2024年6月22日 (土曜日)

ワシントンJr.の『Mister Magic』

フュージョン・ジャズとか、スムース・ジャズについて語ると、どうもウケが悪い。でも、ウケ狙いでブログ記事をアップしている訳では無いのだが、フュージョン・ジャズにも、スムース・ジャズにも「良い音楽」という類の好盤が沢山ある。我がヴァーチャル音楽喫茶『松和』では、フュージョン・ジャズ、スムース・ジャズも、きっちり「守備範囲内」なので、適宜、好盤をご紹介している。

グローヴァー・ワシントンJr.(Grover Washington Jr.、以下「ワシントンJr.」と略)。スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王。ソフト&メロウなフュージョンの代表盤『Winelight』が大ヒットしたことから、軟弱ジャズ、商業主義ジャズと揶揄されることが多々あった ワシントンJr. だが、生前に残したリーダー作については、「良い音楽」の類の、水準以上の優れた内容のものばかり。

Grover Washington Jr.『Mister Magic』(写真左)。1974年の作品。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), Bob James (ac-p, Fender Rhodes, arr, cond), Eric Gale (g), Phil Upchurch (b, track:1), Gary King (b, track:2-4), Harvey Mason (ds), Ralph MacDonald (perc)。プロデューサーは Creed Taylor。 収録曲全4曲。トータル33分弱と収録時間は短いが、内容は濃い。

この『Mister Magic』は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向なワシントンJr. を捉えたものだが、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向の「源」は、ボブ・ジェームスのアレンジと、バックバンドの演奏内容にある。それほど、この盤での、ボブ・ジェームスのアレンジは秀逸。メインストリーム志向のコンテンポラリー・ジャズとしても良い、軟弱ジャズや商業主義ジャズの欠片も無い、硬派で真摯で実直なアレンジはアーティステックですらある。
 

Grover-washington-jrmister-magic

 
ワシントンJr. のサックスは正統派なもの。スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王なんてニックネームがあるので、「ワシントンJr. のサックスって、純ジャズの名手達と比べるに値しないんだろう」と思うジャズ者の方々も多いかと思うが、どうして、ワシントンJr. のサックスは正統派で確かなもの。テクニックに優れ、歌心満載、特に流麗で爽快感のあるアルト・サックスは個性的でクセになる。

ボブ・ジェームスの独特のフレーズと音の重ね方を伴ったローズが、そこはかとなく趣味の良いファンクネスを漂わせ、ゲイルのソウルフルで歌心溢れるフレーズとカッティングが、フュージョン・ジャズな雰囲気を増幅させる。メイソンの端正で余裕溢れるドラミングとマクドナルドのパーカッションが洒脱でアーバンな雰囲気を醸し出し、アップチャーチとキングのベースが、ソリッドでファンキーなビートを供給する。

アルバム全体の内容は「ジャズ・ファンク」の一言では括れない。スピリチュアル・ジャズな要素、R&Bな要素、ジャズ・ファンク&ジャズ・ロックな要素、ニュー・ジャズっぽいプログッシヴな響きを、効果的に交わり融合させた、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ。当時として、新しい響き溢れる、メインストリーム志向のコンテンポラリー・ジャズである。

ちょっと趣味の悪い、ワシントンJr. のアップのジャケットで損をしているアルバムだが、ビルボード200で10位、R&Bとジャズのチャートででそれぞれ1位を獲得した、実績ある超人気盤。しかし、よくこのジャケットでこれだけ売れたなあ、と改めて思う(笑)。ジャケには我慢が必要だが、その他は文句無しのワシントンJr. 初期の名盤です。
 
 

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2024年6月21日 (金曜日)

”マルの考える” ピアノ・トリオ

漆黒ブルージーな、黒い情感のレジェンド・ピアニスト、マル・ウォルドロン。初期の「マル4部作」を聴くことで、マルの個性の基本部分が理解できる。そんな、マルの個性を理解する上で”便利”な「マル4部作」。今日は、そんな4部作のラスト盤を取り上げる。

