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2023年11月 9日 (木曜日)

マイルス『Blue Moods』を聴く

マイルスは、1953〜54年に麻薬禍から脱して復調した訳だが、収入的には満足できるレベルには至ってはいなかったと思われる。収入的に満足レベルになったのは、恐らく、1955年7月、ニューポート・ジャズ・フェスティバルへの出演時、批評家からも観客からも高評価を得て、大手レコード会社のCBSと契約した1955年10月以降だろう。

Miles Davis『Blue Moods』(写真左)。1955年7月9日の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Britt Woodman (tb), Charles Mingus (b), Teddy Charles (vib), Elvin Jones (ds)。ベースのチャールズ・ミンガスが主宰する「Debutレーベル」からのリリースになる。プレスティッジ・レーベルからのリリースでは無いところが、この盤の「ミソ」。

収録曲はたった4曲。アルバム全体の収録時間は30分にも満たないアルバム。これは恐らく、10インチLPで収録可能は収録時間を意識してのことらしい。それを12インチLPの幅広い盤で制作すると、レコードの溝を広く深くすることができて、これが再生音の低音の向上を狙ったもの、とも解釈されるらしいが、1955年当時、アルバム再生時、そこまでハイファイな環境を意識することがあったのか、と訝しく思う。

パーソネルを見渡すと、マッチョでゴリゴリなベースのミンガス、しかも、ドラムにはエルヴィン・ジョーンズがいて、どうにも、マイルスの美意識とは合わない、マッチョでポリリズミックなドラマーである。どう考えて、この二人をマイルスが招聘する訳がない。しかも、この盤だけが突出する、ミンガスが主宰する「Debutレーベル」からのリリース。どういう背景で、このセッションに至ったのか。

どうも、マイルス、収入的には満足できないレベルにありながら、派手な生活を送っていて、お金を使いまくって、ミンガスに借金をしたらしい。しかも、借金を返済する様子もない。そこで、ミンガスは激怒。自分のレーベルからマイルスのリーダー作を出して、その収入を「借金の肩代わり」にしようと思い立ったらしい。強制的にミンガスがホストのレコーディング・セッションに連行されたマイルス。しかも、ドラムのエルヴィンもミンガスに借金していたらしく、マイルスと同様に「連行」されてきたらしい(笑)。|
 

Miles-davisblue-moods

 
そんな理由で人選されたパーソネル。一応、リーダーがマイルスなんで、マイルスの意向は反映されなかったか、とも思うんですが、それは無かったでしょうねえ(笑)。

トロンボーンを入れたのは、ブルーノートのマイルスでの「JJ.ジョンソン」の代わり、ヴァイブを入れたのは、バグス・グルーヴの「ミルト・ジャクソン」の代わりかな。ただ、ミンガスのベースとエルヴィンのドラムは、どう考えたって、マイルスのトランペットに合わないと思うのだが。エルヴィンの参加は借金返済の肩代わり、ミンガスはどうしてもベースは自分で弾きたかったのかな(笑)。

それでも、この高いレベルのジャズマンが集結したパーソネルである。恐らく、背景が背景だけに、リハーサルもそこそこに録音に入ったと思われるが、まずまずのレベルの演奏を残しているのだから、プロの一流ジャズマンって凄いなあ、と思う。ただ、パーソネルの違和感がそのまま演奏に出ていて、マイルスの自叙伝に書いてある通り、収録された4曲に共通して「何か問題があってすべてがうまく嚙み合わず、熱気のない演奏」という傾向は否めない。

それでも、マイルスのトランペットはリリカルで耽美的で力感が溢れ、4曲目「Easy Living」はバラード調で演奏されいて、この盤で一番の出来となっている。気合を入れて吹いているマイルスは申し分ない。この盤の録音動機が不純なので(笑)、セッション中、集中して気合をしっかり入れ続けることができなかったのかな、とも思う。加えて、このパーソネルでは、マイルスも気持ち良く吹き続けることができなかったのだろう。

ちなみに、この盤の録音から、マイルスが「ハーマン・ミュート」を使うようになった、とのこと。それまでの「カップ・ミュート」の音色とは異なる、クールで繊細なトランペットの音色が堪らない。マイルスのミュートといえば「ハーマン・ミュート」。そのマイルスのキャッチフレーズの様な「ハーマン・ミュート」がこの盤のセッションから使われ出した、というのは面白いエピソードである。

 

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コメント

1954年所謂クリスマスセッションの《The Man I Love (take2)の終盤でマイルスはハーマンミュートをつけて演奏してますね。

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