2024年7月18日 (木曜日)

チックのソロ傑作 ”Expressions”

チック・コリア。我が国においては、1980年代以降のリーダー作については、概ね不当な評価を受けていた様に思う。

純ジャズ志向、メインストリーム志向のジャズをやれば、持ち味が全く違う両者を比較して、キースの方が圧倒的に優れている、とか、適当に手を抜いて、ウケ狙いで弾いているなどという、もはや、これは客観的な評価では無い、個人的な言いがかりとしか思えない、酷い評論もあった。

エレ・ジャズ中心のコンテンポラリーなジャズをやれば、1970年代の「リターン・トゥ・フォーエヴァー」の二番煎じ、汗をかいていないなど、本当にこう評価する人って、アルバムをちゃんと聴いているのか、と思える、嘆かわしい評論もあった。プロのミュージシャンの対しても失礼だろう。

しかし、チック者の方々、ご安心あれ。現代の第一線で活躍する中堅から若手のピアニストについては、チックのピアノの「良き影響」をこぞって語っている。チックのピアノの個性のフォロワーと思われるフレーズを弾きまくる優れたピアニストもいて、長年、チック者をやってきた我々にとっては溜飲の下がる思いである。

Chick Corea『Expressions』(写真左)。February 1994年2月、ロスの「Mad Hatter Studios」での録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p) のみ。当時のチックの正式盤としては、1971年、ECMからの『Piano Improvisations Vol.1&2』以来、13年ぶりのソロ・ピアノの録音。しかも、チックとしては、当時、珍しいジャズ・スタンダード曲や、ミュージシャンズ・チューンを選んで弾きまくったソロ・ピアノ盤になる。

スイング・ジャーナル誌の「1994年度ジャズディク大賞の金賞作品」であるが、この受賞についても、口の悪い評者は「この年のジャズ盤は不作だった」とこの快挙を一蹴する。自分の好みにあった優れたアルバムが無かっただけだと思うのだが、こういう個人的見解に偏った評価は良くない。ジャズ者初心者だとその酷評を鵜呑みにして、この傑作を聴き逃す可能性がある。

さて、このチックのソロ・ピアノ盤『Expressions』は傑作である。十分に用意周到に準備された好パフォーマンスの数々。破綻などある訳が無し、変な展開も無い。チックの個性の全てを動員して、高テクニックで歌心溢れるソロ・ピアノを聴かせてくれる。
 

Chick-coreaexpressions_20240718194301

 
もともとチックはその時その時のジャズのトレンドに迎合することは無い。意外とチックは「我が道を行く」タイプで、これは師匠格のマイルスのスタイルとよく似ている。

その都度、自分のやりたいことをやる。それがチックのスタンスでありながら、このソロ・ピアノ盤については、なぜ、1994年にソロ・ピアノなのだ、という向きも多々ある。アーティストがやりたいことをやっているのだ、評論家を含め我々素人が、とやかくいうことでは無いだろう。

このソロ・ピアノ盤『Expressions』は、これまでの、アコースティック・ピアノを弾くチックの集大成的位置付けの内容。ミュージシャンズ・チューンはやはりセロニアス・モンクやバド・パウエル。チックのこだわりを感じる。スタンダード曲もチックの個性がはっきりと反映され易い曲を選んでいるようだ。この選曲にも、チックの用意周到さを感じる。

どの曲の演奏にも、チックの個性と特徴が明確に現れる。用意周到であまりにスムーズな展開に、チックは適当にリラックスして、本気で弾いていない、なんていう失礼な評論もあったように記憶するが、それも的外れ。チックは本気で弾いている。アコースティック・ピアノを弾くチックの集大成的位置付けの内容なのだ。適当に流して弾くなんてありえない。

ジャズ・ピアノストの個性は「ソロ・ピアノ」を聴くのが一番、と思うが、チックについては、1971年、ECMからの『Piano Improvisations Vol.1&2』、1982年録音の『Solo Piano: From Nothing』、そして、この『Expressions』の4枚を聴けば、チックのジャズ・ピアノの凡そが理解できる。それほど、この『Expressions』は完成度が高い。

チックは決して、売れ線狙いの「商業主義」に偏ったジャズマンでは無い。このソロ・アルバムを聴けば、それが良く判る。その時その時で、やりたいジャズを誠実に真摯にやる。それが純ジャズ志向であったり、コンテンポラリーなニュー・ジャズ志向であったり。それが「カメレオンの様に志向がコロコロ変わる」という印象を与えるのか。それでも、どちらの志向のリーダー作も高度な内容とチックの個性を伴ったものだから、バラエティーに富んだ演奏志向に文句をつける方がおかしい。

