2020年4月 3日 (金曜日)

追悼 エリス・マルサリス。

つい先日、ウォレス・ルーニーの悲報に接したと思ったら、昨日、また悲報が続いて入ってきた。なんと、エリス・マルサリスが新型コロナ感染に伴う合併症により逝去したとのこと。享年85歳。ブランフォード、デルフィーヨ、ジェイソン、ウィントンの「マルサリス4兄弟」の父であり、渋い玄人好みのジャズ・ピアニストでした。実に残念です。

エリス・マルサリス(Ellis Marsalis)は、米国ルイジアナ州ニューオーリンズ出身。ディラード大学でクラシック音楽を学びながら、担当楽器をサックスからピアノに変え、ニューオリンズを拠点にジャズ・ミュージシャンの活動を展開。1970年代には「the New Orleans Center for Creative Arts」で教鞭を執っている。Terence Blanchard (tp), Harry Connick Jr. (vo), Donald Harrison (sax), Marlon Jordan, (tp) and Nicholas Payton (tp) などは、彼の教え子である。

エリス・マルサリスは、リーダー作を約20枚程度、リリースしているが、どれもが優れた内容となっていて立派だ。彼のピアノは、端正で正確、まるでクラシック・ピアノの様だが、フレーズにオフビートがしっかり効いていて、端正でありながらジャジーなフレーズが個性。タッチは明快。右手はハッキリと旋律が浮かび上がり、ハンマー奏法とまではいかないが、左手の低音は歯切れ良く響く。他にありそうで無い、エリスならではの個性である。
 
 
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Ellis Marsalis『Heart of Gold』(写真左)。1991年録音のコロンビア盤。ちなみにパーソネルは、Ellis Marsalis (p), Ray Brown (b), Billy Higgins (ds)。ピアノのエリス・マルサリスをリーダーとしたピアノ・トリオ盤。録音当時、エリス・マルサリス(1934年生まれ)は57歳、ビリー・ヒギンス(1936年生まれ)は55歳、レイ・ブラウン(1926年生まれ)は65歳。メインストリーム・ジャズ志向のベテラン3人が集結。

レイ・ブラインだけが、エリスより8歳年上の60歳代。レイ・ブラウンがサイドマンになった時の傾向として、結構、ブンブンと前へ前へ出るのかな、と思ったら、録音バランスとも相まって、良い感じに後ろに控えて、秀逸なウォーキング・ベースを聴かせている。ヒギンスは一番年下なんだが、さすがモード・ジャズに揉まれてきただけあって、単調なリズムを刻みつつけること無く、寄り添うようにエリスのピアノに柔軟に反応している。

エリス・マルサリスのピアノの個性がしっかり確認出来る、好ピアノ・トリオ盤だ。アップテンポの演奏は無く、ミドル・テンポのゆったりとした演奏が心地良い。それでいて、さすが名うてのベテラン3人のトリオ演奏、適度に張ったテンションがアルバム全体の雰囲気をグッと引き締めている。しかし、こんな好演をしているエリスが、この盤を録音した29年後、新型コロナウィルスで逝去するとは。実に無念です。ご冥福をお祈りします。
 
 
 

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2020年4月 2日 (木曜日)

ショウのトランペットの再評価

ウッディ・ショウをしっかりと聴き直したくなった。ウッディ・ショウは、1970年代に、メインストリーム・ジャズのトランペッターとして頭角を現し、1980年代の純ジャズ復古の先鞭を付け、その純ジャズ復古の流行に乗って人気ジャズマンになろうとしたところ、1989年2月、ブルックリンで地下鉄のホームから転落し左腕を切断。その後の快方に向かうこと無く、同年5月に逝去している。

彼は、1970年代、ジャズ・ロックやフュージョン・ジャズなど、ポップなジャズに走ること無く、メインストリーム・ジャズを貫き、伝統的なモーダルなハードバップ基調のリーダー作を数多く残した。しかし、1970年代はフュージョン・ジャズ全盛の時代、やや難解で硬派なショウのトランペットはマイナーな存在に甘んじている。加えて、我が国では全く人気が無く、フレディ・ハバードのコピーなどと揶揄された。

