2021年2月24日 (水曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・89

ふと、レアな盤を見つけた。リーダーは「Freddie Redd(フレディ・レッド)」。フレディ・レッドと聴いて、ああ、とその名を思い出すジャズ者はベテランの類。

まず、ジャズ盤紹介本にはその盤は載ったのを見たことが無い。今回、スイングジャーナルの古い「幻の名盤」の類の特集本でそのタイトルを久し振りに確認した次第。

「フレディ・レッド」自体の存在はかなりマイナー。それでもジャズの世界の中では、麻薬劇と呼ばれた「コネクション」の作曲者であり、ブルーノートの『Shades of Redd』のリーダー。稀少ではあるが、その作曲の才と渋いピアノは一度聴けば印象に残る存在である。

Freddie Redd『Under Paris Skies』(写真)。1971年6月26-29日録音。仏のFuturaレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Freddie Redd(p), Didier Levallet(b), Didier Carlier(ds)。ピアノ・トリオ編成。ピアニストの個性と特徴がハッキリと判る演奏フォーマットである。

実はこの盤、聴いてみたかったんですよね。仏のレーベルからのリリースではあるが、フレディ・レッドは生粋の米国のジャズマン。1928年にNYに生まれ、なんと今年で92歳でNYに在住とある。
 
 
Under-paris-skies
 
 
1950年代の活動も報われず、1960年初頭には欧州に移住している。1974年に米国に戻るまで、10数年の間、欧州で客演する。そんな欧州での活動の間に録音したトリオ盤がこの『Under Paris Skies』になる。

一言で言うと「渋いピアノ・トリオ」。大向こうを張ったダイナミックなところは無いし、選曲もとても渋い。誰かが「パリ=アメリカ黒人=エトランゼ=哀愁」という公式が実にマッチした演奏、と評していたが、まさにその通りだと思う。

本質はバップ、フレーズはブルージーでアーシー。マイナーなフレーズがメインのアドリブが哀愁感を引き立たせる。聴き始めると一気に聴き切ってしまう、とても印象的なピアノ・トリオ。

欧州のフレディ・レッドは当地で手厚くもてなされたようだ。この薄めの青が印象的な盤のジャケットに、おのぼりさんよろしく、エッフェル塔を背景にしたフレディ・レッドが映っているところが微笑ましい。

そんな彼にとって良い環境が、こんな「パリ=アメリカ黒人=エトランゼ=哀愁」という公式が実にマッチした演奏を生み出したのだろう。この盤、つつしんで「ピアノ・トリオの代表的名盤」に選定させていただきたい。

 

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2021年2月16日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・88

ボックス盤を整理している。いわゆる「断捨離」なんだが、これが結構な数で、ちょっと閉口している。まあ、ジャズを聴き始めて40年以上、ボックス盤を買う財力がついてから約四半世紀。欲しいものが出たら必ず入手していたので、そりゃあ相当数になるだろう。一応、全てのCDについては1回は聴いているが、今となっては「どんな内容だったけ」というボックス盤もある。

Bill Evans Trio『Consecration The Last Complete Collection』(写真左)。1980年8月31日~9月7日、サンフランシスコのKeystone Kornerでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Marc Johnson (b), Joe LaBarbera (ds)。CD8枚組のボックス盤。8枚のCDにキーストンコーナーでのライヴ・パフォーマンスが全て収録されている。

今日のCD1〜2を聴いた。1980年8月31日のセット全てと9月1日のセットの一部。久し振りに聴いたが、ビル・エヴァンスのパフォーマンスは全く古さを感じさせない。ビルが亡くなる約2週間前の演奏なのだが、いつもよりダイナミックな弾きっぷりで、運指も乱れが無い。アドリブのイマージネーションも好調で、とてもこの2週間後に鬼籍に入るピアニストの演奏とは思えない。
 
