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2020年3月16日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・163

なんだかんだ言っても、ウィントン・マルサリスは、ジャズ・トラペッターの中での屈指のレジェンドである。純ジャズ復古の中核人物の一人として新伝承派を牽引し、ネオ・ハードバップまで深化させた功績は大きい。マイルスやコルトレーンの様な「イノベーター」では無かったが、フュージョン・ジャズの次のトレンドを担い、それを深化させた「プロデューサー」であった。

Wynton Marsalis『J Mood』(写真左)。1985年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Wynton Marsalis (tp), Marcus Roberts (p), Robert Hurst III (b), Jeff "Tain" Watts (ds)。前作までの兄弟フロントを解散し、ウィントンのトランペット1本の単独フロント。そして、バックのリズム・セクションもドラムのワッツは留任したが、ピアノはマーカス・ロバーツに、ベースはロバート・ハーストに代わった。

ブランフォードとの兄弟フロントは、ウィントンにとって何かとやりにくかった様に思う。ブランフォード自身がウィントンに負けず劣らず、ジャズマンの資質に恵まれているのと、ウィントンと同等のリーダーシップの持ち主だったが故に、兄弟フロントを組んだ前2作の内容からすると、曲によっては「どちらがリーダーなのか判らん」雰囲気が見え隠れしていた。当時、ブランフォードとウィントンはジャズに対する志向が異なって来ていたので、今回、ウィントンのワンホーンとなってスッキリした。
 
 
J-mood  
 
 
良く出来た盤である。良いところを上げたら切りが無い。それまでのジャズの演奏トレンドや演奏に関するインフルエンサーのスタイルの全てを融合・圧縮して、この盤の中に散りばめられている。理路整然とした、それでいて理屈っぽくない、ハイテクニックなモード・ジャズ。かなり難度の高いモード演奏を、カルテットのメンバーはいとも容易く、クールな雰囲気でクリアしていく。楽器演奏を体験してきた者にとっては、一瞬、背筋が寒くなる位のスリリングな展開が凄い。

全編オリジナルで固めた「第一期ウィントン」の完成形といえる。ウィントンのトランペットがワンホーンで伸び伸びしている。クールでストレートな表現で、一気にモーダルな表現〜展開を吹き切ってしまう潔さ。そして、マーカス・ロバーツのピアノが素晴らしい。特に、ウィントンがフロントに出た時の、限りなく自由度高く吹きまくるウィントンを、鼓舞しサポートするバッキングの上手さときたら、聴いていて惚れ惚れする。

「抑制の美学」。1960年代前半にマイルスがモード・ジャズで表現した「クールな抑制の美学」が、このウィントンの盤にしっかりと在る。そういう意味で「温故知新」という四文字熟語がピッタリの演奏の数々で、この盤は「純ジャズ復古の一里塚」的存在だと僕は解釈している。ネオ・ハードバップの第一歩とも言うべき、素晴らしく「純ジャズらしいモード・ジャズな演奏」に一度は耳を傾けて欲しい。
 
 
 

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