Woody Shaw『Little Red's Fantasy』(写真)。1976年6月29日の録音。ちなみにパーソネルは、Woody Shaw (tp), Frank Strozier (as), Ronnie Mathews (p), Stafford James (b), Eddie Moore (ds)。ショウのトランペット、ストロージャーのアルト・サックスのフロント2管のクインテット構成。ジャズ・メッセンジャーズにも参加していた、純ジャズ系ピアニスト、ロニー・マシューズのトリオがリズム・セクションを司っている。
 

Little-reds-fantasy
 
 
自己のオリジナル曲で固めた当アルバムは、のびのびの気合いの入ったショウのトランペットが心ゆくまで堪能出来る。ハイトーンもバッチリ、高テクニックに裏打ちされた、変幻自在、緩急自在なプレイは聴き応え十分。「フレディ・ハバード」のコピーなんて揶揄されたがとんでもない。ハバードの様に目立とう精神は無く、バンド演奏の中で、バランスをしっかりと意識した、速いフレーズの中でもしっかりと感じることの出来る「余裕ある、節度ある」吹き回しが個性的。

モーダルなアドリブ・フレーズもイマージネーション豊かで破綻が無い。機械的では無く、人間的温もりが感じられるテクニカルなフレーズ。このショウが、当時、評価されなかったのが全く意外である。フロントの相棒、ストロージャーのアルト・サックスも好調、このストロージャーとの相性も良く、相当にレベルの高い、適度なテンションが心地良い、当時、最先端のモード・ジャズが展開されている。

テクニックはもちろん、そのブラスの響き、トラペットの音色も良く、何よりハードボイルドな吹き回し。アドリブ・フレーズのイマージネーションとバリエーションが豊かなので、決してマンネリに陥ることは無い。今回、ショウのリーダー作を聴き直して、改めて、ショウのトランペットの凄さを再認識した。ウッディ・ショウのトランペットは再評価に値する。
 
 
 

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2020年4月 1日 (水曜日)

追悼 ウォレス・ルーニー。

ジャズ界からもコロナウィルスによる犠牲者が出てしまった。ウォレス・ルーニーが、昨日、新型コロナウイルス感染症の合併症により急逝しました。59歳(若すぎる)。マイルスが個人的に指導した唯一のトランペット奏者であり、アコースティック・マイルスの後継者の一人でした。しかし、よりによって、ウォレス・ルーニーがコロナウィルスにやられるとは。年齢的に共感を覚えていたルーニーなので、かなりショックである。

マイルスに認められた唯一のトランペッターであった、ウォレス・ルーニー。それ故、常に「マイルスのコピー」「マイルスの影がちらつく」「人の真似は絶対にしなかったマイルスとは似ても似つかぬ」とか、散々な厳しい評価に晒されてきた。僕は「マイルスに認められた唯一のトランペッター」の行く末を見守っていたくて、ずっとルーニーの演奏を聴いてきたが、そんなに厳しく指摘するほど、マイルスの音に似すぎていた、とは思わない。

テナー・サックスであれば「コルトレーン」。コルトレーン・ライクな演奏をするテナー・マンなんてごまんといる。ピアノであれば「バド・パウエル」。バドのビ・バップライクな演奏スタイルを真似るピアノ・マンは、これまた、ごまんといる。トランペットは意外と皆が真似るスタイリストがいない。第一人者であるトランペッターがマイルスで、あまりにその個性が突出しているので、真似するにも真似が難しい。
 
 
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Wallace Roney『Blue Dawn - Blue Nights』(写真左)。2018年9, 10月、NYのルディ・ヴァン・ゲルダースタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Wallace Roney (tp), Emilio Modeste (ts, ss), Oscar Williams II (p), Paul Cuffari (b), Kojo Odu Roney (ds, track=1, 4, 6–8), Lenny White (ds, track=1–3, 5), Quintin Zoto (g, track=1, 3, 5)。全編、アコースティックな純ジャズ路線の演奏である。

この盤が現時点でのルーニーの遺作となる。この盤では、サイドメンの選定が良かったのと、明確に現代のモード・ジャズを演奏するという志向が功を奏して、長年、厳しい評価の代表だった「マイルスのコピー」のイメージを完全に脱却している。モード・ジャズが基調であるが、そもそもマイルス存命の時代に、こんな「現代のネオ・ハードバップ」の様な演奏のトレンドは無かった。サイドメンを含めて、アコ・マイルスの影から完全脱却している。アコ・マイルスを踏襲しつつ「アコ・マイルスの先」を演奏したかったルーニーの面目躍如である。

