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2022年9月の記事

2022年9月29日 (木曜日)

今の耳で聴く『Black Market』

1970年代から1980年代前半のジャズ界を駆け抜けた、伝説のスーパー・バンド『Weather Report』(以降、WRと略)。僕はほぼリアルタイムでWRを聴いてきた訳だが、リアルタイムで聴いていた当時と、あれから約50年が経って、年齢を重ね、様々なジャズを聴き進めてきた「今のジャズ耳」で聴くのと、ある部分、印象が全く異なる部分があるのに気がついた。WRのアルバムを順に聴き直してみると、意外とこの「印象が異なる部分」が、かなり興味深く聴けるのが面白い。

Weather Report『Black Market』(写真)。1976年の作品。ちなみにパーソネルは、Joe Zawinul (key), Wayne Shorter (sax), Alphonso Johnson (el-b), Jaco Pastorius (el-b, tracks 2 & 6), Narada Michael Walden (ds, tracks 1 and 2), Chester Thompson (ds, track 1, tracks 3–7), Alex Acuña (perc, tracks 2–5, track 7), Don Alias (perc, tracks 1 and 6)。WRの第2期黄金時代の幕開けを告げる、マイルストーン的な名盤である。

名盤とは言え、リズム・セクションの迷走は続いていた。ドラムは2人、パーカッションも2人が分担して叩いている。それぞれの曲における打楽器系の音を聴いても、決定力にかけるパフォーマンス。悪くは無いんだが、躍動感に欠けるというか、迫力に欠けるというか。こういったドラム系の人選はマイルス・ティヴィスが一番。1970年代のマイルス・バンドのドラム系の人選の成果を思うと、どうにもこの時点でのWRのドラム系の人選はイマイチな感じが拭えない。

そして、ベースである。前作『幻祭夜話』で、アルフォンソ・ジョンソンに恵まれたWR。アルフォンソのエレベは、WRとして申し分無く、ビトウスの抜けた穴をやっとこさ埋めた感じたしていた。そんなところに「俺は世界で最高のベーシストさ、俺を雇う気はないか」と、とんでもないベーシストが自らをWRに売りにやってきた。伝説のエレベのイノベーター、ジャコ・パストリアスである。

ジャコはこの盤では「Cannon Ball」と「Barbary Coast」の2曲のみで、エレベを弾いているのだが、これが凄い。それまでに聴いたことの無いエレベに我々は驚愕した。
 

Weather-reportblack-market

 
リズム&ビートを供給するリズム隊としてのベースとしてのパフォーマンスについても、音がソリッドで太っとく、躍動感溢れ、破綻の無い滅茶苦茶テクニカルなベースラインが凄い。しかし、もっと凄いのが、ソロ・パフォーマンス。まるでエレギを弾くかのようにエレベを弾く。つまり、リズム隊ばかりで無く、エレベでフロント楽器の役割を担うベーシストが出てきたのだ。

当時のWRは、フロント楽器を真っ当に担えるのは、ウェイン・ショーターのサックスのみ。ザヴィヌルのキーボードは伴奏力に優れるが、フロント楽器としてのソロ・パフォーマンスは苦手にしていたフシがあって、WRはフロント楽器の華やかさに欠けるところがあった。が、ジャコの登場で、その弱点は一気に克服されている。「Cannon Ball」と「Barbary Coast」の2曲における、ジャコの「リズム&ビートを供給するリズム隊としてのエレベ」と「フロント楽器の役割を担うエレベ」は傑出している。

ソング・ライティングについても充実してきた。今までは「エスニック&ユートピア」志向のザヴィヌル、「黒魔術的な音世界」志向のショーター、この2人の作曲がほとんどだったが、ここにジャコの「ファンキーで高速フロント・ベース」を活かした楽曲が加わって、収録曲の内容もバッチリ充実している。この『Black Market』では秀曲揃いで、そういう意味でも、この盤は聴き応えがある。

全体的には、キャッチャーでアーシーな曲がずらりと並ぶ。そんな曲のリズム&ビートをしっかり支え、濃厚なファンクネスを供給するリズム・セクションが是非とも必要になるのだが、ジャコを発見することにより、エレベの目星は付いた。あとはドラム。だがWRに最適なドラマーについては、課題として次作に持ち越すことになる。

それでも、この『Black Market』での混成リズム隊は意外と健闘している。だからこそ、この盤はWRの第2期黄金時代の幕開けを告げる、マイルストーン的な名盤として評価できるのだ。もっと最適なリズム隊を得た時のWRの音世界はどんなものになるのか。WRのポテンシャルは相当に高いことをこの盤を聴いて再認識する。
 
 

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2022年9月28日 (水曜日)

歌伴上手なシアリングである

やっと涼しくなってきた。日中、陽射しが強い日はまだまだ蒸し暑かったが、今日は強い北風が日中から吹いて、カラッとした秋らしい好天となった。涼しくなってくると、夜、ジャズ・ボーカルを聴く気になってくる。しかし、ベッタベタ、重厚で本格的なジャズ・ボーカルは苦手なので、健康的で明るいキュートな歌声を探すことになる。

The George Shearing Quintet with Nancy Wilson『Swingin's Mutual』(写真左)。1960年6ー7月、1961年1月の録音。ちなみにパーソネルは、Nancy Wilson (vo), George Shearing (p), Dick Garcia (g), Warren Chiasson (vib), Ralph Peña (b), Vernel Fournier (ds), Armando Peraza (perc)。ナンシー・ウィルソンのボーカルとジョージ・シアリング・クインテットとの共演である。

小粋なジャズ盤を探索していて、ストックしておいた盤の中に、ボーカル盤は無いか、と探したら、この盤が最初に目に付いた。ナンシー・ウィルソンか。1960年、キャノンボール・アダレイの後押しでメジャー・デビュー。後に米国の国民的スターになったウィルソンの24歳の時、デビュー盤からの3作目。

ナンシーのボーカルは、パワフルで軽快、スイング感溢れ、情感豊かに可憐に歌い上げる、エレガントなボーカル。癖が無く、「こぶし」も回らず、ストレートな歌唱。これが良いのですね。癖を前面に出して、ビブラート豊かに「こぶし」を回して唄う、ジャズ・ボーカルはちょっと苦手です。
 

George-shearing-with-nancy-wilsonswingin

 
そして、バックに控えるのが、ジョージ・シアリング率いるクインテット。シアリングは1912年生まれ。クール・ジャズの第一人者として活躍した盲目のピアニスト。スイングから中間派、そして、ハードバップとジャズの数々のスタイルを弾きこなした職人的ピアニストである。

シアリングのピアノには「癖」がない。端正で流麗、緩急自在で揺らぎは無い。元祖「総合力勝負」のピアニストだと思うのだが、この歯切れの良いタッチでの端正さと流麗さが個性といえば個性。アドリブも端正で癖が無い。この元祖「総合力勝負」なピアニストは歌伴にも優れている。この盤でも「歌伴上手」なシアリングのピアノが、全編に渡って、とても印象的に響いている。

冒頭には、僕の大好きなスタンダード曲「On Green Dolphin Street」が入っているから、更に良い。この曲、演奏するにも唄うにも難曲の類だと思うんだが、ナンシーは全く揺らぐこと無く、しっかりビートに乗って、端正に流麗にメリハリをバッチリ効かせて唄い上げていく。この1曲だけでもこの盤は「買い」ですね(笑)。

ナンシーの魅力的でキュートな歌唱、スインギーで端正で流麗なシアリングの歌伴。聴きどころ満載で一気に聴き切ってしまう。スッキリとした味わい深いボーカル盤。シアリングのピアノを楽しむにも恰好の「小粋なジャズ盤」である。
 
 

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2022年9月27日 (火曜日)

『幻祭夜話』を今一度、聴き直す

Weather Report(以降WRと略)のアルバムの聴き直しを進めている。暫く期間が空いたが、いよいよ「第2期黄金時代」の幕開けの時代に入る。

前作『Mysterious Traveller』で、ザヴィヌルは、WRの音楽的志向を「エスニック&ユートピア」に舵を切る。リズム&ビートは「ファンク」なんだが、メロディーにはエスニックの味付け。エスニック志向のエレ・ファンクと形容しても良いかもしれない。

しかし、デビュー時代から、相応しいドラマーが見つからない。ベースについても、ビトウスの抜けた穴は大きい。リズム隊に傷を残し、ザヴィヌル自身もシンセの扱いに苦労し、ショーターは徐々にWRの活動に興味を失いつつあった。しかし、そんな時でも『Mysterious Traveller』という売れ線のアルバムを残したのだから、WRのバンドとしてのポテンシャルはまだまだ高いものがあった。

Weather Report『Tale Spinnin'』(写真左)。1975年の作品。邦題は『幻祭夜話』。ちなみにパーソネルは、Joe Zawinul (key), Wayne Shorter (sax), Alphonso Johnson (el-b), Leon "Ndugu" Chancler (ds), Alyrio Lima (perc)。ベースはアルフォンス・ジョンソン、ドラムはレオン・チャンクラー、ドラムを補佐するパーカッションはアリリオ・リマで、リズム隊は落ち着いた。

ザヴィヌル自身、シンセの扱いに苦労し、フロント楽器としての振る舞いが上手く出来ないということを前作で理解したのか、ショーターのバンドへの興味を元に戻すべく、ザヴィヌル好みの「エスニック&ユートピア」な音世界に、ショーター好みの「黒魔術」的な音世界を加味することを決断。楽曲もショーターが2曲、ザヴィヌルが4曲。ザヴィヌルの4曲もショーター好みのフレーズを散りばめている。
 

Tale-spinnin

 
前作『Mysterious Traveller』に比べて、それぞれの曲の内容が桁外れに良い。冒頭の「 Man in the Green Shirt」や、4曲目の「Badia」そして、続く「Freezing Fire」など、「エスニック&ユートピア」+「黒魔術」の名曲である。中には「およよ」的な曲もあるが、前作に比べて、総じて楽曲の内容と質は飛躍的に向上している。

その結果、この『Tale Spinnin'』では、ショーターが活き活きとサックスを吹いているのが印象的。やはり、ショーターが腰を据えて吹く、モーダルなサックスは魅力抜群。ザヴィヌル好みの「エスニック&ユートピア」な音作りに、「黒魔術」的な音を積極的に取り込むことにより、この盤での音は、より「黒く」、より「ジャジー」になった。この盤で、WRの第2期黄金時代の音の志向は固まったのでは無いか。

リズム隊も地味ではあるが、落ち着いたリズム&ビートを供給していて及第点。フロントのザヴィヌルのキーボードとショーターのサックスと対等の立場に立ったインタープレイを展開するほどでは無いが、WR独特のグルーヴ感を醸し出すのには成功している。特に、アルフォンソのエレベの音、そして、リマのパーカッションが効いている。

ザヴィヌルの試行錯誤と深慮遠謀が良く判る、そして、なんだかんだと言いながら、ショーターの存在意義を再認識した『Tale Spinnin'』。「俺一人でもいける」〜「俺一人では駄目だ」〜「でも売れなきゃ駄目だ」という志向の揺らぎが、結局、WRの第2期黄金時代の音の志向固めにダイレクトに繋がったのだから、WRというバンドは強運のバンドだった。
 
 

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2022年9月26日 (月曜日)