Mal Waldron『Mal/4; Trio』(写真左)。1958年9月26日の録音。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Addison Farmer (b), Kenny Dennis (ds)。サブタイトルに「Trio」と付いているだけあって、この盤はマルのトリオ演奏のみを収録した、マルのリーダー作。プレスティッジにしては珍しく、単一日のセッションの収録である。

思い起こせば、「マル4部作」の最初、『Mal-1』では、マルの作曲とアレンジの才にスポットが当てられ、続く『Mal/2』『Mal/3; Sound』も同一傾向のプロデュースに加えて、バッキング能力の高さにスポットが当てられ、『Mal/2』ではジョン・コルトレーン、『Mal/3; Sound』ではアート・ファーマーのフロント・パフォーマンスが見事に前面に押し出されて、マルのバッキング能力の高さが聴いて取れた。

で、やっと『Mal/4; Trio』で、マルのピアニストとしての個性にスポットが当てられた。ただ、不思議なのはパーソネル。プレスティッジの録音なので、ベースとドラムについては、もう少し、名の通った、人気ジャズマンを連れてきても良さそうなのに、かなり地味どころを引っ張ってきている。おそらく、マルの希望だったような気がする。
 

Mal-waldronmal4-trio

 
しかし、このベースとドラムが地味なお陰で、この盤は、マルのピアノの個性がとても良く判る内容になっているのだから、何が幸いするか判らない。この盤のベースとドラムは、ほぼリズム&ビートを正確に着実にマルに供給するだけの役割に徹していて、丁々発止とした、トリオとしてのインタープレイが展開される訳ではない。逆に、だからこそ、マルのピアノの個性だけが突出して把握できる。

但し、この盤では、マルのピアノはまだ「大人しめ」。アルバム内容については、ジャズマンの意向にほぼお任せのプレスティッジでの録音なので、マルも好きに出来ただろうに、まだ聴き手に合わせて、聴かせるトリオ演奏に軸足を残している。

それでも、マルのピアノの個性である「黒い情感と適度なラフさ」は良く判るから、聴いていて面白い。思いっ切り硬質で力感溢れるタッチ、歯切れの良いアドリブ・フレーズ、叩く様なコンピング、ブルージーなブロックコード。硬質なタッチの底に黒いブルージーな雰囲気と哀愁感が漂い、端正な弾きこなしの端々にラフな指さばきが見え隠れする。

「流麗さ」や「ロマンティシズム」は皆無。ダンディズム溢れ、そこはかとなく哀愁感漂う、硬派で純ジャズな、いわゆる「マルの考えるピアノ・トリオの演奏」が展開されているところが、この『Mal/4; Trio』の特徴だろう。
 
 

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2024年6月20日 (木曜日)

マルの「伴奏の能力」の高さ

マル・ウォルドロン(Mal Waldron)は、漆黒ブルージーな、黒い情感のレジェンド・ピアニスト。2002年12月に逝去しているので、逝去後、既に20年以上が経過したことになる。もう、そんなになるのか。

マルのピアノは個性的。硬質なタッチの底に、もやっとした黒いブルージーな雰囲気が横たわっている。そして、端正な弾きこなしの端々にラフな指さばきが見え隠れする。この「黒い情感と適度なラフさ」がマルのピアノの特徴。

一方、マルは曲作りとアレンジの才にも優れる。特にアレンジの才に優れ、マルの初期のリーダー作の中に、『Mal-1』『Mal/2』『Mal/3: Sound』『Mal/4: Trio』という4部作があるのだが、この4部作、マルの曲作りとアレンジの才にスポットを当てたリーダー作になる。どうも、マルって、ピアニストとしての個性よりも、曲作りとアレンジの才を評価されていたきらいがある。

Mal Waldron『Mal/3: Sound』(写真左)。1958年1月31日の録音。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Art Farmer (tp), Eric Dixon (fl), Calo Scott (cello), Julian Euell (b), Elvin Jones (ds), Elaine Waldron (vo, tracks 4 & 5)。アート・ファーマーのトランペットがメインの、ワン・ホーン・カルテットに、フルートとチェロと女性ボーカルが入った7人編成。ボーカルのエレイン・ウォルドロンは、マルの細君。

