 
アナログディスク、いわゆるLPでのB面は、ハービー・ハンコックの自作曲集。こちらの方は、ハービー自らの作曲らしく、ハービーのモーダルな弾きっぷりが映えるアレンジと展開が備わっていて聴き応えがある。

B面2曲目の「Sonrisa」は、そんな中でも名曲名演。ハービーはスタンダード曲よりもファンクネスの濃い、ジャズ・ファンク志向の自作曲の方が、ソロ・ピアノの素材に合っているようだ。

ただ、このハービーのキャリアの中で唯一のアコピ一本のソロ・アルバムを聴いていると、ハービーって、ピアノ・ソロって、あんまり好きじゃなかったのではないか、と思う。ダイレクト・カッティング方式という「一発勝負」の録音環境と相まって、かなり安全運転的な弾き回しになっていて、ちょっと隔靴掻痒というか、何となく物足りなさを感じてしまう。

僕はこの盤を入手して以来、CDリイシューを入手してからも、LP時代のB面ばかりを聴いている。このB面の4曲には、辛うじて「ハービーらしさ」が詰まっている。ハービーらしさとは、理知的なモードと軽やかなファンクネス。このハービー唯一のソロ・ピアノ盤は、CDでの4曲目から7曲目が聴きもの。

そうそう、CDのボートラの8曲目以降はオミット。ハービーの『The Piano』は、LP時代の7曲だけで十分である。
 
 

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2024年1月19日 (金曜日)

良い音ハービー『Directstep』

ハービー・ハンコックのリーダー作の落穂拾い。当ブログで記事にしていないリーダー作はあるのか、と調べてみたら、まだまだあるんですね、これが。ハービーについては、評論記事のコンプリートを目指しているので、記事にしていないリーダー作を順に聴き直している。

Herbie Hancock『Directstep』(写真左)。1978年10月17–18日の録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (key, syn), Webster Lewis (org, syn, Rhodes, vo), Bennie Maupin (ss, ts, lyricon), Ray Obiedo (el-g), Paul Jackson (el-b), Alphonse Mouzon (ds), Bill Summers (perc)。

1978年、ハービー・ハンコックが来日時、新設のSME信濃町スタジオに入り、ダイレクト・カッティング方式で録音したアルバム。翌年1月に日本限定盤としてリリースされている。「ダイレクト・ディスク」と銘打って発売されていて、リリース間もなく入手した思い出がある(懐かしいなあ)。

ダイレクト・カッティングなので、収録曲は3曲のみ。収録時間は、それぞれ、1曲目7分・2曲目7分・3曲目15分。トータル29分という短さ。それでも当時は、ダイナミックレンジが広く音が良い、ピュア・オーディオ・ニーズに十分応えるアルバム(LP)だった。
 

Herbie-hancockdirectstep

 
間違いが許されない、やり直しの効かない「ダイレクト・カッティング」なので、演奏自体は「ちょっとユックリめのテンポの安全運転」なんだろうな、と聴き始めたが、意外と疾走感溢れる、ビートとグルーヴィーが効いた、ハービー流のジャズ・ファンクが流れてきたので、思わず、襟元を正して座り直して聴き直した。

クロスオーバー志向のジャズ・ファンクの色合いが濃く、ファンクネスはほどほど、演奏の切れ味と疾走感が心地良い。ポール・ジャクソンのエレベがソリッドなファンクネスを供給。当時、新加入のアルフォンス・ムザーンのドラミングがエグい。ウェブスター・ルイスのオルガンも格好良く、ベニー・モウピンのソロも決まっている。

ハービーも好調なキーボードを聴かせる。一発勝負の録音なのに、よくまあ複数台のシンセやキーボードを操るなあ、と感心する。それだけ精通しているのだろう。3曲目の「I Thought It Was You」はハービーのヴォコーダー・ヴォーカルが聴ける(ウェブスターのヴォコーダー・デュオです)。

