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2017年9月 4日 (月曜日)

エバンス者のマストアイテム盤

ビル・エバンスの未発表音源って、エバンス逝去後37年が経っているのに、まだまだ出てくる、出てくる。昨年『Some Other Time : The Lost Session From The Black Forest』が出た。1968年6月15日にライヴ録音された名盤『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』の5日後、1968年6月20日、ドイツでのスタジオ録音だった。

そして、である。今年は、Bill Evans『Another Time : The Hilversum Concert』(写真左)が出た。これは『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』のちょうど一週間後、先の『Some Other Time』の僅か2日後の6月22日、オランダのヒルフェルスムで行われたコンサートの音源とのこと。ラジオ局のスタジオでのライブ音源。

ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Eddie Gomez (b), Jack DeJohnette (ds)。つまり、歴代のエヴァンス・トリオの中で、一番、残された音源が少ない、とされた「伝説のトリオ」。このエバンス、ゴメス、ディジョネットによるトリオは活動期間がわずか6カ月だった。だから残された音源はほとんど無いとされた。が、昨年から未発表音源として、出てくる、出てくる(笑)。
 

Another_time_bill_evans

 
しかも、約50年の年月を経て発掘された音源なんだが音が良い。特に、デジョネットのドラムの音が実に生々しい。これほど、デジョネットのドラミングのニュアンスやテクニックが生々しく聴けるアルバムはなかなか無いのではないか。ゴメスのベースが目立つアルバムは多いが、このライブ盤ではゴメスのベースよりもデジョネットのドラムである。

演奏内容については、どれもが充実している。ダレたところや抜けたところが全く無い。適度なテンション、漲る集中力。エバンス・トリオ十八番の、トリオの3者対等のインプロビゼーション。エバンスのバップなピアノが切れ味良く響き渡る。エバンスのピアノは、決して「耽美的」では無い。どちらかと言えば、ハード・バッパーなピアノ。その音の重ね方とアドリブの展開が思いっきり個性的でエバンスは数々のフォロワーを生んだ。

しかし、こういう未発表音源がいきなり発掘されるなんて、どうなってんでしょ(笑)。『Montreux』『Some Other Time』『Another Time』、この3枚のアルバムはビル・エバンス者にとってはマストアイテム。どれもが、このエバンス、ゴメス、ディジョネットによるトリオの特徴をしっかりと聴かせてくれます。恐らく、歴代のトリオの中で、一番「ハードで硬派」。良いライブ盤が出てきました。嬉しい限りです。

 
 

東日本大震災から6年5ヶ月。決して忘れない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2017年8月29日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・62

ジャズ者初心者の頃、このアルバムを初めて聴いた時は、そんなに凄いアルバムとは思わなかった。ピアノ・トリオなんだけど、何だかベースの音が多い。なんだかベースの音が多いなあ、というのが最初の印象(笑)。それでも、かのピアノ・トリオの雄、ビル・エバンス・トリオのライブ盤なので、有り難がって聴いていた。

なぜベースの音が多いのか。この盤が、ベースのスコット・ラファロの追悼盤の位置づけだということをその後、知った。なるほど、だからベースの音が多いのか。しかし、よくよくこのライブ盤を聴いていると、ピアノの音とベースの音とドラムの音が同じ割合を占めているのに気がついた。

このライブ盤とは、Bill Evans『Sunday at the Village Vanguard』(写真左)。1961年6月25日、NYのライブハウス、ビレッジ・バンガードでの伝説のライブ録音。改めて、ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (ds)。かの伝説のピアノ・トリオである。

かのビル・エバンスの名ライブ盤『Waltz for Debby』と対をなすライブ盤である。今では、この1961年6月25日のビレバガでのライブ音源は、演奏順を忠実に守ったコンプリート・ボックス盤も出ているのだが、演奏の音の「密度」という点では、やはりこの『Sunday at the Village Vanguard』と『Waltz for Debby』の二枚構成が優れている。
 

Sunday_at_the_village_vanguard

 
この伝説のピアノ・トリオは、何が伝説かというと、それまではピアノ・トリオの場合、ピアノがメイン、ドラムとベースはバックでリズム&ビートを刻むというバランスが基本だった時代に、ピアノとベースとドラムが対等な立場でインプロビゼーションを展開する、という今では当たり前のことを初めて実現し、レコーディングに残した、というのが伝説と呼ばれる所以である。

