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2018年10月15日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・130

ビジネスの格言に「三方良し」という言葉がある。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」。近江商人の心得で、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということ、である。ジャズの「三方良し」は、というと「演奏良し」「アレンジ良し」「ジャケット良し」だろうか。

Igor Prochazka Trio『Easy Route』(写真左)。2008年のリリース。ちなみにパーソネルは、Igor Prochazka (p), Christian Perez (b), Federico Marini (ds)。IGOR PROCHAZKA =イゴール・プロハースカと読むらしい。ここでは「イゴール」で統一。チェコ出身、スペインを拠点に移して活躍中のピアニスト。この盤はイゴールのデビュー盤。

イゴールはこの盤に出会うまで、全く知らないピアニストであった。しかし、この盤は初めて聴いた時、ビックリした。まずは「誰やこれ」。そして「どの国のピアノ・トリオや」。聴けば聴くほど米国のジャズの音では無いことが明確になるんだが、音の適度なラフさが欧州南部かなあ、地中海沿岸かと思うんだが、イタリア・ジャズでは無い。
 

Easy_route_1  

 
チェコ出身でスペインが演奏拠点、と聞いて納得。この盤の面白いところは、欧州ジャズとは言いながら、4ビート・ジャズ一辺倒、モード・ジャズ一辺倒で無いところ。8ビートも積極導入しつつ、ソウルフルな雰囲気を醸し出すところもユニークで、ソウルフルな雰囲気は醸し出すくせに、ファンクネスは皆無、というところが如何にもスペイン・ジャズらしい。拘るところはトコトン拘るのだが、ええかげんなところは適度にええかげん。

でも基本はバップなんですよね。そして、さすがに欧州ジャズ、流麗で爽やか。バックのリズム隊も堅実かつダイナミックで、ベースはしっかり胴を鳴らし、ドラムは変幻自在のリズムを叩き出す。幼い頃に受けた、クラシック音楽の教育にしっかりと裏付けられた高度な技術と欧州ジャズ独特の馴染みやすいメロディセンス。とにかく聴いていて心地良い。全7曲で録音時間35分が「あっと言う間」。

理屈抜きで、聴き応えのあるピアノ・トリオ盤です。ジャケットも抜群に良い感じ。真っ青な空、乾いた黄土色の大地、そしてオレンジ・イエローのアンティーク車。この3つの要素が「これしかない」と思えるくらい、絶妙なバランスで配置されている。このジャケットはしばらく、ぼ〜っと眺めていても飽きないなあ。この盤、メジャーではありませんが好盤。一聴の価値あり、です。

 
 

東日本大震災から7年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2018年9月26日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・129

ジャズにはいろいろな演奏スタイルがある。それぞれの時代で流行ったスタイル、ジャズの発展の中で変遷していったスタイル、様々なスタイルがある。そんなジャズの発祥は「ニューオリンズ」というのが定説。マーチングバンドとダンス音楽をベースにした「ディキシーランド・ジャズ」が最初の流行のスタイル。

ダーティー・ダズン・ブラス・バンド(Dirty Dozen Brass Band)というバンドがある。ニューオーリンズ・スタイルのブラスバンド。ブラスバンドをベースに、ファンクやソウルの要素を取り込んだ「現代のブラスバンド・ジャズ」である。1977年に結成、1984年にレコード・デビュー。今も元気に活動している。

The Dirty Dozen Brass Band『Live : Mardi Gras in Montreux』(写真左)。1985年モントルーでのライヴ録音盤。総勢6名のラッパ隊がバリバリに吹きまくり、バックのリズム隊が叩きまくり、うねりまくる。ニューオリンズのお祭りバンドの面目躍如。どの演奏も凄い。ド迫力のブラス、叩きまくるリズム、切れ味良く切れまくるギター。モダン・ジャズ、ファンク、ソウルをごった煮にして、ブラスバンド化した凄まじき音の洪水。
 

