2023年1月 4日 (水曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・22

ジャズ・ピアノの「最高のスタイリスト」ビル・エヴァンスは、1958年にマイルス・デイヴィスのバンドに短期間加わり、約1年弱、録音とツアーを行っている。その最大の成果が、Miles Davis『Kind of Blue』。マイルスと協働し、ハード・バップ的な頻繁なコード・チェンジではなく、モードを基にしたアドリブ展開を、このアルバムで実現している。

その後、1959年にエヴァンスはドラマーのポール・モチアンとベーシストのスコット・ラファロをメンバーに、自らがリーダーのパーマネントなトリオを初めて結成する。このトリオは、ピアノ・ベース・ドラムスの、各自の創造的な三者三様のインプロを展開する「インタープレイ」を実現した初めてのトリオであり、以降、他のピアノ・トリオ演奏に新しい方向性を与えている。

その最初のスタジオ録音の成果が、Bill Evans『Explorations』であり、Bill Evans『Portrait in Jazz』である。そして、ライヴ録音の成果が以下の2枚である。特に、このライヴ録音の2枚は、このライヴ録音の11日後、ラファロが交通事故で急逝してしまったので、当時から劇的な印象を残している。

Bill Evans『Sunday at the Village Vanguard』(写真左)、Bill Evans『Waltz for Debby』(写真右)の2枚が、そのライヴ録音の成果である。1961年6月25日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (ds)。NYの老舗ライヴハウス、ヴィレッジヴァンバードでのライブ録音。

天才ベーシスト、スコット・ラファロが11日後に急逝しているので、ラファロへの感情移入が激しいこの2枚のライヴ盤であるが、冷静になって聴き直してみる。

まず、『Sunday at the Village Vanguard』は、僕は、ピアノ・ベース・ドラムスの、各自の創造的な三者三様のインプロを展開する「インタープレイ」のライヴの記録だと理解している。
 

Sunday-at-the-village-vanguard_waltz-for

 
ラファロのベースばかりがクローズアップされた評価が目に付くが、エヴァンスのピアノも、モチアンのドラムも充実している。これだけ自由度の高いインタープレイは、当時としては唯一無二。適度なテンションの下、三者三様の創造的なインタープレイはそれはそれは見事で、そんな中でもラファロのベースが特に目立つ。

『Waltz for Debby』については、エヴァンスのピアノの「耽美的でリリカルで静的」な面がクローズアップされた、とされるアルバムだが、これについては、僕は、マイルスの下で「ものにした」モード奏法をこの「伝説のトリオ」で実現した唯一のライヴの記録だと理解している。

もともと、エヴァンスは「明確なタッチのバップなピアノ」が持ち味で、「耽美的でリリカルで静的なピアノ」が持ち味では無い。この盤での「耽美的でリリカルで静的」な響きが溢れる演奏でも、エヴァンスのタッチは明確で鋭い。決して、響きを重視した耽美的なタッチでは無い。

この『Waltz for Debby』における「耽美的でリリカルで静的」な雰囲気は、マイルスの『Kind of Blue』のラスト「Blue in Green」に通じる響きだと理解していて、モーダルな演奏の特徴、ビルがマイルスの『Kind of Blue』のライナーノーツで日本古来の水墨画を例に表現した「モード奏法を基にした即興の個の表現」を、この「伝説のトリオ」で表現したものではないか、と思っている。

最後にまとめると、このビルの「伝説のトリオ」のスタジオ録音『Portrait in Jazz』『Explorations』の2枚で表現した、ピアノ・ベース・ドラムスが創造的な三者三様のインプロを展開する「インタープレイ」と、マイルスの下でものにした「モード奏法」をライヴで実現した傑作、と僕は評価している。一期一会の即興演奏であり「ライヴ演奏」であるが故に、この2枚は、後世のピアノ・トリオ演奏に新しい方向性を与えている、と理解している。
 
 

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2022年11月18日 (金曜日)

エヴァンスの「多重録音」第3弾

ビル・エヴァンスのワーナー時代、最晩年のリーダー作を再度、聴き直している訳だが、実は6枚しかない。1977年8月、ワーナーに移籍して録音を始めたら、なんと1980年9月15日には鬼籍に入ってしまったのだから、ワーナー時代は実質3年ほどしかない。リーダー作が少ないのは仕方が無い。

