北欧ジャズの「ジャズ・ロック」
欧州のジャズ・レーベルの老舗、ECMレーベル。アルバムのリーダーを張るミュージシャンは、米国ジャズとはかなり異なる。
大きく分けて、北欧、ドイツ、イタリア、東欧、最近ではイスラエル。レーベルの音のカラーとして、耽美的でリリカル、現代音楽的でスピリチュアルな「統一された音志向」があるので、米国ジャズを踏襲した音志向の欧州ミュージシャンが選ばれることは無い。
北欧ジャズは、明らかにECMレーベルの音志向にぴったり合致する音の個性を持っていて、ECMレーベルからかなりの数のリーダー作をリリースしている。スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドと偏り無く、リーダー人材を発掘し、ECMらしい音志向のリーダー作をリリースしている。
逆に、8ビートが主体のリズム&ビートの効いたクロスオーバー・ジャズやジャズ・ロックはほとんど無いのが、これまた、北欧ジャズの個性と言えば個性。
Arild Andersen『Clouds in My Head』(写真)。1975年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Arild Andersen (b), Knut Riisnæs (ts, ss, fl), Jon Balke (p), Pål Thowsen (ds)。リーダーは、ノルウェー出身のベーシスト、アリルド・アンデルセン。残りの3人も全員ノルウェー出身。オール・ノルウェーの1管フロントのカルテット編成。
僕は今まで、このアルバムを聴いたことが無かった。今回、ECMのリリースで、北欧ノルウェー出身のカルテットの演奏なので、さぞかし、北欧ジャズっぽい、耽美的で透明感溢れる、リリカルで静的なモード・ジャズが展開されるのだろう、と予想して聴き始めたら、思わず仰け反った。
北欧ジャズっぽさが希薄。といって、ファンクネスは皆無。ビートは8ビートが入っている。これって、クロスオーバー・ジャズ、若しくはジャズ・ロック志向の音作りではないか。
よくよく聴くと、出てくるフレーズは、明るくはあるが耽美的でリリカル、テナーの音などはスッと伸びた透明感溢れる音色で、リーダーのアンデルセンのベースはソリッドで切れ味抜群。
ジョン・バルケのピアノは、躍動感溢れ、ビートが効いてはいるがリリカルで透明度高く硬質なタッチ。ポール・トーセンのドラムは、自由度と柔軟度の高い拡がりのあるリズム&ビートを叩き出す。この4人の出す音って、基本は北欧ジャズであることが判る。
この盤、北欧ジャズを基本としたクロスオーバー・ジャズ、若しくはジャズ・ロックだと感じる。アップテンポの4ビートの演奏などは、米国ジャズの新主流派を彷彿とさせるのだが、ファンクネス皆無、北欧ジャズの個性を宿した楽器の音が、米国ジャズとは絶対的に「一線を画している」ところが興味深い。
ECMには似合わない、タイトなリズム&ビートの効いたクロスオーバー・ジャズ、若しくはジャズ・ロック、そして、米国ジャズの新主流派的な音世界。
しかしながら、この北欧ジャズの個性を宿した楽器の音と演奏の雰囲気が、辛うじてこの盤をECM盤として成立させている。きっと、アイヒヤーはしぶしぶリリースしたんじゃないかな。でも、良い内容、良い雰囲気の好盤だと思います。
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