しかし、面白いのは、他の伝説のビル・エバンス・トリオのアルバムでは、なかなかこの「ピアノとベースとドラムが対等な立場でインプロビゼーションを展開する」が判り難い。逆に、このラファロの追悼盤の位置付けの『Sunday at the Village Vanguard』では、その「ピアノとベースとドラムが対等な立場でインプロビゼーションを展開する」がとっても判り易い。

ベースの音が他のアルバムと比べて多いからだろう。ベースの音は地味なので、ピアノの音やドラムの音と比べて、同じバランスに聴こえるには、このライブ盤くらい「なんだかベースの音が多いなあ」と感じる位のバランスが丁度良いのかもしれない。

そういう意味で、この『Sunday at the Village Vanguard』は、ピアノとベースとドラムが対等な立場でインプロビゼーションを展開する」を体感出来る格好のアルバムだと言える。

 
 

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2017年5月26日 (金曜日)

ファンタジーのビル・エバンス

毎日、ピアノ・トリオに耳を傾けている。ピアノ・トリオを聴き続けていると、結局、この二人のトリオ演奏に辿り着く。一人は「Bud Powell(バド・パウエル)」、もう一人は「Bill Evans(ビル・エバンス)」。どちらも、ピアノ・トリオを語る上で、絶対に外せない二人である。今日はその外せない二人のうちの一人「Bill Evans(ビル・エバンス)」のトリオ演奏を聴く。

このブログでずっとエバンスの聴き直しを進めて来たんだが、他意は無いんだけど、しばらく滞っている。ちょうど、そうファンタジー・レーベルの時代の入り口で停滞していることに気がついた。これは大変、即、再開である。

Bill Evans『Since We Met』(写真左)と『Re: Person I Knew』(写真右)。どちらも、January 11 & 12, 1974年1月11, 12日、ニューヨークのヴィレッジバンガードでのライブ録音。『Since We Met』は1976年の正式リリース、『Re: Person I Knew』は1981年のリリースで、エバンス逝去後の追悼盤としてリリースされた「落ち穂拾い」盤。

そういう意味で、この『Since We Met』と『Re: Person I Knew』は2枚合わせて聴かれるべき、兄弟盤である。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Eddie Gómez (b), Marty Morell (ds)。安定性抜群の魅力のトリオである。
 

Since_we_met_re_person_i_knew

 
聴けば判るのだが、徹頭徹尾、ビル・エバンスのピアノである。冒頭のタイトル曲「Since We Met」の前奏を聴くだけで、これはビル・エバンスのピアノと直ぐ判る。躍動感溢れる明確なタッチと、独特のヴォイシングで流麗かつ芯のあるアドリブ・フレーズを聴かせてくれる。リズム&ビートも躍動感溢れ、エバンス独特のスイング感が心地良い。

ファンタジー・レーベルのビル・エバンスは、あまりに流麗で完成度が高いが故、なかなかピアノ・トリオの紹介本や初回記事に上がることは少ないのだが、どうして、その内容は一級品。ベースのゴメス、ドラムのモレロも安定のバッキング。安定と堅実のインタープレイも心地良く、このライブ盤2枚の人気が低いのがよく理解出来ない。

ジャズとして受けの良い、ダイナミックでハイテクニックのアドリブ展開、一聴するだけで判る突出した個性という大仕掛けの展開が乏しいのが受けの悪い理由かな。でも、ジャズ者ベテランのエバンス者は、こういうほのぼのとした流麗で完成度の高い、安心安定のピアノ・トリオが意外とお気に入りなのだ。

他のジャズ者の方々に知られることなく、一人でそっと聴いて、そっと愛でる、それが楽しい。そんなファンタジー・レーベル時代の冒頭を飾るエバンスのライブ盤である。

 
 

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2017年3月10日 (金曜日)