Live_mardi_gras_in_montreux  

 
ブラス・セクションが凄い。地響きの様に響き渡るスーザフォン。様々なホーン楽器の迫力のユニゾン&ハーモニー。このラッパ隊のド迫力。思わず腰が浮く。これは凄い。ソウルフルなユニゾン&ハーモニー。ブルブルブルとブラスの響きが耳にダイレクトに伝わるような、アグレッシブでダイナミックなホーンの響き。この生々しさが堪らない。これぞ「ホーン楽器」的な響きに惚れ惚れする。

リズム・セクションも凄い。バスドラ、スネアをドカドカ、ボコボコ叩きまくって、それはもうファンキーなリズムの洪水、ジャジーなリズムの饗宴。これだけファンキーなリズム&ビートをバックに従えたブラスバンドなんてない。こってこてファンキーな、切れ味抜群なダンス音楽。いや〜、これもジャズなんですね。

ニューオーリンズ・サウンドの代表格となっているブラスバンドって、古き良き時代の伝統音楽って印象しかなかったから、初めて聴いた時、ほんとビックリした。ファンク・ビートとソウル・ミュージックの積極導入の結果、ブラスバンド的な響きすらも新しい音として聴こえる、新しいブラスバンド・ジャズの誕生。好盤です。

 
 

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2018年9月 4日 (火曜日)

ジャズ喫茶で流したい・128

現代の日本ジャズは完全な「女性上位」。女子ジャズ・ミュージシャンがどんどんデビューし、しかも、その力量は確かなもの。加えて、美形が多く、魅力的な女性ばかり。日本男子はどうしたのか、と思うのだが、如何せん少数派。一昔前は女性ジャズ・ミュージシャンはピアノが多かったのだが、今では様々な楽器に広がっている。

寺島さんのジャズ本を読んでいて、纐纈歩美(こうけつあゆみ)は良いぞ、良いぞ、とあっちこっちで書いていて、そんなに良いのか、と思いながら聴いたアルバムが『Daybreak』(ここをクリック)。彼女のセカンド盤である。この盤で、纐纈歩美のアルトは、ナベサダさんのフォロワーだと僕は解釈した。が、寺島さんは違う、と書く。正統なメインストリームなアルトだと書く。

で、それはどのアルバムを聴いてそう思ったのか、と調べてみたら、このアルバムだと見定めた。纐纈歩美『Struttin'』(写真左)。彼女のデビュー盤である。デビュー盤だったので軽く見ていた。セカンド盤がかなり良い出来だったので、彼女のポテンシャルを確認出来て、それで満足してしまったこともある。このデビュー盤には思いが及ばなかった。
 

Ayumi_kohketsu_struttin  

 
で、この『Struttin'』、纐纈(こうけつ)のアルト・サックスが躍動感溢れて、ブリリアントに響き渡る。運指のテクニックも申し分無く、ストレート・アヘッドなアルト・サックスが全編に渡って響き渡る。いや〜、これにはビックリした。とにかく、良い音してるんですよ、纐纈のアルト・サックスが。全編に渡って、とても気持ち良く聴き通すことが出来ます。

この盤のパーソネルは、纐纈歩美 (as), 納谷嘉彦 (p), 俵山昌之 (b), マーク・テイラー (ds)。納屋+俵山+テイラーのリズム・セクションも良好。しっかりと純ジャズ風のリズム&ビートを供給しています。速いテンポの曲もバラードも聴き応えのあるアレンジと演奏で、聴く我々を飽きさせません。アルトの雰囲気的には、誰かに似ているなあ、と思って聴いていたのですが、そうそう「アート・ペッパー」風ですね。テクニックと歌心、ペッパーのブロウを想起しました。

