2020年8月 3日 (月曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・85

現代のジャズ・ピアノの源は、やはり「バド・パウエル」と「ビル・エバンス」だと思うのだ。ジャズ・トリオのインタープレイの祖、ビル・エバンスだって、弾きっぷりの底にあるのは、バド・パウエルが確立した「バップ」な弾きっぷり。バドのバップな弾きっぷりに、ビルのインタープレイの弾きっぷりを合わせて、現代のジャズ・ピアノの大本があると思うのだ。

Barry Harris『At The Jazz Workshop』(写真左)。1960年5月、米国サンフランシスコの The Jazz Workshop でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Barry Harris (p), Sam Jones (b), Louis Hayes (ds)。バド・パウエル直系、バップな弾きっぷりのピアニスト、バリー・ハリスのライヴ盤の快作である。

「ノリ」が命のバップ・ピアノ。バリー・ハリスのピアノは、右手は良く回り、左手のベースラインはゴンゴン骨太に爽やかに響く。逆に、トリオでの三者一体となったインタープレイの要素はほとんど無い。あくまで「バップ」。まさに、バップ・イディオムが、盤全体に横溢する、パウエル直系の爽快なライブ・パフォーマンスである。
 
 
At-the-jazz-workshop  
 
 
とにかく元気なバップ・ピアノ。この「元気」がバリー・ハリスの好盤の印。思索的な、耽美的なバリー・ハリスは似合わない。ガンガンに行くのではなく、ノリノリで行くタイプ。力よりは技で勝負するバップ・ピアノ。その良いところを余すところなく発揮したライヴ盤。聴いていて気持ちが良い。聴いていて、思わず足が動き、手でリズムを取る。

バップなピアノを支えるには「重い」ベースが良い。この盤では「バップ」なピアノを支える正統なベース、ひたすらリズムキープに徹する、サム・ジョーンズの重低音ベースが良い。そして、「バップ」なピアノのパフォーマンスにリズムの緩急を、リズムのキープを司る、大胆かつ繊細な、ルイス・ヘイズのドラムが良い。

ハリスの典型的なバップ・ピアノ。それを支えるジョーンズの重低音ベース。リズム&ビートを司る大胆かつ繊細なヘイズのドラム。バップなピアノ・トリオの好パフォーマンスがこの盤に詰まっている。そして、ジャケットを見れば、なかなかお洒落なロゴタイプにあしらわれた「ジャズらしい」ジャケット。ピアノ・トリオの好盤である。
 
 
 

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2020年7月28日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・84

以前より、我が国では「ピアノ・トリオ」の人気が高い。米国ではそれほどでも無いらしい。米国ではホーンがフロントのジャズが人気。何故かと訊いてみると、判り易いから、だそうだ。ピアノ・トリオは判り難い。それが彼らの言い分。我が国では「ピアノ」は特別な楽器。そのピアノが主役になって奏でられるジャズは特別。加えて、ジャズ・ピアニストには強い個性があって、その個性を感じて愛でる。それが我が国での「ピアノ・トリオ」の楽しみ方。

Walter Bishop Jr.『Speak Low』(写真)。1961年3月14日、NYのBell Sound Studiosでの録音。ちなみにパーソネルは、Walter Bishop Jr. (p), Jimmy Garrison (b), G.T. Hogan (ds)。リーダーのウォルター・ビショップ Jr.は、1927年10月、NY生まれ。1998年1月に70歳で鬼籍に入っている。1949年からジャズの世界で活躍。逝去するまでの約50年の間に残したリーダー作は20作弱。寡作のピアニストである。

確かに寡作のピアニストで、実は「ウォルター・ビショップ Jr.」という名前を聞いて思い浮かぶリーダー作は、この『Speak Low』以外、思いつかない。それもそのはず、他のリーダー作については殆どリイシューされていない。つまりは人気が無い、ということ。というか、「ウォルター・ビショップ Jr.」自体、米国ではマイナーな存在。何故か、我が国だけ、しかもこの『Speak Low』だけが、ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌で採り上げられてきた。
 