エバンスの超驚愕の発掘音源

こういう充実した、ダイナミックかつ流麗な演奏を聴いていると、やっぱりビル・エバンスって良いなあ、と心から思う。やはり、この人のピアノは、ジャズ・ピアノの基本なのだろう。そのアドリブ・フレーズの展開、和音の重ね方、間の取り方、どれを取っても超一級のパフォーマンスである。

Bill Evans『Some Other Time : The Lost Session from the Black Forest』(写真)。昨年のリリース。ちなみにパーソネルは、 Bill Evans (p), Eddie Gomez (b), Jack DeJohnette (ds)。1968年6月20日の録音。

ネットの宣伝文句は「超驚愕の発掘音源!1968年、ビル・エバンス 幻のスタジオ録音」。確かに驚愕もので、あのビル・エヴァンスのライブ名盤『モントルー・ジャズ・フェスティバルのビル・エバンス』と同メンバーのトリオであり、そのライブ盤の録音から、たった5日後の「スタジオ録音」である。

このエバンス=ゴメス=デジョネットのトリオは、たった6ヶ月の活動で、今まで、正式な音源は、先の『モントルー・ジャズ・フェスティバルのビル・エバンス』のみ。この『モントルー』のエバンス=ゴメス=デジョネットのトリオのインタープレイが思いっきり「鳥肌モノ」だったので、このトリオのスタジオ録音の音源が発掘されたのである。期待するな、と言う方が無理な話。

しかも、録音されたスタジオが「西独の60年代MPSレーベルのスタジオ」である。音的にも期待大。MPSレーベルは、録音技術に定評のあるレーベルで、とりわけピアノの録音に優れた手腕を発揮。有名なところでは、オスカー・ピーターソン、ハンプトン・ホーズなどが挙げられる。そんなスタジオに、あのビル・エバンスである。期待するな、と言う方が無理な話。
 

Some_other_time

 
さて、その演奏内容はというと、そうですね〜、リラックスした平常心のビル・エバンスって感じでしょうか。気合い入れまくって、ダイナミックに弾き回すのでは無く、といって限りなく耽美的に印象派的な響きを増幅するのでも無く、平常心を保ちつつ、リラックスしつつ、ちょっとダイナミックで流麗な演奏を繰り広げている。

ところどころ、それまでのエバンスとしては目新しいアプローチを展開しており、新しい即興の展開を模索していたのかなあ、とも感じます。そんなチャレンジに、ゴメス=デジョネットは格好のパートナーだったんでしょうね。エバンスのピアノに関しては、新しい展開へのチャレンジもあり、普段着な演奏とは言いつつ、一聴の価値ありです。

逆に、録音バランスの問題なのか、リマスタリングの問題なのか、デジョネットのドラムがオフ気味であるのが惜しい。彼の独特なシンバルワークやポリリズミックなドラミングが目立たない。メインはエバンスのピアノとゴメスのベース、この二人の丁々発止のインタープレイに、デジョネットのドラムがちょこっと添えられている、そんな感じの録音。ちょっと残念な感じ。

それでも、このCD2枚組のスタジオ録音は一聴の価値がある。このエバンス=ゴメス=デジョネットのトリオは、インタープレイの柔軟度が半端無い。しかも、イマージネーションの拡がりが尋常で無い。相当高いレベルでの期待感が溢れんばかりで、このトリオの活動が6ヶ月足らずで終息してしまったのが実に惜しい。

CD2枚組のボリュームの演奏があっと言う間に過ぎていきます。ビル・エバンス者には必須のアイテム。一般のジャズ者の方々にも、優れたピアノ・トリオ盤のひとつとして一聴の価値ありです。

 
 

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2016年12月24日 (土曜日)

Xmas週間の「ジャズ喫茶盤」

クリスマス・イヴである。といって、クリスマス・ソングばかりをかけるのも野暮である。ジャズのアレンジだからといって、クリスマス・ソングというのは意外とシンプルなものが多いので、飽きるといえば飽きる。ということで、クリスマス週間だからといって、クリスマス・ソング関連のジャズばかりを聴いている訳では無い。

ただし、この時期にハードなモード・ジャズや、ましてや、アブストラクトなフリー・ジャズを聴くのも野暮である。この時期は、ちょっと敬虔な雰囲気のする、透明度の高いメロディアスなジャズが良い。ちょっと小粋な「ジャズ喫茶盤」。