今の耳で聴き直してみて、確かに、この音源は音が良い。スッキリとした音像でハービー流のジャズ・ファンクが疾走する様は、当時のクロスオーバー・ジャズの成熟度の高さを伝えてくれる。とにかく、判り易くてクールなハービー流のジャズ・ファンク。今一度、LPで聴き直してみたいなあ。
 
 

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2023年7月 6日 (木曜日)

『Other Side of Round Midnight featuring Dexter Gordon』

ブルーノート・レーベルの「85100 シリーズ」のアルバムを、カタログ順に整理している。「85100 シリーズ」は、ブルーノートが1979年に活動を停止した後、1984年、EMI傘下でジャズ・レーベルとして復活、復活後の最初の録音シリーズである。カタログ番号は、BT 85101〜BT 85141まで、途中空き番が1つあるので、全40枚の小規模な録音シリーズになる。

このシリーズは、ブルーノート復活後、ジャズ界では「純ジャズ復古」の時代に入っての録音シリーズなので、当時のメインストリーム志向の純ジャズの録音がズラリと並んでいる。中には、過去の音源の復刻もあったりするが、聴くべきは、この「純ジャズ復古」が始まった時点での純ジャズの音源である。中には、実に懐かしい盤もあって、全40枚、聴き直していて飽きることは無い。

『Other Side Of Round Midnight featuring Dexter Gordon』(写真左)。1985年7月1–12日、8月20–23日の録音。ブルーノートのBT 85135番。ちなみにパーソネルは、Dexter Gordon, Wayne Shorter (ts, ss), Freddie Hubbard, Palle Mikkelborg (tp), Herbie Hancock, Cedar Walton (p), Ron Carter, Pierre Michelot, Mads Vinding (b), Billy Higgins, Tony Williams (ds), Bobby McFerrin (vo), John McLaughlin (g), Bobby Hutcherson (vib) 等。

いやはや、懐かしい盤である。結構、御無沙汰していた。今回、ブルーノートの「85100 シリーズ」のアルバムを整理していて、この盤の存在を思い出した。20数年振りに聴いたことになる。いやはや、懐かしいことこの上無しである。この盤は、映画『ラウンド・ミッドナイト』のためのセッション中に録音された演奏から、アウトテイクや採用されなかった曲中心に編集したブルーノート盤。プロデュースはハービー・ハンコックとマイケル・カスクーナ。

実は、先行して、コロンビア・レコードから、Dexter Gordon『Round Midnight(Original Motion Picture Soundtrack)』(写真右)がリリースされている。同傾向、同内容のサウンドトラック盤である。

こちらの方は、サブタイトルにもある様に、映画で採用した演奏で固めたサウンドトラック盤。映画の映像のバックに流れるBGM的な演奏なので、ジャズの個性である即興演奏の自由度や展開の柔軟度が制限されている雰囲気が見え隠れする。どこか、窮屈な、躍動感が削がれた演奏がメインになっている様に感じていて、僕はあまり好きじゃ無い。
 

Other-side-of-round-midnight-featuring-d

 
逆に、ブルーノートからの『Other Side Of Round Midnight featuring Dexter Gordon』(写真左)は、収録された演奏について、かなり水準の高い演奏で固められている印象で、この盤まるごと、純ジャズ復古後の、当時の先端を行くハードバップ盤として聴いても、十分に鑑賞に耐える内容。

映画の主役を務めたデクスター・ゴードン(愛称・デックス)に敬意を表して、デクスター・ゴードン名義のアルバムになっているみたいだが、中身はそれぞれの曲でそれぞれのジャズマンが演奏を担当している「オムニバス形式」の内容。アルバムのタイトルを良く見たら「featuring Dexter Gordon」とある。デックスは4曲のみに参加。デックスのリーダー作として聴くのには無理がある。