 
Speak-low  
 
 
リーダーの「ウォルター・ビショップ Jr.」のピアノについては、これと言った強烈な個性は無い。低音を強調した左手が個性と言えば個性だが、その存在感は中途半端。右手は堅実だが「よく回る」ほどでは無い。総合力で勝負するタイプのピアニストではあるが、その総合力も中くらいに位置する程度。ただ強烈な個性が無い分、安心して聴くことのピアノではある。

この盤が我が国で人気なのは、バックのリズム隊、ベースのギャリソンとドラムのホーガンの存在があってのことだろう。この盤でのギャリソンのベースについては、腹を揺すらんばかりの重低音。ソリッドで粘りのある弦の響きは快感ですらある。そして、ホーガンのドラム。堅実かつ実直、メリハリが効いた躍動感溢れるドラミング。このギャリソンとホーガンのリズム隊が、このピアノ・トリオ盤の最大の聴きどころ。

ウォルター・ビショップ Jr.の安心して聴くことの出来るピアノ、そして、強烈なリズム&ビートを供給するリズム隊。この両者のバランスがバッチリ取れて、この盤はピアノ・トリオの類い希な好盤となっているのだ。ピアノ・トリオのもう1つの楽しみ方である「ピアノ・ベース・ドラムの3者一体となったインタープレイ」。それがこの盤では顕著。ピアノ・トリオ好きの我が国のジャズ者の方々には「響く内容」の盤なのだ。
 
 
 

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2020年7月26日 (日曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・83

最近、音楽関係のサブスク・サイトについては、聴くことの出来るアルバムがかなり充実している。とりわけジャズについては、久しくCDリイシューされていない廃盤状態の音源についても、いつの間にかサブスク・サイトに音源がアップされていて、しかも音が良くなっていたりする。恐らく、サイトにアップする際のサンプリング周波数がハイレゾ志向に変更されているのだろう。

しかし、ジャズ盤の中には、以前から評価が高く、基本的なコレクション対象となる盤について、CD化はされているが、未だサブスク・サイトの何処にもアップされていない盤もある。こんな場合はやはりCDに頼らざるを得ず、まだまだCDの需要はある。例えば、この盤もLP時代からその内容について評価が高いのにも関わらず、今までCD化も数回しかされず、サブスク・サイトにはアップされていない盤である。

Eddie Costa『The House Of Blue Lights』(写真)。1959年1月29日、2月2日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Eddie Costa (p), Wendell Marshall (b), Paul Motian (ds)。リーダーのエディ・コスタについては、本来はヴァイブとピアノの「二刀流」なんだが、この盤ではピアノに徹している。

実はコスタが、この「ピアノ一本」に絞ったことが、この盤を「ピアノ・トリオの代表的名盤」に相応しい内容にしているのだ。
 
 
The-house-of-blue-lights
 
 
エディ・コスタのピアノは「かなり硬質」。右手はカンカンキンキンと硬質なタッチ。しかし、弾き回しは流麗。左手は叩き付ける様なコード弾き。しかも低音の使い方が「エグい」。全体的にそうとう「硬質」なピアノで、恐らく、ジャズ史上のピアニストの中で、硬質ピアノとしては最右翼ではないか。ビル・エヴァンスのピアノを限りなく硬質なタッチにして、ロマンティシズムを排除した限りなくストイックなピアノである。

このコスタのピアノが全編に渡って、最高のパフォーマンスを聴かせてくれる。とにかく左手の低音が冒頭から印象に残る。そして、どのピアノ・トリオの代表的名盤にもいえることだが、バックのリズム隊が良い。ウェンデル・マーシャルのベースが地味だが良い音出している。コスタの低音に負けない、コスタの低音に呼応するベースの重低音。コスタのピアノの低音が更に映える。

ポール・モチアンのドラミングの妙技も聴きもの。コスタの強烈個性のピアノに対して、的確なサポートを繰り出している。決して、コスタの個性を邪魔しない、しかし、的確にリズム&ビートを供給する。こういうリズム隊をバックにしているからこそ、コスタは安心して、自らの個性的なピアノに集中出来るのだろう。その良好な結果がこの盤に溢れている。

実はコスタは、1962年7月28日、ニューヨークのウエストサイド・ハイウェイで運転を誤って、31歳の若さで命を落としている。コスタの数少ないリーダー作の中でも、この盤はピカイチ。逆にコスタの個性が記録に残ったという点で、この盤があって良かった、と思っている。
 