Bill Evans『New Conversations』(写真)。1978年1月26~28日30日、2月13~16日録音。パーソネルは、Bill Evans (ac-p,el-p)のみ。ビル・エヴァンスのソロ盤ですが、作りは「多重録音」。アコピとフェンダー・ローズをオーバーダビングするという手法を駆使して録音した作品。邦題は『未知との対話ー独白 対話 そして鼎談』。なんと仰々しい邦題であることか(笑)。

ワーナーに移籍して最初に録音したのが『You Must Believe in Spring』だったのだが、何故かお蔵入りになって(1981年、エヴァンスの没後にリリース)、この多重録音の『New Conversations』がワーナー移籍後の初リーダー作になる。

エヴァンスは多重録音によるソロ・パフォーマンスが好みな様で、ヴァーヴ時代に『Conversations with Myself』(1963年)、『Further Conversations with Myself』(1967年)と2枚の「多重録音」盤を出している。そして、今回ご紹介する『New Conversations』は、この「対話シリーズ」の第三弾になる。
 

Bill-evansnew-conversations

 
第3弾となって、やっとこの「多重録音」での個性の表出が上手く出来る様になった感がある。前の2作にあった違和感、喧噪感が無い。多重録音による「良い効果」を自己表現出来る様になった。この多重録音による「良い効果」によって、ビル・エヴァンスのアコピとエレピの個性というものがハッキリ感じ取れる。

アコピにせよ、エレピにせよ、出てくるフレーズは「エヴァンス・オリジナル」なもので、全く異論は無い。特にこの時期のエヴァンスのアコピの特徴である、タッチは明快でフレーズは切れ味良く耽美的、エヴァンス独特の音の響きを伴った「流麗なバップ・ピアノ」な弾き回しが良く判る。

また、この盤を聴いて、改めて感心したんだが、エヴァンスはエレピが上手い。特に、フェンダー・ローズの扱いが上手い。軽く聴いていたら、どこかチック・コリアに似た、ローズの特性を十分に把握した、とてもリリカルでエモーショナルな弾き回しは見事。エヴァンスのエレピについては十分に評価するべきだろう。当時としても、このエレピの弾き回しは秀逸。

ワーナーに移籍して最初のリーダー作に「ソロ・パフォーマンスの多重録音」盤を持って来た理由は図りかねるが、録音当時のエヴァンスのピアニストとしての特徴が良く判る内容になっている。「ソロ・パフォーマンスの多重録音」はどこか際物の匂いがするが、気にすることは無い。エヴァンスのソロ・パフォーマンスを愛でるに十分なアルバムである。
 
 

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2022年11月17日 (木曜日)

『Affinity』はエヴァンス好盤

ビル・エヴァンスのワーナー時代、最晩年のリーダー作を再度、聴き直している。というか、このワーナー時代は、僕がジャズを聴き始めて間もない頃で、ほぼリアルタイムでエヴァンスのリーダー作に触れている。エヴァンスのリーダー作の中でも、とりわけ特別な懐かしさを感じるのが、このワーナー時代。

ワーナー時代は、レーベルとしては「Warner Bros.」「Elektra Musician」「Nonesuch」と変わるが、どれもが同系列。いずれのリーダー作も、ジャズを聴きはじめた頃に、FMラジオの番組で聴いては、そのエヴァンスのピアノに魅せられて、バイト代を叩いて、即、ゲットしていたなあ。

Bill Evans『Affinity』(写真)。1978年10月30日〜11月2日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p, key), Marc Johnson (b), Eliot Zigmund (ds), Larry Schneider (fl, ts, ss), Toots Thielemans (harmonica)。「エバンス・トリオと伝説のハーモニカ奏者 トゥーツ・シールマンスとの共演」との触れ込みだが、全曲で共演している訳では無い。

この盤、リリース当時は、プロ、アマ評論家の皆さんはこぞって、エヴァンスが、エレピは弾くわ、かつシールマンスのハーモニカと唐突なコラボはするわ、で概ね不評の大合唱(笑)。とにかく、エヴァンスについては、ストイックで耽美的なピアノ・トリオしか認めない、と言わんばかりで、この盤については「ケチョンケチョン」だった思い出がある。
 