父親に捧げたピアノ・トリオ盤

最近は、ジャズの新盤がネットの音楽のサブスク・サイトにアップされるタイミングが早くて、ジャズ雑誌はもとより、ジャズのネット情報も追いつかない位である。最近では、ジャケットを見て、リーダーの名前を見て、試聴して、ゲットするかどうかを決めている。いわゆる「ジャケ買い」と「名前買い」が増え、「試聴買い」が新しく加わった。

この新盤は完全に「ジャケ買い」盤である。ジャケットをパッと見た瞬間、ピピッと「これは良いのでは」と思い、リーダーの名前を確認したら「Cyrus Chestnut(サイラス・チェスナット)」とある。僕の大好きなジャズ・ピアニストの1人。これは間違い無いだろう、と即聴きである。

Cyrus Chestnut『My Father's Hands』(写真左)。2021年12月14日の録音。ちなみにパーソネルは、Cyrus Chestnut (p), Peter Washington (b, except track 6), Lewis Nash (ds,except track 6)。6曲目の「I Must Tell Jesu」のみ、チェスナットのピアノ・ソロで、残りは、ピアノ・トリオ編成の演奏で固められている。

資料によると「この作品は私の父への感謝の言葉です。父親は彼の人生で多くの人にインスピレーションを与えました、そして私は彼がしたように私がインスピレーションを与えるためにできる限りのことをしたいと思っています。」とチェスナットは語っている。この新盤は、2021年に他界した最愛の父親マクドナルド・チェスナットに捧げたピアノ・トリオ作になる。
 

Cyrus-chestnutmy-fathers-hands

 
収録曲は全10曲で、その内訳は、父親の思い出を描いたオリジナル曲が4曲、父親と自分に関連するスタンダード曲が5曲。ラストは、父親が息を引き取るときの情景を思い描いて、チェスナットが作曲した美しいバラード曲「Epilogue」で締められる。自作曲もスタンダード曲も、どれもが落ち着いた滋味溢れる楽曲ばかりで、聴いていて、何故かしみじみしてしまう。

チェスナットのピアノは、癖の無い「総合力勝負」のピアニストだが、ファンクネスが強めで、速いパッセージを容易く弾きまくる「高テクニック」なところが特徴。バリバリ弾きまくるが、オーバーな表現にならず、流麗な弾き回しに留めているところなどは、チェスナットの「品格」を感じる。バラード表現にも長けていて、しっかりとファンクネスを漂わせながら、堅実なタッチで弾き進めるバラード曲には思わず聴き惚れてしまう。

バックのリズム隊、ピーター・ワシントンのベース、ルイス・ナッシュのドラムも良い味を出している。今回のチェスナットの特別な表現を十分に踏まえて、味わい深い、典雅で端正なサポートを繰り広げている。このリズム隊あっての、チェスナットの豊かな表現が可能になるのだろう。良いリズム隊だ。

物悲しくも美しいピアノ・トリオ演奏。物悲しいが、ファンキーなフレーズをバリバリ弾き回すところなど、父親との楽しい思い出を反芻しているのか、とも感じて、全体の印象は決して陰鬱では無い。ジャケットのイラストは、チェスナット本人が描いたペインティングだそうだ。味わい深い、アートなジャケットである。
 
 

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2022年9月25日 (日曜日)

見事なショパンの「ジャズ化」

ジャズは以前から、クラシックのジャズ化が意外と多い。1940〜50年代、例えば、ピアノの神様、アート・テイタムは「ユーモレスク」を独奏することが多かったし、モダン・ジャズ・カルテットは、クラシックの演奏手法をジャズに取り入れた。バッハは結構、ピアニストを中心にジャズ・アレンジされている。確か、バド・パウエルもバッハの名曲を好んでカヴァーしていた筈だ。

仏出身のピアニスト、ジャック・ルーシェが、J.S.バッハの作品をジャズ・トリオで演奏、その後多くのジャズ・ピアニストがクラシック音楽をジャズの題材にする切っ掛けを作っている。ルーマニア出身のピアニスト、オイゲン・キケロは、1965年のデビュー作『Rokoko Jazz』で、ロココ時代の古典音楽をスウィング・ジャズにアレンジした作品で、世界的に注目を浴びた。

僕がジャズを聴き始めた1970年代以降では、ヨーロピアン・ジャズ・トリオが、クラシックの名曲を洗練されたアレンジでカヴァーし、人気を博した。また、我が国では、最近になるが、ピアニストの山中千尋が『Utopia』で、サン=サーンスやスクリャービン、ブラームス、ドヴォルザーク、武満徹などの名曲を取り上げている。伊出身のマッシモ・ファラオもクラシック名曲をジャズにアレンジしている。

Kurt Rosenwinkel & Jean-Paul Brodbeck『The Chopin Project』(写真左)。2021年8月、スイスのチューリッヒでの録音。ちなみにパーソネルは、Kurt Rosenwinkel (g), Jean-Paul Brodbeck (p), Lukas Traxel (b), Jorge Rossy (ds)。現代ジャズの正統派ギタリストの中堅、カート・ローゼンウィンケルの新作である。これが、タイトルを見れば「只者では無い」。
 

The-chopin-project_1

 
スイス人ピアニスト、ジャン・ポール・ブロードベックがアレンジとプロデュースを手掛けたカルテット編成のフレデリック・ショパン曲集である。人気の高い「24の前奏曲」を中心に「練習曲作品10第6番」や「夜想曲7番27-1」などの有名曲を素晴らしいアレンジでカヴァーしている。

何が素晴らしいか、というと、原曲のメロディーはしっかりと残しつつ、リズム&ビートはしっかりジャズしていて、アドリブ部に入ると、原曲の持つキーの流れを着実に押さえて、コードで展開し、モードで展開する。このアドリブ部を聴いていると、流麗なフレーズが印象的な純ジャズのアドリブ・パフォーマンスとしか思えない。ジャズとして聴いて爽快感を感じるくらい、ショパンの名曲を完璧に「ジャズ化」しているのだ。

リーダーのローゼンウィンケルのギターも超絶技巧で歌心抜群。ショパンのピアノ曲って、フレーズの速さ、流れ、展開、どれもがダイナミックで高速で流麗。ピアノでも弾きこなすのに難度が高い曲を、ローゼンウィンケルはギターで弾き込んでいる。ショパンの流麗なフレーズを、自らの個性で、唯一無二な響きで弾き上げるローゼンウィンケルのフレーズは新鮮さに満ちている。

クラシックの、ショパンのジャズ化に留まらない、ショパンの楽曲を題材にした、カートウィンケルならではの「純ジャズ」なパフォーマンスに昇華された演奏の数々。聴き応え満点。ショパン曲の持つ流麗なメロディーをベースとしているが故、聴き味良く、既に、我がバーシャル音楽喫茶『松和』では、ヘビロテ盤になってます。
 
 

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2022年9月24日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・251

ジャズにおいて「初リーダー作」は、そのリーダーであるジャズマンの「個性」を確実に反映している。ジャズにおいては、それぞれジャズマン毎の「個性」が非常に重要で、この「個性」が希薄だと、どのジャズマンの演奏を聴いても「皆同じに聴こえる」ということになる。

これでは、即興演奏が最大の特徴であるジャズにおいて、ジャズマンの存在意義が無くなる。よって、ジャズにおいては、それぞれジャズマンの個性が重要であり、それぞれのジャズマンの初リーダー作では、その「個性」を前面に押し出すプロデュースを施すのが通例である。

Bill Charlap『Souvenir』(写真左)。1995年6月19日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Charlap (p), Scott Colley (b), Dennis Mackrel (ds)。現代のバップ・ピアニスト、ビル・チャーラップのメジャー・デビュー作になる。チャーラップは、1966年10月生まれなので、初リーダー録音当時、28歳と8ヶ月。一流ジャズマンとしては、少し遅いメジャー・デビュー作になる。

メジャー・デビュー作と言えば、その内容は初リーダー作に準ずるもの。チャーラップも、1991〜3年に、マイナー・レーベルに初リーダー作を録音しているが、マイナー・レーベルからのリリースなので、数も少なく、その盤はなかなかお目に(お耳に?)かかれない。そういう意味では「メジャー・デビュー盤=初リーダー作」と位置づけて良いかと思う。

さて、このメジャー・デビュー盤、聴いて面白いのは、チャーラップのピアノの個性が明確に出ていること。今までの他のピアニストとは明らかに違う響きがある。
 

Bill-charlapsouvenir

 
基本はバップ・ピアノ。しかし、フレーズの響きが従来のバップっぽく無い。幾何学っぽく(ちょっとモンクっぽい)、モーダルな弾き回しだけど「判り易い」。弾きっぷりは流麗。バップなマナーの中での「耽美的でリリカルな」弾き回しがユニーク。

そんなチャーラップの個性が、このメジャー・デビュー盤にギッシリ詰まっている。冒頭の「Turnaround」を聴けば、それが良く判る。オーネット・コールマンの曲を選曲していて、このコールマンの曲をバップ・ピアノで弾き回していく。

しかも、緩やかなフレーズから盛り上げていくユニークなアレンジ。左手の和音が「幾何学っぽく」、右手のフレーズがモーダル。コールマンの曲の個性を良く捉え、チャーラップのピアノの個性で、今までに聴いたことのない、バップな演奏に仕立て上げている。

この盤を聴いて、僕は一気にチャーラップのピアノが「お気に入り」になった。現代のネオ・ハードバップの先端を行く、従来のモダン・ジャズ・ピアノを見直し、焼き直し、新しい響きやフレーズを盛り込んで「深化」させていく。

チャーラップは、現代のジャズにおいて「進取の気性に富む」ピアニストの1人であり、このメジャー・デビュー盤では、個性的で見事なパフォーマンスを披露している。
 
 

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2022年9月23日 (金曜日)

進取の気性に富む「バロン」

いろいろと「小粋なジャズ」盤を求めて物色していると、あれっ、こんな盤あったんや、と聴いたことの無い、新しい盤との出会いがちょくちょくある。

そういう意味ではジャズの裾野は広い。長年積み上げてきた、ジャズ盤のリリースされた数って膨大なんだなあ、と改めて思う。特に、ネットの時代になってから、こういう「素敵な出会い」が多くなった。

Kenny Barron『Green Chimneys』(写真)。1983年7月9日と1987年12月31日の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Barron (p), Buster Williams (b), Ben Riley (ds)。1983年7月9日はトリオ演奏の7曲。1987年12月31日はバロンのソロ・ピアノの3曲。

総合力勝負のバップ・ピアニスト、ケニー・バロンがリーダーのトリオ&ソロ演奏。総合力勝負が個性のジャズ・ピアニストの個性を感じるに相応しい演奏形式である。

オリジナル盤の発売は1994年。1980年中盤、純ジャズ復古がなって、新伝承派、M-BASE派が中心となって、新しいハードバップ、いわゆる「ネオ・ハードバップ」を創造〜展開していった。そんなネオ・ハードバップ初期の頃に、このバロンのトリオ&ソロ盤がリリースされている。

10曲中、7曲が1983年の録音、3曲が1987年の録音。録音当時、バロンは40歳と44歳。いわゆる「中堅」である。新伝承派やM-BASE派は20〜30歳代の若手中心のムーヴメントだったので、バロンは影響範囲外ではある。

もともと新伝承派は1960年代モード・ジャズの焼き直し〜深化を狙いとし、M-BASE派は、その新伝承派の「アンチテーゼ」的な新しいハードバップを志向していた。

この時期に録音〜リリースされたこのバロン盤は、演奏を聴くと良く判るが、新伝承派、M-BASE派、どちらも「気にしていない」。あくまで、バロンは我が道を往く弾きっぷりである。潔いし、バロンの矜持をビンビンに感じるし、爽快ですらある。
 