 
 

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2020年6月21日 (日曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・82

ビル・エヴァンスの聴き直しを長々としている。Fantasyレーベルのアルバムを聴き進めて行くと、決まってこの盤でふと立ち止まる。そして、暫く、エバンスは聴かない。そして、再び、意を決して聴いて、必ず、しみじみするのだ。そして、また、エヴァンスを聴き始める。僕にとって、エヴァンスのこの盤は特別なのだ。

Bill Evans『I Will Say Goodbye』(写真)。1977年5月11–13日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Eddie Gómez (b), Eliot Zigmund (ds)。1977年に録音されているが、直ぐにはリリースされていない。ビル・エヴァンスが逝去したのが、1980年9月15日。追悼盤の様なイメージでのリリース。それでも、1981年のグラミー賞を受賞している。

この盤、リリースされた時に入手して以来、エヴァンスのピアノを聴く「節目」となるアルバムである。当時、エヴァンスが逝去したのは知っていた。しかも、この盤が逝去する3年前の録音であることも理解していた。しかし、このアルバム作成前後に、彼は妻と兄をそれぞれ自殺で亡くしているのは知らなかった。
 
 
I-will-say-goodbye  
 
 
冒頭のタイトル曲「I Will Say Goodbye」を聴いて、耽美的で静的なタッチの中に、ある種の「寂寞感」が濃厚に漂うのが気になった。タイトルが「I Will Say Goodbye」なので、その雰囲気を醸し出しているのか、と思ったが、エヴァンスはそんな感傷的なピアニストでは無い。ほの暗く、どこか諦念感にも通じる、透明感のある弾き回し。

この盤はエヴァンスの個性のひとつである「耽美的」なタッチと「透明感」のある弾き回しが濃厚に出たアルバムである。従来の優れたテクニックとエヴァンス独特の音の重ね方、そして、この盤に溢れる、静的ではあるが躍動感溢れるアドリブ・フレーズ。まさしく、この盤はエヴァンスの代表作の一枚として挙げられるべき好盤である。

バックを支える、エヴァンス・トリオ史上、最高のベーシストであるゴメスも好演、ジグモントのドラミングも硬軟自在で素晴らしい。アルバム全体に「寂寞感」と「諦念感」が漂うのだが、恐らく、録音当時、体調は既に悪かったと思われる。私生活でも悲劇が続く。「寂寞感」と「諦念感」はいざ仕方の無いことかと思う。そんな背景の中、エヴァンスのピアノについては極上のパフォーマンスである。
 
 
 

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  ・太田裕美『心が風邪をひいた日』
 

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2020年3月29日 (日曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・81

昨年の10月にスペインに旅行し、その中でバルセロナを訪れた。なかなかツアーでは訪れることのない「カタルーニャ音楽堂」を見学することが出来て、感激の極みであった。その「カタルーニャ音楽堂」の見学順路の壁にジャズ・ピアニストらしき写真があった。テテ・モントリューであった。そう言えば、彼は1997年に、この「カタルーニャ音楽堂」でソロ・ピアノ盤を録音している。

テテ・モントリューは、カタルーニャのバルセロナ出身のジャズ・ピアノの巨匠である。惜しくも1997年8月に64歳で逝去しているが、1965年に初リーダー作でデビュー以来、逝去する1997年まで、32年の長きに渡って欧米で活躍した、ジャズ・ピアノのレジェンド。端正で力強いタッチの中、スペイン音楽に聴かれる様な、哀愁感漂うスパニッシュな響きがほんのりと香る、ハードバップでモーダルなピアノの調べは、欧州ならでは、スペイン出身ならでは個性。

Tete Montoliu 『Catalonian Rhapsody』(写真左)。1992年3月8日、スペインはバルセロナでの録音。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Hein Van de Geyn (b), Idris Muhammad (ds)。日本のヴィーナス・レコードからのリリース。タイトルはズバリ、モントリューの故郷である「カタルーニャ」を採用している。タイトルから判る様に、この盤は、モントリューが、カタルーニャ地方の哀愁のメロディを、ピアノ・トリオで存分に表現したもの。
 