1980年代以降の我が国もチックに対する評論には問題が多いが、各国の現代の第一線で活躍する中堅から若手のピアニストは、チックのピアノの「良き影響」をこぞって語り、チックのピアノの個性のフォローする。これが何よりの証拠だろう。1980年代以降のチックについても安心して聴いて欲しいと思う。ジャズはやはり、最後は自分の耳で聴いて、自分の耳で判断するのが一番良い。

 

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2024年7月14日 (日曜日)

チックが一番「尖った」ソロ

チック・コリアのソロ・ピアノの落穂拾い。残すは5枚。チックの真の実力とピアニストとしての力量が如実に判る、1980年代以降、チックがジャズ・ピアノのスタイリストの一人として、その個性と実力を確立した後のソロ・ピアノ盤の数々。チックを確実に語る上では避けて通れないソロ・ピアノの数々。

Chick Corea『Solo Piano: From Nothing』(写真左)。1982年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p, syn) のみ。チック・コリアのソロ・ピアノ盤。1971年、ECMからの『Piano Improvisations Vol.1&2』以来、11年ぶりのソロ・ピアノの録音。しかし、録音当時は「お蔵入り」。リリースの陽の目を見たのは、1996年になる。

このソロ・ピアノは聴くと、大体のジャズ者の方々は「ビックリする」と思う。チックのロマンティシズム溢れるリリカルで耽美的なソロ・ピアノを期待す向きからすると、絶対に「椅子から落ちる」。

なんせ、チックが一番「尖った」方向に振れたソロ・ピアノ。録音当時は「お蔵入り」にしたのは理解できる。録音当時、無理してリリースする必要のない、特殊な内容のソロ・ピアノである。1996年にチックのStretchレーベルからリリースされたが、我々「チック者」としては、よくぞリリースしてくれたと思う。

新ウィーン楽派を彷彿とさせる、不協和音の展開、解決しないフレーズ、歌心を排除する旋律、複雑な変拍子の採用、と、フリー・ジャズに走るのではない、現代音楽志向に尖った、とてもシビアで前衛的な内容。アントン・ウェーベルン、アーノルド・シェーンベルグのピアノ作品を想起する。
 

Chick-coreasolo-piano-from-nothing

 
この現代音楽志向、新ウィーン楽派志向の尖ったソロ・パフォーマンスを聴くと、チックのピアノ・テクニックの凄さと、即興展開に対する高い対応能力をビンビンに感じる。現代音楽志向に走りながらも、ピアノの即興展開には破綻や緩みは全く無い。堂々とした弾きっぷりである。

チックの硬質でアタックの強いタッチで、ハイ・テクニックな弾き方ができるからこそ対応できる、現代音楽志向のパフォーマンスの数々。ジャズ・ピアノの世界で、現代音楽志向のジャズを前提としたソロ・ピアノを弾きこなすピアニストはチックの他にはいない。

このソロ・ピアノ盤は、一般のジャズ者の方々には、まず必要が無い、と思う。それほど、現代音楽志向に真摯に対峙して、怯むところが全く無い、どころか、現代音楽志向の弾き回しを自家薬籠中にした様な、ガチに「尖った」ソロ・パフォーマンスである。

ただし、我々の様な「チック者」が、チックのピアニストとしての資質と能力、そしてテクニックについて、他のジャズ・ピアニストとの、明確な「差異化要素」を見出すのに、大いに役立つソロ・ピアノ盤である。

いかに、チックがジャズ・ピアニストとして、並外れた資質と能力、そしてテクニックの持ち主であったか、このソロ・ピアノを聴くと、その一端を随所に感じる。
 
 

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2024年7月 6日 (土曜日)

1990年代のチックの純ジャズ

僕の永遠のお気に入りのピアニストの一人、チック・コリア。ラジオのFMから聴こえてきた「Now He Sings Now He Sobs」。なんだこれは、このピアノは何だ。これがチック・コリアのピアノとの出会いである。今を去ること半世紀前。

チックが2021年2月に急逝して早3年。この世にいなくなっても、チックの音は残っている。リーダー作の記事化のコンプリートを目指しているが、まだ10数枚が残っている。

