2021年1月22日 (金曜日)

邦題「フレッド アステアを歌う」

若い頃、ジャズ者初心者の頃、ジャズ・ボーカルが苦手だった僕も、今ではそこそこジャズ・ボーカルは聴くようになった。女性ボーカルは基本的に「コンテンポラリーな」ボーカルを好んで聴く。例えば、ダイアナ・クラールやケイコ・リーなど。男性ボーカルは「正統派な」ボーカル、例えば、フランク・シナトラやメル・トーメを好んで聴く傾向にあるようだ。

『Mel Tormé Sings Fred Astaire』(写真左)。1956年11月10-11日、ロスでの録音。西海岸ジャズに強い「ベツレヘム・レーベル」からのリリース。ちなみにパーソネルは、Mel Tormé (vo), Marty Paich (arr, cond), Herb Geller (as), Jack Montrose (ts), Jack DuLong (bs), Pete Candoli, Don Fagerquist (tp), Max Bennett (b), Alvin Stoller (ds), Bob Enevoldsen (valve-tb), Vince DeRosa (French horn), Albert Pollan (tuba)。

邦題「フレッド アステアを歌う」。ミュージカル映画の大スター、フレッド・アステアが歌った、ガーシュインやアービングバーリン作品を、マーティー・ペイチ楽団のバッキングで、メル・トーメが歌う企画盤。マーティー・ペイチのアレンジが好調で、アルバム全体の音作りは、明らかに米国西海岸ジャズの雰囲気をふんだん湛えている。
 
 
Sings-fred-astaire
 
 
メル・トーメについては、一般的な知名度はシナトラに譲るが、ジャジーな歌のうまさは抜群。朗々として健康的な唄声はシナトラの対極に位置して、実に個性的。「ベルベット・ヴォイス」と称されるトーメの唄声は、その卓越した表現力や歌唱力と合わせて、実に魅力的なもの。そんなトーメが、ガーシュイン兄弟5曲、アービング・バーリン4曲を含む12曲を唄いまくる。

白人独自のヴォーカルを洗練させていったトーメの面目躍如である。とにかく「二枚目」な唄声は聴き易く判り易い。もともと、フレッド・アステアのリズム感に溢れ、判り易い歌唱スタイルは、後進のメル・トーメらに多大なる影響を与えた、とされる。そんな話を実感出来るトーメの歌唱である。ポップでソフト&メロウな歌唱はずっと聴いていても飽きない。

バックのマーティー・ペイチ楽団の演奏も名手揃いで、何気に優れていて良い感じ。アレンジも正統派なもので安心して聴ける。グルーヴィー&スウィンギンなバッキングは、この盤の聴きどころのひとつ。ジャケットがかなりレトロなので、なかなか触手が伸びないが、内容はポップで判り易い。ジャズ・ボーカルの好盤の一枚としてお勧め。
 
 
 

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2021年1月 7日 (木曜日)

前田憲男&WBのスタンダード集

振り返れば、1978年、ジャズを本格的に聴き始めてから、和ジャズについては、ほどなく触手を伸ばしている。当時、和ジャズは国際レベルで見て、米国ジャズ、欧州ジャズに比肩する、かなりの高レベルに達していた。当時、ジャズはフュージョン・ジャズ全盛だったが、我が国では、意外とコンテンポラリーな純ジャズが演奏されていたように思う。

ビッグバンド・ジャズも優れたバンドが多くあった様に思う。プロだけで無く、アマチュアにも優れたビッグバンドがあって、よくまあビッグバンドの運営について採算がとれるもんだ、と感心していたほどだ。高橋達也と東京ユニオン、原信夫とシャープスアンドフラッツ、宮間利之とニュー・ハード等々、ジャズ者初心者の頃、よく聴いたもんだ。

前田憲男とウィンドブレイカーズ『I'll Remember April』(写真左)。1981年の録音。フュージョン・ジャズ志向のビッグバンド、前田憲男とウィンドブレイカーズのスタンダード集。ちなみにパーソネルは、前田憲男 (p, key, org, arr), 数原晋 (tp), 伏見哲夫 (tp), 原田靖 (tb), 西篠孝之介 (ts), 稲垣次郎 (ts, fl), 砂原俊三 (bs), 沢田駿吾 (g), 荒川康男 (b), 猪俣猛 (ds)。
 