 
Catalonian-rhapsody  
 
 
選曲を見渡すと、ヴィーナス・レコードらしからぬ、有名なスタンダード曲が見当たらない。1曲目「The Lady From Aragon (La Mama D'Arago)」から、5曲目「Song Of The Robber (La Canso Del Lladre)」までが、カタロニア地方の伝承曲を基にした演奏になっている。この5曲については、哀愁感漂うスパニッシュ風ではあるが、ちょっと独特な響きが宿るカタルーニャ独特の響きがユニーク。ついつい聴き惚れる。

残りの3曲のうち、2曲はカタルーニャの作曲家「Joan Manuel Serrat」の作、残りの1曲はモントリュー自身の作。つまりは、この盤はタイトル通り「カタルーニャの狂詩曲」である。これが良い。モントリューが故郷のカタルーニャをピアノ・トリオで、ジャズで表現する。そして、このトリオ演奏の内容が濃い。トリオの3者共に好調で、硬軟自在、縦横無尽のインタープレイが素晴らしい。

逝去の5年前とは言え、モントリューのピアノは好調を維持している。モントリューは僕のお気に入りのピアニストの一人で、昔から聴き親しんで来たが、この『Catalonian Rhapsody』という盤、モントリューのリーダー作の中で屈指の出来だと僕は思う。ヴィーナス・レコードからのリリースだから、という先入観だけで、この盤を遠ざけるのは勿体ない。久々に「ピアノ・トリオの代表的名盤」としてアップしたい。
 
 
 

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【更新しました】2020.03.29
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2020年2月18日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・80

ピアニストのスキル。ジャズとクラシックで、比較されることがたまにある。まあ比較しても仕方の無いテーマだと思うんだが、クラシック側からすると「ジャズ・ピアノは無手勝流で基礎がなっていない」だし、ジャズ側からすると「譜面通り弾くだけで、スイングもせず、面白く無く、肩が凝る」である。ジャズ側からすると「クラシックのピアニストにジャズは出来ない」だし、クラシック側からすると「ジャズのピアニストにクラシックは無理」となる。

しかし、である。クラシック側の「ジャズのピアニストにクラシックは無理」については、キース・ジャレットがクラシックにチャレンジし、相応の評価を得ているし、ハービー・ハンコックは高校時代までは、優秀なクラシック・ピアニストで、11歳でシカゴ交響楽団と共演を果たしている。ジャズ側の「クラシックのピアニストにジャズは出来ない」については、クラシック・ピアニスト兼指揮者のアンドレ・プレヴィンがいる。西海岸ジャズの中で、飛び切り優れたハードバップ・ピアノを聴かせてくれる。

André Previn『King Size!』(写真左)。1958年11月26日のロサンゼルスでの録音。ちなみにパーソネルは、André Previn (p), Red Mitchell (b), Frankie Capp (ds)。西海岸ジャズらしい、しっかりアレンジされた、端正で破綻の無い、聴き心地を優先したピアノ・トリオ演奏である。流麗で爽快感あふれる弾きっぷりはなかなか堂に入っている。ビッグサイズのライオンのイラストがあしらわれたジャケットも印象的。
 
 
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改めて、アンドレ・プレヴィンは、作曲家、編曲家、映画音楽、ジャズ・ピアニスト、クラシック・ピアニスト、指揮者。どちらかと言えば、クラシックに軸足がある。昨年2月に惜しくも89歳。我が国への関わりは、2009年から3年間、NHK交響楽団の首席客演指揮者として活躍した。そんなクラシックな演奏家が、こんな洒落た小粋なハードバップ・ジャズをピアノ・トリオでやるなんて。彼の経歴をライナーノーツで読んだ時、とにかく驚いたことを覚えている。

ディブ・ブルーベックと並んで黒人にはほとんど人気のない白人ピアニスト。しかし、黒人のピアニストには稀少な「ソフィストケイトな」タッチや限りなく端正で全く破綻の無い、高テクニックなピアノは、やはり聴きもの。ピアノをクラシック・ピアノらしく鳴らしながら、ジャズを聴かせるユニークな存在。この『King Size!』でも、しっかり計算されたアドリブ展開と、しっかりとしたアレンジで、ファンキーさ、ジャジーさを醸し出していて、なかなかに聴き応えがある。