若手、新人、女性ジャズ・ミュージシャンという「色眼鏡」を取り去って、このアルバムだけ、ジャズ喫茶で流したら、結構な数のジャズ者の方々がジャケットを見に来るんじゃないですかね。それほど、この盤はコンテンポラリーな純ジャズとしてなかなかの好盤だと思います。決して、コマーシャルに留まらない、志の高いデビュー盤です。

 
 

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2018年8月20日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・127

ジャズには様々なスタイルがあって、色々聴き込んだりするのだが、結局、どこかでハードバップな盤に戻ってくる。ハードバップは純ジャズを代表するスタイル。1950年代前半から現れ始め、1950年代後半がピーク。1960年代に入って、ファンキー・ジャズやソウル・ジャズ、モード・ジャズに分岐していくのだが、源は「ハードバップ」。この純ジャズの基本である「ハードバップ」な盤は、ジャズ者の精神安定剤的な役割を果たしている。

Curtis Fuller『Soul Trombone』(写真左)。1961年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Curtis Fuller (tb), Freddie Hubbard (tp), Jimmy Heath (ts), Cedar Walton (p), Jymie Merritt (b), Jimmy Cobb (tracks 2-6), G. T. Hogan (track 1) (ds)。Impulse! 9000 seriesのA-13盤。適度なファンクネスが心地良い、上質のハードバップ盤である。

リーダーのCurtis Fuller(カーティス・フラー)はトロンボーン奏者。ビ・バップ時代後期から活躍した、J.J.Johnson(ジェー・ジェー・ジョンソン)と双璧のジャズ・トロンボーンのレジェンド。JJよりも音が丸くて優しいところが良い。音は丸いが音程はしっかりしていて、優しい音にはしっかりと「芯」が入っていて、音のインパクトが心地良い。僕はフラーのトロンボーンが大好きだ。
 

Soul_trombone_2  

 
フラーのトロボーン盤の優れどころは、ブルーノート・レーベルの諸作に多数あるが、実は、この盤の様に「インパルス・レーベル」にも「ある」。この『Soul Trombone』などは、フラーのトロンボーンを心ゆくまで堪能できる「優れもの」盤だ。丸く力強い音で、ピッチは確かで、バルブ・トロンボーンの様に速いフレーズを吹き上げる。むっちゃ格好良いトロンボーンである。

バックのミュージシャンの優秀な強者職人揃い。特に、テナーのジミー・ヒースが良い音を出している。ウォルトン、メリット、コブのリズム・セクションも良い。堅実かつエネルギッシュ、繊細で柔軟。目立たないが、じっくりと聴いていると、その良さがジンワリ伝わってくる。えっ、ハバードですか。ここでも無駄なくらいに「多弁」です(笑)。

1曲目の「The Clan」と5曲目の「Dear Old Stockholm」が僕のお気に入り、かな。インパルス・レーベルらしいジャケットも良い雰囲気。録音は1961年。ファンキー・ジャズとして括って良いくらい、適度なファンクネス漂う、素敵なハードバップ盤です。タイトル通り「ソウルフル」な展開も良し。好盤です。

 
 

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2018年8月 2日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・126

ジョージ・ウォーリントン(George Wallington)は、1924年10月27日、シチリア島パレルモ生まれ。1993年に68歳で鬼籍に入っている。1940年代前半から1950年代にかけて、ジャズ・ピアニストとして活躍。1960年に家業を継ぐためジャズ界から引退。1980年半ばに一時期復帰したが、活躍のメインは1950年代。当然リーダ作は少なく十数枚に留まる。サイドマンとしても10枚程度。

しかし、このピアニスト、リーダー作数枚で、ジャズ史に名前を残している。その一枚が、George Wallington『Jazz for the Carriage Trade』(写真左)。1956年1月20日の録音。プレスティッジのPRLP 7032番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Phil Woods (as), George Wallington(p), Teddy Kotick(b), Bill Bradley as Arthur Taylor (ds)。ハードバップ中期、フロント2管のクインテット構成。