今、1990年代以降のリーダー作の落穂拾いをしているが、この時代のチックのリーダー作は押し並べて、評論家筋からは評価が低い。しかし、何を基準にして評価が低いかがよく判らない。よって、自分の耳で聴いて、その真偽を明らかにしていきたい。

Chick Corea『TIme Warp』(写真左)。1995年8月のリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), John Patitucci (b), Gary Novak (ds), Bob Berg (sax)。マイケル・ブレッカーを迎えた1981年のスタジオ録音『Three Quartets』以来、14年ぶりのホーン入りカルテットの録音になる。

チックが考案した「Time Warp」というストーリーに基づくコンセプト・アルバム。1960年代末から1970年代半ばの「プログレッシヴ・ロックのアルバムによくあったもので、ジャズの世界では珍しい。が、意外とこれがよくまとまっているから、チックの作曲&アレンジ能力の高さに、毎度ながら驚く。

チックはアコースティック・ピアノのみでガンガン攻めている。ベースには、当時の盟友、ジョン・パティトゥッチ、ドラムには、セッション・ドラマーのゲイリー・ノヴァクが参加している。
 

Chick-coreatime-warp

 
ドラムがセッション・ドラマーなので、このチックのリズム・セクションってどうなのかなあ、と、聴く前に不安になったのだが、それは杞憂だった。十分にハイテクニックで流麗、バッチリ尖った硬質のリズム&ビートが良い。ノヴァクのドラミング、良い。

そして、そんなチックのリズム隊をバックに、ボブ・バーグがネオ・ハードバップなサックスを吹きまくる。もともと、新しい感覚のネオ・ハードバップな吹奏が個性のボブ・バーグだが、この盤では、その「新しい感覚」と、ネオ・モーダルな、新しいイメージのモーダルなアドリブ・フレーズをブイブイ言わせている。ボブ・バーグのベスト・プレイの一つがこの盤に記録されている、と言って良いかと思う。

このボブ・バーグの新しい感覚のサックス・プレイを引き出しているのが、チック率いるリズム・セクションであり、チックの繰り出す「鼓舞するフレーズ」の嵐である。

と言って、ガンガン、フロントを攻めるのではない、フロントの個性をより輝かせ、新しい個性を引き出す様な、新しい感覚のバッキング。チックの繰り出す創造的なフレーズが、フロントのボブ・バーグのサックスを良い方向に刺激している。

このコンセプト・アルバム、イラストのジャケットの印象が、クロスオーバー&フュージョン志向のジャズを想起させるので、確実に損をしているが、この盤に詰まっているのは、1990年代のネオ・ハードバップであり、ネオ・モードであり、バッキングに優れたチックのパフォーマンスであり、それに応えるボブ・バークのベスト・プレイ。

1990年代のチックのディスコグラフィーの中で、この盤だけが突出した「メインストリーム志向のコンテンポラリーな純ジャズ」。4ビートなノリは皆無だが、1990年代のチックの考えるネオ・ハードバップ盤として、十分、評価できる佳作だろう。
 
 

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2024年6月12日 (水曜日)

チックの異色盤『Septet』です

僕は「チック者」である。チックを初めて聴いたのが、1970年代半ばだったから、2021年2月9日に逝去するまで、かれこれ既に半世紀、チックをずっとリアルタイムで聴き続けてきたことになる。

よって、チックのリーダー作については、当ブログで全てについて記事にしようと思っている。現時点で、あと十数枚、記事にしていないアルバムがある。今日は、その中の「異色作」について語ろうと思う。

Chick Corea『Septet』(写真左)。1984年10月、L.A.の「Mad Hatter Studios」での録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Steve Kujala (fl), Peter Gordon (french horn), Ida Kavafian, Theodore Arm (violin), Steven Tenenbom (viola), Fred Sherry (cello)。

チックのピアノ、クジャラのフルート、ゴードンのフレンチ・ホルンに加えて、弦楽四重奏が入った七重奏団=「Septet」。ECMレーベルらしいコンセプト盤だが、この盤のプロデューサーは、ECMの総帥マンフレート・アイヒャーでは無く、チック・コリア自身。録音スタジオは、チックの「マッド・ハッター・スタジオ」。