まあ、この「計算された」や「アレンジされた」部分に「作られたジャズ」を感じるという向きもあるが、僕はこれは「米国西海岸ジャズ」の個性の1つと解釈しているので、僕はこの「計算された」や「アレンジされた」部分を高く評価している。それがプレヴィン・ジャズの個性でもあるのだ。プレヴィン独特の爽快感あふれるスインギーなフレーズは特筆に値する。「アレンジされた」ファンクネスと併せて、もっと評価されて良いピアニストである。
 
 
 
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2020年2月14日 (金曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・79

最近、トリオ・レコードのジャズ音源を追いかけている。トリオ・レコードとは、オーディオメーカー「トリオ」のレコード部門が立ち上げたレーベル。活動期間は1969年〜1984年。バラエティーに富んだジャンルを扱っていたが、ジャズのジャンルでは、特に日本人ジャズの好盤を多くリリースしていて無視出来ない存在である。僕が本格的にジャズを聴き始めた頃、リアルタイムで活動していた日本のレーベルなので、とりわけ親近感がある。

世良譲トリオ『Bacchus Swing』(写真左)。1973年9月の録音。ちなみにパーソネルは、世良譲 (p), 栗田八郎 (b), 原田イサム (ds)。純日本メンバーのトリオ構成。帯紙のキャッチがふるっている。「うたごころ、そしてスイングまたスイング。ジョーが久々に放つ、くつろぎに満ちた快作」。まさにこのキャッチ通りの内容。スイングしまくる、硬質タッチの「唄うような」ピアノが素晴らしい。

世良譲のピアノの雰囲気、どこかで聴いたことがある、というのがファースト・インプレッション。資料を見れば、世良譲はエロール・ガーナーを師と仰いでいた、とのこと。なるほど、であるが、ガーナーの右手よりタッチは軽妙。軽妙ではあるが音に芯がシッカリ入っていて、スタンダード曲の印象的なフレーズがクッキリと浮かび上がる。この唄うように、よく回る右手は、そう「レッド・ガーランド」を彷彿とさせる。
 
 
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左手はブロック・コードでは無いので、レッド・ガーランドそっくりにはならない。右手がレッド・ガーランド風のイメージ、左手がビハインド・ビートでは無いが、伴奏として左手の入り方、リズム&ビート担当の左手の硬質なタッチはエロール・ガーナー風のイメージ。しかし、そこに世良譲の独特のスイング感が被さって、トータルで個性的なジャズ・ピアノを創出している。

日本人ジャズらしく、ファンクネスが相当に希薄なのも、欧米の他のジャズ・ピアニストには無い個性。栗田のベース、原田のドラムの「リズム隊」も堅実でレベルの高いもの。揺らぎ、乱れは全く無い。切れ味の良いリズム隊は、フロントでアドリブ・フレーズを弾きまくる世良のピアノをがっちりとサポートし、がっつりと鼓舞する。そうすると世良のピアノはそのスイング感を増幅して、逆にバックの「リズム隊」を煽る。理想的なピアノ・トリオ。

ちなみに、雑誌等で、ジャズ界の元祖「ちょいワルおやじ」と形容される世良譲。酒・煙草・女性をこよなく愛した、絵に描いた様な、伝説のジャズ・ピアノの名手である。世良は深夜の名物テレビ番組であった「11PM」にレギュラー出演し、深夜のテレビ番組の中で、ムード濃厚なジャズ・ピアノを聴かせていたことを覚えている。そんな「ちょいワルおやじ」が、こんなに素敵な、スインギーなピアノ・トリオ盤を創出した。酒の神「バッカス」のスイング。良いアルバムタイトルである。
 
 
 
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2020年2月 8日 (土曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・78

ジャズ盤蒐集〜リスニングの楽しみ。過去の好盤のリイシューも楽しいが、やはり、今の新しいジャズ盤に耳を傾けるのも楽しい。今の新しいジャズに耳を傾けるということは「ジャズの今」を感じること。新盤で今を感じて、リイシューで過去を感じて、ジャズという音楽ジャンルの奥深さと歴史を理解する。ジャズ者の我々とっては、とても大切なことだと思っている。