 
Consecration-the-last-complete-collectio  
 
 
最後の力を振り絞る、なんて雰囲気は微塵も無い。リズム隊のマーク・ジョンソンのベースとジョー・ラバーベラのドラムのダイナミズムが最高潮で、そんな若きリズム隊にビル・エヴァンスのピアノが呼応する感じのインタープレイ。決して荒い演奏では無いし、死を意識した「最後の演奏」的なセンチメンタリズムも無い。あるのは、現代のジャズの中でも十分に訴求する、優れたピアノ・トリオのパフォーマンスである。

それまでのエヴァンスのトリオ演奏とは全く異なる内容のピアノ・トリオのパフォーマンスに耳は釘付け。ダイナミズムと切れ味の良いリリシズムをベースとした、最新型のモーダルな展開に思わず惚れ惚れする。当時のライヴ・パフォーマンスをそのまま収録しているので、演奏上のミスもたまにはあるが、そんなものを気にさせない、バリバリ弾きまくるエヴァンス・トリオが見事である。

今回、今の最新のステレオ・セットで聴いてみて、録音もなかなか良いことに気がついた。エヴァンスのピアノの歯切れの良さ、ジョンソンのベースのソリッドさ、ラバーベラのドラムの躍動感、どれをとっても「一流」。キーストンコーナーのライヴ感もビンビンに伝わってきて、臨場感抜群。このボックス盤、やはり「エヴァンス最晩年の傑作」だろう。ビル・エヴァンス者には必須のアイテム。
 
 
 

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2021年1月26日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・87

Duke Jordan(デューク・ジョーダン)を聴き直している。今から40年ほど前、『Flight to Denmark』を聴いて以来、大好きなジャズ・ピアニストの1人である。故に、ジョーダンのリーダー作は結構、聴いてきたのだが、どうもデューク・ジョーダンの話題をこのブログに記事として載せていなかった様だ。これを機会に、順にジョーダンの好盤の記事をアップしていきたい。

ジョーダンのピアノは明らかに「哀愁」が漂う。ジャズってマイナーキーが多用されるのだから、誰が弾いたって「哀愁」が漂うでしょうが、と思われるのだが、これが違う。ジョーダンのピアノだけが突出して「哀愁」が漂うのだ。メジャー調の曲だって、ちょっとアップテンポの曲だって、なぜかそこはかとなく「哀愁」が漂うのだ。これが不思議。

Duke Jordan『Two Loves』(写真左)。1973年11月25日と12月2日、デンマーク、コペンハーゲンの「Sound Track」での録音。ちなみにパーソネルは、Duke Jordan (p) Mads Vinding (b) Ed Thigpen (ds)。あのピアノ・トリオ好盤『Flight to Denmark』と同じ日に録音されたもの。LP時代は全9曲、CDになって、ボートラが4曲追加されている。
 
 
Two-loves
 
 
ピアノ・トリオ好盤『Flight to Denmark』と同じ日に録音されたものとは言いながら、『Flight to Denmark』が、どっぷりブルージーで「哀愁」漂うバップなピアニストが北欧ジャズとの融合を果たした、耽美的で儚さ漂う「北欧のバップ」風だったのに対して、このアルバムは、元来のジョーダンの個性である「正統派バップ」風のアルバムになっている。

『Flight to Denmark』と比して、タッチがより明確で、演奏のテンポがアップしているので、演奏全体の雰囲気は明るくて、そこはかとなく「陽気」。タッチは変わらずリリカル。決してテクニックに走らず、ミッドテンポの判り易いアドリブ・フレーズは「流麗」そのもの、凄みすら感じさせる。でも、このアルバムでも全編に渡って、ジョーダンのピアノには「哀愁」がしっとりと漂っている。これが良い。

同じセッションの中で、『Flight to Denmark』風と『Two Loves』風に弾き分けるテクニックは凄いなあ、と改めて感じ入ってしまう。数少ない選ばれた音で、美しく哀愁感漂う旋律を紡ぎ出すパフォーマンスは、デューク・ジョーダンの真骨頂。『Flight to Denmark』を「ピアノ・トリオの代表的名盤」とするなら、この盤も「ピアノ・トリオの代表的名盤」でしょう。
 
 
 

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2020年10月13日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・86