この盤が、聴けば判るのだが、プレスティッジ・レーベルでの録音らしからぬ、演奏全体が端正で活力漲り、流麗かつダイナミック。ブルーノート・レーベルの様に、リハーサルにもギャラを払って、幾度もリハーサルを重ねて、この盤の録音本番に至ったのでは、と思う位に、素晴らしい演奏の数々。これだけ楽器がしっかり鳴って、テクニック優秀、歌心満点なアルバムって、プレスティッジ・レーベルにはなかなか無い。
 

Jazz_for_the_carriage_trade_1  

 
冒頭の「Our Delight」を聴けば、フロントの2管、トランペットとアルト・サックスが絶好調なのが判る。これだけ力強く、良く鳴るトランペットって誰なんだ、と思って首を捻りながらパーソネルを見て「えっ、これがドナルド・バードなん」とちょっとビックリ。そして、流麗で唄うが如く、歌心満点なアルト・サックス。これ誰なんや、とパーソネルを見れば「フィル・ウッズかあ」と思わず感嘆の声を上げる。

リーダーのウォーリントンのピアノは知的なバップ・ピアノ。洗練されたフレーズでフロントの2管を温和に支える。決して、大立ち回りはしない。決して前へは出ない。堅実なベースとドラムと相まって、とても趣味の良いバッキングを実現している。これが見事。こんなに知的で粋なリズム・セクションを得て、フロントの2管は唄うが如く語るが如く、雄弁にポジティブに端正で堅実なアドリブ・フレーズを展開する。

ジャケットはちょっとレトロ調だが、これはこれで実に味がある。このジャケット・デザインも、やっつけデザインが得意な(笑)プレスティッジ・レーベルらしからぬ優れたもの。典型的なハードバップのお手本の様な純ジャズが展開されていて、実に聴き応えがある。プレスティッジ・レーベルらしからぬ、端正でまとまった、ダイナミックかつ繊細なハードバップ。全編に渡って聴き所満載です。

 
 

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2018年7月26日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・125

いきなり涼しくなった千葉県北西部地方。この夜、外の気温は25度。窓を開けっ放しにした室内は27度、湿度50%。全くのエアコン要らずである。酷暑の西日本の皆さんには申し訳ないが、猛暑について一息ついた今日一日である。半袖で過ごしやすい気温。ジャズも聴きやすさが増して、今日は大好きなピアノ・トリオ盤に触手が伸びる。

Richard Wyands『Then, Here and Now』(写真左)。1978年10月12日の録音。ちなみにパーソネルは、Richard Wyands (p), Lisle Atkinson (b), David Lee (ds)。リチャード・ワイアンズはジャズ・ピアニスト。1928年、カリフォルニア州オークランド生まれ。今年で90歳。あまり有名なピアニストでは無くて、僕もつい最近、意識し出したくらい。

このトリオ盤、ワイアンズ、50歳での記念すべきリーダー1作目。1978年のリリースなので、ジャズ界は、ソフト&メロウなフュージョン・ジャズが大盛況な時代。そんな中での純ジャズなピアノ・トリオ盤である。注目される筈が無い。しかし、ジャケットが良い。なんか雰囲気のあるジャケット写真。ワイアンズの横顔。実は僕はこの盤を「ジャケ買い」「ジャケ聴き」して、大当たりだった。
 

Then_here_and_now  

 
とても良く鳴り、良く唄うピアノであり、爽快度満点、ポジティブなフレーズのてんこ盛り。テクニックも上々、ビ・バップなマナーではあるが俗っぽくなく、アートに傾きも過ぎず、ちょっとポップでサラッとしていて、メリハリの効いた聴き易いピアノである。ピアノの響きがとても素敵。トリオ演奏のアレンジはあっさりしていて、変にこねくり回したり、複雑にしない、シンプルな展開は飽きが来ない。

