完全フュージョンなワシントンJr.
グローヴァー・ワシントン Jr. (以降、ワシントンJr. と略す)って、1980年の大ヒット作『Winelight』まで、全くマイナーな存在だった思い出がある。なんせ『Winelight』がヒットした時、僕は ワシントンJr. って新人だと思ってた。
いや〜凄い新人が出てきたもんだ、と感心して、ADLIB誌でワシントンJr. の経歴を見て、1972年に初リーダー作と知ってビックリした。それまで、レコード屋で ワシントンJr. のアルバムを見たことが無かったのだから無理も無い。Kuduレーベル時代のアルバムは、普通のレコード屋には置いてなかったのでは、と思っている。
Grover Washington, Jr.『A Secret Place』(写真左)。1976年10月、NYのVan Gelder Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (ss, ts), Dave Grusin (ac-p, Rhodes), Eric Gale (g), Steve Khan (g), Anthony Jackson, George Mraz (b), Harvey Mason (ds), Ralph MacDonald (perc), Gerry Niewood (as), John Gatchell (tp)。ホーン・アレンジに David Matthews。プロデュースは Creed Taylor。
この盤もKuduレーベル時代の好盤である。メンバーも前作とガラリと変え、基本編成が「西海岸フュージョン仕様」になった。特に、ディヴ・グルーシンのキーボードと、ハーヴィー・メイソンのドラムが効いている。ホーン・アレンジもマシューズの器用なアレンジで「西海岸フュージョン仕様」。西海岸フュージョンのライトでアーバンでちょっとラフなバックの演奏が、意外とワシントンJr. のソプラノ・サックスと相性が良い。
全曲、通して聴くと、完全にイージーリスニングなエレ・ジャズから、フュージョン・ジャズへの移行が完了した、フュージョン・ジャズならではの音作りがなかなか小粋である。冒頭のタイトル曲「A Secret Place」は、ソフト&メロウなジャズ・ファンク。マクドナルドのパーカッションやソウルフルなコーラスも上手く填まって、ワシントンJr. のソプラノ・サックスが映える。ソフト&メロウなフュージョン色満載である。
続くハービー・ハンコックの名曲「Dolphin Dance」が面白い。グルーシンの印象的なローズの前奏から始まるところから「ソフト&メロウ」。このグルーシンのローズを伴奏に、ワシントンJr. はソプラノ・サックスのソロを吹き続けて行く。ベースは純ジャズ志向のムラーツが担当。基本、ワシントンJr. のソプラノ、グルーシンのローズ、ムラーツのベースの変則トリオの演奏で、フュージョンでは無い、メインストリームな純ジャズ志向のパフォーマンスがとても良い。
3曲目「Not Yet」、ラスト「Love Makes It Better」などは、ソウル・ジャズの影が見えるものの、完全にフュージョン・ジャズなテイスト。こってこて「ソフト&メロウ」な演奏をバックに、ここではワシントンJr. はテナー・サックスを吹いていて、これがちょっと無骨な印象与えているのが面白い。後にアルト・サックスを追加したのも理解出来る。
この盤『A Secret Place』は、ワシントンJr. が「ソフト&メロウ」なフュージョン・ジャズに完全移行を完了した好盤ですね。
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