この2〜3年になるかなあ、リアルタイムで聴いてきたジャズマンの逝去が相次ぐようになった。若い頃は自分よりも相当、歳の離れたレジェンド級のジャズマンが逝去していたので「ああ、ビル・エヴァンスが逝っちゃった」とか「ああ、マイルスが逝っちゃった」と途方に暮れていただけだったが、最近では、米国でも我が国でも、自分より5〜10歳程度しか離れていない、年上のジャズマンがどんどん鬼籍に入るのだから穏やかで無い。

僕の日本人ピアニストのお気に入りとして、佐山雅弘がいた。「いた」というのは、2018年11月14日、鬼籍に入ってしまったのだ。享年64歳。今の時代からすると早過ぎる逝去であった。ジャズマンとして64歳なんて、ベテランど真ん中、といった感じで、これからレジェンドの域に向かって深化していく年頃。ほんと早過ぎた。逝去の報に接した時には唖然としたのを覚えている。

M's『Standard Mind』(写真左)。「M's」は「マサちゃんズ」と読む。「M's」のサード・アルバム。2005年のリリース。ちなみにパーソネルは、佐山雅弘 (p), 小井政都志 (b), 大坂昌彦 (ds) 。ピアノ・トリオ編成。トリオを構成するメンバーの名前がそれぞれ「マサ」で始まるので「マサちゃんズ」である(笑)。M’s(マサチャンズ)feat.佐山雅弘 と表記される場合が多いみたい。
 
 
Standard-mind  
 
 
キャッチコピーの触れ込みは「佐山雅弘、小井政都志、大坂昌彦による新世代スーパー・ジャズ・トリオ」。佐山雅弘については、PONTA BOXのメンバー&ピアニストとして知った。どっぷり「純ジャズ」しない、クールでファンクネス希薄、ドライブ感溢れ、切れ味良く明快。和ジャズらしいピアノを弾く佐山は初めて聴いた瞬間から、お気に入りになった。

この盤ではタイトル通り、日本を代表するジャズマン3人が、ライヴ・ツアーでの演奏曲の中からリクエストの多かったスタンダード曲を中心に収録している。どの曲も結構「ど」のつくスタンダード曲なんだけど、今までに聴いたことのないアレンジ、そして、アドリブ・フレーズを駆使してので、マンネリに聴こえない。なかなかクールで聴き応えのある内容で、スタンダード曲のオンパレードなんだが、不思議と飽きが来ない。

僕は筋金入りの「チック者」なので「スペイン」の演奏がとりわけ印象深かったです。この盤がリリースされたのが、2005年。佐山雅弘がまだ51歳。まだまだベテランとは言え、ジャズ界ではまだまだ若い年頃で、そのピアノの弾きっぷりは爽快そのもの。リズム隊の小井政都志、大坂昌彦も素晴らしいサポート。なかなかのピアノ・トリオ盤。謹んで「ピアノ・トリオの代表的名盤」の一枚に加えさせていただきます。
 
 
 

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2020年8月 3日 (月曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・85

現代のジャズ・ピアノの源は、やはり「バド・パウエル」と「ビル・エバンス」だと思うのだ。ジャズ・トリオのインタープレイの祖、ビル・エバンスだって、弾きっぷりの底にあるのは、バド・パウエルが確立した「バップ」な弾きっぷり。バドのバップな弾きっぷりに、ビルのインタープレイの弾きっぷりを合わせて、現代のジャズ・ピアノの大本があると思うのだ。

Barry Harris『At The Jazz Workshop』(写真左)。1960年5月、米国サンフランシスコの The Jazz Workshop でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Barry Harris (p), Sam Jones (b), Louis Hayes (ds)。バド・パウエル直系、バップな弾きっぷりのピアニスト、バリー・ハリスのライヴ盤の快作である。

「ノリ」が命のバップ・ピアノ。バリー・ハリスのピアノは、右手は良く回り、左手のベースラインはゴンゴン骨太に爽やかに響く。逆に、トリオでの三者一体となったインタープレイの要素はほとんど無い。あくまで「バップ」。まさに、バップ・イディオムが、盤全体に横溢する、パウエル直系の爽快なライブ・パフォーマンスである。
 
