アート・ファーマーの総合力
アート・ファーマーのエッジが円やかで、ブリリアントなトランペットの音色が良い。音のエッジが丸くて耳に優しいが、しっかりと芯のある音。ブラスをブルブルと響かせる様な、心地良い黄金色の金属音が良い。
この心地良い、印象的なトランペットは、ミドル〜スロー・テンポの曲に実に良く映える。ファーマーもそれを判っているのか、ファーマーのリーダー作は、耽美的で印象的なミドル〜スロー・テンポの演奏が「ウリ」になることが多い。
Art Farmer『Modern Art』(写真左)。1958年9月10, 11 & 14日、NYでの録音。United Artistsレーベルからの録音。ちなみにパーソネルは、Art Farmer (tp), Benny Golson (ts), Bill Evans (p), Addison Farmer (b), Dave Bailey (ds)。リーダーはトランペットのファーマー、後にジャズテットを組む盟友ベニーゴルソンとの2管フロント。ちなみにベースのアディソン・ファーマーは、リーダーのアート・ファーマーと双子の兄弟。
この盤では、アート・ファーマーは速いテンポの曲で、トランペットをバリバリ吹いている。冒頭の「Mox Nix」など、象徴的な演奏で、アートファーマーは、テクニックについても、かなり高度なものを持っていることが判る。ただ、アート・ファーマーのエッジが円やかで、ブリリアントなトランペットの特徴をハッキリと確認出来るのは「ミドル〜スロー・テンポ」の演奏下である。
パーソネルを見れば、テナー・サックスにベニー・ゴルソンがいるので、この盤もさぞかし「ゴルソン・ハーモニー」が炸裂しているんだろうなあ、と推測するのだが、聴いてみるとさほどでもない。ゴルソン・ハーモニーの「キモ」である、独特の響きを宿したユニゾン&ハーモニーをほとんど聴くことが出来ない。従来のハードバップにも聴くことの出来る、通常レベルのアレンジに終始している。
ピアノのビル・エヴァンスについても、この盤では、彼の個性を発揮したパフォーマンスは聴くことが出来ない。他のハードバップに聴くことが出来る平均点レベルでのバッキングに終始している。ベースのアディソン・ファーマーのベースについても、ドラムのベイリーについても同様に平均点レベルの安定したパフォーマンスに留まっている。
この盤、昔も今もアート・ファーマーの代表盤として紹介されているが、どうだろう。ミドル〜スロー・テンポをメインに、リリカルで抑制の効いたクールなブロウのファーマーも、バリバリとハードバッパー風に速いテンポの曲も吹けるんだよ、的な内容で、ファーマーも他のトランペッターと比べても総合的に遜色ない、ということを感じるに留まるのが残念。
ハードバップの盤としては及第点。アート・ファーマーのトランペットの総合力の高さを感じることの出来る盤ではある。誤解無きよう、この盤でも、アート・ファーマーのトランペットについては申し分無い。とても優れたパフォーマンスを発揮している。他の優れた個性的なジャズマン、例えば、ゴルソン、そして、エヴァンスの参加による「化学反応」が不発であることだけが残念なのだ。
《バーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
★ AORの風に吹かれて 【更新しました】2020.04.29更新。
★ まだまだロックキッズ 2020.04.19更新。
★ 松和の「青春のかけら達」 2020.04.22更新。
・チューリップ 『TULIP BEST』
・チューリップ『Take Off -離陸-』
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
東日本大震災から9年1ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
« こんなアルバムあったんや・128 | トップページ | 1950年代後半の仏ジャズの状況 »
コメント