2015年7月26日 (日曜日)

マイルスの正式ブートレグ第4弾『At Newport』

まだまだあるんやなあ、というのが最初の感想。あるんやったら、早くどんどん出してよ、とも思う。聴かない間に死んでしまっては元も子もない(笑)。

Miles Davis『Miles Davis At Newport 1955-1975: The Bootleg Series Vol. 4』(写真)。マイルスのブートレグ・シリーズの第4弾。4枚組のボックスセット。

以下の様に1955年から1975年の20年間の中で、8種類のニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブ・パフォーマンスを収録しています。細かい説明は割愛しますが、未発表のライブ音源の多く収録されています。

CD 1: (July 17, 1955: Newport Jazz Festival, Newport, RI) 
   (July   3, 1958: Newport Jazz Festival, Newport, RI)
CD 2: (July   4, 1966: Newport Jazz Festival, Newport, RI) 
    (July   2, 1967: Newport Jazz Festival, Newport, RI)
CD 3: (July   5, 1969: Newport Jazz Festival, Newport, RI)   
         (Nov   1, 1973: Newport Jazz Festival In Europe, Berlin) 
         (July   1, 1975: Newport Jazz Festival ? NY, Avery Fisher Hall) 
CD 4: (Oct 22, 1971 : Newport Jazz Festival In Europe, Neue Stadthalle, Dietikon, Switzerland) 

ブートレグに手を染めているマイルス者の方々には不満だらけのボックスセットかと思いますが、我々の様に、ブートに手を出さない、正式盤のみのコレクターにとっては、これはこれで、このボックスセットのリリースは嬉しいものがあります。
 

Miles_at_newport_1955_1975

 
ちなみに既発売は、CD1の6曲目から11曲目は、1958年、ジョン・コルトレーン、キャノンボール・アダレイ、ビル・エバンス、ポール・チェンバース、ジミー・コブ在籍時のもので『マイルス・アット・ニューポート1958』として既発売。

CD3の1曲目から3曲目は1969年、エレクトリック時代初期のチック・コリア、デイブ・ホランド、ジャック・デジョネットとのカルテットで『ビュチェズ・ブリュー・ライブ』として既発売。

この2つの既発売音源の存在が物議を醸し出しているが、今回は、マイルスのニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブ音源のギャザリングがこのボックスセットでの編集方針なので、このボックスセットの資料性を重んじるのであれば、既発売音源が混じっても構わないと思うのだが。

逆に、マイルスのニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブ音源として、発売に耐える音質、内容を前提として、まだこれだけのライブ音源が倉庫に眠っていたということになる。それが正式盤としてリリースされたことは誠に目出度い。

音質は悪くは無い。主観的には「中の上」。良い音だなあ、と感心するほどでは無いが、鑑賞には十分耐える音質である。特に、エレクトリック・マイルスのライブ音源は実に興味深く、単純に楽しめる。アコースティック・マイルスの演奏は内容的にはまずまずのレベルで資料的価値の方が優先する。

ただ、このボックスセットについては、マイルス者にとっては必須のアイテムだと思うが、通常のジャズ者の方々には、特に必要性の高いものでは無いだろう。ボリューム的にもCD4枚。聴き通すのにも時間と根気が必要になるため、ブートには手を出さない、通常のマイルス盤蒐集家にとっては福音的なボックスセットではある。
 
 
 
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2015年2月27日 (金曜日)

ハードバップ期の最高のバンド

やっと体調が回復基調になって、ほっと一息である。風邪が原因のお腹の不調。丸2日間、伏せっていたことになる。暖かくして、とにかく伏せっていれば治ると言われたが、術後の不安は大きい。とにかく伏せっていたのだが、耳だけは元気なので、寝室に備え付けのサブのステレオで、日頃、なかなかまとめて聴けないボックス盤を聴いていた。

そのボックス盤とはMiles Davis『The Complete Columbia Recordings of Miles Davis with John Coltrane』(写真)。CD6枚組の魅力的なボックス盤である。タイトルから判る通り、コロンビア・レーベルに残された、マイルスとコルトレーンのセッションの記録である。録音時期としては、1955年10月26日から1961年3月21日まで。ジャズの歴史でいう「ハードバップ期」のほぼ全体を網羅する。

アルバムとしては『'Round About Midnight』『Milestones』『Kind of Blue』『Someday My Prince Will Come』『Miles Davis at Newport 1958』『Jazz at the Plaza/1958 Miles』を網羅する。加えて、LP時代の未発表音源集『Circle in the Round』とCD4枚組のコンピ・ボックス盤『The Columbia Years 1955ー1985』に収録された音源を含んでいる。

