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2019年2月の記事

2019年2月28日 (木曜日)

JLCOのジョン・ルイス作品集

リンカーン・センターは、ニューヨークのアッパー・ウエスト・サイドにある総合芸術施設。そのセンターの1部門が「Jazz at Lincoln Center(略称JALC)」。JALCの芸術監督はウィントン・マルサリス。このウィントンが率いるジャズ・オーケストラが「Jazz at Lincoln Center Orchestra(JLCO)」。JALCの常設オーケストラである。ウィントンが主宰するジャズ・オーケストラなので、設定されるテーマは真面目そのもの。

そう言えば、最近、ウィントンの新作を見なくなった。いつの頃からか、ブルーノート・レーベルからの新作のリリースが途絶え、マイナー・レーベルから何枚かリリースしている。逆に、ウィントンが出演するアルバムはJLCOものが半数以上を占めるようになる。つまり、21世紀に入ってからは、ウィントンを聴くなら「JLCOもの」は外せない、という状況になっている。

Jazz at Lincoln Center Orchestra『The Music of John Lewis』(写真左)。今回、なかなか楽しめたJLCOものがこれ。2013年1月19日の録音。モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)のピアニストであり、音楽監督でリーダーでもあるジョン・ルイスの作品集。ジョン・ルイスはクラシックに根ざした音楽理論をジャズに持ち込んだりして、ちょっとアカデミックなところがあるんだが、作曲家としてはなかなか印象的な曲を沢山書いている。
 

The_music_of_john_lewis_jlco  

 
そんなジョン・ルイス作の名曲の数々を、ウィントン・マルサリス率いる名門JLCOがスモールコンボ編成からビッグバンド・スタイルまで様々なフォーマットで演奏している。これが聴きもの。全編に渡ってアレンジがふるっている。演奏の編成ごとに最適なアレンジが施されていて、曲毎に明確な変化があって聴いていて楽しい。ジャズならではのアレンジの多彩さを存分に楽しむ事が出来る。

このアルバムでも、ウィントンのトランペットは申し分無い。非の打ち所が無くて逆に印象に残りにくいのが玉に瑕ではある。逆に、ニューオリンズのジャズピアニスト、ジョナサン・バティストをフィーチャーした演奏の数々は印象に強く残る。ジョン・ルイスの曲のフレーズが米国南部のルーツ色豊かなジャズ・ピアノにぴったり合うとは、ちょっとビックリである。

ジョン・ルイス作の楽曲を判り易くポップにアレンジして、オーケストラで演奏するなんて発想がユニークですね。そんなユニークな発想を、ジャズとして先端をいく「ネオ・ハードバップ」な演奏に昇華しているところはJLCOのポテンシャルの高さを物語っています。ジョン・ルイス作の楽曲のフレーズを楽しむも良し、ジャズ・オーケストラの変幻自在な演奏を楽しむも良し、この「JLCOもの」は、なかなかの内容です。

 
 
東日本大震災から7年11ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2019年2月26日 (火曜日)

「サラッとした耽美的な」響き

David Hazeltine(デビッド・ヘイゼルタイン)。米国ミルウォーキー出身のジャズ・ピアニスト。1958年10月生まれなので、現在60歳の還暦。大ベテランの域である。同じ世代なので親近感もある。彼と出会ったのは、ヴィーナス・レーベル盤『Alice in Wonderland』であった。バップからモードまで、幅広いスタイルに精通し、その多様性溢れるフレーズが個性。確かなタッチの響きは「硬派で耽美的」。

そんなヘイゼルタインの最新作になる。David Hazeltine『The Time is Now』(写真左)。2018年5月23日の録音 。ちなみにパーソネルは、David Hazeltine (p), Ron Carter (b), Al Foster (ds)。レジェンド級をベースとドラムに持って来て、期待以上の化学反応が起こるか、平凡な水準レベルで終わるか、真ん中の無い、思い切ったメンバーの選定である。聴き前から期待感が膨らむ。

聴いてみると、冒頭の自作のタイトル曲「The Time is Now」で既によく判るが、サラッとしたシンプルで耽美的なアレンジがこの盤の特徴。ナルシストを彷彿とさせる様な「ディープな耽美的」な表現では無く、ビ・バップに通じる様な、硬派で堅実でサラッとした耽美的な響き。テンポはミッドテンポが多くて、ゆったり落ち着いて聴くことが出来る。ファンクネスは希薄だが、タッチはハッキリとしていて躍動感がある。
 

The_time_is_now  

 
ヴィーナス・レコード時代の「ディープな耽美的な」響きではなく、「サラッとした耽美的な」響きがこのトリオ演奏の身上。アレンジもサラッとしているが、聴き応え十分に感じるのは、ヘイゼルタインのピアノのタッチが明快で、硬派で堅実で耽美的なフレーズがクッキリと浮き出てくるからだろう。3曲目の「Smoke Gets in Your Eyes」や9曲目の「In a Sentimental Mood」の様な、超有名なスタンダード曲を聴くと良く判る。

ロン・カーターのベースが良い。以前の様に前へ前へ出なくなって、楽器のピッチが合うようになって、落ち着いた良い感じになってきていたのは知っていたが、それにも増して、この盤でのロンのベースは実に雰囲気がある。ガッチリ構えて、堅実かつ自由度の高いベースでフロントを鼓舞する。アルのドラミングは相変わらず味が合って立派。伴奏上手なドラミングの好例だろう。バッキングとして実に「粋」なドラミングである。

良いピアノ・トリオ盤だと思います。途中、どっかで聴いた曲やなあ、と思っていたら、James Taylorの「Don’t Let Me Be Lonely Tonight」でした。ピアノ・ソロでカヴァっていて素敵です。現代の洗練されたネオ・ハードバップなピアノ・トリオ。そんな演奏を平均年連60歳以上のトリオが演る。ならではの円熟味と洗練さが心地良くて「粋」。ピアノ・トリオ者の皆さんにお勧めの一枚です。

 
 
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2019年2月25日 (月曜日)

アラスカを彷彿とする演奏の数々

しかし、毎月毎月、全世界でジャズの新盤がよくこれだけ出るもんだと感心する。ジャズはマイナーでオタクな音楽だ、とか、ジャズは死んだ、など、いろいろと言われてきたが、21世紀に入って、約20年経つんだが、結構な数のジャズの新盤がリリースされている。売れるのか、生業になるのか心配になる。

そんなジャズの新盤の中で、そのリーダーの素性やパーソネルの構成がよく判らなくても、触手が伸びてしまうアルバムが常にある。今回はこれ。Accidental Touristsのセカンド盤である。まず「Accidental Tourists」って何だ?、そしてアルバムタイトルが「アラスカでのセッション」。思わず触手が伸びる。ジャケットに演奏するメンバーの名前があるのに気がついて、その名前を確認してゲットした。

Accidental Tourists『The Alaska Sessions』(写真左)。今年に入ってのリリース。「Accidental Tourists」とはトリオ名。ちなみにパーソネルは、Markus Burger(p), Peter Erskine(ds), Bob Magnusson(b) のピアノ・トリオ。2018年10月の録音。リーダーのマーカス・バーガーはドイツ出身のピアニスト、ボブ・マグヌッソンは米国出身のベーシスト、そこに元ウェザー・リポートの伝説のドラマーであるピーター・アースキンが加わっている。
 

The_alaska_sessions  

 
マーカス・パーカーのピアノは明らかに「エヴァンス派」。耽美的で印象的なフレーズが美しい。エヴァンスを21世紀に連れてきて現代の響きを取り入れた感じの、欧州的響きが個性な「エヴェンスの雰囲気濃厚なピアノ」。そこに米国出身のリズム・セクションがバックを務める。乾いた、ややファンキーでアーバンなリズム&ビート。この米国リズム・セクションは、濃厚な欧州的雰囲気を良い塩梅に緩和している。

耽美的な、ビル・エヴァンス的なピアノではあるが、決してレトロでは無い。現代の新しい響きと節回しを持った、現代のピアノ・トリオである。タイトル通り、アラスカの風景をピアノの音で表現した様な、耽美的で美しい凛とした響きのピアノが良い。適度なテンションも良いスパイスとなっていて、すっきりシンプルなピアノ・トリオではあるが、意外と重量感もある「欧州的ピアノ・トリオ」な佇まいが良い。

この盤のメインとなる楽曲はマルクス・バーガーによってアラスカで書かれたものとのこと。なるほど、全編に渡って典雅で耽美的なメロディーが印象的で、アラスカの雄大な自然を彷彿とする演奏の数々が聴き応え満点です。ジャケットもそんな雰囲気を彷彿とするもので、最初に見た時は、ECMレーベルの新盤かと思いました。でも音は違います。明らかに「Accidental Tourists」の音でした。好盤です。

 
 
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2019年2月24日 (日曜日)

