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2017年6月25日 (日曜日)

ドラムの個性は演奏の個性

ドラム。打楽器である。素人目には「誰が叩いても同じ音がする」ように感じる楽器だが、実はそうでは無い。叩き方も様々、叩き方が変わると音も変わる。叩き方もそれぞれドラマーによって「癖」があって、それが個性になる。単に「叩く」だけの楽器なのだが、意外と奥が深い。

ジャズにおいても、聴き込むにつけ、ドラムの個性を感じるのが楽しい。ジャズ者初心者の頃はフロント楽器、サックスとかトランペットとかに耳が行ってドラムの妙技に耳を傾ける事はほとんど無い。ピアノ・トリオを聴くにしたって、メインのピアノを聴くことが多く、ドラムとベースは付けたしになることが多い。

しかし、ジャズにおいて、ドラムの個性はとてもバラエティーに富んでいて、大いに楽しめる。初心者の頃は、どうしてもフロント楽器の音に耳を奪われてしまうので、なかなかドラムの音に耳を傾ける事が少ないのだが、ジャズを聴き込むにつれ、ドラムの音の個性に気がつき、その個性を聴き分けることが出来るようになる。

例えば、この盤。Art Blakey『Paris Jam Session』(写真左)。1959年12月18日の録音。ちなみにパーソネルは、Art Blakey (ds), Lee Morgan (tp), Wayne Shorter (ts), Jymie Merritt (b) は全曲に渡って、Walter Davis Jr. (p) は3-4曲目のみに参加、Barney Wilen (as), Bud Powell (p) は1-2曲目のみに参加。
 

Paris_jam_session  

 
ジャズ・ドラムのレジェンドの一人、アート・ブレイキー率いる「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」がパリに訪れた時に、フランス出身のアルト・サックス奏者、バルネ・ウィランとパリに移住していた、モダン・ジャズ・ピアノの祖、バド・パウエルをゲストに迎えたセッションを記録したもの。

これ、バルネ・ウィランとバド・パウエルがゲスト参加した1〜2曲目が聴きもの。フランス出身のアルト・サックス奏者とモダン・ジャズ・ピアノの祖、バド・パウエルが参加している。フロント楽器にフランス出身のアルトの音、ピアノには、ビ・バップ・スタイルのピアノの音が「混入」しているのにも関わらず、その演奏の音は「アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」になっている。

明らかに演奏全体の音の雰囲気を決定付けているのが、アート・ブレイキーのドラミング。個性溢れるアート・ブレイキーのドラミングがバックに流れると、そのジャズの演奏は「アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」の音になる。「ナイアガラ瀑布」と形容されるドラム・ロール、ドラミングの合間に入る「カカカカカ」という合いの手。フロントを鼓舞するスネアの音。これらは明らかに「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」の音なのだ。

ドラムの音に耳を傾け、注意深く聴き込めば、ジャズ・ドラムの音は、意外と演奏全体の雰囲気を決定付ける重要な要素の一つになっていることに気がつく。そう、ジャズ・ドラムは面白い。このジャズ・ドラムの音に耳を傾け、ジャズ・ドラム毎の音の個性の違いに気がつく様になると、ジャズ鑑賞の耳は「ジャイアント・ステップ」することになる。

 
 

東日本大震災から6年3ヶ月。決して忘れない。まだ6年3ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2017年6月24日 (土曜日)

キースの体調不良の前触れ

キース・ジャレットの聴き直しをどんどん進める。1991年9月28日、ジャズの帝王、マイルス・デイヴィスが鬼籍に入った。当時のジャズ界に衝撃が走った。ジャズ界を長年牽引してきた、絶対的リーダーな存在の「ジャズの帝王」が消えていなくなってしまったのである。一瞬、ジャズメンの全ては途方に暮れる状態になった。

で、そこはミュージシャンである。自ら、マイルス・トリビュートのアルバムを企図し始める。マイルス・トリビュートのアルバムを世に出すことで、マイルスの逝去に対する「追悼の意」を明確に表現するのだ。著名なジャズメンはこぞって、マイルス・トリビュートのアルバムをリリースした。