Kenny-barrongreen-chimneys

 
冒頭の有名スタンダード曲「Softly, as in a Morning Sunrise」を聴けば、バロンが明らかにバップ・ピアノに端を発しているのが良く判る。左手のリズム&ビートの出し方、右手のフレーズの作り方、どちらも聴いてみても、バップ・ピアノである。例えば、マッコイ・タイナーやハービー・ハンコックの様な「モーダルなピアノ」では無い。

1950年代〜60年代のバップ・ピアノの焼き直しでもなければ深化でもない。1983年と1987年時点での、バロンが考える新しい弾き回しと響きをベースとした、新しいバップ・ピアノなフレーズがそこかしこに感じられるところが非常に「ニクい」。

トリオ演奏の7曲については、後のネオ・ハードバップなピアノ・トリオを先取りした、先進的な内容のピアノ・トリオである。先進的ではありながら、1950年代後半から60年代における、耽美的でリリカルな表現を借用して、新しい響きを付加したりして、しっかり「温故知新」しているところもバロンらしい。

ピアノ・ソロの3曲を聴けば、バリバリとメリハリ良く、ポジティヴに弾きまくるバップ・ピアノが基本でありながら、耽美的でリリカルで繊細な表現にも長けていることが良く判り、改めて、バロンは「総合力勝負のピアニスト」であることを認識させてくれる。

総合力勝負が個性のジャズ・ピアニストは「テクニックが皆、優秀」。先進的なフレーズを弾きこなすにしても、温故知新的なフレーズを弾きこなすにしても、相当に高いテクニックが求められる。総合力勝負のジャズ・ピアニストの面目躍如である。

バックのリズム隊、バスター・ウィリアムスのベース、ベン・ライリーのドラム、双方、テクニックよろしく、ガッチリとバロンをサポートする。特に、速いテンポの曲での流れる様なベースライン、短く高速に刻むビートが超絶技巧なドラミングは見事である。良いリズム隊に恵まれて、バロンは縦横無尽、緩急自在に弾きまくる。

意外と硬派で聴き応えのあるピアノ・トリオ&ソロ盤。こんな聴き応えのあるピアノ・トリオ&ソロ盤が、1983年と1987年のネオ・ハードバップの黎明期に録音されていたとは恐れ入る。

純ジャズ復古以来、それまでのモダン・ジャズを焼き直し〜深化して来たのは、なにも、新伝承派、M-BASE派ばかりでは無い。優れた「進取の気性」を持つ、意欲的なジャズ・ミュージシャンは、皆、モダン・ジャズを焼き直し〜深化に貢献していたのだ。
 
 

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2022年9月22日 (木曜日)

宗教的な(religious)ジャズ

Mary Lou Williams(メアリー・ルー・ウィリアムス)。米国や欧州では、他のレジェンド級のジャズメンへの楽曲提供やアレンジャーとしての協力、そして、何より、ジャズ・ピアノの代表的奏者の1人として知られる「一流ピアニスト」でありながら、我が国では「さっぱり」というジャズ・ミュージシャンの1人だろう。

僕がジャズを本格的に聴き始めた40数年前、ジャズ盤紹介本には彼女の名前は無かった。僕が彼女の名前を知ったのは、ネットの時代が本格的になった21世紀に入ってからである。

濃厚なグルーヴ感とゴスペル感、どこか敬虔な雰囲気漂うフレーズ。いわゆる「宗教的な(religious)ジャズ」の先駆けであり、ジャズ・ミサの先駆けなんだが、この辺りが我が国のジャズ評論家、ベテランジャズ者の方々に敬遠されたのかもしれない。でもなあ、コルトレーンをはじめとするスピリチュアルなジャズって、どれもが「宗教性」濃厚なんだけどなあ。コルトレーンの『至上の愛』が大絶賛で、メアリー・ルー・ウィリアムスが「さっぱり」な理由が未だに判らない。

しかし、僕は好きである。アメリカン・アフリカンのブラック・テイスト濃厚な「宗教的な(religious)ジャズ」の響きがとても良い。ソウルフルでファンキーなフレーズは、クワイヤーで唄えそうなゴスペルチックな雰囲気。しかも、ピアニストとして、確かなテクニックと端正な弾き回し。硬派なモダンジャズ・ピアノとしても優れた味わい。
 

Mary-lou-williamszoning

 
Mary Lou Williams『Zoning』(写真)。1974年1月~3月の録音。Mary Lou Williams (p, arr), Zita Carno (p), Bob Cranshaw, Milton Suggs (b), Mickey Roker (ds), Tony Waters (congas)。シンプルだが、グルーヴ感濃厚。不思議に少し捻れたソウルフルなフレーズで、スピリチュアル感を増幅させた「宗教的な(religious)ジャズ」盤である。

彼女は1910年生まれ。早熟の天才としてその名を轟かせ、スイング時代からの著名なレジェンド・ジャズメンとの交流がてんこ盛り。そんな様々なジャズマンとの交流が彼女の豊かな感性を育んでいる。そんな豊かな感性を活かした、ソウルフルでファンクネス漂う、切れ味の良いフレーズがこの盤に溢れている。

ピアノ、エレキベース、ドラム+パーカッションという、変則ピアノ・トリオなんだが、エレキの音とパーカッションの音とロッカーのちょっと捻れたドラミングが、これまたスピリチュアル感の増幅に貢献していて、「宗教的な(religious)ジャズ」テイストがコッテリと漂って来る。これが良い。

通常のモーダルなジャズとは、かなり異なる、敬虔さすら感じる音の響きが「宗教的な(religious)ジャズ」の真骨頂。ゴスペルチックな音の重ね方も良い。メアリー・ルー・ウィリアムスの個性全開の優秀盤である。
 
 

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2022年9月21日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・250

米国や欧州では一流の人気ジャズマンとされるが、我が国では「さっぱり」というジャズマンが結構いる。昔は海外レーベルのアルバムは、日本のレコード会社が契約して、日本のレコード会社経由で、我が国で流通していた。日本のレコード会社と契約した海外レーベルの人気ジャズマンのリーダー作は良いが、契約していない海外レーベルの人気ジャズマンのリーダー作は、我が国では全く流通しないということになる。

これでは、日本のレコード会社と契約していないと、海外レーベルのレコードは手に入らない、ということになるのだから、何だか閉鎖的な話である。ネットの時代になって、CDやデジタル音源が日本のレコード会社抜きに、ダイレクトに購入出来る様になって、そんな閉鎖的な話はほとんど聞かなくなった。逆に我が国で売れる見込みが無いと扱わない、という日本のレコード会社の企業姿勢が、日本のレコード会社の存在意義を矮小化している。

Tom Harrell『Oak Tree』(写真左)。2020年11月24, 25日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Tom Harrell (tp, flh), Luis Perdomo (p, Fender Rhodes), Ugonna Okegwo (b), Adam Cruz (ds)。米国では「現代屈指のトランペッター&フリューゲル奏者」とされるトム・ハレルのリーダー作。ハレルのワンホーン・カルテット盤になる。

リーダーのトム・ハレルであるが、現代屈指のトランペッター&フリューゲル奏者とされるが、我が国ではほとんど無名に近いのではないか。ハレルは1946年6月生まれなので、今年で76歳の大ベテラン、レジェンド級のトランペッターである。
 

Tom-harrelloak-tree

 
リーダー作も30枚以上、参加セッションは数知れず。米国では、これだけ人気の一流トランペッターなのだが、我が国では「さっぱり」である。僕は21世紀には入るまで、トム・ハレルの名前を知らなかった。

さて、このハレルの新作、聴けば、ハレルのトランペットの成熟度合い、伸びのあるストレートな音色、流麗で歌心溢れるアドリブ・フレーズ、味わい深い「間」を活かした吹き回し。確かに、大ベテラン、レジェンド級のトランペッターであることが良く判る。このトランペットは良い。もっと広く、ジャズ者の皆さんに聴いて貰いたい気持ちで一杯である。

ビ・バップ、アフロ・キューバン、クラシック志向、心地よいスムース・ジャズなど、幅広いスタイルのジャズを展開してきたが、この盤では、じっくりと落ち着いた、モーダルな「ネオ・ハードバップ」。印象的なユニゾン&ハーモニー、スムースなアドリブ・フレーズ、柔らかく落ち着いた力強い吹き回し、暖かい安らぎを感じる音世界。この新作でのハレルのトランペット、本当に良い味出してます。

ピアノのルイス・ペルドモ、ベースのウゴナ・オケグォ、ドラマーのアダム・クルーズ、この精鋭リズム隊、これまた、味わい深いリズム隊で、ハレルの暖かい安らぎのあるトランペット&フリューゲルホーンを、緩急自在、変幻自在、硬軟自在にサポートする。このリズム隊あってのハレルのトランペットである。実に良いリズム隊だ。

アルバム・タイトルが『Oak Tree』=「樫の木」。英語圏では「逆境に耐える十字架の木であったり、男性的な力と聖木として崇められていることが多い」とのこと。なんか、この新作のハレルの「柔らかく落ち着いた力強い吹き回し」に通じる、実に良いタイトルですね。ジャケットも不思議と雰囲気があって良い感じ。ハレルの晩年の代表作としても良い佳作だと思います。
 
 

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2022年9月20日 (火曜日)

意味深なエルヴィンとギャリソン

ポリリズミックなレジェンド・ドラマー、エルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones)のリーダー作を聴き直しているのだが、エルヴィンのリーダー作の基本コンセプトは「モード・ジャズ」。

それも、インパルス・レーベルからのリリースの『Coltrane』辺りの、自由度の高い、シーツ・オブ・サウンドと歌心のバランスが取れた「モード・ジャズ」。エルヴィンは「この時代のコルトレーン・ミュージック」が大好きだったんだろうなあ、とつくづく思ったりする。

Elvin Jones & Jimmy Garrison『Illumination!』(写真)。1963年8月8日の録音。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), Jimmy Garrison (b), McCoy Tyner (p), Sonny Simmons (as, English Horn), Charles Davis (bs), William Prince Lasha (cl, fl)。

改めて、この盤を聴き直してみた。エルヴィン・ジョーンズと、ベースのジミー・ギャリソンの双頭リーダー盤。ピアノのマッコイ・タイナーが入っているので、これは、当時のコルトレーンの伝説のカルテットから、親分のコルトレーンを抜いたリズム・セクションになる。そして、フロントは、アルト・サックス or ホルン、バリトン・サックス、そして、クラリネット orフルートのフロント3管。全体でセクステット編成。

パーソネルを見渡して面白いのは、「コルトレーンの伝説のカルテット」のリズム・セクションがそのまま、この盤にスライドしているからか、律儀に親分コルトレーンの担当楽器であるテナー&ソプラノ・サックスをしっかり抜いて、フロント3管を形成している。

演奏の基本は「モード・ジャズ」。それも、親分コルトレーンの得意技「シーツ・オブ・サウンド」抜きの、モード・ジャズど真ん中の時代の「コルトレーン・サウンド」。
 

Elvin-jones-jimmy-garrisonillumination

 
限りなく高い自由度を追求したモーダルな演奏と「音楽」としての歌心を踏まえたメロディアスなフレーズを前提とした「コルトレーン・サウンド」で、ほどよくアレンジされた「ユニゾン&ハーモニーが」聴いて楽しい雰囲気を加えている。

