聴き易いアンドリュー・ヒル
ブルーノートの未発表音源シリーズが「Blue Note Classic LT series」。略称は「BNLT」。録音当時、何故かお蔵入りになった音源ばかりを発掘してリリースしたシリーズで、1950年代後半から1960年代のお蔵入り音源なのだが、基本的に内容は折り紙付き。この不思議な音源をカタログ番号順に聴き直している。
このシリーズ、何故かお蔵入りになった音源ばかりなのだが、時々、聴いていて「ああ、これは恐らく、この辺が問題になったんだろうなあ」とふと感じる盤が幾枚かある。演奏自体には全く問題無い。どころか熱演、好演ばかり。つまりはプロデュース側の立場から見た時に「何か気になる点」があったんでしょうね。ブルーノート・レーベルの凄いところは、このお蔵入りセッションについても、しっかりギャラを払っているところ。
Andrew Hill『Dance With Death』(写真)。LT-1030番。1980年、ジャズ音源の「発掘男」マイケル・カスクーナによる発掘リリース。1968年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Andrew Hill (p), Charles Tolliver (tp), Joe Farrell (ss, ts), Victor Sproles (b), Billy Higgins (ds)。パーソネルを見ても、録音時期を見ても、これはバリバリ硬派なモード・ジャズだろうな、と当たりをつける。
さて、聴いてみると「あれっ」と思う。聴き易いアンドリュー・ヒル。結構、良いメロディーの曲が並ぶ。良いメロディーが印象的なので、スタンダード曲なんだろうな、と思って資料を見ると、これがまあ、全曲、アンドリュー・ヒルのオリジナル曲なのだ。へ〜、あのアンドリュー・ヒルがこんなに良いメロディー満載のオリジナル曲を作るのか。意外と言えば意外である。
アンドリュー・ヒルのピアノは、一言でいうと「新時代のセロニアス・モンク」。判り易いモンクという感じの、予測可能な範囲で飛んだり跳ねたりするピアノ。「癖の強いピアノ」という表現がまずまずフィットする感じ。加えて、幾何学模様的にスイングするような「捻れ」が個性なのだが、この盤ではその個性が、良いメロディー満載のオリジナル曲によって、中和されているのが気になると言えば、気になる。
この盤のタイトル、日本のキング盤での黒が基調の怪しげなジャケット(写真右)、ヒルのピアノの個性、を頭の中に入れながらこの盤の音を聴くと、基本的に「戸惑う」。やはり、ヒルには「尖った限りなく自由度の高いモード・ジャズ」が良く似合う。ヒルという名を聴いて頭の中に浮かぶイメージとこの盤に詰まっている「良いメロディーの曲」とのギャップが、確かに引っ掛かる。そういう意味では敢えてリリースする必要が無い盤(お蔵入り盤)なのかなあ、と思うのだ。
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