前作まで「アコ・マイルスの踏襲」を洗練〜深化し続けていただけに、僕はこの最新作であるこの盤について、ルーニーの「目標」が達成された盤として評価していただけに、今回の急逝が実に惜しまれる。「アコ・マイルス」の先の演奏を実現した途端に、今回の急逝。ルーニーに代わって、無念の気持ちで一杯である。あの世でマイルスに会ったら、今度こそ、マイルスとトランペット2管で共演して下さい。ご冥福をお祈りします。
 
 
 

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2020年3月31日 (火曜日)

マルチ楽器奏者の第一人者

ジャズの中で、サックスは花形楽器。当然、サックス奏者の数も多い。サックスも種類が豊富で、ソプラノ、テナー、アルト、バリトンとおおよそ4種類ある。そして、面白いのは、サックス奏者はフルートも得意だということ。運指が同じ感じで、吹き方も同じマナーで吹ける。僕もアルト・サックスが少し吹けるが、実はフルートも吹ける。確かに、吹く「フィーリング」が同じなのだ。

Yusef Lateef(ユセフ・ラティーフ)というマルチ楽器奏者がいる。1920年、米国テネシー州生まれ、惜しくも2013年に93歳で亡くなっている。この人は典型的なマルチ楽器奏者で、メインはテナー・サックスだが、ソプラノ・サックス、バリトン・サックス、フルート、オーボエも吹く。このオーボエにしろ、フルートにしろ、オーケストラのマエストロの門を叩いて、アカデミックな教育環境の中で演奏技術を習得した本格的なもの。軽く見てはいけない。

Yusef Lateef『The Centaur and The Phoenix』(写真左)。1960年10月と1961年6月の2回に分けての録音。ちなみにパーソネルは、Yusef Lateef (ts, fl, arghul, oboe), Richard Williams (tp), Clark Terry (flh, tp), Curtis Fuller (tb), Josea Taylor (bassoon), Tate Houston (bs), Joe Zawinul (p), Ben Tucker (b), Lex Humphries (ds)。幾つか珍しい楽器を含めたノネット(9人)編成。
 
 
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ラティーフ自身、オーボエとフルート、そして、アルグールという古代リード楽器を吹いている。バリトン・サックスとフリューゲルホーンとバズーンが入っている。このオーボエとアルグール、そして、バリサクとバズーンがユニークな音を出していて、ラティーフの真骨頂である「異国性溢れる」不思議でオリエンタルな響きを生成している。

この盤でのラティーフのテナー・サックスもなかなかで、コルトレーンとは全く違い、少しポップでシンプルで判り易いテナー・サックスを吹いている。この盤では、ラティーフは意外と正統なメインストリーム・ジャズをやっていて、捻れたエキゾチック・ジャズは時々、節度良く顔を出す程度。だが、この捻れたエキゾチック・ジャズの部分に、当時のジャズとしての革新性を聴くことが出来る。

メインストリーム・ジャズ部と捻れたエキゾチック・ジャズ部とのバランスがとても良く、ラティーフもマルチ楽器奏者として大活躍している。タイトルは「ケンタウロスとフェニックス」と、ジャズ盤らしからぬタイトルが付いているが、この盤は、ラティーフのマルチ楽器奏者としての特徴が良く理解出来、彼のメイン楽器であるテナー・サックスの個性がバッチリ確認できる好盤である。
 
 
 

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2020年3月30日 (月曜日)

ギリシャのピアニスト盤である

ジャズには「ジャケ買い」という言葉がある。ジャケット・デザインの優れたアルバムは、基本的に内容の優れたアルバムである確率が高い、という「格言」。自らの体験を振り返ると、確かにその傾向は強い。そのリーダー作の名前について全く知らなくても、直感的にジャケット・デザインが良いと思って衝動買いしたら、かなりの確率で、その内容は良好なものが多い。

George Kontrafouris Trio『The Passing』(写真左)。2020年2月のリリース。ニューヨークの伝説的なバードランドでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、George Kontrafouris (p), Kimon Karoutzos (b), Jason Wastor (ds) 。ピアノ・トリオ。リーダーはピアニスト。ギリシャ出身のベテラン ・ピアニスト、ジョージ・コントラフォーリス(=George Kontrafouris)とのこと。