このCD6枚組ボックス盤を聴き通して感じるのは、さすがアコースティック・マイルスは他のどのコンボよりも優れており、クールであるということ。そして、マイルス・バンドの演奏は、まず最優先事項として、常にマイルスのトランペットがクールに美しく、前面に出ているということ。リーダー盤としては当たり前のことだが、マイルス・バンドは、このリーダーのマイルスを一番に押し出すことに徹底している。この徹底度合いは他のバンドには無い。

といって、サイドメンは後ろに引っ込んで地味にやっているかと言えばそうではない。あらん限りのテクニックとノウハウを駆使して、かなり高度でかなりクールなバッキングを展開しているのだ。そういうことが出来る、ジャズメンとしての優れ者の集まりが、当時のマイルス・バンドであり、アコースティック・マイルスの音世界なのだ。
 

Miles_coltrane_columbia

 
コルトレーンは、確かにマイルス・バンド加入当初のプレイは「へたくそなテナー」と揶揄されても仕方ないな、というところもあるが、マイルスと年を重ねるにつれ、どんどんテクニックは高みに達し、演奏ノウハウもバリエーション豊かに溜まってく。そして、コード奏法を凌駕して、マイルスの薫陶を得て、モード奏法を体得する。そう、コルトレーンはモード奏法を「体得」している。 

そして、Disc5、Disc6の、アルバムで言う『Miles Davis at Newport 1958』『Jazz at the Plaza/1958 Miles』辺りのコルトレーンのアドリブはとてつもなく長い。ある逸話が残っている。

コルトレーンがマイルスに相談する。「アドリブが長いと言われるので、適当なところでアドリブを止めたいのだが、どうやって止めて良いのか判らない」。マイルスが苦笑いしながらコルトレーンにアドバイスする。「トレーン、そういう時は、マウスピースから口を離すのさ。そうすればアドリブは止められる」。

そういう逸話が良く理解出来るほど、コルトレーンのアドリブは長い。そして、シーツ・オブ・サウンドが度を超えて吹きまくられている。少し五月蠅いくらいだ。しかし、そこにマイルスのペットが入ってくると、バンドの音世界はガラッと変わる。クールで美しい、優雅なハードバップにガラッと変わる。なるほど、コルトレーンのテナーはマイルスを惹き立たせる最高のパーツなのだ。そして、コルトレーンがこのことに我慢できなくなった時、マイルスの下から離れていくのだ。

そして、このCD6枚組ボックス盤に収録された別テイク毎の演奏のバリエーションを聴いていると、ジャズって本当に「即興の音楽」だということが判る。そして、優れたジャズメンの集まりでは、そのアドリブの展開のバリエーションが豊富で、本当によくこれだけ色々なパターン、展開でアドリブを展開するもんだなあ、とただただ感心してしまう。

このCD6枚組ボックス盤には、ハードバップ期の最高のバンドの演奏がギッシリと詰まっている。なにかと批判されることの多いボックス盤だが、手に入れて聴くとなかなかに楽しめる。意外とお勧めのボックス盤である。
 
 
 
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2015年2月19日 (木曜日)

『The Complete In A Silent Way Sessions』Disc3

今日は、評判が悪い割に意外と聴きどころがある、Miles Davis『The Complete In A Silent Way Sessions』のDisc3について語りたい。3枚組ボックス盤のラストである。

Disc3の収録曲は以下の通りになる。前半の2曲が1969年2月のセッション。後半の2曲が、かの名盤『In a Silent Way』のオリジナル・バージョンが収録されている。

1. The Ghetto Walk   unreleased
2. Early Minor   unreleased
3. Shhh/Peaceful/Shhh" (LP Version)
4. In a Silent Way/It's About That Time/In a Silent Way  (LP Version)

まずは冒頭2曲、1969年2月のセッションを聴いていて興味深いのは、ドラマーがトニー・ウィリアムスの代わりにジョー・チェンバースが入っていること。ジョー・チェンバースは1942年生まれだから、このセッションの参加時は27歳の若さである。意外とエレ・マイルスにフィットしたドラミングで、なかなかのものである。

この冒頭の2曲は未発表音源である。まあ、この2曲も、マニアな評論家やベテラン・マイルス者の方々からすると、ブートで既に聴いていると言うかもしれないが、我々の様なブートに無縁なマイルス者からすると、この未発表音源は実に有り難い。しかも、なかなか内容のある演奏だから言うこと無しである。
 