リピダルの一人即興+多重録音

ECMレーベルの個性的な音は、1970年代後半にジャズを聴き始めた自分の耳には衝撃だった。ジャズと言えば「米国」、それも「ハードバップ」。ECMの音は違った。クラシックの様でもあるが、演奏の基本は即興演奏。ファンクネスは皆無で透明度の高く、クリアな音だが、出てくるビートは「オフビート」。当時の言葉で言うと「ニュー・ジャズ」。

Terje Rypdal『After The Rain』(写真左)。1976年8月の録音。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (g, syn, p, ss, fl, bells, tubular bells), Inger Lise Rypdal (vo)。ECMを代表するノルウェー出身のギター奏者、テリエ・リピダルの好盤。この盤は殆どが彼のソロ。多重録音で幾つかの楽器を重ねている。ヴォイスについて、当時の奥方が担当している。

多重録音なんだが、どこか「プログレッシブ・ロック」の雰囲気がプンプンするフレーズが満載。リピダルの浮遊感溢れるエレギとキーボードとの耽美的で印象的なデュオの様な展開。決して、ハードバップなビートの効いた演奏では無い。しかし、演奏の基本は「即興演奏」で、そのリピダルの「一人即興演奏」の妙が実に印象的で、実にアーティスティック。
 

After_the_rain_1  

 
リピダルのエレギは決してストレートでは無い。浮遊感溢れる、適度に捻れたロング・サスティーン、印象的で耽美的なフレーズ、無ビートでは無いが、幻想感溢れる雰囲気が濃厚で、即興演奏をベースとしているところが、唯一この演奏をジャズとする拠りどころ。モーダルな展開とフリーな展開が融合した、独特の音世界を創作している。

冒頭の「Autumn Breeze」での奥方のコーラスも幻想的で効果的。この奥方のコーラスの存在が、このリピダルの人工的な多重録音に人間的温もりを与えていて、この多重録音も人間の成せる技なんだ、ということを再認識させてくれる。クラシックの楽曲の様に整然と統制のとれた演奏では決して無く、自由度が高く浮遊感の強い、クラシックでは絶対にあり得ない、正反対の音世界である。

これが実にジャズらしく響くのだから面白い。ECMレーベルらしい深いエコーもこの盤の演奏には、実に効果的に作用している。このリピダルの「一人即興演奏+多重録音」の音世界は、とても「ECMレーベルの音」らしい。ECMを代表するアルバムの一枚でしょう。ジャケットも実にECMレーベルらしい。良いアルバムです。中堅ジャズ者以降向け。

 
 
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2019年2月23日 (土曜日)

メイバーンの最新ライブ盤は見事

ジャズ・ピアニストについて、その個性は明らかに違いが判る。大体1〜2分聴けば、有名なレジェンド級のピアニストだったら、何となく誰のピアノなのかが判るくらいだ。わざとその個性の違いが判る様に、ピアニスト自身が、それまでに出てきたレジェンド級のピアニストの真似は決してしない、と示し合わせているのでは、と疑いたくなるくらいだ。

この人のピアノ、僕は最初に聴いた時から、ズッとお気に入り。両手のブロック奏法でスケールの広い弾きっぷりが見事。よく回る右手はファンキーで多弁。左手の力感溢れるオフビート。耽美的なピアノや、音の空間を大事にする音を厳選したピアノを良しとする人達からは、思いっきり避けられるピアノですが、僕はこの人のダイナミックなピアノが好きです。

Harold Mabern『The Iron Man:Live at Smoke』(写真左)。2018年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、Harold Mabern (p), Eric Alexander (ts), John Webber (b), Joe Farnsworth (ds)。2017年12月17日からNYのジャズクラブ、スモークで行われた「カウントダウン2018-ジョン・コルトレーン・フェスティバル」でのライブ録音。
 

The_iron_man  

 
メイバーン、良い音、出してます。そう、リーダーは、ピアニストのハロルド・メイバーン。テネシー州メンフィス生まれが、彼のピアノの音に反映されているのか、ファンキーでゴスペルっぽいハーモニーが素敵な「両手のブロック奏法」。ダイナミズム抜群、爽快感溢れるハードバップなピアノは明らかに「ハロルド・メイバーン」。気持ちがスカッとする弾きっぷりは見事。

印象的な力感溢れるテナーは、エリック・アレキサンダー(略してエリアレ)。エレアレのテナーは絶好調。メイバーンの下でエレアレがフロントを務めるこのカルテット構成は既に30年以上が経過している。それほどまでに、それぞれの演奏は充実していて、内容が濃い。一糸乱れぬユニゾン&ハーモニーとイマージネーションと統率が共存するアドリブ展開。とっても良く鍛錬されたカルテット。

CD2枚組のボリュームですが、メイバーンとエレアレのパフォーマンスが群を抜いていて、聴き応え十分、最後まで飽きることはありませんでした。メイバーンも最初から最後までピアノを弾きまくりで、「アイアン・マン」の異名にも納得できるパフォーマンス。こういうネオ・ハードバップなライブ盤は素敵です。この盤、思わず最近の「ヘビロテ盤」になりました。

 
 
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2019年2月22日 (金曜日)

ハンクのピアノの個性を知る

ハンク・ジョーンズが亡くなってもう8年が経つ。端正でタッチが明確で流麗。仄かにファンクネス漂う、テクニック確かな右手としっかりと音のボトムを支える左手のブロック・コード。ソロ・パフォーマンスも優れているが、歌伴も素晴らしい。僕はジャズを聴き始めた頃の「グレート・ジャズ・トリオ」のハンクのピアノが大好きだ。

Hank Jones『The Talented Touch』(写真左)。1958年の録音。ちなみにパーソネルは、Hank Jones (p), Barry Galbraith (g), Milt Hinton (b), Osie Johnson (ds)。ギター入りピアノ・トリオといった感じの編成。演奏されている全12曲中、ハンク自作の「Let Me Know」以外、ジャズ・スタンダード曲か、ミュージシャンズ・チューン。これが良い。ハンクのピアノの個性と特性が良く判る。

とにかくハンク・ジョーンズのピアノが素晴らしい。まずテクニックが確か。そして、タッチが明確で端正。強すぎず弱すぎず、聴いていて耳に優しく、しっかりと印象に残る「良い塩梅」のタッチ。アドリブ・フレーズはファンクネス漂いつつ流麗。とても判り易いピアノで、聴いていて「上手いな〜、粋やな〜、ええ雰囲気やな〜」と直ぐに思う。
 

The_talented_touch

 
1918年生まれなので、このアルバムを録音した1958年の時点で、ハンクは40歳。中堅どころとして心身共に充実している頃。確かに、この盤でのハンクのタッチはファンキーであるが、キラキラしていて若々しい。バラードを弾かせたら天下一品。このアルバムでもハンクのバラード演奏は典雅で印象的。甘きに流れず、それでいてロマンチシズム漂う端正な展開は思わず聴き惚れてしまう。

ハンクのテクニックが確かなのは「Don't Ever Leave Me」や「Let Me Know」のミッドテンポな演奏で良く判る。指がよく回るし、タッチがしっかりしていて、音のひとつひとつが明確。躍動感はあるし、響きはポジティヴ。ハンク・ジョーンズのピアノの素性、個性、特徴が本当に良く判る。この『The Talented Touch』、ハンク・ジョーンズのピアノを知るには、避けて通れない隠れ好盤である。

ちなみにこのハンク・ジョーンズ、バリー・ガルブレイズ、ミルト・ヒントン、オシー・ジョンソンの四人は「ザ・ニョーヨーク・リズム・セクション」と呼ばれ、1950年代、数多くのアルバムのバックでリズム&ビートを支えたリズム隊。そんなリズム隊だけで録音したアルバムがこの『The Talented Touch』。タイトルの「The Talented Touch」とは「才能のあるタッチ」の意。納得感のあるタイトルである。

 
 
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2019年2月21日 (木曜日)

典型的なECMレーベルの演奏

若き日のポール・モチアンのどアップのジャケットに思わず「引く」。印象的なジャケットが多いECMレーベルにしては、これは珍しい、リーダーのどアップでリアルな写真ジャケ。しかも、当時は30㎝LPの時代なんで、このモチアンのどアップなジャケットで、ある意味、迫力があったでしょうね(笑)。

Paul Motian『Tribute』(写真・右は別ジャケ)。1974年5月の録音。ちなみにパーソネルは、 Paul Motian (ds, perc), Carlos Ward (as), Sam Brown (g), Paul Metzke (el-g), Charlie Haden (b)。モチアンのドラムに、ヘイデンのベース。カルロス・ワードのアルトに、ブラウンとメッツクのギター。ECMレーベルからのリリース。このパーソネルから、演奏の内容はフリーかアブストラクトなジャズやろうなあ、と当たりを付ける。