この6重奏団の演奏、コルトレーン・サウンドを踏襲しているのだが、しっかりと親分の担当楽器と得意技をしっかり抜いている。コルトレーンの伝説のカルテットのリズム・セクションを担当している、

エルヴィン、ギャリソン、タイナーが、コルトレーンに「親分、一緒にどうですか、こんなモード・ジャズは。俺たちは、親分と一緒にやる、こんなモード・ジャズが好きなんです」と誘っている様な雰囲気を感じるのは僕だけだろうか。

この盤の録音の後(リリースは1964年)、コルトレーンは、1963年11月に『Impressions』をリリースしていて、その内容は、グループサウンドを横に置いて、唯我独尊、フリー一歩手前の自由度の高いモーダルなフレーズを、高速シーツ・オブ・サウンドで吹きまくるという内容をライヴ録音で披露している。

コルトレーンの伝説のカルテットのリズム・セクションを担当していた、エルヴィン、ギャリソン、タイナーは戸惑ったのでは無いか。この『Impressions』の演奏内容を振り返ると、リズム・セクションは、リズム&ビートだけ正確に供給してくれるならば、誰だって良い、という感じなのだ。実はそうではないのだが、この時期のコルトレーンは、自らの志向を追求することに集中した「唯我独尊」的なパフォーマンスに偏っていた。

グループ・メンバーで、グループサウンドを楽しみながら演奏する、という、バンド・セッションの基本を、このエルヴィン&ギャリソンの『Illumination!』ではしっかりと踏襲している。きっと、ここに戻りたかったんだろうなあ、と僕はこの盤を聴く度に思うのだ。
 
 

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2022年9月19日 (月曜日)

デフランセスコの初リーダー作

今年の8月25日、Joey Defrancesco(ジョーイ・デフランセスコ)が逝去した。現代の現代ジャズ・オルガニストの代表的存在の1人。マルチ・インストルメンタルな面も持ち合わせ、トランペット、サックスにも一定のテクニックを保持し、時には、ボーカルも披露した。しかし、51歳での逝去。惜しまれて余りある、余りに早すぎる逝去であった。

Joey Defrancesco『All of Me』(写真)。1989年の作品。ちなみにパーソネルは、Joey Defrancesco (org), Lou Volpe (g), Alex Blake (el-b), Buddy Williams (ds)、そして、特別ゲストとして、Houston Person (ts)。Columbiaレーベルからのリリース。

デフランセスコの初リーダー作であり、同時にメジャー・デビュー作でもある。デフランセスコは1971年生まれなので、17歳での初リーダー作であり、メジャー・デビュー作であった。騒がれたという記憶は無いが「早熟の天才」ですね。

ジャズにおいて、初リーダー作とは、そのリーダーを担うジャズマンの個性がクッキリと浮かび出た、そのジャズマンの個性をしっかり確認出来るものなのだが、このデフランセスコの初リーダー作についても例に漏れない。

この盤には、デフランセスコのオルガンの個性が溢れている。デフランセスコのオルガンを理解するには、避けて通れない、というか、まず最初の頃に聴いて欲しい初リーダー作である。
 

Joey-defrancescoall-of-me

 
ジャズ盤紹介本やネットのジャズマン情報のデフランセスコ評の中では、デフランセスコは、ジャズ・オルガンの祖、ジミー・スミスの影響を強く受けているとされる。しかし、この初リーダー作を聴けば判るのだが、ジミー・スミスの忠実なフォロワーではない。

確かにジミー・スミスっぽいのだが、ジミー・スミスのオルガンを、ストレートでシンプルな弾きっぷりに変えて、ポップで判り易いアドリブ・フレーズを弾きまくるところが、デフランセスコの個性。音の基本は「アーバンでコンテンポラリーで小粋な」オルガン。ハモンドB-3を自由に操り、様々なフレーズを弾き込む様は「凄み」さえ感じさせる。

このデフランセスコの個性を前面に押し出して、それまでのジャズ・オルガンでは演奏し得なかった、カーペンターズの「Close to You(遙かなる影)」のカヴァーをやっている。この「Close to You」とタイトル曲「All of Me」が素晴らしい出来なのだ。

ジミー・スミスの「ダイナミズム」と「躍動感溢れるファンクネス」を踏襲しつつ、「アーバンでコンテンポラリーで小粋な」フレーズで、ストレートでシンプルに弾き進めている。

この初リーダー作をリリース後、マイルス・ディヴィスのバンドに参加して、アルバム『Amandla』ではキーボードを担当している。つまりは、マイルスも認めた、ジャズ・オルガニストの逸材だと言える。そのデフランセスコならではの個性が、この初リーダー作に詰まっている。

我が国では話題にほとんど上がらないデフランセスコの初リーダー作だが、僕は評価している。良い盤だと思います。
 
 

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2022年9月18日 (日曜日)

ジョン・パットンの初リーダー作

ビッグ・ジョン・パットン(Big John Patton)こと、ジョン・パットン(John Patton)。1935年、米国カンサスシティ生まれ。ハードバップ、および、ソウル・ジャズで活躍したオルガニスト。基本的に、1960年代、ブルーノートのハウス・オルガニスト的存在だった。リーダー作も多く、他のセッションにも結構な数、参加している。

ジョン・パットンのオルガンは、エモーショナルだが、癖が無く、シンプル&ストレート。1950年代のブルーノートのハウス・オルガニストは、かのジミー・スミスであったが、ジミー・スミスのオルガンは、とにかく個性的。レスリー・スピーカーを駆使して、音を増幅して、ダイナミック、かつ、大仰な表現でオフェンシブにガンガン弾くんだが、ジョン・パットンのオルガンはその「逆」と考えて良いだろう。

Big John Patton『Along Came John』(写真左)。1963年4月5日の録音。ブルーノートの4130番。ちなみにパーソネルは、John Patton (org), Fred Jackson, Harold Vick (ts), Grant Green (g), Ben Dixon (ds)。一昨日ご紹介したお蔵入り盤『Blue John』より前の録音。ジョン・パットンの初リーダー作である。

収録曲を見渡すと、全6曲中、スタンダード曲は「I'll Never Be Free」の1曲のみ。3曲が、ドラムのベン・ディクソンの作、残りの2曲がパットン作。ジョン・パットンのオルガンの個性が判り易くなる様に、バンド・メンバーの曲でほとんどを占めている。
 

Big-john-pattonalong-came-john

 
これが大正解で、有名スタンダード曲をオルガンでやると、どこか、イージー・リスニング風に聴こえる時がある。特に、パットンのオルガンの様な、癖が無く、シンプル&ストレートなオルガンは誤解される危険性がある。

バンド・メンバーの自作曲をメインに、気心しれたメンバーで、リラックスして楽しげに、パットンはオルガンを弾き進めている。癖が無く、シンプル&ストレートなオルガンだが、エモーショナルな表現に長けていて、決して単調にはならない。ファンクネスも適量で、オーバー・ファンクな表現に偏ることも無い。実に趣味の良い、小粋なオルガンである。

ギターにグラント・グリーン、ドラムにベン・ディクソン、気心知れた仲間の様なメンバーがパットンのオルガンにピッタリ合ったパフォーマンスを供給する。フレッド・ジャクソンとハロルド・ヴィックという、ちょっと癖のあるテナー奏者が個性的なブロウを披露していて、パットンの癖が無く、シンプル&ストレートなオルガンとの対比が面白い効果を出している。

アルバム全体の印象は「真摯で硬派な」オルガン・ジャズ。オルガン・ジャズが陥り易い、イージーリスニング・ジャズ風な演奏を極力避けているような、エンターテイメント性を排除したファンキー・ジャズといった面持ちは、ジョン・パットンは硬派で実直な、純ジャズ志向のオルガニストであることを感じさせてくれる。
 
 

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2022年9月17日 (土曜日)

Kyoto Jazz Sextet の新作

1960年代以降、我が国のジャズのレベルについては高いものがある。戦前、スイング・ジャズに親しんでいた下地があり、1950年代からの進駐軍経由での本場のジャズの生の経験を活かして、ジャズについては、演奏する方も、鑑賞する方も、米国に次ぐレベルにあったのでは無いか、と感じている。

1970年代に入っても、演奏する方については、米国ジャズ、特に東海岸ジャズに憧れを持ち、米国ジャズのトレンドを追いかけていた。和ジャズならではのオリジナリティーは、まだ確立されてはいない。

和ジャズならではの個性を持ち始めたのは、1990年代に入ってからではないだろうか。1980年代半ばに、米国で「純ジャズ復古」が成った訳だが、この時点で、和ジャズは米国ジャズを追いかけるのでは無く、並走する様になった。

そして、21世紀に入って、山中千尋のデビュー以降、優れた女性ジャズ・ミュージシャンが多数現れ出でて、この女性ジャズ・ミュージシャンが中心となって、21世紀の和ジャズの独特の個性を持つようになる。そして、現在、今でも、和ジャズは独特の個性を保ちつつ、米国ジャズ、欧州ジャズと並走を続けている。
 

Kyoto-jazz-sextetsuccession

 
Kyoto Jazz Sextet『SUCCESSION』(写真左)。2021年11月、2022年1月の録音。ちなみにパーソネルは、類家心平 (tp), 栗原 健 (ts), 平戸祐介 (p), 小泉P克人 (b), 沖野修也(vision, sound effect on 渡良瀬)、そして、featuring 森山威男 (ds)。Kyoto Jazz Sextetの 5年ぶりの新作。Kyoto Jazz Sextetは「ジャズの現在」を表現することをコンセプトとしている。

この新作の音の雰囲気は「コルトレーン・ジャズ」。モード・ジャズを極め、シーツ・オブ・サウンドを極めた、フリー&スピリチュアルに走る直前の、メインストリーム系ジャズの最先端を走っていた頃の「コルトレーン・ジャズ」。ただ、かっての新伝承派の様に、過去のモード・ジャズを焼き直すのでは無く、Kyoto Jazz Sextetならではの解釈で「コルトレーン・ジャズ」をやっている。

特に、フロント2管とピアノは「コルトレーン・ジャズ」の響きをしっかりと宿している。ノンビリ聴いていたら、コルトレーンとマッコイ・タイナーを彷彿とさせる部分があって、あれれ、と思う。但し、コルトレーンの様に「鬼気迫る」ところは無く、出てくるフレーズは洗練されていて、シンプルで判り易い。

「コルトレーン・ジャズ」の「和ジャズの21世紀ならではの解釈」盤が出てくるとは。新しさは感じ無いが、和ジャズの演奏する側のレベルの高さを再認識させてくれる好盤ではある。
 
 

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2022年9月16日 (金曜日)

ジョン・パットンのお蔵入り盤

最近、やっと、オルガン・ジャズ盤については、「聴き直し」のフェーズに入っている。そもそも、アルバムというのは期間をおいて、複数回、聴くのが、僕自身の「習わし」。短期間に集中して聴くと、その時の「ジャズ耳」の感覚だけで判断するので、ちょっと偏った印象になる。自らの「ジャズ耳」も年齢と共に成熟していくので、10年位おいて、再度、聴き込むのが、良い塩梅だと思っている。

