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2024年5月15日 (水曜日)

”CTIレコードのロン” の隠れ名盤

ジャズ・ベーシストの「生けるレジェンド」であるロン・カーター。1970年代は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの老舗レーベルであるCTIレコードに所属して、リーダーにサイドマンに大活躍。1970年代後半、ハービーの「V.S.O,P.」に参加、純ジャズに回帰するが、CTIレコードでの、クロスオーバー&フュージョン・ジャズのロンもなかなか良い。
 
Ron Carter『Blues Farm』(写真)。1973年1月10日の録音。ちなみにパーソネルは、Ron Carter (b, arr, cond), Billy Cobham (ds), Hubert Laws (fl, tracks 1, 5 & 6), Richard Tee (el-p, ac-p, tracks 1, 4 & 5), Bob James (ac-p, tracks 2, 3 & 6), Gene Bertoncini (g, track 5), Sam Brown (g, track 3), Ralph MacDonald (perc, tracks 1 & 4-6)。

ロン・カーターのCTIレコードでのリーダー作の第一弾である。パーソネルを見渡すと、不思議なことに気が付く。フロント楽器を司るサックス、トラペットが無い。辛うじて、ヒューバート・ロウズのフルートが存在するだけ。ギターについてはリズム楽器に徹している。それでは、このセッションでのフロントは誰が担っているのか。実は、ロンのベースとロウズのフルート、この2人だけでフロント楽器の役割、楽曲の旋律を演奏している。

アレンジと指揮はリーダーのロン自身が担当しているので、このベースとフルートのフロントはロンのアイデアだろう。しかし、これが、冒頭のジャズ・ファンク・チューンであるタイトル曲「Blues Farm」で、その効果を最大限に発揮する。

ロンはアタッチメントをつけて、アコベの音を電気的に増幅して、旋律のソロに対応する。これが意外とファンキーな音色で、ジャズ・ファンクなビートにピッタリ。そして、ロウズのフルートのエモーショナルな吹き上げが、これまた、爽やかなファンクネスを振り撒いている。

バックのリズム・セクションは、コブハムのファンキー・ドラムに、ティーのファンキー・アコピ、マクドナルドのファンキー・パーカッション。この手練れのメンバーがジャズ・ファンクなリズム&ビートを叩き出す。これが実に良い雰囲気で、ブルージー&ファンク。後の伝説のフュージョン・グループのキーボード担当、リチャード・ティーのアコピのファンクネスが半端無い。
 

Ron-carterblues-farm

 
2曲目の「A Small Ballad」は、なんと、ボブ・ジェームスのピアノ(!)と、ロンのベースのデュオ。このデュオ演奏は、クロスオーバー・ジャズでは無い。これは純ジャズである。3曲目の「Django」は、MJQのジョン・ルイスの名曲だが、フロントをロンのベースが取り仕切り、この名曲の旋律をベース一本でやり通す。アコベでありながら、ピッチも合っていて、ロンのベーシストとしてのテクニックがかなりのものだということを再認識する。

そして、僕が愛してやまないのが、4曲目の「A Hymn for Him」。ロンの作曲。極上のファンキー・バラードである。冒頭、ロンがフロントを取り仕切るのは変わらないが、このロンのアタッチメントをつけて、アコベの音を電気的に増幅したアコベの音がなかなかファンキーでいい感じ。ソロでのテクニックの高さと相まって、意外と聴き応えのあるロンのベース。

そして、リチャード・ティーのアコピ(フェンダー・ローズ)の、こってこてファンキーでキャッチーなバッキング。そして、ファンクネス滴る、ソフト&メロウなソロ・パフォーマンス。ティーのベストに近いフェンダー・ローズのパフォーマンス。もう惚れ惚れするばかり。さすがティー、さすがフェンダー・ローズの名手。しみじみと染み入り、思わず、心にグッとくる。

そして、エモーショナルで流麗でファンキー&メロウ、テクニック極上、歌心満点のロウズのフルート・ソロに、これまたグッとくる。極上のフュージョン・ジャズの一曲がここにある。

5曲目の「Two-Beat Johnson」は、ライトでポップでファンキーでご機嫌な小品。ラストの「R2, M1」は、アーシーでビートの効いた、ライトなジャズ・ファンク。ボブ・ジェームスのちょっとアブストラクトなピアノ・ソロが、このジャズ・ファンクな演奏を俗っぽい演奏にしていない。意外と硬派な、クロスオーバー・ジャズ志向のジャズ・ファンク。このリズム&ビートの軽快さが、ロンの考えるジャズ・ファンクの個性だろう。

アタッチメントをつけて、アコベの音を電気的に増幅して、旋律のソロに対応するロンについては、とかく批判的な意見が多いが、この盤のロンのパフォーマンスを聴いて判る様に、アコベのピッチが合っている分には問題無い。どころか、ジャズ・ファンクのリズム&ジャズ・ファンクのビートにピッタリな音色は意外と効果抜群。

自分の耳で聴いてみて初めて判る。このロンのCTIレコードでのリーダー作の第一弾、意外と「隠れ名盤」だと僕は思っている。
 
 

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