Miles_complete_in_a_silent_way_3

 
ラスト2曲は『In a Silent Way』のオリジナル・バージョン。このアルバムは、マイルス者の方々であれば、絶対に持っているべき、エレクトリック・ジャズの大名盤である。しかし、被って損したと思うのは早計である。

このボックス盤の音源は、DSDリマスタリングが施されているようで、この『In a Silent Way』の演奏についても音質が良い。この音質であれば、以前入手したアルバムと被っても、持っていたい音の良さである。

そして、この『In a Silent Way』のオリジナル・バージョンを聴いて思うのは、エレクトリック・マイルスの素晴らしい演奏のさることながら、テオ・マセロの編集の妙の素晴らしさを再認識する。実に巧みな編集で、硬軟自在、抑揚の効いた、躍動感と静謐感を相見えた、唯一無二なエレクトリック・ジャズに仕上げている。

このテオ・マセロのテープ編集についての事実を知ったとき、LPの収録時間に併せつつの編集だったんだろうが、ジャズにも編集の妙があるのには驚いた。まあ、編集された音源なので、この『In a Silent Way』のアルバムに収録されている音源は、即興を旨とするジャズとは言えない。オリジナル音源の「編集の妙」を受け入れるかどうかで、このアルバムの評価は分かれるだろう。

マイルスのCD3枚組ボックス盤『The Complete In A Silent Way Sessions』は意外と楽しめるボックス盤である。特に、ブートに無縁のマイルス者にとっては、意外とお買い得なボックス盤では無いだろうか。音の良さだけとっても、僕はなかなかのものと評価している。
 
 
 
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2015年2月18日 (水曜日)

『The Complete In A Silent Way Sessions』

とにかく評判の悪いボックス盤、Miles Davis『The Complete In A Silent Way Sessions』。私としては、そんなに悪く無いボックス盤だと思うんですが。DSDリマスタリングされたと思われ、音質が非常に良いですし、これからマイルスを聴き込んでいこうという向きには、悪くは無いボックス盤だと思うんですが。

さて、今日はそんなマイルスのボックス盤『The Complete In A Silent Way Sessions』のDisc2について語りたい。このボックス盤のDisc2は、1968年11月〜1969年2月のセッションを集めている。ちなみに収録曲は以下の通り。

1. Ascent
2. Directions, I
3. Directions, II
4. Shhh/Peaceful  unreleased
5. In a Silent Way (Rehearsal)  unreleased
6. In a Silent Way released for the first time in unedited form
7. It's About That Time released for the first time in unedited form

1曲目〜3曲目については、マイルスの未発表音源盤『Directions』に収録されていたもの。4曲目〜5曲目については未発表音源。特に、5曲目については興味深い音源で「In a Silent Way」のリハーサル・テイク。ボサノバの様なリズム&ビートに乗って、リラックスに展開されていく「In a Silent Way」はなかなかに魅力的だ。

6曲目〜7曲目は「In a Silent Way」と「It's About That Time」のアルバム収録用にテオ・マセロが編集する前の録音イメージである。つまりは、この演奏が真の「In a Silent Way」と「It's About That Time」ということになる。

このボックス盤のDisc2の特徴は、かの名盤『In a Silent Way』に収録された曲について、アルバム『In a Silent Way』に編集される前の状態やリハーサル・テイクが聴けることだ。この編集前バージョンを聴くと判るのだが、基本的にはDisc1の演奏と同じ展開と作りをしていることが判る。
 

 Complete_in_a_silent_way_2

 
そういう意味では、このボックス盤の編集方針であろう、かの名盤『In A Silent Way』は、このDisc1に収録されたセッション辺りからインスパイアされて創られたのではないか、という仮説の下で選曲されたことについて信憑性が高まる。

加えて、テオ・マセロの編集が無くても、オリジナルの「In a Silent Way」と「It's About That Time」の演奏だけでも十分に名曲・名演であることが実感出来る。現代においても、この2曲のオリジナル演奏は、エレクトリック・ジャズの先端を行く演奏である。現代においてしても、これだけの演奏を追求できるバンドは殆ど無い。

逆に、これをテオ・マセロの編集後のアルバム『In a Silent Way』収録の演奏と聞き比べてみると、テオ・マセロの編集の巧妙さを再認識する。特にLP時代のA面の「Shhh/Peaceful」は編集の妙が最大限に発揮されている。LPは鑑賞物であるということを考えると、この編集は「有り」と言えば「有り」である。