プレスティッジ・レーベルの傍系「New Jazz」からのリリース。トランペットのワン・ホーン・カルテットに、フルートとチェロ、そしてボーカルが入っている。1958年というハードバップ全盛期に、このユニークな楽器編成は、明らかに、マルのアレンジの才能にスポットを当てている、と感じる。収録曲全5曲中、4曲がマルの自作曲なので、マルの作曲の才能にもスポットを当てているみたいで、サブタイトルに「Sound」とあるので、マル・サウンドを愛でる、というプロデュース方針の盤なんだろうな、と想像できる。
 

Mal-waldronmal3-sound  

 
確かに、全編に渡って、マルの優れたアレンジの賜物、フロントを張るファーマーのトランペットと、ディクソンのフルートが前面に押し出され、引き立っている。バンド・サウンド全体のアレンジも良いし、フロントのバックに回った、リズム・セクションとしての、マルのピアノのバッキングのテクニックの上手さもある。そして、ポリリズミックなダイナミズム溢れるドラマー、エルヴィンのクールに煽るようなドラミングが「キモ」になっている。

そして、チェロの響きが良い隠し味になっていて、演奏全体の響きが「斬新」に響く瞬間がある。これは、明らかにアレンジの工夫だろう。特に、女性ボーカルの入った曲に、チェロが効果的に響く。逆に、ボーカルの入っていない曲では、トランペットやフルートの音のダイナミックさに押されて、あまり目立たない。

それより、女性ボーカル入りの曲で感心したのは、マルのピアノとエルヴィンのドラムの伴奏テクニックの見事さ。女性ボーカル自体は取り立てて優れてはいない、普通レベルのボーカルなんだが、伴奏に回ったマルのピアノのバッキングの妙と、エルヴィンの繊細なドラミングによる、アクセント良好なリズム&ビートの供給。

こうやって聴いていると、マルはアレンジの才能は確かにあるが、それを上回る、フロント楽器やボーカルに対する「伴奏の能力」の高さが、強く印象に残る。

このリーダー作を聴いて思うのは、マルはやはり「ピアニスト」なんだな、ということ。確かに作曲とアレンジの才もあるが、そんなに他を凌駕するほど突出したものでは無いと思う。

しかし、このリーダー作を聴くと、マルのバッキング、伴奏のテクニックの素晴らしさが突出している。早逝の天才女性ボーカリスト、ビリー・ホリデイの最後の伴奏ピアニストだったことは伊達では無い。
 
 

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2024年6月19日 (水曜日)

ラスト盤の『Out of the Loop』

ブレッカー兄弟が立ち上げ、エレ・ジャズ・ファンクの代表的バンドとして、一世を風靡した「ブレッカー・ブラザーズ」。1994年にて活動を停止、2007年には、弟のマイケルが骨髄異形性症候群から進行した白血病によって逝去。このマイケルの逝去によって、「ブレッカー・ブラザーズ」は永久に活動停止となった。

The Brecker Brothers『Out of the Loop』(写真左)。1992年4月〜8月の録音。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (sax,,EWI), Randy Brecker (tp, Flh), George Whitty (key), Dean Brown (g), James Genus (b), Steve Jordan (ds), Steve Thornton (perc) 辺りが主要メンバー。ここに、Chris Botti (key), Eliane Elias (key, vo), Larry Saltzman (g), Armand Sabal-Lecco (b), Shawn Pelton (ds), and more が、ゲストとして入っている。

ブレッカー・ブラザーズの実質上の最後のアルバムになる。1982年に一旦、活動を停止し、ソロ活動を展開。しかし、1990年初頭に活動を再開、1992年に『Return of the Brecker Brothers』をリリース。そして、次いでリリースしたのが、この『Out of the Loop』になる。

活動再開後のブレッカー・ブラザーズの音志向は「硬派な大人のファンキー・フュージョン」。この『Out of the Loop』では、前作のファンキー・フュージョンな雰囲気から、メインストリーム・ジャズ志向が強くなって、ファンキー・フュージョンというより、ライトでポップ、クロスオーバー志向の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」に深化している。
 

The-brecker-brothersout-of-the-loop

 
聴いていて面白いのは、ランディのトランペットが入ってくると、思わず、1980年代の、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」を想起させる雰囲気にガラッと変わるところ。そこにマイケルのサックスが入ると、さらに、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」な雰囲気がより濃厚になる。