Big John Patton『Blue John』(写真左)。1963年7月11日と8月2日の録音。ブルーノートの 4143番。ちなみにパーソネルは、John Patton (org), Tommy Turrentine (tp), George Braith (ss, stritch), Grant Green (g), Ben Dixon (ds)。カタログ番号まで割り振りされながら、録音当時はリリースされず、1986年になって、やっと日の目をみている。ブルーノートお得意の、なぜか「お蔵入り」盤である。

ジョン・パットンのオルガンは、ストレートな音でシンプルな弾き回し。ジミー・スミスの様に、ダイナミックに派手派手しく、どファンキーに弾くオルガンとは「正反対」の音。但し、オルガン独特の音が、嫌が応にもファンクネスを振り撒き、ストレートな音はアドリブ・フレーズの弾き回しがクッキリと浮き出る感じで、聴いていて何だか「スッとする」。
 

Big-john-pattonblue-john

 
そんなジョン・パットンのオルガンがバックに回ると、これがまた、ファンキーで伴奏上手なオルガンに早変わり。そんな伴奏上手なオルガンをバックに、ちょっと捻れて癖のあるジョージ・ブライスのサックスが、とても良い感じで吹き進めていく。そして、ファンクネスだだ漏れのシングルトーンなグリーンのギターが、演奏全体のファンクネスを増幅する。ディクソンのドラムは、そんなフロントの曲者達に、正確なリズム&ビートを供給して盛り立てる。

ジョン・パットンとオルガンとグラント・グリーンのギターが、ちょっと薄めの「こってこてなファンクネス」を供給しているのと、あまりに個性的なブライスのサックスがあるので、イージーリズニング・ジャズ風にはならないが、アルバム全体の印象は「ポップ」。このポップな軽さが、ちょっとブルーノートには合わなかったかなあ、とも思う。

演奏の内容は決して悪く無い。ブライスのサックスの好き嫌いはあると思うが、グラント・グリーンのギターが、ブライスの破天荒な音を、しっかりと「締めて」いるので、あまりブライスの個性的過ぎるサックスは耳に付かない。それでも、当時のブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンは、この盤を「お蔵入り」にした。あの世に行って、ライオンに会えたら、その理由をしっかり訊いてみたい。
 
 

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2022年9月15日 (木曜日)

独の女性ジャズ・オルガニスト

オルガン・ジャズが好きである。もともと、幼稚園の頃から、オルガンか、ピアノか、で悩んだクチである。とにかく、オルガンの音自体が好き。そして、その音で、オフビートでジャジーなフレーズを弾きまくられると、もう「堪らない」。

が、オルガン・ジャズの担い手となると奥が深い。そもそも、我が国では、1960年代から70年代、オルガン・ジャズは「俗っぽさの極み」として軽視されていた。よって、オルガン・ジャズ盤の情報が無い。アルバムも人気が無いので、レコード屋には無い。オルガン・ジャズの情報が入手出来る様になったのは、1990年代、ファンキー・ジャズが再評価されて、こってこてファンキーなジャズが市民権を得てからである。

『Barbara Dennerlein Plays Classics』(写真左)。1988年11月28, 29日の録音。ちなみにパーソネルは、Barbara Dennerlein (org,footbass), Christoph Widmoser (g), Andreas Witte (ds)。独の女性オルガニスト、バーバラ・ディナーリンのジャズ・スタンダード集。オルガンがベースを兼ねる、ベースレスのギター入りトリオ。
 

Barbara-dennerlein-plays-classics_1

 
シンプルな編成だが、オルガンの音に厚みがあるので、意外と充実したアンサンブルが見事。ディナーリンは、硬派でプログレッシブな弾き回しが個性の、ドイツでは人気のオルガニスト。ファンクネスは希薄だが、オフビートを強調した弾き回しはとてもジャジー。欧州ジャズ的なオルガンだなあ、と痛く感心する音である。

そんなプログレッシヴ&ジャジーなオルガンで、ジャズ・スタンダード曲をバシバシ弾いて行くのだから堪らない。よくよく聴いていると、オルガンの音が「映える」スタンダード曲を選曲していることに気付く。「Georgia On My Mind」「Satin Doll」「Take the a Train」など、それまでの著名なオルガニストが演奏してきた「オルガン・ジャズ曲」だが、ディナーリンは、プログレッシヴな「尖った」フレーズを連発して、有名スタンダード曲を新鮮な印象で聴かせてくれる。

ストイックで、しっかりとエッジが立っていて、音の粒立ちは良く、切れ味良く爽快感のあるオルガンは、米国ジャズには無い音で、実に欧州らしいジャズ・オルガンである。スタンダード曲が、これだけスッキリ爽快に聴けるオルガンは、結構、病みつきになる。バーバラ・ディナーリン、我が国では全く無名に近いオルガニストであるが、このジャズ・オルガンの素姓は確かである。
 
 

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2022年9月14日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・249

エルヴィン・ジョーンズのリーダー作を聴き直していて、ドラマーのリーダー作って、面白いなあ、って思う。どれだけ、様々なジャズの演奏方式や演奏トレンドに対応出来るかが、ジャズ・ドラマーとしての「優秀度合い」の指標のひとつになるんじゃないか、と感じている。

優秀なドラマーであればあるほど、様々なジャズの演奏方式や演奏トレンドに対応したリーダー作を出している。1枚1枚、リリース毎に異なったジャズの演奏方式や演奏トレンドに対応したリーダー作を制作するドラマーもいるし、長年の活動の中で、それぞれの時代時代によって、その時代のジャズの演奏方式や演奏トレンドに対応したリーダー作を制作するドラマーもいる。

Al Foster Quintet『Reflections』(写真左)。2022年1月25日、NYでの録音。Smoke Sessions Recordsからのリリース。 ちなみにパーソネルは、Al Foster (ds), Nicholas Payton (tp), Chris Potter (ts,ss), Kevin Hays (p), Vincent Archer (b)。今年79歳になる伝説のジャズ・ドラマー、アル・フォスターがリーダー、2管フロントのクインテット編成である。

マイルスが信頼を寄せ、ロリンズ、タイナー、ジョーヘンら、レジェンド級ジャズマンと共演してきた、伝説のジャズ・ドラマーであるアル・フォスター。フォスターについては、リーダー作は多く無い。今回のこの新盤で、確か8枚目ではないか。逆に共演は多い。僕は、やはり、マイルスとの共演での「趣味の良いジャズ・ファンクなビシバシドラム」が印象に残っている。

で、今回の新リーダー作を聴いてみて、マイルス・バンドでの「趣味の良いジャズ・ファンクなビシバシドラム」は何処へやら、ポリリズミックで柔軟度の高い、エネルギッシュで「小粋な」ドラミング。アルバムの演奏トレンドは「ネオ・ハードバップのモード・ジャズ」。
 

Al-foster-quintetreflections

 
この盤でのアル・フォスターのドラムは、モード・ジャズに完璧に対応し、21世紀のモーダルなドラミングをきっちり披露している。今年79歳になる、大ベテランのドラミングとは思えないほど、ダイナミックでエネルギッシュ。

パーソネルを事前に確認せずに、この新盤を聴いたのだが、アル・フォスターの見事なドラミングがしっかりと耳に残ったのと、フロントの2管、トランペットとサックスの見事なモーダル・フレーズが強く印象に残った。見事というのは、1960年代のモードでは無い、新伝承派のモードの焼き直しでも無い、純粋に「21世紀のネオハードバップにおけるモード」なフレーズを吹き分けているところ。

トランペットは「ニコラス・ペイトン」、今年49歳のハイテクニックな中堅。サックスは「クリス・ポッター」、今年51歳のリリカルで力感溢れるテナーマン。どちらも若い頃から第一線で活躍してきたジャズマンだが、ここまで、コンテンポラリーで新しい響きのモーダルなフレーズを吹きまくるとは思わなかった。

そんなフロント2管を硬軟自在、変幻自在、緩急自在にサポートし、鼓舞するアル・フォスターのドラミング。これが、これまた余裕をかました見事なドラミングで、柔軟度の高いポリリズムが、ピアノのケビン・ヘイズ、ベースのヴィンセント・アーチャーと共に、フロント2管のフレーズをがっちり掴んで、がっちりリードする。

しかし、アル・フォスターの「21世紀のネオハードバップにおけるモード」に完全対応したドラミングを聴いて、優れたドラマーって、全く隅に置けないなあ、という思いを再認識した。それほど、この新盤における、アル・フォスターの変幻自在なドラミングは素晴らしい。アル・フォスターという伝説のドラマー、まだまだ現役バリバリである。
 
 

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2022年9月13日 (火曜日)

キューンの個性の変化を捉える

1970年代のECMレーベルからリリースされた諸作から、耽美的でリリカルな抒情派、前衛的なモーダルな弾き回しで、時にフリー、時にアブストラクトに硬派で尖った、ニュー・ジャズ系のピアニストと目されていたスティーヴ・キューン。

1981年に一旦、ECMレーベルを離れたが、再び、ECMレーベルに戻ったのが、1995年のリーダー作『Remembering Tomorrow』。この盤で、明らかにキューンのピアノは変わったと感じた。

耽美的でリリカルな抒情派な部分はそのままなのだが、前衛的なモーダルな弾き回しで、時にフリー、時にアブストラクトに硬派で尖った個性が後退し、バップな雰囲気の、どこか判り易い「ポップな」弾き回しが前面に出てきた。

そして、1997年の『Sing Me Softly of the Blues』、1998年の『Love Walked In』で、ヴィーナス・レコードからリーダー作をリリースするようになる。ここにきて、キューンのピアノの変化は決定的になる。まず、明るくなった。そして、耽美的でリリカル、幾何学模様的なモード展開、整ったリズム&ビートが判り易くなった。

そして、ジャズ・スタンダード曲を演奏するようになった。前衛的なモーダルな展開が魅力の自作曲中心だったキューンが、ここにきて、ジャズ・スタンダード曲を演奏するようになる。最初は、ヴィーナス・レコードの強い要望があったのかと邪推した。しかし、キューンは筋金入りのジャズ・ピアノ職人。ヴィーナスでの諸作を聴くにつけ、そんな要望に応えるのでは無く、自らがその選択肢を選んだ様に感じた。

Steve Kuhn『Countdown』(写真左)。1998年10月19, 20日、NJ,のVan Gelder Recording Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Steve Kuhn (p), David Finck (b), Billy Drummond (ds)。キューンの個性がダイレクトに伝わるピアノ・トリオ編成。この盤でも、収録曲を見渡せば、結構マニアックなジャズ・スタンダード曲を好んで演奏している。
 

Steve-kuhncountdown

 
この盤は「Reservoir」というレーベルからのリリースになるが、この盤でも、耽美的でリリカルな抒情派な部分はそのままなのだが、 バップな雰囲気の、どこか判り易い「ポップな」弾き回しがメインになっている。しかも、ヴィーナスの諸作に比べて、スイング感が半端ない。この盤での、ハードにスイングするキューンは、まさに「バップ・ピアノ」である。

しかし、1950年代から60年代の旧来のバップ・ピアノの焼き直しでは無く、前衛的なモーダルな弾き回しを織り交ぜながら、モーダルな展開にしろ、コードの基づいた展開にしろ、新しい響き、新しいフレーズを散りばめた、現代の「ネオ・ハードバップ」に通じる、新しい「バップ・ピアノ」に仕上がっているのには恐れ入った。さすがはキューン。硬派で尖った、ニュー・ジャズ系のジャズ・ピアニストの影が、この盤の「バップ・ピアノ」に宿っている。