Bill-evansaffinity

 
でも、ですね。当時もそう思ったし、今の耳で聴いてもそう思うんだが、この盤、なかなか良い内容だと思いますよ。エヴァンスのピアノは、ばりばりバップなピアノを弾きまくっていた時代を通り過ぎて、タッチは明快、フレーズは切れ味良く耽美的。流麗でバップな、エヴァンス独特の音の響きを伴った弾き回し。好パフォーマンスだと思います。

シールスマンとのコラボは数曲あるんですが、どれもが良い出来。さすがは伴奏上手なエヴァンス。シールスマンとの息の合ったデュオ・パフォーマンスは見事。ハーモニカはベースラインを押さえるのに不得手な楽器なので、マーク・ジョンソンのベースがサポートに入っていて、これが良いアクセントになっている。曲のベースラインがクッキリ浮き出て良し。

ラリー・シュナイダーのテナーは可も無く不可も無くではあるが、やはり、エヴァンスは「トリオ演奏」が良い感じ。数曲、トリオ演奏が入っているが、ファンタジー時代の「流麗ではあるが、ばりばりバップなピアノ」から、ほど良く力が抜けたタッチが実に良い。1978年、逝去の2年前にして、新しい響きのエヴァンスのピアノをこの盤で提示している。さすがである。

「聴かせるジャズ・ピアノ」「心地良く鑑賞出来るジャズ・ピアノ」として、この盤の内容は「アリ」だろう。昔のプロ、アマ評論家の皆さんが言うような「エヴァンスとしてあってはならない凡作」では無い。この盤でも、エヴァンスはしっかり「存在している」。しかも、新しい響きのエヴァンスが「いる」。エヴァンスとしての好盤です。
 
 

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2022年5月17日 (火曜日)

ビルの「ラス前」トリオ発掘音源

ジャズ・ピアノの最大のレジェンド、ビル・エヴァンス(Bill Evans)。ビルは、1980年9月15日に51歳で没している。今年で「没後42年」になるのだが、彼の人気は衰え知らず。今でもビルの人気は高く、ジャズ・ピアニストの中でも、ビルのフォロワーは数知れず。ドビュッシー、ラヴェルなどのクラシックに影響を受けた印象主義的な和音は、今ではジャズ・ピアノ演奏の基本の1つになっている。

故に、没後40年以上経っても、ビル・エヴァンスの未発表音源、発掘音源がリリースされる。というか、没後40年以上経って「まだあるのか」と呆れるくらいである。そんなに多くの「非公式録音」が行われていたのか、とも思うし、よく今まで所蔵されていたもんだ、とも思う。しかも、出てくる未発表音源、発掘音源の「音質」が、まずまず〜良好なのにも驚く。

Bill Evans『On A Friday Evening』(写真左)。1975年6月2日、カナダ・バンクーバー「オイル・キャン・ハリーズ」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Eddie Gomez (b), Eliot Zigmund (ds)。

当時カナダのCHQMでラジオ番組のホストをしていたゲイリー・バークレイのために録音され、彼の人気ジャズ番組CHQMで放送されたもの。バークレイが自宅に持ち帰ったテープが、所有者が2回代わった後、今回、発掘音源としてリリースされた、とのこと。
 

Bill-evanson-a-friday-evening

 
ビル・エヴァンスの「ラス前」トリオのライヴ演奏。ベースにゴメス、ドラムにジグムント。1975年と言えば、ジャズ界はフュージョン・ジャズの流行前期。そんな「純ジャズの逆風の時代」に、これだけ内容の濃い、濃密なライヴ演奏を繰り広げていたなんて、やっぱりジャズって懐が広いなあ、と思う。発掘音源の音質が良いこともあって、エヴァンス〜ゴメス〜ジグムントの「ラス前」トリオのパフォーマンスの素晴らしさを追体験出来る。

まず、ビルのピアノが好調。バップなタッチで、印象主義的な和音とモーダルな展開をガンガン弾きまくっている。ダイナミックで迫力十分。ゴメスのベースは、そんなビルのバップなピアノに負けないベースラインを繰り出していて、これまた迫力十分。そして、ジグムントのドラムは、そんな迫力十分なビルのピアノとゴメスのベースを受け止めて、最適なリズム&ビートを供給し、演奏全体のビートを支え続けている。

このライヴ盤には、エヴァンス・トリオの代名詞のように愛奏されていた「Nardis」が入っているのだが、いい意味で余分な力が抜けた魅力的な演奏で、エヴァンス〜ゴメス〜ジグムントの「ラス前」トリオのポテンシャルの高さを感じさせてくれる。