しかし、編集したものは編集したものには違いなく、所謂「加工物」である。真の演奏は異なる。そういう意味で、この『The Complete In A Silent Way Sessions』のDisc2に収録されている「In a Silent Way」と「It's About That Time」のアルバム収録用にテオ・マセロが編集する前の録音イメージは存在価値が大きい。

つまり、オリジナルの「In a Silent Way」と「It's About That Time」の演奏だけでも十分に名曲・名演であることが、このDIsc2を聴けば判るからだ。有名評論家やベテラン・マイルス者の方々からは、もう既にブートで聴いている、と言われそうだが、ジャズの鑑賞において、ブートの存在を引き合いに出すのは「反則」だと思っている。

このオリジナルの「In a Silent Way」と「It's About That Time」の演奏と「In a Silent Way」のリハーサル・テイクが聴けるだけでも、この評判の悪いボックス盤、Miles Davis『The Complete In A Silent Way Sessions』は、一般的には十分に評価出来る、と僕は思う。

 
 

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2015年2月17日 (火曜日)

『The Complete In A Silent Way Sessions』Disc1

とにかく評判の悪いボックス盤である。Miles Davis『The Complete In A Silent Way Sessions』であるが、先ずタイトルが悪い。「Complete」の単語がこのボックス盤についているところがいけないらしい。つまり「看板に偽りあり」ということである。

確かに、このボックス盤は「Complete」を冠するには、ちょっと説得力に欠ける。このタイトルだと、かのエレ・マイルスの名盤『In A Silent Way』の録音セッションで録音された様々な音源を、欠けること無く全てを収録していると思ってしまうではないか。

さて、今日はこのボックス盤のDisc1について語りたい。このボックス盤のDisc1は『キリマンジャロの娘』『ウォーター・ベイビーズ』等にも収録された曲を含む1968年の9月〜11月のセッション集になる。恐らくは、かの名盤『In A Silent Way』は、このDisc1に収録されたセッション辺りからインスパイアされて創られたのではないか、という仮説の下で選曲されたものと推察している。

ちなみに収録された楽曲は以下の通り。6だけが、このボックス盤リリース当時、未発表曲だった。1と2は『キリマンジャロの娘』、3と4は『ウォーター・ベイビーズ』に収録、『サークル・イン・ザ・ラウンド』に収録されていた。

1. Mademoiselle Mabry
2. Frelon Brun (Brown Hornet)
3. Two Faced
4. Dual Mr. Anthony Tillmon Williams Process
5. Splash: Interlude 1/Interlude 2/Interlude 3
6. Splashdown: Interlude 1 (no horns)/Interlude 2 (no horns)
 

The_complete_in_a_silent_sessions

 
確かに、このDisc1の収録された楽曲の雰囲気は『In A Silent Way』にダイレクトに繋がっていく様に感じられる。確かに『In A Silent Way』の音世界は、エレ・マイルスの中でも独特なのだ。どのような経過を経て、あの名盤が創られたのか、いろいろと推論したくなるのはよく判る。確かに、このDisc1に収録された楽曲は『In A Silent Way』の重要な一要素を形成するパーツであることを強く感じる。

というか、このDIsc1の楽曲を聴いていると、クールなフリー・ジャズとはこういう演奏をいうのではないか、という気がしてくる。このDIsc1の楽曲は、どれもがクールでフリーなエレクトリック・ジャズなのだ。本能のおもむくまま、気分次第で吹きまくる、馬の嘶きの様な激情のブログでは無く、必要最低限にシンプルにコントロールされた、モード奏法を昇華させた限りなく自由なメインストリーム・ジャズなのだ。

シンプルにコントロールされてはいるが、このDisc1での演奏は限りなく自由だ。それぞれのソロイストのアドリブ・フレーズは限りなく自由なのだ。この演奏の類は、マイルスの提示した、マイルスの考える「フリー・ジャズ」なのではないだろうか。フリー・ジャズとはいえ、ジャズはクールでなければならない。フリー・ジャズとはいえ、鑑賞に耐えない音楽はジャズとは言えない。そんなマイルスの声が聞こえてきそうな演奏集である。

このボックス盤に収録された楽曲はDSDリマスタリングされたと思われ、音質が非常に良い。評論家筋やベテランのマイルス者の方々から、とにかく評判の悪いボックス盤ではあるが、これはこれで何点か、評価できるところもある。これからマイルスを聴き込んでいこうという向きには、悪くは無いボックス盤だと僕は思う。
 