演奏の基本はモード・ジャズ。1960年代前半のモード・ジャズをベースに、1980年半ばならではの「新しい響き」をしっかりと宿していて、どの曲も、1980年代のハードバップな演奏として、高水準のレベルを維持している。デックスもモーダルな雰囲気の演奏の中で、ゆったりとした吹きっぷりで、しっかりモードに対応しているのだから立派としか言い様がない。4曲しか参加は無いが、デックスのテナーは、どの曲でも素晴らしいパフォーマンスを披露している。

そして、ラストのハービー・ハンコックのピアノ・ソロ「Round Midnight」は絶品。ハービーのソロ・ピアノはなかなか聴くことは出来ないが、こんなパッション溢れるハービーのソロは聴いたことが無い。1980年代仕様のハービーの純ジャズなモーダル・ピアノ。思わず聴き入ってしまう。

サウンドトラックの『Round Midnight』を最初に手に入れて聴いて、う〜ん、なんだかなあ、という印象を持ったのが正直なところ。その後、この『Other Side Of Round Midnight featuring Dexter Gordon』を手に入れて聴いて、合点がいった次第。やはり、純ジャズの演奏には、即興演奏としての「自由度と柔軟度」は必須ですね。

映画の方は、ジャズ者にとっては、なかなか良い感じの、判り易い映画かと。デックスが主演で良い味出してます。僕は以前、レーザーディスクで所有していました。今ではBSでやっていたものをハードディスクに残して楽しんでいます。
 
 

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 ★ 松和の「青春のかけら達」

  ・四人囃子の『Golden Picnics
 

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2016年11月23日 (水曜日)

チックとハービーの連弾ライブ盤

最近、久し振りにこの連弾ライブのアルバムを聴いた。この連弾ライブのアルバムは同じツアーの音源から編集されたLP2枚組の2種類しか無い。その二人とは「Herbie Hancock & Chick Corea」。1978年2月、この2人は唐突に連弾ライブのツアーを敢行した。

1978年2月の頃は、ハービーのあの大人気となった「V.S.O.P.」での活動が一段落した頃。ジャズ界では「フュージョン・ジャズ」の人気がピークの頃。しかしながら、この大人気となった「V.S.O.P.」のお陰で、にわかに「アコースティック・ジャズ」が再び脚光を浴び始めた。その時流に乗った連弾ツアーだったのだろう。

日本でもこの連弾ツアーの様子はジャズ雑誌を通じて速報され、「当代二大人気ピアニストによる世紀の競演」などと大いに煽られ、この様子を捉えたライブ盤が出るとなった時には、レコード屋で予約を入れたほどである。僕は当時、ピッカピカのジャズ者1年生。この人気ピアニスト二人の連弾ライブは「取っ付き易かった」。

まずは『An Evening With Herbie Hancock & Chick Corea In Concert』(写真左)。1978年11月のリリース。当時、ハービーが所属していた大手レコード会社Columbiaからのリリースであった。LP2枚組のボリュームで、ジャケットも大手レコード会社ならではの整然としたもの。

こちらの連弾ライブは一言で言うと「バランスが良い」。ステレオで聴くと、左チャンネルがはービー、右チャンネルがチックである。Columbiaからのリリースなので、ハービーが前面に出た演奏を選んで選曲している様だが、ハービーばかりが目立ってはいない。バランス良く、ハービーとチック、半々に目立っている。

選曲も冒頭からの2曲「Someday My Prince Will Come」と「Liza (All the Clouds'll Roll Away)」という馴染みのあるスタンダード曲が収録されているので親しみ易い。さすが、大手のレコード会社Columbiaからのリリース。とにかくバランスが良い。よって、この2枚組LP、売れましたね〜。
 

Chickharbie_duo_live

 
もう一方は『CoreaHancock:An Evening With Chick Corea & Herbie Hancock』(写真右)。こちらは1979年のリリース。当時、チックが所属していたレコード会社Polydorからのリリース。タイトルをよく見ると、チックの名前がハービーの名前の前にある。ちなみに先のColumbia盤は、ハービーの名前がチックの名前の前にある。意外とどちらが前でどちらが後か、しっかり意識している。