アルバムのコンセプトはECMの理念に沿う、しかし、その音作りはチック自身に任せる。アイヒャーとしては思い切ったことをした。
 

Chick-coreaseptet

 
しかし、この盤に詰まっている音は、明らかに「ECMミュージック」であり、アイヒャーイズムの音作りである。逆に、チックの自己プロデュース能力の高さを再認識する。

さて、その内容であるが、弦楽四重奏が入っているので、雰囲気は明らかにクラシック。しかし、それぞれの曲には、チック独特のフレーズ、チックらしい硬質でメロディアスなタッチが随所に聴くことが出来て、伝統的なクラシックの七重奏という雰囲気では無い。

とにかく、チックのピアノが映えに映えていて、この盤の七重奏は、チックのソロ・ピアノに、フルートとフレンチ・ホルンと弦楽四重奏がクラシックなバッキングをすることにより、よりチックのソロ・ピアノが引き立つ、そんな感じの音作り。クラシック風ではあるが、純粋なクラシックでは無い。

チックの個性を反映した、チックの優れた「作曲&編曲」の才能の成果がこの『Septet』。クラシック寄りの即興のピアノ・ソロに一捻り加えた、チックの考える「ECMミュージック」がこの盤に詰まっている。

ECMレーベルだからこそ成し得た、チックの考える「ECMミュージック」。アイヒャーの期待に応えたチックの「作曲&編曲」の才能。一期一会、唯一無二な音世界。チック者にとっては、外すことの出来ない「異色盤」です。
 
 

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2024年6月11日 (火曜日)

チック名盤『Children’s Songs』

チック・コリアのリーダー作の「落穂拾い」。当ブログに、まだ記事化していないチックのリーダー作を順に聴き直している。意外とソロ・ピアノ集が多く、記事化されていない。あまり興味が湧かなかったかとも思ったのだが、聴き直してみると、どのアルバムもチックの個性が散りばめられていて、聴き応えのあるものばかりである。

Chick Corea『Children's Songs』(写真左)。1983年7月の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p) のみ。チック・コリアのソロ・ピアノ集。ラストの「Addendum」にのみ、バイオリニストのイダ・カヴァフィアンとチェロ奏者のフレッド・シェリーが参加している。

チック作の優れた小曲「Children's Song」を一枚のアルバムに集めた企画盤。チックいわく「子供の精神に表れる美しさとして、シンプルさを伝えること」を目指した小曲が「Children's Song」。"No.1"から"No.20"まで、全20曲。

うち、ゲイリー・バートンとのデュオ盤『Crystal Silence』に1曲、同じ曲のグループ演奏バージョンは、Return to Foreverの『Light as a Feather』にも収録、続いて『Duet』に4曲、収録されている。また、"No.5"と"No.15" のグループ演奏バージョンは、チックの『Friends』に収録されている。
 
そして、”No.3”は、Return to Foreverの『Hymn of the Seventh Galaxy』の「Space Circus Part I」のモチーフであり、”No.6”は、Return to Foreverの『Where Have I Known You Before』の「Song of the Pharoah Kings」のメインとなるフレーズ。”No.9"は、チックのソロアルバム『The Leprechaun』の「Pixieland Rag」として収録されている。
 

Chick-coreachildrens-songs
 

つまり、全20曲中、半数の10曲が、このチックのソロ・ピアノ盤『Children's Songs』に収録以前に、チックのアルバムに収録された曲のベース、もしくはモチーフになった、チックの個性を彩る、独特のフレーズの「源」となっている。つまり、この小曲集は、チックの個性を理解する上で、重要な意味を持つソロ・ピアノ集である。

ラストの、バイオリンとチェロとの「Addendum」は、明らかにクラシック音楽の範疇の演奏になるが、対位法を活用した、チックの卓越した、弦楽のためのスコア作成能力が遺憾無く発揮されている。これは、後のアルバム『Septet』に繋がる演奏になっている。
 
バルトーク・ベーラを大きな影響を受けたと語るチック。この「Children's Song」と名付けられたそれぞれの小曲は、バルトークの「ミクロコスモス」シリーズの、チックなりの解釈、とされる。

確かにそう感じるが、そんな難しい解釈無しに、このチック独特の美しい旋律に彩られた小曲は、チックの様々なニュアンスを湛えた、耽美的でリリカルな、硬質で切れ味の良いタッチで、美しく唄うが如く、淡々と弾き進められていく。

未だ色褪せないチックのソロ・パーフォマンス、そして、チックの作曲能力。この『Children's Songs』、チック者には必須アイテムだと再認識した次第。ピアノ・ソロの名盤の一枚です。
 
 