全く知らないピアニストだ。実はこの盤、ジャケット・デザインに妙に惹かれて、いきなりゲットした、いわゆる「ジャケ買い」盤なのだ。リーダーのジョージ・コントラフォーリスは、ジャズ・ピアニスト、オルガニスト、教育者として欧州のジャズ・シーンの主要人物の一人。多くの有名なミュージシャンとの共演歴もあり、ニューヨークを拠点に活動しているとのこと。いやはや、ジャズ・ミュージシャンの裾野は広い。
 
 
The-passing
 
 
コントラフォーリスのピアノは明らかに欧州ジャズの音傾向を踏襲している。クラシック・ピアノの素養がベースにあって、前奏などの弾き回しの手癖は明らかにクラシックの影響大。テーマからアドリブ部の弾き回しは、ビル・エヴァンスに通じる耽美的でリリカルな音。タッチは流麗。テクニックに走らず、弾き回しの流麗さを基に、音の広がりと音の重なりを優雅に聴かせる。

バックに付いたベースとドラムのリズム隊のレベルも高い。適度なテンションが心地良い、インテリジェンス溢れるインタープレイ。野趣溢れるアドリブ・プレイ。木訥にシンプルにリズム&ビートをキープし、フロントの旋律を司るピアノをサポートする。ジャズ、ブルース、そして、時々、「恐らくは」であるが、ギリシャのネイティヴな旋律を織り交ぜて、どこか、ギリシャを感じさせる音世界が独特な響きとして伝わってくる。

ジャズは国際的な音楽になったんやなあ、とこの盤を聴きながら再認識。特に欧州ジャズならではの豊かで流麗な響きがこのピアノ・トリオの一番の個性。そして、ところどころに織り交ぜられる、ギリシャのネイティヴな旋律がユニーク。米国ジャズ、日本のジャズには絶対に無いこの音世界は様々な発見があって、繰り返し聴いても飽きることが無い。今回の「ジャケ買い」、大成功である。
 
 
 

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2020年3月29日 (日曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・81

昨年の10月にスペインに旅行し、その中でバルセロナを訪れた。なかなかツアーでは訪れることのない「カタルーニャ音楽堂」を見学することが出来て、感激の極みであった。その「カタルーニャ音楽堂」の見学順路の壁にジャズ・ピアニストらしき写真があった。テテ・モントリューであった。そう言えば、彼は1997年に、この「カタルーニャ音楽堂」でソロ・ピアノ盤を録音している。

テテ・モントリューは、カタルーニャのバルセロナ出身のジャズ・ピアノの巨匠である。惜しくも1997年8月に64歳で逝去しているが、1965年に初リーダー作でデビュー以来、逝去する1997年まで、32年の長きに渡って欧米で活躍した、ジャズ・ピアノのレジェンド。端正で力強いタッチの中、スペイン音楽に聴かれる様な、哀愁感漂うスパニッシュな響きがほんのりと香る、ハードバップでモーダルなピアノの調べは、欧州ならでは、スペイン出身ならでは個性。

Tete Montoliu 『Catalonian Rhapsody』(写真左)。1992年3月8日、スペインはバルセロナでの録音。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Hein Van de Geyn (b), Idris Muhammad (ds)。日本のヴィーナス・レコードからのリリース。タイトルはズバリ、モントリューの故郷である「カタルーニャ」を採用している。タイトルから判る様に、この盤は、モントリューが、カタルーニャ地方の哀愁のメロディを、ピアノ・トリオで存分に表現したもの。
 
 
Catalonian-rhapsody  
 
 
選曲を見渡すと、ヴィーナス・レコードらしからぬ、有名なスタンダード曲が見当たらない。1曲目「The Lady From Aragon (La Mama D'Arago)」から、5曲目「Song Of The Robber (La Canso Del Lladre)」までが、カタロニア地方の伝承曲を基にした演奏になっている。この5曲については、哀愁感漂うスパニッシュ風ではあるが、ちょっと独特な響きが宿るカタルーニャ独特の響きがユニーク。ついつい聴き惚れる。

残りの3曲のうち、2曲はカタルーニャの作曲家「Joan Manuel Serrat」の作、残りの1曲はモントリュー自身の作。つまりは、この盤はタイトル通り「カタルーニャの狂詩曲」である。これが良い。モントリューが故郷のカタルーニャをピアノ・トリオで、ジャズで表現する。そして、このトリオ演奏の内容が濃い。トリオの3者共に好調で、硬軟自在、縦横無尽のインタープレイが素晴らしい。