加えて、こちらはColumbia盤に遅れて1979年のリリース。Columbia盤の人気に驚き、慌てて追いリリースした様でもあるLP2枚組。音源は1978年2月のライブでの公演ツアーでのものなのだが、当然、Columbia盤とは異なった日時での演奏である。後発リリースである。そりゃ〜当たり前やな。

こちらはPolydorレコードの意向なのか、チックが前面に出ている。明らかにチックが目立っている。選曲からしてそうだ。パルトークの「Mikrokosmos For Two Pnos, Four Hands': Ostinato」が収録さている。これはピアノのテクニックの優劣がモロに出る難度の高い楽曲である。この難曲を当時の若きチックはバンバン弾きまくる。相対するハービーもテクニシャンではあるが、この選曲は明らかに「チック持ち」である。

ラストの2曲、ハービーの「Maiden Voyage」、チックの「La Fiesta」の収録はColumbia盤と同じではあるが、演奏内容は全く異なる。こちらのPolydor盤では、明らかにチックが弾けている。ハービーも負けじと応戦しているが、このチックの弾け方には「お手上げ」の様子。

このPolydor盤は、明らかにチックを「贔屓」にした編集である。先のColumbia盤ではチックとハービーは拮抗していたから、やはり、この連弾ライブ、チックに有利、ハービーに不利だった感じがする。それ故なのか、この二人の連弾ライブは再結成されることは無かった。まあ、これだけ有名で優れたピアニストの二人である。再び、連弾ライブをする意義・意味・動機が無いんでしょうね。

 
 

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2016年6月30日 (木曜日)

続・ハービーのアレンジの才能 『The Prisoner』

このアルバムはなかなか手に入らなかった。今から40年前、ジャズを聴き始めた頃、ハービーのリーダー作1枚前の名盤『Speak Like a Child』は容易に手に入るのだが、このアルバムはどうにも手に入らない。ずっと懸案の様なアルバムだった。

そのアルバムとは、Herbie Hancock『The Prisoner』(写真左)。1969年4月の録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (key), Johnny Coles (flh), Garnett Brown (tb), Joe Henderson (ts, alto-fl), Buster Williams (b), Tootie Heath (ds), Tony Studd (b-tb), Hubert Laws (fl), Jerome Richardson (b-cl, fl), Romeo Penque (b-cl)。

部分的に、ハービーはエレピを弾いてはいるが、基本はアコースティック・ジャズ。楽器の構成を見渡すと、アルト・フルートやバス・トロンボーン、バス・クラリネット、フリューゲル・ホルンなどが採用されている。音の基本は、前作の名盤『Speak Like a Child』と同様、ハービーのアレンジの才を振るった、楽器のユニゾン&ハーモニーを活用したモーダルなジャズである。

聴いてみるとその印象は全く強くなる。前作『Speak Like a Child』と対をなす、姉妹盤の様な内容に惚れ惚れする。フリューゲルホーン、ベース・トロンボーン、アルト・フルートの3管アンサンブルの採用は、前作『Speak Like a Child』と全く同じ。しかし、前作の様なロマンチシズムは感じられない。

曲のタイトルを見渡すと「I Have A Dream」「The Prisoner」「He Who Lives In Fear」など、通常のジャズ曲のタイトルでは無い、社会派なタイトルである。 
 

The_prisoner

 
そう、このアルバムは、ハービーがマーティン・ルーサー・キングとその黒人市民権運動に触発されたものであり、録音の1年前、1968年に銃弾に倒れたマーチン・ルーサー・キングへのオマージュになっている。