 
At-the-jazz-workshop  
 
 
とにかく元気なバップ・ピアノ。この「元気」がバリー・ハリスの好盤の印。思索的な、耽美的なバリー・ハリスは似合わない。ガンガンに行くのではなく、ノリノリで行くタイプ。力よりは技で勝負するバップ・ピアノ。その良いところを余すところなく発揮したライヴ盤。聴いていて気持ちが良い。聴いていて、思わず足が動き、手でリズムを取る。

バップなピアノを支えるには「重い」ベースが良い。この盤では「バップ」なピアノを支える正統なベース、ひたすらリズムキープに徹する、サム・ジョーンズの重低音ベースが良い。そして、「バップ」なピアノのパフォーマンスにリズムの緩急を、リズムのキープを司る、大胆かつ繊細な、ルイス・ヘイズのドラムが良い。

ハリスの典型的なバップ・ピアノ。それを支えるジョーンズの重低音ベース。リズム&ビートを司る大胆かつ繊細なヘイズのドラム。バップなピアノ・トリオの好パフォーマンスがこの盤に詰まっている。そして、ジャケットを見れば、なかなかお洒落なロゴタイプにあしらわれた「ジャズらしい」ジャケット。ピアノ・トリオの好盤である。
 
 
 

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2020年7月28日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・84

以前より、我が国では「ピアノ・トリオ」の人気が高い。米国ではそれほどでも無いらしい。米国ではホーンがフロントのジャズが人気。何故かと訊いてみると、判り易いから、だそうだ。ピアノ・トリオは判り難い。それが彼らの言い分。我が国では「ピアノ」は特別な楽器。そのピアノが主役になって奏でられるジャズは特別。加えて、ジャズ・ピアニストには強い個性があって、その個性を感じて愛でる。それが我が国での「ピアノ・トリオ」の楽しみ方。

Walter Bishop Jr.『Speak Low』(写真)。1961年3月14日、NYのBell Sound Studiosでの録音。ちなみにパーソネルは、Walter Bishop Jr. (p), Jimmy Garrison (b), G.T. Hogan (ds)。リーダーのウォルター・ビショップ Jr.は、1927年10月、NY生まれ。1998年1月に70歳で鬼籍に入っている。1949年からジャズの世界で活躍。逝去するまでの約50年の間に残したリーダー作は20作弱。寡作のピアニストである。

確かに寡作のピアニストで、実は「ウォルター・ビショップ Jr.」という名前を聞いて思い浮かぶリーダー作は、この『Speak Low』以外、思いつかない。それもそのはず、他のリーダー作については殆どリイシューされていない。つまりは人気が無い、ということ。というか、「ウォルター・ビショップ Jr.」自体、米国ではマイナーな存在。何故か、我が国だけ、しかもこの『Speak Low』だけが、ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌で採り上げられてきた。
 
 
Speak-low  
 
 
リーダーの「ウォルター・ビショップ Jr.」のピアノについては、これと言った強烈な個性は無い。低音を強調した左手が個性と言えば個性だが、その存在感は中途半端。右手は堅実だが「よく回る」ほどでは無い。総合力で勝負するタイプのピアニストではあるが、その総合力も中くらいに位置する程度。ただ強烈な個性が無い分、安心して聴くことのピアノではある。

この盤が我が国で人気なのは、バックのリズム隊、ベースのギャリソンとドラムのホーガンの存在があってのことだろう。この盤でのギャリソンのベースについては、腹を揺すらんばかりの重低音。ソリッドで粘りのある弦の響きは快感ですらある。そして、ホーガンのドラム。堅実かつ実直、メリハリが効いた躍動感溢れるドラミング。このギャリソンとホーガンのリズム隊が、このピアノ・トリオ盤の最大の聴きどころ。

ウォルター・ビショップ Jr.の安心して聴くことの出来るピアノ、そして、強烈なリズム&ビートを供給するリズム隊。この両者のバランスがバッチリ取れて、この盤はピアノ・トリオの類い希な好盤となっているのだ。ピアノ・トリオのもう1つの楽しみ方である「ピアノ・ベース・ドラムの3者一体となったインタープレイ」。それがこの盤では顕著。ピアノ・トリオ好きの我が国のジャズ者の方々には「響く内容」の盤なのだ。
 