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2024年6月10日 (月曜日)

セクステットのための抒情組曲

チック・コリアのピアノとゲイリー・バートンのヴァイブは凄く相性が良い。ジャズ特有のファンキー色を限りなく押さえ、ブルージーでマイナーな展開を限りなく押さえ、硬質でクラシカルな響きを前面に押し出し、現代音楽の様なアブストラクトな面を覗かせながら、メロディアスで流麗なフレーズを展開する。楽器は違えど、音の性質は同類の二人。

Chick Corea & Gary Burton『Lyric Suite For Sextet』(写真左)。1982年9月の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Gary Burton (vib), ここに「弦楽四重奏団」がバックにつく。ECMレーベルらしい、即興演奏をベースにした、欧州ジャズらしい、透明度の高いリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏。

邦題が「セクステットのための抒情組曲」。これがいけない。バックに「弦楽四重奏団」がついているので、余計にクラシック音楽の匂いがプンプンする。僕も最初、このアルバムがリリースされた時には、コリア&バートンのデュオはクラシックに手を染めたのか、と思った。よって、リリース当時はこのアルバムを聴くことは無かった。

が、リリース後10年。やっと聴いたら、あらまあ、しっかりと、コリア&バートンの「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏が展開されている。
 

Chick-corea-gary-burtonlyric-suite-for-s

 
「弦楽四重奏団」は、コリア&バートンのデュオ演奏をさらに引き立てる、優れたアレンジによるサポートの役割を担っている。この「弦楽四重奏団」のサポートが非常に優れていて、コリア&バートンのデュオ・パフォーマンスを更なる高みに誘っている。

パート1〜7まで、7つのパートに分かれた「組曲」風の収録曲も、クラシック音楽を想起させて、これもいけない。しかし、何か確固たるテーマを持った、一連の曲の連続という風でも無い。

チックの手になる、バートンとのデュオを前提とした秀曲の数々。どう聴いても、クラシックの「組曲」を想起するものではないだろう。透明度の高いリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏を引き立てる秀曲揃い。

ECMレーベルだからこそ成し得た、即興演奏をベースにした、欧州ジャズらしい、透明度の高いリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のコリア&バートンの優れたデュオ演奏。

欧州ジャズらしい、というところに、「クラシック」っぽい響きを感じるかもしれないが、このデュオ演奏は、ECMレーベルの「ニュー・ジャズ」のジャンル内の優れたパフォーマンスの記録。意外と好盤です。
 
 

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2024年2月 9日 (金曜日)

最高の「92年ブルーノート東京」

チックが主宰する「ストレッチ・レーベル」からリリースされた(当時は日本だけでの発売だったと記憶している)、自主制作盤っぽいリーダー作は秀作ばかり。なぜ正式盤としてリリースしなかったのか不思議。大手レーベルは、チックの昔の録音はリリースしても売れない、とでも思っていたのだろうか。今ではどの盤も廃盤状態なので、中古を探すしかない。勿体ないことである。

Chick Corea Akoustic Band『Live From The Blue Note Tokyo』(写真左)。1992年11月、ブルーノート東京でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), John Patitucci (b), Vinnie Colaiuta (ds)。アコースティック・バンド名義だが、ドラムはデイヴ・ウェックルではなく、ロック、フュージョン畑のヴィニー・カリウタを日本に連れてきている。

もともと、チックのアコースティック・バンドは、当時の先端を行く、メインストリーム志向のトリオである。特にリズム隊、パティトゥッチのベース、ウェックルのドラムが素晴らしい。正確無比、超絶技巧、ダイナミズム&疾走感溢れる縦ノリのスインギーなリズム&ビート。その極上のリズム隊に乗って、これまた当時の先端を行く、チックのメインストリーム志向のアコピ&エレピ。
 

Chick-corea-akoustic-bandlive-from-the-b

 
しかし、このブルーノート東京でのライヴでは、ヴィニー・カリウタが、ウェックルの代役でドラムを担当している。このカリウタが凄い。野生児のごとく、バッシバッシとラフにポリリズムを叩きまくる。荒々しいだけかと思いきや、硬軟自在、緩急自在に、柔軟にダイナミックに縦ノリのスインギーなリズム&ビートを叩き出す。これが、まず、パティトゥッチのベースに「化学反応」を起こしている。