ということで、この時期に聴くに適したアルバムの一枚を。Dave Pike『Pike’s Peak』(写真左)。1961年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Dave Pike (vib), Herbie Lewis (b), Walter Perkins (ds), Bill Evans (p)。ジャズ・ヴァイブの名手、デイヴ・パイクの生涯最高の好盤。ビル・エバンスがバックを務めていることで有名な盤。

ヴァイブの硬質で透明感のある音は、ちょっと敬虔な雰囲気が漂う。加えて、ディブ・パイクのヴァイブは流麗で疾走感がある。ファンクネスが希薄でクリスタル感が高い。この季節にぴったりフィットする。内容的に普通であれば、それはそれで、この季節にピッタリなんて思わないのだが、この盤、内容的になかなか優れているから良いのだ。
 

Pikes_peak_2

 
当時、次世代を担うヴァイブ・プレヤーとして将来を期待され登場したアーティストの1人だったことが良く判る。特に、アドリブ・プレイのイマージネーションが豊かで、とめどもなく、新しいフレーズが湧き出てくるようだ。

伴奏のビル・エバンスも良い。バップなピアノでガンガン弾きまくる。ちなみにエバンスは耽美的なピアニストでは無い。基本的にはバップなピアニストである。この盤でもバップなピアノでバンバンに伴奏しまくる。エバンスは伴奏上手。フロントのパイクのヴァイブをしっかりと支える。

時代的にジャズ・ロック系やファンキー・ジャズ系に走りそうなんだが走らない。オーソドックスな、メンストリーム系のジャズな内容に好感度は上がる。アルバムでの選曲は、意外とポップな選曲からコルトレーンの「Impressions」と全く同じ曲があったりで、バラエティに富んではいますが、演奏が流麗なので、とても聴き易い。

ちなみに,Pike’s Peakはロッキー山脈の名峰であり,4000mを越える山頂まで登山鉄道で登ることができることで有名。その「Pike’s Peak」にかけた、このアルバム・タイトル。確かに、ディブ・パイクといヴィブラフォン奏者の最高作であることは間違い無い。良いアルバムです。

 
 

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2014年12月27日 (土曜日)

エバンス者には「聴く価値あり」

久し振りにBox盤を一気聴きした。一気聴きとは言っても、1日1枚、計8日でCD8枚。8枚組Box盤を8日間で一気聴きしたことになる。現在、頭の中はビル・エバンスだらけである(笑)。

そのBox盤とは、Bill Evans『The Secret Sessions』(写真左)。ビル・エバンスの熱狂的ファンが私的に録音した音源。マイク・ハリス&エヴァリン・ハリス夫妻が、ズタ袋の中に隠し持った小型テレコによって私的に録音されたもの。録音場所は固定されていて、これが、ニューヨークのライブスポット、Village Vanguard(ビレッジ・ヴァンガード)と言うのだからビックリ。

しかも、1966年から1975年の間、約10年に渡る間、ずっとビル・エバンス・トリオの演奏を、つまりは「隠し撮り」していた。10年間に渡るビル・エバンス・トリオの変遷が記録されているのだ。エヴァンスが同クラブに出演すると、週2回出かけてテープを回す。赴任先の西海岸からトンボ帰りをしてまで録音を続けたとか。

ファンの気持ちもここまでくると「執念」を感じる。しかし、その「執念」のお陰で、1966年から1975年の間、約10年の間のビル・エバンス・トリオのライブ・スポットでの演奏、つまりは正式なレコーディングでは無い「生の、真の姿の、普段の」演奏の様子を追体験することが出来るのだ。これは素晴らしいことである。

でも、しかし当然のことながら、この録音って、ビル・エバンスによって正式に認められた録音では無い。つまりは違法録音。それでも、その内容の重要性に、エバンスの死後、エバンス財団が許可を出して、Milestones社長であるOrrin Keepknewsがリリースに踏み切ったという曰く付き。これも素晴らしいことである。

素晴らしいことが積み重なって、今、僕達は、このBox盤『The Secret Sessions』を通じて、当時のビル・エバンス・トリオの、正式なレコーディングでは無い「生の、真の姿の、普段の」演奏の様子を追体験することが出来るのだ。