キース・ジャレットとて例外では無かった。マイルス逝去後、2週間でスタジオに入る。その頃、キースのスタンダーズはライブ・レコーディングがほとんど。それがスタジオ録音に入った。演奏時のテンションの維持やアドリブ展開時のイマージネーションの閃きについて問題は出ないのか。即興演奏がメインのスタンダーズにとっては試練のレコーディングだったようだ。

Keith Jarrett『Bye Bye Blackbird』(写真左)。1991年10月12日の録音。ちなみにパーソネルは、もはや言わずもがなの、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。いわゆる「スタンダーズ」の3人である。

しかし、マイルス・トリビュート盤でありながら、リリースは1993年4月、マイルスが鬼籍に入ってから、1年半が経過していた。これでは「追悼盤」としては、リリースのタイミングが余りにズレている。
 

Bye_bye_blackbird

 
リリース当時、聴いてみて「なるほどなあ」と自ら納得してしまった。本作はマイルス追悼作として、マイルス風の展開を含んだ曲、マイルスゆかりの曲を選んで収録しているみたいなんだが、どうにもこうにも、マイルス風のフレーズが出てくる訳でも無く、マイルス追悼の意を確認できる様な内容の演奏がある訳でも無い。

どの演奏も躍動感に乏しく、沈鬱な雰囲気が見え隠れする。最初は、スタンダーズの3人それぞれのマイルスを亡くした悲しみがそうさせるのか、とも思ったが、どうもそうではなかったみたい。ベースのピーコック、ドラムのデジョネットはそれなりにリズム&ビートをスタンダーズ風に即興演奏な展開をしているのだが、キースがそれについていっていない。

肝心のリーダーのキースのピアノが意外と「不調」である。演奏時のテンション、アドリブ展開時のイマージネーションの閃きに明らかに問題が生じている感じなのだ。この盤のリリース当時、この盤を聴きながら、キースの身に何か異変が生じているのではないか、と不安になったことを覚えている。なるほど、マイルス追悼盤として、リリースのタイミングが遅れた訳である。

やはりスタジオ録音という環境に問題があったのではなかろうか。加えて明らかにキースは不調である。後の1996年、キースは激しい疲労感に襲われ、演奏することもままならない状態に陥いる。慢性疲労症候群と診断され、以降の活動停止。自宅療養を余儀なくされた。その前触れの様な、この盤の内容である。マイルス・トリビュート盤としてはちょっと、という感じかな。

 
 

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2017年6月23日 (金曜日)

ジャズ・テナーの裾野は広く深い

梅雨に入ったには入ったらしいが、あまり梅雨らしい日が無い、雨が降っても続かない、我が千葉県北西部地方である。朝は結構涼しいし、夜は夜で、湿ってはいるが涼しい風が吹き抜ける。今年はなかなか良い感じの夏至の季節である。こういう時は、スカッと吹き抜けるテナーの音色が良い。バリバリ吹き上げるテナーが良い。

誰が良いかな〜、とアルバムを物色して選んだアルバムがこれ。Booker Ervin『Booker 'N' Brass』(写真左)。1967年9月の録音。フレディ・ハバード、チャールズ・トリヴァーらが参加したブラス・アンサンブルをバックに、ブッカー・アービンがテナーを吹きまくる。ブッカー・アービン with ブラス・セクション。

ブッカー・アービンのテナーは、フリージャズ基調のブロウという印象が強いが、意外とオーソドックスなブロウが多い。確かに、モーダルなブロウがメインで、限りなく自由度の高いブロウが得意ではあるが、決して、フリー・ジャズの人では無い。意外と伝統の範囲内で、限りなく自由度を高めつつも、従来のジャズの枠の中に留まるブロウで、これはこれで好ましい。
 

Booker_n_brass1

 
バックのブラス・アンサンブルもテクニック豊かでドライブ感も抜群なのだが、それにも増して、アービンのテナーが素晴らしい。フリーなブロウは限りなく封印して、意外と正統派な、重厚なテナーを聴かせてくれる。そう、この盤はブッカー・アービンのテナーを心から愛でる盤である。それほどまでに、アービンのテナーは素晴らしい。

