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2024年7月29日 (月曜日)

ギルの「ジミヘンへのオマージュ」

久しぶりに、サイケデリックなジャズ・ロックとして、ジョン・マクラフリンの『Devotion』(1970年)を聴いて、確か、この盤って、マクラフリンによる「ジミ・ヘンドリックス(ジミヘン)へのオマージュ」を表明した企画盤だったことを思いました。

ジミヘンと言えば、マイルス・デイヴィスと一緒にプレイする可能性があったことは有名な話で、ただ、1970年9月18日に、ジミヘンが麻薬のオーヴァードーズが原因で急逝してしまったので、ジミヘンとマイルスの共演は実現しなかった。

そんなマイルスとジミヘンの間を取り持っていたのが、「音の魔術師」と形容されたジャズ・コンポーザー&アレンジャーのギル・エヴァンスだったらしい。間を取り持つくらいにジミヘンのサウンドに強い興味を持っていたギル・エヴァンス、ジミの楽曲のジャズ・オーケストラへのアレンジの構想も具現化しつつあって、いつか発表したいと目論んでいた節がある。

ギル・エヴァンスは、1974年、カーネギー・ホールにて、ギル・エヴァンス・オーケストラを率いて、ジミヘンの曲だけのコンサートを行い、その後直ぐに、ジミヘン曲がメインのスタジオ録音に臨んでいる。

『The Gil Evans Orchestra Plays the Music of Jimi Hendrix』(写真左)。1974年6月の録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

Gil Evans (ac-p, el-p, arr, cond), Hannibal Marvin Peterson (tp, vo), Lew Soloff (tp, flh), Peter Gordon (French horn), Pete Levin (French horn, syn), Tom Malone (tb, fl, syn, arr), Howard Johnson (tuba, b-cl, el-b, arr), David Sanborn (sax, fl), Billy Harper (ts, fl), Trevor Koehler (sax, fl, arr), John Abercrombie, Ryo Kawasaki (el-g), Keith Loving (g), Don Pate, Michael Moore (b), Bruce Ditmas (ds), Warren Smith (vib, marimba, chimes, perc), Sue Evans (ds, congas, perc)。

錚々たるメンバーで固めたギル・エヴァンス・オーケストラである。ハンニバル・ピーターソン、ルー・ソロフのトランペット、デイヴィッド・サンボーン、ビリー・ハーパーのサックス、ジョン・アバークロンビーと川崎遼のエレギ、これだけでも、このオーケストラが、どれだけ先鋭的でいマージネーション豊かなサウンドを出すか、が想像できる。
 

The-gil-evans-orchestra-plays-the-music-  

 
そして、ジャズ・オケとして、ユニークな管楽器のフレンチ・ホルン、チューバが入って、ヴァイブも入って、通常のジャズ・オケとは異なる、幽玄で神秘的な響きを伴った、ギル・エヴァンス・オーケストラならではの音世界が広がっている。そんな個性的でユニークなギル・エヴァンス・オケの音で、ジミヘンの自作曲を演奏していく。オーケストラのアレンジ能力の高さが窺い知れる。

印象的なジミヘン曲「Angel」から入る。これが「痺れる」。楽曲の持つ美しくR&Bな旋律を上手にアレンジして、ジャズ・オケで聴かせる。「Foxy Lady」や「Voodoo Chile」のアレンジも優秀。ジミヘン曲のジャズ化が大成功を収めている。

逆に「Castle Made Of Sand」「Up From The Skies」「Little Wing」あたりは、原曲のイメージが判らなくなるくらいデフォルメされているが、ジミヘン曲のユニークなコード進行やフレーズの捻れをうまく、ジャズ・オケにアレンジしている。

アルバム全曲を聴き通して感じるのは、アレンジ担当が、ギル・エヴァンスだけではなくて、オケ・メンバーの3人くらいがアレンジを担当している。曲によって、与える印象やニュアンスが異なるのは、それが原因だろう。ただ、アレンジの基本路線はギル・エヴァンス親分のイメージを踏襲しているので、大きくイメージが逸脱することは無い。逆に、親分以外のアレンジは、判りやすくシンプルなアレンジが多く、聴きやすいという「副産物」も感じられるところが良い。

ジミヘン曲へのオマージュという点では、ジョン・アバークロンビーと川崎遼のエレギが「エグい」音で、ジミヘンのエレギに対するオマージュを捧げている。ジミヘンがエレ・ジャズの中で、ジャズのリズム&ビートに乗ったら、こういう音を出したのかなあ、と想像しながら聴くと、とても楽しい。

当時として、かなり先進的、先鋭的なアレンジと響きを持ったギル・エヴァンス・オーケストラの音は、なかなか一般ウケは難しく、セールスには繋がり難かったみたいだが、その内容は、現代の「今の耳」で聴いても、かなり優れている。ジミヘンの曲の採用については成功していて、この盤、ギル・エヴァンス・オーケストラの名盤の一枚と高く評価して良い。僕の大好きなギル・エヴァンス・オーケストラの名盤の一枚です。
 
 

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