エヴァンス〜ゴメス〜ジグムントの「ラス前」トリオも素晴らしかったんやなあ、と再認識させてくれる好ライヴ盤です。
 
 

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2022年4月28日 (木曜日)

またまたエヴァンスの未発表音源

ビル・エヴァンスは、ジャズ・ピアニストの中で、一番のお気に入り。1980年9月15日、鬼籍に入ってから既に40年以上が経過したのだが、未だに「未発表音源」が出てくる。しかも、ほとんどがかなり良い内容、音質もまずまず良いものばかり。「未発表音源」を出せば、それなりに良いセールスを記録するらしく、今でも、ビル・エヴァンスの人気というのは凄まじいものがあるみたい。

BIll Evans『Behind the Dikes: The 1969 Netherlands Recordings』(写真左)。1969年3月と11月のオランダでの録音。ちなみにパーソネルは、BIll Evans (p), Eddie Gomez (b), Marty Morell (ds)。2つのセッションが継ぎ目なく収められていて、臨場感があって、音もまずまず。トリオ3者の録音バランスが良くないところがあるが、それは正式録音じゃないので、仕方の無いこと。

1969年の録音なので、エヴァンスのピアノは、透明度の高い、耽美的な演奏というよりは、バップなピアノでガンガン弾きまくっている。ただし、音の響き、音の重ね方はエヴァンス独特のもので、バリバリとバップなピアノを弾いている割には、耽美的で流麗な響きが、エヴァンスのフレーズのそこかしこに流れている。とにかく美しくジャジーな珠玉の譜レースがてんこ盛り。さすがエヴァンス、と唸ってしまう。
 

Behind-the-dikes_bill-evans

 
ゴメスのベースの音が前面に出ている傾向の録音なので、逆にゴメスのベースの個性が手に取るように判る。意外とゴメスのベースは重低音。しかもソリッドでしなやか。あまりにブンブン響いて目立つので、ゴメスのベースはイマイチ、なんて意見もあるが、どうして、この時期のバップなピアノでガンガン弾きまくるエヴェンスに相対するベースは、このゴメスのベースが一番だ。

モレルのドラミングもこのライヴ盤では好調。そこはかとなく上手いドラミングのモレルだが、地味なところがところどころあって、この地味なところが耳に付くと、モレルはイマイチだ、ということになる。が、このライヴ盤では、エヴァンスのピアノが相当に溌剌としているので、その溌剌さに触発されたのか、モレルのドラミングも溌剌としてエモーショナルですらある。モレル、やればできるじゃないか、と嬉しくなるドラミングである。

収録されたどの曲にも、このエヴァンス・トリオにかかると、このトリオにしか出来ない、素晴らしいインタープレイが展開される。親しみやすく耳に優しいメロディーを前面に出しつつ、耽美的でリリカルな音の響きを大事にしながら、3者が織りなす迫力あるインタープレイ。ライヴ音源そのままなので、冗長さも少し感じるところもあるが、その冗長さも含めて、どの演奏も上質のピアノ・トリオのパフォーマンスである。
 
 

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2021年6月28日 (月曜日)

エヴァンスの「Ronnie Scott's」

Bill Evans『Live at Ronnie Scott's』(写真)。1968年7月に英ロンドンの老舗ジャズクラブ「Ronnie Scott's」で4週間の連続公演を行った時の模様を収めたライヴ音源。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Eddie Gomez (b), Jack DeJohnette (ds)。ベースは長年のパートナーであったエディ・ゴメス。ドラムはジャック・デジョネット。このトリオは短命だったので、今回のライヴ盤のリリースは貴重な音源発掘になる。

ドラムがジャック・デジョネットのトリオ演奏は、正式盤としては、Verveレーベルからの『At The Montreux Jazz Festival』のライヴ盤が唯一だったが、2016年、そのわずか5日後にスタジオ録音が発掘されたのが『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』。2017年、さらにその2日後のオランダでのコンサートの音源が発掘されたのが『Another Time : The Hilversum Concert』。「モントルー」のみの状態から、2016〜17年で2枚のライブ音源が発掘されたことになる。

このトリオは短命だったのだが、ゴメスもデジョネットもインタビューで「Ronnie Scott'sでの演奏が一番よかった」という発言をしていて、この音源は無いのかなあ、と思ったのだが、当時は「その音源は残っていない」と言われていたのを覚えている。が、今回、発掘された。ということで、ドラムがジャック・デジョネットのトリオ演奏について、今回もう一枚、貴重な音源が加わったことになる。
 