 
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リーダー前田のオルガンとエレクトリック・キーボードが軽快でポップで良い雰囲気を醸し出している。ピアノの硬質な音とは違う、丸くソフトでメロウなオルガンとエレクトリック・キーボードの音が、ちょっとフュージョンしていて聴き心地が良い。が、演奏自体はしっかりとアレンジされたスタンダード曲の、正統派なビッグバンドの演奏である。

このウインドブレイカーズの音の特徴は「切れ味とダイナミズム」。この「切れ味とダイナミズム」をそのままアコースティック楽器メインでやると、ちょっと音のキツい、耳が少し疲れるビッグバンドの音になる懸念がある。そこを、オルガンとエレクトリック・キーボードの丸くソフトでメロウな音を使い、聴き心地の良い柔らかな音で緩和している。

ハードバップ時代に流行ったスタンダード曲、1980年代に入って「手垢の付いた」感のあるスタンダード曲が、ポップで新しい響きを伴った、躍動感溢れる楽曲に変身しているところが実にニクい。一糸乱れぬアンサンブルも見事で、僕は、この前田憲男とウィンドブレイカーズのビッグバンドな音が大好きだった。今、聴いても良いですね。好盤です。
 
 
 

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2021年1月 5日 (火曜日)

敏子=タバキンBB『インサイツ』

今日も、秋吉敏子=ルー・タバキン ビッグバンド(Toshiko Akiyoshi-Lew Tabackin Big Band、1973年-1982年)の話題を。

デビュー盤『孤軍』については、よく聴いた。ジャズについては、まだ本格的に聴いていない時期だったが(プログレ小僧でした・笑)、何故かNHK-FMでよくかかっていて、これ幸いとエアチェックして繰り返し聴いていた。恐らく、これが僕の「ビッグバンドをしっかり聴いた」初めての機会だと思う。完璧に統制のとれた、一糸乱れぬアンサンブルが凄く印象に残った。

そして、そのビッグバンドの存在を全く忘れた頃に「第5弾」が届く。これも、NHK-FMでかかっていたのを偶然聴いたのが切っ掛け。

Toshiko Akiyoshi - Lew Tabackin Big Band『Insights(インサイツ)』(写真)。1976年6月22-24日 ハリウッド、RCAスタジオ"A"での録音。敏子=タバキンBBの5th.盤になる。この盤も何故か、NHK-FMでよくかかったので、エアチェックして結構聴いた思い出がある。

この盤については、前作よりもソロイストの演奏パートが拡大されて、ソロイストのパフォーマンスがフィーチャーされている。デビュー盤『孤軍』は「アンサンブル」が印象に残ったが、今回は「ソロ・パフォーマンス」が印象に残る。そういう意味では、従来のビッグバンドらしさが備わって、よりスタンダードとなり得るビッグバンドに進化したと見て良いかと思う。
 
 
Insights  
 
 
さて、この盤でも、賛否両論だった「日本人のアイデンティティ」がしっかり反映されている。LP時代、B面全てを費やした、21分を超える大作「Minamata(ミナマタ・水俣)」がそれに当たる。「公害」という社会問題を題材にした曲。その中で、日本的な童謡が差し込まれ、「能」の調べ、日本の舞踏民謡に似たフレーズが引用される。

これを是とするか否とするか。この盤の「日本人のアイデンティティ」については、この盤を問題作と捉え、議論の的になっていた。俗っぽく、明らかに米国での「ウケ狙い」と聴くか、純粋に「融合」が個性のジャズの一フレーズと聴くか。ジャズに、日本の童謡、能の調べ、舞踏民謡のフレーズを織り込むことに意味があるのか、無いのか。永遠の課題だろう。

ルー・タバキンのテナー・サックスとフルートが大活躍。先鋭的でバイタルなテナー・サックスは、2曲目の「Transience」でふんだんに聴くことが出来る。エモーショナルで伝統的、重心が低くダイナミックなテナー・サックスは素敵だ。

フルートは、次の3曲目「Sumie(墨絵)」で聴ける。ちょっとだけ「尺八」に似た音色のフルートが実に印象的。フレーズの「拡がり」と「間」で、タイトルの「墨絵」を表現しているイメージ。

賛否両論だった「日本人のアイデンティティ」を差し引いても、この盤もビッグバンドのアルバムとしては上質なもの。敏子=タバキンBBの個性が明確に反映された盤として、大いに評価されて然るべき好盤である。
 
 
 