と言っても、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」は、硬派で純ジャズなエレ・ファンクなんだが、ブレッカー・ブラザーズの方は、1990年代仕様の、ライトでポップ、大衆的でクロスオーバー志向のエレ・ファンク。と言って、単純にフュージョン・ジャズでは括れない、コンテンポラリーで、メインストリーム志向のアレンジが実に硬派で正統派。

このアルバムは、最優秀コンテンポラリー・ジャズ・パフォーマンスと最優秀インストゥルメンタル作曲(African Skies)の2つのグラミー賞を獲得しているのも頷ける、洗練されたアーバンでポップな「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」志向の内容。1970年代のブレッカー・ブラザーズの発展形。

ブレッカー兄弟って、マイルスが好きだったんやないのかなあ、とこのアルバムを聴いていて、ふと思った。マイルスの逝去が1991年9月28日。この『Out of the Loop』の録音が1992年4月〜8月の録音。ブレッカー兄弟として、マイルスライクな「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」がやりたかったんやないかなあ。と僕は想像しています。
 
 

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2024年6月18日 (火曜日)

日野皓正の名作『Daydream』

そろそろ、日野皓正の「渡米後」のフュージョン・ジャズからコンテンポラリー・ジャズについて、このブログでコメントせんとなあ、と最近、思い始めた。和フュージョン・ジャズを語る上では、日野皓正のフュージョン・ジャズ盤は避けて通れない。

日野皓正『Daydream』(写真左)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、日野皓正 (cor, flh), Dave Liebman (ts), John Tropea (g), Bob James (key), Anthony Jackson (b), Steve Gadd (ds), Nana Vasconcelos (perc), 菊地雅章 (key), Leon Pendarvis (key, arr) and more。日野皓正の渡米後、フュージョン・ジャズ盤の第二弾。

日本制作のNYフュージョンの名作とされる。が、和フュージョンとは、内容と雰囲気が異なる。この『Daydream』、前作の『City Connection』同様、どこから聴いても、米国東海岸フュージョン・ジャズの内容と雰囲気。「和」な雰囲気は無い。パーソネルも、米国東海岸フュージョンの人気ジャズマンが大集合。当然、出てくるリズム&ビートは「米国東海岸フュージョン」。
 

Daydream

 
演奏される曲は、どれもが前作の『City Connection』と同じ雰囲気の演奏とアレンジ。この『Daydream』は、前作『City Connection』と併せて、一気聴きした方が違和感がない。というか、この『Daydream』で、日野の「アーバンで洗練された」米国東海岸フュージョンは成熟している。

冒頭「Still Be Bop」はリズム隊の叩き出す、切れ味の良いバップなリズム&ビートが印象的。そして、続く「Late Summer」は、ミディアム・スローな、絶品のバラード曲。これ、雰囲気抜群。ボブ・ジェームスの印象的なアコピが実に良い。そして、サントリーのウィスキーのCM曲だった軽快なカリプソ・ナンバーは、5曲目「Antigua Boy(アンティーガ・ボーイ)」。

他の曲も出来は良く、米国東海岸フュージョン・ジャズの名作の一枚としても良いかと思う。完全に米国東海岸フュージョンに同化した日野皓正。次なるアルバムはどうするんだろう、と、当時、ちょっぴり不安になったことを思い出した。
 
 

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2024年6月17日 (月曜日)

初代ジョンアバ4の幻の好盤『M』

初代「John Abercrombie Quartet」について、昨日の続きを。

ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレッド・アイヒャーとリッチー・バイラークとの喧嘩の件、この双方が最終的に決別したのが、初代「John Abercrombie Quartet」の3枚目のアルバムの録音時のことであったらしい。

John Abercrombie Quartet 『M』(写真左)。1980年11月の録音。改めて、ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, mandolin), Richie Beirach (p), George Mraz (b), Peter Donald (ds)。アイヒャーとバイラークの決定的喧嘩があった、いわくつきのセッションの記録。