 
 
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2014年12月26日 (金曜日)

『The Complete Bitches Brew Sessions』

『The Complete Bitches Brew Sessions』(写真)。マイルスが1969年8月から70年2月に残したスタジオ録音を集め、1998年に発売された4枚組ボックス盤である。

このボックス盤は発売当時、思いっきり物議を醸し出した。タイトルを見ると、『Bitches Brew』に用いられた未編集テープや別テイク等の素材を集めたもの、という印象を受けるが、それは間違いで、本作は『Bitches Brew』製作当時の、つまり、1969年8月から70年2月に残したスタジオ録音楽曲を集めたもの、なのである。

とある著名な評論家が「看板に偽りあり」と糾弾したこともあって、このアルバムは「偽りの紛い物」扱いされていて、実に気の毒な境遇にある。中古品に至っては二束三文的な価値しか与えられず、その高いレベルの内容の割に不遇なボックス盤の代表格になってしまった。

収録曲は以下の通りになる。

Disc one
  "Pharaoh's Dance" (Joe Zawinul) - 20:06
    "Bitches Brew" (Miles Davis) - 26:58
    "Spanish Key" (Davis) - 17:34
    "John McLaughlin" (Davis) - 4:22

Disc two 
    "Miles Runs the Voodoo Down" (Davis) - 14:01
    "Sanctuary" (Wayne Shorter) - 10:56
    "Great Expectations" (Davis - Zawinul) - 13:45 available on Big Fun
    "Orange Lady" (Zawinul) - 13:50 available on Big Fun
    "Yaphet" (Davis) - 9:39 previously unreleased
    "Corrado" (Davis) - 13:11 previously unreleased
 

The_complete_bitches_brew_sessions

 
Disc three
    "Trevere" (Davis) - 5:55 previously unreleased
    "The Big Green Serpent" (Davis) - 3:35 previously unreleased
    "The Little Blue Frog" (alternate take) (Davis) - 12:13 previously unreleased
    "The Little Blue Frog" (Davis) - 9:09 previously unreleased
    "Lonely Fire" (Davis) - 21:09 available on Big Fun
    "Guinnevere" (David Crosby) - 21:07 available on Circle in the Round

Disc four
    "Feio" (Shorter) - 11:49 previously unreleased
    "Double Image" (Zawinul) - 8:25 previously unreleased
    "Recollections" (Zawinul) - 18:54 previously unreleased
    "Take It or Leave It" (Zawinul) - 2:13 previously unreleased
    "Medley: Gemini / Double Image" (Zawinul) - 5:52 available on Live-Evil
 
 
見渡せば、結構「previously unreleased(未発表曲)」の表記があって、意外とこのボックス盤はブート盤などに精通した「ヲタク」なマイルス者では無く、普通のマイルス者にとっては、『Bitches Brew』製作当時の、つまり、1969年8月から70年2月に残したスタジオ録音楽曲の中で、正式な音源として「未発表な」ものが聴ける、貴重なボックス盤だったりするのだ。

この「previously unreleased(未発表曲)」の表記がある曲は、ちょっとテンションが低く、漂う様な雰囲気の曲が多いのだが、意外にこれが良い。1970年代のプログレッシブ・ロックを聴き込んだ僕としては、この1970年前後の独特のプログレッシブな「浮遊感」が良いんですね。シタールの音も意外としっくりきます。

確かに「The Complete」の文字に偽りあり、なんだろうが、それはそれとして、もう少し、その内容について正確に伝えるべきだろう。ブート盤など、おいそれ手の出せない、普通のマイルス者にとっては、これはこれで、入手して一聴する価値のあるボックス盤だと僕は思う。
 
 
 
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2014年9月 1日 (月曜日)

Miles Davis『Bitches Brew Live』

基本的に、マイルス・デイヴィスのアルバムについては、海賊盤(ブート)には手を出さない。マイルスのブートは優れたものが多く、しかも、リリースされた数もかなり多い。マイルスのアルバム・コレクションの対象について、数多い正規盤に加えてブートまでも加えたら、とてもでは無いが、通常のサラリーマンでは資金的に困難が伴う。

よって、僕はマイルスについては正規盤にしか、基本的に手を出さない。であるが、この21世紀に入っても、正規盤にてマイルスの初出の音源が出てくるのだから、マイルスの正規盤に絞ったアルバム・コレクションは手がかかるし、全く終わりが無い(笑)。