Live-at-ronnie-scotts
 

聴き始めてビックリ。ブートレグと間違う位の音の悪さ(聴けないほどでは無いけど)。録音のバランスも悪くて(これも聴けないほどでは無いけど)、主役のピアノよりも、ベースにシンバル、はては観客の拍手が一番マイクに近いところにある感じのバランスの悪さ。ただ、今回に関しては「Ronnie Scott's」の音源が残っていたことに「価値がある」。

演奏の雰囲気は、長年唯一であった『At The Montreux Jazz Festival』と同じ。この「モントルー」よりも演奏に一体感がある。録音バランスが悪いので判り難いが、リズム隊のゴメスのベースとデジョネットのドラムのダイナミズムが均等で、デジョネットのドラマーとしての実力が遺憾なく発揮されている。そんな極上のリズム隊に乗って、エバンスがダイナミックな「バップなピアノ」を弾きまくっている。

この「Ronnie Scott's」のライブをマイルスが観ており「あのドラマーをよこせ」となったらしい。このデジョネットの「バップのピアノをクールに新しい響きのポリリズムで鼓舞する」ドラムをエレ・マイルスに適用するというのだから、マイルスの慧眼、恐るべしである。そして、このデジョネットのドラムを、キース・ジャレットが招聘して「スタンダーズ」を結成するのである。この辺り、マイルスとキースって、感性の底で繋がっているんだなあ、て妙に感心する。
 
 
 

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2021年2月19日 (金曜日)

朗々なベネットに歌伴エヴァンス

ボーカルものを聴き進めている。前にも書いたが、ジャズ・ボーカルについては、伝統的スタイルの「こぶし」やヴィブラートを効かした唄い方にどうしても馴染めなくて、ジャズ初心者の頃から常に後回しにしてきた。が、聴かず嫌いは良く無い。21世紀に入ってから、有名盤については努めて聴く様にしている。

『The Tony Bennett / Bill Evans Album』(写真左)。1975年6月10−13日の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Bennett (vo), Bill Evans (p)。男性ジャズ・ボーカリストの代表格の1人、トニー・ベネットと、ジャズ・ピアニストのレジェンド、ビル・エヴァンスとのデュオ盤である。

トニー・ベネットは男性ジャズヴォーカリスト界を代表する存在で, 「I Left My Heart in San Francisco」などの世界的なヒットで知られている。ビル・エヴァンスは、ジャズ・ピアノのスタイリスト。トリオのインタープレイの祖であり、モーダルなバップ・ピアノの基本である。

ベネットのボーカルは「朗々」と唄い上げるもの。フェイクもギミックも無い。男性らしい声でストレートに朗々と唄う。こういうボーカリストの伴奏は難しい。朗々と唄うものを邪魔してはいけないし、かといって、キーになる音やビートは唄い手にしっかり伝えないといけない。目立たずに、でも存在感は必要。
 
 
The-tony-bennett-bill-evans-album
 
 
しかし、そこは「伴奏上手」のエヴァンス。心得たものである。エヴァンスは、ピアノ・トリオでの弾き回しは、明快なタッチで明らかにバップな弾きっぷり。フレーズはしっかり浮かび上がるし、ビートはしっかり前面にでる。しかし、歌伴に回ると、エヴァンスの弾き回しは明らかに変わる。

ボーカルを決して邪魔せず、それでいて、唄い手が唄い易い様に、キーになるフレーズやビートを明確に伝える。変にモードに傾かず、しっかりとコードとビートを供給する。これがこの盤での聴きどころになる。実に上手い「歌伴」だ。

デュオの中では、ベネットが朗々と唄い上げるタイプのボーカリストなのでリードする方に回るし、エヴァンスは当然、フォローする方に回る。リードする方とフォローする方、主従の関係が時々交代すれば、何か「化学反応」でも起こる可能性もあるのだが、このベネットとエヴァンスのデュオではそれは無い。だからそれを期待するのは「筋違い」だろう。

この盤、気持ち良い伴奏を得て、朗々と気持ち良く唄うベネットと、そんな気持ちの良い伴奏を供給する、伴奏上手のエヴァンス、その両方をそれぞれ確認し楽しむ盤だと思う。
 
 
 

