モブレーの作曲の才能の高さ
ブルーノートの総帥、プロデューサーのアルフレッド・ライオンの価値基準は、ジャズというジャンルの音楽を「総合芸術」として捉えていたところにあるんじゃなかろうか、思っている。
ブルーノート・レーベル、特に1500番台、4000〜4200番台にかけて「駄盤無し」と言われる。確かに「駄盤無し」なのだが、初めて聴いた時に「ライオンって、どうしてこの音源をアルバム化したんやろ」と思うものがある。逆に「当時、お蔵入り」した音源については、どれもが「なんでお蔵入りしたんやろ」と思うものばかりである。
『Hank Mobley And His All Stars』(写真左)。1957年1月13日、お馴染みVan Gelder Studioでの録音。ブルーノートの1544番。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Milt Jackson (vib), Horace Silver (p), Doug Watkins (b), Art Blakey (ds)。
フロントにヴァイブのミルト・ジャクソンを加え、リズム・セクションにホレス・シルヴァーのピアノを加えた、確かに、当時のブルーノートの「オールスターズ」である。この人選、このアルバムを聴き終えた後で、なるほどなあ、と感心することになる。
ブルーノートの総帥、プロデューサーのアルフレッド・ライオンは、テナーのハンク・モブレーを「買っていた」。特に、1957年はハンク・モブレー使いまくり。全部で4枚のリーダー作を作らせ、他のリーダーのセッションにも、参加させまくり、である。その「こころ」は何処にあったのか。
この盤はブルーノートにおいて、モブレーにとって2枚目のリーダー作。収録曲はモブレーの自作曲で固めている。当時27歳の若手だったモブレー。そんな若手の自作曲で固めたリーダー作に、ミルトやホレスなど、当時、ハードバップのスター・ジャズメンを参加させている。聴く前はその真意が分からなかった。
ハンク・モブレーは好不調の波が激しい。どうもセッションのメンバーによるところ、つまり相性が強く出る感じなのだ。この盤では、モブレーのテナーは萎縮している訳では無いが(指はしっかり動いている)「神妙で大人しい」。どうも周りを固めたメンバーが、モブレーにとって「気さくに相対できる相手」では無かったようである。加えて、自作曲をこのメンバーで演奏して貰うことに「恐縮」していたのではないか。
逆に、モブレー以外のメンバーは溌剌と演奏している。特にミルト・ジャクソンのヴァイブ、ホレス・シルヴァーのピアノは絶好調。モブレーの自作曲の中で、喜々として素敵なアドリブ・パフォーマンスを展開している。これって、恐らくモブレーの自作曲の出来が素晴らしいのだと思う。曲の出来によって、アドリブの質は変わる。ジャズとはそういうものなんだが、この盤がそれを証明しているようだ。
スタンダード曲を一曲も入れずに、モブレーの自作曲で固めた、アルフレッド・ライオンの真意。恐らく、ライオンはモブレーの作曲の才能を、テナーのプレイ以上に「買って」いたのではないだろうか。だからこそ、リーダーのモブレーが「慎重で大人しい」プレイに終始して、サイドマンのプレイの方が目立つセッションにも拘わらず、この音源をアルバム化したのではないかと感じている。
モブレーのテナー・プレイに着目していたのならば、この盤は「お蔵入り」では無かったか。しかし、ライオンはモブレーの作曲の才能を「買って」いた。だから敢えてこの音源をアルバム化した。そして、サイドマンの溌剌としたアドリブ・パフォーマンスがそれを証明している。この盤は「モブレーの作曲の才能の高さ」を確認する盤だと理解している。
モブレーが控えめに「得意げに」楽譜を差し出している、このアルバムのジャケ写もそれを物語っているようだ。
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