ブルージーである。そしてソウルフル。シュッとしたスッキリしたファンクネス濃厚。速いフレーズが耳に心地良く響く。もしかしたら、アービンのベストプレイのひとつかもしれない。コッテコテの電光石火のアービンのブロウ。ジャズのテナーってこれほどまでに吹きまくることが出来るんやなあ、と変に感心してしまう。

シンプルな旋律が個性のアービン。ジャズ・テナーを愛でるのに最適の一枚である。僕がこの盤に出会ったのは10年ほど前。この盤を聴いた時は「目から鱗」ならぬ「耳から鱗」(笑)。コルトレーンとロリンズに比肩するテナーは無い、と思っていたが、アービンも凄い。ジャズ・テナーの裾野は広く深い。以来、僕はジャズ・テナーの森を彷徨っている。

 
 

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2017年6月22日 (木曜日)

少しマンネリのスタンダーズ

キース・ジャレットのリーダー作の聴き直しを進めている。これがなかなか面白い。特に「スタンダーズ」におけるキースの音作りに関する「戦略」が垣間見えて面白い。

改めて、キース・ジャレットの「スタンダーズ」。スタンダード曲の親しみ易い旋律を借りて、その親しみ易い旋律を基に「即興」を展開する。スタンダード曲の旋律をちょっと借りているだけで、基本はキース独特の「即興」がメイン。

ファンクネス皆無、リリカルで耽美的、硬質で凛として流麗、硬軟自在なダイナミズム、それらをピアノ・トリオのインプロビゼーションという限りなく自由度の高いレベルで表現する。いわゆる「即興」を前面に押し出した展開である。

Keith Jarrett『The Cure』(写真左)。邦題『ボディ・アンド・ソウル』。1990年4月21日、ニューヨークのタウンホールでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、もはや言わずもがなの、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。いわゆる「スタンダーズ」の3人である。

このライブ盤、収録された曲を見ると、思わず「うむむ」と唸る。冒頭にセロニアス・モンクの「Bemsha Swing」が収録されている。キースとは真逆とは言わないまでも、キースの個性から一番遠いところにあるであろう、セロニアス・モンクの名曲。あの独特の飛んだり跳ねたりの旋律と独特のタイム感。
 

The_cure_2

 
キースはどうやって料理するのか、と思いきや、「Bemsha Swing」を借りて流麗にテーマを弾いて、それから、セロニアス・モンクの「飛んだり跳ねたり」の旋律の個性や「独特のタイム感」は全く引用すること無く、キースの「スタンダーズ」お得意の即興演奏が展開される。モンクの影はほとんど感じられない。

以降の曲については、ちょっと渋めのスタンダード曲を選んで演奏しているが、演奏の傾向は皆同じ。スタンダード曲の親しみ易い旋律を借りて、その親しみ易い旋律を基に「即興」を展開する。スタンダード曲の旋律をちょっと借りているだけで、基本はキース独特の「即興」がメイン。

「即興」は独特の個性であり、個性であるが故に、パターンが定型化される危険性がある。1983年にスタンダーズを旗揚げして、この『The Cure』で9枚目のアルバムになる。即興演奏という切り口からすると、さすがにちょっとマンネリな雰囲気が見え隠れしても仕方が無い。確かに、このライブ盤では、今までの「即興」におけるワクワク感がちょっと少なく感じる。

このライブ盤を聴くと、いよいよスタンダーズもマンネリの時期に差し掛かってきたのかな、と感じる。大丈夫なのか、と少し心配になる様な内容の『The Cure』。飛ぶ鳥を落とす勢いの「スタンダーズ」だったが、ここにきて、ピークを過ぎた感、手慣れた感が見え隠れする。この盤を初めて聴いた当時、初めて「スタンダーズ」に対して心配になったことを思い出した。

 
 

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2017年6月21日 (水曜日)