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2021年1月 4日 (月曜日)

敏子=タバキンBBのデビュー盤

ジャズ盤をコレクションし、聴き進めて行く上で、ビッグバンドは結構、後回しになった。深い理由は無い。パッと思いついたバンド名が、デューク・エリントン楽団とカウント・ベイシー楽団の2つ。どちらもスイング時代から第一線で活躍する老舗ビッグバンドで、聴き進める上でなんだか敷居が高く感じて、ずっと敬遠した。後回しのそれが真相だろう。

それでも、ジャズを聴き始めた頃、結構、お気に入りになって聴き進めたビッグバンドがある。秋吉敏子=ルー・タバキン ビッグバンド(Toshiko Akiyoshi-Lew Tabackin Big Band、1973年 - 1982年)である。1973年、穐吉敏子(秋吉敏子)と夫ルー・タバキンによって、ロサンゼルスで結成されたビッグバンドである。

当時、日本人がリーダーのビッグバンドなんて、米国で認められる訳が無いと思っていた。ジャズは米国のものであり、とりわけビッグバンドは米国のもので他国のものは認めない。1970年代に入ってもそんな風潮が強かった。秋吉敏子=ルー・タバキンビッグバンドとて、例外では無かった。一部の評論家からは「ケチョンケチョン」で、心ない評論が後を絶たなかったことを覚えている。

Toshiko Akiyoshi-Lew Tabackin Big Band『Kogun(孤軍)』(写真)。1974年4月、ハリウッド、セイジ&サンド・スタジオでの録音。秋吉敏子=ルー・タバキン ビッグバンドのデビュー盤。この盤で、このビッグバンドを知った。当時、プロモーションも兼ねてだろう、NHK-FMで良く流れていた。

冒頭の「Elegy」を聴けば、このビッグバンドのコンセプトが良く判る。冒頭、秋吉敏子のビ・バップ・マナーのピアノが鳴る。そして、その後、完璧に統制のとれた、一糸乱れぬアンサンブルが疾走する。ファンクネスは控えめ、切れ味の良いビ・バップを聴く様な、疾走感溢れるビッグバンドのアンサンブル。ビ・バップの音の個性をビッグバンドに置き換えた様な演奏。
 
 
Kogun  
 
 
演奏の特徴のもう1つは「間」を活かした演奏である、ということ。「間」と「空間」を活かした演奏が、このビッグバンドのもう1つの個性。ハイ・テクニックなビッグバンドが故に出来る、ピタッとカミソリで切ったような音の「間」。そして、無を想起する「空間」。この特徴は、米国のビッグバンドには聴かれなかったもので、今でも耳に新しい響きを感じる。

そして、当時、賛否両論だった「日本人のアイデンティティ」。タイトル曲「Kogun(孤軍)」の冒頭に出てくる、「ヨ~、ポンッ」といった「能」の調べの引用。ラストの「Henpecked Old Man」に出てくる、例えば「八木節」の様な、日本の舞踏民謡に似たフレーズの引用。これを「どう聴くか」によって、この盤の評価は分かれていた様な思い出がある。俗っぽく、明らかに米国での「ウケ狙い」と聴くか、純粋に「融合」が個性のジャズの一フレーズと聴くか。

資料には「タイトル曲の「孤軍」は当時ルバング島で発見された小野田少尉をモチーフとしたもので、日本人である自分がアメリカという異国でジャズを創作して演奏するという苦闘をそこに重ねている」とある。そんな完全アウェー、「孤独」な環境の中で、自らの実力を認めさせるには、「日本人のアイデンティティ」の引用が必要だったのかも知れない。

そんな「日本人のアイデンティティ」の引用を全て差し引いても、このビッグバンドの音は素晴らしい。完璧に統制のとれた一糸乱れぬアンサンブルと、完全にコンロールされた途方も無いドライブ感、そして、疾走感。このビッグバンドには、他のビッグバンドに無い、特別な個性が溢れている。
 
 
 

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2020年12月 6日 (日曜日)

聴き心地満点「ベーカーの休日」

ウエストコースト(米国西海岸)ジャズは「聴かせる」ことに重きを置いているように思える。優秀なアレンジ然り。テーマ部の魅力的なユニゾン&ハーモニー然り。流麗なアドリブ・フレーズ然り。東海岸ジャズの「飛び散る汗と煙」のイメージ、手に汗握る、テンションの高いアドリブとは全く正反対の演奏アプローチ。