Marc Copland Trio『And I Love Her』(写真左)。昨年10月のリリース。ちなみに、トリオを構成するのは、Marc Copland (p), Drew Gress (b), Joey Baron (ds)。リーダーのピアニスト、マーク・コープランドは、米国フィラデルフィア出身、1948年生まれなので、録音当時で71歳。大ベテランのジャズ・ピアニスト。

大ベテランのジャズ・ピアニストであり、リーダー作も1988年の初リーダー作以来、毎年1枚以上のペースで相当数を数える。いわゆる人気ピアニストであり、年齢的にもレジェンド・クラスであるにも関わらず、日本ではあまり名は知られていない。恐らく、日本のレコード会社にとって、あまり馴染みの無い海外レーベルからのリリースに偏っていたからでは無いか、と思っている。それにしても、そのキャリアに比して、あまりに日本では馴染みの無いピアニストである。
 
 
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マーク・コープランドのピアノと言えば「過剰なくらいに繊細でクール、耽美的表現の極致」が特徴。バップやファンキー、ソウルとは全く無縁。ファンクネスもほとんど感じ無い。例えば、ビル・エヴァンスの耽美的表現をさらに推し進めた、耽美的でクールで静的なピアノ。ダイナミックな展開は全く無い。まるで「カラフルで深遠な」墨絵を見る様な音世界。

冒頭の「Afro Blue」から、この「カラフルで深遠な」墨絵を見るような音世界が全開である。グレスのベースとバロンのドラムも、そんなコープランドのピアノにぴったりと寄り添うような、絶妙なサポートを聴かせてくれる。そして、タイトル曲、レノン&マッカートニーの「And I Love Her」が絶品。コープランドの耽美的なピアノがぴったりと填まる。原曲のフレーズの美しさを耽美的なピアノで、より明確に深遠に聴かせてくれる。

コープランドのピアノの音世界は、この「過剰なくらいに繊細でクール、耽美的表現の極致」に徹底されている。これが素晴らしい。時には、バップやファンキーに展開して欲しくもなるのだが、ここまで徹底していると、これはこれで「このままでもありやなあ」と思うから面白い。他のピアニストには無い「独創的な音世界」。これもジャズ・ピアノである。
 
 
 
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2020年2月 4日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・77

最近、気がついたのだが、「Trio Records(トリオ・レコード)」のアルバムが相当数、リイシューされている。CDでのリイシューのみならず、音楽のサブスク・サイトにもアップされているのだから嬉しいこと、この上無し。

さて、このトリオ・レコードとは、オーディオメーカー「トリオ」のレコード部門が立ち上げたレーベルである。活動期間は1969年〜1984年。日本の歌謡曲など、バラエティーに富んだジャンルを扱っていたが、ジャズのジャンルでは、日本人ジャズの好盤を多くリリースしている。

ちょうど、僕がジャズを聴き始めた頃がトリオ・レコードの全盛期で、毎月毎月、魅力的な内容の日本人ジャズのアルバムをリリースしていたのを覚えている。大学近くの「秘密の喫茶店」のママさんから、 本田竹曠『ジス・イズ・ホンダ』を聴かせてもらったのが、トリオ・レコード盤の最初。エコーが適度にかかった、ニュー・ジャズ志向の音が実に魅力的だった。

本田竹曠トリオ『I Love You』(写真)。1973年録音。ちなみにパーソネルは、本田竹曠 (p), 鈴木良雄 (b), 渡辺文男 (ds)。ちょっと「おどろおどろしい」ジャケットに引くが、どうして、その内容は時代の先端を行く、素晴らしいモード・ジャズ。日本人ジャズのピアノ・トリオがゆえ、ファンクネスはほぼ皆無、それでいて、スインギーでダイナミックな展開は「世界レベル」。 
 
