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2023年9月の記事

2023年9月30日 (土曜日)

ガーランドとロックジョウの佳作

レッド・ガーランド(Red Garland)の「ブロック・コード+右手のシングル・トーン」のシンプル・ピアノは、実は伴奏上手でもある。

そのシンプルなピアノと伴奏上手に目をつけて、マイルス御大が、1950年代黄金のクインテットを結成する際、レッド・ガーランドをピアノ担当に招聘した訳で、確かに、マイルスのバックで伴奏をするガーランドのピアノを聴いていると、決して、マイルスのトランペットの邪魔をせず、絶妙な間合いで伴奏のタッチを入れていく。

あくまで、マイルスのトランペットが引き立つように引き立つように、伴奏の「合いの手」を入れていく。これが実に絶妙なのだ。この伴奏上手な面を、他の管担当のフロント・メンバーとカルテットやクインテット編成を組んで、優秀作を多数リリースしている。

Red Garland Trio & Eddie "Lockjaw" Davis『Moodsville Volume 1・The Blue Room』(写真左)。1959年12月11日の録音。ちなみにパーソネルは、Red Garland (p), Eddie "Lockjaw" Davis (ts), Sam Jones (bs), Art Taylor (ds)。ベースがポール・チェンバースからサム・ジョーンズに代わったガーランド・トリオをバックに、フロント1管にロックジョウのテナーが据わるという、ワンホーン・カルテットな編成。
 

Red-garland-trio-eddie-22lockjaw22-davis

 
プレスティッジ・レーベルが、求愛中のカップルにムード音楽を提供することを目的としたレーベル「ムーズヴィル」からのリリース。しかし、中身は意外と硬派なハードバップ。特に、ロックジョウのテナーがダンディズム溢れる骨太なテナーなので、その印象を更に強くしている。

切れ味の良いガーランドのシンプル・ピアノは、ロックジョウのテナーと「効果的な対比」を醸して出していて、なかなかの内容のハードバップが成立している。純粋に「メインストリーム志向の純ジャズ」盤として、十分鑑賞に耐える優れた内容となっている。ロックジョウのテナーが力感溢れるもので、ムーディーというにはちょっとメリハリが効き過ぎている。しかし、純ジャズとしては「そこが良い」。

アルバム・タイトル「The Blue Room」の通り、盤全体に「ブルージーな雰囲気」が蔓延していて、これがまた実に良い雰囲気。特にロックジョウのテナーがとりわけ「ブルージー」で、ロックジョウのベスト・プレイの1つなのでは、と密かに思っている。

ガーランド・トリオはコルトレーンのテナーと組んでのアルバムを幾枚か出しているが、どうしてもコルトレーンが暴走するので、フロント管とガーランド・トリオとのバランスと相性が「イマイチ」だと感じているのだが、このロックジョウと組んでのカルテット盤については、バランスと相性が抜群で、とにかく聴いていて楽しいし、難しいこと無しにリラックスして聴ける。隠れ名盤の1枚としても良い位の佳作である。
 
 

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2023年9月29日 (金曜日)

ムーディーと言うよりはクール

私生活でいろいろと悩ましい出来事が続くと、心が疲れてくる。そういう時に、硬派で最先端を行くアーティスティックなジャズはいけない。心からリラックスして聴くことの出来る、小粋で味のあるモダン・ジャズが良い。それも「管無し」が良い。管は疲れた心に刺さってくる。こういう時は「ピアノ・トリオ」である。

Red Garland Trio『Moodsville Volume 6 ・Bass-Ment Blues』(写真左)。1958年11月21日の録音。ちなみにパーソネルは、Red Garland (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。ガーランド「鉄壁のトリオ」である。「Moodsville」は、1950年代の終盤にプレスティッジが始めた、恋愛中にカップルに向けてムーディーな音楽を提供しようと作ったシリーズ。そのシリーズの6枚目のアルバムになる。

レッド・ガーランド・トリオの音は「金太郎飴」。ガーランドの「ブロック・コード+右手のシングル・トーン」のシンプル・ピアノに、骨太で安定感抜群のチェンバースのベース、多彩で安心感抜群のテイラーのドラム、絵に描いた様な、ジャズのピアノ・トリオの「標準」の様なパフォーマンス。どんなスタンダード曲でも、オリジナル曲でも、このトリオの演奏トーンは変わらない。それでも、ガーランドのピアノについては、不思議と「マンネリ感」が希薄。またか、と思わせない様に、弾き方やニュアンスに色々と工夫を凝らしているように感じる。
 

Red-garland-triomoodsville-volume-6-bass

 
1950年代の終盤にプレスティッジが始めた、恋愛中にカップルに向けての1枚、このガーランド・トリオの演奏は実に小粋で味がある。ミッドテンポからスローテンポ、ブルースからバラード、ムーディーな曲を、ガーランドの「ブロック・コード+右手のシングル・トーン」のシンプル・ピアノが弾き進めている。寛ぎ度合いマックス、伸び伸びリラックスしたパフォーマンスがとても良い雰囲気を醸し出す。
 
バックのポルチェンのベース、テイラーのドラムも、切れ味良く、小粋に洒脱にガーランドのピアノを支え、鼓舞する。この職人芸的リズム・セクションのリズム&ビートが、この「恋愛中にカップルに向けてムーディーなピアノ・トリオ演奏」を、イージーリスニング志向では無く、優れたハードバップ志向のモダン・ジャズに昇華させている。

ムーディーではあるが、内容の濃いハードバップなピアノ・トリオ。決して、イージーリスニング志向になっていないところが立派。切れ味の良いガーランドのシンプル・ピアノは、ムーディーと言うよりは「クール」。温かみのある「クール」なトリオ演奏は、ガーランド「鉄壁のトリオ」の真骨頂。「Moodsville」からのリリースとは言え、内容は「硬派」。素敵なピアノ・トリオ盤です。
 
 

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2023年9月28日 (木曜日)

1990年代ショーターのアルバム

Weather Report(ウェザー・リポート, 以下略して「WR」)以降の「Wayne Shorter(ウエイン・ショーだー)」のリーダー作を聴き直している。

1985年の『Atlantis』から始まり、『Phantom Navigator』『Joy Ryder』と、基本的には、WRの音世界をショーターなりに、ショーターとして解釈し、ショーター印のWR的な音世界をずっと追求し続けて来た。

Wayne Shorter『High Life』(写真左)。1995年の作品。ちなみにパーソネルは、Wayne Shorter (sax), Rachel Z (p, syn, sequencing, sound design), David Gilmore (g), Marcus Miller (b, rhythm programming, b-cl), Will Calhoun (ds), Terri Lyne Carrington (ds, track 8), Lenny Castro, Airto Moreira (perc), Munyungo Jackson, Kevin Ricard (perc, track 8), David Ward (additional sound design)。

前作『Joy Ryder』は1988年の作品で、バックの演奏を含め、当時として、最先端のコンテンポラリーなエレ・ジャズの記録がこの『Joy Ryder』に満載。逆に、この盤以上の内容を追求する必要がないくらい充実していた。それから7年経ってのリーダー作である。1995年の秋。きっと「新しいショーターの音世界」が展開されているに違い無い、とワクワクしながら、この『High Life』を聴き始めたのを覚えている。

で、出てきた音は、なんと再び「ショーター印のWR的な音世界」。未だにWRの音世界を追求するショーターがいた。しかも、キーボードは、ザヴィヌルの代わり、ザヴィヌルの影武者の様な「レイチェルZ」が音楽監督も兼ねて、担当している。
 

Wayne-shorterhigh-life

 
前作までは「ショーター印のWR的な音世界」を追求してはいるが、基本的に「ザヴィヌル抜き」のイメージでの「ショーター印のWR的な音世界」の追求であり、それが効果的で、ザヴィヌル主導のWRとの比較が明確に出来て、ショーターのクリエイターとしての矜持を強く感じたものだった。

が、この盤では、ザヴィヌルの様な、どこかエスニックで、どこかワールド・ミュージックの様な旋律が微かに流れている。趣味の良い、耽美的でリリカル、ふざつに捻れた「ザヴィヌルの様なキーボードの音」の印象が耳に強く残る。この『High Life』の音世界は一番、WRに近い。

レイチェルZとデヴィッド・ワードの音作りは、モードを基本とした音の繋がりで、当時としてユニークではある。しかし、大本の音世界が「ショーター印のWR的な音世界」で、一番WRに近いので、音作りのユニークさ、より先に、未だWRの音世界を追い続ける「マンネリズム」が先に立ってしまうところが実に惜しい。

ショーターのサックスは伸び伸びとショーターなりの捻れフレーズを吹きまくっているし、マーカス・ミラーのエレベは、斬新で複雑なモーダル・ラインを連発する。レイチェルZのキーボードは妖艶でショーターっぽい。演奏自体は当時としてハイレベルの演奏で、この1枚だけを聴けば傑作なんだが、WR以降のリーダー作を続けて聴いてくると、どうしてもこの盤の音の基本が「ショーター印のWR的な音世界」であるところに、どうにも「またか」的な印象を持ってしまう。

単発だと名盤だが、リーダー作の中では、ちょっとレベルが下がる、そんな「困ったちゃん」なショーターのリーダー作である。
 
 

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2023年9月27日 (水曜日)

「CASIOPEA-P4」の2nd.盤

日本のフュージョン・ジャズ(和フュージョン・ジャズ)の名盤・好盤を聴き直していると、必ず、ぶち当たるフュージョン・ジャズのグループが2つある。ひとつは、1977年結成の「CACIOPEA(カシオペア)」、もうひとつは、1976年結成の「T-SQUARE(ティー・スクエア)」。和フュージョン・ジャズの老舗中の2つの老舗バンド。

その老舗バンドのひとつ、カシオペアは、バリバリ硬派な、思いっ切りハイ・テクニックな、疾走感と切れ味抜群のフュージョン・バンドだった。デビューは1977年。幾度かのメンバー変遷と2006年から2011年までの活動休止期間を経て、第1期〜第2期「CACIOPEA」、第3期「CASIOPEA 3rd」、第4期「CASIOPEA-P4」とバンド名をマイナーチェンジしながら、現在も活動中。