前作の『Speak Like a Child』よりもホーンのアレンジの切れ味が良く繊細であるがゆえ、音がダイナミックに展開する。紛れもない、ハービーのアレンジの才、全開の傑作の一枚。モーダルな演奏で、音の幽玄な拡がりも魅力的。このアルバムが『Speak Like a Child』とは違って、なかなか入手するのに苦労したことが理解出来ない。

このアルバムは、ハンコックがマイルスのもとを離れて初めて作ったアルバムであり、このハービーのアレンジによるフリューゲルホーン、ベース・トロンボーン、アルト・フルートの3管アンサンブルのフロントを張るのは「マイルス」ではなかったのでしょうか。

マイルスはエレクトリック・ジャズに走りましたが、ハービーはこのアレンジを活かしたアコースティックなモード・ジャズをマイルスとやりたかったんやないかなあ、などど想像を巡らしたりします。

ジャケット・デザインがブルーノートらしからぬ、社会派的なデザインで、ハービーも当時流行のファッションに身を包んでおり、このジャケットからくる印象で、ちょっと損をしているのかもしれません。確かに、僕がこのアルバムを手にしたのは、1990年代後半でした。ルディ・バン・ゲルダーのブルーノート・リマスターが一般的になってからです。
 
 
 
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2016年6月28日 (火曜日)

若きハービーの矜持を感じる 『Inventions and Dimensions』

3年ほど前から、ハービー・ハンコックのリーダー作の聴き直しを進めてきたのだが、まだ、ブルーノート時代のリーダー作が2枚、このブログに記事として残していなかったので、今回「落ち穂拾い」のシリーズである。

今日はこのアルバム。Herbie Hancock『Inventions and Dimensions』(写真左)。1963年8月の録音。ブルーノートの4147番。ハービーの3枚目のリーダー作になる。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (p), Paul Chambers (b), Willie Bobo (ds), Osvaldo "Chihuahua" Martinez (per)。ピアノ・トリオ+パーカッション。

このアルバムの演奏を聴き通すと、このアルバムには、以前のアルバムにあったような、例えば「Watermelon Man」や「Blind Man, Blind Man」の様な、コマーシャルなファンキー・チューンが無い。徹頭徹尾、新主流派の音で充満している。モーダルでフリー気味な自由度の高い、アーティスティックなジャズで埋め尽くされている。

「Watermelon Man」や「Blind Man, Blind Man」のヒットのお陰で、ハービーも生活資金的にも一息ついたのであろう。この3枚目のリーダー作では、コマーシャルなファンキー・チューンでヒットを狙うこと無く、ジャズの未来を担うであろう若き有望なジャズメンとして、当時のジャズの最先端を目指している。
 

Inventions_and_dimensions

 
このハービーの姿勢に、ハービーのジャズメンとしての「矜持」を強く感じる。ハービーの才をもってすれば、コマーシャルなファンキー・チューンで再びヒットを狙うことだって出来たであろう。しかし、それをせずに、モーダルでフリー気味な自由度の高い、アーティスティックなジャズを目指し、それを体現する。これぞ、選ばれしジャズメンの理想的な姿であろう。

このアルバムをプロデュースしたブルーノートの総帥、アルフレッド・ライオンもふるっている。こんなに、徹頭徹尾、新主流派の音、モーダルでフリー気味な自由度の高い、アーティスティックなジャズで埋め尽くされたアルバムが、ヒットするとは思えない。もしかしたら、ディープなマニアックなジャズ者だけが触手を伸ばすだけの「売れないアルバム」になる可能性が高い。

それでも、ブルーノートの総帥、アルフレッド・ライオンは、このアルバムをこの内容でリリースする。しかし、だからこそ、僕達は21世紀になった今でも、この音源を通じて、1963年の若きハービーのモーダルでフリー気味な自由度の高い、アーティスティックなジャズを追体験することができるのだ。ライオンの英断に感謝である。