「Four」や「When Lights Are Low」といった、マイルスの名演で有名なジャズ・スタンダード曲を、キューンの新しいイメージのピアノで切れ味良く再構築しているところなど、実に「小粋」。これまた超有名スタンダードの「Speak Low」では、「マイルストーンズ」のメロディを引用しているところは、まるで、1950年代のハードバップ。

この「Reservoir」盤を聴いていると、やはり、1990年代半ばでの、キューンの個性の変化はキューン自身が自ら企て、自発的に変化したものだということが良く判る。

なにも、ヴィーナス・レコードにそそのかされた訳では無い(笑)。耽美的でリリカルな抒情派な部分そのままに、 バップな雰囲気の判り易い「ポップな」弾き回しのキューンをタイムリーに捉えることが出来たのだから、逆にヴィーナス・レコードはラッキーだった。
 
 

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2022年9月12日 (月曜日)

当時の流行を捉えたエルヴィン盤

ドラマーがリーダーのアルバムって、とても融通が利くと思っている。ジャズには様々なスタイルの奏法や流行(トレンド)があるが、リーダーのドラマーが「うん」と言えば、様々なスタイルの奏法や流行に則った演奏が可能になる。

何故なら、ジャズにおける様々なスタイルや流行は「フロント楽器ドリブン」が殆どで、ドラマーにとっては、その奏法や流行に従って、如何に効果的なリズム&ビートを供給するか、が重要な役割になるからだ。

Elvin Jones『Midnight Walk』(写真左)。March 23 & 24, 1966年3月23日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), Thad Jones (tp), Hank Mobley (ts), Dollar Brand (p), Stephen James (el-p), Don Moore (b), George Abend (perc)。ドラムのエルヴィン・ジョーンズがリーダーの、フロント2管のクインテット編成が基本。曲によって、エレピとパーカッションがサポートに入っている。

昨日ご紹介した『And Then Again』は、ジョーンズ3兄弟、トロンボーンの大御所、J.J.ジョンソンや、モダン・テナーのベテラン、フランク・ウエスがいたりで、1950年代後半に立ち戻ったハードバップな演奏が詰まっていた。

が、その次作のこの『Midnight Walk』では、内容はガラッと変わって、当時のスタンダードな演奏スタイルであったモーダルなジャズと、アフリカン・ネイティヴなワールド・ミュージックの響きを宿したアーシーでファンクなジャズとが混在した、当時の流行をタイムリーに捉えた内容に変化している。これが、いわゆる「ドラマーがリーダーのアルバム」の役得ってもんだろう。
 

Elvin-jonesmidnight-walk

 
モーダルなジャズについては、フロントの2管、モブレーとサドが一手に引き受けている。特にモブレーはモーダルなフレーズを吹きまくっていて、これがモブレーの個性を色濃く反映したモーダルなフレーズで、それまでに無い響きがユニーク。サドのトランペットはそんなモブレーを、しっかりとフロント管のパートナーとして、がっちりサポートしている。

アフリカン・ネイティヴなワールド・ミュージックの響きを宿したアーシーでファンクなジャズについては、これはもう、3曲目の「 Tintiyana」のピアノを聴けば一発で判るんですが、ダラー・ブランド(現・アブドゥーラ・イブラヒム)のピアノが全体の雰囲気をリードする。「Lycra Too?」でのステファン・ジェームスのエレピが、後の「ジャズ・ファンク」の雰囲気を先取りしていて面白い。

こうやって改めて聴いてみて、その内容は意外と面白い。モブレーのモーダルなフレーズも面白いし、ダラー・ブランドの「アフリカン・ネイティヴなワールド・ミュージックの響きを宿したアーシーでファンクな」ピアノのフレーズも面白い。

当然、この当時の流行をタイムリーに捉えた、新しい響きのジャズをしっかり掌握し、しっかりとコントロールしているのは、エルヴィンのドラムである。要所要所でエルヴィンのポリリズミックなドラミングが炸裂する。モーダルなジャズとアーシーなジャズの両方で、エリヴンのドラミングが見事に映える。

エルヴィンのリーダー作として、あまり人気のある盤では無いのだが、聞き直してみて、意外に楽しめた。ジャケがイマイチなので、かなり損をしているが、意外と好盤である。
 
 

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2022年9月11日 (日曜日)

エルヴィンのハードバップ盤

Elvin Jones(エルヴィン・ジョーンズ)をリーダー作を聴き直し始めた。エルヴィン・ジョーンズと言えば、コルトレーンの伝説のカルテットのドラマーとして有名。高速テクニックの過激なモード・ジャズにおける、火を噴くようなポリリズムックなドラミングが彼の個性とされる傾向にあるが、他のリーダー作を聴けば判るが、エルヴィンのドラミングの本質はリーダー作にある。

粘りのあるシャープなドラミング。そして、何本腕があるんだ、この人のタイム感覚はどうなってるんだ、手と足はどうやってバラバラに動いているんだ、と思うほどの圧倒的なポリリズム。そして、硬質なスイング感溢れる、ダイナミックで大らかなドラミング。エルヴィンはなにも、モード・ジャズ専門のドラマーでは無い。ドラムを担当するセッション毎に、リーダーの意図を汲んで、その意図に合わせつつ、自らの個性を反映したドラムを叩き分ける。

Elvin Jones『And Then Again』(写真左)。1965年2月16日と3月18日、2つのセッションでの録音。2つのセッションのパーソネルは、まず1つが、Elvin Jones (ds), Thad Jones (cor), Hunt Peters (tb), Charles Davis (bs), Hank Jones (p), Art Davis (b)。もう1つが、Elvin Jones (ds), J. J. Johnson (tb), Frank Wess (ts,fl), Charles Davis (bs), Don Friedman (p), Paul Chambers (b)。
 

Elvin-jonesand-then-again

 
ドラムのエルヴィン・ジョーンズ自らがリーダー。メルバ・リストンの編曲・指揮による、3管フロントのセクステット編成。2セットのパーソネルを見渡すと、この盤はハードバップ志向の純ジャズである。ジョーンズ3兄弟が揃い踏みしていたり、トロンボーンの大御所、J.J.ジョンソンや、モダン・テナーのベテラン、フランク・ウエスがいたり、1965年の録音なんだが、1950年代のハードバップ全盛期に立ち戻った様な演奏が繰り広げられている。

たた、アレンジについては、メルバ・リストンが担当していて、1965年という時代に合わせた、家庭で聴く音楽として鑑賞に十分耐える、判り易いアレンジと、テクニック優秀で判り易いハードバップな演奏が詰まっている。ややもすれば、イージーリスニング・ジャズ風になりそうなところを、エルヴィンのドラミングが要所要所をビシッと締め、当時として、ベテランの域に達していた重鎮ジャズマン、J.J.ジョンソンやフランク・ウエス、そして、2人の兄貴、サドとハンクが硬派でハードバップなフレーズをバシッとキメている。

とても整った内容のハードバップ演奏。録音当時として新しい何かがある訳では無いが、1965年の時点で、新しい響きのハードバップなフレーズがそこかしこに散りばめられているのには感心する。録音メンバーそれぞれの「矜持」を感じる、素敵なハードバップである。しかし、エルヴィンのドラミングの「ど迫力」には、いつも「仰け反って」しまう(笑)。
 
 

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2022年9月10日 (土曜日)

エルヴィンの「ショーケース」盤

この人のドラミングは個性的。1曲聴き込めば直ぐに判るほど強い個性。粘りのあるシャープなドラミング。そして、何本腕があるんだ、この人のタイム感覚はどうなってるんだ、と思うほどの圧倒的なポリリズム。フロント楽器をポリリズムで煽るところなんぞは圧巻である。その人とは、Elvin Jones(エルヴィン・ジョーンズ)。

Elvin Jones『Puttin' It Together』(写真)。1968年4月8日の録音。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), Joe Farrell (ts, ss, fl, piccolo), Jimmy Garrison (b)。ジョー・ファレルのサックスがフロント1管のピアノレス・トリオ。リーダーのエルヴィンのドラムのパートナーとして、同じコルトレーン・カルテットに所属していた、ギャリソンがベースを担当している。

この盤、エルヴィン・ジョーンズのブルーノート・レーベルでの初リーダー作。プロデューサーは、デューク・ピアソンに変わっている。エルヴィンは、自らのリーダー作の場合、ピアノレスが多い様な気がする。恐らく、ポリリズミックなドラミングでリズム&ビートをリードするエルヴィンにとって、リズム楽器としてのピアノは必要が無いんだろう。旋律楽器としてのピアノは、管楽器があるから必要が無い。
 

Elvin-jonesputtin-it-together
 

この盤は、エルヴィン・ジョーンズの「ドラミングのショーケース」の様な盤。エルヴィンのドラムの個性の全てがこの盤に詰まっている。力感溢れるポリリズミックなドラミングはエルヴィンならでは。しかし、しばらく聴いていると、コルトレーン・カルテットでの叩きっぷりと雰囲気が違うことに気がつく。この盤でのドラミングがエルヴィンのオリジナルなドラミングで、コルトレーン・カルテットでは、コルトレーンの好みのドラミングに合わせていることが良く判る。

これがレジェンド級のジャズ・ドラマーの卓越したテクニックである。エルヴィンのドラミングは、ファンクネスを底に忍ばせた、ジャズ・ファンクなドラミング。加えて、途方も無いポリリズムなドラミングで、硬軟自在、緩急自在、変幻自在な、モーダルなフレーズにパーフェクトに対応している。あらゆるモーダルなフレーズに、それぞれに適したリズム&ビートを供給している。そんなポリリズミックなドラミングに淀み、迷いは一切無い。

充実のブルノート・レーベルでの初リーダー盤。エルヴィンのリズム&ビートに合わせて、ギャリソンの骨太ベースが、強靱なベースラインをフロントに供給する。そんなリズム隊をバックにして、フロントのファレルはとても気持ちよさそうに、サックスをフルートを吹きまくる。自由度の高い、ハイテクニックなモード・ジャズだが、演奏全体が流麗で明るい。当時のジャズの閉塞感を全く感じさせない快作である。
 
 

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2022年9月 9日 (金曜日)

久し振りにフリー・ジャズです

やっと涼しくなってきた。最高気温が30度を切る日が2日続いて、夜になると涼しい北風が吹き込んでくる。日中はまだまだ湿度が高く、蒸し暑い体感はあるんだが、夜になると、いつの間にか、虫の鳴く声が聞こえてきて、いよいよ秋かな、という感じがする。「暑さ寒さも彼岸まで」というが、あと2週間ほどは、もう少しだけ、この日中の蒸し暑さを我慢する必要があるのかな。

Paul Bley, Evan Parker & Barre Phillips『Time Will Tell』(写真)。1994年1月の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Paul Bley (p), Evan Parker (ts, ss), Barre Phillips (b)。ドラムレス、ピアノ、テナー、ベースの3者のフリー・インプロビゼーション。メンバー3人の名前が並列で並んでいるが、実質のリーダーは筆頭のボール・ブレイだろう。

涼しくなってきたので、久し振りにフリー・ジャズを聴く。酷暑の夏にはフリー・ジャズは無理だ。集中して聴いていると体温が上がって、汗がダラダラ流れてくる。涼しくなると、十分にスピーカーから出てくる音に集中することが出来る。フリー・ジャズの面白さは、集中して聴き耳を立てないと気がつかない。フリー・ジャズは「ながら」では無理がある。  
 

