モーダルなケニー・ドーハム
どうにも、僕は「ケニー・ドーハム(Kenny Dorham)」に対して印象が良くない。『Quiet Kenny』という哀愁のトランペット好盤なんかを残していて、ベテランのジャズ者の方から人気を得ているが、僕はどうにもいけない。
このケニー・ドーハムのトランペットの特徴は「ヘタウマ」。誤解しないで欲しいが「下手」と言っている訳では無い。音色は明朗で滑らか。テクニックもまずまず確か。しかし、そのフレーズはちょっと危うい。滑らかにアドリブ・フレーズを吹き進めていくのだが、ところどころで音の端々で「よれる」もしくは「ふらつく」。
この「よれる」もしくは「ふらつく」が、すごく「気になる」。テクニック全体としては水準以上のものがあるのに、フレーズの端々で、フレーズの終わりが、不定期に突然「よれる」もしくは「ふらつく」のだ。聴いていて、そこだけ「オヨヨ」となる。スリリングではあるのだが、精神衛生上、あまり宜しくない。
Kenny Dorham『Una Mas』(写真左)。1963年4月1日の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Dorham (tp), Joe Henderson (ts), Herbie Hancock (p), Butch Warren (b), Tony Williams (ds)。録音時期は1963年、ジャズの多様化の時代。ハードバップから様々な演奏志向のジャズが展開されていた時代。そして、この面子。でもなあ、ドーハムってハードバッパーなんだけど。
結論から言うと、この盤、内容充実の「モード・ジャズ」である。ドーハムのスタイルからすると、完全に「異質」の演奏志向なのだが、フロントの相棒テナー、そして、バックのリズム・セクションの面子を見渡すと、当時の若手精鋭の「モード・ジャズ」大好きメンバー。このメンバーが大人しくドーハムに従って、旧来のハードバップをやるとは思えない。
恐らく、ブルーノートの総帥、プロデューサーのアルフレッド・ライオンが、ドーハムに対して「モード、やってみなはれ」と指導したんではないか。ジャズの世界でも、新しい演奏志向や技術が出てきたら、それに適応するに越したことはない。生き残るためには必要なこと。そういう意味で、ライオンはドーハムに引導を渡したのでは無いかと推察している。
で、ある。この盤で、ドーハムは見事に「モード・ジャズ」に適応している。「よれる」もしくは「ふらつく」ことも全く無い。端正で明確なトランペットで「モーダルなフレーズ」を吹きまくる。
フロントの相棒テナー、そして、バックのリズム・セクションはバリバリのモード・ジャズを展開しているのだが、そのバッキングに対して全く違和感無く、モードなトランペットを流麗に吹き回している。
ドーハムもモード・トランペットはゴツゴツしていないし、雄々しくも無い。思慮深く流麗なのだ。しかも「端正で正確」なトランペット。「なんやドーハム、やれば出来るやん」と嬉しくなる。
ドーハムのトランペットの本質を殺すこと無く、無理をせず「モード・ジャズ」に適応している。これ、ブルーノートの総帥、アルフレッド・ライオンの慧眼のなせる技。この後、1970年代、欧州に渡っても、ドーハムはモード・トランペットを引っさげて、活躍するのだから、先見の明があったと思うし、ドーハムにとっても、大変「実になった」チャレンジであった。
《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
★ AORの風に吹かれて 【更新しました】 2020.08.04 更新。
・『Your World and My World』 1981
★ まだまだロックキッズ 【更新しました】 2020.08.04 更新。
★ 松和の「青春のかけら達」 【更新しました】 2020.08.04 更新。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
東日本大震災から9年4ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
« Buddy Rich Big Bandの秀作 | トップページ | ジャズ喫茶で流したい・185 »
コメント