「ショパン曲のカヴァー集」再び
カート・ローゼンウィンケル(Kurt Rosenwinkel)は、僕がずっと注目しているギタリストの1人。1970年、米国フィラデルフィア生まれ。今年で53歳になる。若手ギタリストが今や「中堅」ギタリストになって、その個性は確立され、テクニックは成熟の域に達している。リーダー作は、2〜3年に1枚程度のペースで、優れた内容のアルバムをコンスタントに残している。
カートは、バークリー音楽大学に入学、約2年半の在籍後、ゲイリー・バートンのツアーのサポート・メンバーとして誘われ、そのまま活動拠点をニューヨークへ移しプロとしてのキャリアをスタートさせたている。いわゆる「ゲイリー・バートン組」のギタリスト。パット・メセニーの後輩的なギタリストである。
Kurt Rosenwinkel & Jean-Paul Brodbeck『The Chopin Project』(写真左)。2022年の作品。ちなみにパーソネルは、Kurt Rosenwinkel (g), Jean-Paul Brodbeck (p), Lukas Traxel (ac-b), Jorge Rossy (ds)。カート・ローゼンウィンケルのギターが飛翔する、スイスの気鋭ピアニスト、ジャン・ポール・ブロードベックがアレンジとプロデュースを手掛けた、カルテット編成のフレデリック・ショパン曲集。改めて、この盤を聴き直した。
ショパンは「ピアノの詩人」。ピアノの特性を知り尽くし、ピアノを美しく唄わせ、ピアノを美しく響かせる。ショパンの書く楽曲は「難曲揃い」と言われる。真にピアノを美しく唄わせ、ピアノを美しく響かせるには、それ相応の高度なテクニックが必要とされる。その必要とされる高度なテクニックを音符に置き換えたのが、ショパンの書くピアノ曲である。
そんなピアノ曲の数々を、ジャン・ポール・ブロードベックのアレンジの下、カートがバリバリ、ギターで弾きまくる。ピアノの鍵盤を弾くタッチとフレーズをギターに置き換えて弾く。これは意外と困難な作業だと思われる。音階を流麗に上り下りするのは同じ様な感じがするが、ブロックコードや、音を大きく飛び越えるところはピアノとギターでは勝手が違う、弾き方が違う。
果たして、ショパンの難曲をギターに置き換えて、ショパンの難曲を本来のピアノで弾く様にギターで弾けるのか、ピアノで弾くクオリティーと同様のフレーズがギターで出せるのか。ピアノは弦を叩くが、ギターは弦を弾く。この難題にカートとブロードベックは果敢にチャレンジしている。
結論から言うと「カートのギタリストの才能」と「ブロードベックの秀逸なアレンジ」の賜物だろう。とても良く出来た「ショパン曲のカヴァー集」に仕上がっている。クラシックとジャズの融合、ショパンの新解釈とかの「俗っぽい表現」では無い、カートの流儀、カートの感性によるショパン曲の優れたカヴァー演奏。
ピアノ曲をギターでやるのだ。ジャズ・カルテットでやるのだ。アレンジは当然、必要だろう。そのアレンジが秀逸。その秀逸なアレンジに応える様に、カートのギターが、ショパン曲を自らの個性とテクニックで、カート自身の流儀でカヴァーしている。そこが見事なのだ。カートが、ショパンの曲に乗って、バリバリ弾きまくっている。頼もしいことこの上無い。
このショパン曲のカヴァー集で、カートのギターは「ひとつの極み」に達した感がある。テクニックのレベルは高く、クールでダイナミックで流麗。次作では、カートはどんなジャズ・ギターをやってくれるのか。今から楽しみである。ワクワクする。
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