『Birds of Passage』が素敵だ

いや〜大荒れの一日でしたねえ、我が千葉県北西部地方。外出も叶わぬ大荒れの日、部屋の中で聴くのはジャズ。さて、今日は、ナベサダさん(渡辺貞夫)のアルバムの聴き直しをもう一枚。僕はこのアルバムを聴いた時、これは「スムース・ジャズ」でも「フュージョン・ジャズ」でもない、これは、硬派なコンテンポラリーな純ジャズだ、と思った。

渡辺貞夫『Birds of Passage』(写真左)。1987年の作品。発売当時のキャッチフレーズが「追い求めた"渡辺貞夫の音楽"を遂に完成! そして数々の旅の想いがこのアルバムに・・・。"旅"がテーマとなった曲を再演奏した1枚」。なるほど、このキャッチフレーズの言うとおりである。いいキャッチフレーズやなあ。

この頃のナベサダさんは、米国でスムース・ジャズの先駆けとして成功を収め、ナベサダさんの音楽と言えば「スムース・ジャズ」だった。が、この盤は違う。前奏をパッと聴いた雰囲気は電気楽器を上手く活用したフュージョン・ジャズかスムース・ジャズか、と思うんだが、ナベサダさんのアルトが出てくると、雰囲気はガラッと変わる。ほんと、ガラッと変わるのだ。
 

Birds_of_passage

 
テクニック優秀、歌心溢れ、力強いアルトの旋律。この力強さと音の「伸び」が素晴らしい。そこにテクニック&疾走感溢れるアドリブ・フレーズが展開される。甘さは一切排除され、ファンクネスは皆無、切れ味良い爽快感と歌心溢れるフレーズは「コンテンポラリーな純ジャズ」である。説得力抜群で聴き応え満点である。

『California Shower』以降「ナベサダはフュージョンに魂を売った」などと揶揄されることもあったが、ナベサダさんの「スムース・ジャズ」や「フュージョン・ジャズ」は超一級品。揶揄されるレベルでは無い。しかも、このアルバムに至っては、まず「スムース・ジャズ」や「フュージョン・ジャズ」の類では無い。「コンテンポラリーな純ジャズ」である。真摯で意欲的な「新しい響きのジャズ」がこの盤に詰まってから素敵だ。

バックを固めるフュージョン・ジャズ時代からの強者共の好演も良い。特にドラムのビニー・カリウタは凄い。"旅"がテーマとなった曲の再演盤という色合いが濃いが、収められている演奏を聴けば単なる再演でないことが痛いほど判る。新しい響き、新しい展開を伴ったコンテンポラリーな純ジャズ」が、新しい雰囲気の新しい「純ジャズ」の形がここにある。

 
 

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2017年6月20日 (火曜日)

素のまま暖かくてゆったりと

ナベサダさん(渡辺貞夫)のアルバムの聴き直し。前回は何時だったか、思い出せないほど時間が空いた。調べてみたら、2016年7月7日のブログ、アルバムは『MAISHA(マイシャ)』。1985年のリリース。ナベサダさんの初プロデュース盤。なんだ、まだ1年前か。

で、今回は、渡辺貞夫『Good Time for Love』(写真左)。1986年のリリース。ナベサダさんの陽気な、上半身の姿が写っているだけの、あまりにシンプルで味気ないジャケット・デザインで意外と損をしている盤である。あまりに地味なジャケット・デザインなので、とにかく目立たない。

しかし、である。冒頭のレゲエ・ナンバー、タイトル曲でもある「Good Time for Love」を聴くと、前作『MAISHA』までとは異なる雰囲気に気がつく。ゆったりしている、というか、自然体というか、素のままというか、暖かくてメリハリの効いた、昔、聴き馴れた「ナベサダ」フュージョンな音である。
 

Good_time_for_love1

 
2曲目「Love Birds Whisper In My Ear」を聴き進めるにつれ、その意を強くする。そして、6曲目の「Pogo」に至っては、うか〜っと聴いていると、あれ、これって「California Shower」かも、なんて思ってしまう位に雰囲気が似たハッピーな曲。これって、フュージョン・ジャズに本腰を入れ出した1970年代後半の「ナベサダ・ワールド」な音世界である。