スピーカーから出てくる音は「純正のECMの音」。切れ味の良い、静的で深いエコーのかかった深みのある音。フリーな演奏ではあるが、演奏の底にしっかりとビートが乗っていて、今、流行の静的で硬派なスピリチュアル・ジャズの雰囲気。グルーヴ感もそこはかとなく漂い、意外と聴き応えのある「欧州スピリチュアル・ジャズ」。
 

Tribute  

 
2本のギターの浮遊感が効果的。ギターの美音が基本の浮遊感なので、透明度の高いスピリチュアル感が増幅される。そこにグッと硬派に入ってくるのがヘイデンのベース。この重低音溢れる、鋼がしなる様なベースが実に印象的で、浮遊感溢れる2本のギターのフレーズの中にグッとしっかりとした芯を与える。演奏全体が締まり、めくるめくアカデミックな展開に思わず耳をそばだてる。

モチアンのドラミングは硬軟自在、強弱自在、遅速自在。柔軟で自由度が高いが、しっかりとビートをキープしたポリリズミックなドラミングは見事。ヘイデンのベースとの相性が抜群で、この二人のリズム・セクションが、この盤に相当に分厚くて切れ味の良いリズム&ビートを供給している。このリズム&ビートがこれまた「スピリチュアル」。

アルバム全体で40分弱とちょっと短い収録時間ですが、聴き応えは十分。典型的なECMレーベルの音がこれでもかというくらい詰まっていて、ECMレーベル独特と言って良い、欧州的な、はたまた北欧的な、フリーな展開や静的なスピリチュアルな響きが堪りません。ちょっとマニアックな内容なので、ジャズ者初心者にはちょっと早いかなとも思いますが、ECMレーベルの音を体験するには、なかなか良い雰囲気のアルバムと思います。

 
 
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2019年2月20日 (水曜日)

アフロ・キューバン侮り難し

チューチョ・ヴァルデスの新盤を聴いていて、彼がリーダーとして活躍している「イラケレ」というバンドを思い出した。「イラケレ」は伝説のキューバン・ジャズのグループになる。明らかにアフロ・キューバンなクロスオーバー・ジャズであり、ジャズの要素に中米のリズムを基調としたラテンジャズな雰囲気が個性。

その「イラケレ」の中で、これまた実にアフロ・キューバンなアルト・サックスを吹く輩がいる。パキート・デリヴェラである。アルト・サックスとクラリネットの名手で、場面場面によって、アルト・サックスとクラリネットのサウンドを巧みに使い分けるところが彼の個性。特に、アルト・サックスは人間の肉声に近い音程を持った楽器で、デリヴェラのアルト・サックスは「唄うが如く」である。

パキート・デリヴェラは、1948年6月生まれ。今年で71歳になる。殆どレジェンドの位置づけのアルト・サックス&クラリネット奏者である。アフロ・キューバンな響きを漂わせながら、ハードバップに吹き上げるアルト・サックスが個性。テクニックも高いが、そのテクニックをひけらかすことは無く、アフロ・キューバンなラテンな響きを漂わせながら、流麗に力強くアルト・サックスを吹き上げる。
 

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Paquito D'rivera『En Finlandia』(写真左)。1976年9月の録音。 今から40年以上前にリリースされた、そんなパキート・デリヴェラの好盤。僕はつい最近まで、この盤を知らなかった。我が国では、どうもアフロ・キューバン・ジャズにちょっと冷たいところがあって、イラケレについてもそうなんだが、アフロ・キューバンの本場、キューバ・ジャズについての評価が定まっていない。が、この盤でのデリヴェラのアルト・サックスは見事だ

アルト・サックスのブラスが煌めく様に鳴る。そこに、アフロ・キューバンがメインのラテン風な響きとフレーズが加わり、その音は硬派で芯があって力強く、かつ緻密。雰囲気的には最近のジャズのトレンドである、穏やかではあるが芯があって力強いスピリチュアル・ジャズの雰囲気を先取りしている感じがして、意外と今の耳に馴染む。ジャズ+キューバン+ラテンと、ジャズをベースとしたキューバ+ラテンな雰囲気とフレーズの融合音楽的演奏が実に心地良い。

純ジャズでは無いが、アフロ・キューバンなジャズ、ワールド・ミュージック的要素を取り入れた、コンテンポラリーな純ジャズな演奏が実に骨太であり硬派である。我が国ではあまり正統な評価はされていない印象ですが、このところ来日していたりで、やっと再評価されるつつあるのでしょうか。演奏が基本的にポジティヴなんで、聴いていて楽しいですし、何だかウキウキしてきます。「アフロ・キューバン侮り難し」である。

 
 
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2019年2月19日 (火曜日)

ライトポップなフュージョンです

こういうジャズもたまには良いなあ、と思う。というか、これってジャズか、とも思うんだが、フュージョン・ジャズを正と捉えて早幾年、この新盤に詰まっている音、ぎりフュージョン・ジャズと解釈して良いのかな。まあ、こういうコンテンポラリーなフュージョン・ジャズが我が国から出てきたとは、なんか嬉しくなるやら、ホッとするやら。

三角関係 feat.三浦拓也『素敵関係』(写真左)。今月のリリース。ちなみにパーソネルは、山崎 千裕 (tp, fih), 園田 涼 (p, key), 三浦 拓也 (g)。なぜ「feat.」が付いているのか判らぬが、3人トリオの「三角関係」ということ。当然、バックにサポート・メンバーが入っていて、主だったところは、紺野 光広 (el-b), 村石 雅行 (ds), 前田 仁, 山下 智 (perc)。

ポップで明るい、聴き易くて耳当たりの良いフュージョン・ジャズがメイン。それでいて、ソフト&メロウには流れず、意外とビートの効いた、爽快感溢れるところが「ニクい」。音的にも、しっかりエッジが立っていて、音像は明確で曖昧なところは無い。かなりしっかりと作り込まれたフュージョン・ジャズである、ということが良く判る。
 

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山崎 千裕(やまざき ちひろ)は中堅トランペッター。東京芸大卒。2010年、自身のバンド山崎千裕+ROUTE14bandを立ち上げ、本格デビュー。女性トランペッターではあるが、音はしっかりしている。音の大きさについては割り引いても、無理をしない演奏テクニックとふらつきの無いブロウは聴き易く、好感が持てる。この盤では、ブリリアントさが加わって、シンプルに「良い音している」。

園田 涼のピアノは堅実でキラキラしている。純ジャズなピアノとしては、ちょっと深みに欠けるか、と思うが、フュージョン・ジャズとしては、切れ味も良く、タッチもキビキビしていて及第点。三浦 拓也のギターも良い感じ。フュージョン・ギターって音で爽快感抜群。弾きっぷりも意外と骨太で、ソロにリズムに大活躍です。

ジャケットがキャピキャピしていて、ちょっと気恥ずかしいのですが、アルバムの中に詰まっている「インストポップなフュージョン・ジャズ」な音世界とイメージが合致していて、まあここは「我慢」(笑)。演奏もレベルが高くて、聴き心地も良い。ながら聴きに最適なライト・ポップなフュージョン・ジャズ盤です。次作では本格的な「コンテンポラリーな純ジャズ」に挑戦して欲しいですね。期待してます。

 
 
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2019年2月18日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・141

「ジャケ買い」という言葉があるが、この盤は僕にとってまさに「ジャケ買い」盤。このアルバムのリーダーであろう人物の、座った迫力のあるイラストが思いっきり目を引く。「Quintet」の文字でこの盤はジャズ盤だと想像出来る。とすると、この盤の内容って、意外と骨太で硬派でゴリゴリした純ジャズじゃないか、と思ったら、思わず手にしていた。

The Dave Bailey Quintet『Two Feet in The Gutter』(写真左)。1961年10月6日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Ben Tucker (b), Dave Bailey (ds), Billy Gardner (p), Frank Haynes (ts), Bill Hardman (tp)。パーソネルを見渡すと、決して、当時のスター・プレイヤーではないのだが、当時の中堅どころが大集合。

冒頭の「Comin' Home Baby」は、ベースのベン・タッカーの曲。元ジャズ・メッセンジャーズのトランペッター、ビル・ハードマンで軽快にスタート。フランク・ヘインズの雰囲気あるテナーも良い感じ。リーダーのデイブ・ベイリーのドラムが、演奏のリズム&ビートをさりげなくビシッと決めて、ああ、雰囲気のある踊れるハードバップではないか。
 

2_feet_in_the_gutter  

 
デイブ・ベイリー。1926年2月の生まれ。米国ヴァージニア州出身。1950年代に入って、ハードバップ初期の頃より、頭角を現し、様々な一流ジャズメンとの共演を果たしている。1954〜68年まで、14年間、ジェリー・マリガンのグループで活躍しましたが、惜しくも1969年、ジャズ界より引退。1973年からニューヨークで音楽教育に携わっていますが、主だった活動はしていません。