 
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トリオ・レコードは ECMレコードの先進性をいち早く見抜き、「ECMをトータルに販売展開する」ことをメインに、1973年に世界初の独占販売契約を締結している。トリオ・レコードのジャズの音作りは、このECMレコードの音作りを参考にしている様に感じる。この本田のトリオ盤を聴いていてそう思う。適度にかかった印象的なエコー。切れ味の良い音像。明確な音の輪郭。音の「間」を活かした録音志向。いわゆる「ニュー・ジャズ」な録音である。

本田のピアノは素晴らしいの一言。ピアノを本当にフルに鳴らしているなあ、と感じるし、タッチの正確さは特筆もの。ドライブ感とスイング感がほどよく共存し、モードもコードも自由自在。アドリブ・フレーズのイマージネーションは幅広く深い。この盤での本田のピアノは、キース・ジャレットと比肩するくらい、素晴らしい内容を誇っている。

日本人として、思わず「胸を張って」しまいそうな、そんな素晴らしいジャズ・ピアノ。歌心満点に高速フレーズで唄いまくる「アイ・ラヴ・ユー」「サニー」「枯葉」が爽快感満点。その指捌きに惚れ惚れする。そうそう、ゲイリー・ピーコックとジャック・デジョネットのリズム隊を端正に精緻に仕立てたような、鈴木のアコベと渡辺のドラムのリズム隊も特筆もの。

日本人ジャズが、世界レベルのピアノ・トリオをやっている。この盤を聴いた時、心から思った。そして、思わず心の中で「胸を張って」いるのだった。
 
 
 
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2019年3月 2日 (土曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・76

1996年、キースは慢性疲労症候群と診断され、同年の秋以降の活動予定を全てキャンセルして自宅での療養を余儀なくされる。2年の闘病の後、1998年に復活。スタンダーズの活動を再開させる。復活後は相応の調子を取り戻すのに少し時間がかかったが、1999年7月5日、パリでのライブ録音である『Whisper Not』を聴いて判る様に、この時点でほぼ復調なったと感じている。

Keith Jarrett『Yesterdays』(写真左)。2001年4月24日と30日、東京文化会館とオーチャードホールでのライブ録音。パーソネルは、当然、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。お馴染みの「スタンダーズ」トリオ。所要時間約75分でCD1枚仕様。2001年の録音であるが、しばらくお蔵入りになった後、2009年にリリースされている。

何か問題があって「お蔵入り」になった訳では無いことは、このライブ盤を聴けば判る。この盤では、慢性疲労症候群から完全復調なったキースのほぼ従来と同じレベルの好パフォーマンスを聴くことが出来る。恐らく、さすがにスタンダーズの演奏もここまでくるとマンネリ感は拭えず、スタンダード曲がメインの演奏は避けたのではないか。2001年には同じ日本でのライブ録音とはいえ、オリジナル曲オンリーのライブ盤をリリースしている。
 

Yesterdays_keith_jarrett  

 
このライブ盤でのスタンダーズは「ノリが良い」。三位一体となったインタープレイが素晴らしい。ベストに近いスタンダーズの演奏がこのライブ盤で聴ける。2001年録音は現在では4枚のアルバムがリリースされている。キースが慢性疲労症候群を克服し、完全復調なった時期がこの2001年だったのだろう。完全復調なったキースは、同時にあの「唸り声」も完全復活している。賛否両論の「唸り声」であれば、これがキースの「元気な印」であるのなら、これはこれで我慢、である。

しかし、復調なったキースのスタンダーズは演奏内容に大きな変化が感じられる。病気リタイアまでは、基本的にキースがメイン。キースが前へ前へ出てピアノを弾きまくるところに、ぴったりと寄り添うようなデジョネットとピーコックであったが、キースの復調後は、キース、デジョネット、ピーコックのパフォーマンスが均等になっている感じなのだ。これが良い方向に作用していて、三位一体となったインタープレイをより印象的なものにしている。

まだまだ知られていないスタンダード曲を発掘し、手垢の付いた有名なスタンダード曲を見直し、類い希なピアノ・トリオで斬新なアレンジを施し再構築する。このキースのスタンダーズの手法についてはやはり「マンネリ感」は否めない。しかし、このライブ盤でのパフォーマンスの見事さは、そんな「マンネリ感」を吹き飛ばして余りあるもの。意外とスタンダーズの理想形がこのライブ盤に記録されているのかも知れない。

 
 
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