マンの傑作盤『Glory Of Love』
フュージョン・ジャズの源はどの辺りにあるのだろう。僕は、1960年代後半、A&Mレコードの諸作が、その源の一つだと思っている。
A&Mレコードは、元々は1962年にハーブ・アルパートとジェリー・モスが設立したレコード・レーベル。ジャズのジャンルについては、ファンキー&ソウル・ジャズのエレ化をメインに、当時、ポピュラーな楽曲のカヴァーなど、ポップでジャジーなフュージョン・ジャズの先駆けな音作りで人気を獲得した。
Herbie Mann『Glory Of Love』(写真左)。1967年7, 9, 10月の録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。
Herbie Mann (fl), Hubert Laws (fl, piccolo), Ernie Royal, Burt Collins (tp, flh), Benny Powell (tb), Joseph Grimaldi (sax), Leroy Glover (p, org), Paul Griffin (p), Roland Hanna (org), Jay Berliner, Eric Gale (g), Ron Carter (b), Herb Lovelle, Grady Tate (ds), Teddy Sommer (vib, perc), Ray Barretto, Johnny Pacheco (perc), Earl May (b), Roy Ayers (vib)。
手練れの豪華絢爛なパーソネル。予算をしっかり充てた充実の録音セッション。出てくる音は、エレトリック&8ビートなファンキー&ソウル・ジャズ。アニマルズがヒットさせたポップス曲「The House of the Rising Sun」や、レイ・チャールズがヒットさせたソウル曲「Unchain My Heart」など、当時の流行曲を見事なアレンジでカヴァーしている。
ポップス曲のカヴァーと聞くと、イージー・リスニング志向のジャズか、と思うのだが、このマンのA&M盤は、演奏自体が実にしっかりしている。リズム&ビートは、切れ味良く、ジャジーでソウルフルでファンキー。このリズム・セクションのリズム&ビートはとても良く効いている。
そのジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビートに乗って、ハービー・マンのソウルフルなフルートが、爽やかなファンクネスを湛えて飛翔する。「In and Out」でのヒューバート・ローズとのダイアローグはとても楽しげ。フランシスレイの「Love is stronger far than we」では、ムーディーなマンのフルートが印象的。この盤でのマンのパフォーマンスは素晴らしい。
当時のA&Mレコードのジャズについては「質の高いリラックス出来るBGM」がコンセプト。しかし、このマンのA&M盤はBGMどころか、イージー・リスニング志向のエレ・ジャズでも無い、ソウルフルでファンキーなコンテンポラリー・ジャズとして成立している優れた内容。
アルバム全体を覆う適度なテンション、切れ味の良いジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビート。マンを始めとするソウルフルなフロント隊の演奏。この盤には、1960年代前半から進化してきた、ファンキー&ソウル・ジャズの成熟形を聴くことが出来る。ハービー・マンの傑作の一枚であり、最高傑作と言っても良いかもしれない。
クリード・テイラーの優れたプロデュースの下、アレンジも良好、録音はルディ・バン・ゲルダー手になる「良好な音」。この盤がほとんど忘れ去られた存在で、廃盤状態が長く続いている。実に遺憾なことであるが、最近、ストリーミングで聴くことが出来るようになったみたいで、これは喜ばしいことである。
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