彼のドラミングは、派手さは全く無いのですが、堅実で職人肌の「粋」なドラミング。この『Two Feet in The Gutter』でも、全編に渡って、良質で洗練されたハードバップを聴かせてくれていますが、もちろん、リーダーのデイブ・ベイリーのドラミングに依るところが大きいですね。これだけ、ドラミングが演奏全体の雰囲気をコントロールしているアルバムはあまりないのではないか、と思います。

ハービー・マンやメル・トーメ等でもおなじみのダンス・ジャズ・クラシックな曲を渋く、粋に演奏しているところが堪らない。ベン・タッカーのベースがさりげなくブンブン響いて、ベイリーの小粋なドラミングと相まって、とてもジャジーでハードバップなグルーヴ感を醸し出しています。あまり、ジャズ紹介本などではそのタイトルが挙がらない盤ですが、ハードバップ後期の隠れ好盤でしょう。

 
 
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2019年2月17日 (日曜日)

ながら聴きのジャズも良い・35

1970年代後半から1980年代前半までが「フュージョン・ジャズ」の時代。当時、我が国では猫も杓子もフュージョン・ジャズで、ハードバップなどの純ジャズについては「時代の遺物」扱いされていた。しかし、である。1980年代半ば、純ジャズ復古のムーブメントが起こって、純ジャズが復権したら、とたんに今度はフュージョン・ジャズが「異端」扱いである。

日本のジャズのトレンドって、当時のジャズ雑誌、評論家が牽引するのだが、基本的に無節操なところがある。現在に至っては、フュージョン・ジャズはそもそもジャズじゃない、などと言い出す始末。ジャズは懐の深い音楽ジャンルなので、フュージョン・ジャズもジャズの範疇に入れても差し支えない。フュージョン・ジャズだって良いところは沢山あるし、聴き応えのある好盤も多い。

Jazz Funk Soul『Life and Times』(写真左)。今年1月のリリース。Jazz Funk Soulは、Jeff Lorber (key, arr), Everette Harp (sax), Chuck Loeb (g) の3人で結成された、コンテンポラリーなフュジョン・ジャズ・バンド。一昨年の7月、ギターのChuck Loebが急逝して、今回の新盤では、Paul Jackson Jr. (g) が代わって参入している。
 

Life_and_times  

 
リーダーのジェフ・ローバーは、フュージョン〜スムース・ジャズ畑の優れたキーボード奏者兼アレンジャー。その個性は、ボブ・ジェームスに比肩すると僕は思っているが、ジェフ・ローバーって我が国では全くもって名が通っていない。ジェフ・ローバーは、米国のフュージョン〜スムース・ジャズの世界では有名な存在で、リーダー作も相当数リリースしている。が、我が国では人気は無い。

でも、聴いてみたら判るが、彼のキーボード・ワークとアレンジはかなりレベルが高く、内容が濃い。なぜ、この人は人気が無いのか、不思議でならない。今回の『Life and Times』でも、ローバーのキーボードは冴えに冴えまくっている。スムース志向ではあるが、結構、骨太で硬派なキーボードである。

オリジナル・メンバーだった故チャック・ローブは「フォープレイ」のメンバーとして我が国でも名が通っていたが、今回、代わって参入したポール・ジャクソンは知る人ぞ知る、マニア御用達なフュージョン・ギタリスト。どうだろう、と思ったが、ファンキーで硬質、とても強いピッキングが個性。それでいて、ソフト&メロウに響くフレーズは「癖になる」。意外といけます。ポール・ジャクソンに再注目ですね。

良質のフュージョン・ジャズ盤です。グループ名のとおり「ジャズ+ファンク+ソウル」な音世界が全く以て「フュージョン・ジャズ」していて、聴いていて心地良い。僕はこの盤、最近の「ながら聴きのヘビロテ盤」として、お世話になっています。こういう優れた内容の盤を聴くと、フュージョン・ジャズもまだまだ深化しているな、と感じます。

 
 
東日本大震災から7年11ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2019年2月16日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・140

このピアニストも「レジェンド」である。1941年10月生まれ、キューバ出身のジャズ・ピアニスト。「神の手」といわれる超絶技巧なテクニック。カリビアンの血が成せる躍動感あるリズム。キューバ出身だからといって、躍動感溢れる下世話なリズム&フレーズばかりでは無い。クラシックの要素も取り込んだ繊細かつ情熱的なメロディーがアースティックな雰囲気を醸し出す。なかなかに隅に置けないジャズ・ピアノ。

そのレジェンド級のピアニストとは「Chucho Valdés(チューチョ・ヴァルデス)」。アフロ・キューバンなフュージョン・バンド「イラケレ」のリーダーでもある。先に書いた様にテクニック申し分なく、カリビアンの血が成せる躍動的なリズム、明るく明快な激しいタッチと繊細なフレーズが個性的なジャズ・ピアノなんだが、我が国では実に人気が無い。その名もマイナー。ジャズ・ピアニストの一覧に載っていなかったりする。

Chucho Valdés『Jazz Batá 2』(写真左)。2018年のリリース。ちなみにパーソネルは、Chucho Valdés (p), Yelsy Heredia (b), Dreiser Durruthy Bombalé (batás, vo), Yaroldy Abreu Robles (per)。解説を読むと「今作は1972年リリースのチューチョの小グループでのリーダー作『Jazz Batá』のコンセプトを再確認、新たに練り直し作品にしたもの」だそうだ。まず、僕はこの『Jazz Batá』を知らない。よって、この盤を純粋にジャズ・ピアノの好盤として聴いてみたい。
 

Jazz_bata_2  

 
ちょっと不思議な響きの打楽器の音が聴こえる。バタドラムというキューバの両面太鼓、これをリズム&ビートの基としている。パーソネルを見渡すと、確かにドラマーの名前が無い。このバタドラムのビートが独特のリズムのうねりを生み出している。この独特のリズム&ビートをバックに、ヴァルデスの超絶技巧かつパーカッシヴなピアノが絡む。米国ジャズには無い、ラテンな躍動感。

しかし、ヴァルデスのピアノはラテンな躍動感に留まらない。フリー・インプロな要素あり、モーダルなコンテンポラリー・サウンドに展開したり、ポリリズミックな連打が出てきたと思ったら、ゆったりとリラックスしたラテン調になったりと、実に多彩でアーティスティックである。ヴァルデスのピアノが、これだけ伝統的でメインストリームなジャズ・ピアノ志向だとは思ってもみなかった。少なからず感動した。

キューバ出身でありながら、ゴスペル調、マンボ調、サルサ調にも展開するところは、まさに「ジャズは融合の音楽である」ということを思い出させてくれる。アフロ・キューバンなピアノ・ジャズだからといって、俗っぽいなんてことは全く無い。逆にアーティスティックですらある。21世紀に入ってから、僕はヴァルデスのピアノに出会ったが、これは幸せなことであった。今回の新盤を聴いて、その意を改めて強くした。好盤である。

 
 
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2019年2月15日 (金曜日)

耽美的なスピリチュアル・ジャズ

ジョー・ロバーノ(Joe Lovano)。1952年12月、米国オハイオ州の生まれ。現在66歳。ジャズの世界では「ほぼレジェンド」の位置付け。とても雰囲気のある、硬派で骨太なサックスを聴かせてくれるのだが、我が国では全くといっていいほど人気が無い。何故かは判らないが、日本のレコード会社の宣伝対象にならなかったんだろう。ジャズ雑誌でも全くの「無視」状態。

僕もそのお陰で、ロバーノを知ったのは21世紀になってから。現代ブルーノート・レーベルのお陰、ジャズ盤のダウンロード・サイトのお陰である。21世紀になってからも、ロバーノのCDは日本のショップでは手に入らない。iTunesストアなど、ダウンロード・サイトにいわゆる「外盤」がアップされてから、ロバーノのアルバムも一部、手に入る様になった。

ロバーノのテナーはテクニック優秀、骨太で硬派で大らかで豪快で繊細。日本で人気が無かったのが不思議なくらい。日本で人気のロリンズでも無い、コルトレーンでも無い、ロバーノ独特の個性がある。特にロバーノの最大の個性は「芯のある繊細さ」。豪快なだけでは無い、表現力が豊かで、しっかり吹ききってはいるんだが、実に繊細な、心の揺らぎの様なブロウが個性。
 

Trio_tapestry_joe_lovano

 
Joe Lovano『Trio Tapestry』(写真左)。 2018年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Lovano (ts), Marilyn Crispell (p), Carmen Castaldi (ds) 。なんとこのアルバムは、ECMレーベルからのリリース。録音場所はNYなんだが、ECMの総帥 Manfred Eicherがプロデュースしている。これは、と思って聴き始めると、スピーカーから出てくる音は「ECMの音」。1970年代からのECMお得意の「ニュー・ジャズ」の範疇。

カルメン・カスタルディの程良くエコーのかかったシンバルが演奏全体のビートを先導する。場面場面の音の雰囲気を最終的にコントロールしているのは、このカスタルディのリズム&ビート。このリズム&ビートの存在が、このアルバムの演奏をフリーに陥るのを踏みとどまらせている。静的でスピリチュアルな欧州の「ニュー・ジャズ」的雰囲気。耽美的なサックスとピアノの音の絡みが素敵に響く。

