メルドーのピアノ・トリオの深化
近代のジャズ・ピアノが確立されて、もう60年以上が経ったことになる。ピアノ・トリオとしては、バド・パウエルがその基本スタイルを確立して、インタープレイがメインの現代ピアノ・トリオの始祖はビル・エヴァンス、そして孤高の人、オスカー・ピーターソン。それから、モードの時代以降は、ハービー・ハンコック、チック・コリア、キース・ジャレットがジャズ界を席巻し、それから、である。
1980年代後半からの純ジャズ復古以来、目立ったリーダー役のピアニストが不在だった。が、2000年代になって、ジャズ・ピアノの指針のひとつとなったピアニストが「ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)」。僕もこのメルドーのピアノは好きで、彼の初期の頃のリーダー作「The Art of the Trio」シリーズは今でも聴き直している位だ。
Brad Mehldau Trio『Seymour Reads the Constitution!』(写真左)。2018年のリリース。ちなみにパーソネルは、Brad Mehldau (p), Larry Grenadier (b), Jeff Ballard (ds)。メルドーの鉄壁のトリオである。全8曲中、3曲はメルドーのオリジナル、ポップ&ロック系の曲のカヴァーについては、ポール・マッカートニーの「Great Day」、ブライアン・ウィルソンの「Friends」をカヴァーしている。
メルドーのピアノは相変わらず個性的で素敵だ。力感溢れる耽美的な右手、コードの呪縛を逃れ、自由にベースラインを動き回る左手。メルドーのピアノは、21世紀に入ってからのジャズ・ピアノの指針の1つであったことは確か。この最新作でもメルドーのピアノは「安定」の一言。メルドー独特のフレーズもそこかしこでキメまくっていて、安定の「聴き応え」である。
メルドーの鉄壁のトリオを聴いていて、何時もながら、ラリー・グレナディアのベースとジェフ・バラードのリズム・セクションに耳を奪われる。この柔軟自在、硬軟自在のリズム&ビートはなかなか無い。メルドーが奏でる様々なフレーズに、クイックに柔軟に追従し、堅実なサポートを供給する。このリズム・セクションあってのメルドーの個性的なピアノがある、と言っても良いだろう。
このメルドーの新作には「変革」や「進化」は無い。しかし、確実にメルドーのピアノ・トリオの「深化」が聴いてとれる。テクニック的にもアドリブ展開のイマージネーションについても充実度は高く、ピアノ・トリオとして「高水準」を維持しているのは立派だと思う。ピアノ・トリオ者にとっては避けられないメルドーの新作である。
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