しかも、小型テレコでの録音とは言え、あのUHER(ウーヘル)製の小型テレコでの録音なので、音は意外と良い状態なんですね。もっとチープな音質を想像していたので、この音質にはビックリしました。十分に鑑賞に耐えるレベルです。特に、1970年代に入ってからは、テープの質も向上したんでしょう。想像以上にかなり良い音で録音されています。
 

Bill_evans_secret_sessions

 
さて、この『The Secret Sessions』を一気聴きして感じるのは、正式なレコーディングでは無い「生の、真の姿の、普段の」演奏でありながら、その時その時のビル・エバンス・トリオの演奏のレベルは相当に高いものだ、ということ。そして、コンスタントに高いレベルの演奏内容を維持しつつ、しかも、アレンジやテンポ、演奏の雰囲気などが、ビル・エバンス・トリオならでは個性で、その個性がずっと維持されていること。

さすが、一流のレベルのジャズメンの演奏って、普段の演奏でもそのレベルは高く、その個性は確実に維持されているんですね。実は、個々の演奏毎に、また時期を跨がって、もっとバラツキがあると思っていました。が、そんなバラツキなんてどこにも無い。いや〜、プロのジャズ演奏のレベルの高さを再認識しました。

そして、このBox盤『The Secret Sessions』に収録されている1966年から1975年の間、ベースはほとんどエディ・ゴメスが務め、ドラムが定期的に変わっていく、というパーソネルの変遷で、ビル・エバンス・トリオが演奏する音の傾向や個性が変化するのは、「ドラムの存在と個性」が重要な鍵を握っている、ということがよく判ります。

ビル・エバンスにとっては、ベーシストは、スコット・ラファロ、エディ・ゴメス、マーク・ジョンソンが絶対的な存在であって、この3人のベーシストは良く似通ったところがあって、僕が思うに、ビル・エバンスに合ったベーシストは、この3人のベーシストの音しかない。ビル・エバンス・トリオにとって、ベースの音は変化してはいけないのだ。

しかし、ドラムは違う。その時、その時期によって、ドラムを変えることによって、トリオの音の個性や変化させる、ドラムはビル・エバンス・トリオにとっての「変化の源、変化の鍵」なのだ。この1966年から1975年の間のこのBox盤『The Secret Sessions』に記録されている音を聴けば、それがよく判る。

収録された10年間、エバンスのピアノ・タッチは全く変わりません。これも、このBox盤を聴き通して、初めて実感出来る感覚です。ビル・エバンス者、いわゆるマニア向けのBox盤なんですが、逆に、ビル・エバンス者にとっては、一度は聴く価値のあるライブBox盤だと思います。

 
 

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2014年5月25日 (日曜日)

1966年『The Secret Sessions』

このボックス盤がリリースされた時は、よくまあこれだけのライブ音源が発掘されたもんだ、と感心したもんだった。

しかも、とあるファンがズタ袋の中に隠し持った小型テレコによって私的に録音されたものということで、驚きは倍増。よく正式盤としてリリースされたもんだ。

そのボックス盤とは、Bill Evans『The Secret Sessions : Recorded at the Village Vanguard 1966 - 1975』(写真左)。全104曲入りの8枚組ボックス盤。全ての音源はこのボックス盤によって初めて世に紹介された演奏ばかりである。

マイク・ハリス&エヴァリン・ハリス夫妻が私的に録音した音源なので、タイトルは『The Secret Sessions』。なるほどね。しかし、ファンの気持ちもここまでくると「執念」を感じるなあ。エヴァンスが同クラブに出演すると、週2回出かけてテープを回す。赴任先の西海岸からトンボ帰りをしてまで録音を続けたとか。

でも、この録音って、エバンスによって正式に認められた録音じゃないんですよね。つまりは違法録音。それでも、その内容の重要性に、エバンスの死後、エバンス財団が許可を出して、Milestones社長であるOrrin Keepknewsがリリースに踏み切ったという曰く付き。