一言で表現すると「耽美的なスピリチュアル・ジャズ」。自由度がかなり高い即興演奏。端正な展開の部分はモーダルな演奏、自由度の高い展開の部分はフリーな演奏。ロバーノのサックスの個性が存分に発揮されている。そして、そのサックスに絡み、寄り添うのが、マリリン・クリスペルのピアノ。耽美的で繊細な音と力強い音とが織りなす「音のテクスチャー」。実にECMらしい好盤である。

 
 
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2019年2月14日 (木曜日)

ショーター翁の素晴らしき3枚組

ジャズ界のレジェンドはどこまで歳を取っても「超一流」である。老いの衰えから来るレベルダウンがあってもおかしくないのだが、意外とジャズ界のレジェンドは「老い知らず」である。現役の若手のみならず現役の中堅までも置き去りにして、バリバリ吹きまくる。そのレジェンドとは「ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)」。

ウェイン・ショーターはジャズ界のテナー・サックスのレジェンドの一人である。ショーターは1933年生まれ。今年で86歳になる。アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズで頭角を現し、マイルスの1960年代黄金のクインテットの一角を担う。1970年代から1980年代半ばまで、伝説のエレジャズ・バンド、ウェザー・リポートの双頭リーダーを務めた。

以降、ソロになってからも、コンテンポラリーな純ジャズでの最先端をいく演奏成果の数々は、その年齢を全く感じさせない素晴らしいものばかり。年齢を重ねる毎に枯れていくどころか、張りのある若い頃のテナーのまま、深みがグッと増して、若い頃の自分のテナーを遙かに超えている。今年で86歳の翁が、である。
 

Emanon

 
Wayne Shorter『Emanon』(写真)。2016年の録音。ちなみにパーソネルは、Wayne Shorter (sax), Danilo Perez (p)、John Patitucci (b), Brian Blade (ds), Orpheus Chamber Orchestra。CD2枚組。オリジナルカルテット+オーケストラで1枚、ロンドンでのカルテット単独のライブが2枚、という構成の3枚組CD盤である。

オーケストラとの共演は意外と平凡なイメージ。良くあるパターンですからね。でも、自由度の低いオーケストラの演奏をバックに自由に吹きまくるショーターのサックスは素晴らしい。硬軟自在、変幻自在、遅速自在、縦横無尽にショーターのサックスが乱舞する。アドリブ展開のイマージネーションの豊かさたるや、唖然とする。

しかし、やはり聴きどころはカルテット単独のライブの2枚。相当にぶっ飛んだ、最先端を行くネオ・ハードバップ&フリー・ジャズ。限りなく自由度の高いショーターのテナーとブレイドのドラム。自由に乱舞するテナーとドラムをしっかりとサポートする、パティトゥッチのベースとペレスのピアノ。硬派でキレッキレ、キラキラ煌めく様なカルテット演奏。いやいや、ショーター翁、凄いリーダー作を出したもんだ。もっともっと聴き込みたい。先ずは速報まで。

 
 
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2019年2月13日 (水曜日)

「即興」の音楽の面白さの1つ

クラシックは「再生」の音楽だという。譜面があって、そこに音符が書かれていて、弾くスピードは指定され、フレーズ毎の音の強弱、弾くタッチの種類まで、克明に指定されている。ピアニストはその譜面を理解し、その譜面通りに弾こうとする。譜面通り弾くことこそが作曲者の意図するピアノ曲だ、ということ。譜面通り弾くことが基本。よって「再生」の音楽である。

ジャズは「即興」の音楽。譜面は基本的に無い。あってもテーマ部のアンサンブルの楽譜のみ。アドリブ部の譜面は基本的に無い。弾くスピード。フレーズ毎の音の強弱、弾くタッチの種類などはいずれも全く指定されていない。その曲をピアノで表現するイメージは、ピアニストの感性とテクニックに委ねられる。その曲を弾く、その時その時でイメージが変わる。よって「即興」の音楽である。

よって、ジャズの世界では「再生」というキーワードは基本的に無い。例えば、ジャズピアニストの数だけ、その曲を弾く、タッチやイメージ、解釈が存在するのだ。クラシック・ピアノの場合、その曲を弾くイメージは基本的にどのピアニストも同じ。同じイメージの中でピアニスト毎の解釈があって、微妙なニュアンスのレベルなんだが、しっかりと個性が発揮される。
 

Ray_bryant_1956  

 
このところ、オスカー・ピーターソンのピアノ・トリオの聴き直しているのだが、その合間に別のピアニストのトリオを聴く。こんなに違うんだ、と改めてビックリする。今日、ピーターソンの合間に聴いたピアノ・トリオ盤が『Ray Bryant Trio(1956年)』(写真左)。パーソナルは、Ray Bryant (p), Wyatt Ruther (b), Kenny Clarke (ds, tracks 2, 4, 8 & 9), Osie Johnson (ds, tracks 3, 10 & 12), Jo Jones (ds, tracks 1, 5–7 & 11), Candido (perc, tracks 1 & 7) 。2トラックだけパーカッションが入るが、基本はピアノ・トリオ。

このトリオ盤は、レイ・ブライアントのピアノをとことん愛でる盤。ファンクネスがほど好く漂い、右手のタッチは明快でよく回る。左手は低音がゴーンと伸びる様に響いて、粘りがあってリズミカル。両手で奏でるユニゾン&ハーモニーはゴスペル風な哀愁を仄かに帯びた響きが漂う。特に彼の個性はラテン風の曲やブルース曲で発揮される。これがたまらない。

オスカー・ピーターソンとレイ・ブライアント。同じ曲を弾く二人のジャズ・ピアニスト。ピアノ・トリオとしての演奏の展開は同じハードバップで同じ曲を演奏しているのに、そのイメージ、弾くスピード。フレーズ毎の音の強弱、弾くタッチの種類など、全く異なる。それでも、ピアノ・トリオとしての演奏の展開は同じハードバップ。これがジャズの面白さの1つであり、即興音楽の面白さなのだ。

 
 
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2019年2月12日 (火曜日)

音楽喫茶『松和』の昼下がり・67

先週の週末、Buddy De Franco(バディ・デ・フランコ)のリーダー作をご紹介した。クラリネットはジャズの世界では少数派で、かなり数が少ないと書いた。確かに、ジャズ・クラリネット、と言われて真っ先に浮かぶ名前が、ベニー・グッドマンとバディ・デ・フランコの二人。しかし、この人を忘れていた。Jimmy Giuffre(ジミー・ジュフリー)である。

ジミー・ジュフリーは、1921年テキサス州生まれ。2008年に鬼籍に入っている。基本的にはマルチ・リード奏者なんだが、クラリネット奏者という印象が強い。恐らく、1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバルで撮影された映画『真夏の夜のジャズ(Jazz on a Summer's Day)』での印象的な演奏の映像の影響だろう。あれは格好良かった。

さて、今日の盤は『The Jimmy Giuffre Quartet in Person』(写真左)。1960年7月19日、NYの    Five Spot Caféでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Jimmy Giuffre (cl, ts), Jim Hall (g), Buell Neidlinger (b), Billy Osborne (ds)。リーダーのジミー・ジュフリーはクラリネットがメインだが、テナー・サックスも担当する。
 

In_person  

 
フロントは、ジェフリーのクラリネット&テナーとジム・ホールのギターが担当する。この1管1弦のフロント楽器のユニゾン&ハーモニーが実に心地良い響き。十分に練られたアレンジが素晴らしい。演奏者同士の自由なインタープレイを取り入れた展開が、ハードバップには無い「新しい響き」を獲得している。とにかく、アドリブ部のインタープレイが見事。

クラリネットとギターの演奏の温度感は「クール」。決して熱くならないが、その節回しが「ホット」なインタープレイが印象的。ジェフリーの標榜した「ブルースを基調とした大衆的ジャズ」が、このライブ盤では判り易く提示されている。音は決して多く無い。少ない厳選された音数でブルージーな雰囲気を最大限に引き出している。素晴らしいテクニック。

ジェフリーのクラリネットはクールで理知的だが、ホールのギターも負けずにクールで理知的。それでいて、仄かにファンクネスとジャジーな雰囲気が漂い、絡みつくような自由度の高いインタープレイが爽やかに響く。ジャズ喫茶の昼下がり、じっくりとスピーカーの前に陣取って耳を傾けたい、そんなクールで理知的なジャズである。

 
 
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2019年2月11日 (月曜日)

メルドーのピアノ・トリオの深化

近代のジャズ・ピアノが確立されて、もう60年以上が経ったことになる。ピアノ・トリオとしては、バド・パウエルがその基本スタイルを確立して、インタープレイがメインの現代ピアノ・トリオの始祖はビル・エヴァンス、そして孤高の人、オスカー・ピーターソン。それから、モードの時代以降は、ハービー・ハンコック、チック・コリア、キース・ジャレットがジャズ界を席巻し、それから、である。