ちょっとネタバレ的になるのだが、どうも、リーダーのジョン・アバークロンビー(以下「ジョンアバ」と略)の失恋がきっかけらしい。ジョンアバの失恋ショックはかなり重症で、まともなパフォーマンスが出せない。そこで、バイラークやムラーツがアップテンポで軽快な曲を持ち寄ってセッションをしたところ、ジョンアバ、元気を取り戻し、なかなかの内容の演奏が出来たそう。

しかし、その演奏内容、切れ味の良い、趣味の良いダイナミズムを伴った、アグレッシヴでテンポの良い内容で、ECM独特の深いエコーがかかって無かったら、ECMレーベルのアルバムだとは思えない。深いエコーがなければ、これって米国ジャズって感じの演奏もあったりで、ECMレーベルの総帥プロデューサー、アイヒャーには、酷くお気に召さなかったらしい。

アイヒャーいわく「ECMに米国ジャズはいらない」。バイラークいわく「これも我々のジャズだ。たまには良いだろう」。しかし、当時のアイヒャーには、自らの信じる音志向に関する反論に対する許容量が足らない。これで決定的に決別、となったらしい。

そのいわくつくのセッションの記録が、この『M』に収録されている。確かに冒頭の「Boat Song」のジョンアバの暗ばくたる、幽霊の様に漂う様な、暗いエレギの音はヤバい。
 

John-abercrombie-quartet-m

 
前述のエピソードを知らなければ、これって、ちょっと暗めのECMの耽美的な幽玄な演奏だ、という評価で落ち着くのだろうが、実際はジョンアバの失恋のショックはかなり酷かったことが、この「暗〜い」サスティーン満載のジョンアバの暗ばくなるエレギを聴けば良く判る。

2曲目以降のバイラークとムラーツの自作曲は、確かに印象がガラッと変わる。前述の「切れ味の良い、趣味の良いダイナミズムを伴った、アグレッシヴでテンポの良い」演奏で、どう聴いてもECMっぽく無い。しかし、これが良い。コンテンポラリーな純ジャズという面持ちで、有機的な変幻自在なインタープレイ、自由の高いモーダルな即興展開、そして、出て来るパフォーマンスは基本的に「多弁」。

主にバイラークの個性の一つ「多弁でモーダル」が、演奏全体を牽引しているのだが、ジョンアバのギターも、ムラーつのベースも、ドナルドのドラムも、実に気持ちよさそうに、演奏を楽しんでいる様がよく判る。初代「John Abercrombie Quartet」の「陽」の部分のベスト・パフォーマンスがここに記録されている。

ECMレーベルの総帥プロデューサー、アイヒャーは、このバイラークの「多弁でモーダル」な個性ばかりで無く、ピアニストとしての存在をも否定し、バイラークの参加したECMのアルバムを全て廃盤にした訳だが、この『M』については、今の耳で聴くと、かなりレベルの高いコンテンポラリーな純ジャズが展開されていて、演奏の精度と純度が高い分、この初代「John Abercrombie Quartet」の「陽」の部分の演奏も、十分に「欧州ジャズ」であり、異色のECMジャズとして捉えても違和感が無い。

結局、この『M』のセッションでのアイヒャーとバイラークの喧嘩がもとで、初代「John Abercrombie Quartet」のレコーディングはこの『M』で打ち止めとなる。しかも、バイラークとの喧嘩のとばっちりで、この初代「John Abercrombie Quartet」のオリジナル・アルバムは未だに廃盤状態。アイヒャーも罪作りなことをしたもんだ、と思う。でも、この『M』というアルバム、初代「John Abercrombie Quartet」の好盤の一枚であることは間違いない。

ちなみに、この『M』は、オリジナル・アルバム仕様としては未だ廃盤状態だが、サブスク・サイトやCDで『The First Quartet』と題して、この初代「John Abercrombie Quartet」の全音源が、ECMからリリースされているので、このボックス盤から聴くことができる。
 
 

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2024年6月16日 (日曜日)

好盤『Abercrombie Quartet』

ジョン・アバークロンビー(以降「ジョンアバ」と略)のリーダー作のディスコグラフィーと、このブログでのジョンアバのリーダー作の記事化の有無をチェックしていて、あるパーソネルのECMレーベルでのリーダー作のみが廃盤になっているのに気がついた。ジョンアバは長年、ECMレーベルのハウス・ギタリストの位置付けだっただけに不思議なことである。