冒頭の「Yes It Is」を聴けば、背筋が伸びて、不意に目が覚めたような感覚に襲われ、気がついたら思わず、ジャケットを見にカウンターに走る、そんな気持ちの良いパフォーマンスである。7曲目の「Blue Rose」、デューク・エリントンの佳曲で、ちょっとアップテンポな弾き回しで、とても粋で洒落たハードバップ・ピアノ。見事です。

バックのアトキンスのベースも低音を響かせつつ、演奏の底をガッチリ支えるベースラインがとても魅力的。リーのドラミングも雄弁で疾走感溢れ、ところどころで職人芸を披露しつつ、堅実にリズム&ビートを供給する。これまた素晴らしい。こんなピアノ・トリオ盤があったなんて、ジャケ買い、ジャケ聴きの言い伝えに感謝です。今、眺めてみても、良いジャケットですね〜。

 
 

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2018年7月 8日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・124

ジャズのミュージシャンは息が長い。年齢を重ねる毎に、人生経験や演奏経験がノウハウと共に蓄積していって、演奏に深みや余裕が出てくる。これがまた味わい深くて良い。演奏テクニックというのは、年齢を重ねて行っても、そう大きく衰えることが無いらしく、ジャズの大ベテラン・ミュージシャンはそれぞれ、結構なテクニックを保持しているから凄い。

David Matthews, Eddie Gomez & Steve Gadd『Sir,』(写真左)。今年の6月のリリース。パーソネルを整理すると、David Matthews (p), Eddie Gomez (b), Steve Gadd (ds)。ピアノ・トリオである。ピアノのマシューズは、1942年3月生まれなので、今年76歳。ベースのゴメスは、1944年10月生まれなので、今年74歳。ドラムのガッドは、1945年4月生まれなので、今年73歳。

3人とも既に70歳超えの大ベテランであり、それぞれがジャズの歴史に名を残している、ジャズ・ミュージシャンのレジェンド格の3人である。マシューズは1970年代フュージョン・ジャズ全盛の頃は、アレンジャーとして名を馳せたが、ピアニストとしての腕前も相当なものがある。これまでに幾枚かリーダーとしてトリオ作をリリースしている。
 

Sir

 
マシューズのピアノは独特である。独特の「間」を活かし、左手が大活躍する、とても個性的なピアノである。マンハッタン・ジャズ・クインテットの諸作は大のお気に入りなんだが、マシューズのピアノの個性がとにかく気になって仕方が無い。何時の頃か、雑誌の記事を読んで、マシューズは小児麻痺のため、右手がほとんど使えないことを知った。そんなハンディを克服し、逆に個性として活かした彼のピアノは実に魅力的だ。

アルバムの内容としては、スタンダードなビバップ・ナンバーに加え、マシューズの書き下ろしオリジナル曲も3曲を収録。3者対等のインタープレイを前提とした丁々発止とした演奏ではなく、落ち着いてリラックスした、悠然とした演奏が堪りません。マシューズのピアノの個性を第一とした、ベースとドラムのサポートも見事。というか、しっかりピアノをサポートしつつ、ベースもドラムも至高の技を繰り出しています。

それでも演奏全体の印象は、技巧的というよりも雰囲気重視。一聴するだけだと、えらくシンプルでイージーリスニングの様なピアノ・トリオやなあ、と思ってしまうんですが、繰り返し聴けば聴くほど、味わい深く、聴きどころがどんどん多くなっていく。そんな「スルメ」の様な味わいのピアノ・トリオ盤です。ジャズ者全ての方々にお勧め。

 
 

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2018年7月 5日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・123

ECMレーベルは実にユニークなレーベル。1969年の設立。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。ビ・バップやハードバップの影響を全く感じさせない、ポスト・モダンな「ニュー・ジャズ」を録音し、アルバムをリリースする。