いつになく、アグレッシヴに流麗に唄うがごとく、踊るがごとく、ウォーキング・ベースをブンブンに弾きまくる。これが、カリウタの野生児ポリリズムと共鳴して、うねるような縦ノリ・グルーヴを生み出している。そして、そこにチックのアコピ&エレピが入ってくる。極上のチックのパフォーマンスが繰り広げられる。

この1992年のブルーノート東京でのライヴ・パフォーマンスは、ウェックルがドラムのアコースティック・トリオと合わせて、チックのトリオの最高の部類だと思う。明らかに、チックのピアノ・トリオは進化している。このライヴ盤には、1990年代チックのピアノ・トリオの代表的名演が詰まっている。
 
 

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2024年2月 8日 (木曜日)

名演 Live From Country Club

アコ・チックのアルバムを聴き直していて、チックが主宰する「ストレッチ・レーベル」からリリースされた(当時は日本だけでの発売だったと記憶している)、自主制作盤っぽいリーダー作が複数枚出ているのに、改めて気がついた。そして、この盤の内容がどれも優れている。順に全アルバムを聴き進めて、思わず聴き惚れてしまった。

Chick Corea『The Trio: Live From Country Club』(写真左)。1982年10月、カリフォルニア州のライヴハウス「Country Club」での録音。1996年11月、チックが主宰するStretchレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Miroslav Vitous (b), Roy Hayes (ds)。パーソネルから判るように、『Now He Sings, Now He Sobs』(1968年)の優れものトリオの再会ライヴの一枚。

ストレッチ・レーベルからのリリースの一枚。『Now He Sings, Now He Sobs』(1968年)の優れものトリオの、1980年代の再会盤については、ECMレーベルから2枚のアルバムが正式盤としてリリースされている。この盤は私家録音を発掘、その内容が優れていたので、急遽、リリースに至った盤。日本での限定リリースらしく、音源のレア度は高い。
 

Chick-coreathe-trio-live-from-country-cl

 
内容的には、ECMレーベルから正式にリリースされた2枚のアルバムに比肩する、もしくは、部分的に優れた、なかなかの内容である。さすが『Now He Sings, Now He Sobs』を生み出した3人である。この盤では、1980年代仕様の最高のピアノ・トリオのパフォーマンスが記録されている。この盤では、ECM盤には無いピアノ・ソロ、ピアノ&ベースのデュオ、ドラム・ソロが含まれてい、てより一層内容が濃い。

チックについては、1960年代、1970年代と比べて明らかに進化している。チックならでは、モーダルで個性的なフレーズを、軽やかに流麗にバリエーション豊かに弾きまくり、1970年代には封印していたフリーなソロを再び披露している。しかも、それが昔のイメージを踏襲するのではなく、新しいチックならではのアプローチで、チックとして新しいイメージの、フリーなフレーズをバンバン叩き出すチックは聴き応え十分。

この盤は、ECMレーベルから正式にリリースされた2枚のアルバム同様、『Now He Sings, Now He Sobs』の再現セッションの記録では無い。1980年代の最先端を行く、チック・ヴィトウス・ヘインズのピアノ・トリオの素晴らしいパフォーマンスの記録である。3人とも過去を全く振り返っていないことに、彼ら同一の強い「矜持」を強く感じる。でもなあ、ジャケはもうちょっとマシなものにならなかったのだろうか(笑)。
 
 

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2022年11月29日 (火曜日)

エレ・チックの未発表ライブ音源

チックが亡くなって、1年と10ヶ月が過ぎようとしている。チックが亡くなったのって、遠い昔みたいに感じるのだが、チックが亡くなって、まだ2年経っていないんやね。と思っていたら、最近、サブスクサイトに、チックの未発表音源がちょくちょくリリースされているのに気がついた。なんで生前に正式盤としてリリースしなかったのか、と思う、内容の充実した音源ばかりで、さすがはチック、演奏の出来にバラツキが無かったんやなあ、と改めて感心している。

Chick Corea『Live Under The Sky ’79』(写真左)。1979年7月27日、田園コロシアムでのライヴ録音。オフィシャル級のステレオ・サウンドボード録音にて収録らしい。確かに音はまずまず良い。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (key), Tony Williams (ds), Al Di Meola (g), Bunny Brunel (b)。「Live Under The Sky 1979」に向けて、特別に組成したカルテット編成。

