全てのスタイルを吹くハバード
フレディ・ハバードのリーダー作の聴き直しを再開した。ハバードのトランペットはとにかく「上手い」。途方も無く上手いのだが、その上手さを前面に押し出す「癖」がある。とにかく、どんなセッションでも途方も無いテクニックを駆使して、前へ前へ出る。テクニックについても、とにかく速いフレーズを吹きまくる。時には「五月蠅く」感じるほど。
以前、そんなハバードのリーダー作を聴き直していて、とにかく耳が疲れた。上手いのだが、リーダー作それぞれを聴いていて、どうにも個性とコンセプトが定着しない。様々なスタイル、トレンドの吹奏を披露するのだが、確かに上手い。凄く上手い。歌心もあるんだが、情緒に欠けるというのか、侘び寂びに欠けるというのか、演奏の行間が無いというのか、凄いテクニックだけが耳に残るだけの吹奏に耳が疲れた。
しかし、ほぼ全てのリーダー作を聴かないと、彼のトランペットの個性を断定することは出来ない、というか、リーダー諸作を中途半端に聴き終えるのは失礼というもんだ。ということで、ハバードのリーダー作の聴き直しを再開した。
Freddie Hubbard『Breaking Point!』(写真左)。1964年5月7日の録音。ブルーノートの4172番。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), James Spaulding (as, fl), Ronnie Mathews (p), Eddie Khan (b), Joe Chambers (ds)。
ハバードのトランペット、スポルディングのアルト・サックスが2管フロントのクインテット編成。ハバードと同じ年頃の、かなりの若手の、どちらかと言えば、マイナーな存在のジャズマンで固められている。恐らく、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの深慮遠謀だろう。
こういうメンバー構成でのセッションの場合、ハバードは前へ前へ出ようとはせず、周りの音に気を配りつつ、しっかりとグループサウンズ優先の、余裕ある、実に素晴らしい吹奏を聴かせてくれる傾向が強い。
この盤でも、1人で前へ前へ出ようとはせず、グループサウンズを維持する中で、途方も無いテクニック溢れる吹奏を聴かせている。ハバードの吹奏の「質」という面では、この盤は申し分無い、素晴らしい演奏家としてのパフォーマンスを聴かせてくれている。
演奏内容は、というと、一言で言うと「1964年時点でのアーティステック志向のジャズのショーケース」の様な内容。オーネット・コールマンに影響を受けた様なフリー・ジャズあり、コルトレーンの様なフリー・ジャズ&モード・ジャズあり、ジャズ・メッセンジャーズの様なモード・ジャズあり。
アルバム全体としては「前衛的」な雰囲気が濃厚なのだが、どこか従来のハードバップの雰囲気を残して、全面的に「前衛的」に展開するのを自制しているかの様な、ちょっと中途半端な内容。フリーに走り切ること無く、モードに振り切ること無く、そこはかとなく、ハードバップの雰囲気を残して、全ての聴き手に訴求しようとする。何とも、隔靴掻痒の感がする。
しかし、そんなバラエティーに富んだ内容で、テクニック的にも全てのスタイル、トレンドを水準以上に吹き切るのは難しいと思うんだが、ハバードはいとも容易く、全てのスタイル、トレンドに精通しているが如く、水準以上に吹き切っている。さすが、ではある。
この盤のハバードを聴いて感じるのは、ジャズ・トランペットの「プレイヤー」としては超一流。モダン・ジャズの「クリエイター」としては「発展途上」ということ。演奏家としては全く申し分無い、歴史に名を残すほどのハイ・テクニックの持ち主なのだが、ジャズ盤を制作する上でのリーダーとしての、クリエイターとしての素養についてはやや欠ける、と感じる。
ショーケース的な内容で、自らの持つ途方も無く素晴らしいテクニックを惜しげも無く披露するより、どれかのスタイルに絞って、ハバードなりに、そのスタイルを追求し極める位のチャレンジをしても良かったのでは無いか。ハバードだったら、どのスタイルに絞ろうが、かなり優れた成果を残せたと思うのだ。この「1964年時点でのアーティステック志向のジャズのショーケース」の様な盤を聴いて、そんな思いを改めて持った次第。
この盤は、ハバードのジャズ・トランペットの「プレイヤー」として素晴らしさを愛でる盤だろう。
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