ピアノ・トリオの代表的名盤・92
ジャズマンの中には、あるタイミングで音の個性がガラリと変わるタイプがいる。ジャズのトレンドに乗るタイミングで変わるジャズマンもいれば、所属レーベルが変わって、そのレーベルのプロデューサーの意向で変わるジャズマンもいる。しかし、いずれの場合も楽器の「音の基本」や「音の響きや癖」は変わらない。
Richard Beirach『Elm』(写真)。1979年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Richard Beirach(p), George Mraz (b), Jack DeJohnette (ds)。 当時は耽美的ピアニストの代表格の1人、リッチー・バイラークがリーダーのトリオ作品。ムラーツのベースとデジョネットのドラムの「リズム隊」が実に強力、かつ、バイラークとの相性が抜群。
バイラークのECMレーベルでの『Eon』『Hubris』『Elm』の耽美系3部作の中の一枚。この3部作は、明らかに「ECMレーベルの音」を具現化しており、ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーの自らの監修・判断による強烈な「美意識」を反映した音である。ECMレーベルの個性に照らしあわせて、リリカルで明快、クールで耽美的という、バイラークのピアノの個性を最大限に引き上げた音である。
リズム隊がムラーツとデジョネットだからだと思うが、3部作の中でもダイナミックな展開になっている。ただ、ジャジーな雰囲気やファンクネスは希薄で、乾いたクリスタルな4ビートもしくは8ビートで、インプロビゼーションが展開される。このリズム隊が、バイラークのピアノの弾き回し感とピッタリ合っていて、多弁なバイラークが活き活きと弾き回している。
アイヒャーの強烈なプロデュースによって、バイラークのピアノの内面にある哀愁感が増幅されている。モーダルな弾き回しではあるが、決して「間」を活かした弾き回しでは無い。どちらかと言えば、多弁でバップな弾き回しである。が、決してうるさくない。ECM独特の深いエコーも邪魔にならない。ECMレーベルの音をよく理解して、バイラークがそのピアノの音をコントロールしているのだ。
このトリオ演奏はバイラークのキャリアの中でも「白眉の出来」。この後、音楽的意見の相違からマンフレート・アイヒャーと袂を分かつことになるのだが、この盤の優れた内容については揺らぐことは無い。バイラークのこの『Elm』を含む「耽美系3部作」は、アイヒャーの強烈なプロデュースと、それに100%応えたバイラークのパフォーマンスの「賜(たまもの)」である。
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