このMiles Davis『Bitches Brew Live』(写真左)も、その初出の音源を伴った正規盤。前半の1曲目〜3曲目が、正規盤としては未発表音源。1969年7月5日、ニューポート・ジャズ・フェスティバルにおけるライブ音源。ちなみに、パーソネルは、Miles Davis (tp), Chick Corea (el-p), Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)。「ロスト・クインテット」と呼ばれる伝説のカルテットのうちの4人。Wayne Shorter (ts) がいない。

何が「ロスト・クインテット」じゃ、4人しかいないじゃないか、これじゃ「ロスト・カルテット」だろう、と思われるかも知れませんが、それは正解です。このニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブ音源は「ショーター、交通渋滞による遅刻が原因のロスト・カルテット編成」。まあ、確かに「ロスト・カルテット」ですね(笑)。

このニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブ音源については、正規盤ではこれが初出。「ロスト・カルテット(クインテット)」の評判通り、凄まじいばかりのテンションとエネルギー。最も尖ったエレクトリック・ジャズのライブ音源のひとつがここにある。超弩級の重さと疾走感を併せもったリズム&ビート。この凄まじい重量感と疾走感を、たった4人のジャズメンで表現するとは、いやはや、凄い面子である。
 
 
Bitches_brew_live_2

 
ちなみに、この1969年のニューポート・ジャズ・フェスティバルとは言え、何とレッド・ツェッペリン、ジェスロ・タル、そしてスライ・アンド・ファミリー・ストーンを呼んでいる。

ジェスロ・タルが7月4日、マイルスが7月5日、レッド・ツェッペリンが7月6日に演奏しているのだ。この他の共演するロック・バンドの音を考えた時、それに負けない、それを凌駕する為にマイルスが考え抜いた音世界が、この「ロスト・カルテット(クインテット)」の演奏である。

そして、この「ロスト・カルテット(クインテット)」に続く6曲は、有名なワイト島フェスティバルでのライブ音源。こちらは初出では無い。かつて、LP/CDでリリースされたこともあったが廃盤状態。現在ではDVDでのみ視聴できる音源となっており、リマスタリングを施してCDとしてリイシューされたこのCDは、これまた、正規盤を中心にコレクションするマイルス者にとっては、これまた貴重な音源として歓迎されるべきものである。

1970年8月29日の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Gary Bartz (ts, ss), Chick Corea (el-p), Keith Jarrett (el-org), Dave Holland (el-b), Jack DeJohnette (ds), Airto Moreira (per, cuica)。これまた、伝説のチック=キースのツイン・キーボードを擁したエレ・マイルス七重奏団である。

タイトルは『Bitches Brew Live』なんですが、正確には、あのエレ・マイルスの大名盤『Bitches Brew』発表の前後に行なわれたライブの模様を収録したライブ盤です。Miles Davis 『1969 Miles』に続いて、「ロスト・カルテット(クインテット)」のライブ演奏が正規盤で聴ける世の中になりました。長生きはしてみるものですね(笑)。
 
 
 
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2014年2月24日 (月曜日)

モントルーのマイルス・1989年

1989年7月21日、モントルー・ジャズ・フェスティバルでのエレ・マイルスである。マイルスが鬼籍に入るのは、1991年9月28日なので、鬼籍に入る2年2ヶ月前のライブ音源になる。

1986年のリリースの傑作『Tutu』のサウンドをジックリと煮詰めていって、この1989年で、ほぼ完成の域に至っていると思えるくらい、充実した破綻の無い、非常に良くアレンジされ、しっかりと練習を積んだ、素晴らしい演奏が繰り広げられている。

音的な印象は「ポップ&ダンサブル」。マイルスが『オン・ザ・コーナー』から追求してきた、ストリート・ミュージックとしての「ポップ&ダンサフル」なリズム&ビート。第二期エレ・マイルスは、ここに来て、その適度な軽さ、しなやかさを具備して、爽快で躍動感のあるリズム&ビートを獲得した。

ちなみに、そのパーソネルはと言えば、Miles Davis (tp, key), Rick Margitza (ts), Kei Akagi, Adam Holzman (key, synth), Joe "Foley" McCreary (b), Benny Rietveld (b), Ricky Wellman (ds), Munyungo Jackson (per), Chaka Khan (vo)。

楽器構成としては「エレギ」が無くなった。完全に『Tutu』の音をライブで追求した結果、エレギがシンセにとって代わった。しかも、シンセは、ケイ赤城とアダム・ホルツマンの2台構成。シンセのユニゾン&ハーモニ−。旋律を司る音がぶ厚く、色彩豊かになった。そういう変化が「ポップ&ダンサブル」な雰囲気に直結しているのだろう。
 