1980年代後半からの純ジャズ復古以来、目立ったリーダー役のピアニストが不在だった。が、2000年代になって、ジャズ・ピアノの指針のひとつとなったピアニストが「ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)」。僕もこのメルドーのピアノは好きで、彼の初期の頃のリーダー作「The Art of the Trio」シリーズは今でも聴き直している位だ。

Brad Mehldau Trio『Seymour Reads the Constitution!』(写真左)。2018年のリリース。ちなみにパーソネルは、Brad Mehldau (p), Larry Grenadier (b), Jeff Ballard (ds)。メルドーの鉄壁のトリオである。全8曲中、3曲はメルドーのオリジナル、ポップ&ロック系の曲のカヴァーについては、ポール・マッカートニーの「Great Day」、ブライアン・ウィルソンの「Friends」をカヴァーしている。
 

Seymour_reads_the_constitution  

 
メルドーのピアノは相変わらず個性的で素敵だ。力感溢れる耽美的な右手、コードの呪縛を逃れ、自由にベースラインを動き回る左手。メルドーのピアノは、21世紀に入ってからのジャズ・ピアノの指針の1つであったことは確か。この最新作でもメルドーのピアノは「安定」の一言。メルドー独特のフレーズもそこかしこでキメまくっていて、安定の「聴き応え」である。

メルドーの鉄壁のトリオを聴いていて、何時もながら、ラリー・グレナディアのベースとジェフ・バラードのリズム・セクションに耳を奪われる。この柔軟自在、硬軟自在のリズム&ビートはなかなか無い。メルドーが奏でる様々なフレーズに、クイックに柔軟に追従し、堅実なサポートを供給する。このリズム・セクションあってのメルドーの個性的なピアノがある、と言っても良いだろう。

このメルドーの新作には「変革」や「進化」は無い。しかし、確実にメルドーのピアノ・トリオの「深化」が聴いてとれる。テクニック的にもアドリブ展開のイマージネーションについても充実度は高く、ピアノ・トリオとして「高水準」を維持しているのは立派だと思う。ピアノ・トリオ者にとっては避けられないメルドーの新作である。

 
 
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2019年2月 9日 (土曜日)

クラリネット・ジャズのお勧め盤

ジャズは西洋音楽で使用される楽器であれば、ほとんど誰かが使っている。クラリネットもそんな1つ。そんなに多くはないのだが、ジャズの中では現在でも楽器として使用するジャズメンは存在する。が、しかし少数派なのは否めない。決してジャズの中ではメジャーな楽器ではないなあ。ホンワカ優しい音色は魅力なんだが、この「優しい」ところが引っ掛かるのかなあ。

Buddy De Franco『Cooking The Blues』(写真左)。1955年、1956年の録音。ちなみにパーソネルは、Buddy De Franco (cl), Tal Farlow (g), Sonny Clark (p, org), Gene Wright (b), Bobby White (ds)。タル・ファーロウがギターで参加、通常はピアニストのソニー・クラークがオルガンを弾いている。

Buddy De Franco(バディ・デ・フランコ)は生粋のクラリネット奏者。ジャズでは、スイング期にはクラリネットはまずまずポピュラーな楽器だったみたいだが、ハードバップ期に入って、奏者の数はグッと減っている。そんな中、バディ・デ・フランコは、クラリネットという楽器をビ・バップに使用して活躍した。豊かな音色と叙情溢れる演奏に定評がある。
 

Cooking_the_blues

 
この盤でのバディ・デ・フランコのクラリネットは素晴らしいの一言。柔らかではあるが、しっかりと芯のある、意外と硬派なクラリネットの音が頼もしい。クラリネットの音色は丸くて優しいので、硬派なフレーズには向かないのでは、と危惧するのだが、デ・フランコのクラリネットは意外と硬派で心配は杞憂に終わる。

クラリネットの名手といえばベニー・グッドマンと感じてしまうのだが、この盤でのバディ・デ・フランコは、グッドマンよりモダンで先進的なフレーズ聴かせてくれる。テクニックは優れたもので、特にアドリブ部でのフレーズの流麗さには耳を奪われる。ちなみに、ソニー・クラークのオルガンについては、特筆すべきものは何も無い。逆に、ピアノについては流石やなあと感心します。

演奏の内容はスイング期の王道を引き継いだオーソドックスなもの。モードなどの挑戦的な展開は皆無。逆に安心してゆったりと楽しめる「大人のジャズ」と言って良い。この盤、クラリネット・ジャズのお勧め盤です。女性がメインのジャケットも味があって良し。

 
 
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2019年2月 8日 (金曜日)

ジャズ・ピアノの父のトリオ盤

このピアノ・トリオ盤、ジャズ喫茶で初めて聴かせて貰ったのって、何時だったかなあ。ジャズを聴き始めて15年経った位の頃だったか、神保町の「響」だったような思い出がある。この盤、廃盤になって久しく、当時はまだLPの中古屋って、あんまり無かったから、この盤を入手したくても、まず店先で見たことが無い。で、ジャズ喫茶に行って、リクエストと相成った訳である。

Earl Hines『Fatha』(写真左)。1965年、Columbiaレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Earl Hines (p, vo), Ahmed Abdul-Malik (b), Oliver Jackson (ds)。ピアノ・トリオ構成。このリーダー作がリリースされた年で62歳。ジャズメンとして油の乗り切った年齢。聴けば判るが、リーダーのアール・ハインズのピアノのスタイルは、当時のメインのスタイルであった「ハードバップ」では無い。それでも、とても渋くて格好良いモダンなピアノに耳を奪われる。

冒頭の「Frankie And Johnnie」を聴いていると、右手はハードバップなんだが、左手がハードバップでは無い。左手が聴いていると「これはスイングかブギウギではないのか」と思う。2曲目の「The Girl From Ipanema」は当時流行のボサノバの名曲。これは当時の流行曲なので、ハードバップっぽく弾いている。でも3曲目の「Believe It Beloved」で、やっぱり「これはスイングの左手や」と確信する。
 

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Earl Hines(アール・ハインズ)。ハインズはジャズピアノの開発途上で最も影響力のある人物の一人だったとされる(Wikipediaより)。よって、ハインズは「ジャズ・ピアノの父」と呼ばれる。ホーンライクな力強い右手のシングル・トーン、複雑でより開放されたリズムを取り入れた躍動感溢れる左手のベース・パート。このハインズのピアノの奏法が、スイング期に一世風靡した。

そんな「ジャズ・ピアノの父」のトランペット・スタイルと称される奏法がこのアルバムで堪能出来る。渋い渋い硬派な「モダン・ピアノ」である。「St. James Infirmary Blues」と「Trav'lin All Alone」の2曲では渋くて素敵なボーカルも披露している。まるで、ルイ・アームストロング(愛称サッチモ)の様だ。と思ったら、ハインズとサッチモって「スイング期の盟友」なんですね。楽器を弾いて唄も唄う。スイング期のジャズメンの嗜みです。

ハインズは1903年生まれ。同じ頃に生まれたジャズメンを調べてみたら、ジェリー・ロール・モートン1890年、デューク・エリントン1899年、ルイ・アームストロング1901年、カウント・ベイシー1904年、ファッツ・ウォーラー1904年。これらのメンバー達と一緒に、同じジャズの時代を生きていた。確かに「ジャズ・ピアノの父」である。

 
 
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2019年2月 7日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・139

ハードバップは演奏時間が長くなった分、それぞれの楽器の演奏を心ゆくまで堪能できる様になった訳だが、加えて、演奏のアレンジにも腕を振るうことが出来るだけの演奏時間の余裕が出来た。ビ・バップの様に短い演奏であれば、アレンジの腕を振るう余裕はほとんど無いのだが、演奏時間が長くなると、様々なアレンジのアイデアを盛り込むことが出来るのだ。

Bob Brookmeyer『The Street Swingers』(写真左)。1957年12月の録音。ちなみにパーソネルは、    Bob Brookmeyer (valve-tb, p), Jim Hall, Jimmy Raney (g), Bill Crow (b), Osie Johnson (ds)。バルブ・トロンボーンにギターが2台、そして、ベースとドラム。ピアノはトロンボーンのブルックマイヤーが兼任する。かなりチャレンジャブルな構成である。

聴いて見ると、冒頭の「Arrowhead」からチャレンジャブルな展開に思わずニンマリする。トロンボーンとギターが洗練された少ない音で会話を展開する。トロンボーンとギターが洗練された少ない音でユニゾン&ハーモニーを奏でる。トロンボーンとギターが木訥とした少ない旋律でアドリブ展開する。この洗練された少ない音を前提としたアレンジが絶妙である。
 