逝去の5年前とは言え、モントリューのピアノは好調を維持している。モントリューは僕のお気に入りのピアニストの一人で、昔から聴き親しんで来たが、この『Catalonian Rhapsody』という盤、モントリューのリーダー作の中で屈指の出来だと僕は思う。ヴィーナス・レコードからのリリースだから、という先入観だけで、この盤を遠ざけるのは勿体ない。久々に「ピアノ・トリオの代表的名盤」としてアップしたい。
 
 
 

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2020年3月28日 (土曜日)

心地良きビッグバンドとの共演

ビッグバンドとの共演は、ソロイスト側には「テクニックが優れていること」「フレーズが明確でハッキリしていること」、そして、ビッグバンド側には「ソロ楽器を意識したアレンジが施されていること」「ソロイストを前面に押し出す伴奏上手であること」が、それぞれ要求される。そして、その要求が満足されたら、その共演は素晴らしいジャズの音世界への昇華する。

Bill Laurance & WDR Big Band『Live at the Philharmonie Cologne』(写真左)。2018年11月24日、ドイツはケルンの「the Philarmonie」でのライブ録音。スナーキー・パピー結成当時からのメンバーであるキーボーディスト「ビル・ローレンス」と、ケルンの名門ビッグ・バンド「WDR Big Band」との共演。そして、WDR Big Bandのコンダクターは「ボブ・ミンツァー」。

スナーキー・パピーの知性あふれるクールなサウンド・イメージがベースとなって、ビッグバンドのアレンジが為されているように思う。スナーキー・パピーのキーボーディスト、ローレンスのピアノがくっきり浮かび上がる、つまり、WDR Big Bandがソロイストを前面に押し出す伴奏上手となる為のアレンジである。従来のWDR Big Bandの表現とは全く異なる、クールで流麗でスムースな音の流れ。現代の「今」のビッグバンドの音である。
 
 
Live-at-the-philharmonie-cologne  
 
 
ビル・ローレンスは、スナーキー・パピーでのプレイの様に、クールで流麗でキャッチャーなフレーズを弾きまくる。印象的なフレーズがどんどん湧き出てきて、ポップな展開あり、流麗な展開あり、耳に楽しく、耳に心地良い印象的なフレーズ満載。ジャジーでファンキーな要素はまず見当たらない。良質なフュージョン・ジャズを基調にした様なフレーズの作り。それでいて、タッチと弾き回しは純ジャズそのもの。

その印象的なフレーズをWDR Big Bandがしっかりと受け止めて、さらにローレンスのピアノを際立たせている。ローレンスのアドリブ展開の表現の変化に応じて、WDR Big Bandもしっかりとその変化に追従し、その変化に適応する。凄い力量をもつビッグバンドだ。WDR Big Bandのソロイスト達も、ローレンスの醸し出すサウンド・イメージに則りつつ、個性的なアドリブ・ソロを展開する。それはそれは聴き所満載で、あっと言う間に時間は過ぎていく。

ビル・ローレンスは1981年生まれなので、今年まだ39歳。中堅の入り口に差し掛かった若き才能とベテラン・アレンジャー/コンダクターのボブ・ミンツァー、そして、百戦錬磨のアンサンブルのWDR Big Band、の3者が有機的に融合し生み出された「一期一会」の音世界。 クールで流麗でキャッチャー、そしてダイナミック。今までに無い、新しいピアノとビッグバンドの共演サウンドがこの盤に詰まっている。
 
 
 

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2020年3月27日 (金曜日)

ヘインズ、老いてなお盛ん

以前は、何かめぼしいアルバムは無いか、聴いた事の無いアルバムは無いか、レコード屋、もしくは、CDショップを巡回したものだ。しかし、21世紀に入った頃から、インターネットのサービスが発達し、インターネットのCDショップを徘徊することが主となり、最近では、サブスクの音楽サイトを巡回することに代わった。振り返ってみれば、今ではCDショップに足を向けることは全く無くなった。

特に、大手のサブスク音楽サイトについては、ジャズに限っては音源がかなり充実していて、ジャズ盤鑑賞の趣味においては実に助かる。今まで、CDショップでも見かけ事の無かった音源がアップされていたりして、以前よりも遙かに、ジャズ盤鑑賞の幅が広がり、ジャズ盤探索の手間が随分省けた様に思う。音質についても、このところ、大幅に改善されてきたみたいで、もうCDショップに出入りすることは無いかな。

