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2022年10月16日 (日曜日)

ロイド「Trio of Trios」の第一弾

1960年代後半から1970年代前半にかけて、チャールス・ロイドは売れた。ロイドのテナーは「こじんまりしたコルトレーン」、言い換えれば「期待を裏切らない、予想を外さないコルトレーン」。アブストラクトにも振る舞うんだが、徹底的に、ということは無く「安全運転のコルトレーン」。

どうにもコルトレーンのコピーのイメージがつきまとう。当時のジャズ者の方々は、ロイドに「判り易いコルトレーン」を求めていた様に思う。ロイドもそれに応えた。しかし、人気を獲得したのもいきなりだったが、飽きられるのも早かった。1970年代後半以降、ほぼ忘れ去られた状態のテナーマンであった。

が、1989年、ECMレーベルに出会って復活。テナーの音志向は「北欧ジャズ」。しかし、テナーの音は、北欧ジャズの「クリスタルな切れの良い」音よりも暖かでエッジが丸い。加えて、米国ジャズ譲りの、クールな熱気をはらんだテナーは、欧州のテナーマンには無い独特の個性だった。21世紀に入って顕著になった、米国ジャズの「欧州ジャズへの接近」を先取りしていたと言える。

そして、2015年、ECMレーベルを離れて、ブルーノート・レーベルに移籍。欧州ジャズ志向のロイドのテナーはどうなるんだ、と思っていたら、当時、流行始めていた「静的でクールなスピリチュアル・ジャズ」に音の志向を大きく変えていた。

1960年代後半の「判り易いコルトレーン」、ECM時代の「欧州ジャズへの接近」、そして、現在の「静的でクールなスピリチュアル・ジャズ」と、それぞれの時代の「流行」をよく読んで、音の志向を変えている。機を見て敏なる、というか、意外と変わり身の早いテナーマンである。まあ、それぞれの音の志向が、水準以上のパフォーマンスを持って表現されるのだから、テナーマンとしての実力は一流である。
 

Charles-lloydtrios-chapel

 
Charles Lloyd『Trios: Chapel』(写真左)。2018年12月4日、テキサス州サンアントニオのコーツ・チャペルでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Charles Lloyd (ts, Alto-fl), Bill Frisell (g), Thomas Morgan (b)。資料によると、3つのトリオによる3枚のアルバムからなる新プロジェクト「トリオ・オブ・トリオズ」の第一弾、とのこと。

この「トリオ・オブ・トリオズ」の第一弾は、ドラムレス、テナー、ギター、ベースの変則トリオ編成。ギターは、捻れスピリチュアル・エレギの達人、ビル・フリゼール。ベースは、フリゼールとの共演実績もある若手ベーシスト、トーマス・モーガン。コーツ・チャペルという、会場の礼拝堂の音響特性上、ドラムやパーカッションは排除したらしい。

ビリー・ストレイホーン作曲の「Blood Count」で始まるのだが、演奏の志向は「静的でクールなスピリチュアル・ジャズ」。ストレイホーンの楽曲を静的なスピリチュアル・ジャズにアレンジするところなどは、良い意味で実に「あざとい」。キューバのシンガーソングライター、ボラ・デ・ニエベの「Ay Amor」も、感情豊かにテナーを吹き上げて、スピリチュアルな響きが濃厚。アルト・フルートで演奏するオリジナル「Beyond Darkness」も、フルートの音色が聴き手の感情を揺さぶる。

限りなく自由度の高い、3人三様のインタープレイが素晴らしい。フリゼールのエレギの音はもともとスピリチュアルだし、トーマス・モーガンのベースは、自由度高く、スピリチュアルに展開するロイドとフリゼールをガッチリ受け止め、しっかりと的確なビートを提供している。適度なテンションの下、発想豊かで歌心溢れるインタープレイは、このトリオ3人の相性の良さが窺い知れる。

今から「トリオ・オブ・トリオズ」の第二弾が楽しみである。良い意味であざとくもあるが、「静的でクールなスピリチュアル・ジャズ」なロイドは充実している。このライヴ盤も、現代のモダン・ジャズとして一聴すべき好盤だろう。
 
 

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