Chet Baker『Baker's Holiday』(写真左)。1965年5月、なんとNYでの録音。ちなみにパーソネルは、Chet Baker (flh, vo), Leon Cohen, Henry Freeman, Wilford Holcombe, Seldon Powell, Alan Ross (reeds), Hank Jones (p), Everett Barksdale (g), Richard Davis (b), Connie Kay (ds), Jimmy Mundy (arr)。リーダーのチェット・ベイカーはここではフリューゲルホーンを吹いている。

ソニー・クリス盤の時にもコメントしたが、1965年の録音なので、ジャズの世界では西海岸ジャズ、東海岸ジャズの区別が無くなって、西海岸ジャズ出身のチェット・ベイカーが、東海岸のNYに出向いての録音になったのだろう。但し、演奏のテイストは「西海岸ジャズ」。優れたアレンジで「楽しく聴かせる」ジャズを表現しているところは見事だ。
 
 
Bakers-holiday-1965
 
 
まず、フロントのリード楽器5人でビッグバンドをイメージした、分厚い重厚なアンサンブルを実現している。一聴すると「ビッグバンドがバックかな」と思うのだが、切れ味良くブリリアントな金管楽器の音が薄い。逆に金管楽器の音が薄いので、バックの演奏が柔らく響いて、チェットのボーカルがしっかりと浮かび上がる。アレンジの勝利だろう。

金管楽器はチェットのフリューゲルホーン1本。このチェットのフリューゲルホーンが上手い。ボーカルの上手さは以前から定評があるのだが、チェットはトランペット&フリューゲルホーンを吹かせても上手い。音がしっかりと太く流麗で、切れ味良くブリリアント。速いテクニカルなフレーズは滅多に吹かないが、しっかりと1音1音を丁寧に押さえた、暖かで柔軟なフレーズが実に心地良く耳に響く。

ギターを加えたピアノ・トリオの「リズム隊」も良い伴奏を提供していて、とりわけチェットのボーカルを引き立てていて立派。さすが伴奏上手のハンク・ジョーンズのピアノである。聴かせる「西海岸ジャズ」の雰囲気全開のスタンダード集。リラックスして聴けるジャズ。要所要所でチェットのボーカルがキラリと輝き、要所要所でチェットのフリューゲルホーンがブリリアントに響く。味のある小粋なジャズ盤です。
 
 
 

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  ・The Band の「最高傑作」盤

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2020年10月12日 (月曜日)

掘り出し物のビッグバンド盤

最近のジャズ盤リサーチはネット・サーフィン中心。特に音楽のサブスク・サイトを定期的に巡回している。意外と最近、リイシュー盤が結構アップされていて、LPやCDの時代にはお目にかかったことの無い「隠れ好盤」が、ヒョコッとアップされていたりする。改めて、ジャズ盤の「裾野」は広いなあ、と感心する。

『Chet Baker Big Band』(写真左)。1956年10月18, 19, 26日の3回に分かれて録音されている。ちなみにパーソネルは以下の通り。

【1956年10月18, 19日の録音】
Chet Baker (tp), Bob Burgess (tb), Fred Waters (as), Phil Urso (as, ts, bs), Bob Graf (ts), Bill Hood (bs), Bobby Timmons (p), Jimmy Bond (b), Peter Littman (ds, 10/18 only), James McKean (ds, 10/19 only)。

【1956年10月26日の録音】
Chet Baker, Conte Candoli, Norman Faye (tp), Frank Rosolino (tb), Art Pepper, Bud Shank (as), Bill Perkins, Phil Urso (ts), Bobby Timmons (p), Jimmy Bond (b), Lawrence Marable (ds)。

この盤、実はあまり期待せずに「チェット・ベイカーがビッグバンドを主宰することあったんや」という興味だけでこの盤を聴き始めた。冒頭の「Tenderly」を聴き始めて「あれっ」と思った。
 
 
Chet-baker-big-band  
 
 
一通り聴き終えて、もう一度、頭から聴き直す。リーダーのチェットのトランペットも良い音出してるのだが、ビッグバンドを構成するメンバーそれぞれが実に良い音出している。3度聴き直して、パーソネルを調査する。それが上記のパーソネル。米国西海岸ジャズの一流どころがズラリ。

