« ロイド「Trio of Trios」の第三弾 | トップページ | 『Miles Davis Vol.1』の聴き直し »

2023年10月27日 (金曜日)

マイルスの『Blue Haze』再考

ジャズの帝王、マイルス・デイヴィスも麻薬禍で苦しんだ時期がある。1951年あたりから重度の麻薬中毒に陥り、1952年には仕事が全く入らなくなった。マイルスはセントルイスの父親の家に戻り、そこで麻薬依存症の治療に専念した。そして、麻薬中毒を克服し、1954年に完全カムバックを果たす。

麻薬禍を克服し完全カムバックを果たすまで、麻薬中毒者として敬遠されていたマイルスに十分な録音環境を提供し、カムバック後のリーダー作のリリースに全面協力したのが、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンである。

プレスティッジの ボブ・ワインストックもマイルスのリーダーとしての録音に手を貸したが、それは麻薬禍に陥る前と全く変わらない、プレスティッジ独特の「やっつけ」な環境だった。

Miles Davis『Blue Haze』(写真左)。1953年から翌年にかけて残された3つのセッションを収録。麻薬禍を克服し完全カムバックを果たすまでの、プレスティッジの「やっつけ」な環境での録音である。プレスティッジらしく、3つのセッションの寄せ集めなので、パーソネルもそれぞれのセッションで異なる。

1954年4月3日の録音、Track #1「I'll Remember April」。パーソネルは、Miles Davis (tp), David Schildkraut (as), Horace Silver (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。いかにも、プレスティッジらしい「やっつけ」なパーソネルである。アルト・サックス奏者は知らない名前。

麻薬禍を克服して、このアルバムの中で、一番、時間が経過した時期での録音。クールでリリカルな、独特な響きを持ったマイルスのトランペットが戻ってきている。演奏全体はハードバップとして及第点。やはり、マイルスのトランペットが素晴らしい。

1954年3月15日の録音。Track #2「Four」, Track#3「Old Devil Moon」、Track#5「Blue Haze」。パーソネルは、Miles Davis (tp), Horace Silver (p), Percy Heath (b), Art Blakey (ds)。麻薬禍を克服してまだ時間が経っていない時期にマイルスのトランペットのワンホーンは酷である。 ボブ・ワインストックは思いやりに欠けるプロデューサーだったとみえる。
 

Blue_haze_1

 
トランペットの音には張りがあって「暗い翳り」はもう感じる事は無い。しかし、テクニック的には、 まだまだカムバックの途上で、後に高速展開でビシッとライブで決める「Four」など、かなり低速の安全運転。「Old Devil Moon」もテクニックはまだまだ。マイルスの個性的なトランペットの音だけで、とりあえず聴かせる感じ。これら回復途上の演奏をアルバム化するとは、ボブ・ワインストックは思いやりに欠けるプロデューサーだったとみえる。

1953年5月19日の録音。Track #4「Smooch」, Track #6「When Lights are Low」, Track #7「Tune Up」and Track #8「Miles Ahead」。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John Lewis (p), Charles Mingus (p), Percy Heath (b), Max Roach (ds)。これも、プレスティッジらしい「やっつけ」なパーソネルである。マイルスにローチのドラムが合うとは思えない。ミンガスに至ってはピアノを弾いている。暇にしているジャズマンに声をかけた風なパーソネル。

麻薬禍を克服して間もない時期の録音なので、どの曲の演奏にも、まだ「暗い翳り」を引きずり、テクニックが元に戻っていない「中途半端さ」が漂う。ペットの音は、トランペットの音自体は、しっかりと「マイルスの個性」を回復しているので、確かに麻薬禍は克服したと想像できる。が、まだまだ鍛錬が必要な回復途上の演奏である。これら回復のリハビリ初期の頃の演奏をアルバム化するとは、ボブ・ワインストックは思いやりに欠けるプロデューサーだったとみえる。

以上の様に、麻薬禍を克服して、回復のリハビリテーションの様なセッションを重ねて、グイグイと麻薬禍前のマイルスに戻っていく過程を、セッションの音によって感じることができる。が、プレスティッジって、この3つのセッションの録音を時系列に並べるのではなくて、雰囲気だけで適当に並べているので、これが実に困る。

好調のマイルスで始まったと思ったら、回復途上の安全運転風の演奏の雰囲気をありありと感じるマイルスが出てきて、それが続くと思ったら、どう聴いてもまだ麻薬禍を克服して間もない、回復のリハビリ初期の頃の演奏でしょうこれは、と判るくらいのマイルスが出てくる。

これ、当時のマイルスの置かれた状況と、収録された演奏が回復のリハビリテーションの様な3つのセッションからの寄せ集めで、それも時系列に並んでいるのではなくて、雰囲気だけで並べられている、ということが事前に理解していないと、このマイルスのパフォーマンスの内容のレベルが、曲ごとに上下に触れるこのリーダー作は「訳が判らなく」なるだろう。

この盤、再生ソフトなどでプレイリストを組んで、録音時期ごとに時系列に並べ直してプレイバックすると、当時のマイルスが、麻薬禍を克服して、回復のリハビリテーションの様なセッションを重ねて、グイグイと麻薬禍前のマイルスに戻っていく過程よく判る。全く、プレスティッジって、ボブ・ワインストックって、ジャズマンに対する思いやりに欠けるなあ、と改めて感じる、マイルスの『Blue Haze』である。
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!

 ★ AORの風に吹かれて 

  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

 ★ まだまだロックキッズ    【New】 2022.12.06 更新

    ・本館から、プログレのハイテク集団「イエス」関連の記事を全て移行。

 ★ 松和の「青春のかけら達」

  ・四人囃子の『Golden Picnics
 

Matsuwa_billboard

★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。

★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。

東日本大震災から12年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。

Never_giveup_4 
 

« ロイド「Trio of Trios」の第三弾 | トップページ | 『Miles Davis Vol.1』の聴き直し »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ロイド「Trio of Trios」の第三弾 | トップページ | 『Miles Davis Vol.1』の聴き直し »

リンク

  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

カテゴリー