チックのアグレッシヴでプログレッシヴなシンセの弾きまくりに、ディメオラが調節技巧エレギで応戦。チックとディメオラのバトルを、これまたアグレッシヴでポリリズミックで叩きまくりのトニーのドラムが煽りに煽る。これだけでも凄い迫力なのだが、ここに、バニー・ブルネルの重量級エレベが参戦、さらにその「ど迫力」に拍車をかけている。
 

Chick-corealive-under-the-sky-79

 
冒頭の「Night Street」、チックのソロ盤『My Spanish Heart』からの選曲なのだが、ディメオラ、トニー、ブルネルが演奏し慣れているが如く、疾走感溢れる弾きまくりである。チックとディメオラのフロントで、ど迫力のユニゾン&ハーモニー。どんだけ音が分厚いのか。そこに、マシンガンの如く、トニーのドラムが「ドドドドド」と迫り来る。そして、ブルネルのエレベがブンブン鳴り響く。

収録曲も魅力的。チックのファンであれば、タイトルだけ見ても「痺れる」曲がズラリと並ぶ。「All Blues」から「Senor Mouse」〜「Spain」には聴き惚れるばかり。そして、ディメオラのソロから、チックが参戦してデュオになり、トニーのドラムとブルネルのベースが入って来たな、と思ったら「Isfahan」に突入する。どの曲の演奏も素晴らしい「ど迫力」。生で聴きたかったなあ。ラストのチックのソロも絶品。チック者には堪らない。

ブートとして一部のマニアだけが聴けるだけなのは惜しい。こんな未発表音源が他にもあるのなら、もっと正式盤でリリースして欲しい。実は、チックのアコピのコンサートには何度か足を運んだが、エレピのチックは生で体験したことが無い。チックのエレピが聴ける、クロスオーバー〜フュージョン志向のエレ・チックのライヴ音源があるのなら、なおさらである。
 
 

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2022年11月24日 (木曜日)

Return to Foreverのラジオ音源

Return to Forever(リターン・フォー・エヴァー・以下RTFと略)のブート音源はあまり見かけ無いのですが、今回、音源のサブスク・サイトにアップされてきた音源を見つけた。エレクトリック化したRTFの、ギターが、ビル・サマーズからアル・ディ・メオラに変わったばかり、『Where Have I Known You Before(邦題 : 銀河の輝映)』を録音したばかりの時期のライヴ音源である。

Return to Forever『Alive In America』(写真左)。1974年8月8日のライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (key), Stanley Clarke (b), Al Di Meola (g), Lenny White (ds)。コロラド州デンバーのエベッツ・フィールドのラジオ放送の音源とのこと。ラジオ音源なので、意外と音が良い。

冒頭「Beyond The Seventh Galaxy」から「Vulcan Worlds」〜「The Shadow Of Lo」〜「Where Have I Known You Before」と、『Where Have I Known You Before(邦題 : 銀河の輝映)』に収録されている楽曲が迫力あるパフォーマンスで展開される。たった4人の演奏とは思えない、ど迫力の分厚い演奏にちょっとビックリする。メンバーそれぞれの演奏能力の高さが窺い知れる。
 

Return-to-foreveralive-in-america

 
特に、さすがはチック、キーボードの演奏力はずば抜けている。当時、エレキの演奏といえば、プログレッシブ・ロックだが、プログレのキーボード演奏などとは比べものにならない、切れ味の良い高度なテクニック、迫力ある分厚い音、官能的に歪んだ音、疾走感溢れる弾き回し。とにかく、キーボードのテクニックが凄い。なるほど、当時、エレ・マイルスが愛したキーボーダーである。

このライヴ音源には、メンバー各人のロング・ソロが入っている。その中でも、スタンリー・クラークのエレベのソロ・パフォーマンスが「ど迫力」。レニー・ホワイトのドラム・ソロも意外と聴き応えがある。チックのソロは曲目のタイトルに無いが、ラストの「Song to the Pharoah Kings」で、チックのキーボードがふんだんにフィーチャーされている。ディメオラのソロはとにかく超絶技巧。あまりに超絶技巧で聴いていて飽きてくる(笑)。

ただし、このメンバー各人のソロは、それぞれの楽器のパフォーマンスに興味のある向きには聴き甲斐があるが、一般のジャズ者の方々には、ちょっと冗長かもしれない。それを考えると、このライヴ音源って、ちょっと趣味性が高い。そこを勘案して、このライヴ音源を鑑賞していただきたい。当時のRTFの演奏力のずば抜けた高さをダイレクトに実感出来る内容で、聴き応えは十分です。
 
 

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