このアルバムは、ジャズの革新的な部分をガッツリと聴かせてくれる。そして、若きハービーの「ジャズの後を継ぐ者」としての矜持を感じることが出来る。決して、このアルバムの音は優しくないし、聴き易く無い。しかし、アートとしてのジャズがばっちりと記録されている。
 
 
 
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2015年11月19日 (木曜日)

硬派でモードでアートなハービー 『Empyrean Isles』

1960年代から1970年代初頭まで、アルバムで言うと、1973年の『Head Hunters』まで、ハービー・ハンコックの作品はアカデミックで硬派な内容が主流だった。

この『Head Hunters』以降の、ファンキーでキャッチャーなエレ・ハンコック路線の印象が強いので、ハービーはポップなジャズメンという印象になりがちだが、どうして、ハービーの駆け出しから若手の頃のアルバムは、意外とアカデミックでスピリチュアルな内容が主流なのだ。

特に、ハービーの駆け出しから若手の頃のブルーノート・レーベルでのリーダー作はその傾向が強い。ブルーノート・レーベルでの諸作には、必ず一枚に一曲、ファンキーなポップ・チューンが入っていて、その曲の印象があまりに強いので、どうしてもハービーはポップなジャズメンという印象になってしまうのだが、他の曲はバリバリ硬派でアートな内容で占められている。

例えば、このアルバムが代表的な例だろう。Herbie Hancock『Empyrean Isles』(写真左)。1964年6月の録音。ブルーノートの4175番。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (p), Freddie Hubbard (cornet), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。コルネットのハバードが一管のカルテット構成。後のV.S.O.P.クインテットからショーターを引いたカルテットである。

1993年、US3がサンプリングして「アシッド・ジャズ」としてヒットさせた、ファンキー・チューン「Cantaloupe Island」のオリジナル演奏が入っているので、このアルバムはハービーの代表作の一枚として、ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌などに必ず紹介される有名盤である。
 

Herbie_hancock_empyrean_isles

 
が、しかしである。この『エンピリアン・アイルズ』の内容は、決して易しい内容では無い。恐らく、ブルーノート・レーベルに残したリーダー作の中でも、一二を争う「硬派でアートでスピリチュアル」な内容なのだ。冒頭の「One Finger Snap」も、テーマのユニゾン&ハーモニーはまだポップでキャッチャーだが、アドリブ部に入ると、パッキパキの難度の高いモーダルなジャズに大変身。

2曲目の「Oliloqui Valley」は徹頭徹尾、モーダルなジャズで終始し、メンバーそれぞれ、あらん限りのテクニックを尽くして、これでもか、という感じでモーダルなフレーズを繰り出す繰り出す。これが、まあ、ジャズ者初心者にとっては何が何だか判らない(笑)。逆に、モード奏法を駆使した「モーダルなジャズ」を体験するには最適な曲のひとつと言える。

3曲目の有名曲「Cantaloupe Island」のファンキーなテーマを聴いてホッとするのもつかの間、アドリブ部に入ると、やっぱり「硬派でアートでスピリチュアル」な内容に大変身。思いっきりアーティスティックで硬派でスピリチュアルなインプロビゼーションが展開される。聴き応え十分だが難解でもある。

そしてラストの「The Egg」。完全にスピリチュアルでフリーなジャズになる。それも間を活かしたモーダルな内容のフリー・ジャズ。間を活かしたセシル・テイラーを聴く様だ。どこまでフリーな演奏が続くのだ、と思って聴いていると、フリーな演奏のまま終わってしまうビターな内容。

このアルバムをジャズ者初心者向けのアルバムとして紹介するのはちょっと問題でしょう。アカデミックで硬派な内容は難解であり、ビターな音世界である。逆に、モーダルなジャズを体感するのには最適、加えて、アコースティック・ハンコックの本質を理解する上で最適な盤だと思います。さすがはブルーノート・レーベルの総帥、アルフレッド・ライオン。貴重な音源を残してくれました。

 
 

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