CASIOPEA-P4『New Beginning(Live at EX THEATER ROPPONGI Dec.11.2022)』(写真左)。2022年12月11日、EX THEATER ROPPONGIでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、野呂一生 (g), 大高清美 (key), 鳴瀬喜博 (b), 今井義頼(ds)。CASIOPEA-P4名義の2枚目のアルバムになる。

もともと、カシオペアは、フロント楽器がギターで、バックにリズム・セクションという編成で、長らくギター・サウンドが前面に押し出された「ギター・バンド」志向なフュージョン・ミュージックが身上だった。
 

Casiopeap4_new-beginning

 
が、CASIOPEA-P4になって、野呂のギターはそのままだが、大高のキーボードがフロントの一定の割合をコンスタントに担う様なサウンド構成に変化している。今回のこのライヴ盤は、そんなギター+キーボードが双頭フロントのバリバリ硬派な、思いっ切りハイ・テクニックな、疾走感と切れ味抜群のフュージョン・バンドのパフォーマンスが、CD2枚組の中にギッシリ詰まっている。

CASIOPEA-P4名義の初アルバム『NEW TOPICS』では、キーボードがかなり前面に出ていた印象があるが、このライヴ盤では、イーブン・イーブンの割合になっていて、バランスが取れている印象。

1970年代のプログレッシブ・ロック、もしくは、キーボードがメインのジャズ・ロックの様な音志向に変化はしたが、このライヴ盤を聴く限り、デビュー当時のバンドのキャッチ・フレーズである「スリル・スピード・スーパーテクニック」はしっかり踏襲されている。

逆に、キーボードが前面に出たことによって、アダルト・オリエンテッドな雰囲気が濃厚になって、大人のフュージョン・ジャズという雰囲気がとても魅力的。まだまだ、我が国における、最高峰のエレ・ジャズ・バンドの位置をキープしている。僕はこのCASIOPEA-P4の音を好ましく聴いた。
 
 

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2023年9月26日 (火曜日)

T-SQUARE45周年記念アルバム

最近、日本のフュージョン・ジャズ(和フュージョン・ジャズ)の名盤・好盤を聴き直しているのだが、意外と内容充実の盤が多い。演奏テクニックは申し分無く、歌心もあり、オリジナルの楽曲もメロディーラインの魅力的な佳曲ばかりで、十分、世界と渡り合えるレベルのアルバムを量産していたことを再認識している。

そんな和フュージョンの名盤・好盤を聴き直していくと、必ず、ぶち当たるフュージョン・ジャズのグループが2つある。ひとつは、1977年結成の「CACIOPEA(カシオペア)」、もうひとつは、1976年結成の「T-SQUARE(ティー・スクエア)」。和フュージョン・ジャズの老舗中の2つの老舗バンド。フュージョン・バンド・ブームの中、この2つのグループで人気を二分して大いに盛り上がっていた。

T-SQUARE『Vento De Felicidade 〜しあわせの風〜』(写真左)。2023年5月31日のリリース。T-SQUARE45周年記念アルバム。現メンバーの伊東たけしと坂東慧に加え、歴代のメンバーの中から、安藤正容、河野啓三、仙波清彦、久米大作、田中豊雪、長谷部徹、則竹裕之、須藤満、本田雅人、松本圭司、宮崎隆睦、サポート・メンバーの田中晋吾、白井アキト、外園一馬、山崎千裕が顔を揃えている。加えて、ゲストとして、渡辺香津美と鳥山雄司、TOKUが参加。
 

Tsquarevento-de-felicidade

 
『WISH』では、確実にスムース・ジャズ化したT-SQUARE。アルバムの出来はそつなく優秀、よく聴けば、T-SQUAREらしさは押さえられている。しかし、今回の「スムース・ジャズ志向」の耳当たりの良いサウンドは、恐らく「賛否両論」だろう、と感じた。ポップス度、ロック志向が強かったサウンドが、一気にスムース・ジャズ化したのだから無理は無い。

以前は「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」とは言っても、ジャズ度はほどよく漂い、演奏のフレーズには、どこかジャズ・ライクな捻りや「引っ掛かり」があったりして、ポップでロックな雰囲気はあるが、基本的にはフュージョン・ジャズの音志向を貫いていたと思う。と思っていたら、この最新盤では、そんな従来からのT-SQUAREサウンドが戻って来ている。

爽快感に溢れた、落ち着いた雰囲気の、大人の「ポップでロックなフュージョン・ジャズ」、大人のT-SQUAREサウンドが、実に心地良く響いてくる。従来からのT-SQUAREサウンドが戻って来て、安心して聴ける、T-SQUARE45周年記念アルバム。もう結成から45年経ったなんて思えない、フレッシュで若々しい明るいサウンドが、とても気持ち良い。気分爽快な和フュージョン・ジャズ盤である。
 
 

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2023年9月25日 (月曜日)

日本人によるディキシーランド

我が国のジャズ・ピアノの雄、小曽根 真(おぞね まこと)。1984年に初リーダー作『OZONE』で、メジャー・デビューして以来、はや39年。小曽根は1961年生まれなので、今年で62歳になる。もうベテランの域。つい最近デビューして、活躍してんな〜、なんて思いつつ、リーダー作は目についたら、まめに聴いていたのだが、もう62歳になるんやね〜。

小曽根 真『Park Street Kids』(写真左)。2022年の作品。渋谷 BODY & SOULでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、小曽根 真 (p), 中川 喜弘 (tp, vo), 中川 英二郎 (tb, vo), 中村 健吾 (b), 高橋 信之介 (ds) のクインテット編成に、スペシャル・ゲストとして、北村 英治 (cl) が参加している。

冒頭「MississippiRag」から、ディキシーランド・ジャズ志向の演奏全開。ジャケを見て、北村英治のクラリネットがフィーチャリングされているので、スイング・ジャズかと思って身構えて聴き始めたら、ディキシーランド・ジャズがボワッと出てきたので、思わず仰け反る(笑)。現代の硬派なメインストリーム志向の純ジャズのテイストで、ディキシーランド・ジャズをやる。ウィントン・マルサリスが聴いたら、怒ってくるかも(笑)。
 

Park-street-kids

 
端正で切れ味良く、重心が低くファンクネス控えめの「日本人の、日本人による、日本人のための」ディキシーランド・ジャズが展開されていて、聴き応えは抜群に良い。ストライドやブギウギのフレーズも織り交ぜながら、骨太で硬質タッチで流麗な小曽根のピアノが良い味を出している。単純に聴いていて、とても楽しいオールド・スタイルのピアノ。ラグタイムも良い味を出している。小曽根のピアノ・テクニック恐るべしである。

そんな「日本人の、日本人による、日本人のための」ディキシーランド・ジャズの中に、北村英治の小粋で流麗、真摯で明るいクラリネットが飛翔する。北村英治って、1929年(昭和4年)生まれなので、今年で94歳。この盤での北村のクラリネットの力感と流麗な運指を聴いていると、とても93歳(録音当時)とは思えない。まだまだ現役、まだまだ第一線のクラリネットが、実に良い雰囲気で鳴り響く。

今のジャズ、今の音で表現した「日本人の、日本人による、日本人のための」ディキシーランド・ジャズ。聴いていて、なんだかリラックス出来て、何となく幸せな気分に浸りながら、ゆったりとディキシーランド・ジャズに身を委ねことが出来る。テンションの高い純ジャズとは正反対の音作り。でも、これはこれで良い雰囲気。これはこれで「良いジャズ」である。
 
 

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2023年9月24日 (日曜日)

タイナーのモード・ジャズの帰還

マッコイ・タイナーが、1970年代を駆け抜けたマイルストーン・レコードから、コロンビア・レコードに移籍した訳だが、このコロンビアでリリースした2枚のアルバム『The Legend Of The Hour』(1981年録音)、『Looking Out』(1982年録音)は酷い内容のアルバムだった。

『The Legend Of The Hour』は、何故かラテン・ジャズをベースにした中途半端なフュージョン志向のアルバム。硬派でモーダルなメインストリーム志向のタイナーの面影すら無い。何を求めているのか、何を訴求しているのか全く判らないアルバムになっている。初めて聴いた時、この盤がタイナーのリーダー作とは直ぐに信じられなかった。それほど、酷い内容の落ち込みようであった。

『Looking Out』は、さらに迷走を深め、ヴォーカルをフィーチャー。共演メンバーも、カルロス・サンタナ、スタンリー・クラーク等、完全にフュージョン・ジャズ志向のメンバーで固めて、タイナー自身もシンセサイザーを弾いたりする迷走ぶり。この盤については、前作の迷走ぶりに拍車をかけた、何を狙って、何を表現したかったのかが、全く理解出来ない内容であった。

Mccoy Tyner『Dimensions』(写真)。1983年10月の録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p, syn), Gary Bartz (as), John Blake (vln), John Lee (b), Wilby Fletcher (ds)。迷走に迷走を重ねたコロンビア・レコードを早々に去り、この盤は、Elektra/Musicianからのリリースになる。メンバー的には、ゲイリー・バーツ以外、知らない名前ばかりが並ぶ。ふと、不安になる。
 

Mccoy-tynerdimensions

 
冒頭の「One For Dea」を聴いて、ホッとする。1970年代のタイナー節、タイナーの音世界が戻って来ている。「ワールド・ミュージックと融合した」タイナーのモード・ジャズが戻って来た。見れば、唯一、タイナーの作曲。タイナーからすれば「戻って来たぞ」と宣言したかったのだろう。この曲の音志向は、絶対に1970年代のタイナーである。

2曲目以降はタイナー作の曲は無いが、ヴァイオリンを入れたり、2曲目「Prelude to A Kiss」はピアノ・ソロ、4曲目「Just In Time」はピアノ・トリオと演奏の編成に変化を持たせていて、どの演奏編成にしても、タイナーのモーダルでパーカッシヴなピアノの個性が引き立つようにアレンジされている。いやはや、タイナーのピアノが、タイナーの音世界が戻って来た良かったなあ、とこの盤を聴いて、つくづく思った。

ちなみに、ジャケット裏面には、各曲の紹介をタイナー自身が書いている力の入れよう。しかも、最後に「I wish you many hours of good listening(何時間も楽しくお聴きいただければ幸いです)」と記して結びとしている。

「タイナー・リターンズ」。タイナーの帰還。本作は当時として、タイナーの自信作だったのだろう。ジャケットは平凡だが、確かに内容の濃いリーダー作。ジャケットは気にせず、一度は手に取って聴いて欲しい佳作である。
 