 
 

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2020年7月26日 (日曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・83

最近、音楽関係のサブスク・サイトについては、聴くことの出来るアルバムがかなり充実している。とりわけジャズについては、久しくCDリイシューされていない廃盤状態の音源についても、いつの間にかサブスク・サイトに音源がアップされていて、しかも音が良くなっていたりする。恐らく、サイトにアップする際のサンプリング周波数がハイレゾ志向に変更されているのだろう。

しかし、ジャズ盤の中には、以前から評価が高く、基本的なコレクション対象となる盤について、CD化はされているが、未だサブスク・サイトの何処にもアップされていない盤もある。こんな場合はやはりCDに頼らざるを得ず、まだまだCDの需要はある。例えば、この盤もLP時代からその内容について評価が高いのにも関わらず、今までCD化も数回しかされず、サブスク・サイトにはアップされていない盤である。

Eddie Costa『The House Of Blue Lights』(写真)。1959年1月29日、2月2日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Eddie Costa (p), Wendell Marshall (b), Paul Motian (ds)。リーダーのエディ・コスタについては、本来はヴァイブとピアノの「二刀流」なんだが、この盤ではピアノに徹している。

実はコスタが、この「ピアノ一本」に絞ったことが、この盤を「ピアノ・トリオの代表的名盤」に相応しい内容にしているのだ。
 
 
The-house-of-blue-lights
 
 
エディ・コスタのピアノは「かなり硬質」。右手はカンカンキンキンと硬質なタッチ。しかし、弾き回しは流麗。左手は叩き付ける様なコード弾き。しかも低音の使い方が「エグい」。全体的にそうとう「硬質」なピアノで、恐らく、ジャズ史上のピアニストの中で、硬質ピアノとしては最右翼ではないか。ビル・エヴァンスのピアノを限りなく硬質なタッチにして、ロマンティシズムを排除した限りなくストイックなピアノである。

このコスタのピアノが全編に渡って、最高のパフォーマンスを聴かせてくれる。とにかく左手の低音が冒頭から印象に残る。そして、どのピアノ・トリオの代表的名盤にもいえることだが、バックのリズム隊が良い。ウェンデル・マーシャルのベースが地味だが良い音出している。コスタの低音に負けない、コスタの低音に呼応するベースの重低音。コスタのピアノの低音が更に映える。

ポール・モチアンのドラミングの妙技も聴きもの。コスタの強烈個性のピアノに対して、的確なサポートを繰り出している。決して、コスタの個性を邪魔しない、しかし、的確にリズム&ビートを供給する。こういうリズム隊をバックにしているからこそ、コスタは安心して、自らの個性的なピアノに集中出来るのだろう。その良好な結果がこの盤に溢れている。

実はコスタは、1962年7月28日、ニューヨークのウエストサイド・ハイウェイで運転を誤って、31歳の若さで命を落としている。コスタの数少ないリーダー作の中でも、この盤はピカイチ。逆にコスタの個性が記録に残ったという点で、この盤があって良かった、と思っている。
 
 
 

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ピアノ・トリオの代表的名盤・82

ビル・エヴァンスの聴き直しを長々としている。Fantasyレーベルのアルバムを聴き進めて行くと、決まってこの盤でふと立ち止まる。そして、暫く、エバンスは聴かない。そして、再び、意を決して聴いて、必ず、しみじみするのだ。そして、また、エヴァンスを聴き始める。僕にとって、エヴァンスのこの盤は特別なのだ。

Bill Evans『I Will Say Goodbye』(写真)。1977年5月11–13日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Eddie Gómez (b), Eliot Zigmund (ds)。1977年に録音されているが、直ぐにはリリースされていない。ビル・エヴァンスが逝去したのが、1980年9月15日。追悼盤の様なイメージでのリリース。それでも、1981年のグラミー賞を受賞している。

