摩訶不思議な響きのハードバップ
ブルーノートの未発表音源シリーズが「Blue Note Classic LT series」。略称は「BNLT」。録音当時、何故かお蔵入りになった音源ばかりを発掘してリリースしたシリーズ、と評価されてはいるが、中には「まあ、これはお蔵入りの理由が何となく判るなあ」という音源もある。といっても、演奏レベルに問題がある訳では無い。プロデューサーの視点での「お蔵入り」の判断である。
Lou Donaldson『Midnight Sun』(写真)。LT-1028番。1960年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Lou Donaldson (as), Horace Parlan (p), George Tucker (b), Al Harewood (ds), Ray Barretto (congas, tracks 1 & 3-7)。1980年の発掘リリース。〈発掘男〉マイケル・カスクーナの監修&解説。録音した時期は、ハードバップが枝分かれして、それぞれの進化を始めた時期。
ハードバップは、大衆化志向では「ファンキー・ジャズ〜ソウル・ジャズ」、アート志向では「モード・ジャズ」そして「フリー・ジャズ」と、多様化というキーワードの基で、それぞれに進化していった訳だが、この盤では「モード・ジャズ」である。パーソネルを見渡せば、パーラン=タッカー=ヘアウッドのリズム・セクションは、明らかに「新進気鋭のモード・ジャズの担い手」である。
さて、これだけバックに「モード・ジャズ」を配して、古参のバップなアルト・サックス奏者、ルー・ドナルドソン、愛称ルーさんはどんなパフォーマンスを聴かせてくれるのか。ちょっとドキドキするのだ。で、聴いてみると。一言で演奏の印象は「モーダルな演奏が得意な若手ピアノ・トリオをバックに、ルーさんが我が道を行く」。バックがモード・ジャズ志向であっても、ルーさんのアルト・サックスは変わらない。
ルーさんのアルト・サックスは、相変わらずご機嫌でポジティヴな、バップなフレーズを吹き上げている。モードなど何処吹く風。あろうことか、バレットのコンガが入ってファンキーな雰囲気が漂ったりする。モードにコンガ、モードにバップなアルト・サックス。異種格闘技的な独特な雰囲気が漂う。ハードバップ、ファンキー・ジャズ、モード・ジャズのチャンポン。但し、融合までは至っておらず、特別な化学反応は起こっていないようだ。
モードはモードで優れた演奏を繰り広げ、ルーさんはルーさんでバップな優れたブロウを披露、バレットのコンガは殊の外ファンキー。それぞれの個性がしっかり主張していて、摩訶不思議な雰囲気が漂う「異種格闘技ジャズ」。ルーさんのアルト・サックスをメインとして考えた時、バックは敢えて「モード・ジャズ」である必要は無い。そういう観点で「お蔵入り」になったのではないか。しかし、演奏内容は充実している。不思議な響きを宿したハードバップである。
東日本大震災から8年11ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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