Roy Haynes & The Fountain of Youth Band『Whereas』(写真左)。2006年1月20-22日、米国ミネソタ州セントポールのジャズクラブ「Artists' Quarter」で行われた「Roy Haynes Weekend」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Roy Haynes (ds), John Sullivan (b), Robert Rodriguez (p), Jaleel Shaw (ts)。ジャズ・ドラムの大御所、ロイ・ヘインズのリーダー作。録音当時81歳(1925年生まれ)。老いてなお盛んなヘインズである。
 
 
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しかもこのライブ盤、録音当時81歳のヘインズが、30〜50歳も年下の、いわゆる「息子」や「孫」の様な年齢の中堅ジャズメンと共演しているのだ。今回の演奏は、テナー・サックスが1管の「ワンホーン・カルテット」。テナー・サックスは、1978年生まれのジャリール・ショウ。録音当時は28歳のバリバリ若手。ヘインズから53歳年下だから、ヘインズからみたら「孫」的存在。ジャリール・ショウがバリバリ吹きまくる。スタイルは「コルトレーン派」。コルトレーンと比べて、軽やかで流麗。

それでも優秀なテクニックでバリバリに吹きまくっている。この「孫」の様なテナーをヘインズはガッチリと受け止め、リズム&ビートをコントロールし、逆に「もっと吹け」と言わんばかりに、若手テナーを鼓舞している。これは、ロバート・ロドリゲス(1968年生まれ)のピアノにも言える。録音当時38歳。ロドリゲスも流麗にガーンゴーンとモーダルなピアノを弾きまくるのだが、ヘインズは正確なリズム&ビートを供給し、ロドリゲスのピアノを破綻せぬよう、しっかりとサポートする。

この盤は、ジャズ・ドラムのレジェンド、ヘインズの「老いてなお盛ん」で驚異的なドラミングを堪能する盤である。そのパワーと感性は全くもって衰えることを知らない様だ。そして、当時の若手テナー・マン、ジャリール・ショウの若々しい、正統派なサックス・プレイは「要注目」である。加えて、ピアノのロバート・ロドリゲスも、僕は知らなかったが、この盤でのプレイを聴く限り「要注目」。こういう好盤が、何気なくサブスクの音楽サイトに転がっているのだから、ジャズはやっぱり隅に置けない。
 
 
 

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2020年3月26日 (木曜日)

カル・ジェイダーは粋な両刀使い

米国西海岸ジャズを聴き直していて、本当にお洒落で粋なアレンジを施された演奏が多いなあ、と感心する。演奏のテクニックも高い。そんなジャズメンたちが、優れたアレンジの下で、ユニゾン&ハーモニーを奏で、質の高いアンサンブルを聴かせてくれる。高いテクニックでそれをやるのだ。一糸乱れぬ、とても息の合った演奏が心地良い。いわゆる「破綻の魅力」は微塵も無い。

Cal Tjader『Tjader Plays Tjazz』(写真)。1954年のカルテットと1955年のクインテットの演奏に分かれる。1954年のカルテットのパーソネルは、Bob Collins (tb), Al McKibbon (b), Cal Tjader (ds), Eddie Duran (g)。1955年のクインテットのパーソネルは、Sonny Clark (p), Gene Wright (b), Cal Tjader (rib), Bobby White (ds), Brew Moore (ts)。

1954年のカルテットでの演奏は、2曲目「I've Never Been In Love Before」、4曲目「How About You」、7曲目「My One And Only Love」、9曲目「I'll Know」。1955年のクインテットでの演奏は、1曲目「Moten Swing」、3曲目「There Will Never Be Another You」、5曲目「Jeepers Creepers」、6曲目「A Minor Goof」、8曲目「Imagination」、10曲目「Brew's Blues」。
 
 
Tjader-plays-tjazz-1  
   
 
カル・ジェイダーは、ドラマーとヴィブラフォン奏者の両刀使い。特異な存在ではある。どちらの楽器も質の高い演奏を披露する。ドラミングについては「堅実かつ誠実」。ヴァイブについては、こちらの方が秀逸な内容で、音はヒンヤリ冷たいが「クール」な響きが心地良い。音の質についても、淀みが無く澄んでいる。アドリブ・フレーズについては、短いが小粋なフレーズを連発する。音の質と相まって、聴いていてとても印象的である。