しかし、小型テレコでの録音とは言え、UHER(ウーヘル)製の小型テレコでの録音なので、音は意外と良い状態なんですね。もっとチープな音質を想像していたので、この音質にはビックリしました。十分に鑑賞に耐えるレベルです。
 

Bill_evans_secret_sessions

 
さて、この『The Secret Sessions』を聴き直し始めました。今週は1966年の録音をまとめ聴き。まずは、1966年3月の録音。パーソネルは、Bill Evans (p), Teddy Kotick (b), Arnie Wise (ds)。

特に取り立てて特徴のあるトリオ演奏ではありません。平均的なビル・エバンス・トリオの演奏。テディ・コティックのベースも平均点。それでも、エバンスのピアノは端正なタッチで、エバンス節全快。エバンスのパフォーマンスの質は変わらないなあ、と妙に感心しました。

次のセッションは1966年7月3日。パーソネルは、Bill Evans (p), Eddie Gomez (b), Arnie Wise (ds)。ここで初めて、ベースにエディ・ゴメスが登場しますが、恐らく加入早々のトリオ演奏なんでしょう。まだ、ゴメスは後ろに引っ込んで控えめの演奏に終始しています。やはり、いかに優秀なベーシストとはいえ、慣れが必要なんだなあ、と変に感心してしまいます。 

このBill Evans (p), Eddie Gomez (b), Arnie Wise (ds)のトリオ演奏が、10月21日、11月10日、11月12日と続きます。7月のセッションから3ヶ月経って、さすがゴメスはトリオに溶け込んで、ベース・ソロも堂々としてきました。まだ硬いところはありますが、この録音からは、ゴメスはエバンスとの相性が良いベーシストであることが判ります。

この1966年の5つのセッション聴き進めて、さすがビル・エバンスだなあ、と感心しました。演奏のレベルが変わらない。アドリブのイマージネーションも豊か。さすが超一流のジャズ・ピアニスト。端正なタッチ、エバンス節全快なアドリブ。

まあ、この演奏レベルであれば、天国のエバンスも、この『The Secret Sessions』のリリースを苦笑いしながら許してくれるのではないでしょうか。

 
 

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2014年3月25日 (火曜日)

エバンスのホームグラウンド

ビル・エバンスは、彼の音楽遍歴の中で、節目となる時期には、必ず、ビレッジ・バンガードに帰って来る。そういう意味で、ビレッジ・バンガードは、ビル・エバンスのホームグラウンド的位置づけのライブ・ハウスである。

1974年、ビル・エバンスは、Fantasyレーベルと契約を結ぶ。その節目の時期に『Since We Met』(写真左)と『Re: Person I Knew』(写真右)の2枚のビレッジ・バンガードでのライブ盤を残している。パーソネルは、Bill Evans (p), Eddie Gomez (b), Marty Morell (ds)。1974年1月11,12日のライブ録音である。

エバンス+ゴメス+モレルのトリオは、1969年頃からの活動で、このビレッジ・バンガードでのライブ盤を出した時期は、1974年なので、既に5年余りが経過しており、その演奏内容は既に成熟の域に達している。ライブ収録されたどの曲も、ピアノ・トリオの演奏として素晴らしい出来である。

エバンスのピアノは、全体の傾向としてはアグレッシブなタッチではあるが、要所要所では繊細でリリカルな表現を織り交ぜていて、雄弁であり、バリエーションとメリハリ豊かなピアノである。聴き応え十分であり、ジャズ・ピアノのお手本として、聴きどころ満載である。

ゴメスのベースは太くて明確で、これまた雄弁。ゴメスが紡ぎ出すフレーズは、しっかりとエッジが立っていてメロディアス。ゴメスのベースは、エバンスのピアノと対等に渡り合う、柔軟かつ応用力のあるインプロバイザーである。とにかく、ベースラインが明確かつ雄弁。
 

Since_we_met_re_person

 
当初、叩きすぎなどと揶揄されたモレルのドラムは、ここに来て、エバンスのピアノとゴメスのベースとのバランスを良く考えた、良い塩梅なリズム&ビートを供給する。エバンスとゴメスのインプロビゼーションは明確にして雄弁。それに対して、叩きすぎず、少なすぎず、エバンスとゴメスのインプロビゼーションのリズム&ビートを支える、とっても良い塩梅のドラミングを繰り出して立派だ。