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  ・そしてタツローはメジャーになる
 
 
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2021年2月16日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・88

ボックス盤を整理している。いわゆる「断捨離」なんだが、これが結構な数で、ちょっと閉口している。まあ、ジャズを聴き始めて40年以上、ボックス盤を買う財力がついてから約四半世紀。欲しいものが出たら必ず入手していたので、そりゃあ相当数になるだろう。一応、全てのCDについては1回は聴いているが、今となっては「どんな内容だったけ」というボックス盤もある。

Bill Evans Trio『Consecration The Last Complete Collection』(写真左)。1980年8月31日~9月7日、サンフランシスコのKeystone Kornerでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Marc Johnson (b), Joe LaBarbera (ds)。CD8枚組のボックス盤。8枚のCDにキーストンコーナーでのライヴ・パフォーマンスが全て収録されている。

今日のCD1〜2を聴いた。1980年8月31日のセット全てと9月1日のセットの一部。久し振りに聴いたが、ビル・エヴァンスのパフォーマンスは全く古さを感じさせない。ビルが亡くなる約2週間前の演奏なのだが、いつもよりダイナミックな弾きっぷりで、運指も乱れが無い。アドリブのイマージネーションも好調で、とてもこの2週間後に鬼籍に入るピアニストの演奏とは思えない。
 
 
Consecration-the-last-complete-collectio  
 
 
最後の力を振り絞る、なんて雰囲気は微塵も無い。リズム隊のマーク・ジョンソンのベースとジョー・ラバーベラのドラムのダイナミズムが最高潮で、そんな若きリズム隊にビル・エヴァンスのピアノが呼応する感じのインタープレイ。決して荒い演奏では無いし、死を意識した「最後の演奏」的なセンチメンタリズムも無い。あるのは、現代のジャズの中でも十分に訴求する、優れたピアノ・トリオのパフォーマンスである。

それまでのエヴァンスのトリオ演奏とは全く異なる内容のピアノ・トリオのパフォーマンスに耳は釘付け。ダイナミズムと切れ味の良いリリシズムをベースとした、最新型のモーダルな展開に思わず惚れ惚れする。当時のライヴ・パフォーマンスをそのまま収録しているので、演奏上のミスもたまにはあるが、そんなものを気にさせない、バリバリ弾きまくるエヴァンス・トリオが見事である。

今回、今の最新のステレオ・セットで聴いてみて、録音もなかなか良いことに気がついた。エヴァンスのピアノの歯切れの良さ、ジョンソンのベースのソリッドさ、ラバーベラのドラムの躍動感、どれをとっても「一流」。キーストンコーナーのライヴ感もビンビンに伝わってきて、臨場感抜群。このボックス盤、やはり「エヴァンス最晩年の傑作」だろう。ビル・エヴァンス者には必須のアイテム。
 
 
 

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2020年6月23日 (火曜日)

協調性なくして良き共演なし

ビル・エヴァンスとスタン・ゲッツの未発表セッション発見〜アルバム化のセンセーショナルなニュースが流れたのが、もう24年前になるのか。エヴァンスとゲッツの共演。Verveレーベルからの『Stan Getz & Bill Evans』(2010年7月30日のブログ参照)が、9年のお蔵入り後、リリースされたのが1973年。この共演盤は期待外れの内容だった。

前回の共演盤が9年間、お蔵入りだった。確かに「お蔵入り」の理由が良く判る内容ではあった。もうエヴァンスとゲッツの共演は無いだろうな、と思っていた。最初の共演セッションが1964年。その10年後に再び共演するなんて、よくエヴァンスが了解したなあ、と思ったのを覚えている。

Bill Evans & Stan Getz『But Beautiful』(写真)。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Stan Getz (ts), Eddie Gómez (b), Marty Morell (ds)。エヴァンスのトリオにゲッツが客演する形である。

最初の2曲とラス前〜ラストの4曲が「1974年8月9日、オランダ・ラーレンでのジャズ・フェスティバル」でのライヴ録音、残りが「1974年8月16日、ベルギー・アントワープでのジャズ・フェスティバル」でのライヴ録音。
 
 
But-beautiful  
 
 
1964年の最初の共演盤との違いは「協調性」の変化。1964年の最初の共演セッションは「協調性」については酷いものだった。ほとんどバラバラ。協調性の欠片も無かった。しかし、この1974年の2度目の共演セッションについては、ジャズ・フェスでのライヴということもあって、何とか協調しよう、というエヴァンス・トリオ側の歩み寄りが感じられる。