1954年のカルテットと1955年のクインテット、どちらの演奏も甲乙付けがたい。1954年のカルテットは、ボブ・コリンズのトロンボーンがフロントのメイン楽器となるユニークな編成で、米国西海岸ジャズらしい、落ち着いた寛ぎのある演奏が良い。1955年のクインテットの僕にとっての目玉は、大のお気に入りのピアニスト、若き日のソニー・クラークが参加していること。曲によって出来不出来はあるが、聴いて直ぐに「ソニー・クラーク」と判るほどの個性が、この時期に既に芽生えている。

米国西海岸ジャズは、アグレッシヴでダイナミックな東海岸ジャズとは正反対の、落ち着きのある寛いだ演奏。これが心地良い。尖ったアグレッシヴなジャズを聴き続けた後、ちょっとした耳休めに、米国西海岸ジャズは最適である。いや、クールで粋なアレンジを耳にすると、どうしても集中して聴いてしまうから、耳休めにはならないな。それでも、西海岸ジャズの落ち着いた寛ぎのある演奏は気持ちが安らぐ。それが良い。
 
 
 

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Never_giveup_4
 

2020年3月25日 (水曜日)

トミフラ「こんな盤あったんや」

長年、ジャズを聴いて、アルバムをコレクションして、ブログを書いていても、ジャズのレジェンド級のジャズマンについて、その存在を知らなかったり、聴き逃していたリーダー作が突然、出てきたりする。聴き逃しはまだ良いが、その存在を知らなかった、というのは、長年ジャズ者をやって来て、いやはや、まだまだ勉強不足ということを実感する。ジャズは意外と奥が深い。

Tommy Flanagan『Flanagan's Shenanigans』(写真左)。1993年4月2日の録音。パーソネルについては、Tommy Flanagan (p), Jesper Lundgaard (b), Lewis Nash (ds) のピアノ・トリオがメインで、Jesper Thilo (ts) が1〜4曲目まで、Henrik Bolberg Pedersen (tp), Steen Hansen, Vincent Nilsson (tb), Jan Zum Vohrde (as, fl), Uffe Markussen (ts, ss, b-cl), Flemming Madsen (bs, b-cl) が、1〜3曲目まで参加している。

リーダーのピアニスト、トミー・フラナガン(以下、トミフラと呼ぶ)が、デンマークのジャズバー賞を受賞した時に行ったライヴを収録した音源。ヤスパー・ルンゴー(b)とルイス・ナッシュ(ds)との味のある、職人芸的ピアノ・トリオの演奏をベースに、現地の優れものジャズメンが参加したノネット編成での、重厚でダイナミックで整然としたビッグバンドの様な演奏が冒頭から3曲、続く4曲目の「For Lena and Lennie」のみ、テナーのイェスパー・シロが参加したカルテット編成。
 
 
Flanagans-shenanigans  
 
 
5曲目以降、ラストの大団円「Tin Tin Deo」まで、トミフラのピアノ・トリオの演奏になる。まず、この盤、このピアノ・トリオ演奏の部分が秀逸である。トミフラのピアノが実に良い音している。もともと歯切れの良い、明確なタッチなんだが、この盤では、それに加えて、躍動感が際立つ。そして、流麗でジャジーで粋なアドリブ・フレーズ。そう、トミフラのアドリブ・フレーズは「粋」なのだ。聴いていて惚れ惚れする。

1曲目「Eclypso」から「Beyond the Bluebird」「Minor Mishap」の3曲は、ノネット編成の演奏なのだが、これが全て、トミフラの自作曲。こうやって、ビッグバンド風のアレンジで聴いてみて、トミフラの自作曲って良い曲なんだなあ、と再認識する。ノネット自体の演奏も、ビッグバンド風で迫力と疾走感があって、聴いていて清々しい気分になる。トミフラのピアノは、ノネットの中に入って伴奏に回った時、これまた「伴奏上手のトミフラ」の真価を発揮する。

ヤスパー・ルンゴー(b)とルイス・ナッシュ(ds)のサポートも見事。こんなトミフラ盤があったなんて、僕は今まで意識したことがなかった。トミフラは僕のお気に入りのピアニストの一人なので、彼のディスコグラフィーはしっかり確認していたのになあ。恐らく、1990年代のトリオ盤に注目するあまり、冒頭がノネット編成のライブ盤を見落としたと思われる。いやはや、サブスクの音楽サイトに感謝である。
 
 
 

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