キースのソロ・ピアノの集大成
2017年2月15日の米「カーネギーホール」でのコンサート以降、一切公演を行っていなかったキース・ジャレットが、2度の脳卒中を起こし、音楽活動の復帰が困難な状況にあることを米『ニューヨークタイムズ』紙が報じて3ヶ月が過ぎた。キースは、2018年2月と5月に脳卒中を起こし、左半身が麻痺とのこと。何てことだ。
キースいわく、1年掛けてかなりリハビリしたものの、片手でしか演奏できず、「両手演奏のピアノ曲を聴くと、非常にもどかしく感じる」。本当に辛いだろうな、もどかしいだろうな。自分も死線を彷徨い、大きな手術を経て、リハビリに励みつつ、徐々に社会生活に復帰していった経験があるだけに、キースの状態を思うと胸が苦しくなる。
Keith Jarrett『Budapest Concert』(写真左)。2016年7月、ブダペストのBélaBartók(ベラ・バルトーク)国立コンサートホールでのライヴ録音。2020年10月のリリース。キースのソロ・ピアノ盤である。昨年リリースされた『ミュンヘン2016』のコンサートよりも2週間前に録音されたもの。祖父母がスロベニア系であるキースが、このコンサートを故郷への帰郷のようなものと捉え、特別な想いを携えてのソロ・パフォーマンスだったようだ。
ライヴ盤の前半を聴いていると、聴衆にも説明している通り、バルトークへの生涯の愛着にインスパイアされたソロ・パフォーマンスになっている。いつものフリーな演奏と比べると、その傾向がより強く感じるパフォーマンスだと感じるが、イマージネーション豊かで飽きが来ないのはさすが「キース」。というか、フリーな演奏のベストに近い内容と思料。
この盤の後半がより素晴らしい。「ケルン・コンサート」や「マイ・ソング」での、キース独自の「耽美的でメロディアスで躍動的でジャジー」なパフォーマンスが繰り広げられる。いろいろと評価は分かれるが、この「耽美的でメロディアスで躍動的でジャジー」なキースも他のジャズ・ピアニストの追従を許さない、キースの独特の「孤高の個性」なのだ。これも「キース」。
この盤、聴き通せば、キースのソロ・ピアノの集大成なイメージが漂う。ECMの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーが伝えたかったのは、『今のキース・ジャレットのソロ演奏』=「キース・ジャレットのソロ演奏の集大成」だったのではないか。キースのソロ演奏のベストは「過去」にあるのでは無く「今」にある。そんな想いを強く感じる、素晴らしい内容のソロ・ピアノ盤である。
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