Paul-bleytime-will-tell

 
限りなく自由度を前面に押し出した、3者のインタープレイ。音はリリカルで耽美的。フレーズは緩やかなものが主で、ECM独特の深いエコーと相まって、漂うが如く、流れるが如く、広がるが如く、フリー・インプロビゼーションが展開される。透明度が高く、音数の少ない、音の「間」を十分に活かした演奏がメインで、当然、ファンクネスは皆無である。いわゆる「欧州ジャズ」のフリー・ジャズ。

ポール・ブレイのピアノが、この幽玄で墨絵の様なフリー・インプロビゼーションをリードしているようだ。演奏全体の雰囲気に、ブレイの美意識、ブレイの個性が色濃く反映されているように聴こえる。演奏のビートは、フィリップスのベースが担っている。このフィリップスのベースが、硬軟自在、変幻自在、緩急自在にビートをコントロールしていて見事。テナーのパーカーは、ブレイの美意識を十分理解して、ブレイのピアノにソッと寄り添う。

耽美的でリリカル、幽玄で音の「間」を活かした、透明度の高い、緩やかなパフォーマンスが主だが、中に、ちょっと明るい、ビートの効いたフリー・インプロビゼーションもあって、内容的にメリハリが効いていて、長尺のフリー・ジャズ盤だが、飽きは来ない。さすが、ECMレーベル、とても内容の濃い、聴き応えのあるフリー・ジャズをリリースして立派である。
 
 

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2022年9月 8日 (木曜日)

キューンの「ポップ」な側面

このジャズ・ピアノのレジェンドは、僕の最初の印象は「強面」のピアニスト。前衛的なモーダルな弾き回しで、時にフリー、時にアブストラクトに、時にスピリチュアルに展開する、硬派で尖った、ニュー・ジャズ系のジャズ・ピアニストという印象が強かった。

が、1995年のECMカムバック盤『 Remembering Tomorrow』辺りから、リリカルで耽美的で欧州ジャズ風な、正統派でモーダルなピアニストという印象に変わってきた。今では、ストイックで硬質なタッチ、流麗でありながら、フリーにもスピリチュアルにも展開する柔軟さを兼ね備えた、ニュー・ジャズ系のピアニストというイメージが定着している。

Steve Kuhn Trio『Quiereme Mucho』(写真)。2000年2月20日、NYでの録音。ヴィーナス・レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Steve Kuhn (p), David Finck (b), Al Foster (ds)。ニュー・ジャズ系ジャズ・ピアノのレジェンド、スティーヴ・キューン、録音当時61歳のトリオ盤になる。

最初、収録された曲名を見て、ヴィーナス・レコードは、よくまあ、キューンに「アフロ・キューバン」を弾かせたもんだ、と思った。逆に、キューンもよく「アフロ・キューバン」を弾く気になったなあ、とも思った。別に、当時、キューンは仕事に困っていた訳でも無い。不思議な気分でCDのスタートボタンを押す。

あれれ、出てくる音は、硬派でストイック、リリカルで耽美的な「アフロ・キューバン」が出てくるでは無いか。出てくるピアノの音をずっと聴いていると、これはもしかしたらキューンなのか、と判る位、キューンのピアノの個性が際立っている。しかも、「アフロ・キューバン」系の曲を弾いても違和感が無い。思わず、これは凄いぞ、と身を乗り出す。
 

Steve-kuhn-trioquiereme-mucho

 
キューンの凄いところは、自らの個性を客観的に十分理解していて、素材である楽曲に対して、その自らの個性を最大限引き出せる、最大限活かせるポイントを見抜いて、そのポイントに対して、自らの個性を濃厚に反映させる点。

そんな個性を反映するアレンジと弾き方をするのだから、キューンのピアニストとしての卓越したテクニックと表現方法の引き出しの多さについて、改めて再認識し、最敬礼するのだ。

『Andalucia (The Breeze And I):そよ風と私』、『Besame Mucho (Kiss Me Mucho)』、『Quiereme Mucho (Yours)』など、とてもポピュラーで、ジャズ演奏としても「手垢の付いた様な」有名なアフロ・キューバンの名曲を、原曲のイメージを残しつつ、キューンの個性でアレンジし、キューンのピアノならではの表現に変えている。

キューンの耽美的でリリカルなピアノのタッチと響きは、ヴィーナス・レコードの「レーベルの音」にしっかりと合わせてきている。が、キューンのピアノの個性の方が「立って」いるのは見事という他ない。キューンは、アフロ・キューバンとヴィーナス・レコードを素材にして、キューンならではの個性を再提示している。

キューンのピアノの「ポップ」な側面を、ヴィーナス・レコードというレーベルを通じて、初めて前面に押し出している。キューンに、こんなポップな面があったとは、新しい発見であった。ヴィーナス・レコードはキューンを上手く利用しようとしたら、逆に、キューンに上手く利用された、そんな感じのするキューンの好盤である。
 
 

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2022年9月 7日 (水曜日)

ピエラヌンツィ・トリオの新盤

最近、米国ジャズと欧州ジャズ、半々で聴いている。意識している訳ではないが、ここ4〜5年の傾向として、欧州ジャズ&イスラエル・ジャズに内容充実の優秀盤が結構リリースされている。

新盤については、月によっては、確実に米国ジャズを凌駕する月もあって、もはや、欧州ジャズ&イスラエル・ジャズは、米国ジャズの傍らで気分転換に聴く対象では無くなった印象がある。

Enrico Pieranunzi Trio『Something Tomorrow』(写真左)。2021年9月5ー6日、コペンハーゲンでの録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Thomas Fonnesaek (b), André Ceccarelli (ds)。

伊ジャズの至宝級ピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィがリーダーで、伝説のフランス人ドラマー、アンドレ・チェッカレリと、デンマーク人コントラバス奏者、トマス・フォネスベクとガッチリ組んだピアノ・トリオ盤。

改めて、Enrico Pieranunzi (エンリコ・ピエラヌンツィ)である。1949年12月、イタリアはローマ生まれなので、今年の12月で73歳になる。もう、ジャズ界の中でも、大ベテラン、レジェンドの類である。

彼のピアノは流麗かつ端正。音の重ね方、組合せ方を聴けば、ビル・エバンスに大きく影響を受けた、所謂「エバンス派」であることは間違い無いが、本家より、ダイナミックでタッチが強い。加えて、硬質なタッチと正確無比な高速フレーズと洗練されたクリスタルなファンキーっぽさが彼ならではの個性。
 

Enrico-pieranunzi-triosomething-tomorrow

 
収録曲を見渡すと、全10曲のうち、ピエラヌンツィのオリジナルが8曲、そして、フォネスベックの作曲が1曲、さらに、クルト・ヴァイル&アイル・ガーシュインの作曲が1曲。しかし、どの曲も、ピエラヌンツィの叙情的な側面を的確に捉えた曲調で、アルバム全体の統一感は半端ない。

そして、今回、自分として、ピエラヌンツィのオリジナル曲がなぜ好きなのか、が良く判った。僕が大好きで何でも通しの「ベースやコードが変わる」いわゆる、頻繁なチェンジ・オブ・ペースと転調がてんこ盛りなのだ。なるほど、この盤を聴いていて、ふとそう感じた。

この盤、目新しさは無いが、成熟したピエラヌンツィのピアノを聴くことが出来る。欧州ジャズ的な、耽美的でリリカルでクリスタルな音世界の中で、クリスタルなファンキーっぽさを漂わせながら、切れ味良く流麗なバップ・ピアノを弾き回し、硬派なメインストリーム・ジャズを展開する。胸が空くような、正確無比な高速フレーズが爽快である。

バックのリズム隊、ベースのトマス・フォネスベク、ドラムのアンドレ・チェッカレリは、現時点で、ピエラヌンツィの最高のパートナーであることがこの盤を聴いていて良く判る。ピエラヌンツィのピアノをを引き立て、鼓舞しつつ、3者対等で創造力豊かなインタープレイを繰り広げている。

最近の欧州ジャズは隅に置けない。21世紀になって、ネットで欧州ジャズの情報が潤沢に入って来る様になって20年余。欧州ジャズは、伊ジャズは、米国ジャズと肩を並べるほどに深化したんやなあ、と感慨深いものがある、今回のピエラヌンツィの新盤である。
 
 

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2022年9月 6日 (火曜日)

スイス発の「小粋なジャズ」盤

小粋なジャズ盤を探し始めて久しい。が、ジャズ盤の音を初めて耳にして以来、約50年が経過したが、未だに「この盤は聴いたことがない」という、自分にとっての「初出盤」に出会うことがある。特に、我が国では、米国ジャズほどは人気が無く、流通することが少なかった欧州盤は特にその傾向が強い。

Boillat Thérace Quintet『My Greatest Love』(写真)。1975年、スイスでのリリース。ちなみにパーソネルは、Jean-François Boillat (ac-p, el-p [Rhodes] ), Rogelio Garcia (ts, perc), Raymond Therace (ts, as,fl), Roger Vaucher (el-b), Eric Wespi (ds), guest : Benny Bailey (tp, flh)。スイスのワラ・テラセ・クインテットの1970年代レア盤のリイシューとのこと。

スイスですよ、スイス発の純ジャズ盤。1975年と言えば、我が国では米国ジャズがメインで、欧州ジャズはECMレーベルの情報がジャズ雑誌経由で流れてくる程度。欧州ジャズ盤はレコード屋ではまずお目にかかれなかった時代。そんな時代に「スイス・ジャズ」盤である。聴いたことが無いのも無理は無い、と思いつつ、2022年の今、何故にして、この1975年リリースのスイス盤がリイシューされたのか、理解に苦しむ。

しかも、このジャケット・デザインである。最初は見た時は「お洒落な聴き心地の良いジャズのコンピ盤」かと思った。しかし、ジャズ盤というのは「聴いてみるもの」である。
 

Boillat-thrace-quintetmy-greatest-love

 
冒頭の「Prompt」の洒落たフェンダー・ローズの音、軽めだがソウルフルで歌心溢れるサックス&トランペット。端正でソフト&メロウな、エレクトリック・ビートを刻むリズム隊。一聴すると、フュージョン・ジャズかな、と思うのだが、リズム&ビート含めて、しっかりと「純ジャズ」している。

選曲も1975年リリースらしく、フレディ・ハバードの「ジブラルタル」、ケニー・ドーハムの「ブルーボッサ」が入っていて、この演奏が、これまた「小粋」なのだ。クインシー・ジョーンズ・オーケストラやディジー・ガレスピー楽団に参加した、いぶし銀トランぺッター、ベニー・ベイリーがゲスト参加していて、これがまた、雰囲気の良い、リリカルで耽美的でスムースなトランペット&フリューゲルホーンを聴かせてくれる。

ガリガリ硬派の純ジャズ志向の欧州ジャズでは無く、どこかポップでライトで明るいエレ・ジャズ。それでいて、しっかりと「純ジャズ」しているから隅に置けない。リラックスして気楽に聴ける「小粋なジャズ」盤。これが、1975年のスイスでリリースされたというから驚きである。

でもなあ、このジャケットは無いよなあ。ほんと、最初見た時は「お洒落な聴き心地の良いジャズのコンピ盤」かと思いましたよ。
 
 

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2022年9月 5日 (月曜日)