この盤、リリースされた時に入手して以来、エヴァンスのピアノを聴く「節目」となるアルバムである。当時、エヴァンスが逝去したのは知っていた。しかも、この盤が逝去する3年前の録音であることも理解していた。しかし、このアルバム作成前後に、彼は妻と兄をそれぞれ自殺で亡くしているのは知らなかった。
 
 
I-will-say-goodbye  
 
 
冒頭のタイトル曲「I Will Say Goodbye」を聴いて、耽美的で静的なタッチの中に、ある種の「寂寞感」が濃厚に漂うのが気になった。タイトルが「I Will Say Goodbye」なので、その雰囲気を醸し出しているのか、と思ったが、エヴァンスはそんな感傷的なピアニストでは無い。ほの暗く、どこか諦念感にも通じる、透明感のある弾き回し。

この盤はエヴァンスの個性のひとつである「耽美的」なタッチと「透明感」のある弾き回しが濃厚に出たアルバムである。従来の優れたテクニックとエヴァンス独特の音の重ね方、そして、この盤に溢れる、静的ではあるが躍動感溢れるアドリブ・フレーズ。まさしく、この盤はエヴァンスの代表作の一枚として挙げられるべき好盤である。

バックを支える、エヴァンス・トリオ史上、最高のベーシストであるゴメスも好演、ジグモントのドラミングも硬軟自在で素晴らしい。アルバム全体に「寂寞感」と「諦念感」が漂うのだが、恐らく、録音当時、体調は既に悪かったと思われる。私生活でも悲劇が続く。「寂寞感」と「諦念感」はいざ仕方の無いことかと思う。そんな背景の中、エヴァンスのピアノについては極上のパフォーマンスである。
 
 
 

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  ・『Bobby Caldwell』 1978

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  ・太田裕美『心が風邪をひいた日』
 

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2020年3月29日 (日曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・81

昨年の10月にスペインに旅行し、その中でバルセロナを訪れた。なかなかツアーでは訪れることのない「カタルーニャ音楽堂」を見学することが出来て、感激の極みであった。その「カタルーニャ音楽堂」の見学順路の壁にジャズ・ピアニストらしき写真があった。テテ・モントリューであった。そう言えば、彼は1997年に、この「カタルーニャ音楽堂」でソロ・ピアノ盤を録音している。

テテ・モントリューは、カタルーニャのバルセロナ出身のジャズ・ピアノの巨匠である。惜しくも1997年8月に64歳で逝去しているが、1965年に初リーダー作でデビュー以来、逝去する1997年まで、32年の長きに渡って欧米で活躍した、ジャズ・ピアノのレジェンド。端正で力強いタッチの中、スペイン音楽に聴かれる様な、哀愁感漂うスパニッシュな響きがほんのりと香る、ハードバップでモーダルなピアノの調べは、欧州ならでは、スペイン出身ならでは個性。

Tete Montoliu 『Catalonian Rhapsody』(写真左)。1992年3月8日、スペインはバルセロナでの録音。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Hein Van de Geyn (b), Idris Muhammad (ds)。日本のヴィーナス・レコードからのリリース。タイトルはズバリ、モントリューの故郷である「カタルーニャ」を採用している。タイトルから判る様に、この盤は、モントリューが、カタルーニャ地方の哀愁のメロディを、ピアノ・トリオで存分に表現したもの。
 
 
Catalonian-rhapsody  
 
 
選曲を見渡すと、ヴィーナス・レコードらしからぬ、有名なスタンダード曲が見当たらない。1曲目「The Lady From Aragon (La Mama D'Arago)」から、5曲目「Song Of The Robber (La Canso Del Lladre)」までが、カタロニア地方の伝承曲を基にした演奏になっている。この5曲については、哀愁感漂うスパニッシュ風ではあるが、ちょっと独特な響きが宿るカタルーニャ独特の響きがユニーク。ついつい聴き惚れる。