Terje Rypdal『Whenever I Seem To Be Far Away』(写真左)。1974年の作品。ECMの1045番。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (g), Sveinung Hovensjø (b), Pete Knutsen (mellotron, el-p), Odd Ulleberg (French horn), Jon Christensen (per)。ギター、キーボードにベースとドラムがリズム&ビートを担うカルテット構成にフレンチ・ホルンとシンフォニーが絡む。

リーダーでギター担当のテリエ・リピダルはノルウェーのギタリスト兼作曲家。ビ・バップやハードバップの影響が皆無な、ニュー・ジャズを聴かせてくれる。ギター・プレイのメインは「アブストラクト&フリー」。判り易いフレーズを繰り出す、従来のジャズ・ギターとは正反対の内容。明快に「欧州ジャズ」な雰囲気をバッチリ聴かせてくれる。
 

Whenever_i_seem_to_be_far_away  

 
しかし、このアルバムはそんなリピダルの個性を越えた、実にユニークな内容に思わず耳をそばだてる。聴けば判るのだが、これって「プログレッシブ・ロック」。3曲目「Whenever I seem to be far away」では、クラリネットやオーボエ、弦楽アンサンブルが絡んでくる辺り、そして、暴力的でもある、流麗で高テクニックなエレギと合わせて、まるで「キング・クリムゾン」である。

1曲目の「Silver Bird is Heading for the Sun」では、メロトロンが大活躍。ジャズにメロトロン。これにはビックリするやら、嬉しいやら。ここまでくると、リピダル、明らかに当時の「プログレッシブ・ロック」を意識しているに違いない。しかしながら、プログレをやっても、アドリブの展開などは複雑かつ高テクニックで、その演奏内容は明らかにジャズ。

プログレッシブ・ジャズロックというか、プログレッシブ・フュージョンな内容は、1970年代のプログレ者からすると、実に興味深い。テリエ・リピダルのギターも相当に「エグい」。「アブストラクト&フリー」に行こうとするところを押しとどめ、限りなくフリーに近い、複雑にメロディアスなフレーズを連発していて聴き応えがある。内藤忠行の手になる、美しいジャケット写真も素晴らしい。明らかにECMレーベルらしい内容。好盤である。

 
 

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2018年6月21日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・122

最近の新盤の傾向として、内容の素晴らしさに反比例して、これは一体なんなんだ、と呆れるくらいのチープなデザインのジャケットが多い様に感じる。確かにCDのサイズになって以来、LP時代の様にジャケット・デザインに腕を振るうことは少なくなった。が、それにしても、最近「とほほ」な内容のジャケット・デザインが多すぎる。これは実に残念なことである。

Reis Demuth Wiltgen『Once in a Blue Moon』(写真左)。今年6月のリリース。録音はECMの第3スタジオ、アルテスオーノ。ちなみにパーソネルは、Michel Reis (p), Marc Demuth (b), Paul Wiltgen (ds)。イタリアの名門CAM JAZZレーベルからのリリース。ルクセンブルク出身のピアノ=レイス、ベース=デムス、ドラム=ウィルトゲンのピアノ・トリオである。

この「とほほ」なジャケットからは想像出来ない、知的で透明感のある欧州ジャズなサウンドである。曲毎に、しっかりと起承転結のある、メロディアスでドラマチックな楽曲も良い内容。全13曲中9曲がレイスのオリジナル。リリカルでフォーキーな良い曲を書く。レイスのピアノはクラシックな雰囲気が底に漂いつつ、紡ぎ出されるフレーズは親しみ易くポップなイメージ。過去にありそうでない、欧州ジャズ的な唄うが如くのピアノである。
 

Once_in_a_blue_moon  

 
デムスのベースも良い音を出している。骨太でしなやかで張りのあるベース。レイスの知的で透明感のあるピアノによく絡む。絡むが決してピアノの邪魔はしない。しっかりと支え、寄り添うようなベース。決して、耳触りで無い、唄う様なベース。ジョニ・ミッチェルの名曲'「Both Sides Now」のカバーでは、このデムスのベースがフィーチャーされ、ただひたすらに、骨太でしなやかで張りのあるベースが唄う。