The_street_swingers

 
ブルックマイヤーは、バルブ・トロンボーン奏者で、ピアノも弾くという才人。加えて、アレンジにも腕を振るうとあって、このアルバムの格調高い室内楽を思わせる上品なアレンジが実にチャレンジャブルで「粋」。音が少ない分、演奏に「間」が出来るのだが、この「間」の存在が絶妙。この「間」が適度な緊張感と適度な余裕をもたらして、聴く耳にとても心地良いインプロビゼーションが展開されている。

ジム・ホールとレイニーのギターも隅に置けない。相対するのがトロンボーンなので、甘い雰囲気に流れていきそうなのだが、ホールとレイニーのギターはそうはいかない。丸いトロンボーンの音に、鋭角に硬派に切れ込むようなフレーズが斬新である。流麗とは正反対の、ゴツゴツとした木訥とした骨太なアドリブ・フレーズ。気合い十分である。

バルブ・トロンボーンにギターが2台がフロントで、アレンジ次第な一枚であるが、この盤は「アレンジの勝利」。ブルックマイヤーの思慮深い、考え抜いたハードバップがとても素敵に響く。このアレンジが1957年に実現されていたことに驚く。ジャズって隅に置けないなあ。バリバリ吹きまくるだけがハードバップでは無い。思慮深い思索に富んだハードバップもある。ハードバップは奥が深い。

 
 
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2019年2月 6日 (水曜日)

フラーの初リーダー盤です。

ジャズの代表的な演奏スタイルは「ハードバップ」だろう。ジャズをあまり聴いたことが無い音楽好きの方々が「ジャズ」と聴いてイメージするのは、だいたいこの「ハードバップ」のスタイルのジャズである。そうそう、最近、飲食関係の店などで流れているジャズは、ほとんどがこの「ハードバップ」である。

ハードバップはとにかく判り易い。テーマ部があって、ここはバンド全体でユニゾン&ハーモニーなぞをかましながら、テーマの旋律を判り易く演奏し、その後、それぞれの個々の楽器のアドリブ部に突入。それぞれの楽器のアドリブは、その技と歌心を堪能するに必要な程度の長さで、1曲の演奏が大体5〜7分程度。長いときは10分を超えるものもある。

Curtis Fuller『New Trombone』(写真左)。1957年5月11日の録音。ちなみにパーソネルは、Curtis Fuller (tb), Sonny Red (as), Hank Jones (p), Doug Watkins (b), Louis Hayes (ds)。ジャズ・トロンボーンの名手、カーティス・フラーの初リーダー作になる。構成は、フラーとレッドのアルトの2管フロントにピアノ・トリオのリズム・セクションが加わる、オーソドックスなクインテット構成。
 

New_trombone  

 
カーティス・フラーのほのぼのとした優しさを感じさせるトロンボーンが、さすが初リーダー作、溌剌として若々しい。そこに鋭角な切れ味良いレッドのアルト・サックスが絡む。丸いトロンボーンと鋭角なアルト・サックスのコントラストが決まっている。アレンジも良好で、このユニゾン&ハーモニーには、ハードバップの良い香りがプンプンしている。

バックのリズム・セクションをメインを担っている、ハンク・ジョーンズのピアノが端正で小粋で良い。ハードバップの良心とも言うべき、堅実で明快なタッチ、ほのかにファンクネス漂う正統派なジャズ・ピアノ。ダグ・ワトキンスのベースも骨太で端正。派手さは無いが堅実さに秀でている。そして、ルイス・ヘイズは明らかにハードバップなドラミングを披露してくれる。

ハードバップの教科書の様な内容が詰まった、とっても魅力的な盤である。これが、である。ジャズ盤紹介本にあまりそのタイトルが挙がることがないのだから困る。あろうことか、カーティス・フラーの代表盤に名を連ねることが少ないのだから更に困る。このカーティス・フラーの初リーダー作、ハードバップの雰囲気を堪能出来る好盤として、ジャズ者初心者からベテランまで広くお勧めです。

 
 

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2019年2月 5日 (火曜日)

ハイラムのフュージョン・ジャズ

クロスオーバー・ジャズからフュージョン・ジャズについては、フロント楽器はエレギだった。それまでのジャズについては、フロント楽器はサックスやトランペットの金管楽器。電気楽器の発達によって、加えて、ロックの影響だろう、フロント楽器について、エレギの台頭は目覚ましいものがあった。

ハイラム・ブロックもそんなギタリストの一人。ブロックは日本の堺市生まれの米国のフュージョン・ギタリスト。1955年生まれ、2008年7月、惜しくも52歳で早逝した。主に使用していたギターは、有名な改造ストラトキャスター。これが骨太で切れ味の良い、グルーヴ感溢れる個性的な音を出すのだ。

Hiram Bullock『Late Night Talk』(写真左)。1996年12月9日・13日、NYのR.P.M.Studio での録音。Venus Recordsからのリリース。ちなみにパーソネルは、Hiram Bullock (g, vo), Dr.Lonnie Smith (org), Joe Locke (vib), Ed Howard (b), Idris Muhammad (ds)。イケイケ・ロック系のハイラムのギターについて、歪みを一切使わず、クリーントーンで通した、ジャズ・フォーマットものである。エレギの音がクリアでアーバンでジャジーなのが強く印象に残る。
 

Late_night_talk  

 
端正でグルーヴ感溢れるエレギが先導するジャズ・ファンク。それもコッテコテのファンクネスを伴うものでは無く、ライトでアーバンなファンクネスを纏った、流麗なジャズ・ファンク。ポジティヴで開放的で骨太なハイラムのエレギがそんなファンクネスを増幅する。音から感じる時間帯は「夜」。ベテランでアコースティックなリズム&ビートが想起させるのは「アーバン」な雰囲気。

ロニー・スミスのオルガンが良い雰囲気を出している。ベテラン、ジョー・ロックのヴァイブが明快で良いアクセントになっている。Stevie Wonderの名曲のカヴァー「Creepin'」、Stanley Turrentineの名曲のカヴァー『Sugar』が黒くて渋い。オーソドックスなフュージョン・ジャズ的展開がかえって新しく響くから面白い。

アルバムのタイトルが「Late Night Talk(深夜の会話)」。なるほど言い得て妙である。これほどまでにタイトルがアルバムの内容を的確に表現しているアルバムも珍しい。逆にそういうアルバムには好盤が多い。数あるハイラムのリーダー作の中で一番ジャジーで整った内容のアルバムはこれだろう。イケイケ・ロック系エレギのハイラムが正装して臨んだフュージョン・ジャズ。好盤です。
 
 
 

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2019年2月 4日 (月曜日)

音楽喫茶『松和』の昼下がり・66

ああ、このアルバムはええなあ、このエレギはええなあ。1973年、時代はクロスオーバー・ジャズの流行期。この盤の基本は「ソウル+エレジャズ」のクロスオーバー。しかし、この盤の音世界はその先を行っている。ファンキーでメロウなエレクトリック・ジャズ。1970年代後半からの「フュージョン・ジャズ」の先駆けである。

David T. Walker『Press On』(写真左)。1973年のリリース。ちなみにパーソネルは目立ったところで、David T. Walker (G), Harvey Mason (Dr), Charles Larkey (B), Joe Sample (Key), Bobbye Hall (Congas etc) 等々。キャロル・キングの『Fantasy』録音というきっかけで集まったメンバーが、その手応えを携えて録音されたアルバム。

ソウルの名曲の数々をメロウなエレギでカヴァー、ニュー・ソウル的なクロスオーバー・ジャズである。エレギのフレーズはファンクネス濃厚、優しく美しいメロウな音色。ミドルな速さで弾き進める、歌心溢れるアドリブ・フレーズはまさに「ソウルフル」。も〜たまらん、である(笑)。今から40年ほど前、ジャズを聴き始めた頃にこの盤に巡り会って以来、ずっと大好きなクロスオーバー・ジャズ盤の一枚。
 

Press_on_david_t_walker  

 
David T. Walker(デヴィッド・T.ウォーカー)は、米国オクラホマ州出身のクロスオーバーなギタリスト。1941年生まれなので、今年で78歳。バリバリ現役、伝説のソウル・ギタリスト。モータウンでの活躍はつとに有名。デヴィッド・T.ウォーカーのギターは決してジャズに縛られない。ジャズをメインにソウル、R&B、ロックなどを融合したファンキー&メロウなギターで、この音は唯一無二。

硬軟自在でニュアンスが豊富なエレギの音は、Isley Brothersの「I Got Work To Do」、Stevie Wonderの「Superstition」、Carol King「Brother Brother」、The Beatlesの「With a Little Help From My Friend」など、1960〜70年代ソウル好きには堪らないカヴァー曲で絶好調。自身の手になるジャズファンク曲「Press On」でも切れ味良く格好良い。