続く「Mythe」。ビッグバンドの音が少し変わる。良い演奏なんだが、冒頭の「Tenderly」に比べると、ちょっとレベルが落ちるというか、何かが足らない感じがする。でも、水準以上の良い演奏なんですよ。そして、聴き進めて、7曲目「Darn That Dream」で、また、覇気溢れる、良い音するビッグバンド演奏が戻ってくる。

全10曲聴き終えて、パーソネルを確認して、1曲目「A Foggy Day」、7曲目「Darn That Dream」、そして、10曲目の「Tenderly」の3曲が、米国西海岸ジャズの一流どころがズラリ集まったスペシャルなビッグバンド。チェット・ベイカーのトランペットが素晴らしく良い音で響きます。

残りの7曲も悪く無いですよ。水準以上のビッグバンド・サウンドで、その中でチェット・ベイカーのトランペットが映えに映えます。こんな盤があったなんて。このビッグバンドを録音した経緯なんかも判ったら楽しいでしょうね。掘り出し物の好盤です。
 
 
 

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2020年9月16日 (水曜日)

内容良好な「With Strings」盤

ジャズ、特にビッグバンド系のジャズは「アレンジ」がとても大切な要素であると思っている。ソロイストの力量・技術も絶対要件だとは思うが、そのソロイストのアドリブを引き立てるのが、バンド全体のアンサンブルだろうから、その「アレンジ」はとても重要な要素となる、と僕は感じている。

『Supersax Plays Bird With Strings』(写真)。1975年の作品。ちなみにパーソネルは、Supersaxとして、Jay Migliori, Warne Marsh (ts), Joe Lopez, Med Flory (as), Jack Nimitz (bs), Frank Rosolino (tb), Conte Candoli (tp), Buddy Clark (b), Jake Hanna (ds), Lou Levy (p)。ここに上質のストリングスが入る。

スーパーサックスとして、デビュー盤の『Supersax Plays Bird』、第2作目の『Salt Peanuts : Supersax Plays Bird Vol. 2』に続く3枚目のアルバムになる。スーパーサックスの「With Strings」なので、チャーリー・パーカーの大名盤『Charlie Parker With Strings』全曲のスーパーサックスの演奏に置き換えるのか、と思った。
 
 
Supersax-plays-bird-with-strings  
 
 
が、チャーリー・パーカーの名盤「ウィズ・ストリングス」からは「April in Paris」「I Didn't Know What Time It Was」「If I Should Lose You」の3曲。他はパーカーが残した名演の中から「With Strings」に向いた演奏をピックアップして、「With Strings」アレンジしている。「Kim」がアレンジされているのが、個人的には目を引く。

この盤もアレンジが良い。スーパーサックスとしてのアレンジも良好、ストリングス・アレンジも現代的で良い雰囲気。パーカーの名盤「ウィズ・ストリングス」は、パーカーの演奏は凄いのだが、ストリングスのアレンジが如何せん古すぎる。このストリングスのアレンジが古すぎて、パーカーの素晴らしいフレーズがちょっと色褪せるのだが、このスーパーサックスのストリングス・アレンジは良好で、パーカーのアドリブ・フレーズが心ゆくまで楽しめる。

出来たら、パーカーの名盤「ウィズ・ストリングス」の全曲をアレンジして再演して欲しかったなあ、と思わせてくれるほど、この「With Strings」盤は良く出来てます。「With Strings」盤って、イージーリスニング風であまり好きでは無いのだが、この盤は別格。やはりアレンジとソロ・パフォーマンスが優れていることが、純ジャズ盤として成立する絶対条件ですね。
 
 
 

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2020年9月13日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・187

先日、World Saxophone Quartet(WSQ)のアルバムをご紹介した。バリトン・サックス1本、アルト・サックス2本、テナー・サックス1本、サックス計4本のみの「四重奏」バンド。ジャズの世界では実にユニークな存在なんだが、他にも同じコンセプトのバンドがあったぞ、と思いを巡らせた。それも、遠い遠い昔、ジャズを聴き始め、初めて購入したジャズ盤紹介本にあって、強く興味を持ったバンドだった。

そうそう、そのバンドとは「Supersax(スーパーサックス)」。チャーリー・パーカーの不朽の名アドリブを、5人のサックス奏者がそっくりそのままハーモナイズして甦らせる驚異のグループである。アルトとテナーが2人ずつ、さらにバリトン1人という、ドライブ感抜群、迫力満点な分厚いサックス・アンサンブルで、パーカーのアドリブ・フレーズの魅力を余すところなく伝えてくれるのだ。

