僕なりのジャズ超名盤研究・25
ジャズ名盤と呼ばれるアルバムの中には、そのアルバムの制作された「背景」で、居抜きで高く評価される盤が幾つかある。
もともと、ジャズの歴史を振り返ると、ジャズに纏わるエピソード、特に「人」に関するエピソードはユニークなものばかり。芸術というものは「天才」と呼ばれる人達を中心に積み上げられると感じているのだが、この「天才」と呼ばれる人達に関しては、「人」に関するエピソードに事欠くことは無い。「天才」とは「変人、奇人」と紙一重何やなあ、と感心するばかり。
特に、ジャズについては、ジャズ・ジャイアント、ジャズ・レジェンドと呼ばれるジャズマンのエピソードは、ユニークかつ興味深いものばかり。超一流で伝説となったジャズマンほど、ユニークなエピソードが多い。恐らく、それだけ注目されていて、皆の記憶に残ったのだろうし、伝説として語り継がれてきたのだと思う。
しかし、「背景」の評価=「その演奏」の評価、とするのは、ちょっと違うとは思うので、やはり、ジャズは実際に自分の耳で聴いて、自分で判断するのが一番だろう、と思っている。背景は背景、エピソードはエピソードである。
Sonny Rollins『The Bridge』(写真左)。1962年1月30日、2月13–14日の録音。邦題『橋』。ちなみにパーソネルは、Sonny Rollins (ts), Jim Hall (g), Bob Cranshaw (b), Ben Riley (ds), Harry "H.T." Saunders (ds, track 5 only)。基本は、ロリンズに、ギターのホール、ベースのクランショウ、ドラムのライリーのカルテット編成。何故か5曲目の「God Bless the Child」のみ、ドラムがサンダースに代わっている。
この盤には、モダン・ジャズの歴史や背景、事件を少しでも紐解いた人なら良く知っているエピソードがある。
ロリンズは、1950年代末には人気の絶頂にあった。が、コルトレーンの台頭により、ロリンズは自分のテナーの実力に疑問を感じる。ロリンズは自分の演奏を見つめ直すため、突如引退(実は2度目)。酒と煙草を絶ち、体と精神の鍛錬を怠らず、ウィリアムズバーグ橋にて、サックスの練習に明け暮れる。そして、1961年11月に突然活動を再開し、ほどなくRCAビクターと契約。1959年の夏から3年間の沈黙を経てリリースした復帰第1作が、この『The Bridge』。つまり「橋」である。
僕はこのエピソードを、学生時代、FMレコパルの「レコパル・ライブコミック」で、石ノ森章太郎さんの書いた『橋』という一話完結の漫画で知った。このロリンズの2回目の「雲隠れ」は、その内容は如何にも当時の日本人好みで、僕もいたく感動した。もちろん、翌日、このロリンズの『橋』を買いにレコード屋へ走ったのは言うまでも無い(笑)。
この盤の感想は、当ブログの過去記事(2008年10月27日のブログ・左をクリック)をご一読いただくとして、今の耳で振り返ってみて、この盤は「ソニー・ロリンズが、ロリンズ自身をブランド化」に踏み切った盤だと感じている。
録音年1962年の当時、ジャズはハードバップの成熟の後、多様化の時代に入っていた。アーティスティック志向として「モード、フリー」、大衆音楽志向として「ファンキー、ソウル」。両極端な志向のジャズが「多様化の時代」の中で、入り乱れ始めていた。
恐らく、ロリンズは2回目の「雲隠れ」の中で、これから、ジャズマンとしてどの志向で勝負していこうか、をサックスの練習に明け暮れる中で考え続けたのでは無いか。そして、出した結論がこの『橋』で演奏されている音で、ロリンズは、実にロリンズらしく、ハードバップ時代のテクニックに磨きをかけたブロウで吹きまくっている。モードにもフリーにも、ファンキーにもソウルにも走らない、ロリンズの、良い意味で唯我独尊な、唯一無二なブロウのみで勝負している。
そんなところに、何故か、プリグレッシヴな、間を活かした枯れた味わいが芳しいジム・ホールのギターを入れたのかが「謎」なのだが、日本語Wikiには「ホールの1999年のインタビューによれば、ロリンズはピアノの和音よりもギターの和音の方が隙間があって触発されやすいと考え、サックス・ギター・ベース・ドラムのカルテットで制作することを決めたそうである」とある。
この『橋』というアルバムは「ロリンズ自身のブランド化」、つまり「ロリンズ・ジャズ」の立ち上げ宣言なアルバムと僕は理解している。このアルバム以降、ロリンズは、ジャズの演奏トレンドに染まること無く、孤高のロリンズ・ジャズを展開していく。それは、21世紀の現代にまで引き継がれていくのだ。
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