前作と音の雰囲気がガラッと変わったのは、このアルバムから、ナベサダさんの音楽活動のベースを日本にシフトしたことと大いに関係があると思っている。バックを支えるミュージシャンも日米混合。日本人ミュージシャン達が帰ってきた。ナベサダさんのアルトは、バックが米国だろうが日本だろうが、そのブリリアントな音色は変わらないが、雰囲気がガラッと変わる。

アーバンで小粋な大人のフュージョン、素のまま暖かくてゆったりと親しみのあるフュージョン、どちらのナベサダ・ワールドも捨てがたい。そして、この盤、なによりもナベサダさんのアルトがバリバリに鳴っている。これだけ鳴りの良い暖かみのあるアルトの音を僕は他に知らない。肩肘張らない、普段着の素のままのフュージョン・ジャズ。良い雰囲気、良い音世界です。

 
 

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2017年6月19日 (月曜日)

熟し切った「スタンダーズ」です

キース・ジャレットの聴き直しを再開した。そう言えば、暫く止まっていた。スタンダーズ・トリオ真っ只中だったような。ちょうど『Standards in Norway』まで聴き直した様な記憶がある。ということで、今日はこれである。

Keith Jarrett『Tribute』(写真左)。1989年10月15日、西ドイツ(当時)ケルンのコンサート・ホール(Kölner Philharmonie)でのライブ録音。ちなみにパーソネルは、もはや言わずもがなの、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。いわゆる「スタンダーズ」の3人である。

オスロでの『Standards in Norway』の8日後のケルンでの『Tribute』である。演奏内容は似通っている。トリオの三人の「融合度・連携度」がかなり高い。いつになく、ゲーリー・ピーコックのベースが前面に出てきて、インプロビゼーション全体をリードする瞬間が多く出てくる。これは珍しいこと。目立ちたがり屋のデジョネットのドラムも、後に回ってバッキングに徹する場面が多い。

もともと、このキースの「スタンダーズ」、北欧ジャズのピアノ・トリオの響きがベースとなっているような、ファンクネス皆無、リリカルで耽美的、硬質で凛として流麗、硬軟自在なダイナミズム、それらをピアノ・トリオのインプロビゼーションという限りなく自由度の高いレベルで表現する。いわゆる「即興」を前面に押し出した展開である。

しかし、自作曲での「即興」となると説得力が弱くなる。独りよがりなどど揶揄される危険性がある。スタンダード曲の親しみ易い旋律を借りて、その親しみ易い旋律を基に「即興」を展開する。説得力が増す。まあ、キースの場合は、スタンダード曲の旋律をちょっと借りているだけなんだけどね。
 

Tribute

 
基本は、キース独特の「即興」がメインである。CD2枚組のボリュームではあるが飽きは来ない。1曲1曲の演奏時間は長いが一気にCD2枚を聴き切ってしまうくらいに、演奏の密度は濃い。

北欧ジャズのピアノ・トリオの響きがベースとなっているような、ファンクネス皆無、リリカルで耽美的、硬質で凛として流麗、硬軟自在なダイナミズム溢れる演奏が主体であるが、CDのそれぞれラストに「ゴスペル」チックな演奏「Sun Prayer」と「カリプソ」チックな演奏「U Dance」が織り込まれている。

この辺がキースの不思議なところで、要所要所に「ゴスペル」チックな演奏、「カリプソ」チックな演奏を織り込む意味が僕はイマイチ判らない。この「スタンダーズ」の2面性が未だに不思議である。白人系のキースが「ゴスペル」「カリプソ」をやる。確かにダイナミズムは感じるが、ファンクネスは希薄である。それでも、キースは要所要所で「ゴスペル」「カリプソ」をやる。

このCD2枚組のライブ盤『Tribute』は、スタンダーズの熟し切ったパフォーマンスをしっかりと記録している。マンネリズム一歩手前。希有なピアノ・トリオの充実の即興演奏がここに記録されている。キースの唸り声は相変わらずだが、これだけ充実したパフォーマンスの中ではあまり気にならない。好盤です。