Miles_montreux_1989

 
しかもビックリしたのが、チャカ・カーンのボーカル。それまで、マイルスは決してボーカルを入れなかった。コーラスだって入れない。そんなマイルスが、モントルー・ジャズ・フェスティバルという特別な環境ということもあったんだろうが、チャカ・カーンをボーカルに起用して、「Human Nature」を熱唱させている。

聴衆は大喜び。マイルスも笑っているようだ。モントルーの聴衆に対するファン・サービス。マイルスも柔らかくなったもんやなあ。第一期エレ・マイルスの頃は、下を向いてペットを吹いたり、後ろを向いてペットを吹いたり、とにかく、聴衆に迎合することなどは全く無縁。孤高のジャズの帝王って感じだったんだが、60歳を過ぎて、マイルスも丸くなったなあ、と嬉しくなったりする。

第二期エレ・マイルスの成熟が聴いてとれる、聴いて楽しい、1989年のモントルーのエレ・マイルスである。マイルスのキーボードでの指示がでれば、バンドの音、バンドのリズム&ビートが、スッと変わって、スッと決まる。恐らく、マイルスの思い通りの音が出ているのではないか。

マイルスのトランペットも、当時63歳とは思えないほど、張りのある、テクニカルな演奏を聴かせてくれる。オープンもミュートも、ほとんどミストーンの無い、テクニック的にもしっかりと運指した、充実したマイルスを聴くことが出来る。この時のモントルーの聴衆は、この後、2年2ヶ月で鬼籍に入るなど、全く想像出来なかっただろうな。
 
 
 
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2014年2月18日 (火曜日)

モントルーのマイルス・1988年

エレ・マイルスのライブボックス盤『The Complete Miles Davis at Montreux』(写真左)。CD13・14は, 1988年7月7日のモントルーのエレ・マイルスである。1986年から1年空けて1988年、1986年のメンバーから総入れ替えで、これまた新しいサウンドに変化。まだまだ進化する第二期エレ・マイルス・バンドである。

ちなみに、その総入れ替えのパーソネルは、Miles Davis (tp, syn), Kenny Garrett (ss, as, fl), Adam Holzman, Robert Irving (syn), Joe "Foley" McCreary (b), Benny Rietveld (b), Ricky Wellman (ds), Marilyn Mazur (per)。 自ら含めて、シンセサイザーの大々的な導入が、その新しいサウンドの秘密。

リズム&ビートが軽快になった。しっかりとボトムは押さえていて、オフビートの重量感は維持しているが、音の響きとしては軽快になった。そして、疾走感が加わっている。1970年代の第一期エレ・マイルス・バンドの超弩級の重戦車の様な超重量級のファンキー・ビートからは想像出来ない、軽快で乾いたファンキー・ビートである。

加えて、ファンクネスの度合いが高くなった。が、リズム&ビートが軽快になった分、その濃くなったファンクネスはとてもポップに聴こえる。軽快なR&Bを聴いている様な、爽快感と疾走感。ヘビー級ではない、ミドル級のボクサーの軽快なフットワークの様なファンクネス。

そこに、シンセサイザーが中心となったユニゾン&ハーモニー、そしてソロ・パフォーマンスが重なる。そう、ちょうどマイルスの傑作スタジオ録音盤『Tutu』の音である。それまでのエレ・マイルス・バンドは、ギターが全面に押し出されてきたが、ここでシンセサイザーが台頭してきた。
 

Miles_montreux_1988

 
しかも、このシンセサイザーの使い方、ソロ・パフォーマンスが半端じゃない。それまでに聴いたことの無い、かなり個性的なユニゾン&ハーモニー、そしてソロ・パフォーマンスなのだ。エレ・マイルスならではと言って良い。こんなシンセサイザーの音は、他のジャズ・バンドでは絶対に出せない、今でも聴くことは出来ない。

もはや、第二期エレ・マイルス・バンドは完成の域に達している。マイルスのイメージ通りの音が出ているのではないか。マイルスもそんな完成度の高いバンドをバックに、実に気持ちよさそうにトランペットを吹いている。マイルス自身も好調そうで、速いフレーズやハイノートなど、結構、難なく吹き上げている。この年のモントルーのマイルスは充実の極み。

