新しい日本人のジャズ・ピアノ
ジャズライフ・ディスク・グランプリ「2019年度ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」の記事を読んでいて、やっと「日本人男子」の若手ジャズ奏者が台頭してきた、と書いた。ほんと、やっとである。この10〜15年ほど、日本人の有望な若手ジャズ奏者といば、日本女子の独壇場だった。それでも昨年度は2〜3名ほどなので、活躍する日本人ジャズ奏者としては、まだまだ「女性上位」は揺るがない。
渡辺翔太『Folky Talkie』(写真左)。昨年12月のリリース。ちなみにパーソネルは、渡辺翔太 (p, rhodes, Wurlitzer), 若井俊也 (ac-b, melodica), 石若駿 (ds, glocken), 吉田沙良 (vo)。女性ボーカル入りのピアノ・トリオ。リーダーの渡辺のキーボードは、アコースティックとエレクトリックの両刀使い。ベースはアコースティック一本と頼もしい。鉄琴のような音がするぞ、と思ったら「グロッケン」。
使用楽器を見渡して、また、女性ボーカルが全10曲中5曲ということからしても、演奏の内容は「現代のコンテンポラリーな純ジャズ」。基本は純ジャズなんだけど、どこかポップなイメージとイージーリスニングな雰囲気が見え隠れする。基本的に気楽に「聴いてもらえる」ジャズを狙っているように感じる。女性ボーカル入りの楽曲の存在が、昔のフュージョン・ジャズの雰囲気を醸し出す。
さて、渡辺本人のピアノ、キーボードは、男性のピアノなので、さぞかしマッコイ・タイナーの様に「ガーンゴーン」と強いタッチで弾きまくるハンマー奏法か、高テクニックをベースに、オスカー・ピーターソンの様に高速フレーズを弾き回すのか、と思いきや、そうはならない。繊細にして流麗なピアノタッチ、印象的な透明度の高いフレーズ。そう、キース・ジャレットをポップにライトにした様なピアノ。聴き味はマイルドで耳に心地良い。
吉田沙良のボーカルは全くジャズらしくない。どちらかと言えばポップスなボーカルで、ジャズらしい癖は全く無い。これが不思議な雰囲気を醸し出す。そして、この盤をじっくり聴いていて思うのは、若井のベース、石若のドラムの「リズム隊」の素性の良さ。決して、どっぷりジャズに傾かず、ジャズとポップスの中間をいく様な、ファンクネス皆無な乾いたオフビート。このリズム隊のパフォーマンスも聴きもののひとつ。
日本人のジャズ・ピアノとして、新しい響きが魅力です。1988年2月生まれ、今年で32歳のまだまだ若手のピアニスト、渡辺翔太。キースの様なリリカルで透明度の高いアドリブ・フレーズ。日本人の女性ジャズ・ピアニストより、繊細にして流麗なピアノタッチ。それでいて、ポップでライトなピアノは意外と個性的。次作以降、どの路線で攻めていくのか、楽しみである。
東日本大震災から8年10ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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