どうも、よくよく見てると、リッチー・バイラークが入っているパーソネルのリーダー作が廃盤で欠落している様なのだ。ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーと、ピアニストのリッチー・バイラークとの喧嘩が原因らしい。

バイラークは、ECMレーベルで『Eon』『Hubris』『Elm』という耽美系ピアノ三部作をリリース。この耽美系ピアノ三部作は、アイヒャーの美意識をそのまま音に置き換えた、そんな「沈黙に次いで最も美しい音」を具現化している。

しかし、バイラークは耽美的でリリカルなピアニストではあるが、多弁でモーダルなピアニストでもある。バイラークがアイヒャーに「私はもう十分貴方のやりたいことはやった、次は自分のやりたいことをやらせてくれ」と言ったことが発端で喧嘩になったらしい。

John Abercrombie『Abercrombie Quartet』(写真左)。1979年11月の録音。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, mandolin), Richie Beirach (p), George Mraz (b), Peter Donald (ds)。このジョンアバのカルテット編成での2作目。この盤は、前作『Arcade』と同様の、ECMらしい耽美系カルテット。
 

John-abercrombieabercrombie-quartet

 
透明感と浮遊感、静謐感と適度なテンション、漂う様な緩やかなビートに乗った、自由度の高いインタープレイ。リッチー・バイラークは、まだ耽美的で透明感溢れるピアノを弾いていて、ジョンアバのギターにぴったりと寄り添う。

ムラーツのベースは淀みやブレの全く無い、強靱で柔軟なベースラインをバンド全体に供給する。このすこぶる安定したムラーツのベースが、この盤を覆う透明感と静謐感溢れる、それでいて、切れ味良くソリッドなリズム&ビートをしっかりと支えている。

前作『Arcade』よりも、ダイナミックでソリッドな面が強調されて、ECMらしさが少し薄れた『Abercrombie Quartet』。それでも、この盤の音世界は「ECMらしい耽美系カルテット」。リズムが明快な分、アイヒャーの美意識から少し外れた感が無きにしもあらずだが、ジョンアバのギターとバイラークのピアノの相性の良さと相まって、この盤は、ジョンアバの初期の代表作の一枚に数えても良い内容だと思う。

しかし、サイドマン参加のバイラークと喧嘩したからと言って、このジョンアバのリーダー作を廃盤するって、アイヒャーもちょっと大人気ない、と思うなあ。最近『The First Quartet』と題して、ECMから、このカルテットの全音源がリリースされているみたいだが、当初のアルバムの形ではリイシューされていない。

このあたりにも、アイヒャーの大人気の無さを感じてしまうんだなあ。音源をリリースするなら、アルバム形式でリイシューするのが、プロデューサーとして、ミュージシャンというアーティストに対する最低限の礼儀だと思うんだが....。とにかく、このアルバムとしては廃盤状態の『Abercrombie Quartet』は好盤です。
 
 

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2024年6月15日 (土曜日)

『View with a Room』の続編

ジュリアン・ラージの『View with a Room』は傑作だった。ラージとフリゼールのギター2本の絡みが素晴らしく、官能的な「くすんだ音色」と「前のめりでアグレッシブなフレーズ」というラージのギターの独特な個性全開。

フォーキーで、どこか懐かしい、哀愁感漂う米国ルーツ・ミュージックの音要素を融合して、ジャズのフォーマットに乗せる「アメリカーナ」でジャジーな音世界は見事だった。

Julian Lage『The Layers』(写真左)。2023年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、Julian Lage (g), Jorge Roeder (b), Dave King (ds) と『View with a Room』同様のトリオに、Bill Frisell (g) が、全6曲中、5曲にゲスト参加している。

全6曲収録のミニ・アルバム仕様(収録時間は約24分)なので、じっくり聴かずに置いておいた訳だが、先日、ジャケを見て、このミニ・アルバムって、『View with a Room』との類似性があるのかな、と思いながら、じっくり聴き直してみた。