それでも2曲目の「Stan's Blues」では、ゲッツがリハーサルに無い曲を「ぶっつけ本番」で始めて、エヴァンスが気分を害して伴奏しなかったそうである。確かにこの曲にはエヴァンスのピアノの音が無い。しかも、ゴメスのベースもモレルのドラムも全くゲッツのテナーに寄り添ってはいない。

ゲッツにはこういう「唯我独尊」なところがあるそうで、エヴァンスは他の曲ではゲッツのテナーの音を聴いて、しっかりサポートしているが、ゲッツは我関せず「我が道を往く」。それでも、ゲッツもさすがに反省したらしく、8月16日の録音の、7曲目の「The Peacocks」の演奏が終わった後、ゲッツが「Happy Birthday Bill」とアナウンスして、エヴァンスの誕生日を祝っている。

それでも、エヴァンスはこのライヴ録音については「気に入らなかった」のであろう。録音から22年、お蔵入りとなる。どういった経緯でリリースに至ったのかは判らないが、エヴァンスが存命であればリリースは無かったのでは、と思う。
 
 
 

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2020年6月22日 (月曜日)

「クール・ジャズ」のエヴァンス

ジャズ・ピアノの最大のレジェンド、ビル・エヴァンスであるが、トリオ編成が全て、と偏った評価をされている傾向が強いのか、トリオ編成以外の、特に管入りのクインテットやカルテットの編成については、評判は芳しく無い。

エヴァンスは伴奏上手なピアニストなので、管入りのクインテットやカルテット編成のバッキングについても、エヴァンスの持ち味、実力を遺憾なく発揮することは間違い無いのだが、どうしたことか、管入りのクインテットやカルテットの編成については手厳しい評価を見ることがある。

Bill Evans with Lee Konitz, Warne Marsh『Crosscurrents』(写真)。1977年2月28日、3月1ー2日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Lee Konitz (as), Warne Marsh (ts), Eddie Gómez (b), Eliot Zigmund (ds)。アルバムのリリースが1978年なので、録音後、内容チェックして「エヴァンスからもOKが出て」、リリースされたものになる。決して「お蔵入り盤」では無い。

もともと、エヴァンスは「レニー・トリスターノ」のクール・ピアノの影響を受けているところがあって、そういう意味では「トリスターノ派」の代表格、アルト・サックスのリー・コニッツ、テナー・サックスのウォーン・マーシュとの共演は望むところだったのでは無いか。エヴァンスが逝去するまで残り3年。この共演は生前にやっておきたかったのではないか、と想像している。
 
 
Crosscurrents  
 
 
さて、その内容であるが、そんなにケチョンケチョンにこき下ろすほど、内容は悪く無い。エヴァンスのピアノは歯切れ良く、ポジティヴだし、弾き回しも揺るぎが無い。彼の個性のひとつである「バップなピアノ」が前面に押し出されていて、かつ、ピアノ・トリオでのパートナーである、ゴメスのベースも、ジグモンドのドラムもいつも通り好調であり、良い感じのパフォーマンスを発揮している。

コニッツとマーシュのサックスについても、ピッチが合って無いだの、イマージネーションに欠けるだの、フニャフニャだの、一部では「ケチョンケチョン」な評価なのだが、今の耳で聴いてみると、そんなに悪く無いと思う。両者とも「トリスターノ派」として活躍していた1950年代前半から半ばのパフォーマンスに立ち返っている様でもあり、内容的にはちょっと「古い」が、決して内容的に劣る、というブロウでは無い。

当時のジャズとして「新しい何か」があるか、と言えば「無い」のだが、トリスターノ派のクール・ジャズの1970年代版として、聴き易く、ソフト&メロウにまとめた、と捉えれば、そんなにおかしい内容では無いだろう。少なくとも、エヴァンス、コニッツ、マーシュ、それぞれがそれぞれの持ち味を活かした、リラックスしたセッションである。

この盤は、評論家筋と一般のジャズ者の方々との評価が大きく分かれる「エヴァンス盤」ではある。まずは自らの耳で聴いて評価することをお勧めする。他人の悪評を鵜呑みにして遠ざけるには惜しい内容のエヴァンス盤だと僕は思う。
 
 
 

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