『Supersax Plays Bird』(写真左)。1973年の作品。ちなみにパーソネルは、Jay Migliori, Warne Marsh (ts), Joe Lopes, Med Flory (as), Jack Nimitz (bs), Buddy Clark (b), Jake Hanna (ds), Ronnell Bright (p), Charley Loper, Ernie Tack, Mike Barone (tb), Conti Candoli, Larry McGuire, Ralph Osborn, Ray Triscari (tp)。アルトとテナーが2人ずつ、さらにバリトン1人、ブラスは、トロンボーンが3 人、トランペットが3人という布陣。そこに、ピアノ・トリオのリズム・セクションがバックに控えている。
 
 
Supersax-plays-bird  
 
 
Capitolレコードからのリリースなので、米国西海岸ジャズの範疇でのバンド・サウンドになる。こういう企画バンドについては、絶対に「アレンジ」が鍵を握る。このSupersaxのデビュー盤については、それはそれは見事なアレンジで、パーカーのアドリブを、ドライブ感抜群、迫力満点なアンサンブルに仕立て上げている。

こうやって、ブラスの分厚い、疾走感溢れるアンサンブルに置き換えると、ビ・バップ時代のアドリブ・フレーズって、実に魅力的かつアーティスティックなものだったことが良く判る。この様なフレーズを「即興演奏」で吹き上げてしまうのだから、そのアドリブの主、チャーリー・パーカーもとてつもなく凄い。そんなビ・バップの凄さを、自分がジャズ者初心者駆け出しの頃、このSupersaxの演奏で理解した思い出がある。

硬派なジャズ者ベテランの方々の中には「パーカーを冒涜している」との意見もある様なのだが、この優れたアレンジ、一糸乱れぬアンサンブル、そして、そこからダイレクトに伝わるパーカーのアドリブの凄さを思うと、逆にパーカーを真剣に「トリビュート」し、尊敬の念を持って演奏しているように感じるのだ。とにかくこのブラス・アンサンブルは凄い。パーカーのアドリブを知らなくても良い。是非、一聴をお勧めする。
 
 
 
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2020年8月22日 (土曜日)

Buddy Rich Big Bandの秀作

米国ではまずまずの人気を得ているのに、日本では全く人気の無いジャズ・ミュージシャンが結構いる。テクニックが不足している訳でも無い、音楽性に問題がある訳では無い。どう聴いても他の一流人気ミュージシャンと引けを取らないのに、我が国では人気が無い、評価が低いジャズ・ミュージシャンが結構いるのだ。

原因として、そもそも情報不足、我が国のレコード販売会社が契約上扱っていなくて、情報どころかアルバム自体が我が国に届かないケースがひとつ。もう1つは、我が国のジャズ評論家の方々やジャズ愛好家の方々の「耳に合わない」ケース。スイングしないとか、音が派手で情緒に欠けるとか、侘びさびが無いとか、主観の評論が我が国で定評として定着してしまった、トホホなケースである。

Buddy Rich『The Roar of '74』(写真左)。1973年の録音。The Buddy Rich Big Bandのスタジオ録音になる。このビックバンドは当時の固定のメンバーがアサインされていて、従来からのメインストリーム系ジャズの名手達の名前は無い。1970年代前半は、商業ロック、ポップスの全盛期、そんな時期に、これだけの実力を持った、これだけの規模のビッグバンドを維持していたのは、ちょっと驚きである。
 
 
The-roar-of-74
 
 
このビッグバンド、その演奏力は半端無い。ダイナミズム&パンチ力満点、ユニゾン&ハーモニーの正確さ、アンサンブル&フレーズの力強いドライヴ感、ソロのテクニック、どれをとっても不満の無い、破綻の無い、ビッグバンドのお手本の様な演奏が続く。若干、単純で大味な面も見え隠れするが、それを越えて余りある、迫力のある気味の良い演奏である。

そんなビッグバンドを牽引し鼓舞しまくるバディ・リッチのドラミングが、これまた凄まじい。このビッグバンドのパンチ力、ドライヴ感は、リッチのドラミングの賜である。リッチのドラミング自体が豪快で力強くドライヴ感満点なのだ。そんな豪放磊落なドラミングに呼応するかの様に、リッチ率いるビッグバンドが疾走する。楽器毎のそれぞれに良い音出しているのにも感心する。