出てくる音世界は、明らかに『View with a Room』との類似性が高い。調べてみたら、『View with a Room』と同一セッションでの演奏集で、いわゆる『View with a Room』のアウトテイク集。というか、演奏内容は『View with a Room』の収録曲と全く引けを取らないので、アウトテイクというよりは、『View with a Room』に入りきらなかった曲集、いわゆる「続編」と言った方がしっくりくる。
 

Julian-lagethe-layers

 
収録された曲は、どれもが『View with a Room』同様、フリゼールと合わせて、ジャズをはじめ、ロック、ブルース、カントリーなど、米国ルーツ・ミュージックの音要素を引用されていて、ラージ独特の音世界が展開されている。

フォーキーで、どこか懐かしい感じ、哀愁感漂う米国ルーツ・ミュージックの音要素を融合して、ジャズのフォーマットに乗せる。エレギの音はブルース・ロックやサザン・ロックの響きを湛えていて、「アメリカーナ」な雰囲気をより濃厚にさせる。この盤の「アメリカーナ」でジャジーな音世界。

ラージもインタビューで、このミニ・アルバム『The Layers』について、以下の様に述べている。「この作品は『View with a Room』の前日譚のようなもの。ビルとのデュオ、ホルヘとのデュオ、より広がりのある楽曲、デイヴとホルヘの素晴らしいリズムとオーケストレーションのセンスなど、前作の試金石となる音楽の種をすべて含んでいる」。

この『The Layers』の方が、『View with a Room』に比べて、アコギの割合が多い。その分、やや内省的で哀愁感漂う、ジェントルな雰囲気の演奏が多く印象的。

『View with a Room』と「ニコイチ」で聴いた方がしっくりくる『The Layers』。その音世界は傑作『View with a Room』と同様、「アメリカーナ」でジャジーな音世界は見事という他ない。
 
 

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2024年6月14日 (金曜日)

1966年のドナルド・バード

ドナルド・バードは「機を見て敏なる」トランペッターだった。トランペッターとして、テクニックは優秀、端正でブリリアントで理知的な吹奏。破綻無く、激情に駆られて吹きまくることなく、理知的な自己コントロールの下、常に水準以上のバップなトランペットを吹き上げる。

そんなドナルド・バード、ハードバップ初期の頭角を表し、ハードバップの優れた内容のリーダー作を幾枚もリリース、その後、ファンキー・ジャズに手を染め、モード・ジャズにもチャレンジする。そうこうしているうちに、ジャズロック、ソウル・ジャズに移行し、最終的にはジャズ・ファンクを推し進める。常に時代毎のジャズのトレンド、流行を敏感に察知して、その音志向を変化、転化させていった。

Donald Byrd『Mustang!』(写真左)。1966年6月24日の録音(ボートラは除く)。ブルーノートの4238番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as), Hank Mobley (ts), McCoy Tyner (p), Walter Booker (b), Freddie Waits (ds)。リーダーのバードのトランペットと、珍しいソニー・レッドのアルト・サックス、そして、モブレーのテナー・サックスの3管フロントのセクステット編成。

録音年は1966年。ジャズの多様化が進み、ビートルズのアメリカ公演後、大衆音楽としてジャズが下降線を辿り出した頃である。冒頭のタイトル曲「Mustang」はジャズ・ロック。当時、ヒットしたらしい。パーソネルを見渡すと、ハードバップど真ん中からモード・ジャズが得意なメンバーだが、なかなかノリの良いジャズ・ロックをかましている。ソニー・レッドの作曲とはちょっと驚く。

ジャケの雰囲気からして、この盤、ジャズ・ロック集か、と思いきや、2曲目からは、硬派でメインストリームな純ジャズが展開されている。2曲目の「Fly Little Bird Fly」は、出だしからマッコイ・タイナーのピアノが、バンド演奏全体を牽引するスピード感溢れる演奏。
 

Donald-byrdmustang

 
3曲目の「I Got It Bad And That Ain't Good」はスタンダード曲。タイナーのピアノが美しいフレーズを弾き進めていて立派。タイナーの優れたバッキングの下、ドナルド・バードのトランペット、ハンク・モブレーのテナー・サックスが、美しく味わい深くリリカルなバラード・フレーズを吹き上げていく。やはり、なんといっても、タイナーのピアノが素晴らしい。