残りの3曲のうち、2曲はカタルーニャの作曲家「Joan Manuel Serrat」の作、残りの1曲はモントリュー自身の作。つまりは、この盤はタイトル通り「カタルーニャの狂詩曲」である。これが良い。モントリューが故郷のカタルーニャをピアノ・トリオで、ジャズで表現する。そして、このトリオ演奏の内容が濃い。トリオの3者共に好調で、硬軟自在、縦横無尽のインタープレイが素晴らしい。

逝去の5年前とは言え、モントリューのピアノは好調を維持している。モントリューは僕のお気に入りのピアニストの一人で、昔から聴き親しんで来たが、この『Catalonian Rhapsody』という盤、モントリューのリーダー作の中で屈指の出来だと僕は思う。ヴィーナス・レコードからのリリースだから、という先入観だけで、この盤を遠ざけるのは勿体ない。久々に「ピアノ・トリオの代表的名盤」としてアップしたい。
 
 
 

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2020年2月18日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・80

ピアニストのスキル。ジャズとクラシックで、比較されることがたまにある。まあ比較しても仕方の無いテーマだと思うんだが、クラシック側からすると「ジャズ・ピアノは無手勝流で基礎がなっていない」だし、ジャズ側からすると「譜面通り弾くだけで、スイングもせず、面白く無く、肩が凝る」である。ジャズ側からすると「クラシックのピアニストにジャズは出来ない」だし、クラシック側からすると「ジャズのピアニストにクラシックは無理」となる。

しかし、である。クラシック側の「ジャズのピアニストにクラシックは無理」については、キース・ジャレットがクラシックにチャレンジし、相応の評価を得ているし、ハービー・ハンコックは高校時代までは、優秀なクラシック・ピアニストで、11歳でシカゴ交響楽団と共演を果たしている。ジャズ側の「クラシックのピアニストにジャズは出来ない」については、クラシック・ピアニスト兼指揮者のアンドレ・プレヴィンがいる。西海岸ジャズの中で、飛び切り優れたハードバップ・ピアノを聴かせてくれる。

André Previn『King Size!』(写真左)。1958年11月26日のロサンゼルスでの録音。ちなみにパーソネルは、André Previn (p), Red Mitchell (b), Frankie Capp (ds)。西海岸ジャズらしい、しっかりアレンジされた、端正で破綻の無い、聴き心地を優先したピアノ・トリオ演奏である。流麗で爽快感あふれる弾きっぷりはなかなか堂に入っている。ビッグサイズのライオンのイラストがあしらわれたジャケットも印象的。
 
 
King-size_20200218213601   
 
 
改めて、アンドレ・プレヴィンは、作曲家、編曲家、映画音楽、ジャズ・ピアニスト、クラシック・ピアニスト、指揮者。どちらかと言えば、クラシックに軸足がある。昨年2月に惜しくも89歳。我が国への関わりは、2009年から3年間、NHK交響楽団の首席客演指揮者として活躍した。そんなクラシックな演奏家が、こんな洒落た小粋なハードバップ・ジャズをピアノ・トリオでやるなんて。彼の経歴をライナーノーツで読んだ時、とにかく驚いたことを覚えている。

ディブ・ブルーベックと並んで黒人にはほとんど人気のない白人ピアニスト。しかし、黒人のピアニストには稀少な「ソフィストケイトな」タッチや限りなく端正で全く破綻の無い、高テクニックなピアノは、やはり聴きもの。ピアノをクラシック・ピアノらしく鳴らしながら、ジャズを聴かせるユニークな存在。この『King Size!』でも、しっかり計算されたアドリブ展開と、しっかりとしたアレンジで、ファンキーさ、ジャジーさを醸し出していて、なかなかに聴き応えがある。

まあ、この「計算された」や「アレンジされた」部分に「作られたジャズ」を感じるという向きもあるが、僕はこれは「米国西海岸ジャズ」の個性の1つと解釈しているので、僕はこの「計算された」や「アレンジされた」部分を高く評価している。それがプレヴィン・ジャズの個性でもあるのだ。プレヴィン独特の爽快感あふれるスインギーなフレーズは特筆に値する。「アレンジされた」ファンクネスと併せて、もっと評価されて良いピアニストである。
 
 
 
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