マイルス自らが力を入れてニュー・スタンダード化した、シンディ・ローパーの「Time After Time」や、マイケル・ジャクソンの「Human Nature」などはもう自家薬籠中のものとなっている。アレンジも秀逸。印象的なバラード・ナンバーにマイルスのトランペットが映える。この年のこのニュー・スタンダードな2曲の演奏は大変出来が良い。

この1988年のモントルーのマイルスも聴きものである。CD2枚分、あっという間に聴き切ってしまう。ほぼ完成の域に達した第二期エレ・マイルス・バンド。マイルスを始めとして、メンバーが皆、楽しそうに演奏している雰囲気がダイレクトに伝わって来るライブ音源です。
 
 
 
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2014年2月11日 (火曜日)

モントルーのマイルス・1986年

1970年代後半の隠遁時代を経て、1981年、マイルスは完全復活した。そして、この1986年では、もう隠遁時代の影なぞ全く払拭され、1980年代半ば、エレクトリック・ジャズの最先端、いや、当時のジャズの最先端を走る第二期エレ・マイルス・バンドの姿をしっかりと確認できる。

前年の1985年とこの1986年のエレ・マイルス・バンドの相違点は、ギターがジョンスコからロベン・フォードに代わっていること。そして、デヴィッド・サンボーンとジョージ・デュークがゲストで参加していること。このゲスト参加のセンスは、さすがマイルスである。

この1986年のモントルーでのエレ・マイルス・バンドのパーソネルをおさらいしておくと、Miles Davis (tp, key), David Sanborn (as), Bob Berg (ts,ss), Adam Holzman, Robert Irving (syn), George Duke (syn), Robben Ford (el-g), Felton Crews (el-b), Vincent Wilburn (ds), Steve Thornton (perc)。エレ・マイルス・テンテットである。

シンセサイザーが3台採用しているところが、この時期のエレ・マイルスの特徴だろう。所謂、スタジオ録音盤の『Tutu』指向の音作りがなされている訳で、あの『Tutu』仕様のエレクトリックな軽快ではあるが厚みのあるユニゾン&ハーモニーをライブで再現するには、シンセサイザーを複数台採用することが必要だったのだろう。エレ・マイルスにしか出せない独特な音の重ね方は、非常に個性的だ。

1986年7月17日のライブ音源になる。ちょうど、この1986年の2月〜3月に、スタジオ録音盤『Tutu』を録音した半年後のエレ・マイルス・バンドの姿を捉えたもので、適度なファンクネスを宿した、エッジの明快なリズム&ビートに乗った、爽快なエレクトリック・バンド・サウンドが特徴。
 

Miles_montreux_1986

 
インプロビゼーションの内容は、硬派なコンテンポラリー・ジャズであり、明るい雰囲気でありながら、テンションは適度に張っていて、それぞれのソロの内容は濃く、CD2枚のボリュームを一気に聴き切ってしまいます。フュージョン・ジャズの様な、エッジの明快なリズム&ビートに乗っている分、聴いていて疲れることは無いですね。

ゲストのデヴィッド・サンボーンのアルトが、かなりフリーキーにアブストラクトに吹き回していて面白いです。デヴィッド・サンボーンって、スムース・ジャズの代表格みたいに評価されていますが、彼のプレイの芯の部分は「硬派で純ジャズなアルト奏者」なんですね。そこをしっかりと見抜いてゲストとして招聘するマイルスの慧眼恐るべしです。

ジョージ・デュークのゲスト参加は、1970年代の第一期エレ・マイルス・バンドに常に漂っていた、少し暗い切迫感・重量感など微塵も感じさせない、1980年代のジャズ・シーンに合った、明るい雰囲気のエレ・マイルスのリズム&ビートの生成に貢献しています。このジョージ・デュークのゲスト参加にも正直ビックリしました。しかし、その成果をこうやって聴かされると、やっぱり思いますね、マイルスの慧眼恐るべし、と(笑)。

この1986年で、第二期エレ・マイルス・バンドは完成の高みに到達しています。マイルスのプレイも充実していて、随所で楽しそうにミュートにオープンに吹き切っています。楽しそうな表情のマイルスの顔が目に浮かぶようです。「Human Nature」と「Time After Time」は、ここでは確実にネオ・スタンダート化されています。美しいバラードプレイはマイルスの真骨頂。

1986年のモントルーのマイルス、充実しています。この5年後に鬼籍には入ってしまうなんてとても思えない、進化し続ける充実のエレ・マイルス。CD2枚のボリュームが物足りない位です。
 
 
 
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