第2期RTF『第7銀河の讃歌』再び
マイルスがエレクトリック・ジャズに手を染めたのが切っ掛けとなって、1970年代前半のジャズのトレンド、「ジャズの電気化」と「ロックとの融合」が進み始める。いわゆる「クロスオーバー・ジャズ」である。マイルスはいち早く電気化を実現、「ファンク」との融合を推し進めた。
そこで、チック・コリアは考える。第1期Return to Forever(RTFと略)では、それまでのジャズのトレンドを集約し、最先端のコンテンポラリーなメインストリーム志向の純ジャズを実現した。かたや、マイルス親分はファンクなエレ・ジャズでブイブイ言わせている。チックもエレ・ジャズをやりたくなった。そして、チックは「ハードなインスト・ロック」との融合を選択する。
Return to Forever『Hymn of the Seventh Galaxy』(写真左)。邦題は『第7銀河の讃歌』。1973年8月レコードプラネットで録音。パーソネルは、Chick Corea (key, p, org), Bill Connors (g), Stanley Clarke (b), Lenny White (ds, per)。第2期RTFのデビュー盤である。
「最先端のコンテンポラリーなメインストリーム志向の純ジャズ」を実現した第1期RTFから、ジャズの象徴的楽器であるサックスを抜いて、代わりに、ロックの象徴であるエレギを導入。バンド・サウンドのロック色を強めて、バンドのサウンド志向を「ジャズ・ロック」に定める。
エレギの担当には、ブルース&ロック畑のギタリスト「ビル・コナーズ」を抜擢。「くすんだ音でちょっとラフな調子」というコナーズのエレギが相当効果的に効いている。速いフレーズを弾き回す時、ビートを崩す感じのラフな弾き回しになるんだが、これがアタッチメントの音と相まって「くすんだ音でちょっとラフな調子」になっている。これが、この盤のジャズロックの音の最大の個性。その個性を全面に押し出して、わざとロックっぽく弾いている雰囲気が実に良い。
そして、この第2期RTFはハードなジャズ・ロックに徹することになる。とにかく「ハード」。ただ、旋律はキャッチャーでメロディアスなものが中心なので、ハードな演奏ではありながら、聴き辛いというものではない。70年代ロックで言うと、プログレ、例えばイエスとかクリムゾン、ELPの演奏が聴けるのならば、全く問題の無いハードさである。
主役のチックのエレクトリック・キーボードについては申し分無い。これほどまでに、エレクトリック・キーボードを弾きこなせるミュージシャンはいないと思う。それぞれのキーボード&シンセに精通し、それぞれのキーボード&シンセの個性をしっかり踏まえた使い分けについては素晴らしい限り。
もう一つ、チックの凄いところは、この盤に収録されている自作曲の出来の良さ。旋律はキャッチャーで、ロマンティックでメロディアス。スパニッシュ・フレーバーが隠し味。この様な「印象的な旋律」を持った曲を中心に構成されている。
故に、この盤はアレンジも良く考えられていて、聴きやすく親しみ易く、聴いていて楽しく「ノリ易い」。この辺りが、同時代、トニーが率いた「ライフタイム」や、マクラフリンが率いた「マハヴィシュヌ・オーケストラ」との違いだろう。
他のメンバーも素晴らしいパフォーマンスを披露する。クラークのベースはブンブン唸りを上げ、ホワイトのドラミングは重爆撃機の如く重低音ビートを供給する。この超重量級のビート&リズムも、この第2期RTFの特徴。
あの千変万化のチックの重力級キーボードと、ビル・コナーズの重量級エレキギターを相手にするには、これくらいの「超重量級」のリズム・セクションで迎え撃たないと、バンド演奏全体のバランスが取れない。
エレギがコナーズなので、なんとなく、第2期RTFの諸作の中で、評価が一段だけ低めだが、どうしてどうして、収録された曲やグループ・サウンズ全体の雰囲気など、総合的に見渡すと、なかなかに優れた、相当に尖った「ハードなジャズロック」だと思う。
ハードな演奏内容ではあるが、収録されている演奏の旋律は「キャッチャーでメロディアス」。これがこのバンド独特の個性となって、このチック率いる第2期RTFは、当時最高の部類の「ジャズロック」バンドとして人気を獲得していく。今の耳にも、強烈な「ハードなジャズロック」として訴求力抜群である。
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