 

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2023年9月23日 (土曜日)

ジョンスコ・ジャズの原点回帰

ジョンスコは自らの音作りについて、幾つかのスタイルの変換を経験している。スタイルの変換とはいっても、ジョンスコのギターの個性はそのままで、演奏の音志向を変換する方式なので、全く違和感の無いスタイルの変換ではある。

最初は「メンストリーム志向のエレ・ジャズ」から入って「ジョンスコ流ジャズ・ロック」、そして、1980年代前半〜中盤は「ジョンスコ・オリジナルなエレ・ファンク」にスタイルを変化させている。今日はその次のスタイルの変換のお話。

John Scofield『Flat Out』(写真左)。1988年12月の録音。ちなみにパーソネルは、John Scofield (el-g), Don Grolnick (Hammond B-3 org), Anthony Cox (b), Johnny Vidacovich (ds, exc. 3,7,9), Terri Lyne Carrington (ds, track3,7,9)。この盤ではハモンド・オルガンを導入。ベテラン、ドン・グロルニックが担当。これは、ファンクネス増強を担うのか、と思わず身構える。

が、聴けば、その予想については完全に「肩すかし」。『Electric Outlet』から始まり、『Blue Matter』『Pick Hits Live』『Loud Jazz』の3枚の「ジョンスコ・ファンク全盛期」にて、ジョンスコ・オリジナルなエレ・ファンクを確立。さて、次はどうするのかな、と思ったら、エレギのボリュームを上げ、音色の出し方を工夫して、それまでのエレギのファンク度合いを2倍にも3倍にも引き上げたジョンスコの「ファンキー捻れギター」そのままに、ジャズの原点回帰にチャレンジ。
 

John-scofieldflat-out

 
ファンクネスはそのままだが、ファンク度は後退、アコースティック路線へと大きく変換。冒頭3曲はスタンダード曲を演奏。これも新鮮。それまではオリジナル曲がメイン、スタンダード曲はほとんど採用しなかったので、この冒頭スタンダード曲の「3連発」にはビックリした。

確実に、メインストリームな純ジャズ志向に戻りつつある雰囲気濃厚。1988年2月のジョンのコメントに「ファンク路線もそろそろ満足のいくところまできた。この次は、もう少しアコースティックなムードのジャズをプレイしたいと思っている」と発言している。その発言そのものズバリのリーダー作がこの『Flat Out』ということになる。いわゆる「ジョンスコ・ジャズ」の原点回帰である。

大きく分けて、ニューオリンズ・ジャズ志向とストレート・アヘッドな純ジャズ志向で固められた本作。ただし、ジョンスコのギター、ジョンスコの「ファンキー捻れギター」はそのままなのが「安定度抜群」。あくまで、演奏の志向を転換しただけで、ジャズ・ギターのテイストまでは絶対に変えない、というジョンスコの矜持を強烈に感じる。

実際にこの次のリーダー作『Time on My Hands』では、ストイックで硬派なメインストリームな純ジャズ志向で固めた音世界を展開することになる。そういう意味では、この『Flat Out』では、ジョンスコの「3つ目の転換点」を記録したエポック・メイキングなリーダー作、という位置づけになる。
 
 

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2023年9月22日 (金曜日)

ザイトリンのソロ・ピアノ集

この3日間、中京地区に逗留していた訳だが、往き帰りの新幹線の中は、またとない「ジャズ盤傾聴」の機会。意外と新幹線の車内は静かで、ジャズ盤がしっかり聴き込むことが出来る。今回もソロピアノを中心に聴き込んだのだが、これがまたなかなか内容のある盤ばかりでご満悦である。

デニー・ザイトリン(Denny Zeitlin)は、「医師とジャズ・ピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物。しかも、医師は医師でも精神科医。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきた「異色中の異色なジャズ・ピアニスト」である。

Denny Zeitlin『Crazy Rhythms・Exploring George Gershwin』(写真左)。2018年12月7日「Piedmont Piano Company, Oakland」での録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p) のみ。「異色中の異色なジャズ・ピアニスト」であるデニー・ザイトリンのソロ・ピアノのライヴ録音。現時点でのザイトリンの最新作になる。

ザイトリンは、この2018年に開かれたコンサートでアメリカの偉大な作曲家「ジョージ・ガーシュイン」のトリビュートとして、このソロ・ピアノのライヴ盤を録音している。が、このソロ・ピアノのパフォーマンス、ザイトリンのピアノの個性が手に取るように判るパフォーマンスがしっかり記録されていて、ザイトリンの個性を確認するのに最適なライヴ盤になっている。
 

Denny-zeitlincrazy-rhythmsexploring-geor

 
前のブログで「ザイトリンのピアノは、ビル・エヴァンスのピアノから、翳りを除いて硬質で明快なタッチに置き換えた様な、明るい弾き回し。しかし、音の重ね方やヴォイシングはエヴァンスより複雑で個性的」と書いたが、このザイトリンのピアノの特徴が、このソロ・ピアノのライブ盤でとても良く判るのだ。

冒頭の「Summertime」。この手垢の付いた「超スタンダード」な楽曲なのだが、冒頭の弾き回しを聴いていると「あれ、ビル・エヴァンスかな」と思うんだが、聴き進めると、まず音の重ね方が違う。エヴァンスよりも複雑で陰影が濃い。そして、タッチが違う。ザイトリンの方が硬質で調高速な弾き回しに破綻が無い。そもそも、ビル・エヴァンスは、こんな超高速な弾き回しはしない。そして、ヴォイシングが違う。そもそも音の選び方が、聴いて直ぐ判るくらいに違う。

加えて、アレンジが秀逸。演奏されるどの曲もひと味もふた味も違うアレンジが施されているのだが、特に「The Man I Love」など、今までの「The Man I Love」のアレンジはしっとりとしたバラード調のものばかりだったが、ザイトリンのアレンジは、アグレッシブでスクエア。まるで流麗な「モンク」が弾き進めている様な音作り。この辺が、ザイトリンのアレンジの個性的なところである。

全編聴き通すと、確かに「エヴァンス派」と呼べなくはないのだが、弾き回しのニュアンスが似通っているだけで、後は皆、違う個性なのだから、ザイトリン独特の個性として認めても良いのでは無いか、と思う。それほど、このライヴ盤ではザイトリンの個性が際立っている。
 
 

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2023年9月19日 (火曜日)

デニー・ザイトリンの2nd.盤。

我が国では、余り人気が無いのだが、好きな人はトコトン好きな、いわゆる「マニア好み」「玄人好み」のピアニストが幾人かいる。そんなピアニストの1人が「デニー・ザイトリン(Denny Zeitlin)」。

僕はこの「デニー・ザイトリン」のピアノがお気に入りで、時々、思い出しては聴いている。聴くと「やっぱりええなあ、ザイトリンのピアノ」となる訳で、今でも、ザイトリンのリーダー作が出る度に、ダウンロードしては聴いている。

Denny Zeitlin『Carnival』(写真左)。1964年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p), Charlie Haden (b),  Jerry Granelli (ds)。ビル・エヴァンスやセロニアス・モンクからも絶賛されたという、隠れた名ピアニスト、デニー・ザイトリンのセカンド盤である。

ザイトリンのピアノは、ビル・エヴァンスのピアノから、翳りを除いて硬質で明快なタッチに置き換えた様な、明るい弾き回し。しかし、音の重ね方やヴォイシングはエヴァンスより複雑で個性的。ザイトリンのピアノは一言で「エヴァンス派」で片付けられていたが、聴けば直ぐ判るのだが、エヴァンスのピアノとは個性の部分で根本的に違う。
 

Denny-zeitlincarnival

 
ピアノの基本はモード。ハードバップな弾き回しにも長けており、とても素姓の良いジャズ・ピアノである。アップテンポの曲は迫力満点の弾き回し。バラードはエヴァンスに習っているが、先にも書いたが、音の重ね方やヴォイシングが全く異なる。スタンダード曲については、その解釈がユニークで、アレンジが個性的。

デビュー盤では「適度に端正で、適度にアブストラクトで、適度にモーダルなピアノ」だったが、それを少し修正して、聴き易さを優先している。逆にそれが功を奏して、このセカンド盤はリラックスして楽しく聴ける内容になっている。それでいて、要所要所でザイトリンの個性はシッカリ「爪痕を残している」のだから、それはそれで立派ある。

ザイトリンは1938年生まれ。今年で85歳。まだまだ現役で、最近、またまたリーダー作をリリースしたと聞く。このセカンド盤は、ザイトリンが26歳の時の録音。若さに溢れるキラキラ明るい、それでいてどこか複雑な、個性的なピアノが聴ける。良いピアノ・トリオ盤です。
 
 

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2023年9月18日 (月曜日)

充実の『アフリカン・ワルツ』

リヴァーサイド・レーベルのキャノンボール・アダレイは、自らの個性を前面に出し、活き活きとしたパフォーマンスを発揮し、数々の傑作をものにしている。ひとえに、リヴァーサイドの総帥プロデューサーのオリン・キープニュースの賜物である、と僕は思っている。キャノンボールは本当に良いレーベルに巡り会えた。

Cannonball Adderley『African Waltz』(写真左)。1961年2, 5月の録音。リヴァーサイド・レーベルからのリリース。ビッグバンドをバックにしたキャノンボール・アダレイの企画盤。

ちなみにパーソネルは、Cannonball Adderley (as), Nat Adderley, Joe Newman, Ernie Royal, Clark Terry, Nick Travis (tp), immy Cleveland, George Matthews, Arnett Sparrow, Melba Liston (tb), Bob Brookmeyer (valve-tb), aul Faulise (b-tb), Don Butterfield (tuba), George Dorsey (as, fl), Oliver Nelson (ts, fl), Jerome Richardson (ts, fl, piccolo), Arthur Clarke (bs), Wynton Kelly (p), Sam Jones (b), Charlie Persip, Louis Hayes (ds), Michael Olatunji (congas, bongos), Ray Barretto (congas),

要所要所に一流ジャズマンを配置した、内容のあるスキルフルなビッグバンドをバックにした、充実の企画盤。ビッグバンドをバックにしたキャノンボールと言えば、エマーシー時代の「ウケ狙いのイージーリスニング・ジャズ」を想起して、ちょっと眉をひそめるのだが、この盤を聴けば、それは杞憂であったことにホッとする。
 

