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2023年11月 3日 (金曜日)

マイルスの『Walkin’』を聴き直す

マイルスの麻薬禍のピークは「1952年」。1953年後半には、故郷のセントルイスに戻り、依存症の治療に専念している。麻薬禍の克服とジャズ・シーンへの本格的なカムバックは1954年。1954年には麻薬禍から脱して、マイルスの考えるハードバップを本格的に追求し始める。マイルスの1954年は「マイルスの考えるハードバップ」元年である。

Miles Davis『Walkin'』(写真左)。1954年4月3日と4月29日の2セッションの録音から成る。パーソネルも2パターンに別れる。LP時代のA面の#1「Walkin'」、#2「Blue 'n' Boogie」が、1954年4月29日の録音。LP時代のB面の#3「Solar」、#4「You Don't Know What Love Is」、#5「Love Me or Leave Me」が、1954年4月3日の録音。

ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Horace Silver (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds) は、2セッション共通。1954年4月29日の録音(LP時代のA面の#1「Walkin'」、#2「Blue 'n' Boogie」)には、J. J. Johnson (tb) と Lucky Thompson (ts) が、954年4月3日の録音(LP時代のB面の#3「Solar」、#4「You Don't Know What Love Is」、#5「Love Me or Leave Me」)には、David Schildkraut (as) が入る。

1954年4月3日の録音といえば、Miles Davis『Blue Haze』の中の、Track #1「I'll Remember April」と同じセッションになる。いかにも、プレスティッジらしい、適当なアルバム編集である。『Blue Haze』の「I'll Remember April」では、麻薬禍を克服して、クールでリリカルな、独特な響きを持ったマイルスのトランペットが戻ってきているが、この盤の「Solar」「You Don't Know What Love Is」「Love Me or Leave Me」も同様で、マイルスは復調してきたな、ということが実感できる。

が、この盤のタイトル曲の#1「Walkin'」は別格の名演。冒頭テーマ演奏のユニゾン・ハーモニーの付け方が、まったくもって、ハードバップ。アドリブの部分については更に顕著で、間の取り方、緩急の付け方、強弱の付け方、そしてタイミングを創意工夫して、ビ・バップよりも遙かに長い、複雑なアドリブをクールに表現する。
 

Miles_walkin_1  

 
そして、そのアドリブでのバッキングの妙。アドリブをしている傍らで他のミュージシャンが、フロントのアドリブを引き立てるバッキングするなんて、ビ・バップの時代には無かったこと。

つまり、ハードバップは、個人の演奏を尊重しつつ、グループ・サウンドの醸成に力点を置いた、演奏スタイルであることが理解できる。ビ・バップの様に超絶技巧な高速テクニックだけを要求するのではない、ハードバップは、非常にアカデミックな、そしてクールな演奏スタイルであることが、この「Walkin'」を通じて、大変良く判る。

2曲目以降も、麻薬禍を克服したイメージの溌剌とした、クールでリリカルなマイルスのトランペットが魅力的。同時期の録音に、1954年3月6日の録音で、ブルーノートのマイルスがあるが、これも同様に溌剌とした度合いが高く、フレーズも明るめで健康的。流麗で張りのある力強い演奏で統一されている。この『Walkin'』セッションとブルーノートのマイルスと併せて、完全復調したマイルスを感じ取ることが出来る。

加えて、この『Walkin'』セッションで感じるのは、ベースとドラムの役割の向上。ビ・バップでは、リズム・キープとアドリブ演奏の引き立て役、という限定された役割だったが、ハードバップではその役割が、グループサウンドの醸成という枠の中で、かなり変化し向上しているのが判る。リズムの打ち方にも様々な工夫が施され、アドリブ楽器と同様、間の取り方、緩急の付け方、強弱の付け方、そしてタイミングを創意工夫して、グループサウンドの更なる醸成に貢献している。

この『Walkin'』を聴くと、マイルスが完全に麻薬禍を克服して、ジャズ・シーンにカムバックしたことを実感できる。そして、いち早く「マイルスの考えるハードバップ」の醸成に着手している。が、収入的にはまだまだ厳しかった。これは、大手レーベルである「Columbiaレコード」と単独契約するまで続くのである。
 
 

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