デヴィッド・T.ウォーカーのエレギが思いっきり格好良い。ソウルでファンキーでメロウなエレギ。ニュアンス豊かで、こだわりなく自然にシンプルに弾き進めていくデヴィッド・T.ウォーカーのエレギは絶品。こういうギターは何時までも聴き続けることが出来ますね。思えばもう40年、聴き続けています。

 
 

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2019年2月 3日 (日曜日)

Tower of Powerの50周年新盤

今からもう47年ほど前になるのか。ロックを聴き始めた頃、ブラス・ロックがお気に入りのひとつ。恐らく、中学でブラスバンドに入ってサックスを吹いていたことも影響していたんだと思う。バンド名を挙げると、Chicago、Chase、そして、Tower of Power、Average White Band かな。

ブラス・ロックは、まずフロント楽器である金管楽器のユニゾン&ハーモニーが魅力。そして、ブラス・ロックの命は疾走感と切れ味。そこに、R&Bな味わいが付いて、ファンクネス溢れ、ブラック・ミュージックの要素が漂い、アーバンな雰囲気が濃厚になる。ボーカルが入って、ソウルフルなイメージが良いアクセントになる。

Tower of Power『Soul Side of Town』(写真左)。R&B系のブラス・ロック・バンドである「タワー・オブ・パワー」の最新作。昨年6月のリリースになる。タワー・オブ・パワーは、1970年のデビューになるから、もう50年弱のキャリアになる。その50年弱のキャリアを総括した様な、タワー・オブ・パワーの「音の全要素」がこの新盤に詰まっている。
 

Soul_side_of_town

 
50周年を記念した新盤の為のレコーディング・セッションは2012年以降の6年間に計4回にわたって行われ、トータルで28曲が出来あがり、新作にはその中から14曲が収録されたとのこと。若い頃の「怒涛のブラス・ロック」では無い、パンチは効いていて疾走感もふんだんにあるが、どこか余裕を持った大人のブラス・ロックという雰囲気が実に「粋」である。

アルバム全編に渡って、溌剌なリズムと鮮やかなホーンの切れ味が溢れている。そこに、華やかなユニゾン&ハーモニーや伸びやかなボーカルが色づけとして加わって、実にファンキーであり、実にソウルフルなブラス・ロックに仕上がっている。リズムやフレーズも「今」の音であり、決して「懐メロ」では無い。懐古趣味など微塵も無いところが潔くて清々しい。

いや〜、現役感バリバリのタワー・オブ・パワー。2018年になって、タワー・オブ・パワーの新盤が聴けるとは思っていませんでした。昔の若かりし頃の「怒涛のブラス・ファンク」という力業を押し出すのでは無く、聴きやすさが前面に押し出た「大人のブラス・ロック」。今の耳にとても魅力的に響きます。往年のブラス・ロック者の方々にも一聴をお勧めします。

 
 

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2019年2月 2日 (土曜日)

英国ハードバップの入門盤です

英国のジャズは面白い。まず、英国のジャズについては、ロックとの境界線が曖昧。ジャズメンと思ったらロックをやっていたり、ロッカーと思っていたらジャズをやっていたりで、よくよくパーソネルを確認しないといけない。そして、英国ジャズについては、「ビ・バップ」の演奏が最高とされる。ハードバップやモードなんか「目じゃない」。ビ・バップ至上主義である。

Tubby Hayes『Down In the Village』(写真左)。1962年5月17ー18日、ロンドンのThe Ronnie Scott Clubでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Tubby Hayes (ts, ss, vib), Freddy Logan (b), Allan Ganley (ds), Gordon Beck (p), Jimmy Deuchar (tp)。リーダーのタビー・ヘイズのテナーとドーチャーのトランペットの2管フロントのクインテット構成。

タビー・ヘイズは英国ロンドン出身のジャズ・テナー奏者でヴァイブも演奏出来る。1935年生まれで、1973年に38歳の若さで鬼籍に入っている。ヘイズは、リーダー作を聴けば判るが、中肉中背な印象ではあるが、パワフルかつ流麗な吹き回しが見事なテナー奏者である。そのテクニックは高く、アドリブ・ラインのイメージは「ビ・バップ」そのもの。そういう意味では英国ジャズ者好みのテナー奏者だと言える。
 

Down_in_the_village  

 
吹きっぷりは「ビ・バップ」だが、演奏の組み立て、展開は「ハードバップ」そのもの。1962年といえば、米国ジャズはファンキー・ジャズが大流行していた時代であるが、ここ英国ロンドンでは、そんなファンキー・ジャズなど何処吹く風。質実剛健、硬派絢爛なハードバップをやっている。しかし、アドリブの部分だけ聴くと、雰囲気はまさに「ビ・バップ」。

ゴードン・ベックのピアノがタッチが明確で美しい響き。硬派でバイタルなヘイズのテナーと好対照で、陰影のある力強い音が魅力。ヘイズのソプラノ・サックスもなかなか良い響きで、良い音出してます。演奏全体のスイング感も抜群で、ローガンのベース、ガンリーのドラムスの両者の実力の程が知れます。

ジミー・デューカーの分厚いトランペットがヘイズの硬派なテナーと相まって、演奏が熱くドライブします。ライブ演奏の生々しさが伝わる録音も良好で、英国ジャズの個性が良く判ります。そうそう、ヘイズのヴァイブもなかなかの腕前で、このヴァイブも思いっきり「ビ・バップ」な弾き回してしていて、何となく微笑ましいです。英国ハードバップを理解する上で、絶対に外せない好ライブ盤です。

 
 

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2019年2月 1日 (金曜日)

若手日本人男子がやっと出てきた

日本人ジャズの中で若手男子の影が薄い、というのがここ10年来の僕の悩み。若手女性はどんどん有望株が出てきて、なかなかの内容のリーダー作が沢山リリースされた。しかし、である。若手男子は下火で、ここ10年の若手男子のニュースターについては、あまり具体的な名が浮かばない。しかし、最近、やっと頭角を現す若手男子のジャズメンが出てきた。

今回、ジャズ雑誌「ジャズライフ」の2018年度「ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」で紹介されたアルバムを聴き進めているんだが、この人の名前は実は初めて知った。「曽根 麻央」である。曽根は1991年生まれ。ネットで彼のバイオグラフィーを読むと「幼少期よりピアノを始め、ルイ・アームストロングに憧れ8歳でトランペットを手にし、9歳で音楽活動をスタートさせる」とある。

16歳でタイガー大越と出会って渡米を志す。18歳でバークリー音楽大学へ、2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席で卒業。おお、エリートやん。2018年メジャー・デビュー。う〜ん、経歴は素晴らしいなあ。今年で28歳になる。若手バリバリのニュースターである。で、今回、この曽根のリーダー作を初めて聴いた訳である。

で、このアルバムに詰まっている音を聴いて、僕はほとほと感心した。やっと、日本人男子若手も出てきたなあ。この盤の音は、これまでの様な「米国ジャズの背中を追ったもの」では全く無い。東欧、イスラエルから中近東、東南アジア、そしてアフリカ、そして沖縄、ラテン。多国籍な音が融合した、エスニックな雰囲気が濃厚な純ジャズである。
 

Infinite_creature  

 
曽根 麻央『Infinite Creature』(写真左)。セルフ・プロデュースによる2枚組デビューアルバムである。ちなみにパーソネル、Ⅰ枚目はAcoustic Bandで、曽根麻央 (tp, p, per, voice) , 伊藤勇司 (b),  中道みさき (ds), 山田拓斗 (vln, mandolin), 西方正輝 (cello)。2枚目はElectric Bandで、曽根麻央 (tp, flh, p, syn, per, voice), 井上銘 (el-g),  山本連(el-b), 木村紘(ds)。 純日本人メンバーで固められている。

アコースティック・バンドは、不思議な浮遊感と流麗感漂うモーダルな展開がエキゾチックな雰囲気を漂わせる。当然、ファンクネスは希薄。日本人ジャズの特性がダイレクトに反映されている。オリジナリティー溢れ、良い雰囲気、良い響き。静と動、そして緩急ついた展開がスリリング。

エレクトリック・バンドは、1980年代エレ・マイルスを現代に持って来て、洗練してファンクネスを差し引いた感じ。ハードなドラミングに和なテーマ。スタンダードナンバーである「I Fall In Love Too Easily」はエレ・マイルスの傑作『アガルタ』収録の「麗しのマイシャ」を想起させるアレンジ。良い。とても良い。「Japanama」は「Japan」と「Panama」を組み合わせた造語で、音のイメージも同様。面白い。

メジャー・デビュー盤が2枚組。聴く前はちょっと重いんじゃないかなあ、飽きるんじゃないかなあ、なんて危惧していましたが、何てことは無い。一気に聴き切ってしまいました。少し硬さは残りますが、そこはまだまだ若い、ご愛嬌です。逆に初々しくて良い。ジャケットもピアノとトランペットの二刀流をイメージしていて「格好良い」。日本人男子もここまでやる。好盤です。

 
 

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    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、 ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で、不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
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