Cannonball-adderleyafrican-waltz

 
アレンジが良い。アーニー・ウィルキンスのアレンジとのことだが、1960年代のジャズ黄金期の「録音の為のビッグバンド」といった音作りがとても良い。ウィントン・ケリーのピアノ、サム・ジョーンズのベース、チャーリー・パーシップとルイス・ヘイズのドラム、この1960年代ならではのリズム・セクションが、当時の最先端のハードバップらしいリズム&ビートを供給する。これが意外と洒脱なのだ。

ホーン隊は逆に、実に「俗っぽい」。どこから聴いても、下世話なスイングの雰囲気を引き継いだ、どこから聴いても、モダン・ジャズらしい、大衆受けするユニゾン&ハーモニー。新しさは無いが、ジャズ黄金期のブラスの響き、ブリリアントな音の輝きが「どジャズ」していて、とても良い。

そんなビッグバンドをバックに、キャノンボール・アダレイの初のシングルヒット曲「African Waltz」が展開される。これがまた実に良い。ただ、この「African Waltz」は、アドリブ・パートが無くて、ジャズの曲調を借りたビッグバンドをベースとしたイージーリスニング志向の演奏。それでも、曲自体が良くて、音的にもアフリカ色が散りばめられていて良い感じ。

他の曲も、スタンダード曲、若しくは、ミュージシャンズ・チューンがほとんどだが、演奏自体のレベルは良好。さすが、メンバーがメンバーだけに、それぞれのアドリブ・パートや要所要所のユニゾン&ハーモニーは聴き応え十分。

エマーシー時代とは一線を画した、リヴァーサイドでの内容のあるスキルフルなビッグバンドをバックにした、充実の企画盤。本当に、キャノンボールって、リヴァーサイドに移籍して良かったなあ、とこの盤を聴く度に、つくづく思うのだ。
 
 

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2023年9月17日 (日曜日)

ジョンスコのエレ・ファンク。

マイルスの下で活躍するにつれ、エレ・マイルスの洗礼を思いっ切り受けて、ジョン・スコフィールド(以降、略して「ジョンスコ」)の音志向はジャズ・ファンクへ傾倒する。

ただし、マイルスのエレ・ファンクを、そのまま真似するとマイルス御大に怒られること必至。ジョンスコは、マイルスのエレ・ファンクをベースに、ジョンスコ・オリジナルなエレ・ファンクを追求することになる。

マイルスの楽器はトランペット。マイルスのエレ・ファンクの肝はベースとドラム。ベースとドラムが重量級のファンク・ビートを醸し出して、その上にマイルスのトランペットが飛翔する。トランペットの音は基本的に切れ味良く大きい。ブリリアントでメリハリがある音で、トランペットの音は、ベースとドラムが重量級のファンク・ビートに負けない。

ジョンスコの楽器はエレギ。ギターの音は基本的に弦を弾いて出すので、トランペットに比べて音が細い。マイルスのエレ・ファンクの肝だったベースとドラムをそのまま活かすと、主役のエレギの音が負けてしまう。重量級のベースとドラムの音が目立ってしまう。

ジョンスコのエレ・ファンクへのチャレンジの証し、『Electric Outlet』と『Still Warm』『Blue Matter』の3枚で、どうも、ベースとドラムの重量級のファンク・ビートを活かす方向は、エレギが主役のジョンスコのエレ・ファンクには無理があることが判った。

John Scofield『Loud Jazz』(写真左)。1987年12月の録音。ちなみにパーソネルは、John Scofield (el-g), Robert Aries (key), George Duke (key), Gary Grainger (b), Dennis Chambers (ds), Don Alias (perc)。
 

John-scofieldloud-jazz

 
タイトルは直訳すると「騒々しいジャズ」なんだが、この盤、フュージョン&スムース志向のエレ・ファンクが特徴の盤である。決して「騒々しい」ジャズでは無い。

『Blue Matter』で目立ちに目立ったデニチェンのドラムとグレンジャーのベースが、温和に後ろに下がって、スムースなファンク・ビートを醸し出す。そして、ジョンスコのエレ・ファンクの肝となったのは、ジョンスコ自身のエレギ。ジョンスコ自身のエレギのボリュームを上げ、音色の出し方を工夫して、それまでのエレギのファンク度合いを2倍にも3倍にも引き上げた。

不思議に「ねじれた」というか、ちょっと外れた、というか、とにかく一聴するだけで「ジョンスコ」と判る、とても個性的なエレギに、スムースなファンクネスを纏わせて、ジョンスコのエレ・ファンクを確立させている。

ジョンスコのエレ・ファンクのファンクネスは、ジョンスコのエレギが醸し出し、バックのリズム隊がそのファンクネスを支え、演奏全体に振り撒く。エレギがメインの、エレギがフロントに据わった、フュージョンでスムースなエレ・ファンクが爽やかである。

この盤にて、マイルスのエレ・ファンクをベースに、ジョンスコ・オリジナルなエレ・ファンクを確立する。ジョンスコのエレ・ファンクのファンクネスは、ジョンスコ自身のエレギが醸し出す。リズム隊はそれを支え、演奏全体に伝播する。これがジョンスコのエレ・ファンクの基本。そして、その底には、マイルスのエレ・ファンクのエッセンスが流れている。
 
 

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2023年9月16日 (土曜日)

1980年代タイナーのジャズオケ

1980年代のマッコイ・タイナーの聴き直しに突入。1970年代はほぼマイルストーン・レーベル一本槍で、タイナー・ミュージックの確立期の記録が追体験出来る。1980年代はマイルストーン・レーベルを離れ、複数のレーベルを渡り歩く、タイナー・ミュージックの「成熟と過渡期」の時代。そんな1980年代のタイナーにも魅力満載。

McCoy Tyner『13th House』(写真)。1980年10月の録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p, arr), Oscar Brashear (tp), Kamau Muata Adilifu (flh), Slide Hampton (tb, arr), Gregory Williams (french horn), Bob Stewart –(tuba), Hubert Laws (piccolo, fl), Joe Ford (as, ss, fl), Ricky Ford (ts, ss), Frank Foster (ts, ss, cl, arr), Ron Carter (b), Jack DeJohnette (ds), Airto Moreira, Dom Um Romao (perc), Jimmy Heath (arr)。

タイナーのマイルストーン・レーベルの最終作。1972年のタイナー流モード・ジャズの名盤『Sahara』から始まり、毎年1〜2作のペースでリーダー作を発表、この『13th House』で、タイナーの「黄金期」であるマイルストーン時代は一旦の終結を迎える。マイルストーン時代は、タイナーがタイナー流のモード・ジャズを確立し、コルトレーンの「アフリカン・ネイティヴな音志向」を前提としたモーダルなジャズオケ演奏を継承した時代である。

当盤『13th House』は、大編成ジャズ・オーケストラにおけるタイナー・ミュージックの完成形。タイナーの大編成ジャズ・オーケストラなリーダー作は、以前に『Song Of the New World』(1973年)、『Fly With The Wind』(1976年)の2枚がある。いずれも、ジャズ・オーケストラにおけるタイナー・ミュージックの名盤であるが、内容の充実度からすると、今回の『13th House』が頭1つ抜きんでている。
 

Mccoy-tyner13th-house

 
今回はアレンジがとても優れている。資料を紐解くと、スライド・ハンプトン(3曲目「Search For Peace」)、ジミー・ヒース(2曲目「13th House」)、フランク・フォスター(5曲目「.Leo Rising」)の3人が1曲づつ担当、残りの1曲目「Short Suite」と4曲目「Love Samba」の2曲を、リーダーのマッコイ・タイナーが担当。

タイナーのアレンジも良いが、他の3人の「タイナーのアフリカン・ネイティヴな音志向」を前提としたモーダルなジャズオケ演奏を想定したアレンジが、それぞれ個性があって、全く飽きの来ない展開になっているところが良い。

そして、ジャズオケの肝になるリズム・セクションについては、リーダーのタイナーがピアノ、そして、ベースにロン、ドラムがデジョネットと、振り返れば、ビックリする様なレジェンド級のメンバーによる、重厚で柔軟度の高いリズム・セクションで、ジャズ・オケのフロント楽器に全く負けない、逆に、フロント楽器全体を鼓舞しコントロールするリズム・セクションで、このリズム・セクションの存在がとても効いている。

この『13th House』は、タイナーの「アフリカン・ネイティヴな音志向」を前提としたモーダルなジャズオケ演奏のアルバムの中で一番、内容の充実度が高い。タイナーのピアノの充実度も最高レベルに近い。

我が国のジャズ盤紹介本や雑誌の名盤紹介には、タイナーの「アフリカン・ネイティヴな音志向」を前提としたモーダルなジャズオケ演奏のアルバムについては、何故か『Fly With The Wind』ばかりが、ほんの時々『Song Of the New World』が紹介されるが、このこの『13th House』の紹介記事については、ほとんど見たことが無い。タイトルが良く無いのか、ジャケが良く無いのか、それでも内容は、前の2枚『Fly With The Wind』と『Song Of the New World』を凌駕する優れもの。

紹介記事が僅少なのに怯まず、一度は聴いて欲しい優秀作。特に、マッコイ・タイナーのファンには絶対お勧めです。
 
 

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2023年9月15日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・266

キャノンボール・アダレイは、ファンキーで明るいアルト・サックスが身上。しかし、デビューから暫くは、エマーシー・レーベルの下、明るい明確なアルト・サックスをメインに、ストリングスやジャズオケをバックにした、大衆受け狙いの「イージーリスニング・ジャズ」志向のリーダー作を連発。

リヴァーサイド・レーベルに移籍して、ハードバップなジャズにやっと立ち戻ったが、ファンキー・ジャズには未だ至らす。しかし、1959年の『The Cannonball Adderley Quintet in San Francisco』で一気にファンキー・ジャズ志向に大転換。以降、暫く、キャノンボール・アダレイは、ファンキー・ジャズ一直線で、売れっ子人気ジャズマンの仲間入り。