このビッグバンドの演奏のどこに問題があるのか、僕には判らない。それでも、我が国のバディ・リッチの低評価には常々疑問を感じている。時代を反映する様な「エレピの端正で疾走感溢れるソロ」が良く無かったか。ビッグバンドに電気楽器は御法度だったか。とにかく、このバディ・リッチのビッグバンドは素晴らしい。まずは自分の耳で聴いて、自分の耳で判断する、ですね。
 
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
 

 ★ AORの風に吹かれて    【更新しました】 2020.08.04 更新。

  ・『Your World and My World』 1981

 ★ まだまだロックキッズ     【更新しました】 2020.08.04 更新。

  ・『Music From Big Pink』

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【更新しました】 2020.08.04 更新。

  ・太田裕美『Feelin’ Summer』



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2020年7月 6日 (月曜日)

聴いて楽しい「ファーガソン」

ジャズという音楽は表現の幅が広くて、聴く者と対峙する様なアーティスティックな演奏もあれば、聴いていて単純に楽しいポップでエンターテイメントな演奏もある。ビッグバンド・ジャズも同様で、そのアレンジやソロ・パフォーマンスの内容について、アートな側面を押しだしたものもあれば、とにかく聴いて楽しい、ビッグバンドの魅力がダイレクトに伝わるエンターテイメント名な演奏もある。

Maynard Ferguson『Carnival』(写真)。1978年の作品。ハイノート・ヒッター(非常に高い音域を正確に演奏すること)で知られた、カナダ出身のジャズ・トランペット奏者、メイナード・ファーガソンの人気盤。

メイナード・ファガーソンについては、我が国では『アメリカ横断ウルトラクイズ』のテーマだった「スター・トレックのテーマ」や、シルヴェスター・スタローンの名画「ロッキー」のテーマ曲のトランペットで有名ではあるが、人気はイマイチ。

しかしながら、海外では、世界中のトランペット・プレイヤーから熱狂的に支持されているレジェンド。ファーガソンは40年以上もの間、ジャズ・トランペットにおける最高の巨匠のひとりとして尊敬を受けてきている。我が国での人気の無さはどうにも理解に苦しむ。「ハイノート」がはしたない、などという見当違いの評価もあるのだから困ったものである。
 
 
Carnival-maynard-ferguson  
 
 
さて、この『Carnival』の内容に戻る。冒頭の「M.F. Carnival」のダイナミズム溢れる、めくるめく展開に耳を奪われる。そして、次の曲は、EW&Fのヒット曲「Fantasy」のカヴァー。とにかく楽しい、判り易いアレンジが良い。続く「Theme from Battlestar Galactica」は、なんと、超人『ハルク・ホーガン』のテーマ曲ですね。1980年代、新日本プロレス時代の使用曲。「イチバァーン!」と叫ぶ決めポーズああ懐かしい。

ポップなカヴァー曲が目を引くが、大スタンダード曲も演奏されているのだから、もう何が何やら判らない(笑)。しかし「Stella by Starlight」のアレンジが凄い。ビッグバンドの能力を最大限に引き出すかの様な、目まぐるしく変化するリズム&ビート。そして「Over the Rainbow」。これもアレンジが素晴らしい。ソフト&メロウな「フュージョン・ビッグバンド」的アレンジ。時代に即したアレンジ。素晴らしい。

そして、僕の一番のお気に入りは「Birdland」。Weather Reportの名曲中の名曲。原曲のファンキー度を活かしつつ、エレギの存在のお陰で「ブラス・ロック風」。ドライブ感とグルーヴ感抜群で圧倒的な迫力。このビッグバンド仕様の「Birdland」は聴きものである。

当時の人気曲からスタンダード曲まで、ごった煮の選曲なんだが、一貫性のある格好良いアレンジとファーガソンの圧倒的迫力のトランペットがこの盤を実に楽しい内容のビッグバンド・ジャズに仕立て上げている。とにかく聴いていて楽しいのなんのって。こういうビッグバンド・ジャズがあっても良い。
 
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
 

 ★ AORの風に吹かれて    【更新しました】 2020.06.28 更新。

  ・『You’re Only Lonely』 1979

 ★ まだまだロックキッズ     【更新しました】 2020.06.28 更新。

  ・Zep『永遠の詩 (狂熱のライヴ)』

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【更新しました】 2020.06.28 更新。

  ・太田裕美『手作りの画集』

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