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2023年4月26日 (水曜日)

浅利史花のセカンド・アルバム

和ジャズにおいては、21世紀に入った途端に、ビッグバンでも起こったかのように、様々な新人が毎月の様に現れ出でるようになった。しかも、ボーカリストを除いては、どの楽器もかなりの確率でしっかり残って、今では、和ジャズの中堅として活躍しているジャズマンの沢山いるから立派だ。

Fumika Asari(浅利史花)『Thanks For Emily』(写真左)。2023年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、浅利史花 (g), 壷阪健登 (p), 三嶋大輝 (b), 山崎隼 (ds), ゲストに、片山士駿 (fl), 曽我部泰紀 (ts) が入っている。邦題が「エミリー・レムラーに捧ぐ」。今回の彼女のセカンド盤は、浅利が尊敬する伝説の女性ジャズギタリスト、エミリー・レムラーにちなんだセットリストを録音、とのこと。

浅利史花は1993年生まれ。今年で30歳。2012年、大学進学に伴い上京。和ジャズのギタリスト岡安芳明、潮先郁男に師事。2015年には、ギブソン・ジャズギター・コンテスト決勝進出。2020年11月に初リーダー作『Introducin'』をリリースしている。

彼女の「Official Web Site」を覗いてみると、使用ギターに、1957年製 Gibson ES-17 フルアコ、1946年製 Gibson L-4 フルアコ、Zemaitice V22SH DBM セミアコとある。ロックやR&B、そして、現代のジャズ・ギター奏者があまり用いないフル・アコースティックのエレクトリック・ギターを2本チョイスしている。これって、本格的なメインストリームな純ジャズ・ギターを志向しているに他ならない。

アルバムを聴いてみると、それが良く判る。フュージョンっぽさ、スムースっぽさは皆無。スインギー&ジャジーで、明らかに、メインストリームな純ジャズ・ギターである。シンプルで流麗、ジャジーでアーバンな弾きっぷりは、ジム・ホール、もしくは、ケニー・バレルを想起する。良い音だ。
 

Fumika-asarithanks-for-emily

 
弾きっぷりは、とにかく、真摯で実直、素直で真面目なギターで、砕けたところや捻れた「癖」は無い。和ジャズらしく、乾いたファンクネスは薄ら漂うが、黒っぽさは無い。ジム・ホールやケニー・バレルっぽくもあるのだが、アーバン感やグルーヴ感は希薄で、とても健康的で明るいジャジーさが濃厚なジャズ・ギターである。

全9曲、オリジナルが5曲、スタンダードが4曲。特に、スタンダード曲の演奏を聴けば、浅利のギターの個性が良く判る、素直なギターで、決して、砕けたり飛んだり跳ねたりする「やんちゃ」なギターでは無い。

そういう個性は反面、イージーリスニング風になってしまったり、面白味に欠けてしまったりする危険性があるのだが、この盤ではそうはならないところが良い。バックのリズム隊の成せる技。むっちゃ硬派で純ジャズで今様のリズム&ビートを繰り出して、フロントの浅利を盛り上げる。

ちょっと緊張感が高まっているのか、と感じるところもあるんだが、概ね、スインギーでジャジー。テクニックも優秀で、最初から最後まで安全運転で確実に弾き回す。これが初々しさ、瑞々しさとするか、面白味に欠けるとするかで、評価は分かれるかと思うが、僕は良い意味での個性だと感じている。彼女のソロ・ライヴを聴いてみたい。恐らく、バリバリ弾きまくるのでないか、と推測している。

ジャズとしては、年齢的にはまだまだ若手なので、真面目実直なところも長所として捉えることが出来る。あとは、バリバリに弾き回したり、ちょっと砕けたり捻れたりできる楽曲に出会えるかどうか、やなあ。安全運転が前提の有名スタンダード曲は避けた方が良いだろう。彼女をプロデュースする「力」にかけてみたいところもある。

さらなる鍛錬の後、成熟度を増した次作を早く聴いてみたい。素姓確かな、メインストリームな純ジャズ・ギターであることは確かなのだ。
 
 

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