Cannonball Adderley『Them Dirty Blues』(写真左)。1960年2月1日はNY、1960年3月29日はシカゴでの録音。ちなみにパーソネルは、Cannonball Adderley (as), Nat Adderley (cornet), Bobby Timmons (p, tracks 5–9) , Barry Harris (p, tracks 1–4), Sam Jones (b), Louis Hayes (ds)。

ピアノをバップなピアニストであるバリー・ハリスとファンキーなピアニストであるボビー・ティモンスとで使い分けているが、編成の基本はアダレイ兄弟がフロント2管のクインテット編成。こってこてバップなピアニストのハリスが、とってもファンキーなピアノを弾いている。こってこてファンキーなティモンズのピアノよりファンキーなのでは、と思う位、ファンキーなハリスのピアノが効いている。
 

Cannonball-adderleythem-dirty-blues  

 
ナット・アダレイのファンキー・チューンの名曲、冒頭の「Work Song」が突出して良い出来。コール・アンド・レスポンスでゴスペルチックなテーマ、展開部は徹底的にファンキーなフレーズで埋め尽くす。根明でストレートなキャノンボールのアルト・サックスと、根明でブリリアントなナットのトランペットが映えに映える。

ちなみに、CDリイシュー盤では、バリー・ハリスがピアノを弾いているテイクと、ボビー・ティモンズがピアノを弾いているテイクとを聴き比べることが出来る。聴き比べると判るのは、LP時代、正式に採用されたのは、バリー・ハリスがピアノを弾いたテイク。ハリスがこってこてファンキーに切れ味良く、ファンキーなバップ・ピアノよろしく、フロントのアダレイ兄弟をバッキングしている。うん、やはり、これはハリスのテイクの方が良い。

2曲目以降もファンキー・ジャズ志向の演奏がてんこ盛り。ハリスのファンキー・ピアノが目立っているが、ティモンズのソウルフルなファンキー・ピアノが良い味を出している。

この『Them Dirty Blues』、スタジオ録音での、アダレイ兄弟のファンキー・ジャズ志向を決定付けたエポック・メイキングな盤という位置づけで、ファンキー・ジャズの名盤の1枚として良いのではないか。アルバムのどの曲を聴いても「ファンキー・ジャズ」。アダレイ兄弟の「ファンキー・ジャズ事始め」を、『The Cannonball Adderley Quintet in San Francisco』と併せて聴いて確かめたい。
 
 

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2023年9月14日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・265

この盤はジャズ者初心者の頃、バイト代を叩いて買った思い出の「名盤」。

当時、ブルーノートのLPは値が張った。他のレーベルでは「廉価盤」と銘打って、LPの通常の値段の千円ほど安い、手に入れやすい価格の盤があったのだが、ブルーノートにはそれが無い。

学生時代のバイト代では、ブルーノートのLPは1ヶ月に1枚がせいぜい。他のLPも買いたいので、これは「廉価盤」で数枚買う、という感じで、ブルーノートのLPは、ジャズ者初心者の僕にとっては、特別な存在だった。

Kenny Burrell『Midnight Blue』(写真左)。1963年1月8日の録音。ブルーノートの4123番。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Stanley Turrentine (ts), Major Holley (b), Bill English (ds), Ray Barretto (conga)。

リーダーのバレルのギターとタレンタインのテナーがフロント2管の、コンガ入り、キーボードレスのクインテット編成。バレルのギターとタレンタインのテナーの相性が抜群で、2つの楽器の相乗効果で、漆黒ファンクネスがだだ漏れ。
 

Kenny-burrellmidnight-blue

 
ブルージーでアダルト・オリエンテッドなファンキー・ジャズ。バレルの漆黒ギターとタレンタインの漆黒テナーが、アーバンな夜の雰囲気を醸し出す。コンガが良いアクセントとなった小粋な曲もあって、アルバム全体を通して、大人のファンキー・ジャズをとことん楽しむ事が出来る名盤。

とにかく、バレルのギターが良い。ブルージーでファンクネス濃厚。そして、どこか洗練された都会的な雰囲気が底に流れている。タイトルの「Midnight」が言い得て妙。都会の深夜のブルージーで漆黒な雰囲気がアルバム全体を覆っているのだ。

この盤は理屈で、蘊蓄で聴く名盤では無い。この盤は雰囲気で、直感で聴くべき名盤である。

特に、CDリイシュー時のボートラ含め、1963年1月8日のセッションの全てを欲しい。セッション全曲、捨て曲無し。充実仕切ったバレル・クインテットのセッションの全てを味わい尽くして欲しい。

この盤は、ジャズ者初心者、ジャズを聴き始めて2年位で手に入れた盤だが、まず、このジャケットに惚れた。そして、LPに針を落として、冒頭の名演「Chitlins con Carne」でドップリ感じ入り、そのまま、一気に聴き切った後、直ぐにA面の戻して、繰り返し聴き直した思い出のある名盤。

ジャズ者初心者でもこの盤の良さが直ぐに判る、ジャズ者初心者にとても優しいジャズ名盤である。
 
 

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2023年9月13日 (水曜日)

機を見るに敏なバードの器用さ

ドナルド・バードというトランペッターは「機を見るに敏」なトランペッターだった。ジャズのその時代毎の流行、トレンド、志向を機敏に読み取り、リーダー作に反映した。もともと器用なトランペッターが故、採用した流行、トレンド、志向を深く掘り下げて極めるほど、深く追求せず、次から次へ、流行、トレンド、志向を乗り換えていったので、意外と決定打にかけるところが玉に瑕である。

ドナルド・バードのトランペットは素姓が非常に良い。テクニックも上々、拠れたり外したりすることが全く無い。音も大きく伸びが良く、ブリリアントに響く音色は、とにかくとても素姓が良い。どの流行、トレンド、志向の下でも、ドナルド・バードのトランペットは映える。とても、モダン・ジャズらしいトランペットである。

Donald Byrd『Free Form』(写真左)。1961年12月11日の録音。ブルーノートの4118番ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Butch Warren (b), Billy Higgins (ds)。リーダーのドナルド・バードのトランペットとショーターのテナーの2管フロント。バックのリズム隊は、ハンコック率いる新主流派志向のリズム隊。

前リーダー作『Royal Flush』で、それまで進めていた理知的なファンキー・ジャズのファンキー度を更に上げ、「ファンク度が増した理知的なモード・ジャズ」な演奏志向にチャレンジした。そして、当盤である。
 

Donald-byrdfree-form

 
パーソネルを見渡して、「これは本格的な、新主流派のモード・ジャズを本格追求やな」と思って聴き始めると、冒頭の「Pentecostal Feelin」のジャズロックに思わず仰け反る。しかも、こってこてのジャズロックをショーターが吹いている。あらら、と思う(笑)。

しかし、2曲目のハンコックが書いたバラード「Night Flower」では、ハードバップ時代に戻った様な、リリシズム溢れるブリリアントなバードのトランペットが鳴り響く。あれれ、モードは何処へ行ったと思ったら、3曲目からこってこての「新主流派志向のモード・ジャズ」が展開される。

しかし、バードのモード・ジャズって、ショーターとハンコックに任せっぱなし、な印象。ハンコックとショーターが喜々としてモダールなフレーズを連発する中、バードが器用さにまかせて、癖の無い平易なモーダル・フレーズで、ショーターやハンコックに追従する、って感じの展開で終始している。

内容的には「機を見るに敏」なトランペッターの面目躍如的内容だが、ドナルド・バード流のモード・ジャズ、という切り口が希薄なのが残念。器用に新主流派なモード・ジャズを展開するのは「機敏」だが、借りてきた様な内容に終始するのはどうだろう。

モード・ジャズの好例として、この『Free Form』が話題に上ったことが無いのは、そういうことなんだろう。演奏内容は結構良いのに、「機を見るに敏」なバードの器用さだけが印象に残る残念な盤である。
 
 

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2023年9月12日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・99

ジュニア・マンスのピアノはファンキーでソウルフル、端正で明確なタッチが身上。ドライブ感溢れるグルーヴィーな、爽快感溢れる弾きっぷりは爽快感抜群。ビ・バップなピアノを洗練して、ハードバップに乗せたイメージで、高速弾きの曲についても、フレーズが洗練されているので、耳に付かないのが特徴。

Junior Mance『Happy Time』(写真左)。1962年6月20日の録音。ちなみにパーソネルは、Junior Mance (p), Ron Carter (b), Mickey Roker (ds)。リヴァーサイドの傍系レーベル「Jazzland」からのリリース。ベースにレジェンド、ロン・カーター、ドラムにモーダルなドラマー、ミッキー・ローカー。

伸びるトーンと強靱なビート。当時、最先端をいくモーダルなリズム隊をバックにマンスが弾きまくる。といっても、マンスがモーダルなピアノを弾く訳では無い。バックのリズム隊のロンもローカーも、リズム&ビートの基本はハードバップ。逆に、1963年の録音年で、ロンとローカーがハードバップ志向のリズム&ビートを供給している様は珍しいと言えば珍しい。
 

Junior-mancehappy-time

 
端正で明確なタッチ、ドライブ感溢れる、グルーヴィーで爽快感溢れる弾きっぷりのマンスのピアノを引き立てる様な、伸びるトーンと強靱なビートを供給するこのリズム隊は素晴らしい。こんな素晴らしいリズム隊に恵まれて、マンスは当時としての「ベスト・パフォーマンス」を繰り広げる。

収録されたどの演奏も、マンスのパフォーマンスの良いところが前面に押し出されていて良い出来。乾いたブルース・フィーリングを湛えた、遅れてきたハードバップ・ピアノ・トリオの名盤といった面持ちで、聴いていてとても心地良く、マンスらしい愛嬌や軽妙さが見え隠れして、聴いていてとても楽しい。

マンスの代表的名盤の1枚として良い、優れた内容。ジャケットもシンプルで良好。それでも、マンスの人気については、我が国ではイマイチなのが残念。何がいけないのか、良く判らないが、少なくとも、初リーダー作『Junior』がマンスの最高作と評価している間はどうしようも無いかな。僕は思う。この『Happy Time』の内容は明らかに『Junior』の上を行く。
 
 

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2023年9月11日 (月曜日)

ジャズロック志向にロックオン

ハードバップ時代に、彗星の如く現れたトランペットの若き天才、リー・モーガン。1956年、初リーダー作『Indeed!』でデビューしたのが、なんと弱冠18歳。そしてこの初リーダー作が素晴らしい出来。以来、人気トランペッターとして第一線を走ってきたモーガン。1960年代の「ジャズの多様化」の時代は、22歳〜31歳の若手だが、彼のプレイは既に成熟し完成されていた。