収録された曲を見渡すと、エバンスの自作曲と小粋なスタンダート曲とを上手く織り交ぜており、聴いていて楽しく、聴いていて興味深い。スタンダード曲については、エバンス独特の選曲基準があるみたいで、エバンスが弾いて「なるほど」と唸らせる、エバンスのピアノ、エバンスのアレンジが映えるスタンダード曲を上手く選曲している。

この『Since We Met』と『Re: Person I Knew』は、2枚一気に聴き通すことをお勧めする。それぞれに収録された演奏は甲乙付けがたい。どちらがどう、というものではない。1974年の節目の時期のビレッジ・バンガードのライブ音源として、一気に聴き通したい。

この1974年1月のビレッジ・バンガードのライブ以降、1980年9月15日に鬼籍に入るまで、ビル・エバンスのジャズメンの歴史としては、後期&晩年に当たる活動期になる。そういう意味でも、ビル・エバンスは、節目となる時期に、必ず、ビレッジ・バンガードに帰って来るのだ。

つまりは、この『Since We Met』と『Re: Person I Knew』の2枚のライブ盤は、そのビレバガに帰ってきた瞬間を捉えた、優れたライブ盤なのだ。このライブ盤は、エバンスのトリオ演奏として外せないライブ盤ですね。良い内容です。

 
 

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2014年3月13日 (木曜日)

ジャケットに怯んではならない

昔、ジャケットに驚いて、一度は断念したアルバムである。それほど、このアルバムのジャケットは酷い。どうしたらこうなるのか、このジャケットをデザインした人、このデザインを採用した人に訊いてみたい。

Bill Evans 『Symbiosis』(写真左)。このジャケット・デザインは酷い。恐らく、ジャズのアルバム・ジャケットのワースト10に絶対入るであろう、そのケバさ、その趣味の悪さ。それでも、このアルバムは、かのモダン・ジャズ・ピアノの祖、ビル・エバンスのアルバムである。

しかも、このアルバム、タイトルは中身を語る。「Symbiosis」とは、和訳すると「共存、共生」。ビル・エバンスとオーケストラとの共演である。1974年2月の録音。ビル・エバンスは、オーケストラとの共演作を作りたくて仕方が無い。しかし、当時契約していたファンタジー・レコードには金が無い。でも、エバンスはどうしてもオーケストラとの共演作を作りたくて仕方が無い。

そんな予算的な問題をドイツのMPSレーベルが請け負うことになり、米国からは遠く離れた欧州からのリリースとなりました。ということで、このアルバム、商業的な成功には全く無縁だったそうです。でも、欧州のレーベルからのリリースが売れなかった理由じゃないでしょう。絶対にこのアルバム・ジャケットが原因だ(笑)。

しかし、内容はと言えば、それはそれは素晴らしいものです。オーケストラのアレンジは、クラウス・オガーマン。このオガーマンのアレンジが実に良く出来ている。エバンスのアコピ、エレピを全面に押し出し、エバンスの個性をしっかりと聴かせる、ジャズにおけるオーケストラの伴奏の王道を行く、古さを感じさせない、クールでお洒落なアレンジです。
 

Bill_evans_symbiosis

 
そして、このオガーマンのオーケストラをバックに、ビル・エバンスが、アコースティック・ピアノとエレクトリック・ピアノの両方を上手く使い分けつつ弾きまくります。それはそれは、気持ちよさそうに、アグレッシブに弾きまくります。これだけ、流麗に抑揚を付けて弾きまくるエバンスも珍しい。よっぽど嬉しかったんでしょうね、オーケストラとの共演が・・・。

オーケストラに乗った、エバンスの演奏の基本は、勿論、エバンス・トリオ。ベースはエディ・ゴメス(Eddie Gomez)、ドラムは、マーティ・モレル(Marty Morell)。特に、このオーケストラの共演で素晴らしい演奏を聴かせてくれるのは、エバンスのエレピ。このアルバムでのエバンスのエレピは秀逸。