ウィルトゲンのドラムも特筆もの。ポリリズミックで、硬軟自在、変幻自在なドラミング。それでいて、リズム・キープ力は抜群。揺らぐことは皆無。チェンジ・オブ・ペースも的確、かつ柔軟で、レイスのピアノをしっかりと支えている。リズム&ビートをデムスのベースと的確な役割分担をしつつ、これまた唄う様なドラミングを披露する。

この「ピアノ=レイス、ベース=デムス、ドラム=ウィルトゲン」のピアノ・トリオは「唄うピアノ・トリオ」。3者が一体となったインタープレイはキャッチャーでインテリジェンス溢れる、唄うが如く、欧州的な響きを湛えたピアノ・トリオの音である。ドラマチックでダイナミックな展開も多々あって、全編を通じて飽きることは全く無い。好盤である。

 
 

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2018年6月 4日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・121

トランペットという楽器は、この楽器の特徴なのだが、思い切り「ハイトーン」が出る楽器である。ハイテンポの曲だったりすると、気合いが入って、このハイトーンを吹きまくり、落ち着いて耳を傾けておれない状態に陥ることがある。それが判っていて構えて聴く分には「ハイトーン」も高度な技術なので、それはそれで楽しみなのだが、リラックスして聴くにはちょっと辛い。

Lee Morgan『Candy』(写真左)。1957年11月の録音と1958年2月の録音のミックス。BNの1590番。ちなみにパーソネルは、Lee Morgan (tp), Sonny Clark (p), Doug Watkins (b), Art Taylor (ds)。当時、弱冠20歳の鯔背なトランペッター、リー・モーガンのワンホーンの傑作盤である。純粋にトランペット吹きの名演として、この盤は十指に入る名演だろう。

モーガンは、決して気合いが入りすぎて、若しくは、感情をコントロール出来ずに、ハイトーンを連発することは無い。モーガンが奏でるハイトーンは、常に抑制されコントロールされている。ハイトーンばかりでは無い。持ち合わせた凄まじいばかりのテクニック、そのテクニックを良い方向に使って、硬軟自在、緩急自在、自由自在、縦横無尽に、様々な表現を聴かせてくれる。吹きすぎない、歌心優先のトランペット。良い意味で老成したトランペットである。
 

Candy  

 
そういう意味で、この盤は万人に勧めることのできる、ジャズ・トランペットの傑作盤である。この盤でのモーガンのトランペットは力強く優しい。僕のお気に入りの一人、ケニー・クラークのピアノ・トリオをバックに、ワンホーンで朗々とトランペットを吹き上げるモーガンはとても素敵だ。ベース、ドラム共に、職人気質のワトキンスとテイラーで万全。4人(カルテット)一体となった演奏に惚れ惚れする。

3曲目のミュージシャンズ・チューンの「C.T.A.」を除いて、古い歌もののスタンダードで占められている。テーマのメロディも美しく、モーガンの歌心の神髄が聞けるのも嬉しい。この盤でのモーガンは絶好調。トランペットの一発録りにはつきものの「ミストーン」も無く、緩急も強弱も自由自在。日本の演歌でいう、いわゆる『こぶし』を回すような「小粋な節回し」を奏でながら、モーガンは爽快に疾走する。

軽く鼻歌を歌うがごとく、軽やかに、自由に、輝くように、モーガンのペットは唄う。アップテンポの曲も、スローなバラードも見事にこなして素晴らしいの一言。また、バックをつとめるピアノのソニー・クラークも、このアルバムを名盤としている要素の一つ。独特の間と、少しくすんだ、憂いをおびたようなシングル・トーンのクラーク節が、このアルバムをより素晴らしいものにしている。

 
 

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