 
 

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2017年6月18日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・107

2日ほど、栃木路に逗留していた。このところ、梅雨入りしたとは言え、全くその気配は無く、とにかく暑い夏の様な気候があるだけ。ただ、カラッとした暑さなので強烈な不快感は無い。と、今日は打って変わって朝から肌寒い。昼には千葉県北西部地方に帰ってきたが、昼過ぎからは雨。

雨の日は部屋の中でノンビリしながらのジャズが良い。Gary Bartz『Shadows』(写真左)。1991年6月の録音。ちなみにパーソネルは、Gary Bartz (as, ss), Willie Williams (ts), Benny Green (p), Christian McBride (b), Victor Lewis (ds)。絶対、良い音するぞ、って感じのワクワクするような面子である。

リーダーのゲイリー・バーツと言えば、スピリチュアル・ファンク・ ジャズというべき世界を探求したサックス奏者。担当楽器はアルトとソプラノのサックス。しかし、ここで演奏されているのは正統な「ネオ・ハードバップ」。そう、バックのリズム・セクション、ピアノのグリーン、ベースのマクブライド、ドラムのルイス。この3人のリズム&ビートが、正統かつ最先端の「ネオ・ハードバップ」なのだ。
 

Gary_bartz_shadows

 
アブストラクトでフリーなフレーズに行きそうで行かない、ググッと正統な「ネオ・ハードバップ」に踏みとどまった様な、雰囲気はスピリチュアルではあるが、基本はバップなアルト&ソプラノ・サックスの音がとても素敵である。とにかく、むっちゃ魅力的に担当楽器を吹き輝かせるバーツはとても格好良い。

相対するテナーのウイリー・ウイリアムスのテナーも負けていない。とにかく良い音をさせて、ネオ・ハードバップなフレーズをクールにグイグイと吹き上げていく。バーツ共々、ほんと良い音させている。この盤はこの二人のサックスのサックスらしい「ネオ・ハードバップ」な音色を愛でる盤である。

バックのグリーン、マクブライド、ルイスのリズム・セクションも超強力。これだけ重力級の「ネオ・ハードバップ」なリズム・セクションの音を聴くことはそうそうに無い。ゴリゴリ、バリバリな超弩級の低音を響かせながら、フロントの二人を鼓舞し支えていく。この盤に詰まっている「ネオ・ハードバップ」の音はとても美しい。心がわくわくする。

 
 

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2017年6月15日 (木曜日)

ながら聴きのジャズも良い・22

トランペットを吹くボーカリスト。ぱっと浮かぶのは、サッチモ、そして、チェット・ベーカー。日本では、う〜ん、いたぞいたぞ。そう「TOKU」である。キャッチフレーズが「日本で唯一のボーカル&フリューゲルホルンプレイヤー」。確かに、トランペットを吹くボーカリスト。日本にはそうそういない。

ジャケットが良い。モダンアートっぽい、原色を活かしたジャケット。こういうの僕は大好き。思わず、これは「ジャケ買い」レベル。きっと音は良いに違いない。で、どんな音になっているのか。

そのアルバムとは、TOKU『Shake』(写真左)。今年のこの6月7日のリリース。聴いて楽しいコンテンポラリー・ジャズの饗宴。ゲストとの共演が基本。このゲスト陣が大変豪華。名前を挙げると、SUGIZO、Yasei Collective、AISHA、ZEEBRA、DABO、シシド・カフカ、ゴスペラーズ、多和田えみ、大黒摩季、NAOTO等々。

収録されている曲もとってもコンテンポラリー。僕達の世代が泣いて喜ぶカバー曲の数々。デヴィッド・ボウイの「Space Oddity」以下、ローリング・ストーンズやプリンス、ドナルド・フェイゲンやレナード・コーエンといったロック・レジェンドの名曲がズラリと並ぶ。これらをアーバンなコンテンポラリー・ジャズな雰囲気に仕立て上げる。
 