あまり語られることが無いのだが、エバンスのエレピは素晴らしい。エバンスは、アコピとエレピで、明らかに弾き方を変えている。特に、エレピについてはエレピ用の弾き方する。このエレピ用の弾き方が秀逸。エレピの響きを活かしつつ、アドリブ・フレーズが間延びしないような運指が素晴らしい。惚れ惚れする。

ジャケットにびびってはいけません(笑)。このアルバム、そのジャケット故に、セールス的にはあまり振るわず、廃盤状態になりがちなアルバムです。しかし、ビル・エバンス者には勿論のこと、ジャズ・ピアノ者の方々にも、是非とも聴いて頂きたいアルバムです。これほど、エレピ、アコピがテンション良く、心地良く響くアルバムはなかなかありませんぜ。

 
 

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2014年1月 4日 (土曜日)

今年の聴き始め・純ジャズ編

今年の個人的なテーマは「初心に帰ろう」。さて、私こと、バーチャル音楽喫茶『松和』のマスターの純ジャズのアルバム・コレクションの初心って何だったのか、と振り返って見ると、このアルバムが真っ先に思い浮かぶ。

純ジャズの世界では、やはりこのアルバムやなあ。Bill Evans『Portrait in Jazz』(写真左)。ビル・エバンスの名盤中の名盤。現代のピアノ・トリオの演奏展開を決定付けたアルバムである。

ビル・エバンスのこのピアノ・トリオの以前と以降のそれぞれの演奏展開を聴き比べてみると判る。ビル・エバンスのピアノ・トリオは、ピアノ、ベース、ドラムの演奏が同等の立場で繰り広げられている。これが「ミソ」。

とりわけ、ベースの演奏が実に特徴的で、それまでのベース奏法のスタンダードであった、ビートをキープする、所謂「ウォーキング・ベース」なる奏法を採用していない。ピアノと同等の立場で、ピアノのインプロビゼーションに絡むように、創造的で柔軟なインプロビゼーションを展開する。

それまでのピアノ・トリオの演奏展開と言えば、あくまでピアノが主役。ピアノが創造的で柔軟なインプロビゼーションを展開する傍らで、ベースとドラムはあくまで「リズム&ビート」をキープする役割。ソロを渡されても、ベースとドラムはあくまで「リズム&ビート」をキープしながらのアドリブ展開に終始する。

が、このビル・エバンスのトリオは違った。確かに、ベースとドラムは「リズム&ビート」をキープはしている。が、明確な「拍」を入れずに「間」を活かした、スペーシーなインプロビゼーションをベースに「リズム&ビート」をキープしているところが新しい。
 

Portrait_in_jazz_2

 
そして、ビル・エバンスのピアノは、そんなリズム・セクションの「リズム&ビート」をキープをベースに、自由度と柔軟性の高いインプロビゼーションを展開している。明らかに、それまでのピアノ・トリオの演奏展開とは異なる、モダンでクール、そして、実にアーティスティックな響きは、このアルバムを聴けば、直ぐに判る。

実はジャズを聴き始めて、ハードバップ時代のピアノ・トリオを聴くにつけ、ベースとドラムはあくまで「リズム&ビート」をキープする役割に留まり、ピアノだけが創造的で柔軟なインプロビゼーションを展開する、という画一的な演奏展開がつまらない、と感じた。これでは、ジャズは創造的とは言い難い、と感じた矢先での、この『Portrait in Jazz』との出会いだった。

このアルバムを聴き終えて、これは何だ、と感じた。ジャズの最大の特徴のひとつである「自由なインプロビゼーション」というものを初めて感じた気がした。初めて、ジャズが創造的な音楽ジャンルだ、ということを感じた瞬間だったような気がする。

今を去ること35年前の出来事である。当時、僕は二十歳。このBill Evans『Portrait in Jazz』というアルバムに出会って、ジャズは面白い、ジャズは聴き込むに足る音楽ジャンルだ、ということを思いっきり感じた。そして35年間、ジャズのアルバム・コレクションにドップリ浸かり、未だその「音の迷宮」を彷徨っている(笑)。

つまりは、このBill Evans『Portrait in Jazz』ってアルバム、僕にとっては、ちょっとだけ罪作りなアルバムである、ってこと(笑)。今年もよろしくお願いいたします。

 
 

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