ECMだがジャジーなジョンアバ

ECMレーベルのモットーが「音作りのコンセプトは「The Most Beautiful Sound Next To Silence」(沈黙の次に美しい音)。わずかにリバーブのかかった深いエコーの音作り」。ジャズのフォーマットを踏襲しつつ、現代音楽的な内容を持つ、クリスタルな透明感、切れ味の良い、適度に自由なインプロビゼーション中心の佳作が多くリリースされている。

そんなECMレーベルを代表するギタリストとして、ジョン・アバークロンビー(愛称:ジョンアバ)がいる。ジョンアバは、自身のリーダー作の8割をECMレーベルに残している。ジョンアバの考えるジャズの音とECMの総帥プロデューサー、マンフレット・アイヒャーの求める音とがバッチリ合っていたんだろう。それほど、ジョンアバのギターは「ECMらしい」ギターである。

John Abercrombie『Arcade』(写真左)。ECMの1133番。 1978年12月の録音。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, el-mandolin), Richie Beirach (p), George Mraz (b), Peter Donald (ds)。リーダーのジョンアバのギターがフロントのカルテット編成。ECMではピアノレスの変則な編成がよくあるが、この盤は、リッチー・バイラークのピアノがしっかりと入っている。 
 

John-abercrombiearcade

 
ジャケットは中身の音を表す、というが、この盤はまさにそれ。透明感と浮遊感、静謐感と適度なテンション、漂う様な緩やかなビートに乗った、自由度の高いインタープレイ。とりわけ、ジョンアバの気持ち良く適度に捻れた、サスティーンが効いたロングトーンなフレーズが前面に出て、とても印象的に響き渡る。そして、バイラークのピアノ率いるリズム・セクションもそんなジョンアバを、硬軟自在、緩急自在なリズム&ビートでガッチリとサポートする。

この時点でのピアノのリッチー・バイラークは、まだ耽美的で透明感溢れるピアノを弾いていて、ジョンアバのギターにぴったりと寄り添う。ジョージ・ムラーツのベースも、淀みやブレの全く無い、強靱で柔軟なベースラインをバンド全体に供給する。このすこぶる安定したムラーツのベースが、この番の透明感と静謐感が溢れる、漂う様なビートをしっかりと支えている。

リバーブに包まれた静謐感と浮遊感が印象的な欧州ジャズ。ECMレーベルならではの「即興演奏を旨とするニュー・ジャズ」が、この盤に溢れている。ニュー・ジャズとは言え、ジョンアバのパフォーマンスは、ビートに乗り、即興もモーダルな展開がメインで、しっかりとジャズしている。この「ECMの看板ギタリストの1人でありながら、しっかりとジャズしている」ところが、僕がいつもジョンアバを聴いて、感じ入るところである。ジョンアバは「ジャズ」である。
 
 

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2022年9月 4日 (日曜日)

グリーンのメジャー・デビュー

ベニー・グリーンというピアニストは隅に置けない。日本人好みのピアノを弾くと評されるが、意外と我が国では人気はイマイチ。最近のジャズ・ピアニストの特集などで、現代のジャズ・ピアニストのお勧めで、ベニー・グリーンという名前を見かけたことが無い。しかし、このピアニスト、ネオ・ハードバップにおけるモーダル・ピアノの先駆者として、実に優れたパフォーマンスを聴かせてくれているのだ。

Benny Green『Lineage』(写真左)。1990年1月30日、2月1日の録音。ちなみにパーソネルは、Benny Green(p), Ray Drummond (b), Victor Lewis (ds)。ブルーノート・レコードからのリリース。ネオ・ハードバップのバップ・ピアノを先取りしたピアニスト、ベニー・グリーンのメジャー・デビュー作になる。初リーダー作から3作目にして、メジャー・デビューである。その才能がいかに着目され、期待されていたかが判る。

そして、さすが、ブルーノートである。Matt Pierson(マット・ピアソン)のプロデュースによって、ベニー・グリーンのピアノの個性であ「明るく判り易く、どこかポップな、過去のモード・ジャズな演奏を下敷きにしていない、ネオ・ハードバップのバップ・ピアノを先取りしたモーダルな弾きっぷり」をしっかりと記録している。

Criss Cross時代の2枚のリーダー作と比べて、ベニー・グリーンのピアノ全体の雰囲気は「明るい」。明るくシンプルで端正なモード・ジャズ。この辺りも意外と当時としてはユニーク。1960年代のモード・ジャズが持つ、硬派で真摯でテンションが高い雰囲気の微塵も無い。
 

Benny-greenlineage

 
バックを司る、ベースのレイ・ドラモンド、ドラムのビクター・ルイスのリズム&ビートについても、1960年代のモード・ジャズ独特のリズム&ビートの影を一切反映していない。ベースとドラム、1990年時代で、二人が考える、将来のモーダルなリズム&ビートを叩きだしている。これが、グリーンのネオ・ハードバップのバップ・ピアノを先取りしたモーダルなピアノにぴったり合っているから堪らない。

収録曲は、ボビー・ティモンズ、セロニアス・モンク、エルモ・ホープ、バド・パウエルなど、ジャズのピアニストの歴史を彩る「スタイリスト」達の曲を選んでいる。それぞれ、演奏スタイル、踏襲するトレンド、どれも異なるのだが、その個性は強烈。そんなピアニスト達の自作曲を、グリーンは、グリーンの感覚でモーダルにアレンジし、モーダルに表現し直している。

これって、簡単な様で結構難しいアレンジと弾き回しかと思うのだが、この難度の高いアレンジを、グリーンは「明るく判り易く、どこかポップな、ネオ・ハードバップのバップ・ピアノを先取りしたモーダルな弾きっぷり」で、事も無げに対応している。

今までのジャズ雑誌でのジャズ・ピアノ盤の紹介記事や、ネットでのピアノ・トリオのお気に入り評についても、このベニー・グリーンのメジャー・デビュー作について、そのタイトルが挙がることはまず無い。でも、このトリオ盤は、現代のネオ・ハードバップのモード・ジャズに通じる、「ベニー・グリーンの考えるモード・ジャズ」をしっかりと記録している。ベニー・グリーンを理解する上では避けては通れないメジャー。デビュー盤だと思います。
 
 

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2022年9月 2日 (金曜日)

ジョンアバの個性が良く判る盤

ジョン・アバークロンビー(John Abercrombie)。出身地は米国ニューヨーク州ポートチェスター。ジャズ・ギタリストで、1944年12月生まれ。ジョン・アバークロンビー、長い名前である。僕は以前から「ジョンアバ」と呼んでいる。ウネウネした、気持ち良く適度に捻れたギターを弾くんだが、ジョンアバは、欧州ジャズっぽく、音が濡れている。

John Abercrombie『Characters』(写真)。1977年11月の録音。ECMの 1117番。パーソネルは、John Abercrombie (el-g, ac-gu, el-mandolin)。ジョン・アバークロンビーの、多重録音によるソロ・パフォーマンスの記録。使用楽器は、エレギ、アコギ、エレ・マンドリンとなっている。

この番はなかなか耳にするころが無かった盤。そもそも、日本のレコード会社が扱ってくれない。ECMレーベルの盤でも、人気盤は繰り返しリイシューされるのだが、人気の薄い、マニアックな盤については全くの「無視」。僕がこの盤を初めて耳にしたのは、21世紀に入って、ネット経由でECMの外盤CDが入手し易くなってからである。
 

John-abercrombiecharacters

 
ジョンアバのソロ盤なので、ジョンアバのギターの個性が良く判る。ただ、ソロ・パフォーマンスなので、リズム隊に身を任せ、触発され、自由に弾きまくる「ウネウネした、気持ち良く適度に捻れたギター」は封印している。このソロ盤では、素姓確かな、テクニック優秀、歌心溢れるフレーズ満載の「原点回帰な正統派のニュー・ジャズ志向のギター」を聴くことが出来る。

気持ち良くスルスルとギターを弾き回しているが、良く聴くと結構ハイ・テクニックなことをやっている。多彩な音の響きは、まさに「音の魔術師」。穏やかなトーンで、繊細なタッチのエレギ、さざ波の様に音が押し寄せるアコギ、エスニックに不思議な響きのマンドリン。ロングサスティーンによる独特の浮遊感溢れる、伸びのあるエレギの響きは、いかにも「ECMサウンド」。

ジョンアバの正統派ジャズ・ギタリストの一端を垣間見る様な、聴き応えのあるソロ盤である。ギターのソロがずっと続くので、しっかりと腰を据えて、スピーカーに対峙して、一気に聴き込む事が必要になるが、多彩な音を繰り出す「音の魔術師」ジョンアバである、意外と飽きずに聴き通すことが出来る。聴き終えて、ジョンアバは意外と伝統的なスタイルを重んじる、正統派なギタリストなんだなあ、と改めて思うのだ。
 
 

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2022年9月 1日 (木曜日)

カナダ発の「小粋なジャズ」盤

小粋なジャズは、何も過去の時代のジャズばかりが対象では無い。21世紀に入ってリリースされた新盤の中にも「小粋なジャズ」盤はあるし、フュージョン・ジャズの中にも「小粋なジャズ」盤は存在する。つまりは、米国のハードバップ時代の盤だけが「小粋」じゃ無いし、欧州ジャズ盤にも「小粋」な感覚はある。

Cookers Quintet『Vol.1』(写真左)。2011年のリリース。ちなみにパーソネルは、Ryan Oliver (ts), Tim Hamel (tp), Alex Coleman (b), Richard Whiteman (p), Joel Haynes (ds)。オール・カナダ出身のジャズマンで固められたクインテットの第一集。収録された全8曲、全てが自作曲。ジャズ・スタンダード曲は一曲も無い。これが何だか「潔い」。

ジャズ・スタンダード曲は入っていない。パーソネルを見渡して、知っている名前はいない。2011年リリースの新盤であり、過去の時代のジャズ盤のリイシューでも無い。では、どうして、この盤を手に取って聴くに至ったのか。それはこの「ジャケット」である。とてもお洒落な、爽やかなエロティシズムを感じさせてくれる、女性の写真をあしらったジャケット。へ〜、こんな盤あったんや、と軽い気持ちで聴き始めたのである。
 

Cookers-quintetvol
 

これが、意外と聴き応えがあるのだから、ジャズの裾野は広く、ジャズはグローバルなものなんだ、ということを改めて強く感じた次第。クインテットのメンバー全員、カナダ出身、ですよ。この盤の演奏のレベルは非常に高い。米国の隣国でありながら、カナダの音楽シーンについてはピンと来るものが無かったので、このクインテットの演奏力にはビックリした。

内容的には、それまでのジャズの歴史を振り返るような、メインストリーム系の純ジャズの演奏トレンド、演奏スタイルを踏襲した演奏がズラリと並ぶ。これは「小粋」なことするなあ、と感心した。なるほど、安易にジャズの演奏トレンドやスタイルをどうしても想起して先入観が入る、ジャズ・スタンダード曲を選ばなかった訳だ。

ハードバップ、モード・ジャズ、ファンキー&ソウル・ジャズなどを、自作曲を通じて演奏する。聴いていて、「あれ、どっかで聴いことがある?」と思わせる様な、過去のジャズ資産を踏襲した純ジャズな演奏がてんこ盛り。スタンダード曲を入れずに、スタンダード曲を想起させる、過去のジャズの演奏トレンドやスタイルを前面に押し出して、自作曲を演奏する。まず、この盤の企画自体が「小粋」である。ジャケの良し悪しに関わらず、一聴をお勧めしたい。
 
 

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