Lee Morgan『The Rumproller』(写真左)。1965年4月の録音。ブルーノートの4199番。ちなみにパーソネルは、Lee Morgan (tp), Joe Henderson (ts), Ronnie Mathews (p), Victor Sproles (b), Billy Higgins (ds)。リーダーのモーガンのトランペットとジョーヘンのウネウネ捻れモードのテナー・サックスがフロント2管のクインテット編成。

編成はオーソドックス。奇をてらったところが無いのはモーガンのリーダー作の良いところ。録音年は1965年。ジャズは多様化の時代のピーク。前作『Search for the New Land』で、モーガン流のモード・ジャズを確立した訳だが、今回の『The Rumproller』は、前々作『The Sidewinder』の内容に戻している。
 

Lee-morganthe-rumproller

 
冒頭のタイトル曲「The Rumproller」は、怒濤のジャズ・ロック。大ヒット曲「The Sidewinder」に比肩するファンキーでロックな出来。以降、モード有り、ラテン〜ボッサ有り、リリカルなミュートによるバラード有り、とバラエティーに富んだ内容に仕上がっている。この辺も大ヒット盤『The Sidewinder』を踏襲している。

この頃のモーガンは「ジャズ多様化の時代」の中で、どの方向に自らの音志向を持っていこうと、いろいろ迷っていた時代だったのではなかろうか。そして、この『The Rumproller』で、ジャズ・ロックをベースに定め、ジャズ・ロック志向の演奏の中で、モーダルなアドリブや、こってこてハードバップなフレーズなど、ジャズ・トランペットの演奏トレンドや演奏志向を展開する、そういう方向に舵を定めたのでは、と感じている。

話題としては「Desert Moonlight」、我々日本人にとってはお馴染みの童謡「月の沙漠」のジャズ化が2曲目にある。なかなかのアレンジで、日本の童謡を上手くジャズ化している。こういう器用さもモーガンの良き個性。次作『The Gigolo』以降、ジャズロックをベースとした演奏志向を追求〜深化していく。モーガンの鯔背なトランペットが映えに映える。
 
 

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2023年9月10日 (日曜日)

コルトレーンとドルフィーと....

ジョン・コルトレーンとエリック・ドルフィー。この2人、どうにも「曰く言い難し」の間柄だと感じているのだが、このコルトレーンとドルフィーの共演ライヴというのは、今では「伝説」になっている。

かの有名な、1961年11月のヴィレッジ・ヴァンガードでの共演時のライブ録音が中心になるのだが、共演時のリアルタイムでリリースされた、コルトレーン名義のドルフィーとの共演ライヴの音源は、全てが「コルトレーンはまずまず、ドルフィーは目立たない」ものばかりだった。

21世紀直前まで「やっぱりコルトレーンは凄い、ドルフィーはコルトレーンの前で萎縮して、それほどでも無い」というのが定説だったのだが、1997年、コルトレーン没後30年を記念してリリースされた『The Complete 1961 Village Vanguard Recordings』で、1961年11月のヴィレッジ・ヴァンガードでの共演の全貌が明らかになる。

実は、共演のエリック・ドルフィーが素晴らしい出来で、コルトレーンはドルフィーに当てられてかどうかは判らないが、あまり良いパフォーマンスを残していない、ということが判っている。

が、コルトレーン信奉者は我が国にも沢山いて、そんなコルトレーン信奉者を中心に「1961年11月のヴィレッジ・ヴァンガードでの不調はたまたまで、それを記録されたコルトレーンはついてなかった、なんていう見方もあるのだから、コルトレーンの人気って凄いものがある。

『Evenings At The Village Gate: John Coltrane with Eric Dolphy』(写真左)。1961年8月、NYのライヴハウス、ヴィレッジゲイトでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、John Coltrane (ss,ts), Eric Dolphy (b-cl, as, fl), McCoy Tyner (p), Reggie Workman (b), Art Davis (b), Elvin Jones (ds)。コルトレーンのテナーorソプラノ、ドルフィーのバスクラ orアルト or フルートがフロント2管、タイナーのピアノ、エルヴィンのドラム、そして、ワークマンとデイヴィスのダブル・ベースの変則セクステット編成。

1961年11月のヴィレッジ・ヴァンガードでの共演時のライヴ録音が、コルトレーンとドルフィーの共演の「伝説」だった訳だが、今回の未発表ライヴ音源の登場で、伝説のヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音より3ヶ月前、1961年8月のヴレッジゲイトでの共演時のライヴ音源がその「伝説」に加わった。
 

Evenings-at-the-village-gate-john-coltra

 
資料によると「このライヴ音源は、1961年当時、新しい音響システムのテストの一環としてエンジニアのリッチ・アルダーソンによって録音。その後、テープが行方不明になっていたが、近年、ニューヨーク公共図書館にて発見されたもの」とのこと。いや〜、こういう音源がまだまだ残ってるんですね。しかも、内容が抜群の良いし、音も問題無いレベル。素晴らしい発掘ライヴ音源です。

収録曲は「My Favorite Things」「When Lights Are Low」「Impressions」「Greensleeves」「Africa」の5曲。全編1時間20分の圧倒的名演の数々。全ての曲において、コルトレーンは豪快に吹きまくっている。しかし、ドルフィーはそんなコルトレーンを置き去りにして、別次元での即興演奏を展開する。

コルトレーンは明らかに、11月のヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴより吹けていて、コルトレーンもドルフィーも、モーダルな即興演奏の究極を追求しているが、ドルフィーだけが、その特異性、特殊性において、突出している。コルトレーンは、ドルフィーの前では「トラディショナル」。従来のモーダルな演奏の枠の中で即興性を追求している様に感じる。

バックのリズム隊、タイナーのピアノは「いつも通り」の安定度の高い平常運転。エルヴィンはコルトレーンにもドルフィーにも平等に強烈なビートであおり立てる。そして、ワークマンとディヴィスのダブル・ベースは超弩級の重低音ベースで、激烈なフロント2管のインプロの「底」を支える。

このヴィレッジゲイトの発掘ライヴ音源の登場で、ドルフィーのパフォーマンスが「異次元」の輝きを見せていたことを再認識した。コルトレーン名義のドルフィーとの共演盤を聴くと「コルトレーンの前ではドルフィーのパフォーマンスはイマイチやな」と思ってきたが、『The Complete 1961 Village Vanguard Recordings』と『Evenings At The Village Gate: John Coltrane with Eric Dolphy』を聴き通して、ドルフィーのパフォーマンスの方が圧倒的で創造性に優れていることが良く判った。

コルトレーンとドルフィー。コルトレーンが劣っているのではない。コルトレーンはコルトレーンで素晴らしい、他のサックス奏者を寄せ付けない即興性と創造性に溢れていると思う。しかし、ドルフィーは全く別の次元にいる。従来のジャズの即興性、創造性を凌駕して、ドルフィー独自の唯一無二の即興性&創造性を獲得している。全く以て、ドルフィーの早逝が惜しまれる。

しかし、この2つの未発表ライヴ音源『The Complete 1961 Village Vanguard Recordings』と『Evenings At The Village Gate: John Coltrane with Eric Dolphy』が発掘リリースされて良かった。ドルフィーの「真の姿」が確認出来て良かった。
 
 

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2023年9月 9日 (土曜日)

ジョンスコのエレ・ジャズの発展

心地良く捻れた、プログレッシヴなジャズ・ギタリスト、ジョン・スコフィールド(以降、ジョンスコと略)。1982年にマイルス・デイヴィスのバンドに参加。3年の在籍の間に『Star People』『Decoy』『You're Under Arrest』という、1980年代マイルスの傑作盤のパーソネルに名を連ねた。

このマイルス・バンドへの参加が切っ掛けで、ジョンスコのエレ・ジャズは「ファンク色」が強くなった。軽めの切れ味の良いファンクネス。エレギのエフェクトのかけ方も工夫が凝らされていて、この「ファンク色」を効果的に醸し出すエフェクトが大活躍。このエフェクトと従来からの「心地良く捻れたエレギ」のフレーズとが相まって、ジョンスコならでは、のファンク色が成立している。

John Scofield『Blue Matter』(写真左)。1986年9月の録音。ちなみにパーソネルは、John Scofield (el-g), Mitchel Forman (key), Hiram Bullock (el-g), Gary Grainger (b), Dennis Chambers (ds), Don Alias (perc)。

マイルス・バンドの経験から、ジャズ・ファンクの肝は「ドラムとベースにある」と確信したのか、この盤では、当時、若手ドラマーの最精鋭、デニス・チェンバース(略してデニチェン)を、チョッパー・ベースの雄、ベースのゲイリー・グレンジャーを招聘している。
 

John-scofieldblue-matter

 
まず、このデニチェンの「ファンク」なドラミングがバッシバッシ効いている。ジョンスコの心地良く捻れた、プログレッシヴなエレギとタイマンが張れるほど、デニチェンのオフビートの重量級ドラミングが効きに効いて、この『Blue Matter』は、ジョンスコのエレ・ジャズの中でも、一番「ファンク色」が濃厚なアルバムに仕上がっている。

加えて、ゲイリー・グレンジャーのチョッパー・ベースが大暴れする曲では、デニチェンのドラムで色濃くなった「ファンク色」が、さらに濃厚に、1980年代当時の「デジタルチックなエレ・ファンク」の音志向が強烈に響いてくる。

このデニチェンのドラムとグレンジャーのエレベが、この盤での「ジョンスコのエレ・ジャズ」の音世界を創出している。が、このリズム隊が余りに強烈過ぎて、ジョンスコのエレ・ジャズの肝である「ファンク色」が、どこかよそ行き、他人行儀に聴こえてしまうのが、この盤の「玉に瑕」なところ。

この『Blue Matter』、ジョンスコのエレ・ジャズの中でも、一番「ファンク色」が濃厚なアルバムに仕上がっているが、ジョンスコのエレ・ジャズの最終形では無い。発展途上、最高に「ファンク色」が濃くなったところで、ジョンスコは、ジョンスコ志向のエレジャズを確立すべく、調整に入る。その成果は次作『Loud Jazz』にある、と僕は睨んでいる。
 
