80年代タイナーの Double Trios
ジャズマンには、時代時代のトレンドに合わせて、スタイルや奏法をマイナーチェンジするタイプと、時代時代のトレンドには左右されず、一度確立したスタイルや奏法は滅多に変えないタイプと、大きく分けて2つのタイプに分類されると感じている。
迫力満点のモーダル・ピアノのレジェンド、マッコイ・タイナー(McCoy Tyner)は、一度確立したスタイルや奏法は滅多に変えないタイプ。コルトレーンの下で確立したスタイル、ダイナミックで迫力満点のモーダルな右手、そして、ビートを打ち付ける様なハンマー奏法な左手。タイナーは生涯、このスタイルと奏法を変えることは無かったように思う。
McCoy Tyner『Double Trios』(写真)。1986年6月の録音。日本のDenonレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは「tracks 1-4」について、McCoy Tyner (p), Avery Sharpe (ac-b), Louis Hayes (ds)。「tracks 5-8」について、McCoy Tyner (p), Marcus Miller (el-b), Jeff "Tain" Watts (ds) の、2つの異なったトリオで4曲ずつ演奏、Steve Thornton (perc) が「tracks 1, 3, 5-7」で入る。
1980年代に入っても、タイナーはスタイル&奏法は全く変えない。モーダルなフレーズや音の響きは、その時代時代の雰囲気や流行りを参考にしながら、自家薬籠中のものとしていて、古さは全く感じない。
特にLP時代のA面の4曲については、疾走感溢れ駆け抜けるがごとくの冒頭の「Latino Suite」、モーダルな展開が美しい3曲目「Dreamer」など、1980年代スタイルのタイナーの、オーソドックスでモーダルなピアノを楽しむことが出来る。
冒険しているのは、LP時代のB面の4曲で、ベースにエレべのファンキー・ベーシスト、マーカス・ミラーが、ドラムに、1980年代メインストリーム志向のコンテンポラリーなジャズ・ドラマーの筆頭、ジェフ・ティン・ワッツが担当している。この新世代のリズム隊をバックにタイナーがモダールなピアノを展開している。
ベースがエレベのミラーということで毛嫌いすることは無い。5曲目「Down Home」、6曲目「Sudan」は、フュージョン・ファンクっぽい音世界なので、ミラーのパーカッシヴなエレベがピッタリハマる。
7曲目「Lover Man」、8曲目「Rhythm A Ning」は、こってこて4ビートのスタンダード曲だが、さすがはエレベの名手ミラー、なかなか繊細で緩急自在、硬軟自在な、エレベらしからぬ表現豊かなベースを刻んで、タイナーのピアノを盛り上げている。
ワッツのドラムは、1980年代の先端を行く、ポリリズミックで縦ノリで、流麗でスクエアにスイングするドラミングでタイナーのピアノを鼓舞している。
当のタイナーは、バックのリズム隊が新世代のメンバーということにはお構いなく、タイナーの個性溢れる、迫力満点のモーダル・ピアノを弾きまくっている。つまりは、新世代のミラーのベースとワッツのドラムが、タイナーのピアノの個性と特徴をよく理解して、タイナーに寄り添う様に、当時として新しいリズム&ビートを供給しているのだ。良いトリオ演奏だと僕は評価している。
我が国のジャズ・レーベルからのリリースだが、内容的には優れていると感じる。過去の「人気のモーダル奏法」に拘らず、選曲も人気の有名スタンダード曲に拘らず、タイナーの個性と特徴が表現しやすいスタンダード曲を選んでいる。実に潔い。
そんな優れたプロデュースのもと、タイナーのオーソドックスなモード・ピアノの延長線上の演奏と新世代のリズム隊とのチャレンジブルなインタープレイの対比で、1980年代のタイナーのモード・ジャズを的確に捉えている。なかなかの好盤である。
《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!
★ AORの風に吹かれて
★ まだまだロックキッズ 【New】 2024.01.07 更新
・西海岸ロックの雄、イーグルス・メンバーのソロ盤の
記事をアップ。
★ 松和の「青春のかけら達」 【New】 2024.01.08 更新
・チューリップ『ぼくが作った愛のうた』『無限軌道』
の記事をアップ。
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
東日本大震災から12年11ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
« ショーターの「白鳥の歌」 | トップページ | 流麗バップで粹な『Lover Man』 »
コメント