ヒルのモード・ジャズの好盤
Andrew Hill(アンドリュー・ヒル)は、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンが見出した「最後の才能」である。ライオンはヒルの才能に惚れ込み、積極的な録音〜プロモーションを実施、1963年録音『Black Fire』から、ライオンがブルーノートの総帥プロデューサーから引退、録音から手を引いた1967年までの4年間で、なんと8枚ものリーダー作をリリースしている。
Andrew Hill『Judgment!』(写真左)。1964年1月8日の録音。ブルーノートの4159番。ちなみにパーソネルは、Andrew Hill (p), Bobby Hutcherson (vib), Richard Davis (b), Elvin Jones (ds)。ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンの秘蔵っ子、アンドリュー・ヒルのリーダー作の4枚目。ブルーノートからの3枚目のリーダー作になる。
ヒルのピアノの個性は明らかにユニーク。音の飛び方とか抜き方はセロニアス・モンクに近いが、ヒルの方がフレーズが流麗で判り易い。硬質なタッチでのモーダルな弾きっぷりは、その音はチック・コリアやハービー・ハンコックに似ている。
が、チックほど極端に現代音楽には接近せず、アヴァンギャルドさは緩く、ハービーほどに音の「拡がり」と「間」を活かすことは無く、音数は多い。ヒルのピアノの個性は一言では言い表せないが、チックやハービーの間を取った弾きっぷりで、音全体の印象は「判り易く流麗なモンク」という感じ。しかし、ヒルはヒル、ヒルの個性は唯一無二、先達の個性の寄せ集めでは無い。
ヒルの硬質なタッチでのモーダルな弾きっぷりは、これまた自由度マックスでモーダルなボビー・ハッチャーソンのヴァイブとの相性が抜群に良い。このヒルとハッチャーソンのユニゾン&ハーモニー、そして、インタープレイが、この盤の最大の聴きどころ。
硬派で硬質で疾走感溢れるモーダルなフレーズの応酬はとても聴き応えがある。ストイックで非商業的なフレーズの展開はアーティスティック。しかし、音の飛び方、抜き方が極端ではない、流麗さを損なわないレベルを維持しているので、難解なところは殆ど無く、硬派なモード・ジャズをやっている割に意外と判り易い。
しかし、かなり硬派でストイックなモード・ジャズなので、コマーシャルな聴き手に訴求するポップな響きは皆無。この盤でも、かなりストイックで「判り易いモンク」なフレーズを弾きまくっていて、これはこれで印象的で僕は好きなんだが、どうも大衆受けはしない感じなのだ。
ヒルのピアノは、チックやハービーと比べても「引けを取らない」のだが、ハービーやチックの様に、マイルス・バンドで活躍したとか、ジャズ・メッセンジャーズに在籍して活躍したとかと言う、メジャーでキャッチャーな活躍の場面がなかったので、ヒルはメジャーになり損ねたとみている。
しかし、このヒルのピアノは、リチャード・ディヴィスのベース、エルヴィン・ジョーンズのドラムという「超重量級」のリズム隊とのバランスがとても良い。もう少し、コマーシャルでポップな側面を織り交ぜていたら、ヒルの人気についての結果は変わっていた様な気がする。
ライオンは、アンドリュー・ヒルを第一線に送り出せなかったことを後悔しており、1980年代にブルーノートが復活した時、ライオンがまず始めたことはアンドリュー・ヒルを再び売り出すことだった。何かその理由が判るような気がする、このアルバム『Judgment!』の内容である。しかし、決して悪い内容では無い。モード・ジャズの好盤の類である。一聴する価値は十分にある。
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