Toku_shake

 
どこかで聴いたことある雰囲気やなあ、と思っていたらピンと来た。1970年代後半のエレ・ハンコックである。クインシー・ジョーンズに憧れて追求した、ファンクネス溢れるR&Bとの融合が芳しいエレ・ハンコックのボーカル曲の世界。TOKUのダンディズム溢れる、力感豊かな、しなやかなボーカルに、日本人独特の乾いたファンクネスがそこはかとなく漂う。

現代のフュージョン・ジャズである。R&B、ブラコン、ハウス、ユーロ、もちろんジャズの要素も色濃く反映して、ライトでアーバンな新しい雰囲気のフュージョン・ジャズがこのアルバムに展開されている。パッと聴けばジャズじゃない。じっくり聴き進めれば、確かにフュージョン・ジャズである。まあ難しいことは言いっこなし。聴いて「ええ感じ」やったらOK。

TOKUのフリューゲルホルンも良い。演奏の中で、ここぞというところで、ブワーっと入ってくる。決して刺激的ではない。フリューゲルホルンの柔らかくて丸い音の特性を活かした優しい音。このフリューゲルホルンが独特の雰囲気を醸し出す。明らかにTOKUの個性である。

良い雰囲気の現代のフュージョン・ジャズ。純ジャズな雰囲気とはほど遠いが、フュージョン・ジャズとして聴くと、とても良い内容だ。演奏のレベルも高く、ボーカルもゲスト含めて個性的で聴き応えがあって良い感じ。何度か聴き直しているうちに、ながら聴きに最適なことに気がつきました。

 
 

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2017年6月14日 (水曜日)

安定のチャーラップ・トリオです

ピアノ・トリオが好きだ。ジャズ盤を続けて聴いていると、4枚に1枚の割合でピアノ・トリオが入ってこないと調子が出ない。昔、自分もピアノを弾いていた時代があって、ピアノを弾く、という行為の難しさや面白さを、他の楽器よりも自らの体験をもとに理解できるということで、ピアノ・トリオが良い。

もともと昔から、Bill Charlap(ビル・チャーラップ)のピアノが好きで、20年ほど前からずっと追いかけている。ビル・エバンスからブラッド・メルドーへと通じるピアノの個性の系譜ありながら明確で硬質な「バップなタッチ」。突出した個性では無いので、ちょっと判り難いのだが、耽美的ではあるが雰囲気に流されず、明確で硬質なタッチで、流麗かつ端正に弾き回す。これがチャーラップの個性である。

そんなチャーラップの最新作がこれ。Bill Charlap『Notes from New York』(写真左)。2015年6月の録音。昨年4月のリリース。パーソネルは、Bill Charlap (p), Peter Washington (b), Kenny Washington (ds)。最近の鉄壁のトリオ。ベースとドラムの「Washington」姓はたまたまで、血縁関係がある訳では無いそうだ。
 

Notes_from_new_york1

 
安定のチャーラップである。本当に安定している。冒頭の「I'll Remember April」を聴くだけで、ああチャーラップやなあ、と思う。オーソドックスなスタンダード曲なんだが、ただ流麗に弾き回すのでは無い。印象的な音の「ずらし」や間の取り方で、アドリブ・フレーズが印象的に浮かび上がる。そう、ただ流麗で端正なピアノでは無いところがチャーラップの曲者たる所以である。

ただ流麗で端正なピアノであれば、イージーリスニングと揶揄されても仕方が無いが、チャーラップのピアノはそんなに簡単なピアノでは無い。流麗で端正なフレーズの中に、なんか良い意味で「引っかかる」何かが仕掛けられている。小粋なフレーズ回しとでも形容すれば良いのか、聴き込めば聴き込むほど、面白さが増していく、そんな玄人好みのピアノである。

バックの「Wワシントン」のリズム・セクションも申し分無い。チャーラップのピアノとの合い相性は抜群。そして、なんといっても、このアルバムのジャケット・デザインが秀逸。抽象画の様なイラストをあしらった秀逸なもの。ジャケ買い対象としても良い盤。我がバーチャル音楽喫茶「松和」では、意外とヘビロテ盤になっています。聴けば聴くほど味わい深くなる。そんな好盤です。

 
 

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