ECMの「お抱えトランペッター」
欧州ジャズの雄、ニュー・ジャズのショーケース的レーベル「ECM」。楽器別に見てみると、意外や意外、トランペットが手薄なのに気がつく。何の資料も見ずに、いきなり「ECMレーベルのトランペッターは?」と問われたら、ケニー・ホイーラーがまず浮かんで、エンリコ・ラバ、う〜ん、それまで。って感じ。調べたらもっといるんだろうけど、どうも僕の印象は「ECMレーベルはトランペッターが手薄」なのである。本当のところ、どうなんだろう?
さて、ECMレーベルのトランペッターといえば、まず浮かぶのが「ケニー・ホイーラー」。そのホイーラーの初期の好盤がこれ、Kenny Wheeler『Gnu High』(写真左)。1975年6月の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Wheeler (flh), Keith Jarrett (p), Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)。リーダー、ケニー・ホイーラーの、この盤ではフリューゲルホーンのワンホーン・カルテット。
ケニー・ホイーラーはカナダ出身、英国を活動拠点とするトランペッターである。2014年9月、惜しくも84歳で鬼籍に入った。生涯のキャリアの中で、ECMレーベルにかなりの数のリーダー作をはじめ、演奏参加した多数の作品があって、ECMレーベルの「お抱えトランペッター」と言って良いだろう。
そして、バックに控えるリズム・セクションが凄いメンバー。ピアノにキース・ジャレット、ベースにデイブ・ホランド、ドラムにジャック・ディジョネット。ECMレーベルだからこそ出来る、思いっきり贅沢なワンホーン・カルテットである。「これ、ホイーラー、名前負けしないのか」と思わず心配になる位のリズム・セクションである。ECMの総帥マンフレート・アイヒャーだからこそ出来たブッキングである。
で、その内容であるが、基本は「ECMのニュー・ジャズ」。ファンクネス皆無、限りなく自由度の高い、即興中心の演奏形態。この盤ではモード・ジャズから入るが、途中から軽いフリー・ジャズに突入。アブストラクトでは無いが、相当に自由度の高いフリー・ジャズ。それぞれの楽器が必要最小限のルールを守りながら、思い思いに即興演奏を繰り広げる、インタープレイ中心のフリー・ジャズ。ホイーラーのフリューゲルホーン、大健闘である。
面白いのは、キース・ジャレット。キースが他の誰かのバックを務めることは希である。この盤では、どういう経緯でバックを務めるようになったかは知らないが、聴けば確かにキースは誰かのリーダー作のバッキングには向かないと感じる。この『Gnu High』でも、リーダーのホイーラーのフリューゲルホーンを全く気にせず、自分の個性を思いっきり前面に押し出した即興ピアノを延々と弾き続けている。
キースのピアノだけピックアップしたら、キースのピアノのソロアルバムが出来るのでは、と思う位だ。恐らく、そんなキースの「我が道を行く」雰囲気が、ECMのマンフレート・アイヒャーをもってしても、以降、キースをバックのリズム・セクションにほとんど採用しなかった大きな理由である様な気がしている。
欧州ジャズのフリー・ジャズのひとつのサンプルがこの盤に詰まっている。アブストラクトに偏らず、エモーショナルに溺れず、聴き易いライト感覚で端正な欧州のフリー・ジャズ。そんな雰囲気の色濃いこの盤の中で、やはりリーダーのホイーラーのフリューゲルホーンが一番目立っている。キースの参加ばかりが取り立たされるアルバムではあるが、実際には、ホイーラーのフリューゲルホーン(トランペット)を体験するに良い盤と言える。
東日本大震災から8年。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
« ブルーノート流ボサノバ・ジャズ | トップページ | 「ファンキー・ジャズ」の完成形 »
コメント