 

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2023年9月 6日 (水曜日)

ジョンスコのエレ・ジャズの基礎

心地良く捻れた、プログレッシヴなジャズ・ギタリスト、ジョン・スコフィールド(以降、ジョンスコと略)。そんなジョンスコの1980年代のリーダー作の落ち穂拾い。当ブログで、まだ記事化されていないリーダー作を順に聴き直している。すると、1980年代って、ジョンスコにとって、エポックメイキングな年代だったことが良く判る。

1980年代は、1982年にマイルス・デイヴィスのバンドに参加。3年の在籍の間に『Star People』『Decoy』『You're Under Arrest』という、1980年代マイルスの傑作盤のパーソネルに名を連ねた。この途方も無い「マイルス体験」が、ジョンスコの個性に、更なる魅力的な個性を積み重ねることになる。

John Scofield『Electric Outlet』(写真左)。1984年4〜5月の録音。ちなみにパーソネルは、John Scofield (el-g, b), Ray Anderson (tb), David Sanborn (sax), Pete Levin (key), Steve Jordan (ds)。エレ・ジャズにトロンボーンの参加がユニークな、クインテット(5人)編成。良く見ると、ジョンスコがベースを兼任、ジョンスコ自身による「打ち込み」である。

聴けば直ぐに判るが、マイルスのエレ・バンドに参加した影響がモロに出ているのが微笑ましい。心地良く捻れた、プログレッシヴなエレギのジョンスコ、1980年代はどの方向に、自らの音の志向を持って行くのか、興味津々だったが、ちょうど良いタイミングで、マイルス・バンドに参加したようで、マイルスからの影響がとても良い方向に反映されている。
 

John-scofieldelectric-outlet

 
まずは「ファンク色」が強くなった。軽めの切れ味の良いファンクネス。エレギのエフェクトのかけ方も工夫が凝らされていて、この「ファンク色」を効果的に醸し出すエフェクトが大活躍。このエフェクトと従来からの「心地良く捻れたエレギ」のフレーズとが相まって、ジョンスコならでは、のファンク色が成立している。

続いて「強力なグルーヴ感」の醸成。ベースがジョンスコの打ち込みにも関わらず、コンピューター&デジタル臭が希薄で、強烈なグルーヴ感が生み出されているのにはビックリ。エレ・マイルスの強烈なグルーヴ感の応用とでも表現出来る、マイルスほど重力級では無いが、ソリッドでうねるようなグルーヴ感を生み出すことに成功している。

そして、マイルスの曲の作り方&組立て方の応用がみられること。絶対的にジャズをベースにしつつ、ブルースあり、ロックあり、クロスオーバーあり、ソウルあり、バラードあり、シャッフルありの、他のジャンルの音楽志向を取り込み、ジャズ化するという、ジャズの得意とする「融合音楽」をエレ・ジャズの中で実現する。これはマイルスの薫陶の中で育まれたものだろう。

このリーダー作で、ジョンスコは、ジョンスコ独自のエレ・ジャズの基礎を確立している様に感じる。エレ・マイルスのサウンド志向は、ジョンスコの「心地良く捻れたプログレッシヴなジャズ・エレギ」という個性を、更に魅力的に発展させる作用があった。そして、ジョンスコはそのエレ・マイルスのサウンド志向をジョンスコ仕様としてコンパイルし、その最初の成果がこの『Electric Outlet』。ジョンスコの捻れギターが心地良く聴ける、ジョンスコの80年代の傑作の1枚。
 
 

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2023年9月 5日 (火曜日)

浅利史花の初リーダー作です

我が国のジャズ・シーンについては、まだまだ有望な若手ミュージシャンがデビューしてくるので、毎月の新盤のチェックは欠かせない。

今年の4月26日に、浅利史花のセカンド盤『Thanks For Emily』(左をクリック)について語った訳だが、それでは彼女のデビュー盤はどうなんだろう、とアルバムを遡ってみた。

Fumika Asari(浅利史花)『Introducin'』(写真左)。2020年の作品。ちなみにパーソネルは、オール・ジャパンなメンバーで、浅利史花 (g), 中牟礼貞則 (g), 江澤茜 (as), 駒野逸美 (tb), 北島佳乃子, 石田衛 (p), 小杉敏, 三嶋大輝 (b), 木村紘, 柳沼佑育 (ds)。

ベースとドラムは2人ずつ、曲毎に使い分けているが、演奏の基本は、浅利のギターがフロントに、バックにベースとドラムが付くトリオ編成。曲によりピアノが客演(4曲かな)。アルト・サックス、トロンボーンは2曲のみの客演。中牟礼貞則のギターは、3曲目「Black Orpheus」のみの客演。客演の楽器も浅利のギターより目立つことは無く、しっかりとサポートに回っている。

セカンド盤を聴いて感心下「スインギーでジャジー、テクニックも優秀な、正統派ジャズ・ギター」は、このデビュー盤でもしっかり個性を発揮している。テクニックも優秀だが、そのインプロビゼーションは堅実そのもの。速弾きやオクターブ奏法など、決して無理はしない。
 

Fumika-asariintroducin

 
伝統的なジャズ・ギターを着実に堅実に弾き回しているところは実に初々しい。しかも、歌心も備えているのだから隅に置けない。この浅利の個性と弾きっぷりは、デビュー盤として大いに評価して良いだろう。

初々しいからといって、稚拙なところは微塵も無い。堅実に弾き回している故、破綻は無い。安全運転と言えば安全運転で、スリリングな面に欠ける、といった辛口の評価もあろうかと思うが、僕は、この堅実な安全運転な弾き回しは好ましいと感じている。何故なら、堅実でミッドテンポがメインなのだが、特にアドリブ部で露わになるスイング感が、堅実で安全な弾き回しが故に、しっかりと前面に出ている。これはプロデュースの賜物だろう。

加えて、ギターの音が抜群に良い。ギター自体が、恐らく、相当質の良いヴィンテージものだと思われる。そして、録音が良い。浅利の弾きっぷりによるギターの響きや胴鳴りがダイレクトにスピーカーを通じて伝わってきて、聴いていてとても心地良い。アコギ、セミアコギの音はこうでなくては。浅利の弾きっぷりも良いが、このギターの音の良さが、浅利の個性を更に引き立てている。

良きアレンジ、良きプロデュースに恵まれた、浅利のファースト・リーダー作。浅利史花は1993年生まれ。今年で30歳。ジャズ界ではまだまだ「若手」。意外と、これだけ、オールドスタイルのヴィンテージ・ジャズギターはなかなかいない。デビューは堅実、安全運転で良し。焦らず、しっかり個性とテクニックを着実に進化していって欲しい。
 
 

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2023年9月 4日 (月曜日)

ショーターのエレ・ジャズの完成

『Phantom Navigator』(1987年)は、バックの演奏はフレーズはプログラミング、リズム&ビートは打ち込み中心。今の耳で聴いても、ショーター、これはやり過ぎやろ、と思う。ショーターのサックスを愛でるには最適の録音だったが、ジャズのパフォーマンスとして聴いた時、疑問符が付いたのは否めない。

Wayne Shorter『Joy Ryder』。1988年のリリース。ちなみにパーソネルは、Wayne Shorter (sax), Patrice Rushen (key), Herbie Hancock(syn), Geri Allen (p, synth), Nathan East (b), Darryl Jones (b), Terri Lyne Carrington (ds), Frank Colon (perc), Dianne Reeves (vo)。

基本はショーターのサックスのワンホーン・フロント、キーボード+ベース+ドラムのカルテット編成。パーカッションとボーカルが追加で参加して、サウンドに彩りを添えている。

さすが、ショーター、『Phantom Navigator』はやり過ぎた、と思ったのだろうか。楽曲、演奏の雰囲気は前作『Phantom Navigator』、前々作『Atlantis』と変わらないが、パーソネルを見渡すと、バックのメンバーのネーム・バリューが違う。当時のエレ・ジャズ、コンテンポラリーな純ジャズの有望新人から第一線で活躍する強者がズラリ。それも、さすがはショーター、一捻りも二捻りもした人選には感心する。

サウンド志向の基本はウェザー・リポート(WR)。それも、後期WRから「ザヴィヌルのサウンド志向」を抜いて、当時のジャズ最先端、マイルスなどが追求していた、コンテンポラリーでメインストリームなエレ・ジャズのサウンド志向を反映している。そこに、ブラジリアン、プログレ、コズミック、そして黒魔術。そんなショーターの嗜好が理路整然と反映されているとところは、前作、前々作と変わらない。
 

Wayne-shorterjoy-ryder

 
しかし、同サウンド志向の前作、前々作はバックの演奏はあくまで「ショーター好みのサウンドの雰囲気作り」な役割に止めて、ショーターのサックスだけが前面にでれば良かったのだが、この盤では、バックの演奏はバックの演奏として、その個性、特徴をしっかり発揮して、ショーターのサックスに相対している。つまり、グループの演奏全体のパフォーマンスで、ショーター・ミュージックが楽しめる内容に変化している。

ショーターのサックスの素晴らしさは変わらない。が、この盤ではバックの演奏の質とレベルが格段にアップしている。ショーター好みの響き、ニュアンスをメンバーそれぞれが理解して、それをメンバーそれぞれの個性の下で音にする。つまり「人」がバック演奏を務めて、その上にショーターのサックスが吹き上げられていく。

血の通ったエレ・ジャズとでも形容しようか。冒頭「Joy Ryder」から、ラストの「Someplace Called "Where"」まで、ショーターの個性が散りばめられた、上質のコンテンポラリーでメインストリームなエレ・ジャズが展開されている。

WRにおけるキーボード=ザヴィヌルの役割は、ラッシェンとアレン、そしてハンコックが分担して担当。WR時代に人選に苦労し続けたリズム隊、ドラムには、当時、有望若手の女性ドラマー頭角を現したテリ・リン・キャリントン、ベースは、後にストーンズのサポート・メンバーで名をあげるダリル・ジョーンズと、エレ・ジャズ・ベースの名手の1人、ネイザン・イーストが担当して、充実のパフォーマンスを繰り広げる。