以降、LPのB面の1曲目、CDでは4曲めの「Dixie Lee」は、再び、こってこてのジャズ・ロック。こちらは、ドナルド・バードの作曲。ノリの良いキャッチーなフレーズの連発で、思わず、足が動き、体が揺れる。俗っぽいが、聴いて楽しいジャズ・ロック。

続く「On The Trail」は、グローフェの「グランド・キャニオン組曲」の中の1曲で、スタンダード化された秀曲。ユニゾン&ハーモニー、コール・アンド・レスポンスにチェイス、小粋でセンスの良い3管フロントのパフォーマンスが良い。特にレッドとモブレーが元気に飛ばしまくっているのが印象的。

ラストは「I'm So Excited By You」で、明確にストレート・アヘッドなハードバップ・チューン。このハードバップな、流麗な演奏を聴いていると、ハードバップな演奏って、この時点では既に洗練し尽くされ、極められ尽くされた感を強く感じる。

改めて、この盤を振り返ってみると、1966年という録音年で、ジャズ・ロックと洗練されたハードバップのカップリングな内容というのが面白い。ハードバップな演奏には、ファンキー・ジャズな雰囲気は見え隠れするが、モード・ジャズは影も形もない。まあ、このパーソネルだと、タイナー以外、モーダルな演奏は苦手そうなんで、この演奏構成が一番フィットしたんだろう。

今の耳で聴いて、単純に楽しく聴ける佳作だと思う。難しいことを考えずに「古き良きジャズを感じることが出来る」好盤です。
 
 

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2024年6月13日 (木曜日)

ジョンアバの「ギター・シンセ」

ジョン・アバークロンビー(以降「ジョンアバ」と略)のギターの音世界が好きで、1970年代から、ずっとジョンアバのアルバムを追いかけている。

欧州ジャズらしい、彼しか出せない叙情的なサスティーン・サウンドが、とにかく気持ち良い。特に、ECMレーベルでの、ECM独特の深いエコーに乗ったジョンアバのギターシンセには、聴くたびに惚れ惚れである。

John Abercrombie『Current Events』(写真左)。1985年9月の録音。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, g-synthesizer), Marc Johnson (b), Peter Erskine (ds)。ジョン・アバークロンビー(以降「ジョンアバ」と略)のギターがフロントのピアノレス・トリオ。

ベースにニュー・ジャズ志向ベースの名手マーク・ジョンソン、ドラムには、これまたコンテンポラリー・ジャズ志向ドラマーのピーター・アースキン。バックのリズム隊は磐石。そんな磐石なリズム隊をバックに、ジョンアバが気持ちよさそうに、個性的なギターを弾きまくる。
 

John-abercrombiecurrent-events

 
ジョンアバは「ギター・シンセ」の名手でもある。1970年代から、ギター・シンセに手を染めて、ずっとギター・シンセの技を磨いてきた。そして、この『Current Events』では、そのギター・シンセの技が「極み」に達した感のある、素晴らしいパフォーマンスが記録されている。

ジョンアバのギター・シンセの音がメインのこのアルバム、全体の雰囲気は「プログレッシヴ・ロック(プログレ)」志向。もともと「プログレ」は英国を中心とした欧州ロックの十八番。そのプログレの雰囲気をジャズに融合させて、「プログレッシヴ・ジャズ」とでも呼べそうな、コンテンポラリーなクロスオーバー&ジャズ・ロックな音世界を現出している。

冒頭の「Clint」が圧巻のパフォーマンス。ジョンアバのギター・シンセが乱舞する16ビートの、プログレ志向のコンテンポラリーなクロスオーバー・ジャズ。マーク・ジョンソンの重低音ベースもソリッドに響き、アースキンの変則拍子ドラミングが凄い。続く「Alice In Wonderland」の美しいジョンアバのギター・ワークがこれまた見事。

米国ジャズでは全く聴くことの出来ない、欧州ジャズ&ECMレーベルならではの「プログレッシヴ・ジャズ」とでも呼べそうな、コンテンポラリーなクロスオーバー&ジャズ・ロック。ジョンアバのギター&ギターシンセのベスト・プレイの一つがぎっしり詰まった名盤です。
 
 

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