『Atlantis』『Phantom Navigator』と続いた、ショーターなりの後期WRサウンド、いわゆるコンテンポラリーなエレ・ジャズの追求は、この『Joy Ryder』でピリオドを打つ。それほどまでに、バックの演奏を含め、当時として、最先端のコンテンポラリーなエレ・ジャズの記録がこの『Joy Ryder』に満載。逆に、この盤以上の内容を追求する必要がないくらいに、この盤の内容は充実している。

ショーターは、この『Joy Ryder』をリリース後、リーダー作については、1995年の『High Life』まで約7年間、沈黙する。
 
 

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2023年9月 3日 (日曜日)

ショーターの異質なエレ・ジャズ

ウェザー・リポート(WR)を解散させ、ソロ・デビューしたウェイン・ショーター。ソロ・デビュー盤『Atrantis』では、サウンド志向のベースはWR、具体的に表現すると、後期WRから「ザヴィヌル志向」を消して、当時のジャズ最先端、マイルスなどが追求していた、コンテンポラリーでメインストリームなエレ・ジャズの音志向を反映した。

この盤はさすがショーターといった盤で、コンテンポラリーでメインストリームなエレ・ジャズをバックに、ショーター独自のモーダルなフレーズ、展開を散りばめ、ショーターのサウンド嗜好が理路整然と反映した、全面的にショーターの作曲と、ショーターのサックスの音を聴くアルバムに仕上がった。

Wayne Shorter『Phantom Navigator』(写真左)。1987年の作品。パーソネルは曲毎にメンバーを選定しているので、ここでは割愛する。楽器を見渡すと、キーボード系はシンセサイザーを大々的に導入し、プログラミングを積極活用。リズム&ビートもほぼ全面打ち込み。そんなデジタルな演奏をバックに、ショーターがサックスを吹きまくっている。
 
まるで、ザヴィヌル主導のWRのサウンドを、全てシンセサイザーやコンピューターに置き換えて、WRでやるなら、これくらいのレベルのことをやらないと、とでも言いたげなショーターのデジタルチックなアプローチ。この盤も、つまるところ、全面的にショーターの作曲と、ショーターのサックスの音を聴くアルバムなのだ。
 

Wayne-shorterphantom-navigator  
 
コンピューターのビートを積極導入し、曲によって多重録音による一人サックス・アンサンブルを披露。加えてヴォーカルも披露するという、大はしゃぎのショーター。WR時代、ザヴィヌルにサウンド志向において主導権を握られたストレスを、この盤で一気に解消しているような、そんなデジタルチックな内容。

ショーターのサックスが素晴らしいので、この盤はしっかり聴き通すことが出来る。が、バックの演奏はあくまで打ち込みであり、キーボードなどのアドリブも譜面にきめ細やかに書かれたものを、プログラミングにて打ち込まれた人工的なもの。バックがデジタルチックな分、ショーターのサックスのアナログな魅力が引き立つので、それはそれで効果的かな、とも思うが.....。

2曲目「Mahogany Bird」だけが、アコースティックっぽさを前面に出した演奏になっている。ピアノはチック・コリア、ベースはジョン・パティトゥッチが特別参加。ビートは打ち込みだが、チックとパティトゥッチのお陰で、しっかり純ジャズな雰囲気をキープしているのはさすが。ショーターのスローで流麗なソプラノが一層映えているのも、チックとパティトゥッチのお陰。今の耳で聴くと、この曲の存在が凄く効いている。

時代の流行に合わせた、そんな時代の最先端のジャズの音だとは思うが、この音作りが根付くことはなかった。やはり、ジャズは「人」がメインで演奏されるべき音楽なんだろう。この『Phantom Navigator』を聴いていて、つくづくそう思う。
 
 

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2023年9月 2日 (土曜日)

ショーター独自のエレ・ジャズ

ウェザー・リポート(Weather Report・WRと略)が解散したのが1986年。実にあっけない幕切れだった。

『Weather Report(1981)』のリリース後、ベースのジャコ・パストリアス、ドラマーのピーター・アースキンが抜けて、新生WRは明らかにザヴィヌル志向の音作り。アルバムを重ねる毎に、この「ザヴィヌル志向」は強くなり、ラストの『This Is This!』では、双頭リーダーの相棒、ショーターは名前を連ねているだけになっていた。

このWRのラスト『This Is This!』の音作りを聞けば、ザヴィヌルのサウンド志向は良く判る。ファンク・グルーヴを湛えたワールド・ミュージック志向なジャズロック。エスニック、アフリカンな響きが特徴。ザヴィヌルはWR解散後、ウェザー・アップデート、ザヴィヌル・シンジケートと次々にバンドを結成し、後期WRの影を追い続けた。

Wayne Shorter『Atlantis』(写真左)。1985年の録音・リリース。ちなみにパーソネルは、Wayne Shorter (ss, ts), Joseph Vitarelli (key), Michael Hoenig (syn), Yaron Gershovsky, Michiko Hill (ac-p), Larry Klein (el-b), Ralph Humphrey (ds), Alex Acuña (ds, perc), Lenny Castro (perc), Jim Walker (fl)。

このアルバムには有名ジャズマンはいない。ショーターのソロアルバムには、必ずと言って良いほどその名を連ねていた、盟友のハンコックすら無関係である。これには驚いた。セッションへの参加ジャズマンは沢山いるが、演奏全体の印象は「ショーターのワン・ホーン・アルバム」。全面的にショーターの作曲と、ショーターのサックスの音を聴くアルバムである。
 

Wayne-shorteratlantis

 
それほど、この盤は「ショーターで一杯」。それまでのショーターの「ニュー・ジャズ」における個性である、ブラジリアン、プログレ、コズミック、そして黒魔術。そんなショーターの嗜好が理路整然と反映されたショーターのソロ・アルバムである。

WRの双頭リーダーの片割れ、ウェイン・ショーターはどんなサウンドを追求するのか。この答えがこのショーターのリーダー作にある。実はこのアルバム、WRのラストの『This Is This!』の前にリリースされている。WRもショーターも同じレコード会社Columbia。どうして、こういう順番のリリースになったのか、当時は戸惑ったものだ。

それもそのはず、この『Atlantis』の音志向の基本はWR。それも、後期WRから「ザヴィヌル志向」を消して、当時のジャズ最先端、マイルスなどが追求していた、コンテンポラリーでメインストリームなエレ・ジャズの音志向を反映している。その音志向の中で、ショーター独自のモーダルなフレーズ、展開が散りばめられていて、これが実は「真の後期WRの音」じゃなかったのか、と強く感じるくらい、インパクトある音世界だった。

ショーターは自伝に「海(航海)を大きなテーマに全体を統べたハンコックの『処女航海』のように、コンセプチュアルなアルバムでもある」とショーターは自伝に書いているが、全体を聴き通してみて、ふ〜んそうなんか、と思うくらい。それでも、それぞれの演奏が実に充実していて、何回聴いても、聴く度に新しい発見があって、なかなか「飽きない」。

ショーターのリーダー作の中でも、エレ・ジャズの歴史の中でも地味な存在なアルバムだが、どうして、これ「エレ・ジャズの名盤」の1枚かと。とにかく聴いていて楽しいし心地良い。良いエレ・ジャズです。
 
 

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2023年9月 1日 (金曜日)

硬派で純ジャズなマクブライド

クリスチャン・マクブライド(Christian McBride)。現代ジャズにおけるファースト・コール・ベーシスト。1972年5月31日生まれなので、今年で51歳。初リーダー作『Gettin' To It』が1995年1月のリリース。サイドマン参加では1990年の記録があるから、約30年以上に渡って、ジャズ・ベーシストの第一集団を走ってきたことになる。

マクブライドはベーシストでありながらリーダー作が多い。約20枚のリーダー作をリリースしていて、平均1.5年に1枚のペース。ベーシストでリーダー作を一番リリースしているのは、恐らく「ロン・カーター」だろうと思うが、カーターで平均1年に1枚のペースだったかと思う。つまりは、マクブライドはロン・カーターと同程度の「多作」ベーシストなのだ。

Christian McBride's New Jawn『Prime』(写真左)。2023年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Christian Mcbride (b), Josh Evans (tp), Marcus Strickland (ts, b-cl), Nasheet Waits (ds)。クリスチャン・マクブライド・ニュー・ジョーンの、2018年のデビュー盤(ブログ記事はここをクリック)に次ぐ、2ndアルバムになる。

マクブライドは、様々なジャズのスタイルに適応する。それだけ、アレンジとセルフ・プロデュースの才に長けている訳だが、今回のこのクリスチャン・マクブライド・ニュー・ジョーンの 2ndアルバムは、現代のガッチガチ硬派でストイックな純ジャズ。聴き応えバッチバチである。従来からの「ジャズ・スタンダード曲」と呼ばれるものを1曲たりとも選曲していないところが実に硬派やなあ、と思う。
 

Christian-mcbrides-new-jawnprime

 
いきなりフリー・ジャズ風な展開から入る。いきなりビックリである。これはフリー・ジャズか、と思ったら、いきなりR&Bのようなオープニングが鳴り響いて、これまたビックリ。それぞれの楽器が太く良く鳴っているので、耳に心地良く響く。そして、ストリックランドのバスクラがブリブリッ。それぞれの楽器がかなり伸び伸び吹き回している。ふと気がついた。そう、このバンド演奏、ピアノレス。

ピアノレスがゆえにベースとドラムが前面に出てくる。マクブライドの太いソリッドで伸びやかなベースが実に魅力的。聴いて何だかゾクゾクする様なベースの胴鳴り。自由度の高い、変幻自在のドラミングがそんなマクブライドのベースに絡んで、独特のグルーヴを醸し出す。そこに、ストリックランドのテナー&バスクラが切り込み、エヴァンスのトランペットが炸裂する。フレーズの展開はモーダル時々フリーが基本。

選曲がふるっている。ストリックランド作曲のタイトル曲「Prime」、マクブライドが書き下ろしたオリジナル2曲「Head Bedlam」「Lurkers」、ラリー・ヤングの「Obsequious」、オーネット・コールマンの「The Good Life」、そしてソニー・ロリンズの「East Broadway Run Down」。

特に、ヤング、コールマン、ロリンズの楽曲のアレンジが尖っている。現代のモード&フリーな演奏を展開する時、ヤング、コールマン、ロリンズの楽曲が「現代ジャズのスタンダード曲」なんだろう。実に硬派で尖っている。良い音で鳴っている。
 
 

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